「駆け引き」(2009/11/26 (木) 00:27:00) の最新版変更点
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駆け引き ◆X7hJKGoxpY氏
コクリ、とカイジが喉を鳴らすのがわかった。
沙織の言葉に動揺を隠し切れていないのは明らかである。
「……本当にその娘かどうかも分からない。そもそもどこかにいるかも分からない。
たとえ今から駆け付けても………もう、死んでるかもしれない。
生きているとしたら……か弱い女の子だもの、自分一人で何とか出来るとは思えないから、
他の誰かに保護されてるだろうし……ひとまず安全なはず。
あなたが行っても、あなたにはもちろん彼女にもメリットなんてほとんど無いでしょ?
それでも………危険を冒すの?」
沙織はカイジの様子を窺いながら話す。
可能ならば彼を危険に近づけたくないのだ。
何よりも自分の命を守るために。
できればこの説得で納得して引き下がって欲しかった。
だが——
「……いや、その、確かに田中さんの言うとおりかもしれないが………
助けを必要としてる可能性だってある……やっぱりダメだっ……行かないと………!」
「…………」
やはりカイジは聞く耳を持たない。
沙織はやや落胆する。
しかし、カイジの性格から、あらかじめ予測はしていた。
しばし理屈より感情を先行させる部分がある人物——それが分からない程沙織は不明な女では無い。
取りあえずは話し合いの土台は出来たであろう。
諌められて尚、感情的に行動する程愚かな男では無いことはトトカルチョの倍率からも窺い知れることだ。
現にカイジの語気は和らぎ、今は説得する姿勢に入っている。
女の生まれ持つ駆け引きの才能で、沙織はこの場を支配していた。
「……つまり、私を見捨てるのね」
「違う……どのみち何時かはここを出て同志を募らなきゃ駄目なんだ………
田中さんもずっとここにいるわけにはいかない……
俺と行動してくれれば田中さんも守れるし……同志がいてくれた方が俺も心強いだろ?」
『俺も心強い』
そんなのはあなたの勝手だ、と沙織は一瞬声を荒げそうになった。
もし普通の口論をしている普通の女なら、この発言で激昂していたに違いない。
通常このような場合、自分にとっての利害を押しつけても口論の火種が増えるだけだ。
カイジは強かな人物ではあるが、しかし女の扱いには慣れていないのだろう。
——だが、それは好都合。
カイジは沙織が現在駆け引きをしかけていることにすら気付いていないはずである。
男は肉体的弱者である女には本能的に警戒心を抱きにくいものなのだから。
「それに……」
カイジは言葉を続ける。
「助けたら……俺達の仲間になってくれたら絶対的なメリットがあるんだ」
「メリットって………どんな娘なの?」
沙織は参加者名簿を開き尋ねた。
カイジは無言でパラパラとページをめくり一人の参加者を指さす。
「坂崎美心……たしか彼女は一番倍率が高かったはずだけど?」
最も倍率が高い、ということは即ち最も生き残る公算が低い、と見られているということである。
正直、沙織には足手纏いになるとしか思えなかった。
「いや……そうなんだけど、このギャンブルには彼女の父親も参加してるんだ」
そう言うと今度は前のページの男を見せた。
「………こっちも倍率を見る限りじゃ……あまり頼りにならなさそうじゃない?」
「まあ……でも、それでもこの際いいんだっ……
この人は知り合いだし………その、親馬鹿だから娘と一緒にいれば簡単に、確実に仲間になってくれる。
このギャンブルで確実に信頼できる相手ってのは……大きいっ……」
明らかに後付けの理論武装。
流石にカイジ本人も白々しく感じたのだろう、頭をポリポリとかく。
しかし、おそらくこれがこの駆け引きでカイジの持つ唯一の武器。
このあとは感情論に身を任せるしかない。
そうなってしまえば、もう決して引くことはないだろう。
(頃合い……ね)
沙織としてはむしろこのまま口論を長引かせて時間を稼いでも良かったが、
カイジが痺れを切らし、一人で助けに行く、と置いて行かれたらそれこそ本末転倒。
ここは、そろそろ妥協点を定めるべきであろう。
「ねえ……どうしても………助けに行くの?」
「……ああ、だから頼む……田中さんも一緒についてきて欲しい………絶対俺が守るから」
「……そう、わかった」
沙織は頷き少し間を置く。
「……私も行くわ………でも一つ提案があるの」
「提案?」
駆け引きの終着点は以下の三点。
たとえ悲鳴の主が見つからなくても深追いしないこと。
危険人物と遭遇したらすぐにその場から逃げること。
誰かが襲われていたとしても、襲っている人物がその場を離れるまでは接近しないこと。
三つ目の項目にカイジは僅かに渋るがそれを了承した。
口約束などあてにはならない。
そんなことは百も承知。
だが、沙織にとってはそれでも構わなかった。
重要なのは一項目目。
そもそも悲鳴を上げた女性を見つけることが出来なければ、それでいい。
適当なところで捜索を切り上げさせる。
緊急時でなければ、このお人好しに約束を履行させることは困難では無い。
妥協案としては上等なものだった。
「じゃあ……行こう」
「待って………最後にひとつ」
「……なんだ?」
