「宣戦布告(後編)」(2013/05/27 (月) 20:42:13) の最新版変更点
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**宣戦布告(後編) ◆uBMOCQkEHY氏
「ふざけるなっ!」
この直後、黒崎が机を叩き、小太郎に問い詰める。
「今まで黙っていたが我慢ならないっ!これのどこが本質だっ!こんな・・・」
しかし、ここで黒崎の音声が途切れる。
小太郎がキーボードの隣にあるボタンを押していた。
「部外者はゲームが終わるまで、黙っていてね☆」
小太郎は和也たちに顔を向ける。
「黒崎さんにはゲームが終わるまで消音設定にしてもらったよ・・・!
彼が口を挟むと、ゲームが興ざめしちゃうからね♪」
「勝手にしろ・・・」
和也はノートパソコンを奪うように掴み、持ち上げた。
「解くぞっ!村上っ!」
「は・・・はいっ!」
和也と村上は金庫の前に座り込む。
和也は村上にノートパソコンを持たせると、“うむっ・・・”と声を唸らせ考え込む。
あまり当てにならないとは言え、まずはヒントから切り込んでいく。
小太郎が示したヒントは“このゲームの本質”。
――『ハングマン』の本質か・・・
『ハングマン』で求められていることは英単語を推理し、その単語を言い当てること。
――いや、そもそも・・・
「なぁ・・・村上・・・」
和也は村上の方を振り向き、見据える。
「あの・・・なんでしょうか・・・?」
引き込まれそうな和也の眼力に、村上は思わず息を呑む。
“何か思いついたのか・・・”と村上の直感が告げる。
和也の口から飛び出たのは意外な言葉だった。
「悪いが・・・オレ・・・英語・・・苦手なんだっ・・・!
スペル・・・一緒に考えてくれないか・・・?」
「は・・・ハァッ!?」
村上の語尾が上ずる。
これは問題を考える以前の問題だ。
たとえ解答が分かったとしても、その単語を知らなければ答えようがない。
村上の不満げな反応に、和也はムッとふて腐れる。
「こっちはまだ、学生なんだっ!
分からない英語があったって、しょうがねぇじゃん!」
「えっ・・・学生って・・・和也様って、もしかして、未成年だったんですかっ!」
「ハァ!?オレをいくつぐらいに思っていたんだっ!お前は!?」
「・・・25、6歳くらい・・・少なくとも一条様より年上・・・」
「お前の目は節穴かっ!!」
ギャンブルが始まって早々のまさかの仲間割れ。
痴話喧嘩のような二人のやり取りに、在全も小太郎もケラケラと腹を抱えて笑い転げる。
在全と小太郎の様子を目の当たりにした村上はばつが悪そうに、和也を諌める。
「と・・・とにかく、今は言い争いをしているときではございません・・・
答えを解きましょう・・・!」
ここで村上は場の空気を変えるため、ある提案をする。
「アルファベットはよく使われるものとあまり使われないものがございますっ!
確率上、よく使用されるアルファベットを当てはめて、ある程度埋まってから推理するんですっ!」
和也は“ほう・・・”と唸る。
「つまり、初めに入力するアルファベットは・・・」
「・・・「A」「I」「U」「E」「O」です・・・」
村上の言っていることは正しい。
ハングマンにはETAOIN SHRDLUの法則が存在する。
この法則に挙げられた12文字はアルファベットでも使用頻度が高いものであり、
これらのアルファベットを選択すれば、自ずと正解率が上がるのだ。
もちろん、村上はこの法則のことなど知る由もない。
しかし、村上が挙げた「A」「I」「U」「E」「O」――日本語の母音にあたる五つの単語はいずれも該当している。
「アルファベットは26文字・・・解答チャンスは7回・・・1/4ぐらいの確率か・・・」
枠に当てはまるアルファベットがかぶれば確率は若干変わってくるが、それでも確率だけで考えれば決して低くはない。
――でたらめにアルファベットを選んでも何とかなるかもな・・・
和也はそんな楽観的な考えを胸に秘めながら、村上の意見に頷く。
「よし・・・それでいこう・・・!」
和也は覚悟を決めると、金庫の「A」のボタンを強く押した。
パソコンに表示されたのは――
『不正解』
ブーという耳障りな音と画面いっぱいに現れた赤いバツの印。
それと同時に、ピ・・・ピ・・・と、和也の首輪から警告音が時計の秒針の間隔で木霊する。
「何だと・・・!」
和也は思わず首輪を抑える。
慌てふためく和也の様子を見て、小太郎は愉快そうに馬鹿笑いする。
「言い忘れていたけど間違うたびに、首輪の警告音の間隔が短くなっていくよっ!
あと、パソコンの絞首台のイラストを見てくれたまえっ!」
絞首台のイラストには人間の頭を連想させる円が書き込まれていた。
「このイラストはハングマンの肝・・・解答制限を表すイラストさっ!
間違うごとに身体が書き込まれ、最後に首輪が描かれた時が和也君の最後さっ!」
――頭、胴体、右腕、左腕、右足、左足、首輪・・・
だから解答チャンスが7回なのか・・・
和也は首輪をさすりながら、吐き捨てる。
「爆破するか、吊るかの違いはあるが、首を賭けたゲームであることには変わりねぇ・・・
えげつねぇよ・・・まったく・・・」
「それはとってもホメ言葉・・・!ありがとうね・・・和也ちん☆」
「・・・どういたして・・・」
小太郎の言葉に突っ込む気にもなれず、和也はそっぽを向く。
「時間がない・・・残りの母音を選択する・・・!」
和也は「I」「U」「E」「O」のボタンを押していく。
しかし、いずれもその答えは――
『不正解』『不正解』『不正解』『不正解』
「はぁ!?」
二人とも開いた口が塞がらない。
理屈上は完璧だった。
それだけに反動の失望感も大きい。
和也はわなわなと拳を震わせたまま、村上に詰め寄った。
「おいっ・・・ちっともかすりもしねぇじゃねぇか・・・!」
「でも・・・それ以外、思い付かなくて・・・!」
あまりに理不尽な和也の問い詰めに、村上は半泣きになりながら意見する。
心なしか語尾も潤んでいる。
「・・・すまない・・・」
村上に噛みついたのは所詮、苛立ちを紛らわすための八つ当たりでしかない。
それを理解しているだけに、和也は黙って村上を突き放した。
二人がそうこうしている間にも、絞首台のイラストには胴体、右腕、左腕、右足が次々と書き込まれる。
気がつくと、警告音の間隔は時計の秒針から早足の歩調にまで短くなっていた。
チャンスは後2回。
――何が何とかなるだっ!
「くそっ!」
和也が悔しさに任せて、金庫の壁を叩く。
先程まであれほど大口を叩いていた男が見せた、ある種の醜態。
加虐心が満たされるのか、在全は満足そうな笑いで和也に忠告する。
「兵藤和也、安心せい・・・!
今回の問題は英語が分からぬ類人猿でも分かるような解答となっておる・・・!」
「あぁ?類人猿でも分かるような解答だと・・・?」
和也は眉を曇らしながら、ハッと気づいた。
「・・・アルファベットは答えに含まれていない・・・って、ことか・・・!」
「え・・・どういうことですか・・・?」
村上の問いに、和也は手短に答える。
「さっき在全は“英語が分からぬ類人猿でも分かるような解答”と言った・・・
英語を知る必要なない・・・答えは英単語ではない・・・
じゃあ、ローマ字で表示する日本語かと言えば、それも違う・・・
何せ、ローマ字を成立するために必要な母音は全て枠に該当しなかったからな・・・
つまり・・・」
和也は金庫のアルファベットの隣にあるボタンを凝視する。
「枠に入るのは・・・数字だっ・・・!」
やっとここで黒崎が激怒した理由が分かった。
答えが数字の羅列だからこそ、黒崎は小太郎のヒントを理解することができなかったのだ。
――あの頭が働く黒崎でさえ分からないってのはかなり厄介だな・・・
「なかなかの着眼点・・・」
在全はいいものを見せてもらったと言わんばかりに手を叩く。
「多少は知恵があるようなじゃの・・・
類人猿から赤子ぐらいには評価を上げてやろう・・・!
じゃが・・・残り時間はあと5分を切ったぞっ・・・!」
確かにパソコンの画面上の時間は5分と表示されている。
――数字でかつ、『ハングマン』の本質・・・
和也は頭をかきながら、思考をめぐらす。
しかし、どんなに悩み抜いたところで、決定打が見つからない。
「おいっ!村上っ!」
和也から飛び出した言葉はとんでもないものだった。
「お前の好きな数字を言え・・・!」
「えっ・・・エェ!?」
村上はめまいを覚える。
村上の提案のせいで、解答権を5つも失っている。
その人間に選択権を与えるのだ。
正気の沙汰とは思えなかった。
「え・・・えっと・・・」
ここで間違えたら、今後誤答が許されない。
重圧が村上の心を蹂躙していく。
しかし、どんなに避けたいことであったとしても、命令である以上、答えざるを得ない。
――オレなんかが当てられるはずがないっ!
