「回想」(2009/10/25 (日) 05:54:23) の最新版変更点
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**回想 ◆6lu8FNGFaw氏
視線の先にあるベンチ。
それを脳が認識した途端、疲労感が体を重くさせる。
半日ずっと歩き通しなのだ。
(やれやれ…)
アカギはベンチに座ると、無造作に足元の地面にジェラルミンケースを放り出した。
精神のみで活動できるなら、どれ程自由でいられるだろうか…?
まるでこの肉体は、己の魂を縛る枷のようだ。
枷だと思うからこそ、「肉体」…精神の「入れ物」に対する執着が無い。
担いでいたデイパックを降ろし、水を取り出して飲む。
体の渇きは癒されようとも、心の渇きは未だ満たせず…物心ついたころからずっと…。
アカギは今までの経緯を思い出していた。
◆
「赤木しげるさん…ですね…?」
とある街の雀荘から出てきたところを、サングラスをかけた黒ずくめの男に呼び止められた。
「アンタは…?」
「訳あって私の身分は明かせません…。ある方が貴方の才能に着目され、貴方を欲しておられます」
「悪いけど、どこの組の代打ちだろうが、興味ないんで…」
「いえ、そういった話ではございません…。貴方には、殺し合いのゲームに参加していただきたいのです」
赤木はじっと黒ずくめの男を見た。男は小さく笑う。
「興味を持たれましたか…?やはり貴方は変わったお方だ…。
貴方には、どうせ見抜かれてしまうから正直に話せ、と上から指示されております。
そして、その方がきっと同行して頂けるからと…。」
「殺し合いのゲームというのは…?」
「…とある島に、あらゆる世界での猛者たちを集め、開催される予定です。
そこで互いに命がけの戦いをしていただく…。
野蛮な殺し合いだけではなく、島に点在する専用施設に於いて、賭博でも戦っていただく…。
そこで賭けるものは何だっていいのです。金でも、腕一本でも、命でもいい。
命がけの、ギリギリのゲーム…面白いと思いませんか…?」
「フーン…。お宅らは、調べ尽くしてるって訳だ…俺について…。」
アカギは薄く哂うと、じっと男のサングラスの奥を覗き込む。心を見透かすように。
男はわずかにたじろいだ。
「だが…気にいらねえな、そのゲーム」
「は………何故です?」
「ゲームに参加する他の参加者を、どうやってその島に連れてくるんだ…?
アンタの口ぶりだと、殺し合いの島と知らずに連れて来られるような連中もいるんだろう…。
そのゲームを企画した奴らは…?高見の見物ってわけかい…?」
男は後ずさりでアカギと距離をとり、焦りを隠すように含み笑いを漏らした。
「…いいじゃないですか、他の参加者の事情など…。 他人のことです…。
企画者についての事はお話はできません…。
もし気に入らないのであれば、そのように動いてくだされば良いだけのこと…。貴方の自由です…!」
『そのように動く』…、対主催としての立場を取るのも自由だ、という意味である。
『自由』…、それは決して肯定ではない…。
当然、『主催側も相応の処置を取るぞ』ということ…!
