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「猜疑と疑惑(後編)」(2010/01/31 (日) 23:12:51) の最新版変更点
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**猜疑と疑惑(後編) ◆mkl7MVVdlA氏
「用意は出来たか?」
「……はっ!」
「条件通りにしてあるだろうな」
「もちろんでございます」
黒崎は部下に一人に案内され、管理本部から離れた一室へと足を踏み入れた。
このホテルは随所に細工がしてあり、在全側に情報が漏れやすくなっている。
それらの影響を一時的に排除した部屋を用意させたのである。
これから自分が行う行為は、参加者の動向を通じて他の主催者に伝わるだろう。
よって、盗聴などの仕組みを解除するのはほんの一時で構わない。
極端な話、盗聴されていても構わないのだが、
途中で妨害が入る可能性も考慮してこのような場所を用意させたのだった。
「後藤は何か言ってきているか?」
「いえ、まだ何も…」
「なるほど。まずはこちらがどう出るか、様子を見よう、という事か。だがそれでは遅いな」
室内は黒崎のために用意された個室に比べて狭く、天井も低かった。
黒崎の部屋がスイートかそれに類する部屋だとすれば、
ここは一般的なシングルルームと言っても差し支えないだろう。
打合せ用のソファセットこそ設置してあるものの、調度品のランクは低い。
木製の机の上には、ディスプレイとカメラ、ヘッドセットが用意されていた。
画面の向こう側には一人の男が座っている。森田鉄雄である。
「あの、黒崎様、本当によろしかったのでしょうか?」
「何がだ?」
「主催者サイドが参加者に対し過度に干渉する事は禁止されているのでは…」
「何だ。そんな事か。心配には及ばん。会長はお怒りになるだろうが、それも一時的な話だ。
最後は私に感謝するだろう。お前たちはこれまで通り、私の手足として働け。
会長ではなく、私の忠実な手足としてな…」
こちらの映像は、まだ画面の向こう側に流れていない。
黒崎はソファに腰を下ろすと、装備一式を調え、機材のチェックを終えた後に、GOサインを出した。
「こんにちは、森田鉄雄君。こちらの呼び出しに応じてくれた事に、まずは礼を言おう」
『出てこなけりゃ首輪を爆破すると脅しておいて、よく言えたもんだな』
「手荒い真似をしてしまった事は詫びる。だがどうしても、君とこうして話がしたかったのだ」
『……何が目当てだ。まどろっこしい前置きは抜きにして、単刀直入に言ってくれ』
森田の背景には、ギャンブルルームの内装が映りこんでいた。
温泉旅館へと移動した森田に対し、電話という手段を使い、
最寄りのギャンブルルームへと呼び出したのは他でもない黒崎である。
彼の現在地はG-6。温泉旅館とホテルの間に位置する、道路沿いの一室だ。
「実は君に一つ、頼みたい仕事があってね」
『……仕事』
「もちろん、仕事というからには、報酬がつきものだ。達成したあかつきには、相応の対価を支払おう」
『受けるかどうか決めるのは、内容を聞いてからだ』
「賢明な判断だ。……内容としては実に単純だ。ゲームの会場内に散った【あるもの】を集めて貰いたい」
『……あるもの?』
黒崎は周囲に立つ部下に命じて、森田のディスプレイ画面をカメラの映像から予め用意したものへと切り替えさせた。
画面に映し出された物を見て、森田が息をのむ気配が伝わってくる。
『……これは…っ!』
「そう。君の首に嵌っているものと同じ、首輪だ。
参加者の中にはよからぬ事を考える輩がいるらしくてね。
死体から首輪を剥ぎ取り、集めている人間がいるようだ。
行為そのものは、咎められるような内容ではない。
下手に分解すれば、首輪は爆発する仕組みだ。素人が、そう簡単に解除できる代物でもない。
……だが、主催側として決して好ましい事態ではない。
そこで君に、主催側の人間として、改めて首輪集めを依頼したいのだ。
妙な輩の手に首輪が渡らないように」
『………』
「そう睨まないでくれたまえ。数は全部で、6つ。
