「天恵」(2010/04/16 (金) 21:12:27) の最新版変更点
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**天恵 ◆IWqsmdSyz2氏
「矢張り・・・標くんの事が気になるんだ・・・それになんだか嫌な予感がする・・・」
赤松の後姿を、天は引き止められなかった。
言葉を発するや否や、踵を返して駆けていった赤松を捕まえることなど出来ようもなく
そして何より天自身、標という少年を気がかりに思っていたからだ。
盲目の老人と幼い少年を二人残してきたという状況、
手榴弾を持つ老人と拳銃を持つ少年を二人残してきたという状況。
むしろ、赤松を行かせたかったのだろう。
あの標という少年が聡明であることについては理解したつもりだが、
とはいえ危険な状況、心配でないはずがなかった。
「ちょ・・・赤松さん行っちゃったざんすよ!」
「ああ・・・・・」
小さくなる赤松の背中を見送りながら、天は頷く。
村岡は、そんな天の様子に少し驚き、声を上ずらせた。
「お、追いかけなくていいざんすか・・・?」
「・・・・・・」
「だ・・・だったら早く逃げるざんすよ・・・・・!この辺りは危ないざんしょ!」
そう、市川の拡声器に誘われてどんな奴が集まって来ているやも知れない。
村岡は丸腰。
天の武器である鎖鎌も、現状見掛け倒しでしかないのだ。
「標さんと赤松さんは心配ざんす・・・・・!たしかにとても心配・・・・・・!
だからといって今わしたちまで標さんの元へ向かったら、それこそ“振り出しに戻る”ざんす・・・!
赤松さんが行ったんだからあっちは大丈夫ざんすよ!
わしらはここを離れましょう・・・・!
ほとんど真っ直ぐ進んできてるわけだし、後で二人も追いつくざんしょ!」
村岡の発言の真意はもちろん、兎にも角にも危険地帯から離れたいという一点に尽きる。
標と赤松の身を気遣う素振りを見せてはいるが、所詮上辺に過ぎないことなど天には見通せていた。
(とはいえ・・・・・正論・・・!一番最悪なのは四人ともが命を落とすこと・・・!)
天もわかっている。
今赤松を追ったとして、果たして良い結果を生むのだろうか。
ことに、この村岡という男を引き連れて戻ったのでは標の思惑を潰しかねない。
ならば・・・ならば・・・
「・・・・・待とう。二人が追いつくまで、ここで」
「なぁに言ってるざんすか!!
もう別ざんす!別チームとして行動するべきざんすよ!」
武器を持ち、体格もよく、自身に比べて遥かに非力であろう老人子供を手にかけようともしない天。
この天という男と共に逃げるのが最善・・・!
村岡にとって標や赤松など一時的な拠所に過ぎなかった。
今は天を盾に危険地帯から脱する・・・・!保身第一・・・・・!
更に強く、頼りになる人物に出会えばそちらに乗り換えるだけのことだ。
「・・・・・ここが危険なのは承知のうえだっ・・・!だが・・・・・!」
「待ってる間に誰から攻撃を受けるともわからないざんすよ?!
標さんは拳銃を、赤松さんは手榴弾を持ってるざんす・・・!
今危ないのは標さんたちよりもわしたちざんしょ!
こんなところに突っ立ってたら 的になるようなもんざんすよ・・・・!」
身振り手振りに大げさな様子でまくしたてる村岡。
天は手に握った鎖鎌を見つめ、
しばらく考えたのち、静かに頷くのだった。
「・・・・・わかった。移動しよう」
「それが よござんしょ・・・・!」
ほっと胸を撫で下ろしながら、村岡は言葉を続ける。
「ささ、そうと決まったら移動するざんすよ。
もうしばらくもすれば赤松さんも標さんと合流できるはずざんす」
「ひとつ・・・・・いいか?
・・・・アトラクションゾーンを抜けたところで待機したい。
もしかしたら二人が追いついてくるかもしれないだろ」
「なんでもいいざんすよ・・・!とにかく安全なところへ行くざんす」
村岡は先刻までヒステリックに喚いていたのが嘘のように軽い調子で承諾し、
天と共にアトラクションゾーンの外を目指して歩き始めたのだった。
* * *
果たしてこの男・・・共に行動していくべきなのだろうか。
道中、天はそればかりを巡らせて、悩んでいた。
そもそも素性の知れない相手である。
「ん?どうしたざんす・・・・・?」
「いや・・・」
赤松や標から信頼されていなかっただろうことは、
数回のやりとりを見るだけで十分把握できたが・・・。
(俺に敵意を持っているわけでも、寝首掻こうと考えているわけでもないようだ・・・)
敵意。そもそも、村岡は何も持っていない。
武器を、そして支給品さえも。
「おい・・・・・村岡・・・・さんだっけか」
「そういえば紹介が遅れたざんすね。村岡隆ざんす」
「むらおかたかし、か・・・。俺は天貴史」
思わぬ共通点に、天は少し表情を和らげ
しかし鋭い調子で村岡に切り込む。
「どうして何も持っていないんだ・・・・・?ギャンブルの参加者には支給品が渡されるはず・・・
話してくれ・・・・・今に至るまで何があったか・・・!」
「ああ・・・!そんなことならお安い御用ざんす・・・!」
村岡はこのギャンブルの主催者は“帝愛”で間違いないという前置きをして、
自分の身分とこの島に来るまでの境遇を掻い摘みながら説明した。
「――とにかくカイジには酷い目にあわされたざんすよ!」
放っておくといつまでもカイジという男の悪態を吐き続けそうな村岡に、天は話を促す。
「・・・あんたの境遇についてはわかった。で、なぜ今手ブラの丸腰なんだ・・・?」
「おっと、その話だったざんすね。
このゲームの本質はギャンブル・・・・わしもギャンブルに負けたざんすよ。
ギャンブルルームで、
持ち金すべてと支給品一式、そして敗者は勝者に手を出さないという誓約書を賭けて戦ったざんす・・・!
結果・・・負けっ・・・・・わしの負けざんした・・・!それゆえの現状ざんす・・・・・」
「・・・なるほどな」
ギャンブルルームを利用した。しかも賭けたものは金。
どうやら村岡は殺し合いではなく、純粋なギャンブルにより己を守ろうと考えていたようだ。
そこにイカサマの類が存在しようがしまいが、
“自ら人を殺す”という発想がないとわかったのだから十分な収穫だ。
(何を考えているのかはさて置き・・・見境なく人を襲うような危険人物ではないと考えていいだろう・・・)
天は村岡の表情を窺いながらも、聞いた情報を確実に頭に入れていった。
「おわかりいただけたざんすか?」
「あぁ・・・・・ところで、そのギャンブルの相手、どんな男だったんだ」
「背格好がこれくらいの、眼鏡かけた普通の青年ざんすよ・・・・・井川ひろゆきって名前の・・・」
「ひろゆきっ・・・・・?相手は井川ひろゆきだったのか・・・!」
「えぇ・・・そうざんすけど・・・・・?」
天の食いつき具合に面食らいながら、村岡は首肯する。
「知り合いざんすか?」
「どんな・・・・どんな様子だったか教えてくれっ・・・!まさかとは思うが殺し合いに乗っちゃあ・・・・・」
「誓約書を書かせる男ざんすよ?