話し合いを終えて安心したカイジを沙織は引き留める。
「絶対に死なないって……約束して」
「……ああ」
——本音だった。
ただ守ってくれるだけでは駄目なのだ。
このギャンブルから逃げられる、その最後のときまで守ってくれなければならないのだ。
カイジが死んでしまえば元も子も無い。
彼が死んでしまえば、誰も守ってくれる人がいなくなれば、生きる術は無くなる。
カイジの死は、即ち自分の死なのだから。
「それじゃあ………行こうか」
「ええ……」
沙織は、ちらりと美心が見つかった時のことを考える。
間違いなく彼女は足手纏い。
確実にカイジの負担は増え、万が一守りきれないこともあるかもしれない。
(それならいっそ彼女を……いえ、彼女に限らず足手纏いになりえる人は皆……)
——殺してしまおう。
そう考えた瞬間、彼女は胃から何かが込み上げるのを感じてそれをなんとか飲み込む。
「大丈夫か?」
「え……ええ………」
彼女は、それが死という現象に対する忌避感からのものだということに気付かなかった。
口の中には、苦みが残った。
【C-4/アトラクションゾーン/午後】
【伊藤開司】
[状態]:健康
[道具]:ボウガン ボウガンの矢(残り十本) 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:悲鳴のした方へ行く 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
赤木しげる、有賀研二、一条、神威勝広、神威秀峰、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二、吉住邦男に警戒
【田中沙織】
[状態]:健康 精神不安定
[道具]:参加者名簿 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:カイジについていき、適当なところで捜索を打ち切る 足手纏いになるものは殺す 死に強い嫌悪感 森田鉄雄を捜す
赤木しげる、有賀研二、一条、神威勝広、神威秀峰、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二、吉住邦男に警戒
|037:[[先延ばし]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|039:[[観察]]|
|037:[[先延ばし]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|039:[[観察]]|
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|033:[[二択]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:田中沙織|049:[[操作]]|
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**駆け引き ◆X7hJKGoxpY氏
コクリ、とカイジが喉を鳴らすのがわかった。
沙織の言葉に動揺を隠し切れていないのは明らかである。
「……本当にその娘かどうかも分からない。そもそもどこかにいるかも分からない。
たとえ今から駆け付けても………もう、死んでるかもしれない。
生きているとしたら……か弱い女の子だもの、自分一人で何とか出来るとは思えないから、
他の誰かに保護されてるだろうし……ひとまず安全なはず。
あなたが行っても、あなたにはもちろん彼女にもメリットなんてほとんど無いでしょ?
それでも………危険を冒すの?」
沙織はカイジの様子を窺いながら話す。
可能ならば彼を危険に近づけたくないのだ。
何よりも自分の命を守るために。
できればこの説得で納得して引き下がって欲しかった。
だが——
「……いや、その、確かに田中さんの言うとおりかもしれないが………
助けを必要としてる可能性だってある……やっぱりダメだっ……行かないと………!」
「…………」
やはりカイジは聞く耳を持たない。
沙織はやや落胆する。
しかし、カイジの性格から、あらかじめ予測はしていた。
しばし理屈より感情を先行させる部分がある人物——それが分からない程沙織は不明な女では無い。
取りあえずは話し合いの土台は出来たであろう。
諌められて尚、感情的に行動する程愚かな男では無いことはトトカルチョの倍率からも窺い知れることだ。
現にカイジの語気は和らぎ、今は説得する姿勢に入っている。
女の生まれ持つ駆け引きの才能で、沙織はこの場を支配していた。
「……つまり、私を見捨てるのね」
「違う……どのみち何時かはここを出て同志を募らなきゃ駄目なんだ………
田中さんもずっとここにいるわけにはいかない……
俺と行動してくれれば田中さんも守れるし……同志がいてくれた方が俺も心強いだろ?」
『俺も心強い』
そんなのはあなたの勝手だ、と沙織は一瞬声を荒げそうになった。
もし普通の口論をしている普通の女なら、この発言で激昂していたに違いない。
通常このような場合、自分にとっての利害を押しつけても口論の火種が増えるだけだ。
