「十八歩」(2009/12/20 (日) 21:41:37) の最新版変更点
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**十八歩 ◆6lu8FNGFaw氏
平山は焦っていた。
腕時計の針は19時半を少し過ぎたところを差している。
21時にひろゆきとC-4の事務所で待ち合わせをしているのだ。
何とかして切り抜けたい…!この閉塞状態…! 首根っこを2匹の虎に押さえられている、この状況を…!
平山の傍で、原田と銀二はこれからの行動について話し合っていた。
完全に蚊帳の外にされている平山は、さっさとここを抜けてひろゆきとの待ち合わせ場所に向かいたかった。
(いいよな…? 抜けても…。 だって、もうオレが話せる事は全て話してしまった…!
オレを殺す気は無い様だし…今のうちに…!)
平山は、音を立てぬようそっと後ずさり、二人から距離をとった。
「どこへ行くんですか…?」
銀二は平山の様子を見て取り、声をかけた。平山の体が跳ね上がる。
「い…いや…もう…オレがアンタらに話せる事は全て話してしまったし、いいだろう…?
そろそろ開放してくれてもよ…!
それともアンタらまで、利根川のようににオレを脅して言うことを聞かせるつもりなのかっ…!」
平山は半ばヤケになって言った。
「…他にも約束がおありで?」
「ぐっ… い、いや…」
銀二は端的に指摘した。平山の顔が強張る。
「……どなたと?」
「……誰だっていいだろう…!」
平山は頑として突っぱねた。
この二人は…利根川が自分に向ける視線と同じ視線で自分を見ている。三下、格下…手駒…!
こいつらに興味を持たれ、ひろゆきとの待ち合わせ場所までついて来られたら、たまらない。
ひろゆきにまで迷惑はかけられない。
たとえ相手の心象を悪くし、自分の身を危険に晒したとしても、譲れない思いが今の平山にはあった。
「そうですか…。 なら、行っていいですよ。」
銀二はあっさりと平山を解放する。平山は面食らった。
「もうあなたから得られる情報もないことですし…。どうぞご自由に…」
冷めた目で一瞥をくれる。平山は苦虫をかみ潰したような顔をし、数歩後ずさりをしてから背を向け、走り始めた。
「ええんか?」
原田は銀二に声をかける。
「フフ…。 このまま逃がすつもりはありません…。
平山が合流しようとしているのは、先程の庇うそぶりから見て間違いなく『カイジ』或いは『ひろゆき』…。
私は平山を追います…。 原田さんはどうします?」
「そうやな…。 手駒は多いほうがええよな…?」
原田は急に小声になった。一瞬だけ目線を右に走らせ、口の端を吊り上げる。銀二は微笑み、小声で返す。
「そうですね…では、次の定時放送までにバッティングセンター前で如何です」
「それだけの時間があれば十分や…」
「では…」
「ああ」
短く別れを告げ、銀二は平山の向かった方向へと走り去った。
「さて…」
原田は一呼吸置き、手元の拳銃を握りなおし、もう一度ふっと息を吐いてから、右を向いて大声を張り上げた。
「そこの茂みに隠れとる奴…出て来い!!」
「ぐわっ…!」
蛙を踏み潰したような声を上げ、ガサガサっと葉が擦れ合う音が聞こえた。
「い、いやあ、すいません…!こそこそ隠れたりして、怪しく思われても仕方ないざんす…!
でも、見てください…!ワシに敵意はないざんすよ…!これこの通りっ…!」
その男…村岡は、原田に負けず劣らずの大声で、茂みから飛び出し、手を大仰に広げて見せた。
天に500万のチップをもらった後、方針が合わないなどとゴネて、見切りをつけて別れてきたのだった。
(奴と行動してたら、命がいくつあっても足りないざんす。ここは堅実に、ギャンブルで物資調達ざんすよ…!)
「フン…。おどれ、名前は」
「村岡…村岡隆と申しますっ…! ワシはあなた様のことは知っているざんすよ…!
関西最大規模の暴力団組長…原田克美様っ…! ざんしょ…?」
原田は返事を返さず、村岡を睨みつけた。村岡は、一瞬怯んだ様子を見せたものの、満面の笑みでやり過ごす。
「そんなに見つめられると緊張するざんす。やはり組長ともなると、貫禄が違うざんすね…!
この村岡隆、普段は裏カジノのオーナーを勤めておりますが、やってくるのは博徒とは名ばかりの腰抜けばかり…!
そういう腰抜けとギャンブルなぞやることもありますが、物足りなく感じておりましてね…!」
村岡は、原田を立て、遜りつつも決して自信のない様子を見せない。
また、そうした自分を演出することに必死になっていた。
村岡は直感的に察していた。先程から覗いていて、平山という男がいいようにあしらわれているのを見ていた。
舐められたら死ぬのだ。プライドとか、そういうものはどうでもよろしい。犬にでも食わせておけばいい。
強者には従え。だが、けして舐められてはいけない。村岡はそれを身をもって知っていた。
「ギャンブルか…」
原田が話題に食いついて来たのを逃すものかと、村岡、弾丸のように言葉を口から弾き出す。
「ええ…!この島では、死と隣り合わせ…!極限の状態でギャンブルに勤しむことが出来る…!
燃えたいんざんすよ…!強烈に心がギャンブルを欲しているんざんす…!
原田さんは、どうざんすか…?
一見したところ、殺しでこの島を抜け出そうとしているようには見えないざんすが…?」
村岡は原田の顔色を伺った。
ギャンブルで燃えるだの何だのはいつもの口八丁だが、村岡は是が非でも原田をギャンブルに誘いたかったのだ。
ギャンブルルームの中でなら、たとえやくざ相手でも対等に渡り合える…!
今の自分の所持品が500万のチップのみだとしてもっ…!
「なんでわかる…?そないなこと」
「え…?」
「オレが殺しに乗ってないやなんて、どうしてそないなことがわかるんや…?」
原田は獰猛な笑みを浮かべた。拳銃を持つ手は下げたままだが、その手首に力がこもる。村岡の顔が引きつった。
「まあええ…。要はおどれ、オレとギャンブルをしたい…。そういうことなんやろが。
回りくどい言い方すんなや…裏になんかあるんかと却って勘繰ってまう…そう思わへんか…?」
「そ、そ、そうざんすねっ…!いやいや失礼したざんす…!
そう…原田さんの言う通りっ…! ワシは原田さんのようなお人とギャンブルがしたいんざんすっ…!」
調子を合わせてきた村岡に、原田は苦笑した。
(この男…食えん奴やな。隙あらば自分のペースに巻き込もうと画策してきやがる。小物やが…。
いくら脅しをかけても崩れんところは、なかなか…。伊達に“裏”カジノの経営者ではないってことや…。)
原田は村岡の提案に乗った。
南下しながらギャンブルルームを探している間、村岡はこの島に来てから今までの経緯を、(主観たっぷりに)話しまくった。
「…というわけざんす!このひろゆきって奴は見た目は普通の男ざんすが、
その中身は卑怯、卑劣、悪辣、悪鬼…! とんだ食わせ物ざんす…!」
「…ほう、そうかい…ひろゆきって奴がな…」
「そうざんす!原田さんも気をつけたほうがいいざんすよ…!」
「クク…そうやな…気をつけるとするわ…。」
村岡は、参加者の情報と称して、自分が出会った人物をこきおろしていた。
特に「カイジ」と「ひろゆき」には(村岡曰く)さんざんな目に遭わされたらしく、特別恨みがあるらしい。
原田はあえて、ひろゆきと自分が既知の間柄だということを村岡に隠しておいた。
「しかし、そのひろゆきって奴に書かされたっていう誓約書…それはいいアイデアやな…。
村岡、オレとおどれもその誓約書、取り交わしてみるか?」
「ええっ…?」
村岡がポカンとした顔をしているので、原田は続けた。
「ギャンブルルームの中で交わした約束なら、反故にできないんやろう…?