極力人を殺したくないって言ってたし、ギャンブルでやっていくつもりのようざんした」
「ギャンブルで・・・・・?そうか、ひろの奴・・・」
こんな状況にあってもギャンブルに賭けているひろゆきに対して、
僅かでも羨ましいと感じたことを天は否定できなかった。
人情家であり、バトルロワイアルを止めたいと考えている天、
しかし彼にも博徒の血が流れているのだ。
「それにひろゆきくんの支給武器・・・!日本刀ざんす・・・・・使い方もわからない銃器類より役に立つ。
プラスわしの支給アイテム・・・これが強力・・・!首輪探知機・・・!」
負けたことを根に持っているのだろう、村岡の声色は徐々に荒々しく変化していく。
「負けなければっ・・・今頃わしは・・・!」
井川ひろゆき、伊藤開司。
誓約書が有効な限りひろゆきを殺すことは出来ないが、
何としても生き延び、そして二人に復讐をすること。それが村岡の指針であった。
(わしからすべてを奪った二人、必ず奪い返してやるざんす・・・!この手でっ・・・必ず・・・・・!)
「あんたの話はわかった・・・・・。次は俺の番だな」
天は、市川と出会うまでの経緯と、
このバトルロワイアルに対する自身の考え方を村岡に話す。
「殺し合いに乗る気がない人物を集める・・・・当面はこれが目標と考えていた・・・・。
残念ながら俺は状況を一転させるようなアイデアを持ち合わせちゃいねぇ・・・。
だからこそっ・・・・・志同じくした仲間を作る・・・!
それが・・・・所謂“対主催”への一歩だと思っている・・・・・」
「わ・・・わしも同感ざんす・・・・!」
天の指針、村岡の指針。
実質大きくズレているにも関わらず、村岡は素直に頷いた。
「この馬鹿げたギャンブルに対抗するにはそれが一番ざんすね・・・!」
「・・・・だからこそ・・・・尚更に赤松さんたちが気になる・・・・」
天は表情を翳らせて呟くのだった。
(赤松さん・・・・そして標という少年・・・・追いついてきてくれればこの上ない・・・・。
が・・・・!状況が状況だ・・・。何とあっても生きて再会・・・)
「あっ・・・・!出口ざんすよっ・・・・!」
標と別れた地点から南下し続けたところ、
多少迷いながらも、二人は無事にアトラクションゾーンから脱した。
無論、この島自体がバトルロワイアルの舞台である以上は安全地帯など存在しえないのだが
天と村岡は、まるで長い迷路を抜け出したような達成感を覚える。
「ここまで来れば、ひとまずは安心ざんしょ・・・・!
アトラクションゾーン内に比べて障害物も少ないし、見通しがいいざんす」
出口から一歩踏み出すと、なるほど確かに村岡の言うとおりであった。
アトラクションゾーン方向から誰か来ればすぐにわかる、
なおかつ近くに建物もなく森から離れた平地であるため
警戒を怠らなければ奇襲を受けるということもないだろう。
「背中合わせで待機だ・・・・!
人影が見えたらすぐに知らせあうこと・・・・!」
「了解ざんす・・・・・」
村岡、たしかに信頼できる性質の人物ではない。
しかし、このような相手であっても信用をなしにしてやっていける状況だろうか。
(村岡っ・・・・腹に何を抱えているか知れない男・・・・!
とはいえ仲間同然じゃないか・・・・共に行動しているんだから・・・・!)
天は持ち前の思いやりの影響もあり、村岡を受け入れることと相成ったが
誰にとってしても、初対面から数時間の男に背中を預けるという行為さえ止むを得ない世界だった。
(この男に従っていれば、しばらくは安全そうざんすね・・・・!
武器も金も持たないわしが生き残るには他人の力が必要ざんす・・・・)
もし危険が及んだとして――例えば何者かが襲ってきたとして、天は村岡を守ろうと行動するだろう。
それは足手まといにしか見えなかった市川という老人を見捨てずに連れていた様子から窺い知れることだ。
(天はボディガードとして使ってやればいい・・・・!わしは勝機を待つざんす・・・・!)
村岡が“勝機”の可能性について皮算用している間に、天はある名前について考えていた。
標が別れの間際に赤松に対して伝えた言葉。
確かに標の発した“うかいぜろ”という単語、これが気になっている。
その前後を聞き取ることは出来なかったが おそらく人名。
数時間前、ホテルでギャンブルのルールを聞かされたあと、
一人ずつ名前が読み上げられ、後姿程度なら確認する機会があったのだが・・・。
(あ、い、う・・・・“うかいぜろ”・・・)
天より前に位置するはずのその苗字。
しかし、赤木しげる、井川ひろゆき、という名前に気をとられていたせいか、記憶が覚束ない。
“うかいぜろ”、赤松の助けになるような人物、標が信頼をよせる人物・・・・?
それならば天にとっても会って損はない人間であるといえる。
あの聡明な少年のお墨付きならば、相当に頭の切れる男なのかもしれない。
(あるいは・・・危険人物か・・・・?)
“うかいぜろ”は危ないから気をつけて、という助言だった可能性もある。
こんな狂ったゲーム、常軌を逸した狂人が参加していても不思議ではないのだ。
やり手のギャンブラーとして『危険人物』と扱われているのなら、むしろ対峙したいものだが、
バトルロワイアルという殺し合いの中での『危険人物』ならば。
“うかいぜろ”と出会うこと即ち死に直結するような展開さえあり得る・・・・!
(標という少年・・・そして赤松さん・・・・・彼らとは合流したい・・・・!
治、石田さん・・・この二人の安否も気になる・・・。
市川だってあれで良いとは思わねぇし・・・・・出来ればひろにも会っておきたいが・・・。
そして・・・・・赤木しげる・・・・!)
この状況にあっても、アカギとのギャンブルへの憧れは胸中に残っている。
(加えて・・・・“うかいぜろ”という人物だな・・・・!
どんな人間にだろうと会うことが何かの取っ掛かりになるかもしれねぇ・・・)
* * *
時を置いて第一回目の放送終了後。
日没を迎えようというこの時にも、
天と村岡は依然アトラクションゾーンの出口付近で標たちを待っていた。
現れない待ち人に 村岡は痺れを切らす。
天の「あと30分だけ待とう」という言葉に反論する術を持たずして
二人はここで午後六時の定時放送を迎えることとなったが・・・・。
「標」
確かに黒崎がそう告げたのだ。
バトルロワイアルの敗者として、あの少年の名前を。
天はショックを隠しきれなかった。
「それって・・・死んじまったってことじゃねえかよ・・・!ほんのさっきまで一緒にいた人間がっ・・・・・!」
「・・・そうざんすね」
村岡とて、動揺していないわけではない。
放送前とは“殺し合い”のリアリティがまるで違う・・・!
利発そうな少年、標の死に少なからず驚いていたのだった。
「赤松・・・赤松さんは・・・!そしてあの爺さんも呼ばれなかった・・・」
あの地点で最も可能性が高く思われた市川が標を巻き添えに死ぬという展開。
それは市川の生存によって否定された。
(爺さんだけ運良く生き残っちまったってことも考えられるが・・・)
別の何者か――恐らくは村岡の声に物音を立てて反応してしまった人物。
潜んでいたそいつが、標を殺したのではないか。
現在市川、赤松の身に危険が及んでいるということも十分考えられる。
あるいは既に瀕死の重傷を負っているやも・・・。
「ちくしょうっ・・・・!」
自分の身の振り方ひとつ違えば、別の選択をしていれば、少年の命を救えたかもしれない。
あのとき、目的は“市川から離れること”だったはず。
赤松と別れた地点で待機していればよかったのだ。
やはり天自身、心のどこかで“危険な場所から離れたい”という気持ちがあったのだろう。
行動を共にするパートナーが村岡だったことも作用しての結果だが、
まるで標と赤松を置いて逃げてきたような形になったことを、天は深く後悔していた。
今すぐにでも戻って確かめたい。何があったのかを。
せめて、風に晒されているであろう標の亡骸を、葬ってやりたい。
天は支給されたペンを、折らんばかりの強さで握り締めながら、地図を睨み付けた。
「B-3・・・標さんたちの居たところは禁止エリアに指定されたざんすね・・・」
そう、市川と言い争っていたあの地帯『B-3』は先の放送で禁止エリアとして読み上げられたのだ。
進入禁止になるまで30分・・・走ったところで間に合うかどうか・・・。
「ぐっ・・・くそっ・・・!」
(標だけじゃない・・・!6時間で15人も死んでっ・・おかしいだろっ・・・・・・!おかしいだろうよ・・・)
天はこの島で出会った人々を思い返す。
治、石田、赤松、そして標。
殺し合いに乗っていない人間がこれだけいた。
この狂った状況で正気を保った人間がこれだけいた。
市川にしたって、説得の余地がなかったわけじゃあない。
治を襲った二人――末崎、安藤のように人を貶めようと画策する輩もいたが、
彼らとて“殺す”という行為に踏み切れていなかったのは事実。
(だから俺はっ・・・俺は甘く見ていたっ・・・!俺は完全にこのバトルロワイアルって奴を舐めてた・・・・・・・!