激流のように掻き乱れた思考から導き出された解答を村上は唇から漏らした。
「「3」・・・「3」はどうでしょうか・・・?」
「「3」・・・だと・・・?」
「あの・・・ゲームの主催者は帝愛、在全、誠京の3グループで、
和也様、利根川様、一条様も3人だから・・・
「3」は我々にとって、とてもなじみ深い数字で・・・」
パニック状態故にしょうがないことだが、村上の論理はこぎつけでしかない。
普通の人間なら、パートナーの無様な姿を目の当たりにして絶望を覚えることだろう。
しかし、和也はそれに当て嵌まることはなかった。
「確かに、「3」って数字はよく絡んでくるよな・・・」
村上の言葉を受け入れ、「3」のボタンへ指を動かし始めたのだ。
「え・・・」
まさか、失態を重ねた男の言葉を素直に受け入れるとは思わず、村上は防衛本能から理性を取り戻す。
「やめてくださいっ!私の言ったことは支離滅裂っ!もし、間違えたら・・・」
和也の指が「3」のボタンの手前で止まる。
「確かに・・・お前の言ったことは間違っているな・・・」
和也の言葉に、思い留まってくれたかと村上は安堵を覚える。
「そうですよ・・・だから、もっと冷静になって・・・」
和也は呆れたような溜息をつくと、“どうも・・・オレとお前の認識は少しずれているようだ・・・”と呟く。
「お前が間違っていることは・・・お前も含めて、オレ達は「4」人ってところだっ!」
和也の指が弾かれたように移動し、「4」を力強くプッシュした。
「なんですかっ!その理屈はっ!」
村上は和也が目上の人間に当たることも忘れ、金切り声で叫ぶ。
先ほどの村上の選択理由も半ば投げやりなものであったが、和也の理由も負けず劣らず、いい加減極まりない。
サイコロの目のような運だめしで正解を当てられるはずがない。
“終わった・・”と、心の中で村上が嘆いたその時だった。
『正解』
ピンポンという軽い機械音とともに五つの枠の最後の欄に「4」が浮かび上がる。
ちょうど、画面で見ると、
□□□□4
このように表示されている。
「う・・・うそ・・・」
村上は口を中途半端に開いたまま、画面を見つめる。
しかし、枠の中に4という数字が入っていることと、イラストに線が追加されていないことから、
これが現実であることを認識する。
「や・・・ヤッター!!!」
村上は喜びを体現するが如く、雄叫びをあげる。
今まで不正解が続いていただけに、負のスパイラルから抜け出した解放感は格別である。
それを横目で見ながら、和也は緊張を緩めたような吐息を漏らす。
――やっと、オレ達に流れが来たかっ!
村上に大事な局面を委ねたのは特に理由はない。
しいて理由を問われれば、ヒントが当てにならない状況下で、誰が数字を選択しても同じこと。
ならば、あえて自分ではなく、村上に選ばしたら正解を当てるかもしれない・・・という
直感が働いたからとも言うべきだろうか。
和也はこうしたら事態が大きく動くかもしれない、面白い展開になるかもしれないという直感が恐ろしく働き、
それを形として生み出すことに長けている男である。
それを表わすように、和也が考えた拷問ショーが日夜開催される会員制レストランは常に客が絶えることがない。
また、その才能は「愛よりも剣」などの展開が読めない小説においても遺憾無く発揮されている。
その直感が今、勝利を確信している。
――この波に乗って、オレは這い上がるっ!
「村上っ!次の数字を指定するんだっ!」
「はいっ!では「1」とかどうでしょうか!」
村上も流れがあると感じているのか、張りのある声で返答する。
「構わないが・・・どうして・・・?」
「それは・・・」
村上の心に一条とともに、働いてきた裏カジノの日々。
一条が黒服によって、地下王国へ連れて行かれる瞬間が走馬灯のようによみがえる。
「・・・私を導いてくださった数字ですから・・・」
――“一”条だからか・・・
「いいぜ・・・!」
和也は金庫の「1」のボタンを押した。
何も考えない方が上手くいくときもある。
何より、村上の言葉に秘められた意志の強さが更なる前進の予感を覚えさせた。
そして、パソコンの画面に現れたのは――
『不正解』
ここまでだった。
運命は和也の予感、村上の希望をもろくも決壊させた。
「あ・・・あぁ・・・」
村上の視界が水の上を漂う油のように、ぐにゃあと歪む。
画面のイラストに左足が追加された。
村上は立ち眩みにも似た感覚を覚え、額に手をやる。
「もう・・・チャンスは・・・」
「キャハハハハハ!」
小太郎がふんぞり返って呵々大笑する。
「さっきから村上の馬鹿の意見を聞いてチャンスを無駄に消費してばかりだね♪
不憫だよね・・・!か・ず・や・ち・ん☆」
――そうだ・・・その通りだ・・・
村上は拳を震わせ、歯をぐっと噛みしめる。
小太郎が言葉を発するたびに、村上の胸には刃が突き刺さるかのようだった。
その刃は自分への不甲斐なさであり、一条や和也への罪悪感であった。
村上はその場で土下座をせんばかりに深々と頭を下げる。
「和也様、私が至らぬばかりに申し訳・・・」
「謝る必要はねぇ・・・」
「えっ・・・」
全員が和也を見つめる。
和也は彼らと目線を合わせることなく、武器庫のテンキーを見入ったまま、口だけを動かす。
「言っておくが、お前に選択権を委ねたのも、それを了解したのもオレだ・・・
だったら、お前の選択はオレが責任をとる・・・当然だろ・・・?」
「か・・・和也様っ!申し訳・・・ござ・・・いませんっ・・・!」
――オレの失態なのに・・・
村上は膝を屈し、声もなく嗚咽する。
責められる立場のはずの村上を庇う一言。
村上は改めて和也の懐の深さを思い知ると同時に、今の和也がヨーロッパを統治した伝説のアーサー王や
シリア、エジプトを破竹の勢いで征服したアレクサンドロス大王などの英雄に匹敵するように思えてならなかった。
「自分で責任を負う・・・かっこいいね☆」
小太郎は舞台の役者が感動を表現するかのように両手で胸を押さえ、白々しい感嘆の声をあげる。
「僕・・・そんな和也ちんに心打たれちゃった☆
だから、特別にヒントあげちゃおうかな~♪」
「なんだって・・・!」
小太郎の甘い誘惑に村上は思わず食いつく。
小太郎は“教えてあげてもいいんだけど~”と勿体ぶると、ここが重要と指を左右に振ってジェスチャーする。
「土下座してくれたら、教えてもいいよ・・・和也ちんがね☆」
この屈辱的な言葉に、村上の胸に殺意が沸き起こる。
「ふ・・・ふざけるなっ!」
村上は画面を叩き割らんばかりの勢いでノートパソコンに掴みかかる。
しかし、悲しいかな、目の前にいる小太郎は所詮、液晶画面に映し出された映像でしかない。
いかに村上が力で訴えたところで何の意味も持たなかった。
小太郎は“カカカ・・・”と、弱者の無駄な足掻きに対する憐憫と嘲笑がこもった声でせせら笑う。
「だって、部下を守るんだろ・・・それくらいしてもらわなくっちゃ・・・☆」
村上は小太郎に牙を剥きながら叫ぶ。
「土下座なら、いくらでも私が・・・!」
「村上っ!」
煙毒によって淀んでしまった空気をなぎ払うような、和也の低く力強い声。
嫌な予感に駆られて、村上が振り返ると、そこには膝と手を床についた和也の姿があった。
「ヒントを・・・教えてくれ・・・」
「和也様・・・」
これまでの和也は常に覇者としての貫録を見せつけながら、このゲームを先導してきた。
その貫録を一人の部下のためにあえて投げ出したのだ。
村上は目の前の光景がもやに浮かび上がる幻のように現実から乖離したもののように思えた。
「キャハハハッハ!!!」
この直後、小太郎は鬼の首を取ったような高笑いを響かせる。
「さっすが、和也ちん・・・☆どう?どう?どんな気分っ?」
和也が下手に出たと分かるや否、小太郎はここぞとばかりにプライドを粉砕するような心無い質問を浴びせてくる。
「き・・・貴様ぁ・・・!これ以上の屈辱を・・・!」
怒りが沸点に達した村上はいよいよ画面を叩き割らんと、ノートパソコンを握りしめた。
その時、和也があの唯我独尊を体現したような尊大な笑みで顔を上げた。
「頭下げてやったんだから、早くヒントを出せよ・・・このパシリがっ・・・!」
「なっ・・・!」
小太郎はガクガクと歯を震わせる。
和也は無意識に“パシリ”という言葉を使ったが、
小太郎にとっては不良にこき使われ、辛酸を舐めてきた学生時代の象徴である。
思い出したくもない屈辱の過去が嘔吐のように胃から逆流する。
「何それ、土下座したから悔しいんでしょ!とっても見苦し・・・」
「オレは別に何とも思っちゃいねぇよ・・・」
和也は小太郎の雑言に横やりを入れる。
「オレは優勝するためなら、何だってするって決めている・・・殺人だって辞さない・・・
頭を下げたのも、オレと村上の生存率を上げるため・・・
土下座は目的のための手段でしかない・・・」
――そうきたか・・・
小太郎はかつての経験から知っている。
いじめなどで精神的に痛めつけられた人間は己の心を守るために、
標的にされたのはたまたま自分がその場に居合わせただけなどと自己弁解をして己を慰める。
先ほどの和也の高言も弁解でしかないのだと。
「強がりはよくないなぁ・・・やっぱり見苦しいっ!僕には分かっちゃうんだからっ!」
「そうだ・・・いいこと教えてやるぜ・・・」
和也は小太郎の言葉を無視するように立ちあがると、椅子に座り、足を組む。
「お前さ、ヒントを与えるために、あえて土下座を要求したよな・・・
それは言われた相手がどんだけ腹立たしさを覚えるのか知っているから・・・
つまり、経験・・・いじめにあった経験がある・・・
この状況でそれを望むのも、自分より下の人間がいるっていう優越感に浸かりたいからなんだろ・・・
かつて粉々に砕けたプライドを満たすために・・・」
小太郎の息が過呼吸の如く荒々しく乱れる。
和也の言葉は小太郎の過去を見透かしているかのように的を突いてくる。
――こいつに何が分かるっ!
「和也ちんの想像力は貧困だなぁ!
自慢じゃないけど、僕が卒業した高校は地元じゃ超有名なワルの巣窟ヤンキー高校っ!
僕はその不良グループの中核・・・!
舎弟もいたっ・・・!
