「関係」(2009/10/04 (日) 00:17:27) の最新版変更点
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**関係 ◆IWqsmdSyz2氏
「あれは・・・・カイジっ・・・!」
ひろゆきとの待ち合わせに向かう道中、
平山幸雄は思わぬ再会を果たすこととなった。
よたよたとした足取りで辺りを見回しているあの人物は、
間違いなく伊藤開司だ。
(歩き方がおかしいな・・・・それに・・・・・連れの女はどうした・・・?)
まだ平山に気付かぬ様子で、カイジは歩みを進めている。
ひろゆきとの予定がある平山は、カイジに声を掛けるべきか迷っていた。
(利根川との別れ方があんなだったことは・・・カイジに話しておくべき・・・だよな。
しかし ひろゆきとの待ち合わせには余裕を持って行きたいし・・・・)
時計を確認する。
20時を回ったところだ。
ひろゆきと落ち合う予定の事務所まで、1時間で着くだろうか。
敵に見つかるリスクを回避するためには、
出来るだけ音を立てずに進むのが良い。
無論、そうして進んでいくのは、普通に歩くよりも時間がかかる。
(とはいえ・・・声だけでも掛けて、伝えることは伝えておこう)
平山がカイジへ向き直ったその折、
ちょうどカイジも平山に気付き、声を上げた。
「平山!」
それまで暗かった表情を僅かに綻ばせて、
カイジは左足を引きずりながら、平山の傍へ駆け寄る。
「平山・・・あんた・・・・!生きてたかっ・・・!無事でっ・・・・・!」
カイジが変わらぬ様子で話しかけてきたことに関して、
平山は少なからず嬉しかった。
先刻まで、平井銀二と原田克美から脅迫同然の会話を強いられ、
その後も居心地の悪さを抱えて 過ごしていたのだから
腹を割って話せる相手に出会えたことで得られる解放感は大きい。
「あぁ・・・だが・・・・」
しかし、と平山は思う。
カイジの足の傷は治療を要するレベルのものに見える。
一緒に行動していた田中沙織の姿はなく、
本来背負っているべきデイパックも何も持たない丸腰の状態。
カイジは決して“無事”ではなかったようだ。
「・・・・・・大丈夫なのか」
何から聞くべきか、丁度いい言葉が浮かばず、
平山の口からは曖昧な問いかけが漏れた。
「あぁ・・・・足の怪我なら見た目ほど大したもんじゃない」
「あの女は・・・・・・?」
「田中さんは・・・・生きてるよ」
カイジを見て、最初に平山の脳裏に浮かんだのは
奇襲に遭い怪我を負いながらも逃げ出してきた、というパターン。
しかしカイジの態度を見る限り、そうではないようだ。
となると、一体なにが?
平山が思うよりも先に、カイジから口を開いた。
「今、田中さんを捜しているところなんだ・・・!」
「捜して・・・?はぐれたってことか?」
「まぁ・・・・何ていうか・・・」
カイジは目元を拭いながら口ごもった。
そこで初めて、平山はカイジが泣いていたのではないかということに気付く。
「持ってかれちまったんだよ・・・。
支給品も・・・・持ち金もぜんぶっ・・・・持ってかれた・・・・!」
「え?」
予想外の言葉に、平山は素っ頓狂な声で答えた。
田中沙織という女が、
まさかそのようなことをする人物だったとは思いも寄らなかったのだ。
「裏切られたっ・・・・!オレは・・・・裏切られたんだ・・・・!」
カイジは事の顛末を、平山に話す。
ギャンブルルーム付近で待機する段取りを田中沙織が破ったこと。
彼女が持ち出した物資は、カイジの支給品すべてだということ。
そして、彼女は「棄権狙い」でゲームに乗ってしまう可能性があること。
「じゃあ・・・なぜ・・・?
田中沙織は銃器を持っているんだろう・・・?
もはや敵同然の相手を捜して動くのは危険なんじゃないか?」
平山は素直に疑問を口にした。
沙織が裏切り行為を働いた以上、
もう彼女を信用することは出来ないだろう。
今この瞬間にも彼女は人を殺しているかもしれないのだ。
「奪われた物資を取り戻すためか・・・?
たしかに・・・・武器はともかく、地図や食料まで持っていかれたんじゃ・・・」
「いや・・・それはもう・・・・どうでもいいんだ・・・・!
持ってかれたもんは・・・・・・構わない・・・・・戻ってこなくとも・・・・!」
「どういうことだ・・・?」
「田中さんは・・・オレの命の恩人なんだ・・・・!
彼女に助けられたのは・・・精神的な問題も含めれば一度や二度じゃない・・・・!
その上・・・彼女の背中を押したのはオレっ・・・!
持ち逃げに踏み切らせたのはオレの判断ミスでもある・・・・・・!」
カイジはまるで自分に言い聞かせるかのような様子で語った。
沙織に裏切られたことに対するショックは決して小さいものではない。
だが・・・・沙織を見捨てることは出来なかった。
裏切られたことへの絶望を上回る何かが、カイジを突き動かしている。
「・・・・・つまり・・・・その女の保護が目的なのか・・・・・?」
「あぁ・・・」
「言っちゃ悪いが・・・理解できないな。
・・・・田中沙織を見つけてどうするんだ?
再会したところで・・・相手が話を聞いてくれるともわからないんだぞ」
「たしかに・・・・もう田中さんが仲間として戻ってくることはないかもしれない・・・。
でもっ・・・会うことが出来れば・・・・・伝えることが出来れば・・・!」
カイジの表情が徐々に変わっていくのを、平山は黙って見つめる。
数秒前までの涙は見る影もなく、
再び口を開くカイジは頼もしさを覚えるほどの眼をしていた。
「オレは・・・彼女を止められる言葉を知っている・・・!
それどころか・・・・この島の殺し合い自体に関わってくるかもしれない・・・・!
そういう発見があったんだ・・・・!」
「発見?」
「あぁ・・・これはあんたにも伝えておきたい・・・・・。
そして・・・・・・出来れば・・・多くの人間に知らせたい事柄・・・!」
突然カイジは、平山の胸ポケットから覗いていたメモとペンを奪い取る。
「あっ・・・!何をする・・・!」
一瞬怯んだ平山だったが、カイジにメモを盗られたと理解すると、
それらを取り返すべく掴みかかった。
「借りるだけだ・・・!ちょっと待ってくれ・・・!」
平山を諌めながら、カイジはペンを走らせる。
待て、といわれたら、待つほかない。平山は憮然とした様子でカイジの腕から手を離した。
「じゃあこれ・・・返すぜ」
平山の元へ戻ってきたメモには、新たな文言が記されている。
何の目的なのだろうか、カイジが書いたものだ。
「何だよ・・・」
仕方なくメモに目を落とす平山。
瞬間、その表情が強張る。
『盗聴の可能性有り 棄権は出来ない D-4が禁止エリアだから』
「・・・!」
当然、平山も理解する。
カイジが筆記という回りくどい方法を取ったのは、
主催側から盗聴されている可能性を危惧してのこと。
そして、“棄権は出来ない”という文字。
これが、主催側に聞かれたくない言葉なのだろう。
どのようなルートでこの情報を得たのかはわからないが、
D-4・・・スタート地点にあたるエリアが禁止区域だという点と
棄権が出来ないという点が結びつくならば、
それは即ち、棄権のためにはD-4エリアへ赴かなければならないことを意味する。
「田中さんは・・・金集めのために、人を殺してしまうかもしれない・・・!
