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帝図(前編) ◆uBMOCQkEHY氏


E-5ギャンブルルーム前。
月下に照らされ、浅く生えた雑草の上に一人の男の死体が横たわっている。
その肉体は上半身しか存在していない。
胴から下は、まるで豚のミンチをぶちまけたかのように、細かな肉片となって散乱している。
この男にとって、自分の死は突然のことであったのだろう。
まるで自分が死んでいることに気づかず、これから何かを語ろうとしているかのように、口が半開きになっていた。


その男を見下ろす老人がいた。
豊かな白髪の老人――鷲巣巌は死体の前にしゃがみ込むと、その首に付いている首輪を掴んで上下に動かす。
しかし、首輪は少し位置を変えただけで、特にこれと言った変化を見せることはない。
鷲巣は思わず、悪態を吐く。
「クッ・・・アカギの奴との勝負に負けたばかりにっ・・・!」

アカギとの契約で、鷲巣はアトラクションゾーン以外の参加者の死体から首輪を集めることを指示されている。
鷲巣にとって、誰かに従うという行為自体が、昭和の怪物として許されざることであるが、
それでもアカギの指示に従っているのは、裏の帝王である自分を愚民どもと同列に扱おうとする主催者への反発の方が大きかった。

しかし、素直にアカギに従うつもりもない。
鷲巣は様々な場所へ移動することなく、まっすぐにアカギとの合流場所――病院があるE-5エリアに向かっていた。
理由はいくつかある。
まず、次の定時放送までにエリアを転々と移動できる体力がなかった。
鷲巣は、欲望は並々ならぬ輝きを放っていたとしても、齢75歳の老人である。
体力は壮年期と比べてかなり落ち込んでいる。
その上、昼間に邦男や有賀の襲撃を受け、打撲や骨のひびが、その体を更に弱らせていた。
何より、一番の理由は、首輪を集めること自体、鷲巣自身には何のメリットもないため、
やる気が起きなかったことなのだが・・・。

今、こうして、首輪を取ろうとしているのも、契約上の使命感というより、
歩いていたら見つかったため、一応、その姿勢は見せておこうという義理によるものであった。
勿論、義理でしかないので、取れなければそれで終わりでよい。
それにもかかわらず、鷲巣は首輪をいじる内に、どこか馬鹿にされているような怒りがこみ上げてきた。
「アカギめっ・・・!
そんなに首輪が欲しいなら・・・ワシに刃物のような支給品を手渡さぬかっ!」

アカギが鷲巣に首輪回収の手段となる支給品を渡さなかったのは、
アカギ自身、そのような支給品を所持していないためであるが、
鷲巣はそれを自分に期待していない証拠であると解釈してしまった。
かつて、経営コンサルタントとして、裏の経済に君臨し、
様々な財界人や政治家に崇められ、恐れられ、縋られた男が、今、一人の青年に軽くあしらわれる。
それが鷲巣のプライドを逆撫していた。

「アカギっ・・・!首輪を取った後は、次は貴様の首をとってやるわっ!」
鷲巣は狼が月に向かってほえるかの如く、喚き散らす。
鷲巣には感情が一定以上に高ぶってしまうと、形振り構わず喚く悪癖がある。
アカギとのダミーの会話もこれでは台無しである。

そんな鷲巣の喚きを聞いていたのは、首輪の中に仕掛けられている盗聴器のほかにもう一人――
「じいさん、そこで何をしているんだ?」
「あっ?」
鷲巣が振り返ると、一人の青年が立っていた。
青年はチェーンソーを担いでおり、久々に知り合いに会ったかのように、警戒する素振りも見せず、鷲巣に近づく。
「じいさん、首輪が欲しいのか・・・だったら、オレが首を切断して取ってやるよ・・・」
まるで、手の届かない荷物をとるかのような雰囲気で、常識から逸脱したセリフを口にすると、
青年はチェーンソーの電源を入れた。

キュイィィィィンンンン!!!
耳をつんざくようなモーター音がこだまする。
青年は、死体の男の頭を踏みつけると、のこぎりで木材を切る要領で、首にチェーンソーの歯を当てる。
「いくぜっ・・・!」


