「保険」(2009/11/26 (木) 00:18:16) の最新版変更点
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保険 ◆tWGn.Pz8oA氏
B-4、アトラクションゾーン。
他所と変わらぬ薄暗いギャンブルルームの中、末崎と治は向かい合わせに座していた。
彼らが行っているのは、トランプを使った「ジン・ラミー」というゲーム。
(参考:ttp://www.owari.ne.jp/~snowbird/rules/ginrummy.htm)
これは手札の中で「同じ数字のカード3枚以上の組」か「同じマークで数字の続いた3枚以上の組」を作るという、
「役」はないが麻雀と似た要素を持つゲームである。
さて、ゲーム開始前に彼らが設けた取り決めは次の三つ。
一、不当な長考は禁止。
一、制限時間の残りが10分を切った時点で得点の高い方を勝者とする。
一、敗者は、勝者が退出してから5分以上後に退出しなければならない。
最後の条件は治が提案したものである。
ギャンブルルーム内での暴力行為は法度だが、一歩外へ出てしまえばそこは戦場。
この提案は、人並み外れた機知を持たない治なりに張った防衛策であった。
2回ほどのテストプレイの後、お互いの支給品全てを賭けたギャンブルが始まった。
先制したのは末崎。
わずか4巡でノックを宣言、7点を余らせるが治の付け札を許さず、29点を得る。
その後3試合を経た時点での得点は、末崎64点、治16点。
さらに、この時点で治は1回しか上がりを許されていない。
広がった点差に焦りを感じつつ、治は対処の方法を探っていた。
(末崎の戦略は多分…速攻ノック……)
このゲームでは、ノックする際に手札が全て手役になっていると、「ジン」という上がりになりボーナスが付く。
しかし、必ずしもこれを狙う必要はない。むしろ可能な限り早い段階でのノックが最も有効な手となるのである。
麻雀における一般的な早和了と異なるのは、高得点を伴う可能性があるという点。
ジンはボーナスが25点入るが、後半になれば相手の手は大方出来上がっている。
つまり手役になっていない余り札が少なく、当然得られる点もそう多くはならない。
ゆえに手が早く組み上がったときは、多少の余り札を抱えつつもノックを宣言するべきなのである。
事実、ここまでの4試合における末崎の余り札は7点、8点、5点、8点であった。
(それなら、今までみたいにジンを追うのは得策じゃない…むしろアンダーカットを決めたいところ…)
先述の通り、末崎の戦略、速攻ノックはこのゲームにおける最善手である。
とはいえ、ノックしたくともある程度手がまとまらなければそれすら出来ないのだから、
やはり現在のところの運気は末崎に注がれているのであろう。
しかし一転、5試合目に入り、ツキは治に流れ始める。
7巡目でジンを決めた治は29点を獲得し、二人の点差は19点にまで縮まった。
そして迎えた最終戦の5巡目終了時、末崎の余り札は8とAの計9点。ノックを宣言できる状態である。
ここで今まで通り8点や9点の余りで上がっても、試合の序盤ゆえ、そうそうアンダーカットは成立しないと思われた。
だが、現在の二人の点差は19点。治は十分逆転可能圏内にいる。
末崎はノックを焦って治のアンダーカットを成立させる危険は避けるべきだと考え、
ダイヤの8が点数の低いカードと替わるのを待つことにした。
そして末崎が7巡目に引いてきたのは、ダイヤの5。
すでに出来ている手役ーーーダイヤの2,3,4に追加し、手役の一部にできるカードである。
これにより、不要なクラブの9を捨て、宣言…!
「ノック………!!」
末崎が手札を開いていく。
ダイヤの2,3,4,5…ハートの7,8,9…ハート以外の3枚のK…そして余り札、スペードのA。
「点数は1…まあ兄さんは上がれんじゃろ…!さあ、さっさと手を開けたまえ…!」
「くっ………!」
治は苦々しい表情で手札を晒していった。
スペード以外の3枚のA…4種の10…ここで治の手は止まる。
「オレの手役はこれだけです。あとは、この3枚…」
治はハートの5と6を表に返し、末崎の7,8,9の組に添える。
末崎は、この土壇場で2枚の付け札を成した治に多少の驚きを感じる一方で、安堵もしていた。
治の抱えている残りの一枚は、少なくとも4枚晒されているAではない。
アンダーカットは点数が同点の場合でも適用されるため、もし治の最後の余り札がAであったなら負けていた。
「これが…最後です」
開いていく最後の余り札は、絵札。10点のカード…!
