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それぞれの試金石(前編) ◆uBMOCQkEHY氏


『・・・では、以上で放送を終了する。
諸君の健闘を祈る』

森田は画面を睨みつけながら、眉をひそめる。
放送で勝広と邦男の名前が読み上げられたからだ。
フロッピーの情報によって、彼らが殺害されたことは事前に認識していた。
しかし、改めて主催者の口から言われると、胸に不快な思いが込み上げてくる。
森田がこのバトルロワイアルに参加したのは、勝広と邦男、そして、銀二を救うためであった。
(すまないっ……!)
もし、この場に誰もいなかったら、涙を流していたかもしれない。
しかし、今の森田には二人の死を悲しむ余裕などなかった。
森田は画面に集中する。
放送と同時に、フロッピーのデータが更新された。
やはり、佐原という男は、自分たちがいるショッピングモールへ向かっているようである。
「遠藤・・・そろそろだ・・・わかっているな・・・!」
この言葉は、これからショッピングモールで到着するであろう佐原がどのようなスタンスを持っているのか、
一人で接触して見極めてくれるだろうなという最終確認の意味が含まれている。
「ああ・・・」
遠藤はそっけなく答え、立ち上がった。
その姿を見て、森田は一先ず、安心した。
遠藤を佐原の元へ向かわせることは、佐原が同行者として相応しいのかを見定め、戦力の追加を計ることが目的である。
しかし、実際は遠藤が森田の指示通りに動くのか、つまり、森田の手足となるのかを知ることが本当の目的である。
今の遠藤と森田は握手をしながらも、もう一方の手は相手に武器を構えている状態――
いつ裏切っても構わない、互いの利点を利用しあうだけの関係である。
だからこそ、森田は暗黙の立場上、遠藤より優位に立ちたいと考えている。
遠藤は森田と組むメリットがなくなれば、迷うことなく森田との関係を解消するだろう。
それどころか、森田が自分の目的の障害となりうると判断すれば、寝首を掻くことも厭わないはずである。
もし、森田が何らかの武器を持っていれば、遠藤を牽制することもできるが、残念ながら、そのような手段を持ち合わせてはいない。

ならば、この不確実な関係を縛り付けるにはどうすればよいか。
どちらがリーダーなのか、はっきりさせることである。
弱者は強者に従う。
森田がこの場で優位的立場となれば、今後、遠藤に無意識の束縛を与えることができる。
今回の佐原の説得は、どちらが優位な立場にあるかを認識しあう、
例えるならば、群れの中でボス猿を決める政権抗争と言っても良かった。
遠藤は森田の指示で腰を上げた。

第一段階はクリアである。
次は遠藤が森田の指示したとおりに、佐原の人間性を判断し、森田たちにそれを伝えるかどうかである。
――オレの手足になれ・・・遠藤・・・!

その時、遠藤は足元にあった、南郷と接触するときに使用したノートパソコンを拾い上げ、
南郷に目を向けた。
「そのパチンコ玉、少しの間借りてもいいか?」
南郷は訳が分からないものの、とりあえず、支給品であるパチンコ玉を袋ごと遠藤に渡す。

――何をやろうとしているんだ・・・こいつは・・・?
面食らったのは、森田である。
少しずつだが自分の意図とは違う方向に動き始めているのではないか、そんな予感が頭をかすめる。
その直後、森田の口から思わず、言葉が飛び出した。
「おい、待てっ・・・!遠藤・・・!」


佐原は見上げた。
そこにはショッピングモールがそびえ立っている。
佐原はガラスの扉に手を触れようとした次の瞬間、扉が勝手に開いた。
「うわぁぁぁぁ・・・!」
佐原は素っ頓狂な声を出し、思わずライフルを身構える。
しばらく扉を眺め続ける。
扉が自動的に閉じたとき、それが自分に危害が及ぶものではないとやっと理解した。
しかし、モールには何が潜んでいるのか分からない。
佐原はライフルを構えたまま、中へ足を踏み入れた。
そこはどこか放課後の学校を連想されるような閑散さが漂っており、外と同じ闇が広がっていた。
「ん・・・!」
佐原はあることに気づいた。目の前の床に何かある。
目を凝らして見ると、それはパチンコ玉のような銀色の球体であった。
しかも、入り口を中心に孤を描くように、大量にばら撒かれている。
「何だ・・・これ・・・?」

