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事故 ◆xuebCgBLzA氏


治と石田が移動を開始してだいぶ時間が経った。
アトラクションゾーンと二人が歩いている草地の間に鉄の柵はあるものの、
向こう側から銃器のようなもので狙われてしまったらアウツ。
なので、治と石田は極力音を立てずに慎重にアトラクションゾーンを時計回りに進んだ。
無論、会話も一切なかった。
どこを目指そう、とか、だれに会えるだろう、とか、そんな些細な会話をも、二人は押し殺していた。
この二人は他の生存者の多くと違い、修羅場を何度もくぐってきた『兵』ではない。
言うなれば凡夫なのである。
この数時間、二人はお互いを励ましあいながら進んできた。
そうしなければ、この猛獣だらけの島の空気に押しつぶされていただろう。
そんな二人がこの殺し合いというステージでコミュニケーションをとらずに移動をしているのは、
本来たたえるべき行為なのである。
(思えば…この島に来てこんなに長い時間黙っているのは初めてだ…。
―――怖い…この静寂が怖い…!)
後ろを震えながら歩く石田は治を見ながら思う。
(でもっ…目の前に…目の前に信頼できる人がいるっ…こんなに心強い事はない…!)
石田は目の前の治を鉄骨渡りで先を行くカイジと重ね合わせた。
(くっ…!俺の前を行く若者はっ…!何でこんなにも頼もしいんだっ…!
それに比べて俺はっ…!俺はぁ~っ…!)
悲観していると、治が急に立ち止まった。
思わず治の背中にぶつかってしまった。
「石田さんっ…!あれっ…!」
周囲に気を配っていた治は対岸方向を指差しながら小声で言った。
石田も治の指差す方向を見た。
「人…だね…。………あ…あの人…『乗っている』人かな…!?」
不安が石田のボリュームを自然に上げる。
「屈んでいるように見えますけど………。なんだ…?………合掌……?」
治は目を凝らしてできるだけ人影から情報を探った。
海に反射している月明かりがその人影をぼんやりと照らしている。

* *


黒沢は美心の埋葬を終え、明けまで眠ろう…そう思った。
しかし、意識が覚醒した時、まだあたりは闇に包まれていた…。
「ん…なんだ…。まだ…夜は…明けていないのか……」
いくら黒沢でも、この状況下で安眠することはできなかったのだ。
大きく背伸びをし、辺りを見回すと美心を埋めたところに目がいく。
悪い夢であってほしかった。美心が死んでしまったこと。
このギャンブル自体…。夢であってほしかった。
しかし、殺し合いに参加していることも、自分を愛してくれた美心が死んだことも…。
紛うことなき現実だった…。
寝ぼけている状態から現状を把握するのに数分かかった。
「そうだ…。『カイジ君』……『カイジ君』を探さねば……!美心さんの無念を……晴らす…!」
このギャンブルで初めて明確な目標ができたのを思い出した。
―――と、同時に体から何かがこみ上げてくる感覚…。
尿意っ…!
「ごめんっ…ごめんよ美心さんっ…!これが人間っ…!寝起きの人間は…これが…ごく自然…!
…自然な人間の行動っ…!生理現象っ…!」
黒沢なりの紳士らしさを見せるため、美心の墓からは死角になる崖まで行き、放尿っ…!
数十メートル下の海に自分の一部が同化していく…。
大いなる、母なる海に自分の一部が還っていく…。
開放感…。爽快感…。罪悪感…。色々な感情が交錯している…。
そんな中、人間・黒沢はある思いに行き着いた…。
「もう……帰れねぇのかなぁ……白本屋に……穴平に……
もう………もう…会えねぇのかな……みんなにっ……!」


………

尿とは違う体液がこみ上げてくる。
そして、それは目からあふれ出した。
「生きたい…!生まれたからにはっ…!齢男でも構わないっ…!…ただ…ただ生きたいっ…!」
両手は排泄で塞がっているため、その熱い体液は目から溢れ放題だった。
排泄を終え、男泣きに専念しようとした瞬間、またも美心の墓が目に入った。

………

数秒。
固まってしまった。
「そうだよな…俺は…愛する者のために…行動せねばならん……!ごめんよ…美心さん…。
俺…馬鹿だから…自分のことでいっぱいだった…!見失いそうだった…!目的を…!」
袖口で涙を拭い去り、美心の墓に近づく。
そして、美心の墓の前に屈みこみ、
合掌………。
静かで、
長い、合掌。
よし、と決意したように立ち上がる。
そして、歩き出した。南へ…。
愛する者の無念を晴らすため…。
当てもなく……。

