「同盟」(2009/12/13 (日) 08:34:34) の最新版変更点
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**同盟 ◆6lu8FNGFaw氏
時期、タイミングというものは重要である。
特にこの島においては、ある意味、強運や強力な武器よりも重要かも知れぬ…!
林の奥に身を潜めていた和也は、利根川の姿を遠目に見つけ、口の端を吊り上げた。
ようやく忠実なる下僕を手に入れることができる。
利根川は病院前にいた。
村上のいたギャンブルルームを出て、隣に立つ病院の中を探ろうと考え、入口に入りかけていたところであった。
「よおっ…!利根川…!久しぶりだなっ…!」
利根川は急に名前を呼ばれ、僅かに顔を強張らせてこちらを見た。
林から出て来た和也の姿を認めると、「おお…!」と驚きの声を上げた。
「和也様…!よくぞご無事で…!しばらく拝見せぬ間にご立派になられて…」
深々と頭を下げる利根川に、和也はカカカッと愉快そうに笑った。
「いいって、そういうの…!のんびり世間話してる場合じゃないんじゃね…?
この辺、銃を持った死に損ないの爺いが徘徊してるから、気をつけたほうがいいぜ…!」
「は…それはもしかして、鷲巣巌めのことでしょうか…?」
「あ…??? 何で分かった…?会ったのか…?」
「いえ…実は…」
「…ちょっと待て」
和也は手を挙げ、利根川の言葉を制した。
「そこで覗いているのは、誰だ…?出て来いよ…」
木陰の奥から影が伸び、その人物はゆっくりと二人の前に姿を現した。
「和也様…!利根川先生…!」
和也達の下に現れた人物…それは一条であった。
F-6のホテルを出て、目的地をこれから決めようとしていた矢先、
利根川と和也の姿が目に入り、木陰に隠れて様子を伺っていたのだ。
最初は二人を撃ち殺すことも考えた。
一条はカイジへの復讐を果たす為なら、その道中に何人殺しても同じと考えていた。
(しかし、見つかってしまっては仕方が無い…!
こうなったら、友好的に近づいて共闘を持ちかけるが正解っ…!
それに、利根川はカイジに計り知れぬほどの恨みを持っている…!共に行動するにはうってつけの人材…!)
いくら一条が拳銃を持っているとはいえ、銃弾の数には限りがある。
復讐を邪魔する者…参加者を減らすには、どうしても一人では難しいところがある。
利根川…そして兵藤和也…。敵に回せば痛いが、殺しをする為の仲間としてはこの上なく有益な人材である。
利根川から見れば一条は、元ライバル、黒崎の傘下の者である。
本来、組織内での敵同士…!
しかし、一条は黒崎の推薦でこのゲームに参加することになったのだ。
利根川と一条には共通点がある。
カイジを甘く見たが為に痛い目に合い、直属の上司(利根川にとっては会長)に見限られ、この地に堕とされた。
故に、うまく取り入れば利根川を仲間に出来ると踏んでいた。
一条は賭けた。この行動が、吉と出るか、凶と出るか…?
「一条…久しぶりだな。」
「は…お久しぶりです。」
果たして、利根川は友好的に一条を受け入れた。
一条は和也達に向かって深々とお辞儀をしてから、利根川の顔を見上げた。
「一条…?ああ、あの有名な…沼パチンコで7億の被害を出した店長だったな…?」
和也の言葉に、一条の顔から一気に血の気が引いた。
「は、はっ…。返す言葉もありません…真に申し訳ございませんっ…!」
「カカカッ…!別にお前を責めるつもりで言った訳じゃあない。
大体あの被害は、カイジが出した金額、7億全てが奴らに奪われた訳じゃねえ…。
実質の被害額は2億と7千万ほど…そうだろ?」
一条は俯いていた顔を上げ、恐る恐る和也の顔色を伺った。
「概算になるが、あの時沼から奪われた金は7億だが、カイジの持ち分のほとんどを遠藤が奪った後、
カイジは残りの金を仲間救出のために帝愛に払った。
ここでカイジの金はほぼ0…。
その後、借金を帝愛に返した後の遠藤から、残りの金も帝愛が巻き上げることに成功している。
ここで遠藤の金も0…。
カイジと遠藤と共闘していたおっさんに奪われた金、これが2億弱の損害、
あとカイジ自身と、カイジが救った男達6人の「労働力」…7千万分の借金をカタに囲っていたのを損害と考えると、
あの時の『帝愛が回収できなかった金』、損失は2億7千万…。実質はな。」
一条は戸惑いを露にした表情で和也を見つめた。
「し、しかし…」
「…ま、あの件では親父の機嫌を損ねたのが一番痛かったなっ…!