アカギは飽いていた。
鷲巣との麻雀…あの壮絶な一夜の後に戻ってきた『日常』に。
絶望的に飽いていた。
(行こう…。もう一度…死線を潜りに……。)
こうして、アカギはこの島へと連れて来られた。
悪夢の開幕式が終わり、いの一番に名を呼ばれ、アカギはゲームのスタートを切った。
開幕直後、ある人物と遭遇した。
明らかに堅気でない風貌のその男は、アカギを『伝説の代打ちと同じ名を持つ天才』と評した。
だからアカギに興味を持ったのだと。
最初は、また平山のような偽者が出たのか、と呆れながら聞いていた。
誰かと比べて『本物』だ何だと言われ、面白い訳が無い。
だが…原田と名乗る男がその『天才』について話すたび、
良く分からない何かが…心の奥底で何かが引っかかった。
その違和感を探るため、原田の提案する『試験』を受けた。
結果、原田が対主催として共闘するに相応しい人物であることは分かったが、
引っかかりについては分からずじまいであった。
原田は味方を集めることを提案した。
アカギは、F-6のホテルを拠点にすることを提案した。
だが、このときアカギは全く別のことを考えていた。
味方を引き連れて歩くより、ホテルを拠点にするより、先にやってしまわなければならないことがある。
過去に主催者が開催したゲームを知る者からの情報収集。
首輪についての情報収集。
情報戦を制するには、ゲームが始まって間もない今が、行動を起こすべき時であった。
それには、自由に身動きができる単独行動が望ましい。
そう考えているところへ平井銀二と出会った。
平井銀二は、あっさりとアカギの考えを見抜き、アカギを開放した。
そして、首輪に関する情報を持っていると示唆した。
開放されてすぐ鷲巣と出会った。
あれだけの戦いの後で、アカギに対して戦意喪失している様子の無い鷲巣…。
このゲームに於いて、敵に回せばやっかいだが、味方にすればこれほど頼もしい味方もいない。
鷲巣には天性の剛運があるのだから。
その後鷲巣と別れ、首輪を探して歩いているところにカイジという男と出会った。
その男は、主催者の組織の一つ、『帝愛』に関する情報を持っていた。重要な情報を。
◆
半日経って振り返ってみれば、ここまで順風満帆といった状況である。
だが、アカギは感じていた。予感があった。
追い風から向かい風への変化…。
これから来る苦境…逆風を…………………。
それがいつ来るかまでは分からない。一時間後か…、または一日後か…。
アカギは懐からメモ帳を取り出した。
そのメモ帳には『第二回放送後 病院内を探索』と書かれていた。
アカギが鷲巣と別れる直前、鷲巣との筆談で使っていたメモである。
鷲巣と放送前に病院前で合流し、放送を聞いてから病院の中に入る手筈になっていた。
病院には二つ用事がある。
治療器具の調達と、武器の調達。
包帯やガーゼなどを持っていれば、誰かが怪我をすることがあっても対応できる。
メスや鋏などの刃物があれば、襲われる事があっても応戦できる。
アカギはメモ帳を胸のポケットに仕舞った。
食事を摂っておくなら今しかない。
アカギはデイパックから食パンを取り出し、袋を破いて食べ始めた。
本来なら主催の用意した物など口にしたくは無いが、主催が毒を仕込むことは無いと踏んでいた。
カイジに話を聞いて、このゲームが『見世物』として催されている可能性が高いと分かったからだ。
『見世物』であれば、主催の用意した食事で毒殺、などという陳腐なシナリオは描かないであろう。
見世物として成り立たなくなる。
それを確信したからこそ、アカギはこのタイミングで食事を始めたのだった。
食事を終えた頃、不意に、林の奥からバラララッと乾いた銃声が聞こえた。
アカギは銃声のする方角に首を回した。
フェンス越しに林の奥に目を凝らしてみても、木々に遮られて見えない。
それ以降音はぴたりと止んだ。
「……………………」
しばらくその方角にじっと耳を済ませていると、微かに女の声が聞こえた。
「… んでっ…? なんでよ………」
カチッ、カチッと軽い金属音が聞こえる。
「… われたのっ…? んで…動か…ないのよおっ………」
微かな声を頼りに、アカギは状況を推理した。
(女が他の参加者に銃を使った…。
だが、急に何らかの原因で銃が使えなくなった。
女は誰かに向かって発砲したが、殺しきれなかったのだ。
相手は銃火器を持っていない。
持っていれば、女がもたもたとしている間に、相手が女を殺せるはずだから…)
若い男の声と、女の言い争う声が聞こえる。
(何にせよ…ここからでは状況は分からない)
危険は百も承知だが、近寄って状況を把握することにした。
今なら、声の主達の混乱に紛れて近寄ることができる。
アカギはフェンスの下を見つめた。地面とフェンスの間に、少し隙間がある。
ぎりぎり小さい子供なら通り抜けられるが、大人には通り抜けられない程度の隙間。
隙間からジェラルミンケースを押し込み、フェンスの向こうへ潜らせた。
そうしておいて、自分はデイパックを背負いフェンスを登り始める。
フェンスを登る際、一部ワイヤーが出っ張っている箇所があった。
胸ポケットのメモ帳がワイヤーの先に引っかかり、メモの一部が破れてひらひらと舞い、ベンチに落ちた。
その時、下方から男の声が聞こえた。
「待てっ…!」
「………………」
この状況で『待て』と言われ、待つ者はいない。
アカギはさっとフェンスを乗り越えると、フワ…と地面に飛び降りた。
ジェラルミンケースを拾い上げ、早足でその場を離れる。
「赤木さんっ…!」
フェンス越しに見ず知らずの男が名を読んだ。聞き覚えの無い声だった。
だが…その声に…
良く分からない何かが…心の奥底で何かが引っかかった。
(何だ……………………?)