なんとか・・・なんとかみんな助けられるんじゃねぇかって・・・・・そんな考えじゃダメっ・・・まるでダメっ・・・
もう死んでほしくねぇっ・・・!誰もっ・・・・・・誰一人・・・・・・!)
涙を滲ませて悔しがる天を、
一方の村岡はどこか冷静な気持ちで見つめている。
(たしかにこんなにポンポンと人が死ぬのは異常ざんす・・・!
まったくの異常事態・・・とはいえ・・・・!泣く・・・?はぁ・・・?おかしいざんしょ・・・・?
身内が死んだわけでも殺しの瞬間を見たわけでもなしに、他人が死んで泣く・・・・・?)
「て、天さん・・・?いつまでもここに居たってはじまらないざんすよ・・・。
この状況・・・・待機する理由はもうないざんしょ・・・標さんだってわしらが死んだら報われないざんす・・・!
B-3が禁止に指定された以上、アトラクションゾーンを出ようと考える輩も出てくるざんすよ・・・・・・!
潜伏していた殺人鬼どもが出口求めて移動してくるかもしれないざんしょ・・・?
D-4も禁止エリア・・・・D-4の隣接エリアであるここは危険・・・・・!」
天の機嫌を損ねないよう、言葉を選びながら村岡は口を開く。
D-4が禁止エリアになったため、隣接エリアに人が流れ込むだろう。尤もな意見だ。
B-3に集まった人間も動いてくる可能性は十分にある。
今すぐにでも、無理やりにでも、移動したい状況・・・・!
しかし村岡にとって、最も重要なのはこの場で天に捨てられるのを避けることである。
「わしだって赤松さんが無事かどうか心配ざんす・・・!
でも何にしたって移動しなきゃ仕方ないざんすっ・・・・・!
ここで待ってたら赤松さんと合流するより先に命を落としかねないざんす・・・・!
さっきまでのような安地じゃなくなってるざんすよ・・・・!」
「あんたの言うとおり・・・・・その通りだがっ・・・・・!」
放送が終わって5分も経っただろうか、天は静かに立ち上がる。
誰もが歩みを止め、地図と睨み合うであろう瞬間を無駄にしてはいけない。
この放送を機に、出方を練り直そうと考える者は多いだろう。
あるいは身内の名前が読み上げられて悲しみに暮れる者もいるはずだ。
しかし、今必要なのは・・・ここ一時の切り替え・・・次への一歩を踏み出す速さ・・・。
「考えていたんだ・・・・どこへ移動するべきか・・・・!」
「そ・・・・そうだったざんすかっ・・・・!」
「あぁ・・・俺は・・・病院を目指そうと思ってる・・・!」
天は南東方向を指差しながら村岡に切り出した。
「人が集まるところ・・・それも助けが必要な人間が集まるところ・・・・・
それって病院だろっ・・・こんな環境・・・もちろん怪我を負う人間も出てくるっ・・・・。
そうしたら考えることは・・・・・・治療・・・休息・・・その発想・・・・!
さらに物資や参加者を求めて人が集まりそうな商店街・・・
商店街を抜けるようなルートで病院方向へ向かえば、まず誰かに会うはずだろっ・・・!
兎にも角にも・・・接触する・・・・・!参加者に・・・・・・!
素性を知らない奴だらけのこの島だ・・・・・!
鬼が出るか蛇が出るか・・・・そういう話になってくるが・・・・」
「それじゃあ・・・・!それじゃあここで突っ立っているのと大して変わらないざんすよ・・・・!
病院っ・・・商店街っ・・・・!たしかに地図を見たとき目に留まる施設ざんすっ・・・!
島の中央部に位置することもあって・・・・確かに人は集まりやすいざんしょ・・・!
が・・・!当然集まるのは善人ばかりじゃないざんす・・・・・!」
天の発言から間を置くことなく村岡は反論する。
「言ってることはわかるざんすっ・・・!病院は弱者が集まりやすいっ・・・・!
しかし同時にそれを狙う奴らも集まりやすいざんすよ・・・・・!危険ざんす・・・・!
天さんは殺し合いに乗るつもりはないってことも・・・・・・仲間を集めたいのもわかるざんす・・・・!
でもっ・・・!同志を探すのと人助けをして回るのは別物ざんすよっ・・・?」
「俺は・・・俺はそうは思わねぇ・・・!
歩き回りゃあ瀕死の重体者に出会うかもしれない・・・・・!
まぁ声をかけた相手が殺人鬼なんてこともありうる・・・・・・・
結局は不信感を抱かずにはいられない島なんだ・・・・・!
生き残ることを考えれば利己主義に走らざるをえない環境だもんな・・・・だけどっ・・・・!
だからこそ助け合うのが当然・・・!必然っ・・・・!
その先にあるのが同志・・・・!志だっ・・・!
利益だとかなんだとか・・・・損得の思考を超えなければ・・・・・俺が俺になれないっ・・・・!
そして運良く・・・赤松さんや・・・・・治たちと無事再会できれば尚良しってところだ・・・・!」
天は所謂正義側――今までの経歴などはさておき、本質として村岡とは反対に位置する男。
それを理解したうえで、村岡は天を利用するつもりでいた。
武器を持たない村岡にとって、恵まれた体躯と人への情け、
そして正気を保った判断力を持つ男は護身具代わりに使える存在である。
自分を見捨てないだろう天と行動していけることは好都合だったのだ。
(なのにっ・・・・!盾になる男と行動を共にしたところで危険地帯に赴くんじゃ意味がないざんすっ・・・!
その上天は足手まといにまで手を差し伸べる男ざんす・・・!道中怪我人に会いでもしたらっ・・・・!
こいつと適当に逃げ回って機会を窺うというわしのプランが台無し・・・・・!)
「そりゃあっ・・・・移動することについては賛成・・・・!もちろん賛成っ・・・!
病院方向に向かうことっ・・・そこまでギリギリで納得・・・!
ただし特定の人物を探すに留まらず
出会った人間 みんなに声をかける・・・これはダメっ・・・反対ざんすっ・・・断固反対・・・!」
広げた支給品をまとめて移動の準備を始めた天に縋りつくようにして
村岡は喚き続ける。
「人を助けたいっ・・・・わしもそう思うざんすよっ・・・・!
でもそのために天さんが死んだらどうする・・・!
自分の命と引き換えに他人を助ける・・・?それは違うざんしょっ・・・・・!」
「村岡・・・あんたの言ってること・・・己の生存第一・・・間違っちゃいないと思う・・・・・!