けどよ…。だからってオレはアンタが無能だとは思わないぜ」
「えっ…?」
和也は一条にニヤリと笑いかけた。
「オレはアンタの慎重さや、『沼』を作ったその発想を買ってんだ。
どうだ…オレの部下になっちゃえば…?きっと良い事あるぜ…!」
「は……」
一条の方は和也の軽い口ぶりに唖然としていた。
先程まで冷静に7億の損害について説明していたわりに、『なっちゃえば…?』ときた。
噂で和也の人となりは耳にしていたが、直接こうしてお目にかかるのは初めてだ。
実物を前にして、ただただ驚くばかりだった。
利根川が和也に話しかけた。
「和也様…、和也様の傘下に入れていただければ、部下の命も保障されるという情報を仕入れたのですが…」
「おお…?何…?何…?何でもう知ってんの…?それ…!」
和也がはしゃいだ声で利根川に尋ねると、利根川は頷きながら話した。
「ええ…それに関しては、あちらに見えますギャンブルルームの中で説明させて頂きたいと思います…。
一条…。お前にとっても、値千金の情報だ…。付いて来い」
利根川はそう言うと、病院の傍に建つギャンブルルームへと歩み寄った。
「店長っ…!!」
村上は一条の姿を見るなり号泣し始めた。
当初、予期せぬ再開に面食らっていた一条だが、やがて上司としての顔になると村上を諌めた。
「馬鹿者…オレはもうお前の店長じゃない。一条と呼べっ…!」
「はいっ…一条様っ…!」
「“様”はやめろっ…!」
ギャンブルルームへのチップは30分間、3人分を利根川が支払った。
利根川は、先程村上から聞いた情報を要約して、和也と一条に説明した。
・村上が盗聴器を仕掛けていたおかげで、和也と鷲巣のやり取りや、その話の中に出てきた、
『和也の派閥のみがゲームで残った場合、その派閥全員が生還できる』という情報を耳にしたこと。
・和也が首輪を集めていること。
・和也が部下を求めていること。
「一条…お前の部下、えらく使える奴だなっ…!」
「いえ、もう部下では…」
上機嫌の和也の言葉を、一条は訂正しかけたが、目を潤ませた村上がこちらを見ているのが視界に映り、言葉を変える。
「…ええ、私の自慢の部下です」
(実際、村上と利根川が事前に出会っていなければ、ここまで穏便にオレは利根川や和也様と合流できただろうか…?
合流できていなければ、和也様の『特別ルール』について、ゲームの序盤…このタイミングで知ることが出来たろうか…?)
そう考えると、一条は身震いした。
先程まで、一条の眼前にあるのは暗い絶望だった。
半ばヤケになり、カイジへの復讐と、その過程で邪魔になる者の殺人のみを心に行動しようとしていた。
今考えれば恐ろしい。
和也様の部下になり、我々派閥のみが生き残れば、すなわち勝利…!ゲームセット…!
部下以外は抹殺するのだから、その過程で復讐も行うことが出来る。
そして、生還した暁には、和也の右腕として、表舞台での地位は保障されたようなもの…!
輝かんばかりの未来予想図…!
復讐のみを糧に殺戮を行うより、どれだけ建設的か知れない。
(神はオレを見捨てなかった…!…いや、これはオレ自身の運…!強運…!)
利根川の心情も、一条のそれと同じであった。
利根川もまた、先程まで…村上に話を聞くまで、一条のように棄権や脱出が出来ないものと考え、絶望の淵にいたのだ。
「和也様…私どもを是非、部下に…!」
利根川、一条は和也に深々と頭を下げた。
「もちろんだっ…!よろしく頼むぜ…!」
和也は声を上げて笑い出しそうになるのを懸命に堪えながら、二人が部下になることを承諾した。
怖いくらいに上手く事が運んでいる。
この件に関して、本当の…真の強運の持ち主は和也であった。
(実際、村上が鷲巣とオレの会話を盗聴していなければ、『特別ルール』にここまで信頼性を持たせることが出来ただろうか…?
