「勇と金」(2009/11/26 (木) 00:09:32) の最新版変更点
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勇と金 ◆ZAWA2.Ysis氏
あれから、半年ほど経った頃だ。
G県、神威ビルでの惨劇の夜、あれほど心酔していた平井銀二と袂を分かち、森田鉄雄はただ無為な日々を過ごしていた。
金はまだ十分すぎるほどある。
無理に働く必要はないが、何もしていない事に耐えられず、日雇いで肉体労働などをするが、長くは続かない。
疲れ果てた。
うんざりだ。
あの夜の事は森田鉄雄という男を完膚無きほどにたたきのめした。
死ぬの、殺すの…金を奪うの…奪われるの………。そんな世界には、心底うんざりしていた。
それでも…。
いっそ、今持っている金を抱えて東南アジアかどこか、物価が安く、悠々と暮らせる国にでも飛んでしまえばいいものを…と、そうも思う。
思うが、それはしなかった。
そして森田は相変わらず、金を抱えて寝ている。
何かが、まだ森田の腹の奥底でくすぶっていた。
そんなあるとき、偶然にも帝日銀行頭取の土門と会った。
どうやって当たりを付けたのか、森田を捜していたらしい。
銀二と連絡が取りたい、という。
しかし森田自身、既に半年以上は一切の接触がない。
正直にそう告げると落胆した様子で土門は去っていった。
何かが、ざわついた。
土門は、あの地位にいるにしては驚くほどに人の良い人物で、表情がすぐに顔に出る。
銀二に、何かがあった。
それは想像に難くない。
問いただそうかとも思ったが、自分から袂を別っておきながら何を今更、と自嘲する。
自分は、銀二のことを心配出来る立場ではない。
ましてや、関わり合いになれる立場でもない。
そう思い、そのまま土門とは別れた。
しかし ―――。
「森田…鉄雄さん、だね?」
ビルの谷間の路地で、不意にそう声をかけられる。
おそらくは40才近い、壮年の男。
サングラスをかけ、背広にコート。
遠目に見ればちょっと強面のサラリーマン。
しかし、臭う…。
「 誰だ ……… ?」
森田の経験が、この男がただのサラリーマンなどではなく、社会の裏 ――― いわば、その筋の人間だと知らせる。
「そう警戒しなさんな。
俺はただの金融屋だ」
そう言いつつ、懐から数枚の写真を取り出す。
「………なっ!?」
森田は目を見開き、食い入るようにその写真を見た。
「銀さん…それに、これは…神威家のっ………!?」
数枚の写真の中には、あの平井銀二と、神威家の四男の勝広。私生児で五男の邦男の姿がある。
銀二は一見隠し撮りのような写真だが、勝弘と邦男は…。
(病……院……?)
森田がの知識からは、それは病院と呼べそうな場所に見えた。
白いベッドの上、様々なコードや管に繋がれてはいる姿は、治療中の患者のそれのようだ。
素早く、男はその写真を引っ込める。
「!! 待て、お前…」
「拙いことになってる…そういう事だ」
「何…だと!?」
「平井銀二……神居勝広……吉住邦男……。
後ろの二人は、死んだと思っているかもしれないが、生きている。
十分以上の治療を受けて、今じゃピンピンしているぜ。
ただ………」
じらすように、弄ぶように、そこで言葉を濁す。
「言えっ…!」
森田は男の首根っこを掴んで、ビルの壁に押しつけるようにして聞く。
「ククク…そう吼えるな…。全部聞けよ………。
吼えてなんとかなるなら、俺だってそうしてるぜ……」
その言葉に、森田の中で何かが反応し、矛先を治める。
「…いいか。今は無事だ。全員な…。
だが、これからは………分からん」
襟首を正しながら、サングラスの男は続ける。
「3人とも、これからあるギャンブルに参加することになっている………。
絶海の孤島………法の外………。
そんな場所で、だ………」
「絶海の孤島」、「法の外」。
その言葉の意味が、森田には分かる。
蔵前の地下麻雀。
あのときの事が頭を過ぎる。
あのときも、森田は死を覚悟し、そしてまた銀二すらもそうだった。
「………くっ………!」
俺にはもう関係ない。
その一言を口にすれば良い。
それは分っていた。
「………くそっ! くそっ! くそっ! クソヤロウ………!」
分かっていながら、森田の口からはまるで違う言葉が吐き出される。