訳あって田中さんの所持金は8000万円以上あるんだ・・・!
あと何人も殺さずに棄権資金の1億円に届いてしまう状況・・・・!
田中さんはあくまでも棄権狙いで動いているはず・・・!」
「なるほどな・・・・」
情報の正確性は定かではないが、
少なくともカイジが嘘を吐いているようすはない。
自分などより遥かに現状に順応しているカイジが仕入れた情報ならば、
信じるに値するかもしれない。
棄権狙いの人間に棄権は不可能なのだと伝えれば
最も大きな殺人の動機が潰えることになる。
つまり、田中沙織に これを伝えさえすれば、
彼女の金集めとそれに伴う殺人、そして禁止エリアへの侵入を止められるだろう。
無論、ゲームに乗る参加者が一人でも減ることは平山にとって好ましい。
納得した様子の平山を見て、カイジは少し口の端をあげた。
「平山・・・・あんた・・・思ってたより察しがいいんだな」
カイジがはじめて平山を見たとき・・・
彼は精神疲労から嘔吐をするという情けない醜態を晒していた。
しかし、今こうして少ない文章から様々なことを考えているだろう様子は
彼から優秀ささえ感じさせられる。
「なぁ平山・・・あんた、出来ればそれを広めてほしい。
あんたの身に危険が及ばない範囲で・・・・!そうすれば・・・・・」
この島は多少なりとも変わるだろう。
平山はメモを胸ポケットにしまうと、顔をあげながら答える。
「・・・わかった」
まずは、ひろゆきに、このことを伝えよう。平山は考える。
ひろゆきの力を借りれば・・・
“棄権は出来ない”という状況を深く掘り下げられるかもしれない。
「オレの話は終わりだが・・・
あんたに聞きたいことがある。
利根川に頼んだ伝言についてだ」
『奴隷の剣はまだ折れていない』
カイジから頼まれた言葉を、
平山は一字一句違うことなく そのまま利根川へ伝えていた。
「あ、ああ・・・おまえが言ったとおりに伝えておいた・・・。
二日後・・・それで了承した様子だったぞ・・・」
「そうか・・・」
「・・・だが・・・・問題が二つある・・・・!
一つは・・・・・おまえが指定した発電所が・・・禁止エリアに指定されてしまったこと・・・!
とはいえ、これは大したことじゃない。
発電所付近で落ち合うことも可能だからな・・・」
平山は、表情を翳らせながら続ける。
これまでと打って変わって、悲壮感漂う様相だ。
「もう一つ・・・・利根川と話してる最中に・・・奇襲を受けたんだ・・・・!
だからオレはいつ殺されてもおかしくない状況・・・!」
平山は、カイジに原田や銀二との出来事を簡単に説明する。
発電所で利根川に伝言を渡した直後に
原田克美という見るからにヤクザな男と、
平井銀二という得体の知れない人間が 銃を持って襲ってきた、と。
カイジは平井銀二という単語に過剰に反応した。
「平井銀二・・・そいつは・・・・・赤木しげると同レベルの要注意人物じゃねぇか・・・・!」
田中沙織の支給品である参加者名簿に記されたトトカルチョの倍率から
参加者中もっとも危険であろう二人を割り出した際に登場した名前。
赤木しげるとは既に接触済みであり、危険性が低いことはわかっていたし、
何より平山は赤木とは知り合いである。
しかし、平井銀二の危険性については未知数なのだ。
「そ・・・そんな・・・・・・!」
平山は銀二のことを思い出しながら震える。
物腰こそは柔らかかったものの、確かに只ならぬ空気を纏う男だった。
改めて考えるとなんと恐ろしいことか。
ああして利根川と不慮の別れをした以上、
利根川はもう自分に利用価値を見出してはくれないかもしれない。
平山は滲み出る冷や汗を拭うと、カイジに告げた。
「利根川とおまえのパイプ役はもう出来ない・・・!
平井銀二には何もされなかったけど・・・・・オレはいつ殺されるかもわからない・・・・」
「利根川はあんたを殺さない・・・!」
カイジは蒼白な平山の顔を見据えながら断言する。
「え・・・?」
「殺せない、のかもしれないが・・・・。
あんたが今生きていることが何よりの証拠だろ・・・?
利根川に殺す気があったら、あんたは今頃もう死んでる・・・!」
そう。
平井銀二、原田克美から襲撃され、利根川は平山を置いて逃げた。
利根川の狙い――兵藤和也を保護したいということや、
伊藤開司に復讐したいということを知っている平山を、見知らぬ敵の前に置いて逃げたのだ。
となれば、当然、利根川は危惧する。
平山から、利根川の思惑が漏れる可能性を。
その可能性を摘むには、平山を殺すこと。
遠隔操作可能な針具を使い、平山の首輪を爆破させることが最も簡単かつ確実な方法である。
「そうか・・・!利根川に殺す気があるならもっと早く・・・・
原田や平井がいる前で首が吹っ飛んでたはず・・・!」
「そういうことだ。
つまり・・・・利根川はあんたが死んじまったと思ってるか・・・・
あんたに余程の利用価値を見出してるか、その二択・・・・!
どちらにしても・・・・おかしな行動をしなければあんたの首が飛ぶ可能性は低い・・・!
再び利根川に出くわしたときが勝負どころになるが・・・」
もしも、また利根川に会ってしまったら。
死んだと思われていたのならば、利根川との再会は危険すぎる。
平山の生存がわかった瞬間に針具が動き、首輪が起爆してもおかしくないだろう。
利用価値があると見られているのならば、
利根川と再度相会うときの身の振り方次第で生死が決まる。
実際、平山の首輪に装着された針具は“故障”という想定外の事態に陥っているのだが、
カイジも平山も、そこまで思い至ることは出来なかった。
(出来れば平山と共に行動したい・・・!
物資がない状況で単独行動は危険だし・・・・
もし利根川と出会うことがあったとき・・・・・
ベストなのはオレと平山二人が居合わせることだからっ・・・・!
だが・・・・平山は当て所もなくいる様子じゃあない。
こいつはこいつで・・・・何か目的があって動かなきゃならない状況なんだろう・・・・)
しばしの沈黙。
首に手を当てて俯いている平山に、
カイジは意を決して別れを切り出した。
「オレは・・・このまま田中さんを捜すが・・・
あんたはあんたで用事があるんだろ?
なんか目的が・・・あるだろ・・・・?
引き止めて悪かったな・・・」
返答を待たずに足を引きずり歩き出すカイジを
平山は 少し悩んでから声をあげた。
「ちょっと待て・・・!一緒に行動したほうがいいんじゃないか・・・?」
「そりゃあ・・・そうだが・・・・」
「田中沙織が持ち出していったのは、チップや武器だけじゃない。
参加者全員に平等に渡された、食料や飲料水、地図、時計やコンパス・・・・。
それら全部失って・・・・
おまえ・・・足を怪我してる上に・・・一人で何も持たずに歩き回ってちゃ・・・危ないだろう・・・!」
「だが・・・あんたはあんたの目的があるんだろ・・・・?