ブシュッ!
首から血がはじける。
歯は躊躇いもなく、首を貫通していく。
モーター音と共に、骨を砕く音、モーターの摩擦から肉が焼けるような匂いが周囲に広がる。
この青年の行動は明らかに狂人の行動である。
勿論、鷲巣も “正気か、こやつはっ・・・!”という戸惑いを覚えた。
しかし、とりあえず、アカギとの契約を一つ消化することができたという安堵感が、
その戸惑いを考察まで発展させることを阻ませていた。
それが鷲巣を更なる悲劇へ導くことになる。

やがて、頭部が首から切り離される。
青年は血だまりの中に浮かぶ首輪を掴むと、それを鷲巣に差し出す。
「ほら、外れたぜ・・・じいさん・・・」
「おお、助かったわ・・・!くれっ・・・!」
鷲巣は嬉々として、その首輪に手を伸ばす。
鷲巣の視線は全て首輪に注がれていた。
それ故に気づかなかった。
青年の気さくな笑顔から悪意がにじみ出てくる瞬間を・・・。


突然、青年は首輪を自分の頭上に掲げた。
「だが、嫌だと言ったら・・・鷲巣巌・・・!」
「お・・・」
言葉が続かなかった。
腹部に電流で貫かれたような激痛が走る。
「ぐっ・・・!」
鷲巣は苦悶に満ちた表情で、その激痛の要因を見た。
青年の膝が鷲巣の腹部にめり込んでいる。

「かはっ・・・」
鷲巣は二、三歩よろけると、腹部を押さえたまま、その場に倒れ込んだ。
「お前は何者じゃ・・・なぜワシの名を・・・!」
青年は口の端に皮肉めいた笑みを浮かべる。
「裏で暗躍している者の名と顔は覚えておかないと、帝愛グループの次期後継者は務まらないからな・・・」


鷲巣は目を見開き、青年を見上げる。
「帝愛・・・まさか兵藤和尊の息子・・・兵藤和也かっ・・・!」
青年――兵藤和也は、自分の正体があっさり露顕したことに意外そうな表情を見せるも、
すぐに先程の笑みを見せる。

「ご名答っ・・・!やっぱり、オヤジのことを知っているのか・・・
まぁ・・・どうでもいいことだけどな・・・」
和也は再び、チェーンソーに電源を入れた。
「あんたの首輪も・・・これから回収するからさっ・・・!」

和也の心情を表すかのような暴力的なモーター音がこだまする。

――殺されるっ・・・!
鷲巣は痛みがひかない腹を抱え、四つんばいになって逃げる。
膝や腕などにも痛みが走るが、それに構っている暇はない。
立ち止まれば、その先にあるのは死――。

「カカカ・・・まるで赤ん坊だな・・・!」
鷲巣の恐怖心を更に煽るかのように、鷲巣の歩調に合わせながらも、その距離を縮めていく。

――これまで、裏の社会に君臨してきた鷲巣巌が・・・
 こんなガキ一人に命を弄ばれるのか・・・!
 このワシが・・・神すらひれ伏す剛運を持つ、この鷲巣巌がっ・・・!


何も持たない鷲巣の最後の拠り所は、やはり共に修羅場を潜り抜けてきた自身の剛運であった。
しかし、強力な武器を持ち、迫り来る和也に対して、無防備でかつ満身創痍の鷲巣。
誰が見ても、この結末は陳腐な映画の如く、先が読めてしまう展開となるはずであった。
しかし、ここで運命の歯車にちょっとした異変が起こる。


ガチャッ!
手に何かがぶつかる。

「えっ・・・」
――こ、これは・・・!
鷲巣は足を止めると、その場で身を丸くした。

――どうした・・・一体?
鷲巣の行動に和也は面食らうが、すぐに仕切り直す。
――観念した・・・という所か・・・!

和也は、歩幅一歩のところまで、鷲巣に接近し、チェーンソーを振り上げる。
チェーンソーは歯を回転させながら、死神の鎌のように月夜に浮かび上がる。

「これで終りだ・・・鷲巣・・・」
「終わりなのは貴様の方じゃっ!兵藤和也っ!」
鷲巣は振り向き様、黒い物を和也に突きつけた。

――な、何っ?!
和也は目に飛び込んできたものの正体を知り、硬直する。
「フン・・・形勢逆転じゃっ・・・!」
鷲巣はしてやったりと言わんばかりの子供のような笑みで、ゆっくりと腰を上げる。

鷲巣が和也に向けているもの、それは拳銃であった。
この拳銃は本来、しづかの支給品であった。
しかし、死体の男――神威勝広に奪われ、
その後、地雷の爆発により、その存在はうやむやになってしまっていた。
そして、今、それは鷲巣の手の中へ――。


「チッ・・・!」
和也は舌打ちする。
――やはり、昭和の怪物・・・鷲巣巌っ・・・!
 落ちても、その剛運には見離されずかっ・・・!