この頭も中核だからこそのステータスっ!」
小太郎は和也達に後頭部を見せる。
そこには「城」を逆さにした文字が髪の毛で書かれていた。
「皆、この文字を入れた僕を恐れ、傅いたっ・・・!
そんな僕がいじめられていたなんて、とってもおかし・・・」
「墓穴を掘ったな・・・」
小太郎の悲痛とも言える否定を、和也は失笑ひとつで一蹴する。
「何が中核だ・・・!
普通、後頭部に文字を入れるっていう格好悪い事、誰がする!
本当は強要させたんだろ・・・!お前だけ・・・!」
「や・・・やめろ・・・」
小太郎は和也の言葉から逃れるために耳を塞ごうとする。
しかし、和也は“まだまだ、証拠があるぜっ!”と、その暇を与えることなく、更なる追撃をする。
「お前の芝居じみた態度!
素顔が分からなくなるほどのメイク!
奇抜すぎる衣装っ!
それは素の自分を否定する過程で生まれた虚栄の結果だっ!
弱い自分はもういない・・・!
今、いるのはゲームの司会者として輝いている自分・・・!
そう己に言い聞かせ、事実から目をそらす・・・!
己の傷を抉らないようにするためになっ!」
尋問するかのごとく、小太郎の暗部の記憶を暴き続ける和也。
小太郎にとって、今の和也の行為は胸をかっさばかれ、
臓物という名の過去を引きずり出されていると言ってもよい。
抉られた傷にもがき苦しむ小太郎に対して、和也は止めを刺す。
「なんだ図星か・・・赤いぜ・・・顔が・・・!」
「がはっ・・・!」
殺意の念が旋風のように頭の中で吹き荒れる。
やがて、その旋風は心の殻を破り――
「があ~~~~っ!」
小太郎は頭を押さえながら、テーブルに何度もぶつける。
かつての己を否定するが如く。
――兵藤和也っ!殺すっ!殺すっ!殺すっ!
小太郎は最終手段に出る。
「今のでお前のイメージ、超ダウンっ!超ダウンっ!
僕に暴言を吐いちゃうと、貰えるヒントも貰えなく・・・」
「兵藤和也・・・その洞察力・・・気に入ったぞっ!特別にワシからヒントをやろう・・・」
在全が朗らかに小太郎の言葉を遮った。
小太郎は戸惑いながら在全に申し立てる。
「けど、こいつは僕に対して暴言を・・・」
在全から年と不釣り合いな無邪気な笑みが消える。
「こやつはお前の約束通り、土下座をした・・・
今更、お前の感情で反故にする気か・・・
貴様は自分をこの場を支配する神とでも思っておるのか・・・」
氷片を散りばめたような在全の嗄れ声。
小太郎は体中から汗をだらだら流しだす。
これ以上、逆らえば命がないかもしれない。
そんな直感から押し黙ってしまった。
在全はその沈黙を肯定と受けとると、再び朗笑を浮かべ、それを和也たちに向ける。
「ヒントは・・・嫌なヤツと嫌なヤツが出会うと起こること・・・と言えばよいかの・・・」
「え・・・嫌なヤツ・・・」
村上は在全のヒントに困惑の色を見せる。
答えの数字とまったく結びつかないからだ。
――のらりくらりとかわされているだけじゃ・・・
在全たちに疑心を抱いたその時だった。
和也は村上に手を差し出した。
「メモ帳を貸してくれ・・・それとペンも・・・」
「え・・・はい・・・」
――こんな時に突然・・・
村上は和也の意図が分からないが、時間が押し迫っているため、
テーブルにあったメモとボールペンを急いで渡す。
和也はそれに何かを書き、睨みつける。
「確かに・・・本質だな・・・」
「和也様・・・?」
村上は謎めいた呟きを問い質したくなる衝動にかられるも、
メモを一刀両断するかのような和也の鋭利な眼光に、言葉が竦んでしまった。
時間が1分を切った時だった。
和也がその重い口を動かした。
「答えは分かったが・・・確証はない・・・」
和也はドアの方へ指差す。
「今すぐお前は外へ逃げろ・・・そうすれば、爆発からは免れる・・・」
突然の和也からの提案。
万が一、和也の首輪と金庫内の時限式爆弾が同時に爆発したとしても、外に逃れれば致命傷を避けることはできる。
「そ・・・それは・・・」
死へ恐怖か、生への執着か。
迷いが村上の身体をガチガチと震わせる。
――今、逃げ出せば・・・助かる・・・
甘い言葉が村上の心をくすぐるように囁きかける。
しかし、その甘い言葉に覆いかぶさるように一条の言葉が脳裏に浮かび上がる。
――翼は・・・両翼が揃わなければ、飛翔できない・・・
共に生き抜き・・・このゲームから飛び立とう・・・
「嫌ですっ!」
村上は奥歯の震えをかみ殺すと、キッと顔をあげた。
「私は黒服っ・・・このギャンブルルームを守るのが仕事ですっ!
それに・・・」
村上の表情が凛然と輝く。
「これから戻られる一条様に・・・誰がコーヒーを淹れるのですかっ!」
――こいつの一条への崇拝ぶりはオレの範疇を超えているな・・・
呆れながらも、和也は村上の意志の強さに感服を覚える。
「なら・・・一緒に死んでくれっ!」
和也は指を動かした。
「答えは「3」「5」「6」「7」だっ!」
――爆発するっ!
主君のために殉死する決意を固めたところで、生きたいと願っている部分も存在する。
その思いが村上の耳を塞がせ、目を瞑らせる。
――ああ・・・死にたくはない・・・むしろ、死ぬならひと思いに・・・
人間故にしょうがないことではあるが、俗物的な考えが頭をよぎる。
早鐘のような鼓動を身体で感じながら、やがて村上はあることに気づく。
――あれ・・・痛みを感じない・・・
村上は薄く眼を開ける。
事務室は黒こげになった様子もなく、あの無機質さと無個性さを維持している。
和也が生気に溢れた瞳で村上を見上げていた。
「村上・・・武器庫、開いたぜ・・・」
「えっ・・・」
武器庫の扉が重厚な金属音を響かせ、ゆっくり開いていく。
村上は耳から手を離す。
いつの間にか、和也の首輪の警告音も消えていた。
「まさか・・・正解・・・」
「そうだ・・・正解だ・・・」
「正解・・・」
様々な感情が交錯しすぎたあまり、村上の思考は半ば停止している状況に近い。
しかし、それが現実だと理解すると、霧が晴れていくように心の中が澄み渡り、
勝利した喜びが全身に伝わっていく。
「か・・・和也様っ!!!!」
嬉しさのあまり、村上は叫びながら和也に抱きつく。
“オレはそんな趣味持ってねぇよ・・・”と苦笑するも、
村上の気持ちも分からなくもないため、あえてなすがままに受け入れる。
「どうして・・・どうして・・・分かったのですか・・・!」
「ああ・・・決定打は在全からのヒントだな・・・」
嬉し涙を流しながら問う村上に和也はメモ帳を見せる。
そこには――
18782
+18782
―――――
37564
という計算式が記入されていた。
「正解は37564・・・“皆殺し”だっ!」
「正解は“皆殺し”!皆殺しなんですねっ!・・・・・・って、これ、語呂合わせ・・・ですよね・・・」
あまりに突拍子もない解答に、村上はほとばしる熱き感動が急速に冷めていくのを感じる。
「だから、確証がないって言っただろ・・・馬鹿馬鹿しすぎて・・・」
「馬鹿馬鹿しいとは何じゃい・・・!」
在全が画面から憤慨だと言わんばかりに拗ねた表情で和也たちを睨みつける。
「ワシはヒントで言ったじゃろ・・・
嫌なヤツ(18782)と嫌なヤツ(18782)が出会う(+)と起こることと・・・
わざわざ“英語が分からぬ類人猿”と言って、日本語の解答であると暗に示しておるし、
何より、小太郎が冒頭で言ったわい・・・
ヒントは“このゲームの本質”――“バトルロワイアルの本質”とな・・・それが・・・」
在全の細い眼球に針のような光が宿る。
「・・・お主の目的じゃろ・・・兵藤・・・」
――オレの嘘ルールについて示しているのか・・・
最終的に一条も利根川も殺すってことを・・・
和也は在全の眼光に不快な棘を感じる。
しかし、それをぼかして和也に伝えたということは露呈する気はないらしい。
和也も“まぁ・・・間違いはねぇかな・・・”と在全と同じように濁した返答でその場を誤魔化す。
「まったく・・・ワシが一生懸命考えたのにのぉ・・・」
未だに“馬鹿馬鹿しい”という酷評が気になるのか、在全はぶつぶつと小言を呟き続ける。
――そりゃあ・・・命をかけた問題の解答がトンチってのはあり得ないだろ・・・
ゲーム開始直後、腹を立てた黒崎の気持ちが今となってはよく分かる。
和也は複雑そうな面持ちで頬を掻いた。
「和也様・・・おめでとうございます・・・」
ゲームが終了して、やっと音声機能が回復したらしく、黒崎は深々と頭を下げる。
「あぁ・・・黒崎もお疲れ様・・・」
時間としては10分きっかりであったが、黒崎も心労が溜まってしまったのだろう。
幾分、やつれたようにも見える。
「ところでさ・・・村上の件なんだけどよ・・・」
探りを入れるかのように尋ねる和也に、黒崎は肩の力を抜いたような微笑を浮かべる。
「和也様はご自身のお力で権利を獲得されました・・・
今更、私がとやかく言う筋合いはございません・・・
村上の行動はマニュアルからよほど逸脱したことがない限り、目を瞑りましょう・・・」
「それってさ・・・勿論・・・」
黒崎は一瞬、キョトンとするも、和也の言いたいことをすぐに察した。
「ええ、勿論・・・ギャンブルルームの備品の貸し出しは自由・・・
盗聴器や武器庫・・・我々からの特別支給品です・・・」
“ただ、あくまでも今回だけですから・・・”と付け加える。
「分かってるぜっ!」
弾んだ声で和也は了解する。
それだけあれば、次の戦略の幅が大きく広がるというもの。
和也の眼にはその期待が赤々と燃え上がっていた。
――まさか、本当に当ててしまうとはな・・・
黒崎が解答の意味に気付いた時、すでに音声が切られた後であった。
もともと和也は頭が切れるとは言え、今回の問題はあまりにもミスリードが多すぎた。
その上、和也の首輪は本当に作動していた。
もし、和也が間違った解答を選択していれば、首輪は爆破していたのだ。
――これが・・・帝王の血というものか・・・
その逆境を撥ね退けた和也の肝勇に、黒崎は呆れと敬意を含めた苦笑をする。
しかし、苦笑しながら、すでに黒崎の心は別のことを考えていた。
――あの男は何を考えているっ・・・!