どこか・・・・向かう場所があるんなら・・・一緒に行動しないほうがいい・・・!」
「うっ・・・その通りだが・・・・・」
カイジの目的は、田中沙織を捜し回ること。
平山の目的は、ひろゆきと待ち合わせた事務所へ向かうこと。
両立させるのは難しい。
「オレは死なない・・・・!どんな逆境にあっても・・・・切り抜けてきたんだっ・・・・!
だから・・・平山、あんたも・・・・あんたのやるべきことをやって・・・・」
「あ・・・そうか!待ってろ!」
平山はカイジの言葉を遮ると、デイパックの中身を探り出した。
不思議そうな顔で居るカイジに、平山は言う。
「待ってろ・・・何か・・・役に立つものがあるかもしれねぇからっ・・・!」
「・・・?」
「オレの使わないもの・・・おまえにやるっ・・・・!」
平山はデイパックの中身をボロボロと草っ原に散乱させながらカイジに告げた。
クソっ、と小さく呟きながら物を拾う平山の姿に、カイジは苦笑いし、
拾うのを手伝うべく しゃがみながら答える。
「あんたの支給品はあんたのものだ・・・。
オレが丸腰なのは自分の所為なんだし あんたから何かを貰うわけには・・・・」
「勘違いするなよ!おまえが死んだらオレも困るんだっ・・・・!」
二人の足元には平山の支給品――水や食料、地図、コンパスといったものの他に
参加者名簿、いくつかの冊子、丸いキーホルダーのようなものが転がっている。
「・・・・・・参加者名簿・・・!
これ・・・あんたの支給品なのか・・・・・?」
「あ・・・?あぁ、そうだが・・・・」
田中沙織の支給品だったトトカルチョの倍率付き名簿と、
厚さや見た目は変わらないそれを、カイジは拾い上げた。
ぱらぱらと中身を見るが、そこの倍率は記されていない。
「・・・・同じものじゃないみたいだな」
「それ・・・・やるよ」
カイジが名簿に興味を持ったらしいと気付き、
平山はカイジ向かって声をかける。
「いやっ・・・いいよ・・・あんたのものを貰うわけには・・・・」
「使わねぇし・・・それ。
もう覚えたから・・・・・・持ってても邪魔なだけだ」
「覚えた・・・・?」
手を止めるカイジに、平山は更にいくつかの冊子を突きつけた。
「これも支給されたもんなんだが・・・
島の施設の案内冊子だ・・・・・!
使えるかはわからないが・・・・・持ってけ」
カイジは数冊のそれらを受け取ると、ざっと目を通す。
島内施設――温泉旅館とショッピングモール、ホテルやバッティングセンターについてのパンフレットのようだ。
フロアガイドなどが写真つきでカラフルに並び、
まるで殺し合いの舞台とは思えない明るい雰囲気の場所ばかりが写っている。
「これも・・・・もらっていいのか?」
「それも覚えたからな・・・・もう使わない」
「さっきから覚えた覚えたって言ってるが・・・
あんた、まさか本当にこれだけの情報量を頭に入れたってのか?」
「まぁ・・・・取り柄だからな」
何故か表情を暗くする平山だったが、
カイジは素直に感心していた。
通常、参加者名簿に複数施設のパンフレット、
全ての内容を胸を張って“覚えた”といえるレベルになるまでに
いったい何日かかるだろうか。
「すげぇ記憶力だな・・・・生まれつき脳の作りが違うっていうか・・・・・」
「・・・この頭を使って食ってたみたいなもんだったからな」
平山はその常人離れした記憶力と計算力を駆使し、
長いスパンでみれば信じられないほどの安定感を誇る雀士だった。
しかし、それももう過ぎた話。
カイジのように素直に褒めてくれる人間は、
浦部との戦い以降平山の周りから消えてしまっていた。
純粋に能力を褒められたのは何時以来だろうか。
平山は複雑な心境で、食料をデイパックに詰め込んだ。
そして平山は地図を拾い上げ、悩む。
島のマップは参加者の生命線だ。
これを持たない状況で人捜しなど、あまりに無謀。
無論、地図の内容もすべて、平山は暗記している。
しかし、これに関しては手放してしまうことに少しの抵抗があった。
平山の思いを知ってか知らずか、カイジは小さく呟く。
「あんたに会えて助かったな・・・」
平山はその発言で随分久しぶりに――自分が認められた気がした。
カイジがどのような意味を込めて漏らした言葉かはわからないが
それでも、人から必要とされた感覚が、確かに湧いたのだ。
(これも・・・・・渡しておくか)
地図を掴む右手を見つめながら、平山は思う。
カイジの言葉で舞い上がったわけではない。
自分の駄目具合は、自分自身で理解していた。
だが、嬉しかった。
この島に来て・・・・否。
ゲームが始まる以前から・・・・・平山を同等と見てくれた人間がどれだけいただろうか。
格下・・・三流・・・・そういった目で見られることに慣れてしまった平山にとって、
カイジの、同じ立場からの言葉が――同じ立場からの言葉だと聞こえたそれが、
無性に嬉しかったのだ。
平山は黙ってカイジの手元に地図を投げやる。
「いや・・・流石に地図は・・・」
目を丸くするカイジに、平山は言い返した。
「いいか?おまえを助けるためじゃない・・・!
オレが生き残るために・・・おまえに死なれちゃ困るから言ってるんだ」
「そりゃ・・・そうだが・・・・・」
「オレは地図の内容も完全に覚えている・・・・!
その上、これから向かうのは既に一度訪れた場所なんだ・・・・!」
アトラクションゾーンの事務所。
最初に会った場所で、ひろゆきと平山は待ち合わせる予定だった。
そこまでのルートは難しいものではなく、
地図を見ずとも辿り着けるだろう。
島内地図を正確に暗記している平山ならば、
尚のこと地図現物に頼ることはない。
「それに・・・・オレには“当て”がある。
地図をもう一枚手に入れることが出来る当てがある・・・!」
そう。平山も彼なりに考えた上で、カイジにこの提案をしている。
ひろゆきは二人分の支給品を持っていた。
つまり、二枚地図を持っているということ。
この先地図が必要になる可能性は否定できないが、
要は、ひろゆきと落ち合った暁に、一枚を譲り受ければいいだけの話なのだ。
「カイジ・・・おまえが死ねば・・・オレの死ぬ確率は跳ね上がる・・・・!