それだけ集めれば、こちらの意向も他の参加者に伝わるだろう。
どうだね、引き受けてくれないか?」
黒崎は森田の画面を元の通りに切り替えると、改めて「仕事の依頼」という形で話を切り出した。
『……何故だ。何故、俺を選んだ?』
「君はこれまで、参加者の動向や位置を把握できる状況にあった。
死体の位置や、首輪の有無も記録しているはずだ。他の誰に頼むより確実だろう」
『…さっき……報酬が出るって言ったよな…』
「先にそれを知りたいかね?」
『当然だ。…仕事を引き受けてから、報酬が飴玉一つ、なんて言われたら目も当てられない』
「それはつまり、報酬次第では引き受ける、と?」
『好きに解釈してくれ。とにかく、用済みの首輪を集めると何が貰えるんだ?』
森田の前向きな態度に気をよくして、黒崎は説明を続けた。
「結構。それでは先に報酬の説明をしよう。
依頼を無事に達成した暁には、このゲームを棄権するための資金を進呈する。
額面にして最大で三億円」
『三億?ゲームを離脱するのに必要な金は、一億だろう?』
「それでは君が手にする報酬は何もない。余分な二億はこちらからの祝儀だ。
もちろん、余った資金で、他の誰かを棄権させても構わないがね」
『……なるほど…』
報酬を聞いた森田は、画面の向こうで腕を組み、じっとこちらを見つめてきた。
まるでディスプレイ越しに、相手の真意を読み取ろうとするかのように。
数分間の沈黙後、男は、不意に目を伏せた。俯いた表情を推し量る事はできない。
対面ではない、機材を介した会話の限界だ。
『…ククク……ッ!』
伏せられた頭が、小刻みに震える。
『ククク…、ハハハハ……ッ!』
「森田君?」
突如として笑い出した森田は、顔を上げるなり画面越しにニヤリと笑った。
『言ったはずだ。まどろっこしい前置きは抜きにしてくれと。
要するにアンタ達は、俺に殺しをさせたい。違うか?』
「……何故そう思う?」
『既に死んでいる人間から首輪を剥ぎ取ればいい。
たったそれだけで三億円が手にはいるなら、楽な話だ。
そう思って気安く引き受けるとでも思ったのか……?
三億あれば、自分が棄権するどころか、余った金で他の人間まで救う事が出来る。
そんな甘い幻想に浮かて、用意された餌に飛びつくとでも思ったのか。
スケベもいい加減にしろ……!』
ダン、と目の前の台を拳で叩き、森田が声を張り上げた。
『死体から首輪を集めるだけで三億。そんな甘い話、あるわけがない!
どうせ最後は、生きている人間に手をかけざるをえなくなる。
最初からそうなるように、予めルールを設定しておく。
―――――それがお前達のやり方だろう。違うか…?』
「なるほど。事前に聞いていたとおり、馬鹿ではないようだ…」
『さあ、聞かせてもらおうか。首輪集めのルールの全貌と、俺を選んだ理由を』
黒崎は、森田鉄雄という男の面構えを改めて観察した。
画面越しではあるが、表情や視線に動きがある分、写真で見るよりも伝わってくるものがある。
この男はそう簡単に折れない。そう感じさせるだけの気迫があった。
予め用意されていた資料でも分かっていたことだが、相当な修羅場をくぐっている証拠だ。
短期間の間に何度も危機に直面し、生き存えてきただけの事はある。
「よろしい。それでは、首輪を集めるにあたり、依頼内容を詳細に説明しよう」
『……詳細、か。物は言いようだな』
「まずこの依頼は、一度引き受けた限り、放棄はできない。
同時に、依頼達成までに一定の期限を切らせてもらう。
『期限内に達成できなかった場合は?』
「君の首輪が爆発する。早期の首輪爆発を理不尽と感じるかもしれないが、リスクとしては低い方だ。
君も、このゲームが永遠に続くとは思っていないだろう。
いくら巧妙に逃げ回ろうとも、島内全てが禁止エリアになってはおしまいだ。終わりは必ず訪れる。
とは言っても、制限時間を課す以上、他の参加者より厳しい環境におかれることは必至。
そこで、背負うリスクに相応しい特典を用意する事にした。
制限時間の中でも、早期に達成すればするほど、高額なボーナスが出る。
言い忘れたが、生存者の首から取得した首輪は、通常とは異なり、首輪2個分としてカウントする」
『見事な殺人推奨ルールというわけだ!