あの男とは勿論、在全のことである。
和也は殺し合いに手を染める数少ない者――バトルロワイアルの潤滑油である。
その貴重な潤滑油を、己の欲求を満たすためなら、結果的に潰れてしまっても構わないという在全に、黒崎は憤懣を覚える。
――このゲームを早々に破綻させる気かっ!
「黒崎殿・・・随分、お疲れのようじゃの・・・」
在全が画面から覗き込むように黒崎を確認する。
“貴様が全ての元凶だ”という沸き起こる暴言をなんとか押さえると、
“予想外のことが多すぎましたので・・・”と失礼がない程度の皮肉で答える。
しかし、在全にはその意味がまるで伝わっていないらしく、
“どうやったら、黒崎殿の気力が回復できるかの・・・”とありがた迷惑なことに真剣に考えてくれている。
――貴様がすぐにでも画面から消えてくれれば済むことだ・・・
在全への不満が湯水のように溢れてくる。
1時間前に戻って、後藤に渡した書類を処分してしまいたいと望んだ直後だった。
在全は何かを思い付いたらしく、手をポンと叩いた。
「そうじゃ!コーヒーを今すぐ飲むのじゃっ!黒崎殿っ!」
「はぁ・・・」
大方、村上が一条のためにコーヒーを準備していることからヒントを得たんだろと、
毒にも薬にもならないアドバイスに黒崎は力のない返事で答える。
嫌気が差したことを露骨に示す黒崎の抵抗も空しく、
在全は“唾液の中のクロモグラニンAという成分がコーヒーによって低下しての・・・”と勝手に講義を始めてしまった。
「あの・・・私は明日の準備もありますので、これで・・・」
黒崎の言葉にやっとその意志を理解したのか、不平を鳴らす。
「まったくツンツンしおってのぉ・・・ワシはお主の意志を承知してこんなギャンブルを仕組んだというのに・・・!」
――そんなこと誰が望むかっ!
と、叫びそうになった時、ある考えが黒崎の脳裏をよぎった。
「・・・とにかく明日の準備がございますので・・・」
黒崎は在全の“コーヒーを飲むのじゃぞ!”という言葉を受け流すようにモニターの画面を切ってしまった。
黒崎はパソコン画面をデスクトップにすると、近くのリクライニングチェアに身を預けた。
「つかの間の休息か・・・」
しかし、黒崎はそれがすぐに終息することも理解していた。
黒崎はリクライニングチェアの近くのマイクに囁く。
「コーヒーを一杯・・・」
黒崎が全てを言い終わる前に扉をたたく音が部屋に響く。
――やはり・・・早かったな・・・。
黒崎は在全の言葉を振り返る。
――ワシはお主の意志を承知して、こんなギャンブルを仕組んだというのに・・・!
勿論、ギャンブルに関して、黒崎は在全に何の意志も示してはいない。
この言葉は自分勝手な在全が己を正当化するための押し付けがましい言い訳のように聞こえる。
しかし、それにしても状況上、不自然すぎる言い回しである。
――在全が承知した私の意志とは、ギャンブルを執り行いたいという意志ではなく、
私の意志――提案に対する返答っ・・・!
黒崎は1時間程前にギャラリーへのクレームの返答文書を後藤に渡した。
その際、文章の最後にこのような内容を付け加えたのだ。
『今回のギャンブルが成功しました折には兵藤和尊を会長の座から引きずり落とし、
帝愛と在全、そして、誠京・・・その三者で手を結び、更なる発展を築きましょう』
――もし、返答があるならば、何らかの手段で伝える必要がある・・・
黒崎は気だるそうに身を起こし、扉を開けた。
扉の先には、普段見慣れない黒服がコーヒーの用意された盆を持って立っていた。
暗い部屋の中、壁全体を覆いつくすように配置されたテレビ画面の人工的な光だけがその男を照らし出す。
男の名は兵藤和尊。
兵藤は先ほどの和也たちのギャンブルのある場面を繰り返し確認していた。
その箇所は在全が解答を和也たちに説明した時の最後の言葉。
『・・・お主の目的じゃろ・・・兵藤・・・』
この言葉は一見、和也に向けられたものに思われる。
しかし、それまで在全は和也のことを“兵藤和也”とフルネームで呼んでいた。
この場になって、それを変えるのは不自然である。
つまり、これは和也に向けられたものではなく――
「ワシに向けられたもの・・・ワシの計画は予想がついておると言いたいのか・・・」
――37564・・・“鏖”
兵藤は忌々しく眉をひそめる。
兵藤の最終目的は主催者と対主催がぶつかり合い、共倒れになること。
在全がその計画をどこまで把握しているのかは分からない。
だが、これだけは言える。
今回の和也たちのギャンブルは連絡を遮断している兵藤への――
「宣戦布告か・・・」
【E-5/ギャンブルルーム内/深夜】
【兵藤和也】
[状態]:健康
[道具]:チェーンソー 対人用地雷残り一個(アカギが所持)
クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0~1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広)
[所持金]:1000万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
死体から首輪を回収する
鷲巣に『特別ルール』の情報を広めてもらう
赤木しげるを殺す(首輪回収妨害の恐れがあるため)
盗聴を続ける、利根川、一条に指示を出す
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※遠藤、村岡も、合流して部下にしたいと思っております。彼らは自分に逆らえないと判断しています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、 そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。
※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。
※しづかの自爆爆弾はアカギに解除されましたが、そのことに気づいていません。盗聴器はアカギが持っています。 (今は和也のみ盗聴中)
※第二放送直後、ギャンブルルーム延長料金を払いました。3人であと3時間滞在できます。
※武器庫の中に何が入っているかは次の書き手さんにお任せします。
【E-5/病院/深夜】
【一条】
[状態]:健康
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) マッチ スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品×6(食料は×5) 不明支給品0~3(確認済み、武器ではない)
[所持金]:3600万円
[思考]:カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者、和也の部下にならない者を殺す
復讐の為に利用できそうな人物は利用する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
和也を護り切り、『特別ルール』によって村上と共に生還する
利根川とともにアカギを追う、和也から支持を受ける
※利根川とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※通常支給品×5(食料のみ4)は、重いのでE-5ギャンブルルーム内に置いてあります。
【利根川幸雄】
[状態]:健康
[道具]:デリンジャー(1/2) デリンジャーの弾(残り25発) Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具 ジャックのノミ 支給品一式
[所持金]:1800万円
[思考]:和也を護り切り、『特別ルール』によって生還する
首輪の回収
遠藤の抹殺
カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺
アカギの抹殺、鷲巣の保護
病院へ向かう
一条とともにアカギを追う、和也から支持を受ける
※両膝と両手、額にそれぞれ火傷の跡があります
※和也の保護、遠藤の抹殺、カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺を最優先事項としています。
※鷲巣に命令を下しているアカギを殺害し、鷲巣を仲間に加えようと目論んでおります。(和也は鷲巣を必要としていないことを知りません)
※一条とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※デリンジャーは服の袖口に潜ませています。
※Eカード用のリモコンはEカードで使われた針具操作用のリモコンです。電波が何処まで届くかは不明です。
※針具取り外し用工具はEカードの針具を取り外す為に必要な工具です。
※平山からの伝言を受けました(ひろゆきについて、カイジとの勝負について)
※計器からの受信が途絶えたままですが、平山が生きて病院内にいることを盗聴器で確認しました。(何かの切欠で計器が正常に再作動する可能性もあります)
※平山に協力する井川にはそれほど情報源として価値がないと判断しております。
※黒崎が邪魔者を消すために、このゲームを開催していると考えております。
※以前、黒崎が携わった“あるプロジェクト”が今回のゲームと深く関わっていると考え、その鍵は病院にあると踏んでおります。
※E-5ギャンブルルーム前には、勝広の持ち物であったスコップ、箕、利根川が回収し切れなかった残り700万円分のチップなどが未だにあります。
【D-1/地下王国/深夜】
【兵藤和尊】
[状態]:健康 興奮状態
[道具]: ?
[所持金]: ?
[思考]:優勝する 黒崎の足を引っ張る 主催者達を引っ掻き回す
※次のようにスパコンの予測が出ました。
何らかの要因で予測が外れることもあれば、今後条件を満たせばさらに該当者が増えることも考えられます。
大型火災が発生したことで、高熱となった建物の内部及びその周囲にいた参加者の首輪は電池の水分が蒸発し、失われた。
それによって、0時30分現在、田中沙織は約18時間。遠藤勇次は約2時間30分後に首輪が機能停止する。
※在全が兵藤の思惑を察していると考えております。
|129:[[強運]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|131:[[一致]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|129:[[強運]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:兵藤和也|136:[[ひとつの決着]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:一条|131:[[一致]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:利根川幸雄|131:[[一致]]|
|127:[[帝域]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:兵藤和尊|133:[[猩々の雫]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 村上|144:[[願意]]|
|113:[[第二回定時放送 ~起爆~]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 黒崎義裕|132:[[抜道]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:在全無量||
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:城山小太郎||
**宣戦布告(後編) ◆uBMOCQkEHY氏
「ふざけるなっ!」
この直後、黒崎が机を叩き、小太郎に問い詰める。
「今まで黙っていたが我慢ならないっ!これのどこが本質だっ!こんな・・・」
しかし、ここで黒崎の音声が途切れる。
小太郎がキーボードの隣にあるボタンを押していた。
「部外者はゲームが終わるまで、黙っていてね☆」
小太郎は和也たちに顔を向ける。
「黒崎さんにはゲームが終わるまで消音設定にしてもらったよ・・・!