だがなっ・・・・俺は嫌なんだ・・・・・これ以上不条理なギャンブルで人が死んでいくのは見たくない・・・!
人のためじゃねぇ・・・!俺が許せないんだっ・・・・・!」
「ぐっ・・・・・・」
(せっかくボディガードを見つけたと思ったらっ・・・・・!
とんだハズレ・・・・ウスバカ・・・クズバカっ・・・・!
こいつについて行ったら わしまで手伝わされるっ・・・・何の得にもならない人助けを・・・・!
こんな状況で弱者を救おうなんて 命をかけたゴミ拾いに等しいざんすよっ・・・!)
自身が“弱者”であり、天の力を借りているということは棚に上げ、
村岡は心中暴言を吐き散らした。
「悪いが・・・俺はそう決めたっ・・・・俺は・・・・状況の許す限り俺の意志に沿って行動するっ・・・・!」
「うぐぐっ・・・・!」
(ダメざんすっ・・・・この男はもう捨てるっ・・・・・!
人を助けるだぁ・・・・?仲間を集めるだぁ・・・・?
「はぁ~?」ざんすよ・・・!そんなの無能がやることざんすっ・・・!
逆・・・!発想がまるで逆ざんすよ・・・!人を貶め利用することが勝利への道っ・・・・!)
村岡はどちらが相手を頼りとしていた状況なのかを完全に無視し、
一方的に天の発言を攻め続けた――口には出さずに、だが。
天にとっては標への償い、という気持ちがなかったでもないのだろう。
拳を握り締めながら村岡に意を伝える。
「俺は行く・・・・!例え危険に飛び込むことになったとしても・・・!
“病院に向かう”ってのは・・・・どうってことねぇ・・・・
実際どこだって同じこと・・・・!行く先々で・・・このバトルロワイアルの参加者に会うだろうよっ・・・・!
困ってる奴がいりゃあ力になる・・・・過ちを犯しそうな奴にゃあ出来る限りの説得をするっ・・・!
失敗してあっさり死ぬことにならねぇとは言い切れないし・・・
そうして話が好転するでもねぇ・・・・・!
でもそれでいいんだっ・・・・!それがここでの俺のギャンブルっ・・・・・・!
俺に出来ることでありっ・・・やるべきことでありっ・・・・そしてやりたいことなんだっ・・・・!」
(何ざんすか何ざんすか・・・・!
あの標とか言う小僧の死が 背中を押したってところざんすか・・・・?
何にしても天はゴミっ・・・!もはやゴミざんすよっ・・・!
どうにかして次の拠所になる人物を探さなきゃならなくなったざんす・・・・・・・!)
武器を持つ天に対して 村岡は丸腰。
(わしが何か支給品を持ってさえいれば・・・・!こんなゴミクズは放置してさっさと別行動するのにっ・・・・・・!
ぐっ・・・せめて何かっ・・・・!こいつから搾取してやりたい・・・・・・!がっ・・・ダメっ・・・無理・・・・!
体格が違うっ・・・・!敵うはずがないざんすっ・・・・・!)
二進も三進も行かない村岡。
無意識のうちに表情も強張り、今まで心がけていた演技に綻びが出始める。
相手に出来るだけ警戒心を抱かせないような態度――
そんな生ぬるいことを考えていられない状況になりつつあるのだ。
(どうするっ・・・・?こうなったら・・・適当な嘘で天を騙くらかすかっ・・・!)
しかし村岡の険しい表情は、天が荷物から取り出した“あるもの”を見て一変する。
「あ・・・?何ざんすか・・・・・?」
「あんたの分だ・・・・!」
「わしのっ・・・?」
ぽかんとした顔で説明を求める村岡に、天は“あるもの”を投げやった。
「“500万円”・・・・・!500万円分のチップだ・・・!
俺の武器は鎖鎌しかねぇ・・・・これを渡すことは出来ないが・・・・・
あんただってこの先まったくの丸腰じゃ、命が危ない・・・・!
だから・・・500万円・・・・・!金があればギャンブルが出来るだろっ・・・!
この島じゃ生命線・・・!こんなもんでも武器になりうるっ・・・!」
得体の知れない男にさえ自分の物を分け与える・・・・!
愚かだと考える人もいるだろうその振る舞い・・・しかし天の優しさが成した判断。
当の村岡はといえば、優しさ・思いやりなど微塵も感じようとはしない。
そんなことはどうでもよかったのだ。
天・・・この男が自分を貶めようとするはずがない。
それだけわかっていれば十分・・・!
思わぬ形で500万円のチップが手に入った・・・その結果のみが村岡を捉えて離さなかった。
――生き残りなさい 村岡隆・・・!生きなさい・・・!隆・・・・・・・・・!
(ぐぁっ・・・これは・・・・まさに“天”の恵みっ・・・・!ありがとうっ・・・神様ありがとうございます・・・・・・!)
チップを抱きかかえながら、村岡は何かに対して幾度となく頭を下げる。
村岡にとってその感謝の対象が天貴史でないことは、言うまでもないだろう。
「俺は誰にも死んでほしくねぇ・・・!無論あんたにもだっ・・・!
が・・・・ここからはあんたの自由・・・・!
もし俺についてくるってんなら、有事の際はあんたを守る・・・・・!」
村岡を見据えて力強く告げる天。
しかしその声は届かない。
「ぐふっ・・・ぐふふっ・・・・・・!」
(やった・・・!やったざんすよっ・・・・!500万円・・・!
ちと心許ない金額だがっ・・・・しかしこれでギャンブルルームを使うことが出来るざんすっ・・・!
しょうもない輩にヘコヘコして守ってもらわなくてもっ・・・・!一発逆転・・・・!十分ありえるっ・・・・・!
ギャンブルルームが使えさえすれば・・・この男に縋る必要もないっ・・・!)
「丸腰のあんたを置いていきたくはねぇ・・・
標のことを考えるとなおさらっ・・・仲間を置いていきたかねぇんだ・・・!
だが・・・俺は今後も勝手なことを言い出してあんたを危険に巻き込むかもしれない・・・!
っていうか・・・・この状況下、どの道を選べば生き残れるかなんて博打同然・・・!
あんたにはあんたの考え方がある・・・それに沿うことが一番なんじゃねぇかとも思う・・・!
そういう意味で言えば・・・・・標に関しても俺がどうこう後悔する問題じゃないんだろう・・・
難しいっ・・・だから・・・・!どうするかはあんた次第・・・!あんた次第だっ・・・!」
天は念を押すように繰り返した。
鎖鎌を握りなおし、あたりを見回すと、ここに来たときより随分と薄暗い。
もう半時も待たずして日は落ちるだろう。
周囲が闇に包まれれば視界が悪くなる。
人を襲う側でもない限り、それはデメリットだ。
動き始めなければ――夜の帳が下りる前に・・・!