……そうやってご丁寧に飴とムチを用意してまで、俺に殺し合いをさせる理由は何だ?』
「簡単な話だ。このゲームの中で、殺人数が減っている。
どこかで刺激剤を与えたいと思うのは、主催側として当然の意向だろう」
『3人殺せばゲームクリアか。……払う代償としては低いんじゃないか?』
「そのための制限時間だ。時間ギリギリにクリアした場合、ボーナスを含め、報酬は一切与えられない。
依頼未達成により、首輪が爆発することだけは避けられるがね」
黒崎は予め用意していた内容の一覧表を、森田の眼前へと広げるよう指示を出した。
これまでに説明したルールが記されているだけでなく、ボーナスを含めた報酬条件まで表記されている。
――――――――――――――――――――――――――
【依頼内容】
制限時間内に首輪を6個集めること。
期間は依頼受託時から、第4回放送終了まで。
死者の首輪は1個、生存者の首輪は2個とカウントする。
第4回放送を過ぎても集められなかった場合は依頼未達成とみなし、森田鉄雄の首輪を爆破する。
森田鉄雄がギャンブルルームに規定数の首輪を持参し、申告した時点で依頼達成とする。
報酬の受渡は申告と同時に、ギャンブルルームにて行う。
【報酬一覧】
第2回放送終了までに集めた場合
ゲームを棄権する資金1億円+ボーナス2億円
第3回放送終了までに集めた場合
ゲームを棄権する資金1億円+ボーナス1億円
第4回放送終了までに集めた場合
報酬、ボーナスともになし
――――――――――――――――――――――――――
森田は一覧表を眺めた後、時刻を確認した。
第2回放送までの残り時間を確かめたのだろう。
残り時間を考えれば、第2回放送終了までに依頼を達成することは極めて難しい。
いますぐにこの部屋を出て温泉旅館に戻り、南郷と佐原を殺してもまだ数は足りない。
現在の交渉に時間をかければ、それだけ行動開始からの残り時間が少なくなる。
それが分からない程愚鈍ではあるまいと、黒崎は思った。
『……こっちからも注文をつけさせてくれ。それが承諾されるなら、契約してもいい』
「内容次第だ」
『注文は二つ。一つは、第3回放送までに首輪を集めた場合。
ボーナスも報酬もいらない。そのかわり、進入禁止エリアの設定を解除する権利が欲しい。
解除期間は、依頼達成直後から無制限。権利は当然、他者に譲渡できるものとする』
「何故だね?」
『俺はあんたたちが黙ってここから逃がしてくれるほどお人好しだとは思っちゃいない。
そう言えば分かってもらえるか?』
「なるほど。だがそう言われてこちらが素直に了承するとでも?」
『こいつは俺の推測だが。黒崎さん、あんたが俺を選んだことには、大きな理由があるはずだ。
俺に与えられた初期配布品。あれも実は、この仕掛けのためにわざと仕込んだものじゃないかと思ってる。
つまりこれは最初から台本が用意されているステージ。アンタには、俺を舞台に上げる必要がある。
こっちがリクエスト通り舞台にのってやると言ってるんだ。少しはサービスしろよ』
「勘違いしてもらっては困るな。依頼を引き受けないなら、今すぐ君の首輪を爆破する。
こちらとしては、そういった対応も可能なのだよ」
『いいや、あんたは間違ってもそれをしない。
何故なら、そんな脅しじゃ俺が動かないってことを知っているからだ』
強気な森田の姿勢が、単なるハッタリが否か黒崎には見極める必要があった。
場合によっては、平井銀二の首輪爆破を取引材料として持ち出してもいい。
かつて平井と行動を共にしていた男だ。否とは言わないだろう。
森田鉄雄を殺人者とする。
それは、黒崎が袋井を通じて蔵前に提示した取引条件の一つだった。
どこまで気づいているのかは不明だが、森田はこれまでの会話から、一定の状況を推測しつつある。
ここで平井の名前を出し、下手に揺さぶりをかければ、計画の全貌が露見する危険がある。
黒崎は思案した結果、森田の主張を条件付で受け入れることに決めた。
「……いいだろう。進入禁止エリアの解除を報酬として与える。
解除時間は依頼達成直後から60分間だ」
『他者への譲渡は?』
「認めよう。ただし、一方的な譲渡は禁止する。受け取る側の了承も必要だ。
相互の意思確認がとれない場合は、譲渡拒否とみなし、進入禁止エリア解除権そのものが消失する」