なら、互いに安全を確保できるその『誓約書』、勝負の前に取り交わしとこうやないか。」
「…そうざんすね…!いいアイデアざんす…!」
村岡は返事をしながら、内心喝采をあげていた。
(先に言い出してくれて助かるざんす…!どうやってこっちから切り出したものかと考えていたざんすよっ…!)
「で、今からやるギャンブルざんずが…」
「そうやな、おどれ…麻雀はできるんか?」
「麻雀…ですが、麻雀は3人か4人面子がそろわないとできないざんす。それに時間もかかる。
なら…こういうのはどうざんしょ?麻雀のルールを借りはするが、全く別のゲーム…!
別のゲームですが、麻雀の駆け引きや心理戦のコクもある…!
おまけに一局5分から10分で済むざんす!30分100万のギャンブルルームにはまさにうってつけ…!」
「そりゃ面白い…。何ていうゲームなんや?」
「その名は…地雷ゲーム『十七歩』っ…!」
村岡は原田に十七歩のやり方を説明した。
「ほう……面白そうやな。やってみるか…それ…!」
「おおっ、原田さんさすが話が早いっ…!」
村岡の目がギラリと光る。原田はその様子を見逃さなかった。
よほど、その『十七歩』に自信があるのだろう。
「原田さんは麻雀、お強いんざんすよね…?本当は麻雀そのものの方がよかったざんすか…?」
原田の意見を伺うフリをして、村岡が探りを入れてきた。
「いや…昔はそれで鳴らしたこともあるんやが、今はほとんど打たなくなってもうたしな」
原田はあえて弱気な発言をした。このハッタリが村岡にどこまできくかは謎だが。
「ギャンブルルームで賭ける物なんやが…」
「…わしはこの通り、支給品を全て奪われて素寒貧ざんすよ。チップの500万以外、叩いてもホコリ一つ出んざんす」
「そうやな…ならアンタには、体張ってもらうしかあらへんな」
原田がさらっと恐ろしいことを言い、村岡はまた顔を強張らせた。
「何、命かけろなんて言わへん。誓約書のこともあるしな…。
もしオレが勝ったら、おどれにはオレの下について働いてもらう。但し、上限をつけたる。
満貫なら指令を1つ…跳満なら2つまで…ってな。指令の回数を使い切ったら開放したるわ」
「……それにしても、どんな指令かあらかじめ教えておいて欲しいざんす」
「せやったらゲームの直前に、ギャンブルルームの中で決めようや」
村岡は渋い顔をした。何をお願いされるのかと不安で仕方ないのだろう。
原田は話をそらした。
「おどれが勝ったらオレの支給品をくれたるわ。満貫なら通常支給品、跳満なら手持ちのチップ全額もつける。
倍満なら武器もつける。どうや」
武器。その言葉に村岡は反応する。
「武器…その拳銃をざんすか?」
「そうや」
「い、いいんざんすかっ…?」
「何や不満があるんかい」
「いや、不満などないざんすっ…!全くないざんすっ…!」
E-2の小道沿いにギャンブルルームを見つけ、入り口までたどり着く。
「じゃあ入るざんす。30分でいいざんす」
「ところで、…さっき説明を受けた十七歩なんやが、もう少し面白くなりそうやないか?」
「…と言いますと…・何ざんす?」
「二つルールを追加したいんや。一つは、ドラを増やす可能性を広げるルール。
もう一つは、一局きりで勝負をつけるためのルールや。」
原田が提案した二つのルール。
一つ目のルール。通常十七歩には『カン』がないが、今回はカンを認めて欲しいということ。
カンするにあたって、通常の麻雀とは違う制約を設ける。
・一巡目リーチ後、相手の捨牌からカンできる。暗カン(手牌の中の4枚でカンすること)はなし。
つまり、リーチをかけたのにも関わらず明カンができる。
リーチの役はそのままつく。だが、暗刻を晒すので三暗刻などの役はなくなる。
・カンしても待ち牌が変わらないこと。手役が満貫以上を維持できること。
・カンすると、両側の山から新たにドラ表示牌をめくることができる。カン裏あり。
・カンしたあと、山からツモはしない。よってリンシャンカイホーもなし。
二つ目のルール。
・十七巡目の牌が通れば、通常なら流局、仕切り直しになるが、今回は流局にせず、延長扱いにする。
・十七歩で残った捨牌候補の4枚は手元に伏せ、両端の山から順番に好きなところをツモっていく。
・二枚重ねてある上の牌から取っていく。下の牌は、上の牌でツモれるところが全てなくなってから。
・手替わりあり。
「つまりや、十七歩…ステージAで勝負がつかんかった場合、十八歩目、ステージBに移行するんや。
これなら流局でやり直しにならず、30分以内に勝負がつくやろ。
カンのほうは…ドラを増やせる、地雷をちょっと大きい威力にするための味付けみたいなもんや」
「う~~~~ん……」
村岡は腕を組んで考え込む。急に提案された新ルール…。
「いいやろう?基本は十七歩と変わらん。カンできればやが…ドラが増えるというスリルもある。
勝負は、より熱くなれるほうがええ…。そうやろ…?」
結局、村岡、この提案を承諾…!
黒服にチップを払い、二人はギャンブルルームの中へ…!
向かい合って座り、ギャンブルで勝った場合の賭ける物について話をする。
村岡が原田に勝ったら、満貫なら通常支給品、跳満ならチップ全額も、倍満なら武器も渡す。
原田が村岡に勝ったら、原田の指令を受けて働く。
満貫なら1つ、跳満なら2つ、倍満なら3つ、三倍満なら4つ。(役満は三倍満と同じ扱い)
「で、指令ってどういった内容ざんす…?ここで聞いておかないと不安で集中できないざんす」
「もしオレがおどれに勝ったら…一つ目の指令は…『人を殺さないこと』やな。
この指令は、オレがおどれに指令を下す回数、猶予が残っているうちは必ず守ってもらうで。
但し、おどれの命に関わることや危険を予測できるような指令は下さへん。
そんな指令下して、指令を達成する前におどれに死なれても敵わんしな。
このギャンブルルームで明言したことは必ず守らねばならんのやから、安心せいや」
「そうざんすか…。 まあ、そういうことなら…」
先ほどのルールをもう一度おさらいし、誓約書も交わした後、自動卓のスイッチを入れる。
サイの出目の大きいほうが先打と決めて互いに振り、初戦の先打は村岡に決まる。
村岡が右の山の真ん中あたりから一枚捲った。ドラ表示牌は一萬。ドラは二萬…!
「じゃあ…始めるざんすよ…!」
手元の三分砂時計を返し、いざスタート…!
村岡の手牌:
二萬、二萬、三萬、三萬、四萬、四萬、伍萬、六萬、八萬、八萬、中、中、中
(一-四-七萬 三面待ち)
捨牌:一、三、六、九萬、 1、2、2、4、6、8ピン、 一、三、三、四、七、九索、 南、白、白、白、發
高目は四萬-七萬> 立直、中、混一、一盃口、ドラ2で8飜(倍満)
安目は一萬> 立直、中、混一、ドラ2で7飜(跳満)
(倍満の武器狙いだから、できれば一萬でなく四-七萬で和了りたいざんす。
いや、待てよ…この捨牌候補の一萬…『保険』に使えるざんす…!)
村岡は、原田が手牌に集中しているのを見計らい、そっと自分の両隣の山…、
その一番右端の上ヅモと、自分の捨牌の一萬とをすり替える。
(これで、延長戦…十八歩目に突入した場合、先打のワシが真っ先に和了れるざんす!