全く…とんだ『自慢の部下』だぜっ…!)
「『和也同盟』をここに結成するぜ…!異論は無いな、二人とも…!」
利根川、一条とも、全く異論は無かった。………ネーミングセンスに多少引っかかりを感じたものの。
ギャンブルルーム内、村上が見守る中、利根川の手で同文の誓約書を三枚書き上げる。
内容は『和也の部下として忠誠を誓う』といったものである。
全ての誓約書に3人のサインが入り、それを3人ともが持つ。
これで『和也同盟』は結成された。
(せいぜい俺のために働いてくれよ、…ゲームの終盤…最後の最後の瞬間まで、な…!)
もちろん和也の狙いは優勝。『特別ルール』は真っ赤な嘘なのだから。
当然、利根川も一条も最後には殺す気である。
利根川も、一条も、ここでミスを犯していた。
誓約書に『同盟を結んだ部下を殺してはならない』という一文を入れなかったことである。
無理もないっ…!
もし『特別ルール』が真実ならば、入れる必要の無い一文だからである。
利根川も、一条も、夢を見てしまった…。
己が再び「帝愛幹部として返り咲くことが出来る」などという夢…悲願を…!
ゆえに気がつかない…気づくことが出来ない…和也の巧妙な嘘をっ………!
実際、二人は信じざるを得ないのだ。
ただ一人生き残り、優勝すれば生還、という本来のルールを、利根川も一条も信じていない。
何故なら、自らが以前、ナンバー2として、またはカジノ店長として主催側の立場であった時…
そのような生ぬるい温情を「参加者」に与えたことは無いから…!
参加者が希望を手に掴んだとき、哂ってそれを踏みにじり、奈落へと突き落とす。
それがいつものやり方であり、それで兵藤会長に満足して頂いていたから…!
だから…自分達が参加者の立場に堕ちた今、「優勝すれば生還」など信じられないっ…!
その点、和也は兵藤会長の息子である。
残虐無比な会長といえど、よもや『特別ルール』が適用された後で、実の息子を殺したりはしまい。
在全や蔵前が話に噛んでいるならなおさら…!
ずっと真実味がある…!和也について行く事…それが生還につながるという言葉のほうが…!
すっかり和也の言葉に納得し、希望を見出している利根川と一条。
和也は、気づかれぬようそっと冷たい笑みを漏らした。
(ククク…息子か…!
だが…そんな常識が通用しないのがあの『兵藤和尊』だ…!
俺は…俺だけは知っている。他のどの参加者よりもあの人に近い分…!
親父は『ただ一人、優勝しか生還はありえない』と言った。
だからこそ、優勝してみせるしかないっ…今はあの狂った親父の溜飲を下げるしかないっ…!)
(その為なら俺は何だってする…!
親父の名前だろうが権力だろうが…何だって利用するっ…!最後の一人になる為にな………!)
このゲームで優勝し、周囲に自分の力が認められること。
それが今の和也の目標であり、切実なる願いであった。
【E-5/ギャンブルルーム内/真夜中】
【兵藤和也】
[状態]:健康
[道具]:チェーンソー 対人用地雷三個(一つ使用済)
クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0~1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広)
[所持金]:1000万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
死体から首輪を回収する
鷲巣に『特別ルール』の情報を広めてもらう
赤木しげるを殺す(首輪回収妨害の恐れがあるため)
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※遠藤、村岡も、合流して部下にしたいと思っております。彼らは自分に逆らえないと判断しています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、
そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。
※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。
※C-3に標の首がぶら下げられています。胴体はB-3地点の道の真ん中に放置されています。
【利根川幸雄】
[状態]:健康
[道具]:デリンジャー(1/2) デリンジャーの弾(28発) Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具 ジャックのノミ 支給品一式
[所持金]:1800万円
[思考]:和也を護り切り、『特別ルール』によって生還する
首輪の回収
遠藤の抹殺
カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺
アカギの抹殺、鷲巣の保護
病院へ向かう
※両膝と両手、額にそれぞれ火傷の跡があります
※和也の保護、遠藤の抹殺、カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺を最優先事項としています。
※鷲巣に命令を下しているアカギを殺害し、鷲巣を仲間に加えようと目論んでおります。(和也は鷲巣を必要としていないことを知りません)
※一条とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、
その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※デリンジャーは服の袖口に潜ませています。