末崎は勝利を確信したが、次の瞬間に儚くもそれは消え去った。
治が開けたカードはハートのK。末崎の手役である三枚のKに付け札が可能なKである。
これにより治の余りは0点となり、アンダーカットが成立。
逆転……!!
「なにいっ……!!なんでそんなっ…孤立した…無駄なカードを…っ!?」
「付け札ができると確信していたからです…
末崎さんはオレの捨てたダイヤのKを拾ったけど、Jは切っていた…
おまけに逆転が許されない場面で、10点のKを残した無茶なノックはしないはず…
つまりKはセットになるしかない…!
だから他の手役ができるまでは優先して残しておいたんです。…他の付け札は偶然なんですけどね」
「ぐっ……クソオォ~…ッ!!儂の金…儂の……!!」
末崎は卓上に突っ伏すと、震える手でテーブルのフェルトを掻きむしった。
敗北を嘆く声が治を呼び止める悲壮な叫びに変わっても、治は振り返らなかった。
深海魚、と仲井は言った。赤木しげると自分たちでは、住む世界が違うと。
それは治自身も己の肌で痛いほど感じていたことだったが、
治はそれでもなお、赤木への憧れを拭い去ることはできなかったのである。
赤木の参加につられて怪しげなギャンブルに参加表明し、
その結果このような殺人ゲームに巻き込まれたことを後悔していないわけではない。
(だけど、後悔なら…あの日、赤木さんを追わなかったことの方が大きい…!
ここは天地が転覆したような島だ。深海魚にだって、少しだけ近づけるかもしれない…)
治は周囲を見回した後、二つのデイパックを提げてギャンブルルームから踏み出した。
赤木しげるの深淵をもう一度目にするために、生き残るためにーーー
が、直後、その後頭部に衝撃が走る。
脈打つような痛み、揺れる視界。治は芯が折れたように倒れ込んだ。
5分後、ギャンブルルームから末崎が退出する。
その顔には先ほどのような憎悪や悲絶の表情はなく、満足げな薄ら笑いを浮かべていた。
「待たせたな…!おぉ、うまくいったか…!」
「フフ…でも次は3分までにしといてくださいよ。待ってる間も気が気じゃないんだから…」
「悪いな…!まさかこの小僧が先に言ってくれるとは思わなかったからな。ま、わざわざ訂正するのも変じゃろ…?」
「まあいいですけど……さて、どうします?こいつ…」
そう言って薄汚れた靴で治の肩を小突いたのは、眼鏡をかけた体格のいい男ーーー安藤である。
末崎と安藤は組んでいた。彼らの目的は金を集めること。
だが、二人ともギャンブルにはそこそこの自信しかなく、有効なイカサマを考えつくような賢智でもなかった。
そんな二人が立てたのが、片方がカモとギャンブルをして負けた場合、
待ち伏せていたもう一人が不意打ちで奪うという作戦である。
つまり末崎が行っていたのは、負けても結局は同じだけの勝ち分が手に入る保険付きの勝負であった。
さらに、勝者の安全を保証する条件を提案することが肝要であると安藤は言う。
今回のような退出の時間差、敗者は勝者を襲わないという誓約書、敗者の一時的な拘束……
ほんの少しの気の緩みを与えることができれば何でもよかった。
わずかでも心に弛緩した部分があれば、殺気を感じる感覚も鈍り、後ろから打ちのめすのは容易くなる。
そもそもそれ以前に、彼らは狙う人物を『どんくさそうな奴』に絞っていたのではあるが。
「そりゃあまあ…殺しちまった方がいいんじゃねえか…?」
「え、ええ……まぁそうですよね…じゃあ末崎さん、お願いします」
「わっ、わわ、儂がやるのか!?お前のが若いんだから…サクッとやっちまえ…!な…!」
「そんなぁ!元々その包丁は末崎さんのでしょう!?」
「何を言うかっ…!!支給品は共同って決めたじゃろ…!!」
「いやっ…それはそれ、これはこれ…!」
「ぶっ倒れてる奴すら殺す覚悟もなしに、この島で囀るんじゃねえ…!」
突然響いた沈重な怒号。
問答に気を取られていた二人は、その声で忍び寄る人影に初めて気付いた。
顔面に幾つもの傷跡を走らせ、手には黒光りする鎖鎌を構えた男。天貴史である。
場を覆う圧倒的な気迫に、安藤と末崎は早くも怯臆の色を浮かべている。
「3秒以内に失せろ………………斬るぞ」
その言葉を皮切りに、安藤たちは漏れ出る悲鳴を抑えながら藪生い茂る獣道へと却走していった。
治はぼんやりと取り戻しつつある意識の中で、彼らと同じように恐怖を感じていた。
(オレ…は…殺されるのか…?)