なぜなら・・・・・おまえはオレの命を操作できる人間・・・・・利根川に関係してるから・・・・!」
カイジと平山は、互いに互いが生きながらえていくことを望んでいる。
平山が死ねば、カイジは貴重な“仲間”を一人失うことになる。
誰も死んでほしくないという人情的な部分を差し引いても
これだけ記憶力に優れた部分を見せられたあとでは、
失うに惜しい人材であるといえる。
更に、彼の首輪に装着された針具は、首輪解体の鍵になるかも知れないものだ。
平山もまた、カイジが死んでしまう事態は回避したい。
元より、人命を賭けたギャンブルには否定的な平山。
自身の生死が関わるとなれば尚のことである。
死にたくない。こんなふざけたゲームで命を落とすなどということは・・・。
しかし、まるで首に手をかけられているような現状、
何にしても、利根川との関係を打ち切らなければ埒が明かないのだ。
その利根川と関わりをもつカイジの助けが、今後も必要になる可能性は高い。
カイジが死んでしまえば、平山が頼りに出来る人間はひろゆきだけ。
そもそもカイジ死亡後、利根川は平山の利用を放棄し、首輪を起爆させることさえ考えられる。
カイジは思った。
この平山幸雄という男は、本来このような――人に自分の物資を分け与えるような人間ではない、と。
臆病で、頭でっかちな・・・凡夫と呼ばれてしまうような男なのではないか。
だが・・・・今目の前に居る平山は、
本来の彼がどんな性質であれ・・・カイジの助けとなっている。
「わかった・・・・」
カイジは平山から地図を受け取り、懐にしまいこんだ。
平山はそれを見届けると、大きく深呼吸をしながら、
残りの支給品をデイパックに詰めなおす。
草の上には丸いキーホルダーだけが残る。
「さっきから気になってたんだが・・・・このキーホルダーはなんだ?」
カイジは青いそれを摘み上げると、平山に聞いた。
「あぁ・・・
使い方がわからないんだ。折角 紙以外の支給品なんだが・・・」
手のひらに収まる大きさ。
頭の部分に金属でホルダーがついており、
下部から白い紐が伸びていた。
「これ・・・防犯ブザーだな・・・・」
しばらく手の中で転がしてから、
カイジは意外そうな声で、平山に告げる。
「は・・・?防犯ブザー?なんだそれ」
平山はその上をいく反応で、カイジに尋ねた。
「あぁ・・・この紐を引っ張ると、大音量で鳴るんだ。
周りの人間に、気付いてもらうためのアイテムだな」
下手に触らずにおいて良かった、と平山は安堵した。
この島で大音量を響かせるなど自殺行為である。
数時間前、拡声器を通した音声が島中に渡ったが、あの声の主も無事ではあるまい。
「じゃあ・・・使い物にならないな・・・・。
そんな、人を呼び寄せるような支給品は・・・・」
平山は少し落胆した様子で、防犯ブザーをデイパックにしまおうとする。
「いや・・・待て・・・・・・。もしかしたら使う機会がくるかもしれない。
すぐに取り出せるところに入れといたほうがいいんじゃないか」
「使う機会?」
「それがどんなときかは・・・・・わからないが・・・・!
・・・・この島じゃ、何が役に立つかなんて決められないだろ・・・?」
カイジの言葉に、平山は大人しく防犯ブザーをポケットにしまう。
誤って鳴らしてしまうことだけは避けなければならないが、
カイジの言うとおり“使う機会”がいつか来るかもしれないのは事実だと思ったからだ。
「これ・・・ありがとう」
名簿とパンフレットを懐に納めながらカイジは言った。
武器にはならないが、何も持たないよりは遥かにマシだ。
腹部に沿ってしまっておけば、カッターの刃くらいならば防ぎうる盾になるだろう。
ここで平山に会い、物を分けてもらったことは本当に幸運だった。
田中沙織とも・・・無事に再会できればいいのだが。
「そろそろ・・・オレは行くが・・・平山・・・生き残れよ・・・。
こんなこと言っちゃなんだけど・・・あんたは・・・“使える人間”だ・・・!
誰から見てもそうだ・・・!それだけの記憶力があれば・・・!
だったら・・・あんた自身が使え・・・!
卑屈になるなっ・・・・!あんたがあんたを使うんだ・・・!
セコい真似してでも・・・生き残れっ・・・・・・」
そう告げて、立ち去ろうとするカイジの背中に、
平山も呼応するように声をあげる。
「カイジっ・・・!おまえも死ぬなよ!
利根川を倒して・・・・オレを救い出してくれよっ・・・!」
「ああ・・・」
カイジは真っ直ぐな目線で、平山に答えた。
「・・・三度目も・・・お互い無事に・・・生きて会うんだ・・・・・!」
カイジは不思議と・・・平山幸雄とはまた会えるような気がした。
実際にこの島で再会をするというのは、難しいことではない。
待ち合わせ場所を定めておけば、
イレギュラーな事態に巻き込まれない限りは、そこで会えるのだ。
とはいえ――そのイレギュラーな事態が氾濫しているからこその狂気の島なのだが。
しかし、平山と待ち合わせをする必要性を、カイジは感じなかった。
平山は彼なりにやるべきことをして、
カイジはカイジの使命を果たし、
そしてまた会えたとき・・・その時は共に行動しよう。
心の中で平山に語りかけながら、カイジは歩き始める。
平山幸雄はカイジの背中が木陰に消えるのを見送ってから・・・
はっと時計を見、その長針の進み具合に焦りつつ、慌てたようすで事務所へと向かった。
* * *
平井銀二は少し離れた草の茂みから、
伊藤開司と平山幸雄が別れる様子を眺めていた。
平山を尾行したのは正解だった。
先刻、あの顔に傷を持つ男との出会い頭に平山が漏らした「カイジ」という単語。
そこから、平山がいくつかの物資を譲った相手は伊藤開司なのだろうとわかる。
僥倖だ。話に聞いたカイジに、こんなにも早く会うことが出来るとは。
平山の話していたことが事実ならば、カイジはそれなりに見所のある人間に思える。
彼らの比較的穏やかな対話具合からして、
平山とカイジは初対面ではなく、また 敵対関係にあるわけでもない。
つまり――彼らは平山の言っていた通りの関係だという可能性が高い。
必然的に、平山の述べたカイジについての話も信憑性が増す。
(強運、度胸、図太さ・・・あるだろうか。カイジという青年には・・・・)
やはり森田・・・森田鉄雄に会えればこの上ない。
しかし、見込みのある人間と接触を計っていくことは
このゲームにおける平井銀二の指針の一つである。
(平山がこれから向かうのはおそらく“ひろゆき”との待ち合わせ場所だろうな)
二人の様子を見た限り、彼らの再会は偶然だろう。
平山の目的は、カイジではなかった。おそらく“ひろゆき”に会うことだ。
ひろゆきについては原田から話を聞いているため、幾らかの興味がある。
(とはいえ・・・カイジ・・・。こちらも興味深い男だ)
一方のカイジも、何か目的があって行動しているらしいことは見て取れる。
(興味の対象が二つあったところで、この身は一つ。さて・・・・どちらを追うか・・・・・)
【D-3/アトラクションゾーン/夜中】
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所)
[道具]:果物ナイフ 地図 参加者名簿 島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、
旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
[所持金]:なし
[思考]:田中沙織を捜す 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。
※アカギのメモから、主催者はD-4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※脱出の権利は嘘だと確信しました。
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創 首輪越しにEカードの耳用針具を装着中
[道具]:支給品一式 防犯ブザー
[所持金]:1000万円
[思考]: ひろゆきとの待ち合わせ場所に急ぐ 田中沙織を気にかける 利根川から逃れる術を探る
※ひろゆきと21時にアトラクションゾーン事務所(C-4)で落ち合う約束をしました。
※利根川に死なれたと思われていることを知りません。
※脱出の権利は嘘だと知りました。
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧、不明支給品0~2、支給品一式
[所持金]:1300万
[思考]:生還、森田と合流、見所のある人物を探す 平山かカイジ、どちらを尾行するか決める
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※次の定時放送までに原田とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
|086:[[猛毒]] |COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|088:[[希望への標(前編)]][[(後編)>希望への標(後編)]]|
|091:[渇望]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|085:[[同士]]|
|075:[[四槓子]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:伊藤開司|090:[[抵抗]]|
|080:[[十八歩]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 平山幸雄|098:[[追懐]]|
|080:[[十八歩]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 平井銀二|090:[[抵抗]]|
**関係 ◆IWqsmdSyz2氏
「あれは・・・・カイジっ・・・!」
ひろゆきとの待ち合わせに向かう道中、
平山幸雄は思わぬ再会を果たすこととなった。
よたよたとした足取りで辺りを見回しているあの人物は、
間違いなく伊藤開司だ。
(歩き方がおかしいな・・・・それに・・・・・連れの女はどうした・・・?)