原田と会ったときにも感じた、あの感じ。
正体不明の何かが心を…魂をざわつかせる。
胸中に違和感を残したまま、アカギは銃声の聞こえた方へと歩いた。
木陰から遠目に、先程聞こえた男女の声の正体を確認した。
(女のほうは田中沙織…。先程カイジと行動を共にしていた女だ。
それが一人でこんな所で銃を振り回している…。カイジという男は殺されたか…?
火傷跡のある男のほうはまだ14~5歳くらい…銃で撃たれたはずだが、うまく弾が外れたか…)
男が女の銃器を蹴り飛ばし、女に勝敗を宣言している。
アカギはそこまでを見届けると、その場を立ち去った。
フェンス沿いに林を歩いていくと、C-4、アトラクションゾーンの入場口に出た。
入場口の周囲にはチケット売り場があり、その奥に事務所らしき建物がぽつんと見える。
アカギは入場口のゲートを抜け、再びアトラクションゾーンに入った。
北に向かってしばらく歩くと、広場になっている場所があり、平地の中央に死体が転がっていた。
見覚えのある顔だった。
浦部は首筋を切られ、仰向けに横たわっていた。
アカギは足元の死体を黙って見下ろしていた。
その目には、何の感情の変化も見られなかった。
アカギはデイパックからロープを取り出すと、横に倒したジェラルミンケースの取っ手に括りつけた。
そのまま浦部の胴体にもロープを回す。
ジェラルミンケースの上に浦部の死体を乗せると、ロープを引っ張った。
ズルズルと地面に後を残しながら、アカギは北へと歩いていった。
B-4で有賀の死体を見つけ、それも浦部の死体と同様にケースに括り付ける。
これ以上は重すぎて乗せられそうに無かった。
ふたつの死体をケースに乗せたまま、今度は数本のロープを繋いで最大限まで長くなるように伸ばした。
作業が済み、一旦死体を置いたまま、アカギは歩き出した。
方位磁石を見ながら、B-4から真っ直ぐ西の方角へと、一歩ずつゆっくりと歩を進める。
やがて、アカギの首輪から警告音が発せられた。
開会式で聞いた警告音より少し長めの、間の抜けたビーッ、ビーッ、という音が響き、
アカギは半歩後ろに下がった。警告音が消える。
(なるほど…ここから先がB-3…)
その場にしゃがみ込むと、近くに落ちていた白い小石で地面に線を引く。
死体を括りつけたケースを引っ張ってきて、線を引いたところに配置する。
アカギは踵を返すと、伸ばしたロープの端を持ったまま、禁止エリアのB-3を、大きく弧を描くように迂回する。
C-3まで戻ると、そのまま強くロープを引っ張った。
ロープの端…、ジェラルミンケースは地面を引きずられ、B-4からC-3へ南西方向に直進する。
その途中で『禁止エリアのB-3』を通る。
B-3を通るとき、ケースの上に括られている浦部と有賀の首輪が、禁止エリアに反応する。
ビーッ、ビーッという警告音はやがて音の感覚が短くなり、ピピピピピピ…という電子音に変わる。
音が変わってから十秒くらいだろうか。
二つの首輪は、ほぼ同時に、ボシュッ…という音と共に爆発した。
アカギは二つの死体を括っていたロープを外す。
爆発して壊れた首輪を、割れて脆くなっているところから引き千切った。
焦げた首輪からどこまで分析ができるかは不明だが、これで首輪の内部構造を調べることが出来る。
扱いに気をつける必要も無い。
ふと顔を上げると、近くの木に子供の首が吊るされているのが目に入った。
「………………」
(首輪が無い。先を越されたか…)
近くに寄っていき、標の首を観察した。
切断面を見るに、糸鋸のような刃物で切られている。口には何も書かれていないメモが挟んである。
(……いや、このメモに印刷されている名前…。ふうん…。だいたいのアタリはついた…)
死体はC-3に放置し、焼け焦げた首輪とロープをデイパックに仕舞いこむと、アカギはその場を後にした。
【C-4/アトラクションゾーン/夜中】
【赤木しげる】
[状態]:健康
[道具]:五億円の偽札 ロープ4本 不明支給品0~1(確認済み)支給品一式 浦部、有賀の首輪(爆発済み)
[所持金]:600万円
[思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す 死体を捜して首輪を調べる 首輪をはずして主催者側に潜り込む