「撃たれたくなくば、そのチェーンソーを止め、ワシから離れろっ・・・!」
和也は鷲巣の指示に素直に従い、その電源を切り、鷲巣と向かい合ったまま、後ろへ下がる。

――くそっ・・・このままじゃ、殺生与奪を鷲巣に握られることになっちまう・・・!

和也に初めて、苦々しい表情が現れる。
一歩、一歩下がる度に、自分が崖に追いやられているような感覚が現実味を帯びていく。

「さぁ・・・そのチェーンソーをワシによこせっ・・・!そのディバックもだっ・・・!」
鷲巣はここぞとばかりに、和也に新たな要求をする。

――あのジジイ・・・オレを丸腰にする気かっ・・・!
要求を呑めば、次に待っているのは死――。

鷲巣がこの場で拳銃を手に入れたように、
このゲームでは、ちょっとした歯車の異変で、その運命が大きく変わる。
和也はあまりにも自分の運を過信していた。
しづかに狙われるという小さな障害こそは経験していたが、
それ以降は誰かに遭遇することもなく、自分の目的――血生臭くも明るい優勝へのシナリオを順調に進めていた。
しかし、鷲巣の存在によって、それが覆されてしまった。

――こんな老い先短いジジイに殺されちまうのか・・・オレは・・・!
 帝愛次期当主のオレがかっ・・・!

立場が逆転した和也の結末は陳腐な映画の如く、先が読めてしまう展開となるはずだった。
しかし、運命というものは面白いものである。
今度は和也に、その歯車の異変が起こる。


ガチャッ!
足に何かがぶつかる。
「えっ・・・」
――こ、これは・・・!
この直後、和也の脳内で、この状況の打開どころか、優勝への新しいシナリオが構築される。

――見つけたぜっ・・・突破口っ・・・!
和也は突然、ディバックを盾のように持つと、その中から手に収まるような円盤状の塊を取り出し、鷲巣に見せ付けた。

「鷲巣巌・・・ここにある死体、何があったと思う?」
「は?」
鷲巣は、顔は和也を睨みつけながらも、目で横たわる死体を追う。
死体は下半身が粉々に吹き飛ばされ、周囲に散乱している。
残った上半身も下の方は、まるでバーナーに焼かれたかのように黒く炭のようになっている。

鷲巣は思わず、首をかしげる。
なぜ、この場においてそのような質問をするのか。
なぜ、ディバックで身を庇うのか。
円盤状の塊を取り出したことと関係があるのか。
その理由を求めて、鷲巣の脳内物質は竜巻のように、その体内を駆け巡る。

「分からないなら・・・教えてやるよ・・・!」
和也は自身の足元にある塊を蹴った。
それはホッケーのボールのように、地面を滑ると、鷲巣の足元にぶつかり動きを止める。

「何だ、これは・・・」
爆発によるものなのか、強い力でこじ開けられたかのような破損と黒い焦げで、
元が何だったのかまでは分からない。
しかし、その形状の一部から、手に収まるくらいの円盤状の物体であったことは分かる・・・
手に収まるくらいの円盤状の・・・


「まさかっ・・・これはっ・・・!」
バラバラの疑問が一つに繋がった。
鷲巣に、氷が肌に張り付くような緊張が走る。
「そうだ・・・オレの地雷だっ・・・!」
和也は鷲巣にディバックの存在を意識させるように、揺すってみせる。
「オレは後、20個所持している・・・もし、拳銃を撃って、これに当たればどうなるか・・・
修羅場を潜り抜けてきたアンタには分かるだろ・・・?鷲巣巌っ・・・!」