【D-3/平地/夜】
【天貴史】
[状態]:健康
[道具]:鎖鎌 不明支給品0~2 通常支給品
[所持金]:500万円
[思考]:助けが必要な者を助ける アカギ・赤松・治・石田(・ひろゆき)に会いたい
“宇海零”という人物が気になる 病院を目指す
【村岡隆】
[状態]:健康 興奮状態
[道具]:なし
[所持金]:500万円
[思考]:ひろゆきとカイジに復讐したい 生還する
※村岡の誓約書を持つ井川ひろゆきを殺すことはできません。
|078:[[抜刀出陣]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|080:[[十八歩]]|
|061:[[第一回定時放送 ~謀略~]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|066:[[夢現]]|
|054:[[十に一つ]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:天貴史|104:[[天の采配(前編)]][[(後編)>天の采配(後編)]]|
|054:[[十に一つ]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:村岡隆|080:[[十八歩]]|
**天恵 ◆IWqsmdSyz2氏
「矢張り・・・標くんの事が気になるんだ・・・それになんだか嫌な予感がする・・・」
赤松の後姿を、天は引き止められなかった。
言葉を発するや否や、踵を返して駆けていった赤松を捕まえることなど出来ようもなく
そして何より天自身、標という少年を気がかりに思っていたからだ。
盲目の老人と幼い少年を二人残してきたという状況、
手榴弾を持つ老人と拳銃を持つ少年を二人残してきたという状況。
むしろ、赤松を行かせたかったのだろう。
あの標という少年が聡明であることについては理解したつもりだが、
とはいえ危険な状況、心配でないはずがなかった。
「ちょ・・・赤松さん行っちゃったざんすよ!」
「ああ・・・・・」
小さくなる赤松の背中を見送りながら、天は頷く。
村岡は、そんな天の様子に少し驚き、声を上ずらせた。
「お、追いかけなくていいざんすか・・・?」
「・・・・・・」
「だ・・・だったら早く逃げるざんすよ・・・・・!この辺りは危ないざんしょ!」
そう、市川の拡声器に誘われてどんな奴が集まって来ているやも知れない。
村岡は丸腰。
天の武器である鎖鎌も、現状見掛け倒しでしかないのだ。
「標さんと赤松さんは心配ざんす・・・・・!たしかにとても心配・・・・・・!
だからといって今わしたちまで標さんの元へ向かったら、それこそ“振り出しに戻る”ざんす・・・!
赤松さんが行ったんだからあっちは大丈夫ざんすよ!
わしらはここを離れましょう・・・・!
ほとんど真っ直ぐ進んできてるわけだし、後で二人も追いつくざんしょ!」
村岡の発言の真意はもちろん、兎にも角にも危険地帯から離れたいという一点に尽きる。
標と赤松の身を気遣う素振りを見せてはいるが、所詮上辺に過ぎないことなど天には見通せていた。
(とはいえ・・・・・正論・・・!一番最悪なのは四人ともが命を落とすこと・・・!)
天もわかっている。
今赤松を追ったとして、果たして良い結果を生むのだろうか。
ことに、この村岡という男を引き連れて戻ったのでは標の思惑を潰しかねない。
ならば・・・ならば・・・
「・・・・・待とう。二人が追いつくまで、ここで」
「なぁに言ってるざんすか!!
もう別ざんす!別チームとして行動するべきざんすよ!」
武器を持ち、体格もよく、自身に比べて遥かに非力であろう老人子供を手にかけようともしない天。
この天という男と共に逃げるのが最善・・・!
村岡にとって標や赤松など一時的な拠所に過ぎなかった。
今は天を盾に危険地帯から脱する・・・・!保身第一・・・・・!
更に強く、頼りになる人物に出会えばそちらに乗り換えるだけのことだ。
「・・・・・ここが危険なのは承知のうえだっ・・・!だが・・・・・!」
「待ってる間に誰から攻撃を受けるともわからないざんすよ?!
標さんは拳銃を、赤松さんは手榴弾を持ってるざんす・・・!
今危ないのは標さんたちよりもわしたちざんしょ!
こんなところに突っ立ってたら 的になるようなもんざんすよ・・・・!」
身振り手振りに大げさな様子でまくしたてる村岡。
天は手に握った鎖鎌を見つめ、
しばらく考えたのち、静かに頷くのだった。
「・・・・・わかった。移動しよう」
「それが よござんしょ・・・・!」
ほっと胸を撫で下ろしながら、村岡は言葉を続ける。
「ささ、そうと決まったら移動するざんすよ。
もうしばらくもすれば赤松さんも標さんと合流できるはずざんす」
「ひとつ・・・・・いいか?
・・・・アトラクションゾーンを抜けたところで待機したい。
もしかしたら二人が追いついてくるかもしれないだろ」
「なんでもいいざんすよ・・・!とにかく安全なところへ行くざんす」
村岡は先刻までヒステリックに喚いていたのが嘘のように軽い調子で承諾し、
天と共にアトラクションゾーンの外を目指して歩き始めたのだった。
* * *
果たしてこの男・・・共に行動していくべきなのだろうか。
道中、天はそればかりを巡らせて、悩んでいた。
そもそも素性の知れない相手である。
「ん?どうしたざんす・・・・・?」
「いや・・・」
赤松や標から信頼されていなかっただろうことは、
数回のやりとりを見るだけで十分把握できたが・・・。
(俺に敵意を持っているわけでも、寝首掻こうと考えているわけでもないようだ・・・)
敵意。そもそも、村岡は何も持っていない。
武器を、そして支給品さえも。
「おい・・・・・村岡・・・・さんだっけか」
「そういえば紹介が遅れたざんすね。村岡隆ざんす」
「むらおかたかし、か・・・。俺は天貴史」
思わぬ共通点に、天は少し表情を和らげ
しかし鋭い調子で村岡に切り込む。
「どうして何も持っていないんだ・・・・・?ギャンブルの参加者には支給品が渡されるはず・・・
話してくれ・・・・・今に至るまで何があったか・・・!」
「ああ・・・!そんなことならお安い御用ざんす・・・!」
村岡はこのギャンブルの主催者は“帝愛”で間違いないという前置きをして、
自分の身分とこの島に来るまでの境遇を掻い摘みながら説明した。
「――とにかくカイジには酷い目にあわされたざんすよ!」
放っておくといつまでもカイジという男の悪態を吐き続けそうな村岡に、天は話を促す。
「・・・あんたの境遇についてはわかった。で、なぜ今手ブラの丸腰なんだ・・・?」
「おっと、その話だったざんすね。
このゲームの本質はギャンブル・・・・わしもギャンブルに負けたざんすよ。
ギャンブルルームで、
持ち金すべてと支給品一式、そして敗者は勝者に手を出さないという誓約書を賭けて戦ったざんす・・・!
結果・・・負けっ・・・・・わしの負けざんした・・・!それゆえの現状ざんす・・・・・」
「・・・なるほどな」
ギャンブルルームを利用した。しかも賭けたものは金。
どうやら村岡は殺し合いではなく、純粋なギャンブルにより己を守ろうと考えていたようだ。
そこにイカサマの類が存在しようがしまいが、
“自ら人を殺す”という発想がないとわかったのだから十分な収穫だ。
(何を考えているのかはさて置き・・・見境なく人を襲うような危険人物ではないと考えていいだろう・・・)
天は村岡の表情を窺いながらも、聞いた情報を確実に頭に入れていった。
「おわかりいただけたざんすか?」
「あぁ・・・・・ところで、そのギャンブルの相手、どんな男だったんだ」
「背格好がこれくらいの、眼鏡かけた普通の青年ざんすよ・・・・・井川ひろゆきって名前の・・・」
「ひろゆきっ・・・・・?相手は井川ひろゆきだったのか・・・!」
「えぇ・・・そうざんすけど・・・・・?」
天の食いつき具合に面食らいながら、村岡は首肯する。
「知り合いざんすか?」
「どんな・・・・どんな様子だったか教えてくれっ・・・!まさかとは思うが殺し合いに乗っちゃあ・・・・・」
「誓約書を書かせる男ざんすよ?