彼が口を挟むと、ゲームが興ざめしちゃうからね♪」
「勝手にしろ・・・」
和也はノートパソコンを奪うように掴み、持ち上げた。
「解くぞっ!村上っ!」
「は・・・はいっ!」
和也と村上は金庫の前に座り込む。
和也は村上にノートパソコンを持たせると、“うむっ・・・”と声を唸らせ考え込む。
あまり当てにならないとは言え、まずはヒントから切り込んでいく。
小太郎が示したヒントは“このゲームの本質”。
――『ハングマン』の本質か・・・
『ハングマン』で求められていることは英単語を推理し、その単語を言い当てること。
――いや、そもそも・・・
「なぁ・・・村上・・・」
和也は村上の方を振り向き、見据える。
「あの・・・なんでしょうか・・・?」
引き込まれそうな和也の眼力に、村上は思わず息を呑む。
“何か思いついたのか・・・”と村上の直感が告げる。
和也の口から飛び出たのは意外な言葉だった。
「悪いが・・・オレ・・・英語・・・苦手なんだっ・・・!
スペル・・・一緒に考えてくれないか・・・?」
「は・・・ハァッ!?」
村上の語尾が上ずる。
これは問題を考える以前の問題だ。
たとえ解答が分かったとしても、その単語を知らなければ答えようがない。
村上の不満げな反応に、和也はムッとふて腐れる。
「こっちはまだ、学生なんだっ!
分からない英語があったって、しょうがねぇじゃん!」
「えっ・・・学生って・・・和也様って、もしかして、未成年だったんですかっ!」
「ハァ!?オレをいくつぐらいに思っていたんだっ!お前は!?」
「・・・25、6歳くらい・・・少なくとも一条様より年上・・・」
「お前の目は節穴かっ!!」
ギャンブルが始まって早々のまさかの仲間割れ。
痴話喧嘩のような二人のやり取りに、在全も小太郎もケラケラと腹を抱えて笑い転げる。
在全と小太郎の様子を目の当たりにした村上はばつが悪そうに、和也を諌める。
「と・・・とにかく、今は言い争いをしているときではございません・・・
答えを解きましょう・・・!」
ここで村上は場の空気を変えるため、ある提案をする。
「アルファベットはよく使われるものとあまり使われないものがございますっ!
確率上、よく使用されるアルファベットを当てはめて、ある程度埋まってから推理するんですっ!」
和也は“ほう・・・”と唸る。
「つまり、初めに入力するアルファベットは・・・」
「・・・「A」「I」「U」「E」「O」です・・・」
村上の言っていることは正しい。
ハングマンにはETAOIN SHRDLUの法則が存在する。
この法則に挙げられた12文字はアルファベットでも使用頻度が高いものであり、
これらのアルファベットを選択すれば、自ずと正解率が上がるのだ。
もちろん、村上はこの法則のことなど知る由もない。
しかし、村上が挙げた「A」「I」「U」「E」「O」――日本語の母音にあたる五つの単語はいずれも該当している。
「アルファベットは26文字・・・解答チャンスは7回・・・1/4ぐらいの確率か・・・」
枠に当てはまるアルファベットがかぶれば確率は若干変わってくるが、それでも確率だけで考えれば決して低くはない。
――でたらめにアルファベットを選んでも何とかなるかもな・・・
和也はそんな楽観的な考えを胸に秘めながら、村上の意見に頷く。
「よし・・・それでいこう・・・!」
和也は覚悟を決めると、金庫の「A」のボタンを強く押した。
パソコンに表示されたのは――
『不正解』
ブーという耳障りな音と画面いっぱいに現れた赤いバツの印。
それと同時に、ピ・・・ピ・・・と、和也の首輪から警告音が時計の秒針の間隔で木霊する。
「何だと・・・!」
和也は思わず首輪を抑える。
慌てふためく和也の様子を見て、小太郎は愉快そうに馬鹿笑いする。
「言い忘れていたけど間違うたびに、首輪の警告音の間隔が短くなっていくよっ!
あと、パソコンの絞首台のイラストを見てくれたまえっ!」
絞首台のイラストには人間の頭を連想させる円が書き込まれていた。
「このイラストはハングマンの肝・・・解答制限を表すイラストさっ!
間違うごとに身体が書き込まれ、最後に首輪が描かれた時が和也君の最後さっ!」
――頭、胴体、右腕、左腕、右足、左足、首輪・・・
だから解答チャンスが7回なのか・・・
和也は首輪をさすりながら、吐き捨てる。
「爆破するか、吊るかの違いはあるが、首を賭けたゲームであることには変わりねぇ・・・
えげつねぇよ・・・まったく・・・」
「それはとってもホメ言葉・・・!ありがとうね・・・和也ちん☆」
「・・・どういたして・・・」
小太郎の言葉に突っ込む気にもなれず、和也はそっぽを向く。
「時間がない・・・残りの母音を選択する・・・!」
和也は「I」「U」「E」「O」のボタンを押していく。
しかし、いずれもその答えは――
『不正解』『不正解』『不正解』『不正解』
「はぁ!?」
二人とも開いた口が塞がらない。
理屈上は完璧だった。
それだけに反動の失望感も大きい。
和也はわなわなと拳を震わせたまま、村上に詰め寄った。
「おいっ・・・ちっともかすりもしねぇじゃねぇか・・・!」
「でも・・・それ以外、思い付かなくて・・・!」
あまりに理不尽な和也の問い詰めに、村上は半泣きになりながら意見する。
心なしか語尾も潤んでいる。
「・・・すまない・・・」
村上に噛みついたのは所詮、苛立ちを紛らわすための八つ当たりでしかない。
それを理解しているだけに、和也は黙って村上を突き放した。
二人がそうこうしている間にも、絞首台のイラストには胴体、右腕、左腕、右足が次々と書き込まれる。
気がつくと、警告音の間隔は時計の秒針から早足の歩調にまで短くなっていた。
チャンスは後2回。
――何が何とかなるだっ!
「くそっ!」
和也が悔しさに任せて、金庫の壁を叩く。
先程まであれほど大口を叩いていた男が見せた、ある種の醜態。
加虐心が満たされるのか、在全は満足そうな笑いで和也に忠告する。
「兵藤和也、安心せい・・・!
今回の問題は英語が分からぬ類人猿でも分かるような解答となっておる・・・!」
「あぁ?類人猿でも分かるような解答だと・・・?」
和也は眉を曇らしながら、ハッと気づいた。
「・・・アルファベットは答えに含まれていない・・・って、ことか・・・!」
「え・・・どういうことですか・・・?」
村上の問いに、和也は手短に答える。
「さっき在全は“英語が分からぬ類人猿でも分かるような解答”と言った・・・
英語を知る必要なない・・・答えは英単語ではない・・・
じゃあ、ローマ字で表示する日本語かと言えば、それも違う・・・
何せ、ローマ字を成立するために必要な母音は全て枠に該当しなかったからな・・・
つまり・・・」
和也は金庫のアルファベットの隣にあるボタンを凝視する。
「枠に入るのは・・・数字だっ・・・!」
やっとここで黒崎が激怒した理由が分かった。
答えが数字の羅列だからこそ、黒崎は小太郎のヒントを理解することができなかったのだ。
――あの頭が働く黒崎でさえ分からないってのはかなり厄介だな・・・
「なかなかの着眼点・・・」
在全はいいものを見せてもらったと言わんばかりに手を叩く。
「多少は知恵があるようなじゃの・・・
類人猿から赤子ぐらいには評価を上げてやろう・・・!
じゃが・・・残り時間はあと5分を切ったぞっ・・・!」
確かにパソコンの画面上の時間は5分と表示されている。
――数字でかつ、『ハングマン』の本質・・・
和也は頭をかきながら、思考をめぐらす。
しかし、どんなに悩み抜いたところで、決定打が見つからない。
「おいっ!村上っ!」
和也から飛び出した言葉はとんでもないものだった。
「お前の好きな数字を言え・・・!」
「えっ・・・エェ!?」
村上はめまいを覚える。
村上の提案のせいで、解答権を5つも失っている。
その人間に選択権を与えるのだ。
正気の沙汰とは思えなかった。
「え・・・えっと・・・」
ここで間違えたら、今後誤答が許されない。
重圧が村上の心を蹂躙していく。
しかし、どんなに避けたいことであったとしても、命令である以上、答えざるを得ない。
――オレなんかが当てられるはずがないっ!