――ガキめ、まだ、そんな奥の手を持っておったかっ・・・!
鷲巣が体の奥の震えを止めるかのように、息を呑む。

拳銃という武器を手に入れ、和也に標準を合わせる鷲巣に対して、
周囲をも巻き込む一撃必殺の地雷を盾にする和也。
どちらかが動きを見せれば、文字通り一触即発の状況。
しばらく両者は膠着状態となった。



風がさらに鋭い冷たさを帯び始めた。
――もうそろそろ・・・いいか・・・。
先に動きを見せたのは和也だった。

――オレのシナリオにアンタも組み込ませてもらうぜっ・・・!
「なぁ、鷲巣巌・・・なぜ、アンタは首輪を欲する・・・?」
鷲巣は先程以上に、不快な表情を顕にする。
「そんなこと・・・貴様には関係ないわっ・・・!」
「さっき叫んでいた“アカギ”という奴の指示か・・・?」
「・・・」
鷲巣は答えない。
アカギは自分の思惑を知られたくないが故に、鷲巣にダミーの会話を求めていた。
鷲巣もその点は一応、配慮する。


しかし・・・
「図星だな・・・多分、ギャンブルで負けて、“協力する”という契約を結んだんだろ?」
その態度は、却って、回答となってしまった。

和也はディバックの盾を鷲巣に向け続けながらも、戦闘の構えを解き、語りかける。
「まぁ、いいか・・・オレは首輪も欲しているが、それ以上に“部下”が欲しい・・・
オレの“部下”になれ・・・鷲巣巌っ・・・!」

「何ぃっ?貴様ぁ!突然、寝ぼけたことを言いおってっ・・・!」
小動物が敵を威嚇するかのような甲高い声を上げ、和也の言葉に噛み付く。
和也は“まぁ、落ち着いてくれよ・・・”と諭すように、手を振る。
「いいことを教えてやるよ・・・実はこのゲーム、オレにだけ適用される『特別ルール』が存在する・・・
まぁ、それが適用される条件はかなりハードルの高いものだがな・・・」

「『特別ルール』だと・・・」
鷲巣は和也の言葉の意図を考える。
和也は鷲巣が自分の話に食いついたことを確認すると、
更に惹き付けるように落ち着いた口調でその続きを語る。
「オレは、帝愛次期当主の器を試されるために、このゲームへ参加させられた・・・
故に、オレは優勝しなければならない・・・
ここまでは、オレとほかの参加者の条件は一緒だ・・・
だが、最後の段階で、事情が変わってくる・・・」

鷲巣は黙って、和也の話を聞いている。
和也はふっと、あの禍々しい悪意のある笑顔を見せる。
「このゲームではいずれ、いくつかの派閥ができあがり、それぞれ生き残るために、衝突し合う・・・。
その中で、オレを中心とする派閥が残った時・・・
その『特別ルール』が初めて適用される・・・
オレの派閥はオレの権力を以って、全員脱出できるという『特別ルール』がな・・・!」
「ふん・・・」
鷲巣は唾を吐き捨てるかのような表情で、和也を睨みつける。
「そんなことが適用されたら、ゲームのバランスが崩れる・・・
“あの男”がそんなことする筈がないわっ・・・!」


――こいつ、オヤジのこと、知っているんだな・・・ということは・・・。

「確かにアンタの言うとおりだ。オヤジなら、反対するさ。いや、していた。
けど、この『特別ルール』・・・オヤジじゃなくて、あの“二人”が提案した・・・」
鷲巣ははっと目を見開いた。
「まさか・・・在全と蔵前かっ・・・!」

和也はほくそえむ。
――やっぱり、こいつは主催者を熟知していやがる・・・!
 なら・・・かえって好都合っ・・・!

「あいつらがオヤジにこう説得したんだよ・・・!
“参加者の中には未来の帝愛の幹部候補もいる・・・
あなたの将来を受け継ぐご子息も含めて、有益な人材を使い捨てにするのは、
経営者として好ましい姿勢とは言えない・・・”ってな。
オヤジ、黙っちまったよ。その言葉で・・・。
けど、その後、こう言った。
“やはり、軟弱な者を帝愛に居つかせる訳にはいかない・・・だが、そこまで言うのであれば、
万が一の時は・・・その『特別ルール』を認めよう”・・・と。
まぁ、オヤジは、それでもオレに優勝を望んでいるようだがな・・・!」