「久々だな・・・佐原・・・」
「だ、誰だっ・・・!」
佐原は声の方へライフルを向ける。
そこにいたのはかつて、帝愛主催のギャンブルを仲介した男、遠藤であった。
遠藤は入り口付近の壁に立ったまま、背中を持たせかけ、パソコンの画面を見つめている。
闇に包まれた室内で、画面の光で浮き上がる遠藤の顔は不敵な笑みを浮かべており、佐原に言い知れぬ不安を呼び起こさせた。
「お、おい、どうして、お前が・・・」
「おっと、それ以上動くなよ・・・そこに転がっている玉は小型地雷だ・・・
踏めば、命までは奪わないが、足は火薬と破片で、血だらけになるぞ・・・!」
「な・・・!てめぇ・・・!」
佐原は怒りのままに、ライフルの標準を遠藤へ向ける。
遠藤はそれを予期していたのか、特に怯える様子もなく、ククク・・・と笑いを漏らす。
「オレを撃とうと思うなよ・・・これは遠隔操作型でな・・・
このパソコンへの入力一つで、指定した地雷を自動的に爆発させることもできる・・・
地雷は目に見えているものばかりとは限らないぜ・・・」
背中に冷水を流されたような痛みを伴う恐怖が佐原の心を覆っていく。
しかし、隙を見せたらつけ込まれてしまうことも理解している。
佐原は震える恐怖心を隠すように、胸を張ると、遠藤を睨み付けた。
「そ・・・そんな武器聞いたことがない・・・ハッタリだっ・・・!」
「どうかな・・・?
お前だって、日本では入手できないスナイパーライフルを所持している・・・
オレにだって、特殊な武器がまわって来たっておかしくはない・・・
ありえないことがない・・・これがバトルロワイアルというものだ・・・
そんなにハッタリだと思うなら・・・踏んでみるか・・・?」


「すごいな・・・あれで相手を牽制させるなんて・・・」
南郷は森田を見て、小さくつぶやく。
二人は佐原と遠藤から少し離れた所にあるレジカウンターの陰に身を潜ませていた。
本来の計画であれば、かなり離れた場所で様子を見るはずであったが、
遠藤が予想外の行動を取るかもしれないという森田の直感から、急遽、待機場所を変更したのである。

森田は南郷の素直な驚きに、特に合意することもなく、遠藤と佐原のやり取りを見つめていた。
遠藤の弁舌と胆の据わり方は感心に値するが、それと同時に、この状況に矛盾が生じていることにも気づいていた。
例えば、仮に遠藤の支給品が遠隔操作可能な地雷なのであれば、なぜ、地雷の近くにいるのか。
本来なら、地雷からかなり距離を置いた方が安全であり、地雷の近くにいては、遠隔操作の意義がない。
また、踏んだだけで爆発するようなものであれば、なぜ、密接するかのようにばら撒く必要があるのか。
もし、そのうちの一つが誤って爆発すれば、連鎖的な爆発を起こしかねない。
このように矛盾点を拾い上げていけば、遠藤の行動がハッタリであることは自ずと導かれてしまう。
遠藤もこの矛盾に気づいているはずである。
あえて、穴だらけの罠を仕掛けたのはなぜか?
一番の理由は佐原の現状判断能力を試すためだろう。
先程の遠藤の言葉のように、このゲームでありえないことは存在しない。
ならば、少しでも戦力になる人間がほしい。
それが戦闘能力のある支給品を持った参加者であってもよいが、
できることなら、窮地に陥った状況であっても、己を見失わない精神力があり、
尚且つ、そこから脱出することができる冷静な判断力と発想力を持った者が好ましい。
遠藤も同じことを考えているだろう。
殺し合いに参加していないことが最低条件であるが、できれば、佐原がそのような力を持っている者であってほしい。
――この矛盾に気づいてくれっ・・・!
森田はひたすら心の中で祈っていた。


佐原の足元に地雷が一つ転がっている。
佐原は足をあげ、その地雷の上まで持っていった。
――こんなもの、ハッタリに決まっている・・・!
しかし、足はそれ以上動かない。
心臓の鼓動が耳鳴りのように聞こえてくる。
いくらハッタリだと自分に言い聞かせた所で、頭に過ぎるのは、爆発した時の最悪のシチュエーションである。
足を負傷すれば、当然、歩くこともできないだろう。遠藤が助けてくれるはずもない。
もし、傷が癒える前に、マーダーに出くわしたらどうなるのか。
なすすべもなく、持ち物と命を奪われるのが落ちだ。
――たかが意地のために、そんなリスクを犯したくはない・・・!