「………どこだっ………!? 俺を…連れて行けっ………!!」
森田は、哭いていた。
それが、森田鉄雄がこのバトルロワイアルに参加した経緯だ。
勿論、森田自身、実際に行われるギャンブルというのが、殺し合い等という途方もないモノだなんて事は想像だにしていなかっただろう。
その森田を案内する役回りをしたこの俺だってそうだ。
遠藤はそう独りごちる。
沼 ――― カイジと連み、そしてまんまとカイジをハメて大金をせしめ、起死回生を遂げたはずの遠藤が、何故バトルロワイアルに等に参加させられているのか。
有り体に言えば、遠藤も又ハメられたのだ。
帝愛グループの中は、完全な実力社会だ。
騙され、ハメられれば、ハメられた方が悪い。
儲けるヤツが正しく、損をするヤツが間違っている。
だから、沼で勝った遠藤と、負けて億の損害を出した一条の間では、敗者である一条が一方的に悪い。
その損益を、勝ち負けを反古にして暴力で強引に取り立てる。
そんな真似を帝愛がすることはない。示しが付かないからだ。
だが。
ハメてしまえば、それはアリだ。
遠藤はあまりの大勝と、そして閉めの間際にカイジをハメて予定以上の儲けを出した事に気をよくし…その後結局帝愛にハメられた。
全てを失い、さらには帝愛からのさらなる負債を背負わされる始末………。
本来ならば即………地下送り………だが、その代わりに、あるギャンブルに参加しないか?
その申し出に、遠藤は結局は飛びつかざるを得なかった。
負ければ過酷。とんでもない運命が待っていると知りつつ、地下で数年生き延びて死ぬよりはマシ…。そう思った。
それに、特別計らいのボーナスがあった。
参加者候補の人間を捜し出し、誘い出してくれば、ある程度のボーナスが得られる。
その申し出も当然受ける。
ボーナスも魅力だが、事前に他の参加者の人となりなり癖なりを知れば、間違いなくギャンブルは有利になるし、或いは巧く騙してはめることも出来るかも知れない。
人捜しは慣れたモノだし、そして難なく数人を探し当てた。
その一人が、森田鉄雄だった。
森田はカイジに似ている。
根がお人好しで、激情家。
が、カイジよりもより深い修羅場をくぐっている。
さらに、身体的な能力なら、カイジよりかなり上だ。
知略で騙すのは難しいかもしれないが、利用は出来る。
遠藤は、森田鉄雄のことをそう踏んでいる。
だから、出口から外に出されて、人を待った。
出会った人間を手当たり次第に殺していこうなどと考えていたら、このゲームでは生き残れない。
なんとか、共同戦線を張る。そして利用して……良い機を得るまで、待つ。まずはそこからだ。
会場内のいくつかの出口から、森田と同じ位置に出たのは幸運だった。
遠藤が知った参加者の中で、森田ほどの適任者はそうは居ない。
出口から出た森田は、辺りを注意深く確認し、素早く茂みの中へと進む。
その後ろを、遠藤はつける。
ボーナス ……… 遠藤の支給品 ……… 「参加候補者名簿」を手にしながら。
【C-6/森/真昼】
【森田鉄雄】
[状態]: 健康
[道具]: 不明支給品0~3
[所持金]: 1000万
[思考]:銀二らと合流し、なんとか殺し合わずに済む方法を模索する。
【遠藤勇次】
[状態]: 健康
[道具]: 不明支給品0~2(本人確認済み)、参加候補者名簿
[所持金]: 1000万
[思考]: 森田を利用して生き延びる。
※森田鉄雄以外数人の参加者を勧誘した可能性があります。
※参加候補者名簿
これは遠藤が参加者候補を探しに行くときに使った名簿で、参加候補者数十人の名前、顔写真、その他周辺情報のデータが書かれています。
ただし、「参加者全員」 の名簿ではなく、あくまで「候補者」 の名簿な為、抜けていたり、名簿にはいるものの結局参加しなかった者もいます。
詳細もあまり正確ではありませんし、参加者が確定された後に製作された、より正確な名簿が誰かに支給されている可能性もあります。
|001:[[本質]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|003:[[罠]]|