鷲巣に二人の主催者――在全と蔵前の顔が過ぎる。
「あいつらなら・・・だが、なぜ・・・」
「簡単な話だ・・・これからも帝愛との関係を継続していきたいからさ・・・
オヤジも齢だ・・・いつポックリ逝っちまうか分からねぇ・・・
あいつらにとって、帝愛の寿命を延ばすために、オレの存在が必要不可欠・・・!
『特別ルール』はあいつらの都合によって生まれたもの・・・!」


和也は一呼吸置く。
――重要なことは鷲巣に伝えた・・・最後で鷲巣がどう反応するかだ・・・。

「『特別ルール』が存在しているとは言え、オレの派閥のみが残らなければ、適用されることはない・・・。
故に、オレの基本方針は優勝・・・。
有能なものは“部下”にし、邪魔になる者、使えない者は消す・・・それがオレの考えだ・・・。
初め、オレにとって、アンタは使えない者だった・・・。
だが、アンタがその拳銃を掴んだ時・・・その考えを改めた・・・。
剛運の鷲巣巌と呼ばれただけはある、その運・・・アンタの運が欲しい・・・
もう一度、言う・・・オレの“部下”になれっ・・・!
もし、アンタが望むなら、オレがアカギを・・・」

「馬鹿らしい・・・!」
鷲巣は和也の言葉を切り捨てた。
「ふざけるなよ・・・小僧っ・・・!
今はアカギに利用されておるが、ワシの目的は、このゲームで頂点に君臨すること・・・!
いずれは貴様もアカギも倒して、ワシがこのゲームの王になってやるわいっ!」


鷲巣の啖呵に和也は思わず、聞き返す。
「それは優勝ってことか・・・」
「それは・・・その時次第じゃっ・・・!」

――このジジイ、晩年は狂ってしまったと聞いたことがあったが、これほどまでとはな・・・。
和也は失笑する。
鷲巣の目的とは、壮年のように、誰かから崇められ、恐れられ、すがられることであり、
性質が悪いことに、その手段を全く考えてはいない。

――交渉は決裂か・・・。
和也は呆れたようなため息をついた。
「つれねぇな鷲巣巌・・・だが、それも一つの選択・・・
今回は諦めよう・・・!」
和也はギャンブルルームを顔で指す。
「攻撃し合わないようにするために、このギャンブルルームを利用して別れるというのはどうだ・・・鷲巣巌・・・
お互いに後ろへ下がりながら、ギャンブルルームのそれぞれの端まで移動し、そこで同時に壁に身を隠す・・・
そうすれば、不意に攻撃されることもない・・・」


鷲巣は横目でギャンブルルームとその周囲を確認する。
ギャンブルルームは爆風にも耐えられる造りとなっており、
壁に爆発による黒い火薬の後が見えるが、ヒビは見受けられなかった。
また、このギャンブルルームは林の中にポツンと存在しており、
周囲は人が隠れることができるくらいの茂みと歩行するのに邪魔にならない程度の雑草が生えている。

鷲巣と和也はギャンブルルームの入り口前にある、勝広の死体を堺にして対峙していた。

――この壁を防壁にすれば、とりあえず攻撃は受けない・・・という訳か。
  隠れる場所が茂みのみというのが、いささか不安だが、
  相手は飛び道具を持っていない・・・安易に襲ってくることはないはず・・・。
鷲巣は勝者の如き、哄笑を浮かべた。
「貴様の“部下”になる気もないが・・・
ここで発砲して、地雷に穴を開けるような馬鹿なマネをする気もない・・・
それに乗ってやろう・・・!」


鷲巣は拳銃を向け、和也はディバックを盾にし、向かい合ったまま、ギャンブルルームの壁まで移動する。
両者は外壁に身を押し付け、構えを維持しながら、後ろへ下がる。
やがて、共に建物の端にまで到達した。

鷲巣と和也はそれぞれ、相手の死角となる壁側へ足を移す。
「また会えること・・・楽しみにしているぜっ・・・!」
和也はそう言い残すと、ギャンブルルームの壁へ消えていった。

「ふん・・・ガキの分際でよく言うわぃっ・・・!」
本来なら気が済むまで悪態を吐きたい。
しかし、和也が建物を回るように移動して、鷲巣の死角から攻撃してくる可能性もある。
鷲巣は痛みと熱が集中する腹部を押さえながら、この場を後にした。






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