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帝図(後編) ◆uBMOCQkEHY氏


鷲巣は周囲を警戒しながら移動していた。
動物の声どころか、木々のざわめきすら聞こえない。
起動していないヘッドホンを耳に付けられたような静寂がその場を支配する。
疲れが鷲巣の体から自由を奪い始めている。

――休むか・・・。
辺りを見渡し、和也が追ってきていないことを確認すると、鷲巣は近くの茂みへ身を隠した。
「ふぅ・・・」
鷲巣はすぐ側にある木に寄りかかると、手に収まる拳銃に目を向けた。
「危なかった・・・」

鷲巣が拳銃を見つけた時、
“ワシの剛運、未だ尽きずっ・・・!”
と、驚喜の叫びを心の中であげた。
――あの小僧の脳天に、一発ぶち込んで・・・
しかし、ここで鷲巣の思考は止まり、その驚喜は驚愕の叫びに変わる。


「えっ・・・」
――こ、これは・・・!
拳銃の銃口が曲がっているのだ。
おそらく爆発の際の衝撃で歪んでしまったのだろう。
遠くから見れば分かりにくいが、触れると先端は不自然に上を向いている。
もし、このまま発砲すれば、弾は銃口の手前で止まり・・・

――暴発っ・・・!
死という言葉が、再び、鷲巣に圧し掛かる。

――どうすれば・・・。
鷲巣はうずくまって思考を働かせる。
そうこうしている間に、和也が近づき、チェーンソーを振り上げたため、
どうにでもなれという勢いのままに拳銃を和也へ向けてしまったのである。

勿論、発砲は不可能であるので、和也を仕留めることはできない。
この戦いの主導権を手に入れた勝者の風格を見せていたが、
内心はどうやって、この場から離れるか、銃口のことは気づいていないのか、そればかりを考えていた。
鷲巣が和也にディバックと武器の受け渡しを要求したのも、
その場から離れた時に襲われる可能性を少しでも減らすためである。
その後の和也とのやり取りは、もはやその場の流れと自棄でしかなかった。
和也はそれを“噂通りの狂人”と評価していたが、実際は混乱と焦りの賜物であった。


精神的に落ち着いてきたのか、鷲巣は頭を整理するため、先程の和也の言葉を思い出す。

『オレの派閥はオレの権力を以って、全員脱出できるという『特別ルール』がな・・・!』

アカギも察していたが、鷲巣は今回のゲームの主催者を全員把握している。

主催者は三人。
日本最大規模の金融グループ「帝愛」の総帥、兵藤和尊。
個人資産3兆円以上を所有する「在全」の総統、在全無量。
日本有数の一大コンツェルン「誠京」の会長、蔵前仁。

彼らに共通していることは、人の命を奪うことを厭わないギャンブルを好み、
嗜虐的な趣味を持ち合わせているサディストということである。
どいつもこいつも欲望だけで正気を保っているような奴らばかりであるが、
その中でも、兵藤和尊は異質な男であった。

全員、かつて常識を逸脱したギャンブルを催した経験がある。
例えば、兵藤は人間の生死を賭けの対象とする人間競馬、
在全は死者が出てもおかしくないギャンブルばかり揃えた代打ち選手権、
蔵前は500億もの金が一瞬にて溶ける変則ルール蔵前麻雀。
その中でも、ギャンブルで苦しみ、転落していく参加者を見て、悦楽を覚える在全、
ギャンブルに敗北した人間を飼うことを娯楽とする蔵前、
彼らはビジネス以上に、ギャンブルによって、対戦相手が絶望に飲み込まれていく過程、
精神が壊れていく過程を楽しむことに重きを置いていた。

それに対して、兵藤はその残虐的な行為を観客に楽しんでもらうための演出の一つと捉えていた。
つまり、ギャンブルを目的ではなく、金を得る手段と割り切っているのである。
それ故に、兵藤は莫大な損失がもたらされようとも、決定したルールを曲げることはない。
曲げてしまえば、観客が興ざめしてしまうことを知っているからである。

――兵藤和尊はギャンブルに対しては公平な男・・・
  息子に対して例外を許可するわけがない・・・!
  だが・・・。

在全と蔵前なら、話は別である。
彼らは自分の立場が不利になると、ギャンブルに独自の変則ルールを作ったり、
相手に折り合いを頼むなど、しばしばルールを曲げる。
息子の例外を兵藤和尊が反対したとしても、
彼らであれば、『特別ルール』を勝手に作りかねない。


――そもそも、なぜ、三人で主催を行うことになったのだ?

