「人間」(2010/04/16 (金) 21:14:19) の最新版変更点
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**人間 ◆6lu8FNGFaw氏
有賀はニタニタと笑いながら、沙織に向かって銃をちらつかせる。
「さあ…早く逃げなよっ…。何をためらってるの…?」
カイジは絶望感に苛まれていたが、ふと、ある違和感を覚える。
(こいつ…本当に、田中さんを逃がす気があるんだろうか…?)
ヘルメットの奥にギラギラと光る二つの瞳。
愉悦を堪えきれず醜くつりあがり、ゆがんだ口。
ふと既視感…そうだ…これはあの時…。
ゴールの…希望のはずの窓……だが、悪寒…。薄暗い窓の向こうにほの見えた、暗い期待……
(駄目だ……窓を開けちゃ駄目だっ… 佐原…!!)
「…カウントダウン、するよ…?10…」
「待てっ…」
カイジはよろよろと立ち上がった。
銃弾を2発受けたのは片足…左足をかばうようにして、無事な右足でなんとか立ち上がる。
「あんた…本気で、片方は逃がすつもりでいるのか…?」
「…なんだ、まだ立ち上がる気力が残ってたの……」
有賀はカイジのほうに改めて銃を向ける。
「そうだよっ…!一人は逃がしてあげる…!うふふ、うふふっ…!」
「なら…銃を降ろせよ…俺はこの通り逃げられねぇし、攻撃もできねぇんだ…田中さんが逃げる間くらい、銃を降ろしてくれねえか…。
そんなんじゃ田中さんも安心して『背中を向けて』逃げられねぇっ…」
カイジは話しながら、足を引きずり、少しずつ沙織をかばうように…有賀と沙織の間…直線に割って入るように移動した。
考えろっ………。
もし仮にここで死ぬことになっても…。
いや、死なねえっ…最後の一瞬まで、『俺』は死なねえっ…!
何かないか… 考えろっ… 考えろっ…!!
有賀と話しながら、カイジは必死に考えを巡らせていた。
もう体の震えは止まっていた。足の痛みのおかげで、むしろ体中の感覚が冴えてくるのを感じていた。
絶体絶命、ほぼ必ず死ぬであろうこの状況で、ならばせめて、自分らしくいるっ…!
『俺』まで明け渡さない…!
有賀を睨みつけながら、必死で言葉を紡ぎ出しながら、カイジは考えていた。
何かないか…!
「なぁ…頼むよっ…銃を降ろしてくれ…数秒の間だけ…」
「うふふ…クク…何言ってるの…?そんなに…早く、殺されたいの…?
指図すんなよ…!体の端から順に穴を開けてやろうか…?
すぐには死ねないよ…それとも、本望かな…頭と胴が無事なら数分は生き延びていられる…ウクク…!」
有賀の脅しに、強気のカイジもさすがに怯む。
その表情を見て、有賀はますます口の端をつりあげる。
絶望…ひたすら絶望…!
駄目だっ…何も…何も思いつかねぇ…!
死ぬのか…!
ここで二人とも…!
「ねえ…」
ふと、カイジの後ろに立ち尽くしていた沙織が声を発する。
「やっぱり…私も…殺すの…?」
「うふふ…殺さないよっ…殺さないっ…」
「ねえ…お願い…助けて…何でもするから…」
沙織は涙声だった。
沙織の声を聞きながら、カイジはもどかしい思いに駆られた。
彼女は冷たい人間…だからって、死んで欲しくない…!
「うふふ… 何言ってるの…?」
「ねえっ…私だけでも助けて…何でもするからっ…死にたくないの…あなたの言いなりになるから…」
「………いらないよ、別にいらないっ…」
「お願い…!役に立つわ…私をおとりにして人をおびき寄せれば、もっと人殺しができるわ…」
「……………」
有賀と沙織のやり取りを聞きながら、カイジは背筋が凍るような感覚に襲われた。
そこまでして助かりたいのか…?わからない…全く理解できないっ…
「私が、同行中に不意打ちでもすると思っているの…?
なら…私の両手をその銃で撃って…手負いにすれば、私はもう何も抵抗できない…」
「フフ…狂ってるね…あんた…狂ってる…!そんなに生きていたいの…」
「死にたくないもの…!お願い、私の命だけは助けてっ…!」
沙織は泣き叫ぶように言った。
有賀はそれを見てニヤニヤと笑いながら、ふと考えた。
生に対する執着…ここまでの奴は初めて見た…!