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※五億円の偽札
五億円分の新聞紙の束がジェラルミンケースに詰められています。
一番上は精巧なカラーコピーになっており、手に取らない限り判別は難しいです。
※2日目夕方にE-4にて平井銀二と再会する約束をしました。
※鷲巣巌を手札として入手。回数は有限で協力を得られる。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※鷲巣巌に100万分の貸し。
※鷲巣巌と第二回放送の前に病院前で合流する約束をしました。
※第二回放送後に病院の中を調べようと考えています。(ひろにメモが渡ったのは偶然です)
※首輪に関する情報(但しまだ推測の域を出ない)が書かれたメモをカイジから貰いました。
※参加者名簿を見たため、また、カイジから聞いた情報により、
帝愛関係者(危険人物)、また過去に帝愛の行ったゲームの参加者の顔と名前を把握しています。
※過去に主催者が開催したゲームを知る者、その参加者との接触を最優先に考えています。
接触後、情報を引き出せない様ならば偽札を使用。
それでも駄目ならばギャンブルでの実力行使に出るつもりです。
※危険人物でも優秀な相手ならば、ギャンブルで勝利して味方につけようと考えています。
※カイジを、別行動をとる条件で味方にしました。
|100:[[借り物の靴]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|102:[[百に一つ]]|
|089:[[残光]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|098:[[追懐]]|
|089:[[残光]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:赤木しげる||
**回想 ◆6lu8FNGFaw氏
視線の先にあるベンチ。
それを脳が認識した途端、疲労感が体を重くさせる。
半日ずっと歩き通しなのだ。
(やれやれ…)
アカギはベンチに座ると、無造作に足元の地面にジェラルミンケースを放り出した。
精神のみで活動できるなら、どれ程自由でいられるだろうか…?
まるでこの肉体は、己の魂を縛る枷のようだ。
枷だと思うからこそ、「肉体」…精神の「入れ物」に対する執着が無い。
担いでいたデイパックを降ろし、水を取り出して飲む。
体の渇きは癒されようとも、心の渇きは未だ満たせず…物心ついたころからずっと…。
アカギは今までの経緯を思い出していた。
◆
「赤木しげるさん…ですね…?」
とある街の雀荘から出てきたところを、サングラスをかけた黒ずくめの男に呼び止められた。
「アンタは…?」
「訳あって私の身分は明かせません…。ある方が貴方の才能に着目され、貴方を欲しておられます」
「悪いけど、どこの組の代打ちだろうが、興味ないんで…」
「いえ、そういった話ではございません…。貴方には、殺し合いのゲームに参加していただきたいのです」
赤木はじっと黒ずくめの男を見た。男は小さく笑う。
「興味を持たれましたか…?やはり貴方は変わったお方だ…。
貴方には、どうせ見抜かれてしまうから正直に話せ、と上から指示されております。
そして、その方がきっと同行して頂けるからと…。」
「殺し合いのゲームというのは…?」
「…とある島に、あらゆる世界での猛者たちを集め、開催される予定です。
そこで互いに命がけの戦いをしていただく…。
野蛮な殺し合いだけではなく、島に点在する専用施設に於いて、賭博でも戦っていただく…。
そこで賭けるものは何だっていいのです。金でも、腕一本でも、命でもいい。
命がけの、ギリギリのゲーム…面白いと思いませんか…?」
「フーン…。お宅らは、調べ尽くしてるって訳だ…俺について…。」
アカギは薄く哂うと、じっと男のサングラスの奥を覗き込む。心を見透かすように。
男はわずかにたじろいだ。
「だが…気にいらねえな、そのゲーム」
「は………何故です?」
「ゲームに参加する他の参加者を、どうやってその島に連れてくるんだ…?
