「獣の儀式」(2010/04/23 (金) 23:14:29) の最新版変更点
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**獣の儀式 ◆uBMOCQkEHY氏
沙織はひたすら林の中――東へ走っていた。
周囲は月明かりを遮るような木々に、足に絡みつくように生い茂る雑草。
昼間であっても、足を踏み入れることを躊躇するような場所である。
それでも沙織は走っていた。
沙織が走る理由――それはこれまで行動を共にしていたカイジを裏切ったからである。
二人とも、最終目的はゲームの脱出であるが、沙織は棄権費用を集める方法なのに対して、
カイジは仲間を集い、ゲームの転覆を目論んでいた。
現に、平山幸雄、赤木しげるの協力を得る約束を結び、カイジの計画は少しずつだが、軌道に乗り始めていた。
しかし、カイジの計画が進むたびに、沙織の中で、
自分の目的がどこか遠ざかっていく歯痒さが蕁麻疹のように広がっていった。
勿論、カイジとの関係に見切りをつけた方が良いのではという思いは何度も頭をかすめていた。
それでも、カイジから離れなかったのは、夕方、彼らを襲った殺人快楽者――有賀研二のような人物に遭遇する恐怖、
そして・・・
『主催者の言っていることは信用するな・・・!棄権の話も嘘かもしれない・・・!』
道中、カイジが何度も口を酸っぱくする位、繰り返してきた言葉である。
これらのことが沙織の判断を先延ばしにしていた。
しかし、事態は大きく急転した。
それをもたらした要因は大きく分けて二つ。
一つ目の要因――有賀を殺したことにより、サブマシンガンウージー、防弾ヘルメット、6800万円を手に入れたこと。
この出来事により、沙織は身を守るための強力な武器、棄権費用に手が届く確信が持てるような大金を手に入れた。
二つ目の要因――ギャンブルルームで確認した黒服の――
『一億円分のチップでまず申請を行う・・・首輪はその後、即座に解除される』
『我々は嘘はつかない』
という言葉。
これで、カイジの警告は杞憂であったことが判明した。
これからゲームで生き延び、脱出するための条件は満たした。
後はどうやってカイジから離れるかであるが、その機会は意外と早く訪れた。
井川ひろゆきとの麻雀勝負を行うことが決まった。
その際、負けた際のリスクを最小限に抑えるための策略
――井川ひろゆきの隙をついて逃げ出し、後で合流する――を立てた。
そして、カイジの荷物――ボウガンと700万円を預けられた瞬間、彼女の中の何者かが囁いた。
『コレデ・・・逃ゲ出セル・・・!』
カイジの旗色が悪くなった以降の記憶はない。
気づいたら、林の中を走っていた。
なぜ、林の中を選んだのかは、本人自身、明確に理由を把握していないが、
カイジから身を隠せる場所へ移動したかったというのが、根本だろう。
カイジを裏切ったという事実を自分自身から隠したかったという要因もあったかもしれないが・・・。
とにかく今の彼女には冷静さはなく、逃げたい、あとには引けないという単語ばかりが頭の中を支配していた。
そんな彼女に思考を取り戻させたのは、林にこだました、耳障りな甲高い音だった。
「そういえば・・・ここは・・・どこなの?」
沙織はしゃがみ込むと、地面に降ろしたディバックから地図とコンパスを取り出し位置を確認する。
「これから・・・どこへ行こうかしら・・・」
沙織は右――北へ目線を向けた。
地図で確認すると、この先は先程まで沙織がいたアトラクションゾーンである。
夕方、有賀に襲われたことが記憶から蘇る。
飛び散る鮮血、乾いた鉄のような血の匂い。
沙織に警告するかのように、体がぶるっと震える。
「やっぱり・・・南へ・・・」
その時、風が南から北へ吹きぬけた。
湿った草の匂いが鼻腔から体内へ吸い込まれる。
「えっ・・・」
沙織は匂いに違和感を覚えた。
草の匂いもあるが、それに隠れながらも自己主張するかのように、乾いた鉄の匂い
――有賀を殺した時に鼻腔に吸い込んだ血の匂いが含まれていた。