※Eカード用のリモコンはEカードで使われた針具操作用のリモコンです。電波が何処まで届くかは不明です。
※針具取り外し用工具はEカードの針具を取り外す為に必要な工具です。
※平山からの伝言を受けました(ひろゆきについて、カイジとの勝負について)
※計器からの受信が途絶えた為、平山が死んだと思っています(何かの切欠で計器が正常に再作動する可能性もあります)
※平山に協力する井川にはそれほど情報源として価値がないと判断しております。
※黒崎が邪魔者を消すために、このゲームを開催していると考えております。
※以前、黒崎が携わった“あるプロジェクト”が今回のゲームと深く関わっていると考え、その鍵は病院にあると踏んでおります。
※E-5ギャンブルルーム前には、勝広の持ち物であったスコップ、箕、利根川が回収し切れなかった残り700万円分のチップなどが未だにあります。
【一条】
[状態]:健康
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) マッチ スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品×6 不明支給品0~4(確認済み、武器ではない)
[所持金]:6000万円
[思考]:カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者、和也の部下にならない者を殺す
復讐の為に利用できそうな人物は利用する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
和也を護り切り、『特別ルール』によって生還する
※利根川とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、
その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
|102:[[百に一つ]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|104:[[天の采配(前編)]][[(後編)>天の采配(後編)]]|
|100:[[借り物の靴]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]||
|084:[[帝図(前編)]][[(後編)>帝図(後編)]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:兵藤和也|109:[[劇作家(前編)>劇作家]][[(後編)>劇作家(後編)]]|
|092:[[主君の片翼]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:利根川幸雄|109:[[劇作家(前編)>劇作家]][[(後編)>劇作家(後編)]]|
|091:[[渇望]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:一条|109:[[劇作家(前編)>劇作家]][[(後編)>劇作家(後編)]]|
|092:[[主君の片翼]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:村上|109:[[劇作家(前編)>劇作家]][[(後編)>劇作家(後編)]]|
**同盟 ◆6lu8FNGFaw氏
時期、タイミングというものは重要である。
特にこの島においては、ある意味、強運や強力な武器よりも重要かも知れぬ…!
林の奥に身を潜めていた和也は、利根川の姿を遠目に見つけ、口の端を吊り上げた。
ようやく忠実なる下僕を手に入れることができる。
利根川は病院前にいた。
村上のいたギャンブルルームを出て、隣に立つ病院の中を探ろうと考え、入口に入りかけていたところであった。
「よおっ…!利根川…!久しぶりだなっ…!」
利根川は急に名前を呼ばれ、僅かに顔を強張らせてこちらを見た。
林から出て来た和也の姿を認めると、「おお…!」と驚きの声を上げた。
「和也様…!よくぞご無事で…!しばらく拝見せぬ間にご立派になられて…」
深々と頭を下げる利根川に、和也はカカカッと愉快そうに笑った。
「いいって、そういうの…!のんびり世間話してる場合じゃないんじゃね…?
この辺、銃を持った死に損ないの爺いが徘徊してるから、気をつけたほうがいいぜ…!」
「は…それはもしかして、鷲巣巌めのことでしょうか…?」
「あ…??? 何で分かった…?会ったのか…?」
「いえ…実は…」
「…ちょっと待て」
和也は手を挙げ、利根川の言葉を制した。
「そこで覗いているのは、誰だ…?出て来いよ…」
木陰の奥から影が伸び、その人物はゆっくりと二人の前に姿を現した。
「和也様…!利根川先生…!」
和也達の下に現れた人物…それは一条であった。
F-6のホテルを出て、目的地をこれから決めようとしていた矢先、
利根川と和也の姿が目に入り、木陰に隠れて様子を伺っていたのだ。
最初は二人を撃ち殺すことも考えた。
一条はカイジへの復讐を果たす為なら、その道中に何人殺しても同じと考えていた。
(しかし、見つかってしまっては仕方が無い…!
こうなったら、友好的に近づいて共闘を持ちかけるが正解っ…!
それに、利根川はカイジに計り知れぬほどの恨みを持っている…!共に行動するにはうってつけの人材…!)