メンゼンツモ上がりで一飜増えるから、8飜…!倍満にもなるっ…!)
捨牌候補としては、フリテンになるため、捨てられないお荷物の一萬。それを最高の形で仕込めた。
その上、すり替えで代わりに引いてきたのが4枚目の白…!
国士以外振り込むことのない4枚目の字牌…!
(うひょっ…!うひょっ…!運気はワシのほうに向いてるざんすね…!)
さて、三分の砂時計も砂が全部落ちきり、いよいよ変則麻雀十七歩、開戦である。
原田の手牌:
二萬、二萬、1ピン、1ピン、1ピン、8ピン、8ピン、8ピン、九索、九索、九索、發、發
捨牌:四、伍、伍、七、七萬、 2、3、4、5、6、6、9ピン、 一、二、伍、伍、七、七索、 南、南、北
(二萬-發 シャボ待ち)
二萬で和了>立直、三暗刻、対々、ドラ3で8萬(倍満)
發で和了> 立直、發、三暗刻、対々、ドラ2で8萬(倍満)
(※シャボ待ちでロン和了なので、十七歩目までは四暗刻の目はない。)
一巡目、村岡は白切り立直…!原田は南を出し、立直…!
二巡目から九巡目までの流れ。
村岡、白、白、白、南、2ピン、2ピン、4ピン、6ピン切り。
原田、南、北、9ピン、2ピン、3ピン、4ピン、6ピン、6ピン切り。優位は村岡…!
そして十巡目。村岡、初めて安牌尽きる…!
(今までの打牌を見てると、ピンフはかなり可能性が薄い…!そして、發は切りにくい…!)
村岡、8ピン切り。
ここで原田、動く…!
「その8ピン、カン…!」
晒せば三暗刻の役を失い、手役のおおよそが知られてしまうにも関わらず、原田はカンをした。
まず5ピンを切り、そして新たなドラ表示…。
原田、腰を上げて村岡の近くの山まで手を伸ばす。
「ええ!?な、なんでわざわざこっちまで手を伸ばすざんす!?」
「単なる気まぐれや…。気にすんな…!」
原田がドラ表示牌としてひっくり返したところ…それはあろうことか村岡が山に仕込んだ牌…!
村岡の当たり牌である一萬っ…!
「おお、またドラ表示牌が一萬やな。物騒なドラや…!」
実は二萬は二人とも2枚ずつ持っている…!互いにドラ4…!
だが、村岡は喜べない…!せっかく仕込んでいた牌をドラ表示牌としてめくられてしまったのだ。
(気まぐれ…?ですと…?不自然ざんすよ…。今のめくりは…。
おかしいざんす…。
これはもしかして、封じられたか…?ワシが当たり牌を山に仕込んでいたことに気がついていて…!)
もしそうだとしたら、重大な問題がある。『当たり牌』だと察していたのなら…!
待ちの一つが一萬だと、原田に知られてしまったのだ。
(なんてことっ…!最悪ざんす…!もしそうならこの待ち… 一-四-七萬など、一番警戒されるところ…!
大して、あっちはおそらく対々をやっている…!読みにくいところで待てる単騎待ちかシャボ…!
満貫手と考えると、飜牌やドラ絡みか…?
奴はこっちの仕込みを封じきり、その上、こっちの待ちまで見通しているっ…!
ぐううっ…!しくじったざんす…!こうなったら…仕方ない…十八歩目からは手替わりができる…!
十七歩を走破し、それに賭けるしかないざんすっ…!)
十一巡目、村岡、動揺を必死に押し隠し、1ピンを切ろうとするが…
その刹那、走った嫌な予感…!旋律…! とっさに九萬切りにチェンジ…!
そのチェンジ、目立たないがファインプレー…!
原田の手牌には1ピンの暗刻…!もし切っていれば、再びカンをされていた…!
原田の戦略は、カンをしてできるだけドラを増やすこと…。
この場を、そして村岡をプレッシャーで圧すること…!
原田、村岡の九萬切りを見ても、マンズを切ろうなどとは考えない。
村岡の察するとおり、原田は、知っていたっ…!村岡の牌のすり替え…山への積み込みを…!
理牌に集中するフリをして、警戒していた…!視界の端で見ていた…!
(もうピンズは捨牌にあらへん。マンズかソーズ、どちらかを切っていかな……!)
待ちが一萬だったことを考えると、チャンタ手もなくはない。
村岡が武器を一番欲しがっていたことを考えると、ドラに、飜牌、混一、一通や一盃口を絡めて
倍満まで狙ってきそうだが…。
原田、長考の末、伍索切り。運良く通る。
十二巡目、村岡、原田のソーズ切りを見て、確証なき三索切り。原田、伍索切り。
十三巡目、村岡、三索切り。原田、二索切り。
十四巡目、村岡、悩む…!原田の待ちが絞りきれない…!
…実際は、發さえ振らなければ、二萬は村岡が二枚手牌に使っているので、シャボの片方の待ちはカラ…!
原田にとっては初めての十七歩で、發とドラで待つという無茶をしてしまっているのだ。
だが、そんなこと村岡には知る由もない。
手牌に二つある三萬…捨牌候補の、三つ目の三萬…これなら通る…!
村岡、三萬切り。原田、一索切り。
十五巡目、村岡、現物に喜んで一索切り。あと3巡…!
原田、七索切り。
十六巡目、村岡、またも大喜びで七索切り。あと2巡…!
原田、七索切り。
十七巡目。とうとう十七歩目まで来た。村岡、悩む。
ここまで来たら万一にも振り込む訳にはいかない。
そして、これ以上相手にカンをされるのも恐ろしい。今回、十七巡目は流局にならないのだ。
相手の戦略…。カンによりドラを増やし、プレッシャーを与える戦略…それが恐ろしい。
(ここは…原田の待ちをシャボと決め付けた場合、まだましなのはワシが手牌でも一枚持っている六萬か…?)
ふと六萬に指をかけた…、そのとき。
村岡にある閃き…!天啓っ…!!!
(原田には、ワシが手持ちのうちの一萬を山に積み込んでいたことを知られていて、それを逆手にとられたざんす…!
ということは、ワシが二三萬を持っていることはすでにバレバレざんす…!
となると、一萬で和了った場合、ワシが四萬も持っていると考えられていたら、
浮いた四萬とくっつくために手牌の中に五萬と六萬は持ってなきゃならんざんす。
奴がワシの和了を一萬単騎で待っているとは考えないだろうから、おそらくそこまでは洞察されてるざんす。
だから…まず一-四-七萬待ちは100%出ない…。 だが、同じマンズでも、伍萬は警戒されにくい…!)
なら…切り替えてしまえばいいっ…! 伍萬待ちに…!
この捨牌候補の六萬を使って…!
「ん~~~~~…! 来ました…! 今… 天から伝令っ………!」
「は…?」
村岡が突然、電波なことを言い出すので、さすがの原田も呆気にとられるっ……!
「何や…?」
「天下ったっ…! 神が…! 授かった…! ある直感……!!」
「はあ………?」
「即ち…切るのは…!これか…? これっ…!」
村岡はダミーの捨牌、左手に九索と、右手に六萬を手に取った。
その右手の中には、手牌の端からこっそりゲットしてきた中…!三枚あるうちの一枚の中…!
「どっちざんすかね………?
まあ……こっちは……切れないざんす…!さすがに……!」
村岡、左手と右手を合わせ、包み込むように牌を持ち、ダミーの九索をゆっくりと捨牌候補の中に戻した。
すかさず打牌っ………! 打牌は中…!
