「生きるために」(2009/11/26 (木) 00:16:43) の最新版変更点
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生きるために ◆X7hJKGoxpY氏
――安岡は、ただ生き延びたかった。
高額な優勝賞金に釣られて参加した彼だが、優勝を目指す気にはなれなかった。
確かに彼に取って十億という優勝賞金はこの上なく魅力的ではある。
しかし、命を賭けることは本意では無い。
この先また、もっと安全に金を稼ぐチャンスは巡ってくるだろう。
目先の金より、今は生きて帰ることが最優先である。
――最大でも九人殺せば帰れるのだ。
優勝は必要ない。
一億集めて、とっとと棄権するのが一番手っ取り早い方法である。
当然難しい話ではあるが、支給品次第では比較的容易にできるかもしれない。
可能性はある。
そうした期待をもって、安岡はバッグを開けた。
(遊びじゃねえんだぞ……こっちは………)
入っていたものは鉄バットが一本、そしてボールが一球にグローブが一つ。
いくら探しても、他に武器になるものはない。
この野球道具だけだ。
(ノックでもしてろっていうのか………奴らは……)
悪ふざけにもほどがある。
一応鉄バットで殴打すれば致命傷も与えられるだろう。
だが、鉄バットはそれなりに重く、振り回すとモーションが大きい。
扱いにくく、反撃される隙も生まれやすい。
当たりか外れかでいえば、無論外れよりの支給品である。
(チッ……まあ武器にならないわけじゃないんだ………これでひとまず何とかするしか無い………)
幸いにも、ちょうど一人の少年の姿を確認できた。
こちらに気づいた様子はない。
奇襲なら比較的安全に、且つ確実に殺せるだろう。
未来ある若者をこの手で殺すことに抵抗が無いわけでは無いが、自分の命のためである。
安岡は決心を固めると、静かに少年のもとへと向かった。
&nobold(){* * *}
涯は倒れている男を呆然と見下ろした。
まだ息はある――死んではいないようだ。
(……殺されるところだった)
危ういところであった。
気付くのが一瞬遅れていたら、今頃涯はあの世に行っていたかもしれない。
そう、一瞬の出来事である。
空気の流れがわずかに変わる。
(誰かいる……後ろにっ!)
慌てて振り向くと、そこには鉄バットを構えた一人の男が立っていた。
男は僅かに狼狽したが、そのままバットを振り下ろす。
当たればただでは済まない。
――だが、狼狽の隙に反射的に繰り出した涯の拳が僅かに速く決まった。
たまらず、後ろに倒れる男。
その時男の手からバットがこぼれ落ちた。
(あっ……!)
落ちたバットは、回転しながら男の額に直撃する。
流れ出る血液。
男は呻き声をあげ、やがて気を失った。
涯は呼吸を整える。
(油断していたっ………何故………もっと早く気付かなかった………)
この地では僅かな油断が命取り。
生きるためには少したりとも気を切らしてはならない。
(何をやっているんだ………オレは…………)
涯は反省し、生きるための覚悟を決めた。
(まあ……結果的に死ななかったんだ………今はそれでいい……引きずると逆に死を招く……
それよりどうする……この状況………)
生きるためである。
人を殺すのも躊躇わないつもりであった。
しかしこの状況――なにせ相手は気絶しているのである。
殺さずとも武器も金も持っていけるのだ。
(どうするっ………)
涯はしばらく悩んだあと、男の顔を見た。
目を覚ます気配はない。
その顔を見ると殺す労力も無駄に思えた。
殺す必要はない、と結論付けると涯は男の武器を剥ぎ取る。
――その瞬間、男の指がピクリと動いた。
涯はハッとした。
何故、「殺さない」なのか。
(バカかっ……オレはっ………!こいつを殺さない…………それに何の意味があるっ……!
偽善だっ……そんなの………どっちみち死ぬっ………この傷だ……出血多量で………
万が一助かっても死ぬ……ここでは弱者は助からねえんだから………
怪我をしていて武器もなければ……間違いなく死っ……!)
本当に殺すつもりがないのならこの男を助けるべきであろう。
ここで放っておくのであれば、見殺しである。
直接殺すのとなんら変わらない。
それならば中途半端な行動は避けるべきであった。
奇跡的に助かれば、もう一度鉢合せ、そして今度は殺される可能性も僅かながらある。
この男はここで殺しておかねばならない。
(生きるために………殺すっ…………!)
涯はフォーク――彼の唯一の支給品――を振りあげた。
(死ねっ……!)