カイジは強かな人物ではあるが、しかし女の扱いには慣れていないのだろう。
——だが、それは好都合。
カイジは沙織が現在駆け引きをしかけていることにすら気付いていないはずである。
男は肉体的弱者である女には本能的に警戒心を抱きにくいものなのだから。
「それに……」
カイジは言葉を続ける。
「助けたら……俺達の仲間になってくれたら絶対的なメリットがあるんだ」
「メリットって………どんな娘なの?」
沙織は参加者名簿を開き尋ねた。
カイジは無言でパラパラとページをめくり一人の参加者を指さす。
「坂崎美心……たしか彼女は一番倍率が高かったはずだけど?」
最も倍率が高い、ということは即ち最も生き残る公算が低い、と見られているということである。
正直、沙織には足手纏いになるとしか思えなかった。
「いや……そうなんだけど、このギャンブルには彼女の父親も参加してるんだ」
そう言うと今度は前のページの男を見せた。
「………こっちも倍率を見る限りじゃ……あまり頼りにならなさそうじゃない?」
「まあ……でも、それでもこの際いいんだっ……
この人は知り合いだし………その、親馬鹿だから娘と一緒にいれば簡単に、確実に仲間になってくれる。
このギャンブルで確実に信頼できる相手ってのは……大きいっ……」
明らかに後付けの理論武装。
流石にカイジ本人も白々しく感じたのだろう、頭をポリポリとかく。
しかし、おそらくこれがこの駆け引きでカイジの持つ唯一の武器。
このあとは感情論に身を任せるしかない。
そうなってしまえば、もう決して引くことはないだろう。
(頃合い……ね)
沙織としてはむしろこのまま口論を長引かせて時間を稼いでも良かったが、
カイジが痺れを切らし、一人で助けに行く、と置いて行かれたらそれこそ本末転倒。
ここは、そろそろ妥協点を定めるべきであろう。
「ねえ……どうしても………助けに行くの?」
「……ああ、だから頼む……田中さんも一緒についてきて欲しい………絶対俺が守るから」
「……そう、わかった」
沙織は頷き少し間を置く。
「……私も行くわ………でも一つ提案があるの」
「提案?」
駆け引きの終着点は以下の三点。
たとえ悲鳴の主が見つからなくても深追いしないこと。
危険人物と遭遇したらすぐにその場から逃げること。
誰かが襲われていたとしても、襲っている人物がその場を離れるまでは接近しないこと。
三つ目の項目にカイジは僅かに渋るがそれを了承した。
口約束などあてにはならない。
そんなことは百も承知。
だが、沙織にとってはそれでも構わなかった。
重要なのは一項目目。
そもそも悲鳴を上げた女性を見つけることが出来なければ、それでいい。
適当なところで捜索を切り上げさせる。
緊急時でなければ、このお人好しに約束を履行させることは困難では無い。
妥協案としては上等なものだった。
「じゃあ……行こう」
「待って………最後にひとつ」
「……なんだ?」
話し合いを終えて安心したカイジを沙織は引き留める。
「絶対に死なないって……約束して」
「……ああ」
——本音だった。
ただ守ってくれるだけでは駄目なのだ。
このギャンブルから逃げられる、その最後のときまで守ってくれなければならないのだ。
カイジが死んでしまえば元も子も無い。
彼が死んでしまえば、誰も守ってくれる人がいなくなれば、生きる術は無くなる。
カイジの死は、即ち自分の死なのだから。
「それじゃあ………行こうか」
「ええ……」
沙織は、ちらりと美心が見つかった時のことを考える。
間違いなく彼女は足手纏い。
確実にカイジの負担は増え、万が一守りきれないこともあるかもしれない。
(それならいっそ彼女を……いえ、彼女に限らず足手纏いになりえる人は皆……)
——殺してしまおう。
そう考えた瞬間、彼女は胃から何かが込み上げるのを感じてそれをなんとか飲み込む。
「大丈夫か?」
「え……ええ………」
彼女は、それが死という現象に対する忌避感からのものだということに気付かなかった。
口の中には、苦みが残った。
【C-4/アトラクションゾーン/午後】
【伊藤開司】
[状態]:健康
[道具]:ボウガン ボウガンの矢(残り十本) 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:悲鳴のした方へ行く 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
赤木しげる、有賀研二、一条、神威勝広、神威秀峰、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二、吉住邦男に警戒
【田中沙織】
[状態]:健康 精神不安定
[道具]:参加者名簿 支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:カイジについていき、適当なところで捜索を打ち切る 足手纏いになるものは殺す 死に強い嫌悪感 森田鉄雄を捜す
赤木しげる、有賀研二、一条、神威勝広、神威秀峰、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二、吉住邦男に警戒
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