激流のように掻き乱れた思考から導き出された解答を村上は唇から漏らした。
「「3」・・・「3」はどうでしょうか・・・?」
「「3」・・・だと・・・?」
「あの・・・ゲームの主催者は帝愛、在全、誠京の3グループで、
和也様、利根川様、一条様も3人だから・・・
「3」は我々にとって、とてもなじみ深い数字で・・・」
パニック状態故にしょうがないことだが、村上の論理はこぎつけでしかない。
普通の人間なら、パートナーの無様な姿を目の当たりにして絶望を覚えることだろう。
しかし、和也はそれに当て嵌まることはなかった。
「確かに、「3」って数字はよく絡んでくるよな・・・」
村上の言葉を受け入れ、「3」のボタンへ指を動かし始めたのだ。
「え・・・」
まさか、失態を重ねた男の言葉を素直に受け入れるとは思わず、村上は防衛本能から理性を取り戻す。
「やめてくださいっ!私の言ったことは支離滅裂っ!もし、間違えたら・・・」
和也の指が「3」のボタンの手前で止まる。
「確かに・・・お前の言ったことは間違っているな・・・」
和也の言葉に、思い留まってくれたかと村上は安堵を覚える。
「そうですよ・・・だから、もっと冷静になって・・・」
和也は呆れたような溜息をつくと、“どうも・・・オレとお前の認識は少しずれているようだ・・・”と呟く。
「お前が間違っていることは・・・お前も含めて、オレ達は「4」人ってところだっ!」
和也の指が弾かれたように移動し、「4」を力強くプッシュした。
「なんですかっ!その理屈はっ!」
村上は和也が目上の人間に当たることも忘れ、金切り声で叫ぶ。
先ほどの村上の選択理由も半ば投げやりなものであったが、和也の理由も負けず劣らず、いい加減極まりない。
サイコロの目のような運だめしで正解を当てられるはずがない。
“終わった・・”と、心の中で村上が嘆いたその時だった。
『正解』
ピンポンという軽い機械音とともに五つの枠の最後の欄に「4」が浮かび上がる。
ちょうど、画面で見ると、
□□□□4
このように表示されている。
「う・・・うそ・・・」
村上は口を中途半端に開いたまま、画面を見つめる。
しかし、枠の中に4という数字が入っていることと、イラストに線が追加されていないことから、
これが現実であることを認識する。
「や・・・ヤッター!!!」
村上は喜びを体現するが如く、雄叫びをあげる。
今まで不正解が続いていただけに、負のスパイラルから抜け出した解放感は格別である。
それを横目で見ながら、和也は緊張を緩めたような吐息を漏らす。
――やっと、オレ達に流れが来たかっ!
村上に大事な局面を委ねたのは特に理由はない。
しいて理由を問われれば、ヒントが当てにならない状況下で、誰が数字を選択しても同じこと。
ならば、あえて自分ではなく、村上に選ばしたら正解を当てるかもしれない・・・という
直感が働いたからとも言うべきだろうか。
和也はこうしたら事態が大きく動くかもしれない、面白い展開になるかもしれないという直感が恐ろしく働き、
それを形として生み出すことに長けている男である。
それを表わすように、和也が考えた拷問ショーが日夜開催される会員制レストランは常に客が絶えることがない。
また、その才能は「愛よりも剣」などの展開が読めない小説においても遺憾無く発揮されている。
その直感が今、勝利を確信している。
――この波に乗って、オレは這い上がるっ!
「村上っ!次の数字を指定するんだっ!」
「はいっ!では「1」とかどうでしょうか!」
村上も流れがあると感じているのか、張りのある声で返答する。
「構わないが・・・どうして・・・?」
「それは・・・」
村上の心に一条とともに、働いてきた裏カジノの日々。
一条が黒服によって、地下王国へ連れて行かれる瞬間が走馬灯のようによみがえる。
「・・・私を導いてくださった数字ですから・・・」
――“一”条だからか・・・
「いいぜ・・・!」
和也は金庫の「1」のボタンを押した。
何も考えない方が上手くいくときもある。
何より、村上の言葉に秘められた意志の強さが更なる前進の予感を覚えさせた。
そして、パソコンの画面に現れたのは――
『不正解』
ここまでだった。
運命は和也の予感、村上の希望をもろくも決壊させた。
「あ・・・あぁ・・・」
村上の視界が水の上を漂う油のように、ぐにゃあと歪む。
画面のイラストに左足が追加された。
村上は立ち眩みにも似た感覚を覚え、額に手をやる。
「もう・・・チャンスは・・・」
「キャハハハハハ!」
小太郎がふんぞり返って呵々大笑する。
「さっきから村上の馬鹿の意見を聞いてチャンスを無駄に消費してばかりだね♪
不憫だよね・・・!か・ず・や・ち・ん☆」
――そうだ・・・その通りだ・・・
村上は拳を震わせ、歯をぐっと噛みしめる。
小太郎が言葉を発するたびに、村上の胸には刃が突き刺さるかのようだった。
その刃は自分への不甲斐なさであり、一条や和也への罪悪感であった。
村上はその場で土下座をせんばかりに深々と頭を下げる。
「和也様、私が至らぬばかりに申し訳・・・」
「謝る必要はねぇ・・・」
「えっ・・・」
全員が和也を見つめる。
和也は彼らと目線を合わせることなく、武器庫のテンキーを見入ったまま、口だけを動かす。
「言っておくが、お前に選択権を委ねたのも、それを了解したのもオレだ・・・
だったら、お前の選択はオレが責任をとる・・・当然だろ・・・?」
「か・・・和也様っ!申し訳・・・ござ・・・いませんっ・・・!」
――オレの失態なのに・・・
村上は膝を屈し、声もなく嗚咽する。
責められる立場のはずの村上を庇う一言。
村上は改めて和也の懐の深さを思い知ると同時に、今の和也がヨーロッパを統治した伝説のアーサー王や
シリア、エジプトを破竹の勢いで征服したアレクサンドロス大王などの英雄に匹敵するように思えてならなかった。
「自分で責任を負う・・・かっこいいね☆」
小太郎は舞台の役者が感動を表現するかのように両手で胸を押さえ、白々しい感嘆の声をあげる。
「僕・・・そんな和也ちんに心打たれちゃった☆
だから、特別にヒントあげちゃおうかな~♪」
「なんだって・・・!」
小太郎の甘い誘惑に村上は思わず食いつく。
小太郎は“教えてあげてもいいんだけど~”と勿体ぶると、ここが重要と指を左右に振ってジェスチャーする。
「土下座してくれたら、教えてもいいよ・・・和也ちんがね☆」
この屈辱的な言葉に、村上の胸に殺意が沸き起こる。
「ふ・・・ふざけるなっ!」
村上は画面を叩き割らんばかりの勢いでノートパソコンに掴みかかる。
しかし、悲しいかな、目の前にいる小太郎は所詮、液晶画面に映し出された映像でしかない。
いかに村上が力で訴えたところで何の意味も持たなかった。
小太郎は“カカカ・・・”と、弱者の無駄な足掻きに対する憐憫と嘲笑がこもった声でせせら笑う。
「だって、部下を守るんだろ・・・それくらいしてもらわなくっちゃ・・・☆」
村上は小太郎に牙を剥きながら叫ぶ。
「土下座なら、いくらでも私が・・・!」
「村上っ!」
煙毒によって淀んでしまった空気をなぎ払うような、和也の低く力強い声。
嫌な予感に駆られて、村上が振り返ると、そこには膝と手を床についた和也の姿があった。
「ヒントを・・・教えてくれ・・・」
「和也様・・・」
これまでの和也は常に覇者としての貫録を見せつけながら、このゲームを先導してきた。
その貫録を一人の部下のためにあえて投げ出したのだ。
村上は目の前の光景がもやに浮かび上がる幻のように現実から乖離したもののように思えた。
「キャハハハッハ!!!」
この直後、小太郎は鬼の首を取ったような高笑いを響かせる。
「さっすが、和也ちん・・・☆どう?どう?どんな気分っ?」
和也が下手に出たと分かるや否、小太郎はここぞとばかりにプライドを粉砕するような心無い質問を浴びせてくる。
「き・・・貴様ぁ・・・!これ以上の屈辱を・・・!」
怒りが沸点に達した村上はいよいよ画面を叩き割らんと、ノートパソコンを握りしめた。
その時、和也があの唯我独尊を体現したような尊大な笑みで顔を上げた。
「頭下げてやったんだから、早くヒントを出せよ・・・このパシリがっ・・・!」
「なっ・・・!」
小太郎はガクガクと歯を震わせる。
和也は無意識に“パシリ”という言葉を使ったが、
小太郎にとっては不良にこき使われ、辛酸を舐めてきた学生時代の象徴である。
思い出したくもない屈辱の過去が嘔吐のように胃から逆流する。
「何それ、土下座したから悔しいんでしょ!とっても見苦し・・・」
「オレは別に何とも思っちゃいねぇよ・・・」
和也は小太郎の雑言に横やりを入れる。
「オレは優勝するためなら、何だってするって決めている・・・殺人だって辞さない・・・
頭を下げたのも、オレと村上の生存率を上げるため・・・
土下座は目的のための手段でしかない・・・」
――そうきたか・・・
小太郎はかつての経験から知っている。
いじめなどで精神的に痛めつけられた人間は己の心を守るために、
標的にされたのはたまたま自分がその場に居合わせただけなどと自己弁解をして己を慰める。
先ほどの和也の高言も弁解でしかないのだと。
「強がりはよくないなぁ・・・やっぱり見苦しいっ!僕には分かっちゃうんだからっ!」
「そうだ・・・いいこと教えてやるぜ・・・」
和也は小太郎の言葉を無視するように立ちあがると、椅子に座り、足を組む。
「お前さ、ヒントを与えるために、あえて土下座を要求したよな・・・
それは言われた相手がどんだけ腹立たしさを覚えるのか知っているから・・・
つまり、経験・・・いじめにあった経験がある・・・
この状況でそれを望むのも、自分より下の人間がいるっていう優越感に浸かりたいからなんだろ・・・
かつて粉々に砕けたプライドを満たすために・・・」
小太郎の息が過呼吸の如く荒々しく乱れる。
和也の言葉は小太郎の過去を見透かしているかのように的を突いてくる。
――こいつに何が分かるっ!
「和也ちんの想像力は貧困だなぁ!
自慢じゃないけど、僕が卒業した高校は地元じゃ超有名なワルの巣窟ヤンキー高校っ!
僕はその不良グループの中核・・・!
舎弟もいたっ・・・!
この頭も中核だからこそのステータスっ!」
小太郎は和也達に後頭部を見せる。
そこには「城」を逆さにした文字が髪の毛で書かれていた。
「皆、この文字を入れた僕を恐れ、傅いたっ・・・!