自分が三枚持っているので、相手が待つなら単騎待ちにならざるを得ない、比較的安牌と思われる中…!
右手は流れるように手牌に添えられ、入城させる…!六萬をっ…!
これで新テンパイ成立…!
変化した村岡の手牌:
二萬、二萬、三萬、三萬、四萬、四萬、伍萬、六萬、六萬、八萬、八萬、中、中
立直、混一、七対子、ドラ4っ…! 倍満…!! 伍萬待ち…!
これで村岡、十七歩は走破…!
あとは、祈るだけ…!相手の手牌の中に、伍萬があることを…!
そして、持っている…!原田の残り捨牌、四萬、伍萬、伍萬、七萬、七萬…!
一-四-七萬待ちを知る者なら、打ち込まざるを得ない状況っ…!
村岡、嗅ぎ付けてきた…! 伍萬をっ…! その執拗…異様な執念で…!
原田は、しばらく考え、捨牌候補の五枚の中から一枚を選択し、ゆっくりと打牌した。
打牌したのは………………!
四萬……………!
「なっ………!!!」
村岡は大声を上げそうになるのを懸命にこらえた。
「なんや?ロンか…?」
「ぐっ…………」
「はっきり言えっ…! 通ったんか、通ってないんかっ…!」
「ぐぐぐっ……………!」
原田は、村岡のおかしな動きを完全に看破していたわけではなかった。
ただ、「何かされた」ということだけは感づいていた。
(もしここでイカサマをするとしたら、切り返しか…?)
待ち牌を変更したと仮定するならば、確実に言えることが一つある。
元々待ち牌であったものが、待ち牌でなくなったということだ。
つまり、100%が0%に移行した…!一番の危険牌が、一番の安全牌へと変貌っ…!
…ハッタリかも知れない。
待ち牌を変えた“素振り”を見せただけで、こちらの動揺を誘ったのかもしれない。そうも考えた。
だが、原田は賭けた。己の直感…今までの修羅場…乱戦を潜ってきた己の感性に賭けたっ…!
そして…賭けに勝ったのだ。
「クク……通ったみたいやな」
「ううっ……………!」
「じゃあ、ステージBへ移行や…。村岡、おどれからや」
村岡、山を見渡す。
ここで伍萬をツモって来れたら、勝ちっ…!
村岡、内なる神に祈りながら、ツモ…!
が…駄目っ…! 引いてきたのは…ここで七萬…!よりによって七萬…!
結局、裏目…! 墓穴…! 圧倒的墓穴…!
「くっ…!」
七萬を叩き切りながら、村岡は歯軋りをする。
「クク…。神がどうとか言っとったな…?」
「ううっ…それが何ざんすかっ…!?」
「実はな…、オレにも天下って来たんや、たった今…!」
「は……?」
村岡は驚愕して原田の顔をしばらく見つめた。
原田がニヤニヤと笑っているので、村岡は茶化されていると思い、怒りを隠そうともせず不機嫌な声を出す。
「…神なんて…そんなもんいないざんすっ…!」
「まあ、そう言うなや。信じとったもんは最後まで信じてやらんとな…!」
原田はおもむろに、自分の右側の山、その一番手前に手を伸ばす。
「ほれ…神のご加護やっ…!ツモ…!」
ツモってきたのは發…!手牌を倒すっ…!
「立直、發、三暗刻、対々、ドラ4…! 裏は乗らんが…倍満やっ…!」
呆然としていた村岡………だが、すぐにあることに気がつく。
(あっ…!あああああああっ………!)
同じことをやられていたっ…!
つまり…村岡が右端の山に牌を仕込んでいたのを見抜かれていただけではなく、
原田も仕込んでいたのだ…!山の中に当たり牌をっ…!
そもそも…、サマをすることを念頭に入れて発案した新ルールとか、
武器を渡すことをちらつかせた『倍満縛り』で、こちらの手を特定しやすくしたとか、
考えてみれば、全てが相手の策略…!謀略…! 手の中で踊らされていたのだっ…!
悪党っ…!なんたる悪党………!
◆
「…で、まず一つ目の指令やが…」
「ぐううっ…!あががっ…ぎっ…げっ…ごっ…!」
ギャンブルルームを出た後、原田が村岡に話しかけた。
村岡は、よっぽど負けたのが悔しいのだろう、目を白黒させて奇声を放っていた。
「おい、コラ…撃たれとうなかったら話を聞けや…」
原田が拳銃を構えると、村岡がひっと声を上げて後ずさった。
「こ…こ…ころ…殺しはっ…!」
「ああ、誓約書があるから殺すことはできへんなぁ…? だから、撃たれても死なない部位やったらどうや…?
例えば…腕とか…足とかな………!」
「すっ…すいませんっ…!!」
村岡は涙目でその場にひれ伏した。
「わ…ワシは絶対服従であります…!どうか…どうか怒りをお静め下さい…!」
「……フン。じゃあまずは一つ目の指令や。指令を下し終わって、おどれを開放するまでは、人を殺さないことや」
「し、しかし、相手が一方的に襲ってくることもあるざんす…!そんなときは…?」
「正当防衛は許したるわ」
村岡はほっと胸をなでおろす。
「ただ、正当防衛かどうかを見極めるんは、この場合、オレやなくて、主催サイドやろな。
主催が正当防衛と認めなきゃ首輪が爆発するんやろ。せいぜい行動に気をつけることや……」
村岡の顔はみるみる真っ青になった。
(さて…指令はあと二つ……何を命令すりゃあいいやろな……)
すっかりしょげかえった村岡を連れて歩きながら、原田は考えを巡らせていた。
***
【D-2/発電所付近/夜】
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧、不明支給品0~2、支給品一式
[所持金]:1300万
[思考]:生還、森田と合流、見所のある人物を探す 平山を尾行する
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※次の定時放送までに原田とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創 首輪越しにEカードの耳用針具を装着中 やや精神消耗
[道具]:参加者名簿 不明支給品0~2(確認済み) 通常支給品
[所持金]:1000万円
[思考]: ひろゆきとの待ち合わせ場所に急ぐ
引き続き利根川の命令には従うが、逃れる術も積極的に探る
※ひろゆきと21時にアトラクションゾーン事務所(C-4)で落ち合う約束をしました。
※利根川に死なれたと思われていることを知りません。
【E-2/小道沿いのギャンブルルーム内/夜】
【原田克美】
[状態]:健康
[道具]:拳銃 支給品一式
[所持金]:700万円
[思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す ギャンブルで手駒を集める 村岡に指令を出す
※首輪に似た拘束具が以前にも使われていたと考えています。
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※次の定時放送までに銀二とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
※2日目夕方にE-4にて赤木しげるに再会する約束をしました。
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。原田も村岡を殺すことはできません。
※村岡にあと2回まで命令することができます。
ただし、村岡の命に関わることや危険が及ぶような命令はできません。
【村岡隆】
[状態]:健康 意気消沈
[道具]:なし
[所持金]:400万円
[思考]:ひろゆきとカイジと原田に復讐したい 今は原田に服従する 生還する
※村岡の誓約書を持つ井川ひろゆきを殺すことはできません。
※村岡の誓約書を持つ原田を殺すことはできません。
※原田の指令を3回まで引き受けるはめになりました。
3回分の命令が終わり、開放されるまで、正当防衛以外の人殺しはできません。
|079:[[天恵]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|081:[[獣の儀式]]|
|067:[[銀と銀と金と銀]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|068:[[計画]]|
|067:[[銀と銀と金と銀]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:平井銀二|087:[[関係]]|
|067:[[銀と銀と金と銀]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:平山幸雄|087:[[関係]]|
|067:[[銀と銀と金と銀]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:原田克美|102:[[百に一つ]]|
|079:[[天恵]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:村岡隆|102:[[百に一つ]]|
**十八歩 ◆6lu8FNGFaw氏
平山は焦っていた。
腕時計の針は19時半を少し過ぎたところを差している。
21時にひろゆきとC-4の事務所で待ち合わせをしているのだ。
何とかして切り抜けたい…!この閉塞状態…! 首根っこを2匹の虎に押さえられている、この状況を…!