『少々厳しいが、それでよしとしよう。…それからもう一つの注文だが。
死者の首輪なら1個、生存者の首輪なら2個、このカウント条件のところに次の一文を加えてくれ。
――――森田鉄雄と、平井銀二。この二人の首輪に限り、3個分の価値があると』
画面越しに、森田の目がぎらりと鈍く光った気がした。
黒崎はそこから感じられる自暴自棄ともいえる覚悟に意表を突かれると同時に、
この男がどこまでこちらの真意を察しつつあるのか、疑惑を抱いた。
何故ならば、森田による平井銀二の殺害は、こちらにとって願ってもない状況だからである。
ともあれ、一方的に不利な条件を押しつけてくるのではなく、相手の利まで考え抜いた上で交渉を持ちかけてくる手腕は評価に値する。
「……了解した。契約書を作成する。双方、一部ずつ保存だ。
ささやかながら、首輪を集めるための道具を進呈しよう。せいぜい、楽しませてくれたまえ」
黒崎は部下に命じ、折り畳み式の小型ナイフを一本、森田の目の前に置かせた。
【F-7/温泉旅館・フロント/真夜中】
【佐原】
[状態]:精神疲労 首に注射針の痕
[道具]:レミントンM24(スコープ付き)、弾薬×29 、懐中電灯、タオル、浴衣の帯、支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:遠藤と会いたくない 人を殺したくない 自力で生還する
森田が主催者の手先ではないかと疑っている。遠藤は森田に殺されたかもしれないと思っている。
※第1回放送の内容を、南郷から取得しました
【南郷】
[状態]:健康 左大腿部を負傷
[道具]:麻縄 木の棒 一箱分相当のパチンコ玉(袋入り) 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:生還する 赤木の動向が気になる 森田&佐原と同行する
【G-6/ギャンブルルーム/真夜中】
【森田鉄雄】
[状態]:健康
[道具]:フロッピーディスク(壊れた為読み取り不可) 不明支給品0~2(武器ではない) 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:後々、銀二の助けになるよう準備をする このゲームの隙を見つける
遠藤を信用しない 南郷と行動を共にする 佐原を仲間にする
※フロッピーで得られる情報の信憑性を疑っています。今までの情報にはおそらく嘘はないと思っています。
※遠藤がフロッピーのバックアップを取っていたことを知りません。
※以下の依頼を受けました。契約書を1部所持しています。
※ナイフを受け取り、持っていくかどうかは次の書き手様にお任せします。
――――――――――――――――――――――――――
【依頼内容】
制限時間内に首輪を6個集めること。
期間は依頼受託時から、第4回放送終了まで。
死体から集めた首輪は1個、生存者の首から奪った首輪は2個とカウントする。
森田鉄雄、平井銀二の首輪は3個とカウントする。
第4回放送を過ぎても集められなかった場合は依頼未達成とみなし、森田鉄雄の首輪を爆破する。
森田鉄雄がギャンブルルームに規定数の首輪を持参し、申告した時点で依頼達成とする。
資金の受渡は申告と同時に、ギャンブルルームにて行う。
【報酬一覧】
第2回放送終了までに集めた場合
ゲームを棄権する資金1億円+ボーナス2億円
第3回放送終了までに集めた場合
進入禁止エリアの解除権(60分間)
他者に譲渡可能。ただし、渡す側、受け取る側、双方の意思確認が必要。
確認がとれない場合、権利そのものが消失する。
第4回放送終了までに集めた場合
報酬、ボーナスともになし
――――――――――――――――――――――――――
|106:[[薄氷歩]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|108:[[水理]]|
|095:[[見切り]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|105:[[慙愧]]|
|095:[[見切り]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:森田鉄雄|111:[[転機]]|