そんな僕がいじめられていたなんて、とってもおかし・・・」
「墓穴を掘ったな・・・」
小太郎の悲痛とも言える否定を、和也は失笑ひとつで一蹴する。
「何が中核だ・・・!
普通、後頭部に文字を入れるっていう格好悪い事、誰がする!
本当は強要させたんだろ・・・!お前だけ・・・!」
「や・・・やめろ・・・」
小太郎は和也の言葉から逃れるために耳を塞ごうとする。
しかし、和也は“まだまだ、証拠があるぜっ!”と、その暇を与えることなく、更なる追撃をする。
「お前の芝居じみた態度!
素顔が分からなくなるほどのメイク!
奇抜すぎる衣装っ!
それは素の自分を否定する過程で生まれた虚栄の結果だっ!
弱い自分はもういない・・・!
今、いるのはゲームの司会者として輝いている自分・・・!
そう己に言い聞かせ、事実から目をそらす・・・!
己の傷を抉らないようにするためになっ!」
尋問するかのごとく、小太郎の暗部の記憶を暴き続ける和也。
小太郎にとって、今の和也の行為は胸をかっさばかれ、
臓物という名の過去を引きずり出されていると言ってもよい。
抉られた傷にもがき苦しむ小太郎に対して、和也は止めを刺す。
「なんだ図星か・・・赤いぜ・・・顔が・・・!」
「がはっ・・・!」
殺意の念が旋風のように頭の中で吹き荒れる。
やがて、その旋風は心の殻を破り――
「があ~~~~っ!」
小太郎は頭を押さえながら、テーブルに何度もぶつける。
かつての己を否定するが如く。
――兵藤和也っ!殺すっ!殺すっ!殺すっ!
小太郎は最終手段に出る。
「今のでお前のイメージ、超ダウンっ!超ダウンっ!
僕に暴言を吐いちゃうと、貰えるヒントも貰えなく・・・」
「兵藤和也・・・その洞察力・・・気に入ったぞっ!特別にワシからヒントをやろう・・・」
在全が朗らかに小太郎の言葉を遮った。
小太郎は戸惑いながら在全に申し立てる。
「けど、こいつは僕に対して暴言を・・・」
在全から年と不釣り合いな無邪気な笑みが消える。
「こやつはお前の約束通り、土下座をした・・・
今更、お前の感情で反故にする気か・・・
貴様は自分をこの場を支配する神とでも思っておるのか・・・」
氷片を散りばめたような在全の嗄れ声。
小太郎は体中から汗をだらだら流しだす。
これ以上、逆らえば命がないかもしれない。
そんな直感から押し黙ってしまった。
在全はその沈黙を肯定と受けとると、再び朗笑を浮かべ、それを和也たちに向ける。
「ヒントは・・・嫌なヤツと嫌なヤツが出会うと起こること・・・と言えばよいかの・・・」
「え・・・嫌なヤツ・・・」
村上は在全のヒントに困惑の色を見せる。
答えの数字とまったく結びつかないからだ。
――のらりくらりとかわされているだけじゃ・・・
在全たちに疑心を抱いたその時だった。
和也は村上に手を差し出した。
「メモ帳を貸してくれ・・・それとペンも・・・」
「え・・・はい・・・」
――こんな時に突然・・・
村上は和也の意図が分からないが、時間が押し迫っているため、
テーブルにあったメモとボールペンを急いで渡す。
和也はそれに何かを書き、睨みつける。
「確かに・・・本質だな・・・」
「和也様・・・?」
村上は謎めいた呟きを問い質したくなる衝動にかられるも、
メモを一刀両断するかのような和也の鋭利な眼光に、言葉が竦んでしまった。
時間が1分を切った時だった。
和也がその重い口を動かした。
「答えは分かったが・・・確証はない・・・」
和也はドアの方へ指差す。
「今すぐお前は外へ逃げろ・・・そうすれば、爆発からは免れる・・・」
突然の和也からの提案。
万が一、和也の首輪と金庫内の時限式爆弾が同時に爆発したとしても、外に逃れれば致命傷を避けることはできる。
「そ・・・それは・・・」
死へ恐怖か、生への執着か。
迷いが村上の身体をガチガチと震わせる。
――今、逃げ出せば・・・助かる・・・
甘い言葉が村上の心をくすぐるように囁きかける。
しかし、その甘い言葉に覆いかぶさるように一条の言葉が脳裏に浮かび上がる。
――翼は・・・両翼が揃わなければ、飛翔できない・・・
共に生き抜き・・・このゲームから飛び立とう・・・
「嫌ですっ!」
村上は奥歯の震えをかみ殺すと、キッと顔をあげた。
「私は黒服っ・・・このギャンブルルームを守るのが仕事ですっ!
それに・・・」
村上の表情が凛然と輝く。
「これから戻られる一条様に・・・誰がコーヒーを淹れるのですかっ!」
――こいつの一条への崇拝ぶりはオレの範疇を超えているな・・・
呆れながらも、和也は村上の意志の強さに感服を覚える。
「なら・・・一緒に死んでくれっ!」
和也は指を動かした。
「答えは「3」「5」「6」「7」だっ!」
――爆発するっ!
主君のために殉死する決意を固めたところで、生きたいと願っている部分も存在する。
その思いが村上の耳を塞がせ、目を瞑らせる。
――ああ・・・死にたくはない・・・むしろ、死ぬならひと思いに・・・
人間故にしょうがないことではあるが、俗物的な考えが頭をよぎる。
早鐘のような鼓動を身体で感じながら、やがて村上はあることに気づく。
――あれ・・・痛みを感じない・・・
村上は薄く眼を開ける。
事務室は黒こげになった様子もなく、あの無機質さと無個性さを維持している。
和也が生気に溢れた瞳で村上を見上げていた。
「村上・・・武器庫、開いたぜ・・・」
「えっ・・・」
武器庫の扉が重厚な金属音を響かせ、ゆっくり開いていく。
村上は耳から手を離す。
いつの間にか、和也の首輪の警告音も消えていた。
「まさか・・・正解・・・」
「そうだ・・・正解だ・・・」
「正解・・・」
様々な感情が交錯しすぎたあまり、村上の思考は半ば停止している状況に近い。
しかし、それが現実だと理解すると、霧が晴れていくように心の中が澄み渡り、
勝利した喜びが全身に伝わっていく。
「か・・・和也様っ!!!!」
嬉しさのあまり、村上は叫びながら和也に抱きつく。
“オレはそんな趣味持ってねぇよ・・・”と苦笑するも、
村上の気持ちも分からなくもないため、あえてなすがままに受け入れる。
「どうして・・・どうして・・・分かったのですか・・・!」
「ああ・・・決定打は在全からのヒントだな・・・」
嬉し涙を流しながら問う村上に和也はメモ帳を見せる。
そこには――
18782
+18782
―――――
37564
という計算式が記入されていた。
「正解は37564・・・“皆殺し”だっ!」
「正解は“皆殺し”!皆殺しなんですねっ!・・・・・・って、これ、語呂合わせ・・・ですよね・・・」
あまりに突拍子もない解答に、村上はほとばしる熱き感動が急速に冷めていくのを感じる。
「だから、確証がないって言っただろ・・・馬鹿馬鹿しすぎて・・・」
「馬鹿馬鹿しいとは何じゃい・・・!」
在全が画面から憤慨だと言わんばかりに拗ねた表情で和也たちを睨みつける。
「ワシはヒントで言ったじゃろ・・・
嫌なヤツ(18782)と嫌なヤツ(18782)が出会う(+)と起こることと・・・
わざわざ“英語が分からぬ類人猿”と言って、日本語の解答であると暗に示しておるし、
何より、小太郎が冒頭で言ったわい・・・
ヒントは“このゲームの本質”――“バトルロワイアルの本質”とな・・・それが・・・」
在全の細い眼球に針のような光が宿る。
「・・・お主の目的じゃろ・・・兵藤・・・」
――オレの嘘ルールについて示しているのか・・・
最終的に一条も利根川も殺すってことを・・・
和也は在全の眼光に不快な棘を感じる。
しかし、それをぼかして和也に伝えたということは露呈する気はないらしい。
和也も“まぁ・・・間違いはねぇかな・・・”と在全と同じように濁した返答でその場を誤魔化す。
「まったく・・・ワシが一生懸命考えたのにのぉ・・・」
未だに“馬鹿馬鹿しい”という酷評が気になるのか、在全はぶつぶつと小言を呟き続ける。
――そりゃあ・・・命をかけた問題の解答がトンチってのはあり得ないだろ・・・
ゲーム開始直後、腹を立てた黒崎の気持ちが今となってはよく分かる。
和也は複雑そうな面持ちで頬を掻いた。
「和也様・・・おめでとうございます・・・」
ゲームが終了して、やっと音声機能が回復したらしく、黒崎は深々と頭を下げる。
「あぁ・・・黒崎もお疲れ様・・・」
時間としては10分きっかりであったが、黒崎も心労が溜まってしまったのだろう。
幾分、やつれたようにも見える。
「ところでさ・・・村上の件なんだけどよ・・・」
探りを入れるかのように尋ねる和也に、黒崎は肩の力を抜いたような微笑を浮かべる。
「和也様はご自身のお力で権利を獲得されました・・・
今更、私がとやかく言う筋合いはございません・・・
村上の行動はマニュアルからよほど逸脱したことがない限り、目を瞑りましょう・・・」
「それってさ・・・勿論・・・」
黒崎は一瞬、キョトンとするも、和也の言いたいことをすぐに察した。
「ええ、勿論・・・ギャンブルルームの備品の貸し出しは自由・・・
盗聴器や武器庫・・・我々からの特別支給品です・・・」
“ただ、あくまでも今回だけですから・・・”と付け加える。
「分かってるぜっ!」
弾んだ声で和也は了解する。
それだけあれば、次の戦略の幅が大きく広がるというもの。
和也の眼にはその期待が赤々と燃え上がっていた。
――まさか、本当に当ててしまうとはな・・・
黒崎が解答の意味に気付いた時、すでに音声が切られた後であった。
もともと和也は頭が切れるとは言え、今回の問題はあまりにもミスリードが多すぎた。
その上、和也の首輪は本当に作動していた。
もし、和也が間違った解答を選択していれば、首輪は爆破していたのだ。
――これが・・・帝王の血というものか・・・
その逆境を撥ね退けた和也の肝勇に、黒崎は呆れと敬意を含めた苦笑をする。
しかし、苦笑しながら、すでに黒崎の心は別のことを考えていた。
――あの男は何を考えているっ・・・!