鉄の擦れ合う音と共に近づいてくる黒い影。無防備な自分。
まだ、死にたくないーーー動かない身体を呪い、奥歯を食い縛る。
しかしその耳に届いたのは、治を労る柔らかな響きを持った声であった。
「聞こえるか…?よかったぜ、あいつらが散ってくれて。
これなあ…強そうに見えるけど、やたら使いにくいんだ」
治の眼前に差し出された傷だらけの顔は、そう言って少し頬笑んだ。
【B-4/アトラクションゾーン/真昼】
【治】
[状態]:後頭部に打撲による軽傷 一時的な意識の薄弱
[道具]:なし
[所持金]:0円
[思考]:目の前の人物が味方かどうか確認したい
【安藤守】
[状態]:健康
[道具]:木刀 不明支給品0~5 通常支給品×2
[所持金]:1900万円
[思考]:安全な場所へ移動する
【末崎】
[状態]:健康
[道具]:包丁 不明支給品0~2 通常支給品
[所持金]:900万円
[思考]:安全な場所へ移動する
【天貴史】
[状態]:健康
[道具]:鎖鎌 不明支給品0~2 通常支給品
[所持金]:1000万円
[思考]:治を助ける
|015:[[危険人物]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|017;[[復讐人]]|
|015:[[危険人物]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|017;[[復讐人]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:治|032:[[説得]]|
|006:[[「I」の悲劇]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:安藤守|026:[[人殺し]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:末崎|026:[[人殺し]]|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:天貴史|032:[[説得]]|
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**保険 ◆tWGn.Pz8oA氏
B-4、アトラクションゾーン。
他所と変わらぬ薄暗いギャンブルルームの中、末崎と治は向かい合わせに座していた。
彼らが行っているのは、トランプを使った「ジン・ラミー」というゲーム。
(参考:ttp://www.owari.ne.jp/~snowbird/rules/ginrummy.htm)
これは手札の中で「同じ数字のカード3枚以上の組」か「同じマークで数字の続いた3枚以上の組」を作るという、
「役」はないが麻雀と似た要素を持つゲームである。
さて、ゲーム開始前に彼らが設けた取り決めは次の三つ。
一、不当な長考は禁止。
一、制限時間の残りが10分を切った時点で得点の高い方を勝者とする。
一、敗者は、勝者が退出してから5分以上後に退出しなければならない。
最後の条件は治が提案したものである。
ギャンブルルーム内での暴力行為は法度だが、一歩外へ出てしまえばそこは戦場。
この提案は、人並み外れた機知を持たない治なりに張った防衛策であった。
2回ほどのテストプレイの後、お互いの支給品全てを賭けたギャンブルが始まった。
先制したのは末崎。
わずか4巡でノックを宣言、7点を余らせるが治の付け札を許さず、29点を得る。
その後3試合を経た時点での得点は、末崎64点、治16点。
さらに、この時点で治は1回しか上がりを許されていない。
広がった点差に焦りを感じつつ、治は対処の方法を探っていた。
(末崎の戦略は多分…速攻ノック……)
このゲームでは、ノックする際に手札が全て手役になっていると、「ジン」という上がりになりボーナスが付く。
しかし、必ずしもこれを狙う必要はない。むしろ可能な限り早い段階でのノックが最も有効な手となるのである。