まだ平山に気付かぬ様子で、カイジは歩みを進めている。
ひろゆきとの予定がある平山は、カイジに声を掛けるべきか迷っていた。
(利根川との別れ方があんなだったことは・・・カイジに話しておくべき・・・だよな。
しかし ひろゆきとの待ち合わせには余裕を持って行きたいし・・・・)
時計を確認する。
20時を回ったところだ。
ひろゆきと落ち合う予定の事務所まで、1時間で着くだろうか。
敵に見つかるリスクを回避するためには、
出来るだけ音を立てずに進むのが良い。
無論、そうして進んでいくのは、普通に歩くよりも時間がかかる。
(とはいえ・・・声だけでも掛けて、伝えることは伝えておこう)
平山がカイジへ向き直ったその折、
ちょうどカイジも平山に気付き、声を上げた。
「平山!」
それまで暗かった表情を僅かに綻ばせて、
カイジは左足を引きずりながら、平山の傍へ駆け寄る。
「平山・・・あんた・・・・!生きてたかっ・・・!無事でっ・・・・・!」
カイジが変わらぬ様子で話しかけてきたことに関して、
平山は少なからず嬉しかった。
先刻まで、平井銀二と原田克美から脅迫同然の会話を強いられ、
その後も居心地の悪さを抱えて 過ごしていたのだから
腹を割って話せる相手に出会えたことで得られる解放感は大きい。
「あぁ・・・だが・・・・」
しかし、と平山は思う。
カイジの足の傷は治療を要するレベルのものに見える。
一緒に行動していた田中沙織の姿はなく、
本来背負っているべきデイパックも何も持たない丸腰の状態。
カイジは決して“無事”ではなかったようだ。
「・・・・・・大丈夫なのか」
何から聞くべきか、丁度いい言葉が浮かばず、
平山の口からは曖昧な問いかけが漏れた。
「あぁ・・・・足の怪我なら見た目ほど大したもんじゃない」
「あの女は・・・・・・?」
「田中さんは・・・・生きてるよ」
カイジを見て、最初に平山の脳裏に浮かんだのは
奇襲に遭い怪我を負いながらも逃げ出してきた、というパターン。
しかしカイジの態度を見る限り、そうではないようだ。
となると、一体なにが?
平山が思うよりも先に、カイジから口を開いた。
「今、田中さんを捜しているところなんだ・・・!」
「捜して・・・?はぐれたってことか?」
「まぁ・・・・何ていうか・・・」
カイジは目元を拭いながら口ごもった。
そこで初めて、平山はカイジが泣いていたのではないかということに気付く。
「持ってかれちまったんだよ・・・。
支給品も・・・・持ち金もぜんぶっ・・・・持ってかれた・・・・!」
「え?」
予想外の言葉に、平山は素っ頓狂な声で答えた。
田中沙織という女が、
まさかそのようなことをする人物だったとは思いも寄らなかったのだ。
「裏切られたっ・・・・!オレは・・・・裏切られたんだ・・・・!」
カイジは事の顛末を、平山に話す。
ギャンブルルーム付近で待機する段取りを田中沙織が破ったこと。
彼女が持ち出した物資は、カイジの支給品すべてだということ。
そして、彼女は「棄権狙い」でゲームに乗ってしまう可能性があること。
「じゃあ・・・なぜ・・・?
田中沙織は銃器を持っているんだろう・・・?
もはや敵同然の相手を捜して動くのは危険なんじゃないか?」
平山は素直に疑問を口にした。
沙織が裏切り行為を働いた以上、
もう彼女を信用することは出来ないだろう。
今この瞬間にも彼女は人を殺しているかもしれないのだ。
「奪われた物資を取り戻すためか・・・?
たしかに・・・・武器はともかく、地図や食料まで持っていかれたんじゃ・・・」
「いや・・・それはもう・・・・どうでもいいんだ・・・・!
持ってかれたもんは・・・・・・構わない・・・・・戻ってこなくとも・・・・!」
「どういうことだ・・・?」
「田中さんは・・・オレの命の恩人なんだ・・・・!
彼女に助けられたのは・・・精神的な問題も含めれば一度や二度じゃない・・・・!
その上・・・彼女の背中を押したのはオレっ・・・!
持ち逃げに踏み切らせたのはオレの判断ミスでもある・・・・・・!」
カイジはまるで自分に言い聞かせるかのような様子で語った。
沙織に裏切られたことに対するショックは決して小さいものではない。
だが・・・・沙織を見捨てることは出来なかった。
裏切られたことへの絶望を上回る何かが、カイジを突き動かしている。
「・・・・・つまり・・・・その女の保護が目的なのか・・・・・?」
「あぁ・・・」
「言っちゃ悪いが・・・理解できないな。
・・・・田中沙織を見つけてどうするんだ?
再会したところで・・・相手が話を聞いてくれるともわからないんだぞ」
「たしかに・・・・もう田中さんが仲間として戻ってくることはないかもしれない・・・。
でもっ・・・会うことが出来れば・・・・・伝えることが出来れば・・・!」
カイジの表情が徐々に変わっていくのを、平山は黙って見つめる。
数秒前までの涙は見る影もなく、
再び口を開くカイジは頼もしさを覚えるほどの眼をしていた。
「オレは・・・彼女を止められる言葉を知っている・・・!
それどころか・・・・この島の殺し合い自体に関わってくるかもしれない・・・・!
そういう発見があったんだ・・・・!」
「発見?」
「あぁ・・・これはあんたにも伝えておきたい・・・・・。
そして・・・・・・出来れば・・・多くの人間に知らせたい事柄・・・!」
突然カイジは、平山の胸ポケットから覗いていたメモとペンを奪い取る。
「あっ・・・!何をする・・・!」
一瞬怯んだ平山だったが、カイジにメモを盗られたと理解すると、
それらを取り返すべく掴みかかった。
「借りるだけだ・・・!ちょっと待ってくれ・・・!」
平山を諌めながら、カイジはペンを走らせる。
待て、といわれたら、待つほかない。平山は憮然とした様子でカイジの腕から手を離した。
「じゃあこれ・・・返すぜ」
平山の元へ戻ってきたメモには、新たな文言が記されている。
何の目的なのだろうか、カイジが書いたものだ。
「何だよ・・・」
仕方なくメモに目を落とす平山。
瞬間、その表情が強張る。
『盗聴の可能性有り 棄権は出来ない D-4が禁止エリアだから』
「・・・!」
当然、平山も理解する。
カイジが筆記という回りくどい方法を取ったのは、
主催側から盗聴されている可能性を危惧してのこと。
そして、“棄権は出来ない”という文字。
これが、主催側に聞かれたくない言葉なのだろう。
どのようなルートでこの情報を得たのかはわからないが、
D-4・・・スタート地点にあたるエリアが禁止区域だという点と
棄権が出来ないという点が結びつくならば、
それは即ち、棄権のためにはD-4エリアへ赴かなければならないことを意味する。
「田中さんは・・・金集めのために、人を殺してしまうかもしれない・・・!