あの男とは勿論、在全のことである。
和也は殺し合いに手を染める数少ない者――バトルロワイアルの潤滑油である。
その貴重な潤滑油を、己の欲求を満たすためなら、結果的に潰れてしまっても構わないという在全に、黒崎は憤懣を覚える。
――このゲームを早々に破綻させる気かっ!
「黒崎殿・・・随分、お疲れのようじゃの・・・」
在全が画面から覗き込むように黒崎を確認する。
“貴様が全ての元凶だ”という沸き起こる暴言をなんとか押さえると、
“予想外のことが多すぎましたので・・・”と失礼がない程度の皮肉で答える。
しかし、在全にはその意味がまるで伝わっていないらしく、
“どうやったら、黒崎殿の気力が回復できるかの・・・”とありがた迷惑なことに真剣に考えてくれている。
――貴様がすぐにでも画面から消えてくれれば済むことだ・・・
在全への不満が湯水のように溢れてくる。
1時間前に戻って、後藤に渡した書類を処分してしまいたいと望んだ直後だった。
在全は何かを思い付いたらしく、手をポンと叩いた。
「そうじゃ!コーヒーを今すぐ飲むのじゃっ!黒崎殿っ!」
「はぁ・・・」
大方、村上が一条のためにコーヒーを準備していることからヒントを得たんだろと、
毒にも薬にもならないアドバイスに黒崎は力のない返事で答える。
嫌気が差したことを露骨に示す黒崎の抵抗も空しく、
在全は“唾液の中のクロモグラニンAという成分がコーヒーによって低下しての・・・”と勝手に講義を始めてしまった。
「あの・・・私は明日の準備もありますので、これで・・・」
黒崎の言葉にやっとその意志を理解したのか、不平を鳴らす。
「まったくツンツンしおってのぉ・・・ワシはお主の意志を承知してこんなギャンブルを仕組んだというのに・・・!」
――そんなこと誰が望むかっ!
と、叫びそうになった時、ある考えが黒崎の脳裏をよぎった。
「・・・とにかく明日の準備がございますので・・・」
黒崎は在全の“コーヒーを飲むのじゃぞ!”という言葉を受け流すようにモニターの画面を切ってしまった。
黒崎はパソコン画面をデスクトップにすると、近くのリクライニングチェアに身を預けた。
「つかの間の休息か・・・」
しかし、黒崎はそれがすぐに終息することも理解していた。
黒崎はリクライニングチェアの近くのマイクに囁く。
「コーヒーを一杯・・・」
黒崎が全てを言い終わる前に扉をたたく音が部屋に響く。
――やはり・・・早かったな・・・。
黒崎は在全の言葉を振り返る。
――ワシはお主の意志を承知して、こんなギャンブルを仕組んだというのに・・・!
勿論、ギャンブルに関して、黒崎は在全に何の意志も示してはいない。
この言葉は自分勝手な在全が己を正当化するための押し付けがましい言い訳のように聞こえる。
しかし、それにしても状況上、不自然すぎる言い回しである。
――在全が承知した私の意志とは、ギャンブルを執り行いたいという意志ではなく、
私の意志――提案に対する返答っ・・・!
黒崎は1時間程前にギャラリーへのクレームの返答文書を後藤に渡した。
その際、文章の最後にこのような内容を付け加えたのだ。
『今回のギャンブルが成功しました折には兵藤和尊を会長の座から引きずり落とし、
帝愛と在全、そして、誠京・・・その三者で手を結び、更なる発展を築きましょう』
――もし、返答があるならば、何らかの手段で伝える必要がある・・・
黒崎は気だるそうに身を起こし、扉を開けた。
扉の先には、普段見慣れない黒服がコーヒーの用意された盆を持って立っていた。
暗い部屋の中、壁全体を覆いつくすように配置されたテレビ画面の人工的な光だけがその男を照らし出す。
男の名は兵藤和尊。
兵藤は先ほどの和也たちのギャンブルのある場面を繰り返し確認していた。
その箇所は在全が解答を和也たちに説明した時の最後の言葉。
『・・・お主の目的じゃろ・・・兵藤・・・』
この言葉は一見、和也に向けられたものに思われる。
しかし、それまで在全は和也のことを“兵藤和也”とフルネームで呼んでいた。
この場になって、それを変えるのは不自然である。
つまり、これは和也に向けられたものではなく――
「ワシに向けられたもの・・・ワシの計画は予想がついておると言いたいのか・・・」
――37564・・・“鏖”
兵藤は忌々しく眉をひそめる。
兵藤の最終目的は主催者と対主催がぶつかり合い、共倒れになること。
在全がその計画をどこまで把握しているのかは分からない。
だが、これだけは言える。
今回の和也たちのギャンブルは連絡を遮断している兵藤への――
「宣戦布告か・・・」
【E-5/ギャンブルルーム内/深夜】
【兵藤和也】
[状態]:健康
[道具]:チェーンソー 対人用地雷残り一個(アカギが所持)
クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0~1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広)
[所持金]:1000万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
死体から首輪を回収する
鷲巣に『特別ルール』の情報を広めてもらう
赤木しげるを殺す(首輪回収妨害の恐れがあるため)
盗聴を続ける、利根川、一条に指示を出す
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※遠藤、村岡も、合流して部下にしたいと思っております。彼らは自分に逆らえないと判断しています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、 そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。
※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。
※しづかの自爆爆弾はアカギに解除されましたが、そのことに気づいていません。盗聴器はアカギが持っています。 (今は和也のみ盗聴中)
※第二放送直後、ギャンブルルーム延長料金を払いました。3人であと3時間滞在できます。
※武器庫の中に何が入っているかは次の書き手さんにお任せします。
【E-5/病院/深夜】
【一条】
[状態]:健康
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) マッチ スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品×6(食料は×5) 不明支給品0~3(確認済み、武器ではない)
[所持金]:3600万円
[思考]:カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者、和也の部下にならない者を殺す
復讐の為に利用できそうな人物は利用する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
和也を護り切り、『特別ルール』によって村上と共に生還する
利根川とともにアカギを追う、和也から支持を受ける
※利根川とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※通常支給品×5(食料のみ4)は、重いのでE-5ギャンブルルーム内に置いてあります。
【利根川幸雄】
[状態]:健康
[道具]:デリンジャー(1/2) デリンジャーの弾(残り25発) Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具 ジャックのノミ 支給品一式
[所持金]:1800万円
[思考]:和也を護り切り、『特別ルール』によって生還する
首輪の回収
遠藤の抹殺
カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺
アカギの抹殺、鷲巣の保護
病院へ向かう
一条とともにアカギを追う、和也から支持を受ける
※両膝と両手、額にそれぞれ火傷の跡があります
※和也の保護、遠藤の抹殺、カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺を最優先事項としています。
※鷲巣に命令を下しているアカギを殺害し、鷲巣を仲間に加えようと目論んでおります。(和也は鷲巣を必要としていないことを知りません)
※一条とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※デリンジャーは服の袖口に潜ませています。
※Eカード用のリモコンはEカードで使われた針具操作用のリモコンです。電波が何処まで届くかは不明です。
※針具取り外し用工具はEカードの針具を取り外す為に必要な工具です。
※平山からの伝言を受けました(ひろゆきについて、カイジとの勝負について)
※計器からの受信が途絶えたままですが、平山が生きて病院内にいることを盗聴器で確認しました。(何かの切欠で計器が正常に再作動する可能性もあります)
※平山に協力する井川にはそれほど情報源として価値がないと判断しております。
※黒崎が邪魔者を消すために、このゲームを開催していると考えております。
※以前、黒崎が携わった“あるプロジェクト”が今回のゲームと深く関わっていると考え、その鍵は病院にあると踏んでおります。
※E-5ギャンブルルーム前には、勝広の持ち物であったスコップ、箕、利根川が回収し切れなかった残り700万円分のチップなどが未だにあります。
【D-1/地下王国/深夜】
【兵藤和尊】
[状態]:健康 興奮状態
[道具]: ?
[所持金]: ?
[思考]:優勝する 黒崎の足を引っ張る 主催者達を引っ掻き回す
※次のようにスパコンの予測が出ました。
何らかの要因で予測が外れることもあれば、今後条件を満たせばさらに該当者が増えることも考えられます。
大型火災が発生したことで、高熱となった建物の内部及びその周囲にいた参加者の首輪は電池の水分が蒸発し、失われた。
それによって、0時30分現在、田中沙織は約18時間。遠藤勇次は約2時間30分後に首輪が機能停止する。
※在全が兵藤の思惑を察していると考えております。
|129:[[強運]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|131:[[一致]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|129:[[強運]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:兵藤和也|136:[[ひとつの決着]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:一条|131:[[一致]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:利根川幸雄|131:[[一致]]|
|127:[[帝域]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:兵藤和尊|133:[[猩々の雫]]|
|124:[[光路]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 村上|144:[[願意]]|
|113:[[第二回定時放送 ~起爆~]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER: 黒崎義裕|132:[[抜道]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:在全無量|161:[[巨獣]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:城山小太郎||
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