アンタの口ぶりだと、殺し合いの島と知らずに連れて来られるような連中もいるんだろう…。
そのゲームを企画した奴らは…?高見の見物ってわけかい…?」
男は後ずさりでアカギと距離をとり、焦りを隠すように含み笑いを漏らした。
「…いいじゃないですか、他の参加者の事情など…。 他人のことです…。
企画者についての事はお話はできません…。
もし気に入らないのであれば、そのように動いてくだされば良いだけのこと…。貴方の自由です…!」
『そのように動く』…、対主催としての立場を取るのも自由だ、という意味である。
『自由』…、それは決して肯定ではない…。
当然、『主催側も相応の処置を取るぞ』ということ…!
アカギは飽いていた。
鷲巣との麻雀…あの壮絶な一夜の後に戻ってきた『日常』に。
絶望的に飽いていた。
(行こう…。もう一度…死線を潜りに……。)
こうして、アカギはこの島へと連れて来られた。
悪夢の開幕式が終わり、いの一番に名を呼ばれ、アカギはゲームのスタートを切った。
開幕直後、ある人物と遭遇した。
明らかに堅気でない風貌のその男は、アカギを『伝説の代打ちと同じ名を持つ天才』と評した。
だからアカギに興味を持ったのだと。
最初は、また平山のような偽者が出たのか、と呆れながら聞いていた。
誰かと比べて『本物』だ何だと言われ、面白い訳が無い。
だが…原田と名乗る男がその『天才』について話すたび、
良く分からない何かが…心の奥底で何かが引っかかった。
その違和感を探るため、原田の提案する『試験』を受けた。
結果、原田が対主催として共闘するに相応しい人物であることは分かったが、
引っかかりについては分からずじまいであった。
原田は味方を集めることを提案した。
アカギは、F-6のホテルを拠点にすることを提案した。
だが、このときアカギは全く別のことを考えていた。
味方を引き連れて歩くより、ホテルを拠点にするより、先にやってしまわなければならないことがある。
過去に主催者が開催したゲームを知る者からの情報収集。
首輪についての情報収集。
情報戦を制するには、ゲームが始まって間もない今が、行動を起こすべき時であった。
それには、自由に身動きができる単独行動が望ましい。
そう考えているところへ平井銀二と出会った。
平井銀二は、あっさりとアカギの考えを見抜き、アカギを開放した。
そして、首輪に関する情報を持っていると示唆した。
開放されてすぐ鷲巣と出会った。
あれだけの戦いの後で、アカギに対して戦意喪失している様子の無い鷲巣…。
このゲームに於いて、敵に回せばやっかいだが、味方にすればこれほど頼もしい味方もいない。
鷲巣には天性の剛運があるのだから。
その後鷲巣と別れ、首輪を探して歩いているところにカイジという男と出会った。
その男は、主催者の組織の一つ、『帝愛』に関する情報を持っていた。重要な情報を。
◆
半日経って振り返ってみれば、ここまで順風満帆といった状況である。
だが、アカギは感じていた。予感があった。
追い風から向かい風への変化…。
これから来る苦境…逆風を…………………。
それがいつ来るかまでは分からない。一時間後か…、または一日後か…。
アカギは懐からメモ帳を取り出した。
そのメモ帳には『第二回放送後 病院内を探索』と書かれていた。
アカギが鷲巣と別れる直前、鷲巣との筆談で使っていたメモである。
