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**第一回定時放送 ~謀略~ ◆X7hJKGoxpY氏
午後六時――
日は既に傾き、半ば落ちようとしていた。
黒崎に与えられた個室は壁が一面ガラス張りになっており、遥か彼方、水平線まで見通せる。
――平穏である。
海に沈みゆく夕日からは欠片も血生臭さを感じることがない。
荒んだ心を癒し、如何なる者でも魅了しうる美しさを持っていた。
そしてそれは黒崎に対しても例外ではない。
血みどろの戦いをしているのは参加者だけではないのだ。
さればこそ、美しき平穏に心が癒される――
「黒崎様……間もなくお時間です」
「……ああ」
黒崎は煙草の火を消すと、そのままゆっくり立ち上がった。
「さて……行くぞ」
* * *
「……あー……諸君、ご苦労。黒崎だ」
管理本部にて、黒崎はマイクに向かって喋った。
定時放送――ここで初めて参加者にこれまでの死者と次の時間帯に追加される禁止エリアを発表する。
「ただ今から、第一回の定時放送を行う。
復唱はしない……各々集中して聞いてもらいたい。
……よろしいか。
ではまず、このバトルロワイアルにおいて敗れ去った敗者の名を発表する。
『石原』『川松良平』『浦部』『大槻』『安岡』『澤井』『吉住邦男』『坂崎孝太郎』『末崎』
『神威秀峰』『神威勝広』『船井譲次』『安藤守』『標』『坂崎美心』
以上十五名。今のところ……なかなか良いペースだ。
この六時間で三分の一が死んだ、というわけだ。
今後も各自、優勝を目指し努力していただきたい。
続いて、禁止エリアを発表する。
重要事項であるため、聞き逃さないように願いたい。
『B-3』『D-4』
……以上二箇所だ。
該当する区域は三十分後に進入禁止となる。
それ以降該当エリアに立ち入った場合、
及び三十分後に該当エリアにいる場合は首輪が爆発するので気をつけるように。
……では、以上で放送を終了する。
諸君の健闘を祈る」
* * *
「ふぅ……」
黒崎はマイクの電源を切ると一息ついた。
「それで……現在の不穏分子の状況は?」
「要注意人物は赤木しげる、平井銀二、天貴史、原田克美、伊藤開司、森田鉄雄、宇海零……
このあたりでしょうか……今のところ目立った動きはありません」
「まあ……そんなところだろうな」
「まずこれまでの赤木の行動ですが――」
「失礼します、黒崎様……よろしいでしょうか」
ここで他の部下が報告を遮る。
「……報告が終ってからにしろ」
「はあ……ですが……その………」
「なんだ……?」
「後藤様が参られまして……」
「……そうか………それなら報告は後だ、お通ししろ」
「後藤さん……わざわざご足労有難うございます」
「とんでもない……貴方こそ、放送ご苦労様です」
黒崎は後藤を連れて自室に移った。
何故後藤が来たか、黒崎にはある程度の予測がついている。
「それで……どういったご用件でしょうか?」
「いや……ただ挨拶に伺っただけでして………いかがですか、この部屋は」
「すこぶる快適です……素晴らしいホテルだ……プライベートで訪れたいものですな」
「ハハハ……有難うございます」
このホテルは在全グループの所有物である。
ランプはどうの、ベッドはどうの、と後藤は一々動き回って解説していた。
その喋りは実に上手いもので、ときにはジョークを交えて聞く者を退屈させない。
――だが、黒崎からすればそれは無論、無用のことである。
後藤にしてもこのような雑談をするために来たはずは無いのだ。
後藤が訪れた目的は別にあろう。
しかし、後藤はなかなか本題に入らない。
「後藤さん……私はそろそろ行かなくては」
黒崎は仕掛けを打った。
長々と話して時間を浪費するつもりはない。
「ああ、そうでしたな……最後に一つお尋ねしたい」
果たして、後藤は黒崎の目をじっと見つめる。
ここからが後藤の本題――重要な話なのであろう。
「一時間ほど前にも伺ったんですが……その時は貴方は本部にはいらっしゃらなかった。
どこに行かれていたのですか?」
後藤は目線を動かさない。
どのような嘘も見逃さぬ、そんな目である。
「ああ……一度この部屋に帰っていたんですよ………」
「ほう………あなたのように責任感あるお方が職務から離れるとは……珍しいですな」
「いや……袋井さんが挨拶に来られましてね……この部屋で雑談していたんですよ」
嘘はない。
事実黒崎は、この部屋で袋井と談笑していたのだ。
盗聴器を仕掛けられている可能性もあり、無闇に嘘をつけば墓穴を掘ることになりかねない。
「そうですか……では失礼します」
後藤はそのまま何も追及せずに出て行った。
* * *
「クソッ……あの狸めが………」
後藤は毒づいた。
帝愛は食えぬ企業であり、その会長、兵藤も食えぬ男。
当然その片腕たる黒崎もそれに見合った食えぬ男だ。
袋井と雑談していた、その事実に嘘はないだろう。
実際、黒崎の部屋に仕掛けた盗聴器からは黒崎と袋井が談笑しているのが聞こえた。
だが、それだけでは無い。
(筆談っ……!)