今まで、女子供をたくさん殺してきた…。
みんな、心躍るくらいに泣き叫び、哀願してきた。
それこそ何でもするからと、自ら服を脱ぎだすような女もいた。
だが… ここまで生に執着する女は初めて……
(こいつを…どこかの建物の中で縛りつけ…端から順にナイフで開いていったら、楽しいかな…?
開くたびに哀願…死にたくないと…許してくれと泣き叫び…もうしないと言って安心させて…、
またもうひとつと…傷をつけていき…再び絶望に染まる顔を眺めたら楽しいだろうか…?)
有賀はこらえきれない笑いをかみ殺し、沙織に言った。
「…何でもする…?」
「ええ…何でも…何でもする…!」
沙織の発する言葉はほとんど悲鳴に近かった。
「そう……なら、君を一緒に連れて行ってあげる…。
君のお望みどおり、両手を撃ってあげるっ…」
有賀は沙織が見える位置まで少し左にずれ、沙織に銃を向けた。
「ま…待って…。このままじゃ体にも弾があたってしまうわ…
お願い…、両手を挙げて…少しだけ近くへ行くから、的を外さないようにして…お願いっ……」
「…クク…」
沙織はゆっくりと両手を挙げ、少しずつ有賀に近づいていった。
そのとき、カイジの横を通った。
カイジが呆然とこちらを見ているのが視界の端に映ったが、沙織はカイジに一瞥もくれず、そろそろと有賀に近づいていった。
足が震える。恐ろしい。立っているのもやっと。
殺人鬼。恐ろしい。恐い。だけど、殺されるのは嫌…もっと嫌…
有賀は、沙織の怯えた様子を愉しげに観察していた。
目に涙をためて、恐ろしさのあまりこちらを向かず、ふらつく足元を見ながらゆっくりと歩いてくる。
とても飼い慣らしやすそうだ…本人の言うとおり、少しの間なら奴隷として使ってやってもいいかもしれない。
…少しの間だけなら、ね…うふふ…!
有賀は油断していた。
ふと、銃を持つ手元に目をやった。
そのとき、一閃っ………………!!!
「グワッ…!!」
一瞬、何が起こったのか有賀には分からなかった。
左目に鋭い衝撃……!
「!?」
反射的に銃を構えなおそうとする…その刹那、視界が真っ赤に染まった。
何 が 起
カイジはその瞬間をはっきりと見ていた。
有賀がふと手元に目をやった…その瞬間、沙織の右手が振り下ろされた。
有賀は奇声を発して左目を手で抑えた。
有賀の指の隙間から、沙織は何かを勢いよく突き刺した。
沙織の左手は相手のヘルメットの淵をつかみ、右手は何か細い棒のようなもの…
それを、有賀の指の間から突っ込み、根元まで押し込んだ。
有賀の指の間から、赤いものが流れ出した。
血だ。
鮮血はボタボタと垂れ落ちた。
有賀の銃はあさっての方向に向き、弾を放出した。
バラバラッと数発。
ゆっくり、有賀は膝をつき、倒れこんだ。
まるでスローモーションのように。
真っ赤な視界の中で、カイジって奴と女が鮮血を飛び散らせて倒れこむのが見えたんだ…
愉悦… 愉悦… 興奮… 愉悦…
愉しい…人を殺すのは、こんなにも愉しいっ…!