佐原は足を戻してしまった。
「まぁ、妥当な判断だな・・・」
遠藤は佐原の方へ顔を向けた。
「ここへ行き着くまでに、お前、相当苦労しているんじゃないのか・・・」
「え・・・」
佐原は思わぬ言葉に、戸惑いを覚える。
「どうしてって、顔をしているな・・・声も体も震えているし、何より目が泳いでいる・・・」
佐原は思わず、自分の顔に手を当てる。
薄暗いフロアの中も認識できるほど、自分の様子は異常なのだろうか。
「苦しかっただろうな・・・佐原・・・
お前と同じ立場であれば、オレだって、体中が震えてしまうさ・・・」
「遠藤・・・」
――この男はオレの辛さに理解を示そうとしているのか・・・。
佐原の心に圧し掛かっていた絶望という名の重りが薄らいていく。
佐原のライフルの銃口は少しずつ下を向いていった。

遠藤は画面へ目を向けた。笑いがこみ上げてくる。
実際の所、佐原の様子は薄暗くて、よく分からないのが本音であるが、この際、見える、見えないということはどうでもよい。
重要なことは佐原を気遣う、同情するという行為である。
人間は常に他人からの同情を欲しがる。
佐原はここに立ち入る際に、自動ドアにすらライフルを向け、怯えていた。
遠藤はこの様子から理解した・・・佐原の心は不安と孤独に満ち、同情に飢えていると・・・。
今、佐原が欲しているものを与えてやれば、必ず見返りが来るはずである。
――佐原からの信頼・・・!

佐原の脳裏にこれまでの出来事が過ぎる。
なぜ、こんな殺し合いに参加しなければならないのか・・・。
――ああ、苦しいさ・・・。どうしようもないさ・・・。
その思いを遠藤に直接ぶつけて、気持ちを軽くしてしまいたい。
しかし、素直に話して良いものだろうか。

遠藤は迷いが生じている佐原の心の動きを察して、再びこみ上げてくるあの笑いを抑えた。
――もう一押し・・・。
「ところで、ずっと一人で行動していた訳ではないだろ?
今まで、誰と行動を共にしていた・・・?」
「えっ・・・」
情報を漏らすことは命取りに繋がるのでないのかという危惧が、溢れてくる言葉を堰き止める。
しかし、自分を知ってほしいという感情も存在している。
――名前だけ・・・名前だけなら・・・。

「板倉という男だ・・・」
「板倉か・・・あぁ、確か、ある組に属する慶応卒の若い奴か・・・。
財全グループのギャンブルの代打ちを決める試験に参加していた・・・」
「どうして、それを・・・」
「オレはゲームが始まる前、帝愛グループから、このゲームへの参加者を探して欲しいと依頼を受けていた・・・
結局、オレ自身もハメられて、参加する羽目になっちまったがな・・・
だが、この経験が良かった・・・今じゃ・・・」
遠藤はククク・・・と笑いながら、指で頭を指し示す。
「参加者全員の名前と顔と特徴は全て、頭の中に叩き込んである・・・!」
「す、すげぇ・・・!」
勿論、遠藤の言っていることは、罠同様ハッタリであり、
実際は参加候補者名簿をノートパソコンで隠して読み上げているだけである。
しかし、このように遠回りとも言える演出をするには理由があった。
今でこそ、佐原は心を開きかけているが、いつ、どのような場面で、再び殺意が芽生え、ライフルを遠藤へ向けるのか分からない。
そのリスクを減らすために、遠藤自身に生かすだけの価値があると、佐原に印象付ける必要があった。
今回の演出は、まさに佐原の弾丸を避けるための姿なき防壁・・・!

――佐原の孤独は取り除いた・・・殺すには惜しい人材としてのメリットも印象付けた・・・
後は・・・仕上げのみ・・・!
「今まで、何があったのか言ってみろよ・・・そして、楽になれ・・・佐原・・・
お前のスタンス次第では協力するぜ・・・」
遠藤は自分の立場を理解している。しかも、参加者全員を把握している。
何より、協力を申し出ている。
――協力。
この言葉で佐原の警戒の糸が切れた。
佐原はまるで、決壊したダムから流れ出る洪水のように、これまで自分に降りかかってきた出来事と不幸を遠藤にぶちまけた。
遠藤は横から口を挟むこともなく頷き、佐原の話を聞いている。