極力人を殺したくないって言ってたし、ギャンブルでやっていくつもりのようざんした」
「ギャンブルで・・・・・?そうか、ひろの奴・・・」
こんな状況にあってもギャンブルに賭けているひろゆきに対して、
僅かでも羨ましいと感じたことを天は否定できなかった。
人情家であり、バトルロワイアルを止めたいと考えている天、
しかし彼にも博徒の血が流れているのだ。
「それにひろゆきくんの支給武器・・・!日本刀ざんす・・・・・使い方もわからない銃器類より役に立つ。
プラスわしの支給アイテム・・・これが強力・・・!首輪探知機・・・!」
負けたことを根に持っているのだろう、村岡の声色は徐々に荒々しく変化していく。
「負けなければっ・・・今頃わしは・・・!」
井川ひろゆき、伊藤開司。
誓約書が有効な限りひろゆきを殺すことは出来ないが、
何としても生き延び、そして二人に復讐をすること。それが村岡の指針であった。
(わしからすべてを奪った二人、必ず奪い返してやるざんす・・・!この手でっ・・・必ず・・・・・!)
「あんたの話はわかった・・・・・。次は俺の番だな」
天は、市川と出会うまでの経緯と、
このバトルロワイアルに対する自身の考え方を村岡に話す。
「殺し合いに乗る気がない人物を集める・・・・当面はこれが目標と考えていた・・・・。
残念ながら俺は状況を一転させるようなアイデアを持ち合わせちゃいねぇ・・・。
だからこそっ・・・・・志同じくした仲間を作る・・・!
それが・・・・所謂“対主催”への一歩だと思っている・・・・・」
「わ・・・わしも同感ざんす・・・・!」
天の指針、村岡の指針。
実質大きくズレているにも関わらず、村岡は素直に頷いた。
「この馬鹿げたギャンブルに対抗するにはそれが一番ざんすね・・・!」
「・・・・だからこそ・・・・尚更に赤松さんたちが気になる・・・・」
天は表情を翳らせて呟くのだった。
(赤松さん・・・・そして標という少年・・・・追いついてきてくれればこの上ない・・・・。
が・・・・!状況が状況だ・・・。何とあっても生きて再会・・・)
「あっ・・・・!出口ざんすよっ・・・・!」
標と別れた地点から南下し続けたところ、
多少迷いながらも、二人は無事にアトラクションゾーンから脱した。
無論、この島自体がバトルロワイアルの舞台である以上は安全地帯など存在しえないのだが
天と村岡は、まるで長い迷路を抜け出したような達成感を覚える。
「ここまで来れば、ひとまずは安心ざんしょ・・・・!
アトラクションゾーン内に比べて障害物も少ないし、見通しがいいざんす」
出口から一歩踏み出すと、なるほど確かに村岡の言うとおりであった。
アトラクションゾーン方向から誰か来ればすぐにわかる、
なおかつ近くに建物もなく森から離れた平地であるため
警戒を怠らなければ奇襲を受けるということもないだろう。
「背中合わせで待機だ・・・・!
人影が見えたらすぐに知らせあうこと・・・・!」
「了解ざんす・・・・・」
村岡、たしかに信頼できる性質の人物ではない。
しかし、このような相手であっても信用をなしにしてやっていける状況だろうか。
(村岡っ・・・・腹に何を抱えているか知れない男・・・・!
とはいえ仲間同然じゃないか・・・・共に行動しているんだから・・・・!)
天は持ち前の思いやりの影響もあり、村岡を受け入れることと相成ったが
誰にとってしても、初対面から数時間の男に背中を預けるという行為さえ止むを得ない世界だった。
(この男に従っていれば、しばらくは安全そうざんすね・・・・!
武器も金も持たないわしが生き残るには他人の力が必要ざんす・・・・)
もし危険が及んだとして――例えば何者かが襲ってきたとして、天は村岡を守ろうと行動するだろう。
それは足手まといにしか見えなかった市川という老人を見捨てずに連れていた様子から窺い知れることだ。
(天はボディガードとして使ってやればいい・・・・!わしは勝機を待つざんす・・・・!)
村岡が“勝機”の可能性について皮算用している間に、天はある名前について考えていた。
標が別れの間際に赤松に対して伝えた言葉。
確かに標の発した“うかいぜろ”という単語、これが気になっている。
その前後を聞き取ることは出来なかったが おそらく人名。
数時間前、ホテルでギャンブルのルールを聞かされたあと、
一人ずつ名前が読み上げられ、後姿程度なら確認する機会があったのだが・・・。
(あ、い、う・・・・“うかいぜろ”・・・)
天より前に位置するはずのその苗字。
しかし、赤木しげる、井川ひろゆき、という名前に気をとられていたせいか、記憶が覚束ない。
“うかいぜろ”、赤松の助けになるような人物、標が信頼をよせる人物・・・・?
それならば天にとっても会って損はない人間であるといえる。
あの聡明な少年のお墨付きならば、相当に頭の切れる男なのかもしれない。
(あるいは・・・危険人物か・・・・?)
“うかいぜろ”は危ないから気をつけて、という助言だった可能性もある。
こんな狂ったゲーム、常軌を逸した狂人が参加していても不思議ではないのだ。
やり手のギャンブラーとして『危険人物』と扱われているのなら、むしろ対峙したいものだが、
バトルロワイアルという殺し合いの中での『危険人物』ならば。
“うかいぜろ”と出会うこと即ち死に直結するような展開さえあり得る・・・・!
(標という少年・・・そして赤松さん・・・・・彼らとは合流したい・・・・!
治、石田さん・・・この二人の安否も気になる・・・。
市川だってあれで良いとは思わねぇし・・・・・出来ればひろにも会っておきたいが・・・。
そして・・・・・赤木しげる・・・・!)
この状況にあっても、アカギとのギャンブルへの憧れは胸中に残っている。
(加えて・・・・“うかいぜろ”という人物だな・・・・!
どんな人間にだろうと会うことが何かの取っ掛かりになるかもしれねぇ・・・)
* * *
時を置いて第一回目の放送終了後。
日没を迎えようというこの時にも、
天と村岡は依然アトラクションゾーンの出口付近で標たちを待っていた。
現れない待ち人に 村岡は痺れを切らす。
天の「あと30分だけ待とう」という言葉に反論する術を持たずして
二人はここで午後六時の定時放送を迎えることとなったが・・・・。
「標」
確かに黒崎がそう告げたのだ。
バトルロワイアルの敗者として、あの少年の名前を。
天はショックを隠しきれなかった。
「それって・・・死んじまったってことじゃねえかよ・・・!ほんのさっきまで一緒にいた人間がっ・・・・・!」
「・・・そうざんすね」
村岡とて、動揺していないわけではない。
放送前とは“殺し合い”のリアリティがまるで違う・・・!
利発そうな少年、標の死に少なからず驚いていたのだった。
「赤松・・・赤松さんは・・・!そしてあの爺さんも呼ばれなかった・・・」
あの地点で最も可能性が高く思われた市川が標を巻き添えに死ぬという展開。
それは市川の生存によって否定された。
(爺さんだけ運良く生き残っちまったってことも考えられるが・・・)
別の何者か――恐らくは村岡の声に物音を立てて反応してしまった人物。
潜んでいたそいつが、標を殺したのではないか。
現在市川、赤松の身に危険が及んでいるということも十分考えられる。
あるいは既に瀕死の重傷を負っているやも・・・。
「ちくしょうっ・・・・!」
自分の身の振り方ひとつ違えば、別の選択をしていれば、少年の命を救えたかもしれない。
あのとき、目的は“市川から離れること”だったはず。
赤松と別れた地点で待機していればよかったのだ。
やはり天自身、心のどこかで“危険な場所から離れたい”という気持ちがあったのだろう。
行動を共にするパートナーが村岡だったことも作用しての結果だが、
まるで標と赤松を置いて逃げてきたような形になったことを、天は深く後悔していた。
今すぐにでも戻って確かめたい。何があったのかを。
せめて、風に晒されているであろう標の亡骸を、葬ってやりたい。
天は支給されたペンを、折らんばかりの強さで握り締めながら、地図を睨み付けた。
「B-3・・・標さんたちの居たところは禁止エリアに指定されたざんすね・・・」
そう、市川と言い争っていたあの地帯『B-3』は先の放送で禁止エリアとして読み上げられたのだ。
進入禁止になるまで30分・・・走ったところで間に合うかどうか・・・。
「ぐっ・・・くそっ・・・!」
(標だけじゃない・・・!6時間で15人も死んでっ・・おかしいだろっ・・・・・・!おかしいだろうよ・・・)
天はこの島で出会った人々を思い返す。
治、石田、赤松、そして標。
殺し合いに乗っていない人間がこれだけいた。
この狂った状況で正気を保った人間がこれだけいた。
市川にしたって、説得の余地がなかったわけじゃあない。
治を襲った二人――末崎、安藤のように人を貶めようと画策する輩もいたが、
彼らとて“殺す”という行為に踏み切れていなかったのは事実。
(だから俺はっ・・・俺は甘く見ていたっ・・・!俺は完全にこのバトルロワイアルって奴を舐めてた・・・・・・・!