|095:[[見切り]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:南郷|111:[[転機]]|
|082:[[孤軍]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:佐原|111:[[転機]]|
|061:[[第一回定時放送 ~謀略~]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 黒崎義裕|112:[[苦情]]|
**猜疑と疑惑(後編) ◆mkl7MVVdlA氏
「用意は出来たか?」
「……はっ!」
「条件通りにしてあるだろうな」
「もちろんでございます」
黒崎は部下に一人に案内され、管理本部から離れた一室へと足を踏み入れた。
このホテルは随所に細工がしてあり、在全側に情報が漏れやすくなっている。
それらの影響を一時的に排除した部屋を用意させたのである。
これから自分が行う行為は、参加者の動向を通じて他の主催者に伝わるだろう。
よって、盗聴などの仕組みを解除するのはほんの一時で構わない。
極端な話、盗聴されていても構わないのだが、
途中で妨害が入る可能性も考慮してこのような場所を用意させたのだった。
「後藤は何か言ってきているか?」
「いえ、まだ何も…」
「なるほど。まずはこちらがどう出るか、様子を見よう、という事か。だがそれでは遅いな」
室内は黒崎のために用意された個室に比べて狭く、天井も低かった。
黒崎の部屋がスイートかそれに類する部屋だとすれば、
ここは一般的なシングルルームと言っても差し支えないだろう。
打合せ用のソファセットこそ設置してあるものの、調度品のランクは低い。
木製の机の上には、ディスプレイとカメラ、ヘッドセットが用意されていた。
画面の向こう側には一人の男が座っている。森田鉄雄である。
「あの、黒崎様、本当によろしかったのでしょうか?」
「何がだ?」
「主催者サイドが参加者に対し過度に干渉する事は禁止されているのでは…」
「何だ。そんな事か。心配には及ばん。会長はお怒りになるだろうが、それも一時的な話だ。
最後は私に感謝するだろう。お前たちはこれまで通り、私の手足として働け。
会長ではなく、私の忠実な手足としてな…」
こちらの映像は、まだ画面の向こう側に流れていない。
黒崎はソファに腰を下ろすと、装備一式を調え、機材のチェックを終えた後に、GOサインを出した。
「こんにちは、森田鉄雄君。こちらの呼び出しに応じてくれた事に、まずは礼を言おう」
『出てこなけりゃ首輪を爆破すると脅しておいて、よく言えたもんだな』
「手荒い真似をしてしまった事は詫びる。だがどうしても、君とこうして話がしたかったのだ」
『……何が目当てだ。まどろっこしい前置きは抜きにして、単刀直入に言ってくれ』
森田の背景には、ギャンブルルームの内装が映りこんでいた。
温泉旅館へと移動した森田に対し、電話という手段を使い、
最寄りのギャンブルルームへと呼び出したのは他でもない黒崎である。
彼の現在地はG-6。温泉旅館とホテルの間に位置する、道路沿いの一室だ。
「実は君に一つ、頼みたい仕事があってね」
『……仕事』
「もちろん、仕事というからには、報酬がつきものだ。達成したあかつきには、相応の対価を支払おう」
『受けるかどうか決めるのは、内容を聞いてからだ』
「賢明な判断だ。……内容としては実に単純だ。ゲームの会場内に散った【あるもの】を集めて貰いたい」
『……あるもの?』
黒崎は周囲に立つ部下に命じて、森田のディスプレイ画面をカメラの映像から予め用意したものへと切り替えさせた。
画面に映し出された物を見て、森田が息をのむ気配が伝わってくる。
『……これは…っ!』
「そう。君の首に嵌っているものと同じ、首輪だ。
参加者の中にはよからぬ事を考える輩がいるらしくてね。
死体から首輪を剥ぎ取り、集めている人間がいるようだ。
行為そのものは、咎められるような内容ではない。
下手に分解すれば、首輪は爆発する仕組みだ。素人が、そう簡単に解除できる代物でもない。
……だが、主催側として決して好ましい事態ではない。
そこで君に、主催側の人間として、改めて首輪集めを依頼したいのだ。
妙な輩の手に首輪が渡らないように」