涯は男の支給品を探る。
バットの他には、グローブと野球ボールが入っていた。
(なかなかだな……)
グローブは、腹に仕込めば小さなナイフで刺されたくらいでは傷もつかないはずだ。
野球ボールは投擲に使える。
バットもこちらからの攻撃用としてはともかく、護身としては上等な武器だ。
涯は、男には目を向けず、生きるために歩きだした。
【C-5/平地/真昼】
【工藤涯】
[状態]:健康
[道具]:フォーク 鉄バット 野球グローブ 野球ボール 支給品一式×2
[所持金]:2000万円
[思考]:生還する
&font(red){【安岡 死亡】}
&font(red){【残り 40人】}
|011:[[盲目]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|013:[[再起]]|
|011:[[盲目]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|013:[[再起]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:工藤涯|028:[[刃と拳]]|
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**生きるために ◆X7hJKGoxpY氏
――安岡は、ただ生き延びたかった。
高額な優勝賞金に釣られて参加した彼だが、優勝を目指す気にはなれなかった。
確かに彼に取って十億という優勝賞金はこの上なく魅力的ではある。
しかし、命を賭けることは本意では無い。
この先また、もっと安全に金を稼ぐチャンスは巡ってくるだろう。
目先の金より、今は生きて帰ることが最優先である。
――最大でも九人殺せば帰れるのだ。
優勝は必要ない。
一億集めて、とっとと棄権するのが一番手っ取り早い方法である。
当然難しい話ではあるが、支給品次第では比較的容易にできるかもしれない。
可能性はある。
そうした期待をもって、安岡はバッグを開けた。
(遊びじゃねえんだぞ……こっちは………)
入っていたものは鉄バットが一本、そしてボールが一球にグローブが一つ。
いくら探しても、他に武器になるものはない。
この野球道具だけだ。
(ノックでもしてろっていうのか………奴らは……)
悪ふざけにもほどがある。
一応鉄バットで殴打すれば致命傷も与えられるだろう。
だが、鉄バットはそれなりに重く、振り回すとモーションが大きい。
扱いにくく、反撃される隙も生まれやすい。
当たりか外れかでいえば、無論外れよりの支給品である。
(チッ……まあ武器にならないわけじゃないんだ………これでひとまず何とかするしか無い………)
幸いにも、ちょうど一人の少年の姿を確認できた。
こちらに気づいた様子はない。
奇襲なら比較的安全に、且つ確実に殺せるだろう。
未来ある若者をこの手で殺すことに抵抗が無いわけでは無いが、自分の命のためである。
安岡は決心を固めると、静かに少年のもとへと向かった。
&nobold(){* * *}
涯は倒れている男を呆然と見下ろした。
まだ息はある――死んではいないようだ。
(……殺されるところだった)
危ういところであった。
気付くのが一瞬遅れていたら、今頃涯はあの世に行っていたかもしれない。
そう、一瞬の出来事である。
空気の流れがわずかに変わる。
(誰かいる……後ろにっ!)
慌てて振り向くと、そこには鉄バットを構えた一人の男が立っていた。
男は僅かに狼狽したが、そのままバットを振り下ろす。
当たればただでは済まない。
――だが、狼狽の隙に反射的に繰り出した涯の拳が僅かに速く決まった。
たまらず、後ろに倒れる男。
その時男の手からバットがこぼれ落ちた。
(あっ……!)
落ちたバットは、回転しながら男の額に直撃する。
流れ出る血液。
男は呻き声をあげ、やがて気を失った。
涯は呼吸を整える。
(油断していたっ………何故………もっと早く気付かなかった………)
この地では僅かな油断が命取り。
生きるためには少したりとも気を切らしてはならない。
(何をやっているんだ………オレは…………)
涯は反省し、生きるための覚悟を決めた。
(まあ……結果的に死ななかったんだ………今はそれでいい……引きずると逆に死を招く……
それよりどうする……この状況………)
生きるためである。
人を殺すのも躊躇わないつもりであった。
しかしこの状況――なにせ相手は気絶しているのである。
殺さずとも武器も金も持っていけるのだ。
(どうするっ………)
涯はしばらく悩んだあと、男の顔を見た。
目を覚ます気配はない。
その顔を見ると殺す労力も無駄に思えた。
殺す必要はない、と結論付けると涯は男の武器を剥ぎ取る。
――その瞬間、男の指がピクリと動いた。
涯はハッとした。
何故、「殺さない」なのか。
(バカかっ……オレはっ………!こいつを殺さない…………それに何の意味があるっ……!
偽善だっ……そんなの………どっちみち死ぬっ………この傷だ……出血多量で………
万が一助かっても死ぬ……ここでは弱者は助からねえんだから………
怪我をしていて武器もなければ……間違いなく死っ……!)
本当に殺すつもりがないのならこの男を助けるべきであろう。
ここで放っておくのであれば、見殺しである。
直接殺すのとなんら変わらない。
それならば中途半端な行動は避けるべきであった。
奇跡的に助かれば、もう一度鉢合せ、そして今度は殺される可能性も僅かながらある。
この男はここで殺しておかねばならない。
(生きるために………殺すっ…………!)
涯はフォーク――彼の唯一の支給品――を振りあげた。
(死ねっ……!)
涯は男の支給品を探る。
バットの他には、グローブと野球ボールが入っていた。
(なかなかだな……)
グローブは、腹に仕込めば小さなナイフで刺されたくらいでは傷もつかないはずだ。
野球ボールは投擲に使える。
バットもこちらからの攻撃用としてはともかく、護身としては上等な武器だ。
涯は、男には目を向けず、生きるために歩きだした。
【C-5/平地/真昼】
【工藤涯】
[状態]:健康
[道具]:フォーク 鉄バット 野球グローブ 野球ボール 支給品一式×2
[所持金]:2000万円
[思考]:生還する
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