なんとか・・・なんとかみんな助けられるんじゃねぇかって・・・・・そんな考えじゃダメっ・・・まるでダメっ・・・
もう死んでほしくねぇっ・・・!誰もっ・・・・・・誰一人・・・・・・!)
涙を滲ませて悔しがる天を、
一方の村岡はどこか冷静な気持ちで見つめている。
(たしかにこんなにポンポンと人が死ぬのは異常ざんす・・・!
まったくの異常事態・・・とはいえ・・・・!泣く・・・?はぁ・・・?おかしいざんしょ・・・・?
身内が死んだわけでも殺しの瞬間を見たわけでもなしに、他人が死んで泣く・・・・・?)
「て、天さん・・・?いつまでもここに居たってはじまらないざんすよ・・・。
この状況・・・・待機する理由はもうないざんしょ・・・標さんだってわしらが死んだら報われないざんす・・・!
B-3が禁止に指定された以上、アトラクションゾーンを出ようと考える輩も出てくるざんすよ・・・・・・!
潜伏していた殺人鬼どもが出口求めて移動してくるかもしれないざんしょ・・・?
D-4も禁止エリア・・・・D-4の隣接エリアであるここは危険・・・・・!」
天の機嫌を損ねないよう、言葉を選びながら村岡は口を開く。
D-4が禁止エリアになったため、隣接エリアに人が流れ込むだろう。尤もな意見だ。
B-3に集まった人間も動いてくる可能性は十分にある。
今すぐにでも、無理やりにでも、移動したい状況・・・・!
しかし村岡にとって、最も重要なのはこの場で天に捨てられるのを避けることである。
「わしだって赤松さんが無事かどうか心配ざんす・・・!
でも何にしたって移動しなきゃ仕方ないざんすっ・・・・・!
ここで待ってたら赤松さんと合流するより先に命を落としかねないざんす・・・・!
さっきまでのような安地じゃなくなってるざんすよ・・・・!」
「あんたの言うとおり・・・・・その通りだがっ・・・・・!」
放送が終わって5分も経っただろうか、天は静かに立ち上がる。
誰もが歩みを止め、地図と睨み合うであろう瞬間を無駄にしてはいけない。
この放送を機に、出方を練り直そうと考える者は多いだろう。
あるいは身内の名前が読み上げられて悲しみに暮れる者もいるはずだ。
しかし、今必要なのは・・・ここ一時の切り替え・・・次への一歩を踏み出す速さ・・・。
「考えていたんだ・・・・どこへ移動するべきか・・・・!」
「そ・・・・そうだったざんすかっ・・・・!」
「あぁ・・・俺は・・・病院を目指そうと思ってる・・・!」
天は南東方向を指差しながら村岡に切り出した。
「人が集まるところ・・・それも助けが必要な人間が集まるところ・・・・・
それって病院だろっ・・・こんな環境・・・もちろん怪我を負う人間も出てくるっ・・・・。
そうしたら考えることは・・・・・・治療・・・休息・・・その発想・・・・!
さらに物資や参加者を求めて人が集まりそうな商店街・・・
商店街を抜けるようなルートで病院方向へ向かえば、まず誰かに会うはずだろっ・・・!
兎にも角にも・・・接触する・・・・・!参加者に・・・・・・!
素性を知らない奴だらけのこの島だ・・・・・!
鬼が出るか蛇が出るか・・・・そういう話になってくるが・・・・」
「それじゃあ・・・・!それじゃあここで突っ立っているのと大して変わらないざんすよ・・・・!
病院っ・・・商店街っ・・・・!たしかに地図を見たとき目に留まる施設ざんすっ・・・!
島の中央部に位置することもあって・・・・確かに人は集まりやすいざんしょ・・・!
が・・・!当然集まるのは善人ばかりじゃないざんす・・・・・!」
天の発言から間を置くことなく村岡は反論する。
「言ってることはわかるざんすっ・・・!病院は弱者が集まりやすいっ・・・・!
しかし同時にそれを狙う奴らも集まりやすいざんすよ・・・・・!危険ざんす・・・・!
天さんは殺し合いに乗るつもりはないってことも・・・・・・仲間を集めたいのもわかるざんす・・・・!
でもっ・・・!同志を探すのと人助けをして回るのは別物ざんすよっ・・・?」
「俺は・・・俺はそうは思わねぇ・・・!
歩き回りゃあ瀕死の重体者に出会うかもしれない・・・・・!
まぁ声をかけた相手が殺人鬼なんてこともありうる・・・・・・・
結局は不信感を抱かずにはいられない島なんだ・・・・・!
生き残ることを考えれば利己主義に走らざるをえない環境だもんな・・・・だけどっ・・・・!
だからこそ助け合うのが当然・・・!必然っ・・・・!
その先にあるのが同志・・・・!志だっ・・・!
利益だとかなんだとか・・・・損得の思考を超えなければ・・・・・俺が俺になれないっ・・・・!
そして運良く・・・赤松さんや・・・・・治たちと無事再会できれば尚良しってところだ・・・・!」
天は所謂正義側――今までの経歴などはさておき、本質として村岡とは反対に位置する男。
それを理解したうえで、村岡は天を利用するつもりでいた。
武器を持たない村岡にとって、恵まれた体躯と人への情け、
そして正気を保った判断力を持つ男は護身具代わりに使える存在である。
自分を見捨てないだろう天と行動していけることは好都合だったのだ。
(なのにっ・・・・!盾になる男と行動を共にしたところで危険地帯に赴くんじゃ意味がないざんすっ・・・!
その上天は足手まといにまで手を差し伸べる男ざんす・・・!道中怪我人に会いでもしたらっ・・・・!
こいつと適当に逃げ回って機会を窺うというわしのプランが台無し・・・・・!)
「そりゃあっ・・・・移動することについては賛成・・・・!もちろん賛成っ・・・!
病院方向に向かうことっ・・・そこまでギリギリで納得・・・!
ただし特定の人物を探すに留まらず
出会った人間 みんなに声をかける・・・これはダメっ・・・反対ざんすっ・・・断固反対・・・!」
広げた支給品をまとめて移動の準備を始めた天に縋りつくようにして
村岡は喚き続ける。
「人を助けたいっ・・・・わしもそう思うざんすよっ・・・・!
でもそのために天さんが死んだらどうする・・・!
自分の命と引き換えに他人を助ける・・・?それは違うざんしょっ・・・・・!」
「村岡・・・あんたの言ってること・・・己の生存第一・・・間違っちゃいないと思う・・・・・!