うふふ… あはは……… は…… は
カイジはゆっくりと、足を引きずりながら沙織に近づいていった。
沙織は、有賀の死体のそばで座り込んでいた。
「……田中さん…」
「……………」
返事がない。
うずくまったまま、肩が時折震えるのが見えた。
カイジは有賀の死体を見た。
有賀の横顔。左目に深く突き刺さっていたのは…見覚えのある物。
普段は筆談用に使っていた、通常支給品のペン。
カイジは足の痛みをこらえながらしゃがみ込み、沙織の肩に手を置いた。
沙織は嗚咽を漏らした。恐怖でも怒りでもなく、ただ悲しみが伝わってきた。
「……っく……っ……………ううっ…!」
「田中さん」
「……う……うう……!殺した……私……人殺し………殺した…!」
「田中さん、俺もだ」
「……………」
「この状況ではこうするしかなかった」
「……………」
「二人で殺したんだ…」
「……………」
「……ありがとう」
「……自分のためにやっただけよ」
「それでもいい…助かった」
「………あなたが、『この殺人鬼は二人とも殺すつもりだ』って教えてくれなかったら、一人で逃げてたわ」
「……………」
「でも……あなたは……最後まで、私を庇おうとしていたでしょう………」
「……………」
「一人なら、とてもこんな度胸なかったわ……。
一人なら……、自分だけが助かりたければ、目先の安全しか見えない…。
だから、…きっと殺されてたわ……………」
「………ありがとう」
「………お礼を言われるようなことじゃないわ…」
「人間らしくいてくれて………、ありがとう」
沙織はカイジのほうに目を向けた。
沙織の目から、涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
……………………
しばらく経って、沙織は深呼吸をした。
「行きましょう」
カイジは頷いた。
「こいつの荷物も持って行きましょう…マシンガンは使えるわ」
「ああ」
「あと、どこか隠れられるところに…、足の手当てもしないと」
「うん」
「歩ける?」
「…なんとか、ゆっくりなら」
「幸い…日も落ちてきたし、見つからぬよう…音を立てないように注意して移動すれば、なんとかなるわ、きっと」
二人は荷物をまとめると、ゆっくりと歩き出した。
***
【C-4/アトラクションゾーン/夜】
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所)
[道具]:支給品一式×2、果物ナイフ、ボウガン、ボウガンの矢(残り十本)
[所持金]:1000万円
[思考]:身を隠せる場所を探す 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
赤木しげる、一条、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二に警戒
※平山に利根川への伝言を頼みました。
※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。
【田中沙織】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式(ペン以外)、サブマシンガンウージー 防弾ヘルメット、参加者名簿
[所持金]:7800万円
[思考]:カイジの足の手当てができる場所を探す 死に強い嫌悪感 森田鉄雄を捜す
赤木しげる、一条、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二に警戒
&color(red){【有賀研二 死亡】}
&color(red){【残り 29人】}
|062:[[変化]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[投下順>本編投下順]]|064:[[人間として]]|
|062:[[変化]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:[[時系列順>本編時間順]]|066|[[夢現]]|
|062:[[変化]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:伊藤開司|070:[[陰陽]]|
|062:[[変化]]|COLOR(#FFFFFF):BGCOLOR(#a9a9a9):CENTER:田中沙織|063:[[陰陽]]|
**人間 ◆6lu8FNGFaw氏
有賀はニタニタと笑いながら、沙織に向かって銃をちらつかせる。
「さあ…早く逃げなよっ…。何をためらってるの…?」
カイジは絶望感に苛まれていたが、ふと、ある違和感を覚える。
(こいつ…本当に、田中さんを逃がす気があるんだろうか…?)
ヘルメットの奥にギラギラと光る二つの瞳。
愉悦を堪えきれず醜くつりあがり、ゆがんだ口。
ふと既視感…そうだ…これはあの時…。
ゴールの…希望のはずの窓……だが、悪寒…。薄暗い窓の向こうにほの見えた、暗い期待……
(駄目だ……窓を開けちゃ駄目だっ… 佐原…!!)
「…カウントダウン、するよ…?10…」
「待てっ…」
カイジはよろよろと立ち上がった。
銃弾を2発受けたのは片足…左足をかばうようにして、無事な右足でなんとか立ち上がる。
「あんた…本気で、片方は逃がすつもりでいるのか…?」
「…なんだ、まだ立ち上がる気力が残ってたの……」
有賀はカイジのほうに改めて銃を向ける。
「そうだよっ…!一人は逃がしてあげる…!うふふ、うふふっ…!」
「なら…銃を降ろせよ…俺はこの通り逃げられねぇし、攻撃もできねぇんだ…田中さんが逃げる間くらい、銃を降ろしてくれねえか…。
そんなんじゃ田中さんも安心して『背中を向けて』逃げられねぇっ…」
カイジは話しながら、足を引きずり、少しずつ沙織をかばうように…有賀と沙織の間…直線に割って入るように移動した。
考えろっ………。
もし仮にここで死ぬことになっても…。
いや、死なねえっ…最後の一瞬まで、『俺』は死なねえっ…!
何かないか… 考えろっ… 考えろっ…!!
