「鏡」(2009/11/26 (木) 00:26:13) の最新版変更点
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鏡 ◆wZ6EU.1NSA氏
まずまずの滑り出しやないか…。
船井はそう考える。
青年を屠った後、暫く歩いた船井は道路沿いの適当な看板の裏に腰を下ろしていた。
二人分の荷物と金を整理し一つに纏める。
世の中には二通りの人間がいる。
狩られる者である蛙と、狩る者である蛇。
船井は己は後者である、と自負している。
悪いのは狩られる者であるなのだ。
それが彼の持論である。
バカは駆逐される。弱者は餌。
いつでもそう嘯いてきた。
殊この場に於いては——
「殺される方が…悪いんやっ…」
半ば無意識の呟きであった。
今まで船井はずっと他人を欺き生きてきた。出し抜き、謀り、唆し此処まで来た。
そして……殺めた。
金を得る為に。
そう、人を殺した…。
己の手で。
自らの意思で。
もはや行くなら奥の奥。
覚悟を決めるしかない。
後戻りなど出来はせぬ。
行くしかないのだ。
もう他に…道はないのだから。
目指すのだ。優勝を。そして掴むのだ。
金…十億…圧倒的大金…。
視界に人が入り込んだ。
船井は思考を中断する。
向こうから歩いてくる一人の男。
身奇麗な優男で、今時の若者然りといった風体である。
武器は…所持していないようだ。
行ける。いや、行くしかない。
殺されるのが…悪いのだ。
船井は男が通り過ぎるのを待ち、看板の陰から出ると少し離れた場所からその後姿に声を掛ける。
「ちょお、そこの兄さん」
男は振り返る。
「はい…なんでしょうか…?」
落ち着き払った態度。声。
船井の中の“なにか”が正体の掴めない声を上げる。
だが…今、動揺を見透かされる訳にはいかない。
船井は己が内の声を押し込める。
「ああ…いやな、見たとこ随分若いようやし…。独りは心細いんちゃうかな思てな。老婆心ながら声かけてみたんよ。
ワイは船井いうんやけど…アンタは?」
「…私は一条と申します」
そう男は答えた。
「一条はん…ね。ええ名前や。
ワイはね、殺し合いなんか真っ平なんよ。殺すんも殺されんも」
どこまでが本心なのだと腹の中が笑う。
「そもそも武器になるような物も持ってへんねん。支給されんかった。」
敵意などありませんよ、という風に両の手を広げおどけるようにひらひらと振って見せる。
そんな船井の姿を一条という男は黙って見ている。敵意がある様子は窺えないが。
——調子が狂わされる。この男は…獲物の筈だというのに。
「ワイが支給されたんはこんなんよ」
言いながら内ポケットから例の煙草を取り出す。
「お近づきの印や。一本どうぞ」
だが。
「生憎…私は煙草は吸いませんので。」
「ああ…さよか…」
差し出した煙草が所在をなくす。
「どうぞ貴方がお吸いになって下さい」
「えっ…ああ、ワイ禁煙中やねん」
「まあ…そんな事よりな、一緒におらへんか?頭数は多い方が安心やん。
それに旅は道連れ世は情けちゅうしな。」
船井の言葉に一条は俯く。
考えているのだろうか。長めの髪に邪魔されて表情が見えない。
——チャンスや
毒煙草が使えないならば、と船井は忍ばせていたスタンガンに手を伸ばす。
一条の肩が小さく揺れている。
貴方——。
「え…?」
「 貴方、私を 殺そうとしましたね 」
顔を上げた一条は微笑んでいた。
緩慢な所作で懐から拳銃を取り出す。
船井は動けなかった。
目…この目は——蛇の眼だ——
銃口が船井の眉間に押し当てられる。
「ならば私は…貴方を殺さなければなりませんね…」
一片の躊躇もありはしなかった。
「あの方々からの支給品が…ただの煙草の筈がないでしょう…」
発砲。
崩れ落ちながら船井は僅かに——安堵した。
…あーあ…
一度人を殺したらもう…次々殺していかなあかんくなるよ…。
蛇であるアンタには…ワイが蛇に見えたんやねえ。
ワイにはアンタが蛙に見えとったんよ。ワイは蛇の振りをした…蛙やったから。
まあええわ…。
ワイはもうオンリや…。
……あの男は。
蛇でも蛙でもないあの男はこのゲームを生き残れるだろうか?
…カイジ。
船井が地に伏し息絶えるまでの刹那の思考など一条が知る由もなく…——
復讐を果たすのだ。
「何故…禁煙中である貴方の煙草が減っているんです…?