平山の傍で、原田と銀二はこれからの行動について話し合っていた。
完全に蚊帳の外にされている平山は、さっさとここを抜けてひろゆきとの待ち合わせ場所に向かいたかった。
(いいよな…? 抜けても…。 だって、もうオレが話せる事は全て話してしまった…!
オレを殺す気は無い様だし…今のうちに…!)
平山は、音を立てぬようそっと後ずさり、二人から距離をとった。
「どこへ行くんですか…?」
銀二は平山の様子を見て取り、声をかけた。平山の体が跳ね上がる。
「い…いや…もう…オレがアンタらに話せる事は全て話してしまったし、いいだろう…?
そろそろ開放してくれてもよ…!
それともアンタらまで、利根川のようににオレを脅して言うことを聞かせるつもりなのかっ…!」
平山は半ばヤケになって言った。
「…他にも約束がおありで?」
「ぐっ… い、いや…」
銀二は端的に指摘した。平山の顔が強張る。
「……どなたと?」
「……誰だっていいだろう…!」
平山は頑として突っぱねた。
この二人は…利根川が自分に向ける視線と同じ視線で自分を見ている。三下、格下…手駒…!
こいつらに興味を持たれ、ひろゆきとの待ち合わせ場所までついて来られたら、たまらない。
ひろゆきにまで迷惑はかけられない。
たとえ相手の心象を悪くし、自分の身を危険に晒したとしても、譲れない思いが今の平山にはあった。
「そうですか…。 なら、行っていいですよ。」
銀二はあっさりと平山を解放する。平山は面食らった。
「もうあなたから得られる情報もないことですし…。どうぞご自由に…」
冷めた目で一瞥をくれる。平山は苦虫をかみ潰したような顔をし、数歩後ずさりをしてから背を向け、走り始めた。
「ええんか?」
原田は銀二に声をかける。
「フフ…。 このまま逃がすつもりはありません…。
平山が合流しようとしているのは、先程の庇うそぶりから見て間違いなく『カイジ』或いは『ひろゆき』…。
私は平山を追います…。 原田さんはどうします?」
「そうやな…。 手駒は多いほうがええよな…?」
原田は急に小声になった。一瞬だけ目線を右に走らせ、口の端を吊り上げる。銀二は微笑み、小声で返す。
「そうですね…では、次の定時放送までにバッティングセンター前で如何です」
「それだけの時間があれば十分や…」
「では…」
「ああ」
短く別れを告げ、銀二は平山の向かった方向へと走り去った。
「さて…」
原田は一呼吸置き、手元の拳銃を握りなおし、もう一度ふっと息を吐いてから、右を向いて大声を張り上げた。
「そこの茂みに隠れとる奴…出て来い!!」
「ぐわっ…!」
蛙を踏み潰したような声を上げ、ガサガサっと葉が擦れ合う音が聞こえた。
「い、いやあ、すいません…!こそこそ隠れたりして、怪しく思われても仕方ないざんす…!
でも、見てください…!ワシに敵意はないざんすよ…!これこの通りっ…!」
その男…村岡は、原田に負けず劣らずの大声で、茂みから飛び出し、手を大仰に広げて見せた。
天に500万のチップをもらった後、方針が合わないなどとゴネて、見切りをつけて別れてきたのだった。
(奴と行動してたら、命がいくつあっても足りないざんす。ここは堅実に、ギャンブルで物資調達ざんすよ…!)
「フン…。おどれ、名前は」
「村岡…村岡隆と申しますっ…! ワシはあなた様のことは知っているざんすよ…!
関西最大規模の暴力団組長…原田克美様っ…! ざんしょ…?」
原田は返事を返さず、村岡を睨みつけた。村岡は、一瞬怯んだ様子を見せたものの、満面の笑みでやり過ごす。
「そんなに見つめられると緊張するざんす。やはり組長ともなると、貫禄が違うざんすね…!
この村岡隆、普段は裏カジノのオーナーを勤めておりますが、やってくるのは博徒とは名ばかりの腰抜けばかり…!
そういう腰抜けとギャンブルなぞやることもありますが、物足りなく感じておりましてね…!」
村岡は、原田を立て、遜りつつも決して自信のない様子を見せない。
また、そうした自分を演出することに必死になっていた。
村岡は直感的に察していた。先程から覗いていて、平山という男がいいようにあしらわれているのを見ていた。
舐められたら死ぬのだ。プライドとか、そういうものはどうでもよろしい。犬にでも食わせておけばいい。
強者には従え。だが、けして舐められてはいけない。村岡はそれを身をもって知っていた。
「ギャンブルか…」
原田が話題に食いついて来たのを逃すものかと、村岡、弾丸のように言葉を口から弾き出す。
「ええ…!この島では、死と隣り合わせ…!極限の状態でギャンブルに勤しむことが出来る…!
燃えたいんざんすよ…!強烈に心がギャンブルを欲しているんざんす…!
原田さんは、どうざんすか…?
一見したところ、殺しでこの島を抜け出そうとしているようには見えないざんすが…?」
村岡は原田の顔色を伺った。
ギャンブルで燃えるだの何だのはいつもの口八丁だが、村岡は是が非でも原田をギャンブルに誘いたかったのだ。
ギャンブルルームの中でなら、たとえやくざ相手でも対等に渡り合える…!
今の自分の所持品が500万のチップのみだとしてもっ…!
「なんでわかる…?そないなこと」
「え…?」
「オレが殺しに乗ってないやなんて、どうしてそないなことがわかるんや…?」
原田は獰猛な笑みを浮かべた。拳銃を持つ手は下げたままだが、その手首に力がこもる。村岡の顔が引きつった。
「まあええ…。要はおどれ、オレとギャンブルをしたい…。そういうことなんやろが。
回りくどい言い方すんなや…裏になんかあるんかと却って勘繰ってまう…そう思わへんか…?」
「そ、そ、そうざんすねっ…!いやいや失礼したざんす…!
そう…原田さんの言う通りっ…! ワシは原田さんのようなお人とギャンブルがしたいんざんすっ…!」
調子を合わせてきた村岡に、原田は苦笑した。
(この男…食えん奴やな。隙あらば自分のペースに巻き込もうと画策してきやがる。小物やが…。
いくら脅しをかけても崩れんところは、なかなか…。伊達に“裏”カジノの経営者ではないってことや…。)
原田は村岡の提案に乗った。
南下しながらギャンブルルームを探している間、村岡はこの島に来てから今までの経緯を、(主観たっぷりに)話しまくった。
「…というわけざんす!このひろゆきって奴は見た目は普通の男ざんすが、
その中身は卑怯、卑劣、悪辣、悪鬼…! とんだ食わせ物ざんす…!」
「…ほう、そうかい…ひろゆきって奴がな…」
「そうざんす!原田さんも気をつけたほうがいいざんすよ…!」
「クク…そうやな…気をつけるとするわ…。」
村岡は、参加者の情報と称して、自分が出会った人物をこきおろしていた。
特に「カイジ」と「ひろゆき」には(村岡曰く)さんざんな目に遭わされたらしく、特別恨みがあるらしい。
原田はあえて、ひろゆきと自分が既知の間柄だということを村岡に隠しておいた。
「しかし、そのひろゆきって奴に書かされたっていう誓約書…それはいいアイデアやな…。
村岡、オレとおどれもその誓約書、取り交わしてみるか?」
「ええっ…?」
村岡がポカンとした顔をしているので、原田は続けた。
「ギャンブルルームの中で交わした約束なら、反故にできないんやろう…?