有賀と話しながら、カイジは必死に考えを巡らせていた。
もう体の震えは止まっていた。足の痛みのおかげで、むしろ体中の感覚が冴えてくるのを感じていた。
絶体絶命、ほぼ必ず死ぬであろうこの状況で、ならばせめて、自分らしくいるっ…!
『俺』まで明け渡さない…!
有賀を睨みつけながら、必死で言葉を紡ぎ出しながら、カイジは考えていた。
何かないか…!
「なぁ…頼むよっ…銃を降ろしてくれ…数秒の間だけ…」
「うふふ…クク…何言ってるの…?そんなに…早く、殺されたいの…?
指図すんなよ…!体の端から順に穴を開けてやろうか…?
すぐには死ねないよ…それとも、本望かな…頭と胴が無事なら数分は生き延びていられる…ウクク…!」
有賀の脅しに、強気のカイジもさすがに怯む。
その表情を見て、有賀はますます口の端をつりあげる。
絶望…ひたすら絶望…!
駄目だっ…何も…何も思いつかねぇ…!
死ぬのか…!
ここで二人とも…!
「ねえ…」
ふと、カイジの後ろに立ち尽くしていた沙織が声を発する。
「やっぱり…私も…殺すの…?」
「うふふ…殺さないよっ…殺さないっ…」
「ねえ…お願い…助けて…何でもするから…」
沙織は涙声だった。
沙織の声を聞きながら、カイジはもどかしい思いに駆られた。
彼女は冷たい人間…だからって、死んで欲しくない…!
「うふふ… 何言ってるの…?」
「ねえっ…私だけでも助けて…何でもするからっ…死にたくないの…あなたの言いなりになるから…」
「………いらないよ、別にいらないっ…」
「お願い…!役に立つわ…私をおとりにして人をおびき寄せれば、もっと人殺しができるわ…」
「……………」
有賀と沙織のやり取りを聞きながら、カイジは背筋が凍るような感覚に襲われた。
そこまでして助かりたいのか…?わからない…全く理解できないっ…
「私が、同行中に不意打ちでもすると思っているの…?
なら…私の両手をその銃で撃って…手負いにすれば、私はもう何も抵抗できない…」
「フフ…狂ってるね…あんた…狂ってる…!そんなに生きていたいの…」
「死にたくないもの…!お願い、私の命だけは助けてっ…!」
沙織は泣き叫ぶように言った。
有賀はそれを見てニヤニヤと笑いながら、ふと考えた。
生に対する執着…ここまでの奴は初めて見た…!
今まで、女子供をたくさん殺してきた…。
みんな、心躍るくらいに泣き叫び、哀願してきた。
それこそ何でもするからと、自ら服を脱ぎだすような女もいた。
だが… ここまで生に執着する女は初めて……
(こいつを…どこかの建物の中で縛りつけ…端から順にナイフで開いていったら、楽しいかな…?
開くたびに哀願…死にたくないと…許してくれと泣き叫び…もうしないと言って安心させて…、
またもうひとつと…傷をつけていき…再び絶望に染まる顔を眺めたら楽しいだろうか…?)
有賀はこらえきれない笑いをかみ殺し、沙織に言った。
「…何でもする…?」
「ええ…何でも…何でもする…!」
沙織の発する言葉はほとんど悲鳴に近かった。
「そう……なら、君を一緒に連れて行ってあげる…。
君のお望みどおり、両手を撃ってあげるっ…」
有賀は沙織が見える位置まで少し左にずれ、沙織に銃を向けた。
「ま…待って…。このままじゃ体にも弾があたってしまうわ…
お願い…、両手を挙げて…少しだけ近くへ行くから、的を外さないようにして…お願いっ……」
「…クク…」
沙織はゆっくりと両手を挙げ、少しずつ有賀に近づいていった。
そのとき、カイジの横を通った。
カイジが呆然とこちらを見ているのが視界の端に映ったが、沙織はカイジに一瞥もくれず、そろそろと有賀に近づいていった。
足が震える。恐ろしい。立っているのもやっと。
殺人鬼。恐ろしい。恐い。だけど、殺されるのは嫌…もっと嫌…
有賀は、沙織の怯えた様子を愉しげに観察していた。
目に涙をためて、恐ろしさのあまりこちらを向かず、ふらつく足元を見ながらゆっくりと歩いてくる。
とても飼い慣らしやすそうだ…本人の言うとおり、少しの間なら奴隷として使ってやってもいいかもしれない。
…少しの間だけなら、ね…うふふ…!