「ま・・・まさか・・・」
沙織は左――南へ顔を向けた。
そこに人影が立っていた。
「だ・・・誰なのよ!」
沙織は立ち上がると、サブマシンガンウージーをその人物へ構えた。
沙織とその人物の距離はだいたい5メートルぐらいである。
沙織は地図を確認するため、林の中でも比較的月明かりが差し込む場所を選んでいる。
そのため、5メートルぐらいであれば、目を凝らせば、
人物の顔ぐらいはおぼろげに認識できるはずであった。
しかし、足元がわずかに認識できるくらいで、
肝心の顔が分からない――上半身が闇に溶け込んで存在しないのである。
「誰よっ・・・出てきなさいよっ・・・!」
沙織は泣き叫ぶように威嚇する。
「そんな持ち方じゃ・・・人・・・殺せないよ・・・」
足元がわずかに動いた。
一歩、一歩、人物は沙織に近づいていく。
白黒のテレビ画面がカラー画面に変化するかのように、人物の全体像が沙織の前に浮かび上がる。
「あっ・・・」
沙織の思考は閃光が弾けたように白くなった。
なぜという疑問すら沸く余裕がない。
沙織の目の前に立っていた人物、それは沙織がその手で殺害した有賀研二であった。
浮かび上がる有賀の姿は、サブマシンガンウージーを肩に背負い、
防弾ヘルメットをかぶっているという初めて沙織たちの前に現れた姿そのものであったが、
唯一違うのは左目が潰れ、そこから涙を流しているかのように、血が滴っていることだ。
「君は人を殺す楽しみを知らない・・・怯えている・・・だから、殺せない・・・」
有賀はククク・・・と、喜劇を楽しんでいるような笑いを浮かべながら、更に距離を縮める。
「だから・・・僕が教えてあげる・・・殺し方・・・」
「いやぁ・・・」
事態を飲み込めない沙織にある僅かな思考が首輪の警告音のように、脳内に響き渡る。
――逃げなくちゃっ・・・!
沙織は右足を後ろへ下げる。
その直後、靴底に柔らかい感触を感じた。
「キャッ・・・!」
沙織は体勢を崩し、仰向けに倒れた。
柔らかい感触は沙織が地面に置いたディバックであり、倒れた拍子に沙織の体に押しつぶされ、
その中身が周囲に散乱する。
「っ・・・!」
――起きあがらなくちゃっ・・・!
沙織は小さく唸り、体を捩ろうとした。
体に風圧を感じる。
沙織は正面を見た。
有賀の顔が目の前に迫っていた。
「君は殺せない・・・だから、僕が教えてあげる・・・殺し方・・・」
「いやああああぁぁぁぁぁっっっ・・・!」
これから沙織を辱めるかのように、有賀の体が圧し掛かる。
沙織は激しく足掻いて、抵抗する。
しかし、有賀は動じない。
さらに体を密着させようとする。
「ちぃ・・・近づかないでぇ・・・!」
血の匂いが混じる有賀の生暖かい息が首に吹きかけられる。
舌で舐められているかのようなその感触に、
沙織は“いやぁ・・・”と、絞るような喘ぎを漏らしながら、顔を背ける。
――死にたくない!!
もがく沙織は何かを掴んだ。
沙織はそれを振り上げ、有賀の左目に突き刺した。
「グワッ・・・!!」
有賀は奇声を発する。
有賀から血が飛び散る。
それを浴びながら、沙織は突き刺した勢いのままに、有賀を地面に押し付けた。
――死にたくない!!
ハッ――!
沙織の目の前にあったのは、湿った雑草が生える地面だった。
沙織は周囲を見渡す。
スポットライトのように周囲を照らす月明かりに晒されていたのは、
散乱するディバックと雑草、林の木々に、沙織の姿であった。
有賀どころか、その鮮血すら存在しない。
沙織から力が抜けた。
「悪夢・・・嫌な悪夢・・・」
沙織は手元を見た。
手に握られたボールペンが地面に突き刺さっている。
全ては終わった。
あれは疲れた私が見た悪夢。
全て忘れよう・・・。
早く一億円を集めて・・・。
そう自分に言い聞かせた時、あの有賀の言葉が頭を反芻する。
『君は殺せない・・・だから、僕が教えてあげる・・・殺し方・・・』
沙織に突如、煮えたぎる熱湯のような怒りがこみ上げてきた。
――私が人を殺せないですって・・・!