――軽率すぎる・・・!
森田の中で、膨らんだ期待が削られていく失望感が広がる。
遠藤が佐原に使った説得方法は詐欺師の常套手段の一つである。
相手の立場にあたかも立っているように見せかけることで、
相手が自分に近いもの、あるいは同士と認識させ心を開かせる、
自分を理解してほしいという人間の欲求を利用したものである。

――殺し合いに参加していないという最低条件を佐原は満たしているが・・・。
森田は南郷を横目で見た。
佐原に対する失望に似た感情を、南郷と初めて出会った時にも感じていた。
南郷は殺し合いに参加していないことを示すために、支給品を全て森田達に見せた。
その時、もし、自分達が殺し合いに乗っている人間だったらという考えは思いつかなかったのかと呆気にとられてしまった。
――佐原も仲間にすることで、かえって負担が・・・
ここまで考えたところで、森田は首を横に振った。
殺し合いに参加していない参加者にめぐり合えたことだけでも、良しと考えなければならないのではないのか。
森田はそう自分に言い聞かせると、再び、遠藤と佐原へ目を戻した。


「・・・それじゃあ、精神的に追い詰められてもしかたがないな・・・」
「ああ・・・」
佐原は遠藤に話すことで、張り詰めていた気持ちが軽くなったのか、肩の力を抜き、ライフルを降ろした。
「佐原・・・お前はこれからどうやって生き残るつもりだ・・・?
何か考えを持っているのか・・・?」
「え・・・アンタに考えがあるんじゃないのかよ・・・!」
佐原は思いも寄らない問いに思わず、声をあげる。
「お前がどんな方法で生き残りたいのか分からなきゃ、こっちも動けないだろ・・・?
お前のスタンスに合わせる・・・教えてくれないか・・・佐原・・・」
「あ・・・あぁ・・・」
佐原はこれまで生き残る構想を練っていなかったために、どのような返答をすればいいのか分からず、口ごもってしまった。

遠藤はそんなことだろうとは思っていたと言わんばかりに頭を掻く。
「ギャンブルルームで、棄権費用を稼ぐのか・・・?」
「えっ・・・?」
板倉から裏の社会では暴力や権力で約束を反故にしてしまうのはよくある話だから、棄権の話は信用するなと言われている。
しかし・・・
「あぁ、生き残るにはそれしかないと思う・・・!」
佐原は自分の意に反する解答を口に出してしまった。

遠藤と佐原の関係は築かれたばかりで強固なものとは言えない。
ここで遠藤に呆れられ、見離されれば、再び、佐原は絶望の重りを心に抱えることになってしまう。
判断力のある人間を演出して、見切られる要因を減らしたい。
佐原の返答は見栄と意地と不安の表れであった。
「お前、ギャンブルできるのか・・・?」
「えっ・・・」
佐原はこれまでのギャンブル経験を振り返る。
正直、パチンコぐらいしか経験がない。後は・・・
「あ・・・アンタが紹介してくれたギャンブル・・・鉄骨渡りの・・・」
「そんなのギャンブルというより体力勝負じゃねえか・・・しかも、お前、落ちているんだろ?」
「う・・・!」
「それに、ギャンブルルームは30分につき100万円が必要だ・・・
だいたい利用する奴は金に余裕があるか、ギャンブルが異常に強いか、イカサマを事前に準備して確実な勝算がある奴かの3種類の人種しかいない・・・
お前、そのどれかに当てはまるのか・・・?」
そこまでを言われると、何も言い返せない。佐原は再び、口ごもる。

「じゃあ、対主催者として、ゲーム潰しを目論むつもりか?」
「対・・・主催者・・・」
「そうだ・・・参加者全員を救うために・・・馬鹿げた殺し合いを止めるために・・・!
命を落とすことになりかねないがな・・・」
「救う・・・」
佐原は手の中にあるライフルを見た。
安全が保障され、自分に危害が及ばない社会の中でなら、佐原も倫理的な意味で、この意見に賛成していただろう。
しかし、今、自分の身を守るすべはこのライフルだけである。
自分の身を守ることさえ困難であるのに、他人を救う余裕はない。
「それも・・・ちょっと・・・」

――正義の味方のような美しい生き方をするつもりはない・・・か・・・。
遠藤は予期していた解答だけに、笑いを抑えるのも限界に近い。
ならば、選択肢は一つである。
「じゃあ、参加者を殺して、棄権費用を稼ぐか、優勝を狙うかしかないな・・・」
遠藤は少し離れた場所にあるレジカウンターを指差す。
「そこの物陰に、二人潜んでいる・・・今、殺せば、2000万円手に入るぞ・・・!」
「えっ・・・?」





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