訳あって田中さんの所持金は8000万円以上あるんだ・・・!
あと何人も殺さずに棄権資金の1億円に届いてしまう状況・・・・!
田中さんはあくまでも棄権狙いで動いているはず・・・!」
「なるほどな・・・・」
情報の正確性は定かではないが、
少なくともカイジが嘘を吐いているようすはない。
自分などより遥かに現状に順応しているカイジが仕入れた情報ならば、
信じるに値するかもしれない。
棄権狙いの人間に棄権は不可能なのだと伝えれば
最も大きな殺人の動機が潰えることになる。
つまり、田中沙織に これを伝えさえすれば、
彼女の金集めとそれに伴う殺人、そして禁止エリアへの侵入を止められるだろう。
無論、ゲームに乗る参加者が一人でも減ることは平山にとって好ましい。
納得した様子の平山を見て、カイジは少し口の端をあげた。
「平山・・・・あんた・・・思ってたより察しがいいんだな」
カイジがはじめて平山を見たとき・・・
彼は精神疲労から嘔吐をするという情けない醜態を晒していた。
しかし、今こうして少ない文章から様々なことを考えているだろう様子は
彼から優秀ささえ感じさせられる。
「なぁ平山・・・あんた、出来ればそれを広めてほしい。
あんたの身に危険が及ばない範囲で・・・・!そうすれば・・・・・」
この島は多少なりとも変わるだろう。
平山はメモを胸ポケットにしまうと、顔をあげながら答える。
「・・・わかった」
まずは、ひろゆきに、このことを伝えよう。平山は考える。
ひろゆきの力を借りれば・・・
“棄権は出来ない”という状況を深く掘り下げられるかもしれない。
「オレの話は終わりだが・・・
あんたに聞きたいことがある。
利根川に頼んだ伝言についてだ」
『奴隷の剣はまだ折れていない』
カイジから頼まれた言葉を、
平山は一字一句違うことなく そのまま利根川へ伝えていた。
「あ、ああ・・・おまえが言ったとおりに伝えておいた・・・。
二日後・・・それで了承した様子だったぞ・・・」
「そうか・・・」
「・・・だが・・・・問題が二つある・・・・!
一つは・・・・・おまえが指定した発電所が・・・禁止エリアに指定されてしまったこと・・・!
とはいえ、これは大したことじゃない。
発電所付近で落ち合うことも可能だからな・・・」
平山は、表情を翳らせながら続ける。
これまでと打って変わって、悲壮感漂う様相だ。
「もう一つ・・・・利根川と話してる最中に・・・奇襲を受けたんだ・・・・!
だからオレはいつ殺されてもおかしくない状況・・・!」
平山は、カイジに原田や銀二との出来事を簡単に説明する。
発電所で利根川に伝言を渡した直後に
原田克美という見るからにヤクザな男と、
平井銀二という得体の知れない人間が 銃を持って襲ってきた、と。
カイジは平井銀二という単語に過剰に反応した。
「平井銀二・・・そいつは・・・・・赤木しげると同レベルの要注意人物じゃねぇか・・・・!」
田中沙織の支給品である参加者名簿に記されたトトカルチョの倍率から
参加者中もっとも危険であろう二人を割り出した際に登場した名前。
赤木しげるとは既に接触済みであり、危険性が低いことはわかっていたし、
何より平山は赤木とは知り合いである。
しかし、平井銀二の危険性については未知数なのだ。
「そ・・・そんな・・・・・・!」
平山は銀二のことを思い出しながら震える。
物腰こそは柔らかかったものの、確かに只ならぬ空気を纏う男だった。
改めて考えるとなんと恐ろしいことか。
ああして利根川と不慮の別れをした以上、
利根川はもう自分に利用価値を見出してはくれないかもしれない。
平山は滲み出る冷や汗を拭うと、カイジに告げた。
「利根川とおまえのパイプ役はもう出来ない・・・!
平井銀二には何もされなかったけど・・・・・オレはいつ殺されるかもわからない・・・・」
「利根川はあんたを殺さない・・・!」
カイジは蒼白な平山の顔を見据えながら断言する。
「え・・・?」
「殺せない、のかもしれないが・・・・。
あんたが今生きていることが何よりの証拠だろ・・・?
利根川に殺す気があったら、あんたは今頃もう死んでる・・・!」
そう。
平井銀二、原田克美から襲撃され、利根川は平山を置いて逃げた。
利根川の狙い――兵藤和也を保護したいということや、
伊藤開司に復讐したいということを知っている平山を、見知らぬ敵の前に置いて逃げたのだ。
となれば、当然、利根川は危惧する。
平山から、利根川の思惑が漏れる可能性を。
その可能性を摘むには、平山を殺すこと。
遠隔操作可能な針具を使い、平山の首輪を爆破させることが最も簡単かつ確実な方法である。
「そうか・・・!利根川に殺す気があるならもっと早く・・・・
原田や平井がいる前で首が吹っ飛んでたはず・・・!」
「そういうことだ。
つまり・・・・利根川はあんたが死んじまったと思ってるか・・・・
あんたに余程の利用価値を見出してるか、その二択・・・・!
どちらにしても・・・・おかしな行動をしなければあんたの首が飛ぶ可能性は低い・・・!
再び利根川に出くわしたときが勝負どころになるが・・・」
もしも、また利根川に会ってしまったら。
死んだと思われていたのならば、利根川との再会は危険すぎる。
平山の生存がわかった瞬間に針具が動き、首輪が起爆してもおかしくないだろう。
利用価値があると見られているのならば、
利根川と再度相会うときの身の振り方次第で生死が決まる。
実際、平山の首輪に装着された針具は“故障”という想定外の事態に陥っているのだが、
カイジも平山も、そこまで思い至ることは出来なかった。
(出来れば平山と共に行動したい・・・!
物資がない状況で単独行動は危険だし・・・・
もし利根川と出会うことがあったとき・・・・・
ベストなのはオレと平山二人が居合わせることだからっ・・・・!
だが・・・・平山は当て所もなくいる様子じゃあない。
こいつはこいつで・・・・何か目的があって動かなきゃならない状況なんだろう・・・・)
しばしの沈黙。
首に手を当てて俯いている平山に、
カイジは意を決して別れを切り出した。
「オレは・・・このまま田中さんを捜すが・・・
あんたはあんたで用事があるんだろ?
なんか目的が・・・あるだろ・・・・?
引き止めて悪かったな・・・」
返答を待たずに足を引きずり歩き出すカイジを
平山は 少し悩んでから声をあげた。
「ちょっと待て・・・!一緒に行動したほうがいいんじゃないか・・・?」
「そりゃあ・・・そうだが・・・・」
「田中沙織が持ち出していったのは、チップや武器だけじゃない。
参加者全員に平等に渡された、食料や飲料水、地図、時計やコンパス・・・・。
それら全部失って・・・・
おまえ・・・足を怪我してる上に・・・一人で何も持たずに歩き回ってちゃ・・・危ないだろう・・・!」
「だが・・・あんたはあんたの目的があるんだろ・・・・?
どこか・・・・向かう場所があるんなら・・・一緒に行動しないほうがいい・・・!」
「うっ・・・その通りだが・・・・・」
カイジの目的は、田中沙織を捜し回ること。
平山の目的は、ひろゆきと待ち合わせた事務所へ向かうこと。
両立させるのは難しい。
「オレは死なない・・・・!どんな逆境にあっても・・・・切り抜けてきたんだっ・・・・!