有賀の短い言葉。
その中に、こんな意味が含まれているような気がしたのだ。
君は何も出来ないか弱い子。
人を殺すことができないから、一億円を集めることもできない。
そのまま、ここで死ぬしかないよね。
死ね。
「ふざけるなぁっ!!」
沙織はボールペンを引き抜くと、それを何度も地面へ突き刺した。
「私は生きるっ!私は生きるっ!」
ざくざくと草がむしられ、地面が抉られる音がこだまする。
次第に、その音と共にプラスチックが砕けていく音も含まれるようになった。
ボールペンが本来の長さの半分になった頃、沙織はその動きをやめた。
「私はアンタとは違う・・・」
ボールペンを投げ捨てると立ち上がり、その場から背を向ける。
「アンタは殺しを目的としているけど、私は手段でしかない・・・」
沙織は散乱する支給品をディバックの中へしまう。
「アンタは目的に興奮するあまり、私達の前に姿を現してしまった・・・
けど、私はそんなヘマはしない・・・ちゃんと、勝算がある・・・」
やがて、支給品がディバックの中に納まった。
「襲う相手は、力の弱い女、子供、もしくは逃げ腰の男・・・」
沙織はディバックを背負い、防弾ヘルメットを被る。
「決して、正面から闘わない・・・味方のフリをして背後からいく騙まし討ち、
逃げたところを襲う逃げ殺し・・・女であることも利用する・・・!」
数歩先にあったサブマシンガンウージーを手の中に収める。
「私は・・・アンタとは違うのよっ!」
沙織はそう吐き捨てると、北へ駆け出した。
沙織にとって、殺人は選択せざるを得ない手段である。
そのため、殺人を快楽とする有賀を否定した。
しかし、その沙織の戦略は、皮肉にも有賀の戦略と酷似していた。
そして、防弾ヘルメットを被り、サブマシンガンウージーを持つその姿は
生前の有賀そのものであった。
【D-3/アトラクションゾーン沿いの林/夜】
【田中沙織】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) サブマシンガンウージー 防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り十本)
[所持金]:8300万円
[思考]:カイジから逃げる 一億円を集めて脱出を目指す 森田鉄雄を捜す
一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
|080:[[十八歩]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|082:[[孤軍]]|
|075:[[四槓子]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|078:[[抜刀出陣]]|
|075:[[四槓子]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:田中沙織|085:[[同士]]|
**獣の儀式 ◆uBMOCQkEHY氏
沙織はひたすら林の中――東へ走っていた。
周囲は月明かりを遮るような木々に、足に絡みつくように生い茂る雑草。
昼間であっても、足を踏み入れることを躊躇するような場所である。
それでも沙織は走っていた。
沙織が走る理由――それはこれまで行動を共にしていたカイジを裏切ったからである。
二人とも、最終目的はゲームの脱出であるが、沙織は棄権費用を集める方法なのに対して、
カイジは仲間を集い、ゲームの転覆を目論んでいた。
現に、平山幸雄、赤木しげるの協力を得る約束を結び、カイジの計画は少しずつだが、軌道に乗り始めていた。
しかし、カイジの計画が進むたびに、沙織の中で、
自分の目的がどこか遠ざかっていく歯痒さが蕁麻疹のように広がっていった。
勿論、カイジとの関係に見切りをつけた方が良いのではという思いは何度も頭をかすめていた。
それでも、カイジから離れなかったのは、夕方、彼らを襲った殺人快楽者――有賀研二のような人物に遭遇する恐怖、
そして・・・
『主催者の言っていることは信用するな・・・!棄権の話も嘘かもしれない・・・!』
道中、カイジが何度も口を酸っぱくする位、繰り返してきた言葉である。
これらのことが沙織の判断を先延ばしにしていた。
しかし、事態は大きく急転した。
それをもたらした要因は大きく分けて二つ。
一つ目の要因――有賀を殺したことにより、サブマシンガンウージー、防弾ヘルメット、6800万円を手に入れたこと。