「帝愛」も「在全」も「誠京」も、日本有数のグループ企業である。
彼らの財力から考えれば、孤島を貸しきったゲームなど、それぞれ個人で催すことぐらい可能である。
協力し合う理由は皆無である。

――息子の例外といい、三者共同のゲーム開催といい、
  その目的は・・・
  あっ・・・!

鷲巣はここである事実に気づいた。
周囲を警戒するように見渡す。
「そういえば・・・今、ワシはどこにおるんじゃ?」






和也はE-6の林の中を走っていた。
内臓を圧迫させるような闇がその場を支配する。
辺りを見渡し、鷲巣が追ってきていないことを確認すると、
和也もまた、鷲巣と同じように茂みへ身を隠した。
「ふぅ・・・」
和也は手に収まる首輪に目を向ける。
「・・・『特別ルール』なんてあるわけないだろ・・・」

和也が言った『特別ルール』は全てその場しのぎのハッタリであった。
鷲巣の予測通り、兵藤和尊はそのような例外を認める男ではなかった。
和也に求められていることは、全員殺してただ一人生き残る――優勝であった。
勿論、ほかの主催者も、そんな『特別ルール』など、考えもしていないはずである。

本来なら、このような偽りを言う必要はなかった。
あの場で、鷲巣がチェーンソーの餌食になれば、済んだ話であったのだ。
しかし、鷲巣が拳銃を手に入れたことから全てが狂い始めた。
殺生与奪の権利を鷲巣に奪われ、
和也は鷲巣の殺害からその場からの逃避へ戦略を切り替えざるを得なくなった。
それ故に、地雷を本来の10倍の個数で伝え、それを盾にすることで、
鷲巣の発砲を思い留まらせようとしたのである。

しかし、鷲巣は理性より感情を優先する狂人である。
このように脅した所で、何らかの勢いで発砲する可能性だってある。
その確率を更に下げるため、口から飛び出したのが、
『特別ルール』――和也の派閥は和也の権力を以って、全員脱出できるというハッタリであった。
和也が脱出の鍵を握っている唯一の人間と知れば、
鷲巣も含めて、生に縋る参加者は和也の殺害を躊躇する。


――まぁ、鷲巣にそれを伝えたのは銃弾を避けるためだけじゃないんだがな・・・!

和也の『特別ルール』のハッタリにはもう一つの目的があった。
その目的、それは・・・

――鷲巣巌・・・オレだけが持つ、この優位性・・・  
 ほかの参加者にも伝えてくれよ・・・!

鷲巣を情報の発信源、つまり、スピーカーにすることであった。

和也は第一回定時放送を聞く前から勘付いていた。
棄権権利申告地点であるD-4ホテルはすぐに禁止エリアになってしまうことを・・・。

帝愛は常にギャンブルの参加者への特別救済処置を準備する。
しかし、ルールが明確になっていくにつれて、それを泥沼へ変化させる。
これが帝愛のやり方である。

案の定、第一回放送後、D-4は禁止エリアに指定された。
和也はそんな帝愛の中で揉まれて生きてきたため、こうなるであろうと予測をつけていたが、
ほとんどの参加者は、黒崎のゲームのルール説明時、その場の雰囲気に呑まれ、
それに気づくことはなかっただろう。

しかし、そろそろ現れるはずである。
それに気づく者――棄権費用1億円を集めた参加者である。
この参加者はどこで申告すればいいのか、おそらく覚えてはいない。
そのため、近くに点在するギャンブルルームへ赴いて尋ねるはずである。
それに対して、黒服の回答はこうだ。

『棄権申告はD-4エリアのホテルで行ってください』

その言葉で、この参加者は絶望の淵に追いやられる・・・
もう逃げ場は存在しない・・・優勝以外助かる道はない・・・と。

そんな時、鷲巣によってばら撒かれた和也の『特別ルール』を耳にすれば、どうなるか。
和也に縋るため、自ら、和也の元に姿を現すであろう。
そして、和也はその参加者の手を取り、こう言えばよいのだ。