なら、互いに安全を確保できるその『誓約書』、勝負の前に取り交わしとこうやないか。」
「…そうざんすね…!いいアイデアざんす…!」
村岡は返事をしながら、内心喝采をあげていた。
(先に言い出してくれて助かるざんす…!どうやってこっちから切り出したものかと考えていたざんすよっ…!)
「で、今からやるギャンブルざんずが…」
「そうやな、おどれ…麻雀はできるんか?」
「麻雀…ですが、麻雀は3人か4人面子がそろわないとできないざんす。それに時間もかかる。
なら…こういうのはどうざんしょ?麻雀のルールを借りはするが、全く別のゲーム…!
別のゲームですが、麻雀の駆け引きや心理戦のコクもある…!
おまけに一局5分から10分で済むざんす!30分100万のギャンブルルームにはまさにうってつけ…!」
「そりゃ面白い…。何ていうゲームなんや?」
「その名は…地雷ゲーム『十七歩』っ…!」
村岡は原田に十七歩のやり方を説明した。
「ほう……面白そうやな。やってみるか…それ…!」
「おおっ、原田さんさすが話が早いっ…!」
村岡の目がギラリと光る。原田はその様子を見逃さなかった。
よほど、その『十七歩』に自信があるのだろう。
「原田さんは麻雀、お強いんざんすよね…?本当は麻雀そのものの方がよかったざんすか…?」
原田の意見を伺うフリをして、村岡が探りを入れてきた。
「いや…昔はそれで鳴らしたこともあるんやが、今はほとんど打たなくなってもうたしな」
原田はあえて弱気な発言をした。このハッタリが村岡にどこまできくかは謎だが。
「ギャンブルルームで賭ける物なんやが…」
「…わしはこの通り、支給品を全て奪われて素寒貧ざんすよ。チップの500万以外、叩いてもホコリ一つ出んざんす」
「そうやな…ならアンタには、体張ってもらうしかあらへんな」
原田がさらっと恐ろしいことを言い、村岡はまた顔を強張らせた。
「何、命かけろなんて言わへん。誓約書のこともあるしな…。
もしオレが勝ったら、おどれにはオレの下について働いてもらう。但し、上限をつけたる。
満貫なら指令を1つ…跳満なら2つまで…ってな。指令の回数を使い切ったら開放したるわ」
「……それにしても、どんな指令かあらかじめ教えておいて欲しいざんす」
「せやったらゲームの直前に、ギャンブルルームの中で決めようや」
村岡は渋い顔をした。何をお願いされるのかと不安で仕方ないのだろう。
原田は話をそらした。
「おどれが勝ったらオレの支給品をくれたるわ。満貫なら通常支給品、跳満なら手持ちのチップ全額もつける。
倍満なら武器もつける。どうや」
武器。その言葉に村岡は反応する。
「武器…その拳銃をざんすか?」
「そうや」
「い、いいんざんすかっ…?」
「何や不満があるんかい」
「いや、不満などないざんすっ…!全くないざんすっ…!」
E-2の小道沿いにギャンブルルームを見つけ、入り口までたどり着く。
「じゃあ入るざんす。30分でいいざんす」
「ところで、…さっき説明を受けた十七歩なんやが、もう少し面白くなりそうやないか?」
「…と言いますと…・何ざんす?」
「二つルールを追加したいんや。一つは、ドラを増やす可能性を広げるルール。
もう一つは、一局きりで勝負をつけるためのルールや。」
原田が提案した二つのルール。
一つ目のルール。通常十七歩には『カン』がないが、今回はカンを認めて欲しいということ。
カンするにあたって、通常の麻雀とは違う制約を設ける。
・一巡目リーチ後、相手の捨牌からカンできる。暗カン(手牌の中の4枚でカンすること)はなし。
つまり、リーチをかけたのにも関わらず明カンができる。
リーチの役はそのままつく。だが、暗刻を晒すので三暗刻などの役はなくなる。
・カンしても待ち牌が変わらないこと。手役が満貫以上を維持できること。
・カンすると、両側の山から新たにドラ表示牌をめくることができる。カン裏あり。
・カンしたあと、山からツモはしない。よってリンシャンカイホーもなし。
二つ目のルール。
・十七巡目の牌が通れば、通常なら流局、仕切り直しになるが、今回は流局にせず、延長扱いにする。
・十七歩で残った捨牌候補の4枚は手元に伏せ、両端の山から順番に好きなところをツモっていく。
・二枚重ねてある上の牌から取っていく。下の牌は、上の牌でツモれるところが全てなくなってから。
・手替わりあり。
「つまりや、十七歩…ステージAで勝負がつかんかった場合、十八歩目、ステージBに移行するんや。
これなら流局でやり直しにならず、30分以内に勝負がつくやろ。
カンのほうは…ドラを増やせる、地雷をちょっと大きい威力にするための味付けみたいなもんや」
「う~~~~ん……」
村岡は腕を組んで考え込む。急に提案された新ルール…。
「いいやろう?基本は十七歩と変わらん。カンできればやが…ドラが増えるというスリルもある。
勝負は、より熱くなれるほうがええ…。そうやろ…?」
結局、村岡、この提案を承諾…!
黒服にチップを払い、二人はギャンブルルームの中へ…!
向かい合って座り、ギャンブルで勝った場合の賭ける物について話をする。
村岡が原田に勝ったら、満貫なら通常支給品、跳満ならチップ全額も、倍満なら武器も渡す。
原田が村岡に勝ったら、原田の指令を受けて働く。
満貫なら1つ、跳満なら2つ、倍満なら3つ、三倍満なら4つ。(役満は三倍満と同じ扱い)
「で、指令ってどういった内容ざんす…?ここで聞いておかないと不安で集中できないざんす」
「もしオレがおどれに勝ったら…一つ目の指令は…『人を殺さないこと』やな。
この指令は、オレがおどれに指令を下す回数、猶予が残っているうちは必ず守ってもらうで。
但し、おどれの命に関わることや危険を予測できるような指令は下さへん。
そんな指令下して、指令を達成する前におどれに死なれても敵わんしな。
このギャンブルルームで明言したことは必ず守らねばならんのやから、安心せいや」
「そうざんすか…。 まあ、そういうことなら…」
先ほどのルールをもう一度おさらいし、誓約書も交わした後、自動卓のスイッチを入れる。
サイの出目の大きいほうが先打と決めて互いに振り、初戦の先打は村岡に決まる。
村岡が右の山の真ん中あたりから一枚捲った。ドラ表示牌は一萬。ドラは二萬…!
「じゃあ…始めるざんすよ…!」
手元の三分砂時計を返し、いざスタート…!
村岡の手牌:
二萬、二萬、三萬、三萬、四萬、四萬、伍萬、六萬、八萬、八萬、中、中、中
(一-四-七萬 三面待ち)
捨牌:一、三、六、九萬、 1、2、2、4、6、8ピン、 一、三、三、四、七、九索、 南、白、白、白、發
高目は四萬-七萬> 立直、中、混一、一盃口、ドラ2で8飜(倍満)
安目は一萬> 立直、中、混一、ドラ2で7飜(跳満)
(倍満の武器狙いだから、できれば一萬でなく四-七萬で和了りたいざんす。
いや、待てよ…この捨牌候補の一萬…『保険』に使えるざんす…!)
村岡は、原田が手牌に集中しているのを見計らい、そっと自分の両隣の山…、
その一番右端の上ヅモと、自分の捨牌の一萬とをすり替える。
(これで、延長戦…十八歩目に突入した場合、先打のワシが真っ先に和了れるざんす!