この出来事により、沙織は身を守るための強力な武器、棄権費用に手が届く確信が持てるような大金を手に入れた。
二つ目の要因――ギャンブルルームで確認した黒服の――
『一億円分のチップでまず申請を行う・・・首輪はその後、即座に解除される』
『我々は嘘はつかない』
という言葉。
これで、カイジの警告は杞憂であったことが判明した。
これからゲームで生き延び、脱出するための条件は満たした。
後はどうやってカイジから離れるかであるが、その機会は意外と早く訪れた。
井川ひろゆきとの麻雀勝負を行うことが決まった。
その際、負けた際のリスクを最小限に抑えるための策略
――井川ひろゆきの隙をついて逃げ出し、後で合流する――を立てた。
そして、カイジの荷物――ボウガンと700万円を預けられた瞬間、彼女の中の何者かが囁いた。
『コレデ・・・逃ゲ出セル・・・!』
カイジの旗色が悪くなった以降の記憶はない。
気づいたら、林の中を走っていた。
なぜ、林の中を選んだのかは、本人自身、明確に理由を把握していないが、
カイジから身を隠せる場所へ移動したかったというのが、根本だろう。
カイジを裏切ったという事実を自分自身から隠したかったという要因もあったかもしれないが・・・。
とにかく今の彼女には冷静さはなく、逃げたい、あとには引けないという単語ばかりが頭の中を支配していた。
「そういえば・・・ここは・・・どこなの?」
沙織はしゃがみ込むと、地面に降ろしたディバックから地図とコンパスを取り出し位置を確認する。
「これから・・・どこへ行こうかしら・・・」
沙織は右――北へ目線を向けた。
地図で確認すると、この先は先程まで沙織がいたアトラクションゾーンである。
夕方、有賀に襲われたことが記憶から蘇る。
飛び散る鮮血、乾いた鉄のような血の匂い。
沙織に警告するかのように、体がぶるっと震える。
「やっぱり・・・南へ・・・」
その時、風が南から北へ吹きぬけた。
湿った草の匂いが鼻腔から体内へ吸い込まれる。
「えっ・・・」
沙織は匂いに違和感を覚えた。
草の匂いもあるが、それに隠れながらも自己主張するかのように、乾いた鉄の匂い
――有賀を殺した時に鼻腔に吸い込んだ血の匂いが含まれていた。
「ま・・・まさか・・・」
沙織は左――南へ顔を向けた。
そこに人影が立っていた。
「だ・・・誰なのよ!」
沙織は立ち上がると、サブマシンガンウージーをその人物へ構えた。
沙織とその人物の距離はだいたい5メートルぐらいである。
沙織は地図を確認するため、林の中でも比較的月明かりが差し込む場所を選んでいる。
そのため、5メートルぐらいであれば、目を凝らせば、
人物の顔ぐらいはおぼろげに認識できるはずであった。
しかし、足元がわずかに認識できるくらいで、
肝心の顔が分からない――上半身が闇に溶け込んで存在しないのである。
「誰よっ・・・出てきなさいよっ・・・!」
沙織は泣き叫ぶように威嚇する。
「そんな持ち方じゃ・・・人・・・殺せないよ・・・」
足元がわずかに動いた。
一歩、一歩、人物は沙織に近づいていく。
白黒のテレビ画面がカラー画面に変化するかのように、人物の全体像が沙織の前に浮かび上がる。
「あっ・・・」
沙織の思考は閃光が弾けたように白くなった。
なぜという疑問すら沸く余裕がない。
沙織の目の前に立っていた人物、それは沙織がその手で殺害した有賀研二であった。
浮かび上がる有賀の姿は、サブマシンガンウージーを肩に背負い、
防弾ヘルメットをかぶっているという初めて沙織たちの前に現れた姿そのものであったが、
唯一違うのは左目が潰れ、そこから涙を流しているかのように、血が滴っていることだ。
「君は人を殺す楽しみを知らない・・・怯えている・・・だから、殺せない・・・」
有賀はククク・・・と、喜劇を楽しんでいるような笑いを浮かべながら、更に距離を縮める。
「だから・・・僕が教えてあげる・・・殺し方・・・」
「いやぁ・・・」
事態を飲み込めない沙織にある僅かな思考が首輪の警告音のように、脳内に響き渡る。
――逃げなくちゃっ・・・!
沙織は右足を後ろへ下げる。
その直後、靴底に柔らかい感触を感じた。
「キャッ・・・!」
沙織は体勢を崩し、仰向けに倒れた。
柔らかい感触は沙織が地面に置いたディバックであり、倒れた拍子に沙織の体に押しつぶされ、
その中身が周囲に散乱する。
「っ・・・!」
――起きあがらなくちゃっ・・・!