|001:[[本質]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|003:[[罠]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:森田鉄雄|023:[[情報]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:遠藤勇次|023:[[情報]]|
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**勇と金 ◆ZAWA2.Ysis氏
あれから、半年ほど経った頃だ。
G県、神威ビルでの惨劇の夜、あれほど心酔していた平井銀二と袂を分かち、森田鉄雄はただ無為な日々を過ごしていた。
金はまだ十分すぎるほどある。
無理に働く必要はないが、何もしていない事に耐えられず、日雇いで肉体労働などをするが、長くは続かない。
疲れ果てた。
うんざりだ。
あの夜の事は森田鉄雄という男を完膚無きほどにたたきのめした。
死ぬの、殺すの…金を奪うの…奪われるの………。そんな世界には、心底うんざりしていた。
それでも…。
いっそ、今持っている金を抱えて東南アジアかどこか、物価が安く、悠々と暮らせる国にでも飛んでしまえばいいものを…と、そうも思う。
思うが、それはしなかった。
そして森田は相変わらず、金を抱えて寝ている。
何かが、まだ森田の腹の奥底でくすぶっていた。
そんなあるとき、偶然にも帝日銀行頭取の土門と会った。
どうやって当たりを付けたのか、森田を捜していたらしい。
銀二と連絡が取りたい、という。
しかし森田自身、既に半年以上は一切の接触がない。
正直にそう告げると落胆した様子で土門は去っていった。
何かが、ざわついた。
土門は、あの地位にいるにしては驚くほどに人の良い人物で、表情がすぐに顔に出る。
銀二に、何かがあった。
それは想像に難くない。
問いただそうかとも思ったが、自分から袂を別っておきながら何を今更、と自嘲する。
自分は、銀二のことを心配出来る立場ではない。
ましてや、関わり合いになれる立場でもない。
そう思い、そのまま土門とは別れた。
しかし ―――。
「森田…鉄雄さん、だね?」
ビルの谷間の路地で、不意にそう声をかけられる。
おそらくは40才近い、壮年の男。
サングラスをかけ、背広にコート。
遠目に見ればちょっと強面のサラリーマン。
しかし、臭う…。
「 誰だ ……… ?」
森田の経験が、この男がただのサラリーマンなどではなく、社会の裏 ――― いわば、その筋の人間だと知らせる。
「そう警戒しなさんな。
俺はただの金融屋だ」
そう言いつつ、懐から数枚の写真を取り出す。
「………なっ!?」
森田は目を見開き、食い入るようにその写真を見た。
「銀さん…それに、これは…神威家のっ………!?」
数枚の写真の中には、あの平井銀二と、神威家の四男の勝広。私生児で五男の邦男の姿がある。
銀二は一見隠し撮りのような写真だが、勝弘と邦男は…。
(病……院……?)
森田がの知識からは、それは病院と呼べそうな場所に見えた。
白いベッドの上、様々なコードや管に繋がれてはいる姿は、治療中の患者のそれのようだ。
素早く、男はその写真を引っ込める。
「!! 待て、お前…」
「拙いことになってる…そういう事だ」
「何…だと!?」
「平井銀二……神居勝広……吉住邦男……。
後ろの二人は、死んだと思っているかもしれないが、生きている。
十分以上の治療を受けて、今じゃピンピンしているぜ。
ただ………」
じらすように、弄ぶように、そこで言葉を濁す。
「言えっ…!」
森田は男の首根っこを掴んで、ビルの壁に押しつけるようにして聞く。
「ククク…そう吼えるな…。全部聞けよ………。
吼えてなんとかなるなら、俺だってそうしてるぜ……」
その言葉に、森田の中で何かが反応し、矛先を治める。
「…いいか。今は無事だ。全員な…。
だが、これからは………分からん」
襟首を正しながら、サングラスの男は続ける。
「3人とも、これからあるギャンブルに参加することになっている………。
絶海の孤島………法の外………。
そんな場所で、だ………」
「絶海の孤島」、「法の外」。
その言葉の意味が、森田には分かる。
蔵前の地下麻雀。
あのときの事が頭を過ぎる。
あのときも、森田は死を覚悟し、そしてまた銀二すらもそうだった。
「………くっ………!」