いくら一条が拳銃を持っているとはいえ、銃弾の数には限りがある。
復讐を邪魔する者…参加者を減らすには、どうしても一人では難しいところがある。
利根川…そして兵藤和也…。敵に回せば痛いが、殺しをする為の仲間としてはこの上なく有益な人材である。
利根川から見れば一条は、元ライバル、黒崎の傘下の者である。
本来、組織内での敵同士…!
しかし、一条は黒崎の推薦でこのゲームに参加することになったのだ。
利根川と一条には共通点がある。
カイジを甘く見たが為に痛い目に合い、直属の上司(利根川にとっては会長)に見限られ、この地に堕とされた。
故に、うまく取り入れば利根川を仲間に出来ると踏んでいた。
一条は賭けた。この行動が、吉と出るか、凶と出るか…?
「一条…久しぶりだな。」
「は…お久しぶりです。」
果たして、利根川は友好的に一条を受け入れた。
一条は和也達に向かって深々とお辞儀をしてから、利根川の顔を見上げた。
「一条…?ああ、あの有名な…沼パチンコで7億の被害を出した店長だったな…?」
和也の言葉に、一条の顔から一気に血の気が引いた。
「は、はっ…。返す言葉もありません…真に申し訳ございませんっ…!」
「カカカッ…!別にお前を責めるつもりで言った訳じゃあない。
大体あの被害は、カイジが出した金額、7億全てが奴らに奪われた訳じゃねえ…。
実質の被害額は2億と7千万ほど…そうだろ?」
一条は俯いていた顔を上げ、恐る恐る和也の顔色を伺った。
「概算になるが、あの時沼から奪われた金は7億だが、カイジの持ち分のほとんどを遠藤が奪った後、
カイジは残りの金を仲間救出のために帝愛に払った。
ここでカイジの金はほぼ0…。
その後、借金を帝愛に返した後の遠藤から、残りの金も帝愛が巻き上げることに成功している。
ここで遠藤の金も0…。
カイジと遠藤と共闘していたおっさんに奪われた金、これが2億弱の損害、
あとカイジ自身と、カイジが救った男達6人の「労働力」…7千万分の借金をカタに囲っていたのを損害と考えると、
あの時の『帝愛が回収できなかった金』、損失は2億7千万…。実質はな。」
一条は戸惑いを露にした表情で和也を見つめた。
「し、しかし…」
「…ま、あの件では親父の機嫌を損ねたのが一番痛かったなっ…!
けどよ…。だからってオレはアンタが無能だとは思わないぜ」
「えっ…?」
和也は一条にニヤリと笑いかけた。
「オレはアンタの慎重さや、『沼』を作ったその発想を買ってんだ。
どうだ…オレの部下になっちゃえば…?きっと良い事あるぜ…!」
「は……」
一条の方は和也の軽い口ぶりに唖然としていた。
先程まで冷静に7億の損害について説明していたわりに、『なっちゃえば…?』ときた。
噂で和也の人となりは耳にしていたが、直接こうしてお目にかかるのは初めてだ。
実物を前にして、ただただ驚くばかりだった。
利根川が和也に話しかけた。
「和也様…、和也様の傘下に入れていただければ、部下の命も保障されるという情報を仕入れたのですが…」
「おお…?何…?何…?何でもう知ってんの…?それ…!」
和也がはしゃいだ声で利根川に尋ねると、利根川は頷きながら話した。
「ええ…それに関しては、あちらに見えますギャンブルルームの中で説明させて頂きたいと思います…。
一条…。お前にとっても、値千金の情報だ…。付いて来い」
利根川はそう言うと、病院の傍に建つギャンブルルームへと歩み寄った。
「店長っ…!!」
村上は一条の姿を見るなり号泣し始めた。
当初、予期せぬ再開に面食らっていた一条だが、やがて上司としての顔になると村上を諌めた。
「馬鹿者…オレはもうお前の店長じゃない。一条と呼べっ…!」
「はいっ…一条様っ…!」
「“様”はやめろっ…!」
ギャンブルルームへのチップは30分間、3人分を利根川が支払った。
利根川は、先程村上から聞いた情報を要約して、和也と一条に説明した。
・村上が盗聴器を仕掛けていたおかげで、和也と鷲巣のやり取りや、その話の中に出てきた、
『和也の派閥のみがゲームで残った場合、その派閥全員が生還できる』という情報を耳にしたこと。
・和也が首輪を集めていること。
・和也が部下を求めていること。
「一条…お前の部下、えらく使える奴だなっ…!」
「いえ、もう部下では…」
上機嫌の和也の言葉を、一条は訂正しかけたが、目を潤ませた村上がこちらを見ているのが視界に映り、言葉を変える。
「…ええ、私の自慢の部下です」
(実際、村上と利根川が事前に出会っていなければ、ここまで穏便にオレは利根川や和也様と合流できただろうか…?