だから・・・平山、あんたも・・・・あんたのやるべきことをやって・・・・」
「あ・・・そうか!待ってろ!」
平山はカイジの言葉を遮ると、デイパックの中身を探り出した。
不思議そうな顔で居るカイジに、平山は言う。
「待ってろ・・・何か・・・役に立つものがあるかもしれねぇからっ・・・!」
「・・・?」
「オレの使わないもの・・・おまえにやるっ・・・・!」
平山はデイパックの中身をボロボロと草っ原に散乱させながらカイジに告げた。
クソっ、と小さく呟きながら物を拾う平山の姿に、カイジは苦笑いし、
拾うのを手伝うべく しゃがみながら答える。
「あんたの支給品はあんたのものだ・・・。
オレが丸腰なのは自分の所為なんだし あんたから何かを貰うわけには・・・・」
「勘違いするなよ!おまえが死んだらオレも困るんだっ・・・・!」
二人の足元には平山の支給品――水や食料、地図、コンパスといったものの他に
参加者名簿、いくつかの冊子、丸いキーホルダーのようなものが転がっている。
「・・・・・・参加者名簿・・・!
これ・・・あんたの支給品なのか・・・・・?」
「あ・・・?あぁ、そうだが・・・・」
田中沙織の支給品だったトトカルチョの倍率付き名簿と、
厚さや見た目は変わらないそれを、カイジは拾い上げた。
ぱらぱらと中身を見るが、そこの倍率は記されていない。
「・・・・同じものじゃないみたいだな」
「それ・・・・やるよ」
カイジが名簿に興味を持ったらしいと気付き、
平山はカイジ向かって声をかける。
「いやっ・・・いいよ・・・あんたのものを貰うわけには・・・・」
「使わねぇし・・・それ。
もう覚えたから・・・・・・持ってても邪魔なだけだ」
「覚えた・・・・?」
手を止めるカイジに、平山は更にいくつかの冊子を突きつけた。
「これも支給されたもんなんだが・・・
島の施設の案内冊子だ・・・・・!
使えるかはわからないが・・・・・持ってけ」
カイジは数冊のそれらを受け取ると、ざっと目を通す。
島内施設――温泉旅館とショッピングモール、ホテルやバッティングセンターについてのパンフレットのようだ。
フロアガイドなどが写真つきでカラフルに並び、
まるで殺し合いの舞台とは思えない明るい雰囲気の場所ばかりが写っている。
「これも・・・・もらっていいのか?」
「それも覚えたからな・・・・もう使わない」
「さっきから覚えた覚えたって言ってるが・・・
あんた、まさか本当にこれだけの情報量を頭に入れたってのか?」
「まぁ・・・・取り柄だからな」
何故か表情を暗くする平山だったが、
カイジは素直に感心していた。
通常、参加者名簿に複数施設のパンフレット、
全ての内容を胸を張って“覚えた”といえるレベルになるまでに
いったい何日かかるだろうか。
「すげぇ記憶力だな・・・・生まれつき脳の作りが違うっていうか・・・・・」
「・・・この頭を使って食ってたみたいなもんだったからな」
平山はその常人離れした記憶力と計算力を駆使し、
長いスパンでみれば信じられないほどの安定感を誇る雀士だった。
しかし、それももう過ぎた話。
カイジのように素直に褒めてくれる人間は、
浦部との戦い以降平山の周りから消えてしまっていた。
純粋に能力を褒められたのは何時以来だろうか。
平山は複雑な心境で、食料をデイパックに詰め込んだ。
そして平山は地図を拾い上げ、悩む。
島のマップは参加者の生命線だ。
これを持たない状況で人捜しなど、あまりに無謀。
無論、地図の内容もすべて、平山は暗記している。
しかし、これに関しては手放してしまうことに少しの抵抗があった。
平山の思いを知ってか知らずか、カイジは小さく呟く。
「あんたに会えて助かったな・・・」
平山はその発言で随分久しぶりに――自分が認められた気がした。
カイジがどのような意味を込めて漏らした言葉かはわからないが
それでも、人から必要とされた感覚が、確かに湧いたのだ。
(これも・・・・・渡しておくか)
地図を掴む右手を見つめながら、平山は思う。
カイジの言葉で舞い上がったわけではない。
自分の駄目具合は、自分自身で理解していた。
だが、嬉しかった。
この島に来て・・・・否。
ゲームが始まる以前から・・・・・平山を同等と見てくれた人間がどれだけいただろうか。
格下・・・三流・・・・そういった目で見られることに慣れてしまった平山にとって、
カイジの、同じ立場からの言葉が――同じ立場からの言葉だと聞こえたそれが、
無性に嬉しかったのだ。
平山は黙ってカイジの手元に地図を投げやる。
「いや・・・流石に地図は・・・」
目を丸くするカイジに、平山は言い返した。
「いいか?おまえを助けるためじゃない・・・!
オレが生き残るために・・・おまえに死なれちゃ困るから言ってるんだ」
「そりゃ・・・そうだが・・・・・」
「オレは地図の内容も完全に覚えている・・・・!
その上、これから向かうのは既に一度訪れた場所なんだ・・・・!」
アトラクションゾーンの事務所。
最初に会った場所で、ひろゆきと平山は待ち合わせる予定だった。
そこまでのルートは難しいものではなく、
地図を見ずとも辿り着けるだろう。
島内地図を正確に暗記している平山ならば、
尚のこと地図現物に頼ることはない。
「それに・・・・オレには“当て”がある。
地図をもう一枚手に入れることが出来る当てがある・・・!」
そう。平山も彼なりに考えた上で、カイジにこの提案をしている。
ひろゆきは二人分の支給品を持っていた。
つまり、二枚地図を持っているということ。
この先地図が必要になる可能性は否定できないが、
要は、ひろゆきと落ち合った暁に、一枚を譲り受ければいいだけの話なのだ。
「カイジ・・・おまえが死ねば・・・オレの死ぬ確率は跳ね上がる・・・・!