メンゼンツモ上がりで一飜増えるから、8飜…!倍満にもなるっ…!)
捨牌候補としては、フリテンになるため、捨てられないお荷物の一萬。それを最高の形で仕込めた。
その上、すり替えで代わりに引いてきたのが4枚目の白…!
国士以外振り込むことのない4枚目の字牌…!
(うひょっ…!うひょっ…!運気はワシのほうに向いてるざんすね…!)
さて、三分の砂時計も砂が全部落ちきり、いよいよ変則麻雀十七歩、開戦である。
原田の手牌:
二萬、二萬、1ピン、1ピン、1ピン、8ピン、8ピン、8ピン、九索、九索、九索、發、發
捨牌:四、伍、伍、七、七萬、 2、3、4、5、6、6、9ピン、 一、二、伍、伍、七、七索、 南、南、北
(二萬-發 シャボ待ち)
二萬で和了>立直、三暗刻、対々、ドラ3で8萬(倍満)
發で和了> 立直、發、三暗刻、対々、ドラ2で8萬(倍満)
(※シャボ待ちでロン和了なので、十七歩目までは四暗刻の目はない。)
一巡目、村岡は白切り立直…!原田は南を出し、立直…!
二巡目から九巡目までの流れ。
村岡、白、白、白、南、2ピン、2ピン、4ピン、6ピン切り。
原田、南、北、9ピン、2ピン、3ピン、4ピン、6ピン、6ピン切り。優位は村岡…!
そして十巡目。村岡、初めて安牌尽きる…!
(今までの打牌を見てると、ピンフはかなり可能性が薄い…!そして、發は切りにくい…!)
村岡、8ピン切り。
ここで原田、動く…!
「その8ピン、カン…!」
晒せば三暗刻の役を失い、手役のおおよそが知られてしまうにも関わらず、原田はカンをした。
まず5ピンを切り、そして新たなドラ表示…。
原田、腰を上げて村岡の近くの山まで手を伸ばす。
「ええ!?な、なんでわざわざこっちまで手を伸ばすざんす!?」
「単なる気まぐれや…。気にすんな…!」
原田がドラ表示牌としてひっくり返したところ…それはあろうことか村岡が山に仕込んだ牌…!
村岡の当たり牌である一萬っ…!
「おお、またドラ表示牌が一萬やな。物騒なドラや…!」
実は二萬は二人とも2枚ずつ持っている…!互いにドラ4…!
だが、村岡は喜べない…!せっかく仕込んでいた牌をドラ表示牌としてめくられてしまったのだ。
(気まぐれ…?ですと…?不自然ざんすよ…。今のめくりは…。
おかしいざんす…。
これはもしかして、封じられたか…?ワシが当たり牌を山に仕込んでいたことに気がついていて…!)
もしそうだとしたら、重大な問題がある。『当たり牌』だと察していたのなら…!
待ちの一つが一萬だと、原田に知られてしまったのだ。
(なんてことっ…!最悪ざんす…!もしそうならこの待ち… 一-四-七萬など、一番警戒されるところ…!
大して、あっちはおそらく対々をやっている…!読みにくいところで待てる単騎待ちかシャボ…!
満貫手と考えると、飜牌やドラ絡みか…?
奴はこっちの仕込みを封じきり、その上、こっちの待ちまで見通しているっ…!
ぐううっ…!しくじったざんす…!こうなったら…仕方ない…十八歩目からは手替わりができる…!
十七歩を走破し、それに賭けるしかないざんすっ…!)
十一巡目、村岡、動揺を必死に押し隠し、1ピンを切ろうとするが…
その刹那、走った嫌な予感…!旋律…! とっさに九萬切りにチェンジ…!
そのチェンジ、目立たないがファインプレー…!
原田の手牌には1ピンの暗刻…!もし切っていれば、再びカンをされていた…!
原田の戦略は、カンをしてできるだけドラを増やすこと…。
この場を、そして村岡をプレッシャーで圧すること…!
原田、村岡の九萬切りを見ても、マンズを切ろうなどとは考えない。
村岡の察するとおり、原田は、知っていたっ…!村岡の牌のすり替え…山への積み込みを…!
理牌に集中するフリをして、警戒していた…!視界の端で見ていた…!
(もうピンズは捨牌にあらへん。マンズかソーズ、どちらかを切っていかな……!)
待ちが一萬だったことを考えると、チャンタ手もなくはない。
村岡が武器を一番欲しがっていたことを考えると、ドラに、飜牌、混一、一通や一盃口を絡めて
倍満まで狙ってきそうだが…。
原田、長考の末、伍索切り。運良く通る。
十二巡目、村岡、原田のソーズ切りを見て、確証なき三索切り。原田、伍索切り。
十三巡目、村岡、三索切り。原田、二索切り。
十四巡目、村岡、悩む…!原田の待ちが絞りきれない…!
…実際は、發さえ振らなければ、二萬は村岡が二枚手牌に使っているので、シャボの片方の待ちはカラ…!
原田にとっては初めての十七歩で、發とドラで待つという無茶をしてしまっているのだ。
だが、そんなこと村岡には知る由もない。
手牌に二つある三萬…捨牌候補の、三つ目の三萬…これなら通る…!
村岡、三萬切り。原田、一索切り。
十五巡目、村岡、現物に喜んで一索切り。あと3巡…!
原田、七索切り。
十六巡目、村岡、またも大喜びで七索切り。あと2巡…!
原田、七索切り。
十七巡目。とうとう十七歩目まで来た。村岡、悩む。
ここまで来たら万一にも振り込む訳にはいかない。
そして、これ以上相手にカンをされるのも恐ろしい。今回、十七巡目は流局にならないのだ。
相手の戦略…。カンによりドラを増やし、プレッシャーを与える戦略…それが恐ろしい。
(ここは…原田の待ちをシャボと決め付けた場合、まだましなのはワシが手牌でも一枚持っている六萬か…?)
ふと六萬に指をかけた…、そのとき。
村岡にある閃き…!天啓っ…!!!
(原田には、ワシが手持ちのうちの一萬を山に積み込んでいたことを知られていて、それを逆手にとられたざんす…!
ということは、ワシが二三萬を持っていることはすでにバレバレざんす…!
となると、一萬で和了った場合、ワシが四萬も持っていると考えられていたら、
浮いた四萬とくっつくために手牌の中に五萬と六萬は持ってなきゃならんざんす。
奴がワシの和了を一萬単騎で待っているとは考えないだろうから、おそらくそこまでは洞察されてるざんす。
だから…まず一-四-七萬待ちは100%出ない…。 だが、同じマンズでも、伍萬は警戒されにくい…!)
なら…切り替えてしまえばいいっ…! 伍萬待ちに…!
この捨牌候補の六萬を使って…!
「ん~~~~~…! 来ました…! 今… 天から伝令っ………!」
「は…?」
村岡が突然、電波なことを言い出すので、さすがの原田も呆気にとられるっ……!
「何や…?」
「天下ったっ…! 神が…! 授かった…! ある直感……!!」
「はあ………?」
「即ち…切るのは…!これか…? これっ…!」
村岡はダミーの捨牌、左手に九索と、右手に六萬を手に取った。
その右手の中には、手牌の端からこっそりゲットしてきた中…!三枚あるうちの一枚の中…!
「どっちざんすかね………?
まあ……こっちは……切れないざんす…!さすがに……!」
村岡、左手と右手を合わせ、包み込むように牌を持ち、ダミーの九索をゆっくりと捨牌候補の中に戻した。
すかさず打牌っ………! 打牌は中…!
自分が三枚持っているので、相手が待つなら単騎待ちにならざるを得ない、比較的安牌と思われる中…!