* *


「誰かのために合掌しているのならば……殺し合いに乗っていないのかも…!」
石田がそう言いながら治の顔を覗き込む。
「そうならば…話をしてみたいですね…
…でも…危険が付きまとってきます…あの人が生き残っているという事は…
『あの人が拝んでいる人』を殺した人物を殺しているのかもしれませんよ…」
石田は少し考えた後にハッとして、固まる…。
「人殺しは…怖い……けど…正当防衛ならば別っ…!生きたいと願う人間の行為…
それに……仲間は…多い方がいい……よね…!」
「それは…もちろんです………しかし…賭けになりますよ……あの人が…復讐のために
このギャンブルに『乗ってしまった』のかも知れませんし……」
二人が悩んでいると、影は動き出した…。
「あぁっ…!治君っ…!行っちゃうよ…あの人…」
治と石田が黒沢を見かけたのは黒沢が美心の墓から去る直前であった。
「石田さんっ…!地図を貸してください…!」
石田は地図を広げる。
アトラクションゾーンからの光を頼りに二人は地図を見る。
「たぶん…ぼくらがいるのがB-6の北東…。…で、あの人はB-7の南西にいた……
B-7から真っ直ぐ南下したとすると、ショッピングモールにぶつかる…!
普通に考えれば彼はショッピングモールを反時計回りに道路に出るだろうから…」
「俺たちも真っ直ぐ南下したら…彼と鉢合わせる…!行ってみようよ…!治君…!
仏様を大事にする人に…悪い人はいない……と、思うよ…!」
語尾が頼りなかったが、石田の力説に治は負けた。
「わかりました……。石田さんの直感を信じます…。我々も南下してみましょう…。
ただし…危険な雰囲気を感じたら…即座に逃げましょう……我が身を第一に考えて……」
治が注意を促すと、石田はあらかじめ着込んだダイナマイト付きコートを広げて見せた。
「これでっ…悪者は追っ払ってしまおう…!」
笑顔で石田は言った。
石田は脅しで少年を撃退した事で味を占めていた。
治はこの過信を少し心配した…がっ…。
「………行きましょうか…!」
男を追うために南下することにした…。

* *


黒沢は、治と石田の予想通り、真っ直ぐに島を南下していた。
あてもなく『カイジ君』を捜すことは無謀であると黒沢も重々承知していたが、
『カイジ君』を知っている人間か、本人に運良く出会えることを祈り、南下をはじめた…。
しばらく進むと林が開け、建物が見えてきた。
しかし、既に頭上には闇が広がり、明かりも持っていないので、地図を確認する事は出来ない。
「………こいつに沿って進んでみるか……。確か…俺は島の東側にいたはず…
なら……島の中心に向かうには……左………いやっ…右回りか…?」
一瞬迷ってしまう。
この状況のせいなのだろうか。気が落ち着かない。
壁を右に進む。
角を曲がり、また壁沿いに歩く…。
しばらく行くと、アスファルトの道路が二又に延びていて、その二又の道の反対側には、
ショッピングモールの入り口があった。
黒沢、周囲を見渡す…。
人影無し…。
それを確認すると、アスファルトの交点に立った。
「さて…どちらに行こうか…」
考えを巡らせていると……。
「あのっ……すいません…お話…聞かせてもらえますか…?」
ふいに声をかけられる…。
「うおっ…!」
黒沢、思いがけず、振り向きつつファイティングポーズ…!
そこには、二人の男が両手を挙げて立っていた…。
「こちらに敵意はありません……いくつか質問をしたいだけです……」
そう言うのは、前にいる若い男。
うんうんと頷くのは後ろにいる初老と思しき男。
「オレは治といいます。こちらは石田さん…」
「お…俺は黒沢というものだ………俺に…何か用かい…?…治君…」
黒沢は『不安です』と書いてある顔で聞く。
「黒沢さん……あなた…先ほど、拝んでいましたよね……
親しかった人が…殺されてしまったのですか…?」
治と石田は両手を下ろし、恐る恐る質問をする。
「見ていたのか……」
黒沢は、うつむいてしまう…。
「あ……す、すいませんっ…!失礼な質問をしてしまって…!不謹慎でし…」
「あの人は……!」
治の謝罪に、黒沢が割って入る。
「あの人とは…美心さんとは………相思相愛っ…!………結ばれた者同士だった…!」
黒沢の顔が朱に染まる。
「恋人同士っ…!美女と野獣っ…!禁断の地での…禁断の恋……!
アダムとイヴが最初ならば……俺たちは最後になるはずだった……!」
治と石田は呆然と立ち尽くす…。
「あのっ…俺っ……本当に失礼な質問をっ…!」
治が改めて謝罪をする…。石田も頭を下げた…。
「いや、いいのだ……!今の俺は……立ち上がったのだ…!
彼女の無念を晴らそうと…立ち上がったのだ…!
彼女と何かしらの縁がある、『カイジ君』を捜すっ…!それが俺の使命っ……!」
治と石田は打ちのめされたっ…!黒沢の熱い思いにっ…!
「不謹慎な言い方だけどっ…!なんて詩的なんだっ…!」
石田は泣きそうになるのを堪える…。
…が…すぐに我に返る。
「…って…え…?『カイジ君』って……伊藤カイジ君のことかい…!?」
「苗字まではわからんが……。石田さん…『カイジ君』を知っているのか…!?」
黒沢が身を乗り出す。
「……えぇ…この島に来る前に…二度ほど大きなギャンブルでお世話になりました…
見かけは普通の青年と変わらないんですけど…正義感にあふれていて……勝負強い…!
人を惹きつける統率力…リーダーシップもあるっ…!彼は…凄い青年だよ…!
あ、ほらっ…説明の時に殺されてしまった子を必死に止めようとした…!」
カイジの魅力を説明する石田は誇らしげであった。
「あ…あの青年が…『カイジ君』……確かに…美心さんと…黒髪つながりっ…!」
「そうだ…!…目的が同じなら…行動を共にしませんか…!?…黒沢さん…!」
治が黒沢に提案する。
しかし、治と石田の最終的な目的である、『ゲームの解れをさがす』ということは伏せた。
余計なことを口にして、この機会を棒に振ることはしたくなかったのだ。
「……よし…!わかった…!
『カイジ君』を捜しだすには…あなた達と共に行動するのが近道だろう…!」
治と石田は顔を見合わせ喜ぶ。
「そうと決まったら…行かねばならない場所がある…!」
黒沢の表情が曇る…。
「治……深くは聞かないが…あんたはバッグがない…そこで…
治の支給品は…美心さんのを渡すとして…俺たち3人分の…身を守る…武器…
それと……俺は…大食だから…食料も……調達する…」
「それは願ってもいない話………ですが…心あたり…あるんですか…?」
黒沢はコクリと頷き、続けた…。