なぜなら・・・・・おまえはオレの命を操作できる人間・・・・・利根川に関係してるから・・・・!」
カイジと平山は、互いに互いが生きながらえていくことを望んでいる。
平山が死ねば、カイジは貴重な“仲間”を一人失うことになる。
誰も死んでほしくないという人情的な部分を差し引いても
これだけ記憶力に優れた部分を見せられたあとでは、
失うに惜しい人材であるといえる。
更に、彼の首輪に装着された針具は、首輪解体の鍵になるかも知れないものだ。
平山もまた、カイジが死んでしまう事態は回避したい。
元より、人命を賭けたギャンブルには否定的な平山。
自身の生死が関わるとなれば尚のことである。
死にたくない。こんなふざけたゲームで命を落とすなどということは・・・。
しかし、まるで首に手をかけられているような現状、
何にしても、利根川との関係を打ち切らなければ埒が明かないのだ。
その利根川と関わりをもつカイジの助けが、今後も必要になる可能性は高い。
カイジが死んでしまえば、平山が頼りに出来る人間はひろゆきだけ。
そもそもカイジ死亡後、利根川は平山の利用を放棄し、首輪を起爆させることさえ考えられる。
カイジは思った。
この平山幸雄という男は、本来このような――人に自分の物資を分け与えるような人間ではない、と。
臆病で、頭でっかちな・・・凡夫と呼ばれてしまうような男なのではないか。
だが・・・・今目の前に居る平山は、
本来の彼がどんな性質であれ・・・カイジの助けとなっている。
「わかった・・・・」
カイジは平山から地図を受け取り、懐にしまいこんだ。
平山はそれを見届けると、大きく深呼吸をしながら、
残りの支給品をデイパックに詰めなおす。
草の上には丸いキーホルダーだけが残る。
「さっきから気になってたんだが・・・・このキーホルダーはなんだ?」
カイジは青いそれを摘み上げると、平山に聞いた。
「あぁ・・・
使い方がわからないんだ。折角 紙以外の支給品なんだが・・・」
手のひらに収まる大きさ。
頭の部分に金属でホルダーがついており、
下部から白い紐が伸びていた。
「これ・・・防犯ブザーだな・・・・」
しばらく手の中で転がしてから、
カイジは意外そうな声で、平山に告げる。
「は・・・?防犯ブザー?なんだそれ」
平山はその上をいく反応で、カイジに尋ねた。
「あぁ・・・この紐を引っ張ると、大音量で鳴るんだ。
周りの人間に、気付いてもらうためのアイテムだな」
下手に触らずにおいて良かった、と平山は安堵した。
この島で大音量を響かせるなど自殺行為である。
数時間前、拡声器を通した音声が島中に渡ったが、あの声の主も無事ではあるまい。
「じゃあ・・・使い物にならないな・・・・。
そんな、人を呼び寄せるような支給品は・・・・」
平山は少し落胆した様子で、防犯ブザーをデイパックにしまおうとする。
「いや・・・待て・・・・・・。もしかしたら使う機会がくるかもしれない。
すぐに取り出せるところに入れといたほうがいいんじゃないか」
「使う機会?」
「それがどんなときかは・・・・・わからないが・・・・!
・・・・この島じゃ、何が役に立つかなんて決められないだろ・・・?」
カイジの言葉に、平山は大人しく防犯ブザーをポケットにしまう。
誤って鳴らしてしまうことだけは避けなければならないが、
カイジの言うとおり“使う機会”がいつか来るかもしれないのは事実だと思ったからだ。
「これ・・・ありがとう」
名簿とパンフレットを懐に納めながらカイジは言った。
武器にはならないが、何も持たないよりは遥かにマシだ。
腹部に沿ってしまっておけば、カッターの刃くらいならば防ぎうる盾になるだろう。
ここで平山に会い、物を分けてもらったことは本当に幸運だった。
田中沙織とも・・・無事に再会できればいいのだが。
「そろそろ・・・オレは行くが・・・平山・・・生き残れよ・・・。
こんなこと言っちゃなんだけど・・・あんたは・・・“使える人間”だ・・・!
誰から見てもそうだ・・・!それだけの記憶力があれば・・・!
だったら・・・あんた自身が使え・・・!
卑屈になるなっ・・・・!あんたがあんたを使うんだ・・・!
セコい真似してでも・・・生き残れっ・・・・・・」
そう告げて、立ち去ろうとするカイジの背中に、
平山も呼応するように声をあげる。
「カイジっ・・・!おまえも死ぬなよ!
利根川を倒して・・・・オレを救い出してくれよっ・・・!」
「ああ・・・」
カイジは真っ直ぐな目線で、平山に答えた。
「・・・三度目も・・・お互い無事に・・・生きて会うんだ・・・・・!」
カイジは不思議と・・・平山幸雄とはまた会えるような気がした。
実際にこの島で再会をするというのは、難しいことではない。
待ち合わせ場所を定めておけば、
イレギュラーな事態に巻き込まれない限りは、そこで会えるのだ。
とはいえ――そのイレギュラーな事態が氾濫しているからこその狂気の島なのだが。
しかし、平山と待ち合わせをする必要性を、カイジは感じなかった。
平山は彼なりにやるべきことをして、
カイジはカイジの使命を果たし、
そしてまた会えたとき・・・その時は共に行動しよう。
心の中で平山に語りかけながら、カイジは歩き始める。
平山幸雄はカイジの背中が木陰に消えるのを見送ってから・・・
はっと時計を見、その長針の進み具合に焦りつつ、慌てたようすで事務所へと向かった。
* * *
平井銀二は少し離れた草の茂みから、
伊藤開司と平山幸雄が別れる様子を眺めていた。
平山を尾行したのは正解だった。
先刻、あの顔に傷を持つ男との出会い頭に平山が漏らした「カイジ」という単語。
そこから、平山がいくつかの物資を譲った相手は伊藤開司なのだろうとわかる。
僥倖だ。話に聞いたカイジに、こんなにも早く会うことが出来るとは。
平山の話していたことが事実ならば、カイジはそれなりに見所のある人間に思える。
彼らの比較的穏やかな対話具合からして、
平山とカイジは初対面ではなく、また 敵対関係にあるわけでもない。
つまり――彼らは平山の言っていた通りの関係だという可能性が高い。
必然的に、平山の述べたカイジについての話も信憑性が増す。
(強運、度胸、図太さ・・・あるだろうか。カイジという青年には・・・・)
やはり森田・・・森田鉄雄に会えればこの上ない。
しかし、見込みのある人間と接触を計っていくことは
このゲームにおける平井銀二の指針の一つである。
(平山がこれから向かうのはおそらく“ひろゆき”との待ち合わせ場所だろうな)
二人の様子を見た限り、彼らの再会は偶然だろう。
平山の目的は、カイジではなかった。おそらく“ひろゆき”に会うことだ。
ひろゆきについては原田から話を聞いているため、幾らかの興味がある。
(とはいえ・・・カイジ・・・。こちらも興味深い男だ)
一方のカイジも、何か目的があって行動しているらしいことは見て取れる。
(興味の対象が二つあったところで、この身は一つ。さて・・・・どちらを追うか・・・・・)
【D-3/アトラクションゾーン/夜中】
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所)
[道具]:果物ナイフ 地図 参加者名簿 島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、
旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
[所持金]:なし
[思考]:田中沙織を捜す 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。
※アカギのメモから、主催者はD-4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※脱出の権利は嘘だと確信しました。
【平山幸雄】
[状態]:左肩に銃創 首輪越しにEカードの耳用針具を装着中
[道具]:支給品一式 防犯ブザー
[所持金]:1000万円
[思考]: ひろゆきとの待ち合わせ場所に急ぐ 田中沙織を気にかける 利根川から逃れる術を探る
※ひろゆきと21時にアトラクションゾーン事務所(C-4)で落ち合う約束をしました。
※利根川に死なれたと思われていることを知りません。
※脱出の権利は嘘だと知りました。
【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧、不明支給品0~2、支給品一式
[所持金]:1300万
[思考]:生還、森田と合流、見所のある人物を探す 平山かカイジ、どちらを尾行するか決める
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※次の定時放送までに原田とバッティングセンター前で再会する約束をしました。
|086:[[猛毒]] |COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|088:[[希望への標(前編)]][[(後編)>希望への標(後編)]]|
|091:[[渇望]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|085:[[同士]]|
|075:[[四槓子]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:伊藤開司|090:[[抵抗]]|
|080:[[十八歩]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 平山幸雄|098:[[追懐]]|
|080:[[十八歩]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 平井銀二|090:[[抵抗]]|
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