有賀は油断していた。
ふと、銃を持つ手元に目をやった。
そのとき、一閃っ………………!!!
「グワッ…!!」
一瞬、何が起こったのか有賀には分からなかった。
左目に鋭い衝撃……!
「!?」
反射的に銃を構えなおそうとする…その刹那、視界が真っ赤に染まった。
何 が 起
カイジはその瞬間をはっきりと見ていた。
有賀がふと手元に目をやった…その瞬間、沙織の右手が振り下ろされた。
有賀は奇声を発して左目を手で抑えた。
有賀の指の隙間から、沙織は何かを勢いよく突き刺した。
沙織の左手は相手のヘルメットの淵をつかみ、右手は何か細い棒のようなもの…
それを、有賀の指の間から突っ込み、根元まで押し込んだ。
有賀の指の間から、赤いものが流れ出した。
血だ。
鮮血はボタボタと垂れ落ちた。
有賀の銃はあさっての方向に向き、弾を放出した。
バラバラッと数発。
ゆっくり、有賀は膝をつき、倒れこんだ。
まるでスローモーションのように。
真っ赤な視界の中で、カイジって奴と女が鮮血を飛び散らせて倒れこむのが見えたんだ…
愉悦… 愉悦… 興奮… 愉悦…
愉しい…人を殺すのは、こんなにも愉しいっ…!
うふふ… あはは……… は…… は
カイジはゆっくりと、足を引きずりながら沙織に近づいていった。
沙織は、有賀の死体のそばで座り込んでいた。
「……田中さん…」
「……………」
返事がない。
うずくまったまま、肩が時折震えるのが見えた。
カイジは有賀の死体を見た。
有賀の横顔。左目に深く突き刺さっていたのは…見覚えのある物。
普段は筆談用に使っていた、通常支給品のペン。
カイジは足の痛みをこらえながらしゃがみ込み、沙織の肩に手を置いた。
沙織は嗚咽を漏らした。恐怖でも怒りでもなく、ただ悲しみが伝わってきた。
「……っく……っ……………ううっ…!」
「田中さん」
「……う……うう……!殺した……私……人殺し………殺した…!」
「田中さん、俺もだ」
「……………」
「この状況ではこうするしかなかった」
「……………」
「二人で殺したんだ…」
「……………」
「……ありがとう」
「……自分のためにやっただけよ」
「それでもいい…助かった」
「………あなたが、『この殺人鬼は二人とも殺すつもりだ』って教えてくれなかったら、一人で逃げてたわ」
「……………」
「でも……あなたは……最後まで、私を庇おうとしていたでしょう………」
「……………」
「一人なら、とてもこんな度胸なかったわ……。
一人なら……、自分だけが助かりたければ、目先の安全しか見えない…。
だから、…きっと殺されてたわ……………」
「………ありがとう」
「………お礼を言われるようなことじゃないわ…」
「人間らしくいてくれて………、ありがとう」
沙織はカイジのほうに目を向けた。
沙織の目から、涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
……………………
しばらく経って、沙織は深呼吸をした。
「行きましょう」
カイジは頷いた。
「こいつの荷物も持って行きましょう…マシンガンは使えるわ」
「ああ」
「あと、どこか隠れられるところに…、足の手当てもしないと」
「うん」
「歩ける?」
「…なんとか、ゆっくりなら」
「幸い…日も落ちてきたし、見つからぬよう…音を立てないように注意して移動すれば、なんとかなるわ、きっと」
二人は荷物をまとめると、ゆっくりと歩き出した。
***
【C-4/アトラクションゾーン/夜】
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所)
[道具]:支給品一式×2、果物ナイフ、ボウガン、ボウガンの矢(残り十本)
[所持金]:1000万円
[思考]:身を隠せる場所を探す 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
赤木しげる、一条、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二に警戒
※平山に利根川への伝言を頼みました。
※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。
【田中沙織】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式(ペン以外)、サブマシンガンウージー 防弾ヘルメット、参加者名簿
[所持金]:7800万円
[思考]:カイジの足の手当てができる場所を探す 死に強い嫌悪感 森田鉄雄を捜す
赤木しげる、一条、利根川幸雄、兵藤和也、平井銀二に警戒
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