部屋を手配したのは後藤である。
後藤は部屋の備品を黒崎に解説する傍らで部屋内を観察していたのだ。
黒崎の部屋のメモ用紙は、もともと置いてあった場所から数センチ離れた場所においてあるのが確認できた。
同様にペンは向きが変わっていた。
にもかかわらず、どこのゴミ箱にもメモ用紙は入っていない。
それが不自然である。
おそらくは燃やして、トイレにでも流したのだろう。
つまり、筆談していた。
在全グループの人間に知られてはならない密談を行っていたのだ。
見つかるリスクを恐れずに隠しカメラを設置すべきであったかもしれない。
だが、それはもはや手遅れである。
もう帝愛がいかなる手段で牙を剥くか、それは分からないのだ。
しかし、一つだけ明らかなことは、黒崎が蔵前を抱き込みたかったという事実。
蔵前というカードを手にするのは、それだけでリスクも高まる。
つまりそれを承知で帝愛は打って出たのだ。
となれば、帝愛の策に対して今できる唯一の防衛策は逆にこちらが蔵前を抱き込むということ。
在全と兵藤――どちらが生き残るか、その鍵は蔵前が握っている。
後藤は傍らの部下へと顔を向けた。
「袋井に会いに行く……連絡をいれろっ……!」
|060:[[状況]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|062:[[変化]]|
|060:[[状況]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|079:[[天恵]]|
|006:[[「I」の悲劇]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:黒崎義裕|-|
|初登場|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:後藤利根雄|099:[[投資]]|
**第一回定時放送 ~謀略~ ◆X7hJKGoxpY氏
午後六時――
日は既に傾き、半ば落ちようとしていた。
黒崎に与えられた個室は壁が一面ガラス張りになっており、遥か彼方、水平線まで見通せる。
――平穏である。
海に沈みゆく夕日からは欠片も血生臭さを感じることがない。
荒んだ心を癒し、如何なる者でも魅了しうる美しさを持っていた。
そしてそれは黒崎に対しても例外ではない。
血みどろの戦いをしているのは参加者だけではないのだ。
さればこそ、美しき平穏に心が癒される――
「黒崎様……間もなくお時間です」
「……ああ」
黒崎は煙草の火を消すと、そのままゆっくり立ち上がった。
「さて……行くぞ」
* * *
「……あー……諸君、ご苦労。黒崎だ」
管理本部にて、黒崎はマイクに向かって喋った。
定時放送――ここで初めて参加者にこれまでの死者と次の時間帯に追加される禁止エリアを発表する。
「ただ今から、第一回の定時放送を行う。
復唱はしない……各々集中して聞いてもらいたい。
……よろしいか。
ではまず、このバトルロワイアルにおいて敗れ去った敗者の名を発表する。
『石原』『川松良平』『浦部』『大槻』『安岡』『澤井』『吉住邦男』『坂崎孝太郎』『末崎』
『神威秀峰』『神威勝広』『船井譲次』『安藤守』『標』『坂崎美心』
以上十五名。今のところ……なかなか良いペースだ。
この六時間で三分の一が死んだ、というわけだ。
今後も各自、優勝を目指し努力していただきたい。
続いて、禁止エリアを発表する。
重要事項であるため、聞き逃さないように願いたい。
『B-3』『D-4』
……以上二箇所だ。
該当する区域は三十分後に進入禁止となる。
それ以降該当エリアに立ち入った場合、
及び三十分後に該当エリアにいる場合は首輪が爆発するので気をつけるように。
……では、以上で放送を終了する。
諸君の健闘を祈る」
* * *
「ふぅ……」
黒崎はマイクの電源を切ると一息ついた。
「それで……現在の不穏分子の状況は?」
「要注意人物は赤木しげる、平井銀二、天貴史、原田克美、伊藤開司、森田鉄雄、宇海零……
このあたりでしょうか……今のところ目立った動きはありません」