何故…貴方のバッグはそんなに膨らんでいるんです…?」
まだ死ぬわけにはいかない。
「貴方は…人を殺したのでしょう…?」
既に物言わぬ屍となった男に一条は語り続ける。
「私が貴方を殺した…。だが…カイジ…彼が貴方を殺したんですよ……」
邪魔をする者は殺さなければならない。
【F-5/路上/午後】
【一条】
[状態]:健康
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ)、改造エアガン、毒付きタバコ(残り19本)、マッチ、スタンガン、
不明支給品0〜2(本人確認済み) 支給品一式×4
[所持金]:4000万円
[思考]:カイジ、遠藤、坂崎、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者を殺す
&font(red){【船井譲次 死亡】}
&font(red){【残り 33人】}
|035:[[強者と弱者]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|037:[[先延ばし]]|
|035:[[強者と弱者]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|037:[[先延ばし]]|
|017:[[復讐人]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:一条|055:[[魔弾]]|
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**鏡 ◆wZ6EU.1NSA氏
まずまずの滑り出しやないか…。
船井はそう考える。
青年を屠った後、暫く歩いた船井は道路沿いの適当な看板の裏に腰を下ろしていた。
二人分の荷物と金を整理し一つに纏める。
世の中には二通りの人間がいる。
狩られる者である蛙と、狩る者である蛇。
船井は己は後者である、と自負している。
悪いのは狩られる者であるなのだ。
それが彼の持論である。
バカは駆逐される。弱者は餌。
いつでもそう嘯いてきた。
殊この場に於いては——
「殺される方が…悪いんやっ…」
半ば無意識の呟きであった。
今まで船井はずっと他人を欺き生きてきた。出し抜き、謀り、唆し此処まで来た。
そして……殺めた。
金を得る為に。
そう、人を殺した…。
己の手で。
自らの意思で。
もはや行くなら奥の奥。
覚悟を決めるしかない。
後戻りなど出来はせぬ。
行くしかないのだ。
もう他に…道はないのだから。
目指すのだ。優勝を。そして掴むのだ。
金…十億…圧倒的大金…。
視界に人が入り込んだ。
船井は思考を中断する。
向こうから歩いてくる一人の男。
身奇麗な優男で、今時の若者然りといった風体である。
武器は…所持していないようだ。
行ける。いや、行くしかない。
殺されるのが…悪いのだ。
船井は男が通り過ぎるのを待ち、看板の陰から出ると少し離れた場所からその後姿に声を掛ける。
「ちょお、そこの兄さん」
男は振り返る。
「はい…なんでしょうか…?」
落ち着き払った態度。声。
船井の中の“なにか”が正体の掴めない声を上げる。
だが…今、動揺を見透かされる訳にはいかない。
船井は己が内の声を押し込める。
「ああ…いやな、見たとこ随分若いようやし…。独りは心細いんちゃうかな思てな。老婆心ながら声かけてみたんよ。
ワイは船井いうんやけど…アンタは?」
「…私は一条と申します」
そう男は答えた。
「一条はん…ね。ええ名前や。
ワイはね、殺し合いなんか真っ平なんよ。殺すんも殺されんも」
どこまでが本心なのだと腹の中が笑う。
「そもそも武器になるような物も持ってへんねん。支給されんかった。」
敵意などありませんよ、という風に両の手を広げおどけるようにひらひらと振って見せる。
そんな船井の姿を一条という男は黙って見ている。敵意がある様子は窺えないが。
——調子が狂わされる。この男は…獲物の筈だというのに。
「ワイが支給されたんはこんなんよ」
言いながら内ポケットから例の煙草を取り出す。
「お近づきの印や。一本どうぞ」
だが。
「生憎…私は煙草は吸いませんので。」
「ああ…さよか…」
差し出した煙草が所在をなくす。
「どうぞ貴方がお吸いになって下さい」
「えっ…ああ、ワイ禁煙中やねん」
「まあ…そんな事よりな、一緒におらへんか?頭数は多い方が安心やん。
それに旅は道連れ世は情けちゅうしな。」
船井の言葉に一条は俯く。
考えているのだろうか。長めの髪に邪魔されて表情が見えない。
——チャンスや
毒煙草が使えないならば、と船井は忍ばせていたスタンガンに手を伸ばす。
一条の肩が小さく揺れている。
貴方——。
「え…?」
「 貴方、私を 殺そうとしましたね 」
顔を上げた一条は微笑んでいた。
緩慢な所作で懐から拳銃を取り出す。
船井は動けなかった。
目…この目は——蛇の眼だ——
銃口が船井の眉間に押し当てられる。
「ならば私は…貴方を殺さなければなりませんね…」
一片の躊躇もありはしなかった。
「あの方々からの支給品が…ただの煙草の筈がないでしょう…」
発砲。
崩れ落ちながら船井は僅かに——安堵した。
…あーあ…
一度人を殺したらもう…次々殺していかなあかんくなるよ…。
蛇であるアンタには…ワイが蛇に見えたんやねえ。
ワイにはアンタが蛙に見えとったんよ。ワイは蛇の振りをした…蛙やったから。
まあええわ…。
ワイはもうオンリや…。
……あの男は。
蛇でも蛙でもないあの男はこのゲームを生き残れるだろうか?
…カイジ。
船井が地に伏し息絶えるまでの刹那の思考など一条が知る由もなく…——
復讐を果たすのだ。
「何故…禁煙中である貴方の煙草が減っているんです…?
何故…貴方のバッグはそんなに膨らんでいるんです…?」
まだ死ぬわけにはいかない。
「貴方は…人を殺したのでしょう…?」
既に物言わぬ屍となった男に一条は語り続ける。
「私が貴方を殺した…。だが…カイジ…彼が貴方を殺したんですよ……」
邪魔をする者は殺さなければならない。
【F-5/路上/午後】
【一条】
[状態]:健康
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ)、改造エアガン、毒付きタバコ(残り19本)、マッチ、スタンガン、
不明支給品0〜2(本人確認済み) 支給品一式×4
[所持金]:4000万円
[思考]:カイジ、遠藤、坂崎、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者を殺す
&font(red){【船井譲次 死亡】}
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