だがなっ・・・・俺は嫌なんだ・・・・・これ以上不条理なギャンブルで人が死んでいくのは見たくない・・・!
人のためじゃねぇ・・・!俺が許せないんだっ・・・・・!」
「ぐっ・・・・・・」
(せっかくボディガードを見つけたと思ったらっ・・・・・!
とんだハズレ・・・・ウスバカ・・・クズバカっ・・・・!
こいつについて行ったら わしまで手伝わされるっ・・・・何の得にもならない人助けを・・・・!
こんな状況で弱者を救おうなんて 命をかけたゴミ拾いに等しいざんすよっ・・・!)
自身が“弱者”であり、天の力を借りているということは棚に上げ、
村岡は心中暴言を吐き散らした。
「悪いが・・・俺はそう決めたっ・・・・俺は・・・・状況の許す限り俺の意志に沿って行動するっ・・・・!」
「うぐぐっ・・・・!」
(ダメざんすっ・・・・この男はもう捨てるっ・・・・・!
人を助けるだぁ・・・・?仲間を集めるだぁ・・・・?
「はぁ~?」ざんすよ・・・!そんなの無能がやることざんすっ・・・!
逆・・・!発想がまるで逆ざんすよ・・・!人を貶め利用することが勝利への道っ・・・・!)
村岡はどちらが相手を頼りとしていた状況なのかを完全に無視し、
一方的に天の発言を攻め続けた――口には出さずに、だが。
天にとっては標への償い、という気持ちがなかったでもないのだろう。
拳を握り締めながら村岡に意を伝える。
「俺は行く・・・・!例え危険に飛び込むことになったとしても・・・!
“病院に向かう”ってのは・・・・どうってことねぇ・・・・
実際どこだって同じこと・・・・!行く先々で・・・このバトルロワイアルの参加者に会うだろうよっ・・・・!
困ってる奴がいりゃあ力になる・・・・過ちを犯しそうな奴にゃあ出来る限りの説得をするっ・・・!
失敗してあっさり死ぬことにならねぇとは言い切れないし・・・
そうして話が好転するでもねぇ・・・・・!
でもそれでいいんだっ・・・・!それがここでの俺のギャンブルっ・・・・・・!
俺に出来ることでありっ・・・やるべきことでありっ・・・・そしてやりたいことなんだっ・・・・!」
(何ざんすか何ざんすか・・・・!
あの標とか言う小僧の死が 背中を押したってところざんすか・・・・?
何にしても天はゴミっ・・・!もはやゴミざんすよっ・・・!
どうにかして次の拠所になる人物を探さなきゃならなくなったざんす・・・・・・・!)
武器を持つ天に対して 村岡は丸腰。
(わしが何か支給品を持ってさえいれば・・・・!こんなゴミクズは放置してさっさと別行動するのにっ・・・・・・!
ぐっ・・・せめて何かっ・・・・!こいつから搾取してやりたい・・・・・・!がっ・・・ダメっ・・・無理・・・・!
体格が違うっ・・・・!敵うはずがないざんすっ・・・・・!)
二進も三進も行かない村岡。
無意識のうちに表情も強張り、今まで心がけていた演技に綻びが出始める。
相手に出来るだけ警戒心を抱かせないような態度――
そんな生ぬるいことを考えていられない状況になりつつあるのだ。
(どうするっ・・・・?こうなったら・・・適当な嘘で天を騙くらかすかっ・・・!)
しかし村岡の険しい表情は、天が荷物から取り出した“あるもの”を見て一変する。
「あ・・・?何ざんすか・・・・・?」
「あんたの分だ・・・・!」
「わしのっ・・・?」
ぽかんとした顔で説明を求める村岡に、天は“あるもの”を投げやった。
「“500万円”・・・・・!500万円分のチップだ・・・!
俺の武器は鎖鎌しかねぇ・・・・これを渡すことは出来ないが・・・・・
あんただってこの先まったくの丸腰じゃ、命が危ない・・・・!
だから・・・500万円・・・・・!金があればギャンブルが出来るだろっ・・・!
この島じゃ生命線・・・!こんなもんでも武器になりうるっ・・・!」
得体の知れない男にさえ自分の物を分け与える・・・・!
愚かだと考える人もいるだろうその振る舞い・・・しかし天の優しさが成した判断。
当の村岡はといえば、優しさ・思いやりなど微塵も感じようとはしない。
そんなことはどうでもよかったのだ。
天・・・この男が自分を貶めようとするはずがない。
それだけわかっていれば十分・・・!
思わぬ形で500万円のチップが手に入った・・・その結果のみが村岡を捉えて離さなかった。
――生き残りなさい 村岡隆・・・!生きなさい・・・!隆・・・・・・・・・!
(ぐぁっ・・・これは・・・・まさに“天”の恵みっ・・・・!ありがとうっ・・・神様ありがとうございます・・・・・・!)
チップを抱きかかえながら、村岡は何かに対して幾度となく頭を下げる。
村岡にとってその感謝の対象が天貴史でないことは、言うまでもないだろう。
「俺は誰にも死んでほしくねぇ・・・!無論あんたにもだっ・・・!
が・・・・ここからはあんたの自由・・・・!
もし俺についてくるってんなら、有事の際はあんたを守る・・・・・!」
村岡を見据えて力強く告げる天。
しかしその声は届かない。
「ぐふっ・・・ぐふふっ・・・・・・!」
(やった・・・!やったざんすよっ・・・・!500万円・・・!
ちと心許ない金額だがっ・・・・しかしこれでギャンブルルームを使うことが出来るざんすっ・・・!
しょうもない輩にヘコヘコして守ってもらわなくてもっ・・・・!一発逆転・・・・!十分ありえるっ・・・・・!
ギャンブルルームが使えさえすれば・・・この男に縋る必要もないっ・・・!)
「丸腰のあんたを置いていきたくはねぇ・・・
標のことを考えるとなおさらっ・・・仲間を置いていきたかねぇんだ・・・!
だが・・・俺は今後も勝手なことを言い出してあんたを危険に巻き込むかもしれない・・・!
っていうか・・・・この状況下、どの道を選べば生き残れるかなんて博打同然・・・!
あんたにはあんたの考え方がある・・・それに沿うことが一番なんじゃねぇかとも思う・・・!
そういう意味で言えば・・・・・標に関しても俺がどうこう後悔する問題じゃないんだろう・・・
難しいっ・・・だから・・・・!どうするかはあんた次第・・・!あんた次第だっ・・・!」
天は念を押すように繰り返した。
鎖鎌を握りなおし、あたりを見回すと、ここに来たときより随分と薄暗い。
もう半時も待たずして日は落ちるだろう。
周囲が闇に包まれれば視界が悪くなる。
人を襲う側でもない限り、それはデメリットだ。
動き始めなければ――夜の帳が下りる前に・・・!
【D-3/平地/夜】
【天貴史】
[状態]:健康
[道具]:鎖鎌 不明支給品0~2 通常支給品
[所持金]:500万円
[思考]:助けが必要な者を助ける アカギ・赤松・治・石田(・ひろゆき)に会いたい
“宇海零”という人物が気になる 病院を目指す
【村岡隆】
[状態]:健康 興奮状態
[道具]:なし
[所持金]:500万円
[思考]:ひろゆきとカイジに復讐したい 生還する
※村岡の誓約書を持つ井川ひろゆきを殺すことはできません。
|078:[[抜刀出陣]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|080:[[十八歩]]|
|061:[[第一回定時放送 ~謀略~]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|062:[[変化]]|
|054:[[十に一つ]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:天貴史|104:[[天の采配(前編)]][[(後編)>天の采配(後編)]]|
|054:[[十に一つ]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:村岡隆|080:[[十八歩]]|
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