「まあ……そんなところだろうな」
「まずこれまでの赤木の行動ですが――」
「失礼します、黒崎様……よろしいでしょうか」
ここで他の部下が報告を遮る。
「……報告が終ってからにしろ」
「はあ……ですが……その………」
「なんだ……?」
「後藤様が参られまして……」
「……そうか………それなら報告は後だ、お通ししろ」
「後藤さん……わざわざご足労有難うございます」
「とんでもない……貴方こそ、放送ご苦労様です」
黒崎は後藤を連れて自室に移った。
何故後藤が来たか、黒崎にはある程度の予測がついている。
「それで……どういったご用件でしょうか?」
「いや……ただ挨拶に伺っただけでして………いかがですか、この部屋は」
「すこぶる快適です……素晴らしいホテルだ……プライベートで訪れたいものですな」
「ハハハ……有難うございます」
このホテルは在全グループの所有物である。
ランプはどうの、ベッドはどうの、と後藤は一々動き回って解説していた。
その喋りは実に上手いもので、ときにはジョークを交えて聞く者を退屈させない。
――だが、黒崎からすればそれは無論、無用のことである。
後藤にしてもこのような雑談をするために来たはずは無いのだ。
後藤が訪れた目的は別にあろう。
しかし、後藤はなかなか本題に入らない。
「後藤さん……私はそろそろ行かなくては」
黒崎は仕掛けを打った。
長々と話して時間を浪費するつもりはない。
「ああ、そうでしたな……最後に一つお尋ねしたい」
果たして、後藤は黒崎の目をじっと見つめる。
ここからが後藤の本題――重要な話なのであろう。
「一時間ほど前にも伺ったんですが……その時は貴方は本部にはいらっしゃらなかった。
どこに行かれていたのですか?」
後藤は目線を動かさない。
どのような嘘も見逃さぬ、そんな目である。
「ああ……一度この部屋に帰っていたんですよ………」
「ほう………あなたのように責任感あるお方が職務から離れるとは……珍しいですな」
「いや……袋井さんが挨拶に来られましてね……この部屋で雑談していたんですよ」
嘘はない。
事実黒崎は、この部屋で袋井と談笑していたのだ。
盗聴器を仕掛けられている可能性もあり、無闇に嘘をつけば墓穴を掘ることになりかねない。
「そうですか……では失礼します」
後藤はそのまま何も追及せずに出て行った。
* * *
「クソッ……あの狸めが………」
後藤は毒づいた。
帝愛は食えぬ企業であり、その会長、兵藤も食えぬ男。
当然その片腕たる黒崎もそれに見合った食えぬ男だ。
袋井と雑談していた、その事実に嘘はないだろう。
実際、黒崎の部屋に仕掛けた盗聴器からは黒崎と袋井が談笑しているのが聞こえた。
だが、それだけでは無い。
(筆談っ……!)
部屋を手配したのは後藤である。
後藤は部屋の備品を黒崎に解説する傍らで部屋内を観察していたのだ。
黒崎の部屋のメモ用紙は、もともと置いてあった場所から数センチ離れた場所においてあるのが確認できた。
同様にペンは向きが変わっていた。
にもかかわらず、どこのゴミ箱にもメモ用紙は入っていない。
それが不自然である。
おそらくは燃やして、トイレにでも流したのだろう。
つまり、筆談していた。
在全グループの人間に知られてはならない密談を行っていたのだ。
見つかるリスクを恐れずに隠しカメラを設置すべきであったかもしれない。
だが、それはもはや手遅れである。
もう帝愛がいかなる手段で牙を剥くか、それは分からないのだ。
しかし、一つだけ明らかなことは、黒崎が蔵前を抱き込みたかったという事実。
蔵前というカードを手にするのは、それだけでリスクも高まる。
つまりそれを承知で帝愛は打って出たのだ。
となれば、帝愛の策に対して今できる唯一の防衛策は逆にこちらが蔵前を抱き込むということ。
在全と兵藤――どちらが生き残るか、その鍵は蔵前が握っている。
後藤は傍らの部下へと顔を向けた。
「袋井に会いに行く……連絡をいれろっ……!」
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