『………』
「そう睨まないでくれたまえ。数は全部で、6つ。
それだけ集めれば、こちらの意向も他の参加者に伝わるだろう。
どうだね、引き受けてくれないか?」
黒崎は森田の画面を元の通りに切り替えると、改めて「仕事の依頼」という形で話を切り出した。
『……何故だ。何故、俺を選んだ?』
「君はこれまで、参加者の動向や位置を把握できる状況にあった。
死体の位置や、首輪の有無も記録しているはずだ。他の誰に頼むより確実だろう」
『…さっき……報酬が出るって言ったよな…』
「先にそれを知りたいかね?」
『当然だ。…仕事を引き受けてから、報酬が飴玉一つ、なんて言われたら目も当てられない』
「それはつまり、報酬次第では引き受ける、と?」
『好きに解釈してくれ。とにかく、用済みの首輪を集めると何が貰えるんだ?』
森田の前向きな態度に気をよくして、黒崎は説明を続けた。
「結構。それでは先に報酬の説明をしよう。
依頼を無事に達成した暁には、このゲームを棄権するための資金を進呈する。
額面にして最大で三億円」
『三億?ゲームを離脱するのに必要な金は、一億だろう?』
「それでは君が手にする報酬は何もない。余分な二億はこちらからの祝儀だ。
もちろん、余った資金で、他の誰かを棄権させても構わないがね」
『……なるほど…』
報酬を聞いた森田は、画面の向こうで腕を組み、じっとこちらを見つめてきた。
まるでディスプレイ越しに、相手の真意を読み取ろうとするかのように。
数分間の沈黙後、男は、不意に目を伏せた。俯いた表情を推し量る事はできない。
対面ではない、機材を介した会話の限界だ。
『…ククク……ッ!』
伏せられた頭が、小刻みに震える。
『ククク…、ハハハハ……ッ!』
「森田君?」
突如として笑い出した森田は、顔を上げるなり画面越しにニヤリと笑った。
『言ったはずだ。まどろっこしい前置きは抜きにしてくれと。
要するにアンタ達は、俺に殺しをさせたい。違うか?』
「……何故そう思う?」
『既に死んでいる人間から首輪を剥ぎ取ればいい。
たったそれだけで三億円が手にはいるなら、楽な話だ。
そう思って気安く引き受けるとでも思ったのか……?
三億あれば、自分が棄権するどころか、余った金で他の人間まで救う事が出来る。
そんな甘い幻想に浮かて、用意された餌に飛びつくとでも思ったのか。
スケベもいい加減にしろ……!』
ダン、と目の前の台を拳で叩き、森田が声を張り上げた。
『死体から首輪を集めるだけで三億。そんな甘い話、あるわけがない!
どうせ最後は、生きている人間に手をかけざるをえなくなる。
最初からそうなるように、予めルールを設定しておく。
―――――それがお前達のやり方だろう。違うか…?』
「なるほど。事前に聞いていたとおり、馬鹿ではないようだ…」
『さあ、聞かせてもらおうか。首輪集めのルールの全貌と、俺を選んだ理由を』
黒崎は、森田鉄雄という男の面構えを改めて観察した。
画面越しではあるが、表情や視線に動きがある分、写真で見るよりも伝わってくるものがある。
この男はそう簡単に折れない。そう感じさせるだけの気迫があった。
予め用意されていた資料でも分かっていたことだが、相当な修羅場をくぐっている証拠だ。
短期間の間に何度も危機に直面し、生き存えてきただけの事はある。
「よろしい。それでは、首輪を集めるにあたり、依頼内容を詳細に説明しよう」
『……詳細、か。物は言いようだな』
「まずこの依頼は、一度引き受けた限り、放棄はできない。
同時に、依頼達成までに一定の期限を切らせてもらう。
『期限内に達成できなかった場合は?』
「君の首輪が爆発する。早期の首輪爆発を理不尽と感じるかもしれないが、リスクとしては低い方だ。
君も、このゲームが永遠に続くとは思っていないだろう。
いくら巧妙に逃げ回ろうとも、島内全てが禁止エリアになってはおしまいだ。終わりは必ず訪れる。
とは言っても、制限時間を課す以上、他の参加者より厳しい環境におかれることは必至。
そこで、背負うリスクに相応しい特典を用意する事にした。
制限時間の中でも、早期に達成すればするほど、高額なボーナスが出る。
言い忘れたが、生存者の首から取得した首輪は、通常とは異なり、首輪2個分としてカウントする」
『見事な殺人推奨ルールというわけだ!