「…美心さんが………殺された場所だ…」

少しの沈黙の後に治が口を開いた…。
「………あの…辛いのなら…無理に行く必要はないかと…」
最愛の人が殺された現場…。
そこに再び訪れる事が、どれだけ辛い事か…。
治と石田は黒沢の精神面を気にかけた。
しかし、黒沢は強い男だった。
「いや…行こう……行き抜くには必須っ……武器も……食料も…!
『腹が減っては軍は出来ぬ』とは…先人はよく言ったものよ…!」
治と黒沢が微笑む…。
しかし、その中でひとり…。
石田の顔は絶望に染まった…。
晴れて仲間となった黒沢に自分の武器を見せようと思った…。
ただそれだけだったのに…。
発見してしまった…。
ダイナマイトのホルダーの一部に不備…。縫いに解れがあった…。
結果…最悪の事態を招いた…。
石田は目にいっぱいの涙を浮かべて、言った…。

「…治くん………ダイナマイト…5本落としちゃった………!」

【D-6/ショッピングモール入り口付近/夜中】

【黒沢】
 [状態]:健康
 [道具]:不明支給品0~4 支給品一式×2 金属のシャベル 小型ラジカセ
 [所持金]:2000万円
 [思考]:カイジ君を探す 美心のメッセージをカイジ君に伝える 別荘に戻り必要なものを調達する
※メッセージは最初の部分しか聴いていません。

【治】
 [状態]:後頭部に打撲による軽傷
 [道具]:拡声器
 [所持金]:0円
 [思考]:石田のトラブルになんらかの解決策を見出す 石田と逃げる アカギ・殺し合いに乗っていない者を探す ゲームの解れを探す

【石田光司】
 [状態]:ダイナマイト紛失により気が動転
 [道具]:産業用ダイナマイト(多数)【5本失っていますが、それでも十分な本数があります】 コート(ダイナマイトホルダー) ライター 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:どうしよう 治と逃げる カイジと合流したい カイジのためなら玉砕できる

※石田が落としたダイナマイトはB-6、C-6、D-6のどこかに落ちています。


082:孤軍 投下順 084:帝図(前編)(後編)
099:投資 時系列順 097:謝罪
072:埋葬 黒沢 097:謝罪
076:決意 097:謝罪
076:決意 石田光司 097:謝罪




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