合流できていなければ、和也様の『特別ルール』について、ゲームの序盤…このタイミングで知ることが出来たろうか…?)
そう考えると、一条は身震いした。
先程まで、一条の眼前にあるのは暗い絶望だった。
半ばヤケになり、カイジへの復讐と、その過程で邪魔になる者の殺人のみを心に行動しようとしていた。
今考えれば恐ろしい。
和也様の部下になり、我々派閥のみが生き残れば、すなわち勝利…!ゲームセット…!
部下以外は抹殺するのだから、その過程で復讐も行うことが出来る。
そして、生還した暁には、和也の右腕として、表舞台での地位は保障されたようなもの…!
輝かんばかりの未来予想図…!
復讐のみを糧に殺戮を行うより、どれだけ建設的か知れない。
(神はオレを見捨てなかった…!…いや、これはオレ自身の運…!強運…!)
利根川の心情も、一条のそれと同じであった。
利根川もまた、先程まで…村上に話を聞くまで、一条のように棄権や脱出が出来ないものと考え、絶望の淵にいたのだ。
「和也様…私どもを是非、部下に…!」
利根川、一条は和也に深々と頭を下げた。
「もちろんだっ…!よろしく頼むぜ…!」
和也は声を上げて笑い出しそうになるのを懸命に堪えながら、二人が部下になることを承諾した。
怖いくらいに上手く事が運んでいる。
この件に関して、本当の…真の強運の持ち主は和也であった。
(実際、村上が鷲巣とオレの会話を盗聴していなければ、『特別ルール』にここまで信頼性を持たせることが出来ただろうか…?
全く…とんだ『自慢の部下』だぜっ…!)
「『和也同盟』をここに結成するぜ…!異論は無いな、二人とも…!」
利根川、一条とも、全く異論は無かった。………ネーミングセンスに多少引っかかりを感じたものの。
ギャンブルルーム内、村上が見守る中、利根川の手で同文の誓約書を三枚書き上げる。
内容は『和也の部下として忠誠を誓う』といったものである。
全ての誓約書に3人のサインが入り、それを3人ともが持つ。
これで『和也同盟』は結成された。
(せいぜい俺のために働いてくれよ、…ゲームの終盤…最後の最後の瞬間まで、な…!)
もちろん和也の狙いは優勝。『特別ルール』は真っ赤な嘘なのだから。
当然、利根川も一条も最後には殺す気である。
利根川も、一条も、ここでミスを犯していた。
誓約書に『同盟を結んだ部下を殺してはならない』という一文を入れなかったことである。
無理もないっ…!
もし『特別ルール』が真実ならば、入れる必要の無い一文だからである。
利根川も、一条も、夢を見てしまった…。
己が再び「帝愛幹部として返り咲くことが出来る」などという夢…悲願を…!
ゆえに気がつかない…気づくことが出来ない…和也の巧妙な嘘をっ………!
実際、二人は信じざるを得ないのだ。
ただ一人生き残り、優勝すれば生還、という本来のルールを、利根川も一条も信じていない。
何故なら、自らが以前、ナンバー2として、またはカジノ店長として主催側の立場であった時…
そのような生ぬるい温情を「参加者」に与えたことは無いから…!
参加者が希望を手に掴んだとき、哂ってそれを踏みにじり、奈落へと突き落とす。
それがいつものやり方であり、それで兵藤会長に満足して頂いていたから…!
だから…自分達が参加者の立場に堕ちた今、「優勝すれば生還」など信じられないっ…!
その点、和也は兵藤会長の息子である。
残虐無比な会長といえど、よもや『特別ルール』が適用された後で、実の息子を殺したりはしまい。
在全や蔵前が話に噛んでいるならなおさら…!