……そうやってご丁寧に飴とムチを用意してまで、俺に殺し合いをさせる理由は何だ?』
「簡単な話だ。このゲームの中で、殺人数が減っている。
どこかで刺激剤を与えたいと思うのは、主催側として当然の意向だろう」
『3人殺せばゲームクリアか。……払う代償としては低いんじゃないか?』
「そのための制限時間だ。時間ギリギリにクリアした場合、ボーナスを含め、報酬は一切与えられない。
依頼未達成により、首輪が爆発することだけは避けられるがね」
黒崎は予め用意していた内容の一覧表を、森田の眼前へと広げるよう指示を出した。
これまでに説明したルールが記されているだけでなく、ボーナスを含めた報酬条件まで表記されている。
――――――――――――――――――――――――――
【依頼内容】
制限時間内に首輪を6個集めること。
期間は依頼受託時から、第4回放送終了まで。
死者の首輪は1個、生存者の首輪は2個とカウントする。
第4回放送を過ぎても集められなかった場合は依頼未達成とみなし、森田鉄雄の首輪を爆破する。
森田鉄雄がギャンブルルームに規定数の首輪を持参し、申告した時点で依頼達成とする。
報酬の受渡は申告と同時に、ギャンブルルームにて行う。
【報酬一覧】
第2回放送終了までに集めた場合
ゲームを棄権する資金1億円+ボーナス2億円
第3回放送終了までに集めた場合
ゲームを棄権する資金1億円+ボーナス1億円
第4回放送終了までに集めた場合
報酬、ボーナスともになし
――――――――――――――――――――――――――
森田は一覧表を眺めた後、時刻を確認した。
第2回放送までの残り時間を確かめたのだろう。
残り時間を考えれば、第2回放送終了までに依頼を達成することは極めて難しい。
いますぐにこの部屋を出て温泉旅館に戻り、南郷と佐原を殺してもまだ数は足りない。
現在の交渉に時間をかければ、それだけ行動開始からの残り時間が少なくなる。
それが分からない程愚鈍ではあるまいと、黒崎は思った。
『……こっちからも注文をつけさせてくれ。それが承諾されるなら、契約してもいい』
「内容次第だ」
『注文は二つ。一つは、第3回放送までに首輪を集めた場合。
ボーナスも報酬もいらない。そのかわり、進入禁止エリアの設定を解除する権利が欲しい。
解除期間は、依頼達成直後から無制限。権利は当然、他者に譲渡できるものとする』
「何故だね?」
『俺はあんたたちが黙ってここから逃がしてくれるほどお人好しだとは思っちゃいない。
そう言えば分かってもらえるか?』
「なるほど。だがそう言われてこちらが素直に了承するとでも?」
『こいつは俺の推測だが。黒崎さん、あんたが俺を選んだことには、大きな理由があるはずだ。
俺に与えられた初期配布品。あれも実は、この仕掛けのためにわざと仕込んだものじゃないかと思ってる。
つまりこれは最初から台本が用意されているステージ。アンタには、俺を舞台に上げる必要がある。
こっちがリクエスト通り舞台にのってやると言ってるんだ。少しはサービスしろよ』
「勘違いしてもらっては困るな。依頼を引き受けないなら、今すぐ君の首輪を爆破する。
こちらとしては、そういった対応も可能なのだよ」
『いいや、あんたは間違ってもそれをしない。
何故なら、そんな脅しじゃ俺が動かないってことを知っているからだ』
強気な森田の姿勢が、単なるハッタリが否か黒崎には見極める必要があった。
場合によっては、平井銀二の首輪爆破を取引材料として持ち出してもいい。
かつて平井と行動を共にしていた男だ。否とは言わないだろう。
森田鉄雄を殺人者とする。
それは、黒崎が袋井を通じて蔵前に提示した取引条件の一つだった。
どこまで気づいているのかは不明だが、森田はこれまでの会話から、一定の状況を推測しつつある。
ここで平井の名前を出し、下手に揺さぶりをかければ、計画の全貌が露見する危険がある。
黒崎は思案した結果、森田の主張を条件付で受け入れることに決めた。
「……いいだろう。進入禁止エリアの解除を報酬として与える。
解除時間は依頼達成直後から60分間だ」
『他者への譲渡は?』
「認めよう。ただし、一方的な譲渡は禁止する。受け取る側の了承も必要だ。
相互の意思確認がとれない場合は、譲渡拒否とみなし、進入禁止エリア解除権そのものが消失する」
『少々厳しいが、それでよしとしよう。…それからもう一つの注文だが。
死者の首輪なら1個、生存者の首輪なら2個、このカウント条件のところに次の一文を加えてくれ。
――――森田鉄雄と、平井銀二。この二人の首輪に限り、3個分の価値があると』
画面越しに、森田の目がぎらりと鈍く光った気がした。
黒崎はそこから感じられる自暴自棄ともいえる覚悟に意表を突かれると同時に、