『脱出したければ、オレに忠誠を誓えっ・・・!』

この参加者の選択肢は一つ――和也の忠実な下僕となること。
こうして、和也の目標――『全員殺してただ一人生き残る』を
完遂させるために必要な条件でありながら、目処が立っていなかった、
“子分を増やす”という計画が形となるのである。

この計画を実行するには、鷲巣にこの情報を伝え、別れることができるかどうかが焦点だった。
そのため、和也はあえて鷲巣を“部下”に誘ったのだ。
プライドが高い鷲巣が、自分より若い者の下で働くことに嫌悪を覚え、
自らこの誘いを一蹴すると踏んで・・・。
現に鷲巣は、その選択肢を考慮すらしなかった。

和也は確かに“部下”を欲してはいるが、それは自分に忠実な“下僕”であって、
鷲巣のように自分本位で動くような人間は必要ない。
むしろ、鷲巣を“部下”に迎えてしまえば、どこかで自分の意に染まない行動を起こす可能性がある。
また、鷲巣は主催者を熟知している。
そんな鷲巣と長時間、行動を共にすれば、和也の言葉の端々から矛盾点を拾い上げ、勘付いてしまう恐れがあった。
矛盾がでない程度の情報を与えて、別れることこそ――今の状況こそが最良と言える。


後は鷲巣が持ち合わせている主催者の知識が、その足りない情報を埋めてくれるはずである。
主催者を知る鷲巣の知識が付け加わった情報――更に筋が通ったものとして生まれ変わった情報は、
アカギを含めた参加者との情報交換という形で広まっていく。
いずれ、それは生還を望む者の元へも――

――とっさの思いつきだが、悪くはない・・・さて、次は・・・。
この計画で最も重要なことは、和也が脱出の鍵を握り続けることである。
そのために行うべきことは次の二点。
一点目は死体から首輪を集め続けること。
万が一、誰かが首輪を入手し、その解除方法を見つけてしまえば、和也の存在意義がなくなるためである。
そして、もう一点・・・

「鷲巣巌に命令していたのは、
アカギ・・・赤木しげるのことか・・・」
和也はチェーンソーを握り締める。
「見つけ次第・・・消えてもらうか・・・」




【E-6/林/夜中】

【兵藤和也】
 [状態]:健康
 [道具]:チェーンソー 対人用地雷三個(一つ使用済)
     クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0~1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広)
 [所持金]:1000万円
 [思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
     子分を見つける
     死体から首輪を回収する
     鷲巣に『特別ルール』の情報を広めてもらう
     赤木しげるを殺す(首輪回収妨害の恐れがあるため)
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条、遠藤、村岡の4人と合流したいと思っております。彼らは自分に逆らえないと判断しています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。
※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。
※C-3に標の首がぶら下げられています。胴体はB-3地点の道の真ん中に放置されています。

【???/???/夜中】

【鷲巣巌】
 [状態]:疲労、膝裏にゴム弾による打撲、右腕にヒビ、肋骨にヒビ、腹部に打撲
 [道具]:防弾チョッキ 拳銃(銃口が曲がっている)
 [所持金]:0円
 [思考]:零、沢田、有賀を殺す
     平井銀二に注目
     アカギの指示で首輪を集める(やる気なし)
     和也とは組みたくない、むしろ、殺したい

※赤木しげるに、回数は有限で協力する。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※赤木しげるに100万分の借り。
※赤木しげると第二回放送の前に病院前で合流する約束をしました。
※鷲巣は、拳銃を発砲すれば暴発すると考えていますが、その結果は次の書き手さんにお任せします。
※主催者を把握しています。そのため、『特別ルール』を信じてしまっています。
※焦っていたため、今、どこにいるのか、分かっていません。現在位置は次の書き手さんにお任せします。



083:事故 投下順 085:同士
097:謝罪 時系列順 086:猛毒
073:悪戯 兵藤和也 103:同盟
068:計画 鷲巣巌 104:天の采配(前編)(後編)




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