鷲巣と放送前に病院前で合流し、放送を聞いてから病院の中に入る手筈になっていた。
病院には二つ用事がある。
治療器具の調達と、武器の調達。
包帯やガーゼなどを持っていれば、誰かが怪我をすることがあっても対応できる。
メスや鋏などの刃物があれば、襲われる事があっても応戦できる。
アカギはメモ帳を胸のポケットに仕舞った。
食事を摂っておくなら今しかない。
アカギはデイパックから食パンを取り出し、袋を破いて食べ始めた。
本来なら主催の用意した物など口にしたくは無いが、主催が毒を仕込むことは無いと踏んでいた。
カイジに話を聞いて、このゲームが『見世物』として催されている可能性が高いと分かったからだ。
『見世物』であれば、主催の用意した食事で毒殺、などという陳腐なシナリオは描かないであろう。
見世物として成り立たなくなる。
それを確信したからこそ、アカギはこのタイミングで食事を始めたのだった。
食事を終えた頃、不意に、林の奥からバラララッと乾いた銃声が聞こえた。
アカギは銃声のする方角に首を回した。
フェンス越しに林の奥に目を凝らしてみても、木々に遮られて見えない。
それ以降音はぴたりと止んだ。
「……………………」
しばらくその方角にじっと耳を済ませていると、微かに女の声が聞こえた。
「… んでっ…? なんでよ………」
カチッ、カチッと軽い金属音が聞こえる。
「… われたのっ…? んで…動か…ないのよおっ………」
微かな声を頼りに、アカギは状況を推理した。
(女が他の参加者に銃を使った…。
だが、急に何らかの原因で銃が使えなくなった。
女は誰かに向かって発砲したが、殺しきれなかったのだ。
相手は銃火器を持っていない。
持っていれば、女がもたもたとしている間に、相手が女を殺せるはずだから…)
若い男の声と、女の言い争う声が聞こえる。
(何にせよ…ここからでは状況は分からない)
危険は百も承知だが、近寄って状況を把握することにした。
今なら、声の主達の混乱に紛れて近寄ることができる。
アカギはフェンスの下を見つめた。地面とフェンスの間に、少し隙間がある。
ぎりぎり小さい子供なら通り抜けられるが、大人には通り抜けられない程度の隙間。
隙間からジェラルミンケースを押し込み、フェンスの向こうへ潜らせた。
そうしておいて、自分はデイパックを背負いフェンスを登り始める。
フェンスを登る際、一部ワイヤーが出っ張っている箇所があった。
胸ポケットのメモ帳がワイヤーの先に引っかかり、メモの一部が破れてひらひらと舞い、ベンチに落ちた。
その時、下方から男の声が聞こえた。
「待てっ…!」
「………………」
この状況で『待て』と言われ、待つ者はいない。
アカギはさっとフェンスを乗り越えると、フワ…と地面に飛び降りた。
ジェラルミンケースを拾い上げ、早足でその場を離れる。
「赤木さんっ…!」
フェンス越しに見ず知らずの男が名を読んだ。聞き覚えの無い声だった。
だが…その声に…
良く分からない何かが…心の奥底で何かが引っかかった。
(何だ……………………?)
原田と会ったときにも感じた、あの感じ。
正体不明の何かが心を…魂をざわつかせる。
胸中に違和感を残したまま、アカギは銃声の聞こえた方へと歩いた。
木陰から遠目に、先程聞こえた男女の声の正体を確認した。
(女のほうは田中沙織…。先程カイジと行動を共にしていた女だ。
それが一人でこんな所で銃を振り回している…。カイジという男は殺されたか…?