麻雀における一般的な早和了と異なるのは、高得点を伴う可能性があるという点。
ジンはボーナスが25点入るが、後半になれば相手の手は大方出来上がっている。
つまり手役になっていない余り札が少なく、当然得られる点もそう多くはならない。
ゆえに手が早く組み上がったときは、多少の余り札を抱えつつもノックを宣言するべきなのである。
事実、ここまでの4試合における末崎の余り札は7点、8点、5点、8点であった。
(それなら、今までみたいにジンを追うのは得策じゃない…むしろアンダーカットを決めたいところ…)
先述の通り、末崎の戦略、速攻ノックはこのゲームにおける最善手である。
とはいえ、ノックしたくともある程度手がまとまらなければそれすら出来ないのだから、
やはり現在のところの運気は末崎に注がれているのであろう。
しかし一転、5試合目に入り、ツキは治に流れ始める。
7巡目でジンを決めた治は29点を獲得し、二人の点差は19点にまで縮まった。
そして迎えた最終戦の5巡目終了時、末崎の余り札は8とAの計9点。ノックを宣言できる状態である。
ここで今まで通り8点や9点の余りで上がっても、試合の序盤ゆえ、そうそうアンダーカットは成立しないと思われた。
だが、現在の二人の点差は19点。治は十分逆転可能圏内にいる。
末崎はノックを焦って治のアンダーカットを成立させる危険は避けるべきだと考え、
ダイヤの8が点数の低いカードと替わるのを待つことにした。
そして末崎が7巡目に引いてきたのは、ダイヤの5。
すでに出来ている手役ーーーダイヤの2,3,4に追加し、手役の一部にできるカードである。
これにより、不要なクラブの9を捨て、宣言…!
「ノック………!!」
末崎が手札を開いていく。
ダイヤの2,3,4,5…ハートの7,8,9…ハート以外の3枚のK…そして余り札、スペードのA。
「点数は1…まあ兄さんは上がれんじゃろ…!さあ、さっさと手を開けたまえ…!」
「くっ………!」
治は苦々しい表情で手札を晒していった。
スペード以外の3枚のA…4種の10…ここで治の手は止まる。
「オレの手役はこれだけです。あとは、この3枚…」
治はハートの5と6を表に返し、末崎の7,8,9の組に添える。
末崎は、この土壇場で2枚の付け札を成した治に多少の驚きを感じる一方で、安堵もしていた。
治の抱えている残りの一枚は、少なくとも4枚晒されているAではない。
アンダーカットは点数が同点の場合でも適用されるため、もし治の最後の余り札がAであったなら負けていた。
「これが…最後です」
開いていく最後の余り札は、絵札。10点のカード…!
末崎は勝利を確信したが、次の瞬間に儚くもそれは消え去った。
治が開けたカードはハートのK。末崎の手役である三枚のKに付け札が可能なKである。
これにより治の余りは0点となり、アンダーカットが成立。
逆転……!!
「なにいっ……!!なんでそんなっ…孤立した…無駄なカードを…っ!?」
「付け札ができると確信していたからです…
末崎さんはオレの捨てたダイヤのKを拾ったけど、Jは切っていた…
おまけに逆転が許されない場面で、10点のKを残した無茶なノックはしないはず…
つまりKはセットになるしかない…!
だから他の手役ができるまでは優先して残しておいたんです。…他の付け札は偶然なんですけどね」
「ぐっ……クソオォ~…ッ!!儂の金…儂の……!!」
末崎は卓上に突っ伏すと、震える手でテーブルのフェルトを掻きむしった。
敗北を嘆く声が治を呼び止める悲壮な叫びに変わっても、治は振り返らなかった。
深海魚、と仲井は言った。赤木しげると自分たちでは、住む世界が違うと。
それは治自身も己の肌で痛いほど感じていたことだったが、
治はそれでもなお、赤木への憧れを拭い去ることはできなかったのである。
赤木の参加につられて怪しげなギャンブルに参加表明し、
その結果このような殺人ゲームに巻き込まれたことを後悔していないわけではない。
(だけど、後悔なら…あの日、赤木さんを追わなかったことの方が大きい…!