沙織は小さく唸り、体を捩ろうとした。
体に風圧を感じる。
沙織は正面を見た。
有賀の顔が目の前に迫っていた。
「君は殺せない・・・だから、僕が教えてあげる・・・殺し方・・・」
「いやああああぁぁぁぁぁっっっ・・・!」
これから沙織を辱めるかのように、有賀の体が圧し掛かる。
沙織は激しく足掻いて、抵抗する。
しかし、有賀は動じない。
さらに体を密着させようとする。
「ちぃ・・・近づかないでぇ・・・!」
血の匂いが混じる有賀の生暖かい息が首に吹きかけられる。
舌で舐められているかのようなその感触に、
沙織は“いやぁ・・・”と、絞るような喘ぎを漏らしながら、顔を背ける。
――死にたくない!!
もがく沙織は何かを掴んだ。
沙織はそれを振り上げ、有賀の左目に突き刺した。
「グワッ・・・!!」
有賀は奇声を発する。
有賀から血が飛び散る。
それを浴びながら、沙織は突き刺した勢いのままに、有賀を地面に押し付けた。
――死にたくない!!
ハッ――!
沙織の目の前にあったのは、湿った雑草が生える地面だった。
沙織は周囲を見渡す。
スポットライトのように周囲を照らす月明かりに晒されていたのは、
散乱するディバックと雑草、林の木々に、沙織の姿であった。
有賀どころか、その鮮血すら存在しない。
沙織から力が抜けた。
「悪夢・・・嫌な悪夢・・・」
沙織は手元を見た。
手に握られたボールペンが地面に突き刺さっている。
全ては終わった。
あれは疲れた私が見た悪夢。
全て忘れよう・・・。
早く一億円を集めて・・・。
そう自分に言い聞かせた時、あの有賀の言葉が頭を反芻する。
『君は殺せない・・・だから、僕が教えてあげる・・・殺し方・・・』
沙織に突如、煮えたぎる熱湯のような怒りがこみ上げてきた。
――私が人を殺せないですって・・・!
有賀の短い言葉。
その中に、こんな意味が含まれているような気がしたのだ。
君は何も出来ないか弱い子。
人を殺すことができないから、一億円を集めることもできない。
そのまま、ここで死ぬしかないよね。
死ね。
「ふざけるなぁっ!!」
沙織はボールペンを引き抜くと、それを何度も地面へ突き刺した。
「私は生きるっ!私は生きるっ!」
ざくざくと草がむしられ、地面が抉られる音がこだまする。
次第に、その音と共にプラスチックが砕けていく音も含まれるようになった。
ボールペンが本来の長さの半分になった頃、沙織はその動きをやめた。
「私はアンタとは違う・・・」
ボールペンを投げ捨てると立ち上がり、その場から背を向ける。
「アンタは殺しを目的としているけど、私は手段でしかない・・・」
沙織は散乱する支給品をディバックの中へしまう。
「アンタは目的に興奮するあまり、私達の前に姿を現してしまった・・・
けど、私はそんなヘマはしない・・・ちゃんと、勝算がある・・・」
やがて、支給品がディバックの中に納まった。
「襲う相手は、力の弱い女、子供、もしくは逃げ腰の男・・・」
沙織はディバックを背負い、防弾ヘルメットを被る。
「決して、正面から闘わない・・・味方のフリをして背後からいく騙まし討ち、
逃げたところを襲う逃げ殺し・・・女であることも利用する・・・!」
数歩先にあったサブマシンガンウージーを手の中に収める。
「私は・・・アンタとは違うのよっ!」
沙織はそう吐き捨てると、北へ駆け出した。
沙織にとって、殺人は選択せざるを得ない手段である。
そのため、殺人を快楽とする有賀を否定した。
しかし、その沙織の戦略は、皮肉にも有賀の戦略と酷似していた。
そして、防弾ヘルメットを被り、サブマシンガンウージーを持つその姿は
生前の有賀そのものであった。
【D-3/アトラクションゾーン沿いの林/夜】
【田中沙織】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) サブマシンガンウージー 防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り十本)
[所持金]:8300万円
[思考]:カイジから逃げる 一億円を集めて脱出を目指す 森田鉄雄を捜す
一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
|080:[[十八歩]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|082:[[孤軍]]|
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