この男がどこまでこちらの真意を察しつつあるのか、疑惑を抱いた。
何故ならば、森田による平井銀二の殺害は、こちらにとって願ってもない状況だからである。
ともあれ、一方的に不利な条件を押しつけてくるのではなく、相手の利まで考え抜いた上で交渉を持ちかけてくる手腕は評価に値する。
「……了解した。契約書を作成する。双方、一部ずつ保存だ。
ささやかながら、首輪を集めるための道具を進呈しよう。せいぜい、楽しませてくれたまえ」
黒崎は部下に命じ、折り畳み式の小型ナイフを一本、森田の目の前に置かせた。
【F-7/温泉旅館・フロント/真夜中】
【佐原】
[状態]:精神疲労 首に注射針の痕
[道具]:レミントンM24(スコープ付き)、弾薬×29 、懐中電灯、タオル、浴衣の帯、支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:遠藤と会いたくない 人を殺したくない 自力で生還する
森田が主催者の手先ではないかと疑っている。遠藤は森田に殺されたかもしれないと思っている。
※第1回放送の内容を、南郷から取得しました
【南郷】
[状態]:健康 左大腿部を負傷
[道具]:麻縄 木の棒 一箱分相当のパチンコ玉(袋入り) 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:生還する 赤木の動向が気になる 森田&佐原と同行する
【G-6/ギャンブルルーム/真夜中】
【森田鉄雄】
[状態]:健康
[道具]:フロッピーディスク(壊れた為読み取り不可) 不明支給品0~2(武器ではない) 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:後々、銀二の助けになるよう準備をする このゲームの隙を見つける
遠藤を信用しない 南郷と行動を共にする 佐原を仲間にする
※フロッピーで得られる情報の信憑性を疑っています。今までの情報にはおそらく嘘はないと思っています。
※遠藤がフロッピーのバックアップを取っていたことを知りません。
※以下の依頼を受けました。契約書を1部所持しています。
※ナイフを受け取り、持っていくかどうかは次の書き手様にお任せします。
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【依頼内容】
制限時間内に首輪を6個集めること。
期間は依頼受託時から、第4回放送終了まで。
死体から集めた首輪は1個、生存者の首から奪った首輪は2個とカウントする。
森田鉄雄、平井銀二の首輪は3個とカウントする。
第4回放送を過ぎても集められなかった場合は依頼未達成とみなし、森田鉄雄の首輪を爆破する。
森田鉄雄がギャンブルルームに規定数の首輪を持参し、申告した時点で依頼達成とする。
資金の受渡は申告と同時に、ギャンブルルームにて行う。
【報酬一覧】
第2回放送終了までに集めた場合
ゲームを棄権する資金1億円+ボーナス2億円
第3回放送終了までに集めた場合
進入禁止エリアの解除権(60分間)
他者に譲渡可能。ただし、渡す側、受け取る側、双方の意思確認が必要。
確認がとれない場合、権利そのものが消失する。
第4回放送終了までに集めた場合
報酬、ボーナスともになし
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|106:[[薄氷歩]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|108:[[水理]]|
|095:[[見切り]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|111:[[転機]]|
|095:[[見切り]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:森田鉄雄|111:[[転機]]|
|095:[[見切り]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:南郷|111:[[転機]]|
|082:[[孤軍]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:佐原|111:[[転機]]|
|061:[[第一回定時放送 ~謀略~]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 黒崎義裕|112:[[苦情]]|
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