ここは天地が転覆したような島だ。深海魚にだって、少しだけ近づけるかもしれない…)
治は周囲を見回した後、二つのデイパックを提げてギャンブルルームから踏み出した。
赤木しげるの深淵をもう一度目にするために、生き残るためにーーー
が、直後、その後頭部に衝撃が走る。
脈打つような痛み、揺れる視界。治は芯が折れたように倒れ込んだ。
5分後、ギャンブルルームから末崎が退出する。
その顔には先ほどのような憎悪や悲絶の表情はなく、満足げな薄ら笑いを浮かべていた。
「待たせたな…!おぉ、うまくいったか…!」
「フフ…でも次は3分までにしといてくださいよ。待ってる間も気が気じゃないんだから…」
「悪いな…!まさかこの小僧が先に言ってくれるとは思わなかったからな。ま、わざわざ訂正するのも変じゃろ…?」
「まあいいですけど……さて、どうします?こいつ…」
そう言って薄汚れた靴で治の肩を小突いたのは、眼鏡をかけた体格のいい男ーーー安藤である。
末崎と安藤は組んでいた。彼らの目的は金を集めること。
だが、二人ともギャンブルにはそこそこの自信しかなく、有効なイカサマを考えつくような賢智でもなかった。
そんな二人が立てたのが、片方がカモとギャンブルをして負けた場合、
待ち伏せていたもう一人が不意打ちで奪うという作戦である。
つまり末崎が行っていたのは、負けても結局は同じだけの勝ち分が手に入る保険付きの勝負であった。
さらに、勝者の安全を保証する条件を提案することが肝要であると安藤は言う。
今回のような退出の時間差、敗者は勝者を襲わないという誓約書、敗者の一時的な拘束……
ほんの少しの気の緩みを与えることができれば何でもよかった。
わずかでも心に弛緩した部分があれば、殺気を感じる感覚も鈍り、後ろから打ちのめすのは容易くなる。
そもそもそれ以前に、彼らは狙う人物を『どんくさそうな奴』に絞っていたのではあるが。
「そりゃあまあ…殺しちまった方がいいんじゃねえか…?」
「え、ええ……まぁそうですよね…じゃあ末崎さん、お願いします」
「わっ、わわ、儂がやるのか!?お前のが若いんだから…サクッとやっちまえ…!な…!」
「そんなぁ!元々その包丁は末崎さんのでしょう!?」
「何を言うかっ…!!支給品は共同って決めたじゃろ…!!」
「いやっ…それはそれ、これはこれ…!」
「ぶっ倒れてる奴すら殺す覚悟もなしに、この島で囀るんじゃねえ…!」
突然響いた沈重な怒号。
問答に気を取られていた二人は、その声で忍び寄る人影に初めて気付いた。
顔面に幾つもの傷跡を走らせ、手には黒光りする鎖鎌を構えた男。天貴史である。
場を覆う圧倒的な気迫に、安藤と末崎は早くも怯臆の色を浮かべている。
「3秒以内に失せろ………………斬るぞ」
その言葉を皮切りに、安藤たちは漏れ出る悲鳴を抑えながら藪生い茂る獣道へと却走していった。
治はぼんやりと取り戻しつつある意識の中で、彼らと同じように恐怖を感じていた。
(オレ…は…殺されるのか…?)
鉄の擦れ合う音と共に近づいてくる黒い影。無防備な自分。
まだ、死にたくないーーー動かない身体を呪い、奥歯を食い縛る。
しかしその耳に届いたのは、治を労る柔らかな響きを持った声であった。
「聞こえるか…?よかったぜ、あいつらが散ってくれて。
これなあ…強そうに見えるけど、やたら使いにくいんだ」
治の眼前に差し出された傷だらけの顔は、そう言って少し頬笑んだ。
【B-4/アトラクションゾーン/真昼】
【治】
[状態]:後頭部に打撲による軽傷 一時的な意識の薄弱
[道具]:なし
[所持金]:0円
[思考]:目の前の人物が味方かどうか確認したい
【安藤守】
[状態]:健康
[道具]:木刀 不明支給品0~5 通常支給品×2
[所持金]:1900万円
[思考]:安全な場所へ移動する
【末崎】
[状態]:健康
[道具]:包丁 不明支給品0~2 通常支給品
[所持金]:900万円
[思考]:安全な場所へ移動する
【天貴史】
[状態]:健康
[道具]:鎖鎌 不明支給品0~2 通常支給品
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[思考]:治を助ける
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