俺にはもう関係ない。
その一言を口にすれば良い。
それは分っていた。
「………くそっ! くそっ! くそっ! クソヤロウ………!」
分かっていながら、森田の口からはまるで違う言葉が吐き出される。
「………どこだっ………!? 俺を…連れて行けっ………!!」
森田は、哭いていた。
それが、森田鉄雄がこのバトルロワイアルに参加した経緯だ。
勿論、森田自身、実際に行われるギャンブルというのが、殺し合い等という途方もないモノだなんて事は想像だにしていなかっただろう。
その森田を案内する役回りをしたこの俺だってそうだ。
遠藤はそう独りごちる。
沼 ――― カイジと連み、そしてまんまとカイジをハメて大金をせしめ、起死回生を遂げたはずの遠藤が、何故バトルロワイアルに等に参加させられているのか。
有り体に言えば、遠藤も又ハメられたのだ。
帝愛グループの中は、完全な実力社会だ。
騙され、ハメられれば、ハメられた方が悪い。
儲けるヤツが正しく、損をするヤツが間違っている。
だから、沼で勝った遠藤と、負けて億の損害を出した一条の間では、敗者である一条が一方的に悪い。
その損益を、勝ち負けを反古にして暴力で強引に取り立てる。
そんな真似を帝愛がすることはない。示しが付かないからだ。
だが。
ハメてしまえば、それはアリだ。
遠藤はあまりの大勝と、そして閉めの間際にカイジをハメて予定以上の儲けを出した事に気をよくし…その後結局帝愛にハメられた。
全てを失い、さらには帝愛からのさらなる負債を背負わされる始末………。
本来ならば即………地下送り………だが、その代わりに、あるギャンブルに参加しないか?
その申し出に、遠藤は結局は飛びつかざるを得なかった。
負ければ過酷。とんでもない運命が待っていると知りつつ、地下で数年生き延びて死ぬよりはマシ…。そう思った。
それに、特別計らいのボーナスがあった。
参加者候補の人間を捜し出し、誘い出してくれば、ある程度のボーナスが得られる。
その申し出も当然受ける。
ボーナスも魅力だが、事前に他の参加者の人となりなり癖なりを知れば、間違いなくギャンブルは有利になるし、或いは巧く騙してはめることも出来るかも知れない。
人捜しは慣れたモノだし、そして難なく数人を探し当てた。
その一人が、森田鉄雄だった。
森田はカイジに似ている。
根がお人好しで、激情家。
が、カイジよりもより深い修羅場をくぐっている。
さらに、身体的な能力なら、カイジよりかなり上だ。
知略で騙すのは難しいかもしれないが、利用は出来る。
遠藤は、森田鉄雄のことをそう踏んでいる。
だから、出口から外に出されて、人を待った。
出会った人間を手当たり次第に殺していこうなどと考えていたら、このゲームでは生き残れない。
なんとか、共同戦線を張る。そして利用して……良い機を得るまで、待つ。まずはそこからだ。
会場内のいくつかの出口から、森田と同じ位置に出たのは幸運だった。
遠藤が知った参加者の中で、森田ほどの適任者はそうは居ない。
出口から出た森田は、辺りを注意深く確認し、素早く茂みの中へと進む。
その後ろを、遠藤はつける。
ボーナス ……… 遠藤の支給品 ……… 「参加候補者名簿」を手にしながら。
【C-6/森/真昼】
【森田鉄雄】
[状態]: 健康
[道具]: 不明支給品0~3
[所持金]: 1000万
[思考]:銀二らと合流し、なんとか殺し合わずに済む方法を模索する。
【遠藤勇次】
[状態]: 健康
[道具]: 不明支給品0~2(本人確認済み)、参加候補者名簿
[所持金]: 1000万
[思考]: 森田を利用して生き延びる。
※森田鉄雄以外数人の参加者を勧誘した可能性があります。
※参加候補者名簿
これは遠藤が参加者候補を探しに行くときに使った名簿で、参加候補者数十人の名前、顔写真、その他周辺情報のデータが書かれています。
ただし、「参加者全員」 の名簿ではなく、あくまで「候補者」 の名簿な為、抜けていたり、名簿にはいるものの結局参加しなかった者もいます。
詳細もあまり正確ではありませんし、参加者が確定された後に製作された、より正確な名簿が誰かに支給されている可能性もあります。
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