ずっと真実味がある…!和也について行く事…それが生還につながるという言葉のほうが…!
すっかり和也の言葉に納得し、希望を見出している利根川と一条。
和也は、気づかれぬようそっと冷たい笑みを漏らした。
(ククク…息子か…!
だが…そんな常識が通用しないのがあの『兵藤和尊』だ…!
俺は…俺だけは知っている。他のどの参加者よりもあの人に近い分…!
親父は『ただ一人、優勝しか生還はありえない』と言った。
だからこそ、優勝してみせるしかないっ…今はあの狂った親父の溜飲を下げるしかないっ…!)
(その為なら俺は何だってする…!
親父の名前だろうが権力だろうが…何だって利用するっ…!最後の一人になる為にな………!)
このゲームで優勝し、周囲に自分の力が認められること。
それが今の和也の目標であり、切実なる願いであった。
【E-5/ギャンブルルーム内/真夜中】
【兵藤和也】
[状態]:健康
[道具]:チェーンソー 対人用地雷三個(一つ使用済)
クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0~1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広)
[所持金]:1000万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
死体から首輪を回収する
鷲巣に『特別ルール』の情報を広めてもらう
赤木しげるを殺す(首輪回収妨害の恐れがあるため)
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※遠藤、村岡も、合流して部下にしたいと思っております。彼らは自分に逆らえないと判断しています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、
そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。
※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。
※C-3に標の首がぶら下げられています。胴体はB-3地点の道の真ん中に放置されています。
【利根川幸雄】
[状態]:健康
[道具]:デリンジャー(1/2) デリンジャーの弾(28発) Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具 ジャックのノミ 支給品一式
[所持金]:1800万円
[思考]:和也を護り切り、『特別ルール』によって生還する
首輪の回収
遠藤の抹殺
カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺
アカギの抹殺、鷲巣の保護
病院へ向かう
※両膝と両手、額にそれぞれ火傷の跡があります
※和也の保護、遠藤の抹殺、カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺を最優先事項としています。
※鷲巣に命令を下しているアカギを殺害し、鷲巣を仲間に加えようと目論んでおります。(和也は鷲巣を必要としていないことを知りません)
※一条とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、
その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※デリンジャーは服の袖口に潜ませています。
※Eカード用のリモコンはEカードで使われた針具操作用のリモコンです。電波が何処まで届くかは不明です。
※針具取り外し用工具はEカードの針具を取り外す為に必要な工具です。
※平山からの伝言を受けました(ひろゆきについて、カイジとの勝負について)
※計器からの受信が途絶えた為、平山が死んだと思っています(何かの切欠で計器が正常に再作動する可能性もあります)
※平山に協力する井川にはそれほど情報源として価値がないと判断しております。
※黒崎が邪魔者を消すために、このゲームを開催していると考えております。
※以前、黒崎が携わった“あるプロジェクト”が今回のゲームと深く関わっていると考え、その鍵は病院にあると踏んでおります。
※E-5ギャンブルルーム前には、勝広の持ち物であったスコップ、箕、利根川が回収し切れなかった残り700万円分のチップなどが未だにあります。
【一条】
[状態]:健康
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) マッチ スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品×6 不明支給品0~4(確認済み、武器ではない)
[所持金]:6000万円
[思考]:カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者、和也の部下にならない者を殺す
復讐の為に利用できそうな人物は利用する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
和也を護り切り、『特別ルール』によって生還する
※利根川とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、
その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
|102:[[百に一つ]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|104:[[天の采配(前編)]][[(後編)>天の采配(後編)]]|
|100:[[借り物の靴]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|104:[[天の采配(前編)]][[(後編)>天の采配(後編)]]|
|084:[[帝図(前編)]][[(後編)>帝図(後編)]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:兵藤和也|109:[[劇作家(前編)>劇作家]][[(後編)>劇作家(後編)]]|
|092:[[主君の片翼]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:利根川幸雄|109:[[劇作家(前編)>劇作家]][[(後編)>劇作家(後編)]]|
|091:[[渇望]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:一条|109:[[劇作家(前編)>劇作家]][[(後編)>劇作家(後編)]]|
|092:[[主君の片翼]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:村上|109:[[劇作家(前編)>劇作家]][[(後編)>劇作家(後編)]]|
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