右手は流れるように手牌に添えられ、入城させる…!六萬をっ…!
これで新テンパイ成立…!
変化した村岡の手牌:
二萬、二萬、三萬、三萬、四萬、四萬、伍萬、六萬、六萬、八萬、八萬、中、中
立直、混一、七対子、ドラ4っ…! 倍満…!! 伍萬待ち…!
これで村岡、十七歩は走破…!
あとは、祈るだけ…!相手の手牌の中に、伍萬があることを…!
そして、持っている…!原田の残り捨牌、四萬、伍萬、伍萬、七萬、七萬…!
一-四-七萬待ちを知る者なら、打ち込まざるを得ない状況っ…!
村岡、嗅ぎ付けてきた…! 伍萬をっ…! その執拗…異様な執念で…!
原田は、しばらく考え、捨牌候補の五枚の中から一枚を選択し、ゆっくりと打牌した。
打牌したのは………………!
四萬……………!
「なっ………!!!」
村岡は大声を上げそうになるのを懸命にこらえた。
「なんや?ロンか…?」
「ぐっ…………」
「はっきり言えっ…! 通ったんか、通ってないんかっ…!」
「ぐぐぐっ……………!」
原田は、村岡のおかしな動きを完全に看破していたわけではなかった。
ただ、「何かされた」ということだけは感づいていた。
(もしここでイカサマをするとしたら、切り返しか…?)
待ち牌を変更したと仮定するならば、確実に言えることが一つある。
元々待ち牌であったものが、待ち牌でなくなったということだ。
つまり、100%が0%に移行した…!一番の危険牌が、一番の安全牌へと変貌っ…!
…ハッタリかも知れない。
待ち牌を変えた“素振り”を見せただけで、こちらの動揺を誘ったのかもしれない。そうも考えた。
だが、原田は賭けた。己の直感…今までの修羅場…乱戦を潜ってきた己の感性に賭けたっ…!
そして…賭けに勝ったのだ。
「クク……通ったみたいやな」
「ううっ……………!」
「じゃあ、ステージBへ移行や…。村岡、おどれからや」
村岡、山を見渡す。
ここで伍萬をツモって来れたら、勝ちっ…!
村岡、内なる神に祈りながら、ツモ…!
が…駄目っ…! 引いてきたのは…ここで七萬…!よりによって七萬…!
結局、裏目…! 墓穴…! 圧倒的墓穴…!
「くっ…!」
七萬を叩き切りながら、村岡は歯軋りをする。
「クク…。神がどうとか言っとったな…?」
「ううっ…それが何ざんすかっ…!?」
「実はな…、オレにも天下って来たんや、たった今…!」
「は……?」
村岡は驚愕して原田の顔をしばらく見つめた。
原田がニヤニヤと笑っているので、村岡は茶化されていると思い、怒りを隠そうともせず不機嫌な声を出す。
「…神なんて…そんなもんいないざんすっ…!」
「まあ、そう言うなや。信じとったもんは最後まで信じてやらんとな…!」
原田はおもむろに、自分の右側の山、その一番手前に手を伸ばす。
「ほれ…神のご加護やっ…!ツモ…!」
ツモってきたのは發…!手牌を倒すっ…!
「立直、發、三暗刻、対々、ドラ4…! 裏は乗らんが…倍満やっ…!」
呆然としていた村岡………だが、すぐにあることに気がつく。
(あっ…!あああああああっ………!)
同じことをやられていたっ…!
つまり…村岡が右端の山に牌を仕込んでいたのを見抜かれていただけではなく、
原田も仕込んでいたのだ…!山の中に当たり牌をっ…!
そもそも…、サマをすることを念頭に入れて発案した新ルールとか、
武器を渡すことをちらつかせた『倍満縛り』で、こちらの手を特定しやすくしたとか、
考えてみれば、全てが相手の策略…!謀略…! 手の中で踊らされていたのだっ…!
悪党っ…!なんたる悪党………!
◆
「…で、まず一つ目の指令やが…」
「ぐううっ…!あががっ…ぎっ…げっ…ごっ…!」
ギャンブルルームの出口付近で、原田が村岡に話しかけた。
村岡は、よっぽど負けたのが悔しいのだろう、目を白黒させて奇声を放っていた。
「おい、コラ…撃たれとうなかったら話を聞けや…」
原田が拳銃を構えると、村岡がひっと声を上げて後ずさった。
「こ…こ…ころ…殺しはっ…!」
「ああ、誓約書があるから殺すことはできへんなぁ…? だから、撃たれても死なない部位やったらどうや…?
例えば…腕とか…足とかな………!」
「すっ…すいませんっ…!!」
村岡は涙目でその場にひれ伏した。
「わ…ワシは絶対服従であります…!どうか…どうか怒りをお静め下さい…!」
「……フン。じゃあまずは一つ目の指令や。指令を下し終わって、おどれを開放するまでは、人を殺さないことや」
「し、しかし、相手が一方的に襲ってくることもあるざんす…!そんなときは…?」
「正当防衛は許したるわ」
村岡はほっと胸をなでおろす。
「ただ、正当防衛かどうかを見極めるんは、この場合、オレやなくて、主催サイドやろな。
主催が正当防衛と認めなきゃ首輪が爆発するんやろ。せいぜい行動に気をつけることや……」
村岡の顔はみるみる真っ青になった。
(さて…指令はあと二つ……何を命令すりゃあいいやろな……)
すっかりしょげかえった村岡を連れて歩きながら、原田は考えを巡らせていた。
***
【D-2/発電所付近/夜】
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧、不明支給品0~2、支給品一式
[所持金]:1300万
[思考]:生還、森田と合流、見所のある人物を探す 平山を尾行する
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※次の定時放送までに原田とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創 首輪越しにEカードの耳用針具を装着中 やや精神消耗
[道具]:参加者名簿 不明支給品0~2(確認済み) 通常支給品
[所持金]:1000万円
[思考]: ひろゆきとの待ち合わせ場所に急ぐ
引き続き利根川の命令には従うが、逃れる術も積極的に探る
※ひろゆきと21時にアトラクションゾーン事務所(C-4)で落ち合う約束をしました。
※利根川に死なれたと思われていることを知りません。
【E-2/小道沿いのギャンブルルーム内/夜】
【原田克美】
[状態]:健康
[道具]:拳銃 支給品一式
[所持金]:700万円
[思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す ギャンブルで手駒を集める 村岡に指令を出す
※首輪に似た拘束具が以前にも使われていたと考えています。
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※次の定時放送までに銀二とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
※2日目夕方にE-4にて赤木しげるに再会する約束をしました。
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。原田も村岡を殺すことはできません。
※村岡にあと2回まで命令することができます。
ただし、村岡の命に関わることや危険が及ぶような命令はできません。
【村岡隆】
[状態]:健康 意気消沈
[道具]:なし
[所持金]:400万円
[思考]:ひろゆきとカイジと原田に復讐したい 今は原田に服従する 生還する
※村岡の誓約書を持つ井川ひろゆきを殺すことはできません。
※村岡の誓約書を持つ原田を殺すことはできません。
※原田の指令を3回まで引き受けるはめになりました。
3回分の命令が終わり、開放されるまで、正当防衛以外の人殺しはできません。
|079:[[天恵]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|081:[[獣の儀式]]|
|067:[[銀と銀と金と銀]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|068:[[計画]]|
|067:[[銀と銀と金と銀]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:平井銀二|087:[[関係]]|
|067:[[銀と銀と金と銀]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:平山幸雄|087:[[関係]]|
|067:[[銀と銀と金と銀]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:原田克美|102:[[百に一つ]]|
|079:[[天恵]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:村岡隆|102:[[百に一つ]]|
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