火傷跡のある男のほうはまだ14~5歳くらい…銃で撃たれたはずだが、うまく弾が外れたか…)
男が女の銃器を蹴り飛ばし、女に勝敗を宣言している。
アカギはそこまでを見届けると、その場を立ち去った。
フェンス沿いに林を歩いていくと、C-4、アトラクションゾーンの入場口に出た。
入場口の周囲にはチケット売り場があり、その奥に事務所らしき建物がぽつんと見える。
アカギは入場口のゲートを抜け、再びアトラクションゾーンに入った。
北に向かってしばらく歩くと、広場になっている場所があり、平地の中央に死体が転がっていた。
見覚えのある顔だった。
浦部は首筋を切られ、仰向けに横たわっていた。
アカギは足元の死体を黙って見下ろしていた。
その目には、何の感情の変化も見られなかった。
アカギはデイパックからロープを取り出すと、横に倒したジェラルミンケースの取っ手に括りつけた。
そのまま浦部の胴体にもロープを回す。
ジェラルミンケースの上に浦部の死体を乗せると、ロープを引っ張った。
ズルズルと地面に後を残しながら、アカギは北へと歩いていった。
B-4で有賀の死体を見つけ、それも浦部の死体と同様にケースに括り付ける。
これ以上は重すぎて乗せられそうに無かった。
ふたつの死体をケースに乗せたまま、今度は数本のロープを繋いで最大限まで長くなるように伸ばした。
作業が済み、一旦死体を置いたまま、アカギは歩き出した。
方位磁石を見ながら、B-4から真っ直ぐ西の方角へと、一歩ずつゆっくりと歩を進める。
やがて、アカギの首輪から警告音が発せられた。
開会式で聞いた警告音より少し長めの、間の抜けたビーッ、ビーッ、という音が響き、
アカギは半歩後ろに下がった。警告音が消える。
(なるほど…ここから先がB-3…)
その場にしゃがみ込むと、近くに落ちていた白い小石で地面に線を引く。
死体を括りつけたケースを引っ張ってきて、線を引いたところに配置する。
アカギは踵を返すと、伸ばしたロープの端を持ったまま、禁止エリアのB-3を、大きく弧を描くように迂回する。
C-3まで戻ると、そのまま強くロープを引っ張った。
ロープの端…、ジェラルミンケースは地面を引きずられ、B-4からC-3へ南西方向に直進する。
その途中で『禁止エリアのB-3』を通る。
B-3を通るとき、ケースの上に括られている浦部と有賀の首輪が、禁止エリアに反応する。
ビーッ、ビーッという警告音はやがて音の感覚が短くなり、ピピピピピピ…という電子音に変わる。
音が変わってから十秒くらいだろうか。
二つの首輪は、ほぼ同時に、ボシュッ…という音と共に爆発した。
アカギは二つの死体を括っていたロープを外す。
爆発して壊れた首輪を、割れて脆くなっているところから引き千切った。
焦げた首輪からどこまで分析ができるかは不明だが、これで首輪の内部構造を調べることが出来る。
扱いに気をつける必要も無い。
ふと顔を上げると、近くの木に子供の首が吊るされているのが目に入った。
「………………」
(首輪が無い。先を越されたか…)
近くに寄っていき、標の首を観察した。
切断面を見るに、糸鋸のような刃物で切られている。口には何も書かれていないメモが挟んである。
(……いや、このメモに印刷されている名前…。ふうん…。だいたいのアタリはついた…)
死体はC-3に放置し、焼け焦げた首輪とロープをデイパックに仕舞いこむと、アカギはその場を後にした。
【C-4/アトラクションゾーン/夜中】
【赤木しげる】
[状態]:健康
[道具]:五億円の偽札 ロープ4本 不明支給品0~1(確認済み)支給品一式 浦部、有賀の首輪(爆発済み)
[所持金]:600万円
[思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す 死体を捜して首輪を調べる 首輪をはずして主催者側に潜り込む
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※五億円の偽札
五億円分の新聞紙の束がジェラルミンケースに詰められています。
一番上は精巧なカラーコピーになっており、手に取らない限り判別は難しいです。
※2日目夕方にE-4にて平井銀二と再会する約束をしました。
※鷲巣巌を手札として入手。回数は有限で協力を得られる。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※鷲巣巌に100万分の貸し。
※鷲巣巌と第二回放送の前に病院前で合流する約束をしました。
※第二回放送後に病院の中を調べようと考えています。(ひろにメモが渡ったのは偶然です)
※首輪に関する情報(但しまだ推測の域を出ない)が書かれたメモをカイジから貰いました。
※参加者名簿を見たため、また、カイジから聞いた情報により、
帝愛関係者(危険人物)、また過去に帝愛の行ったゲームの参加者の顔と名前を把握しています。
※過去に主催者が開催したゲームを知る者、その参加者との接触を最優先に考えています。
接触後、情報を引き出せない様ならば偽札を使用。
それでも駄目ならばギャンブルでの実力行使に出るつもりです。
※危険人物でも優秀な相手ならば、ギャンブルで勝利して味方につけようと考えています。
※カイジを、別行動をとる条件で味方にしました。
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