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猛毒 ◆6lu8FNGFaw氏


「ふう…」
しづかは溜息をついた。

板倉、一条と一緒にホテルの内部に入り、隅々まで探したが、既に佐原の姿は無かった。
そこでようやく安心し、ホテルに腰を落ち着けることになった。

正面玄関入り口が見下ろせる二階の客室。
部屋の照明をつけると外から目立って仕方ないので明かりはつけていないが、
幸い正面玄関の周りには電灯が数本立ち並んでいるため、入り口の様子がよくわかる。
窓には分厚いカーテンが掛かっており、外から見ても不自然でない程度の隙間を開けてある。
しづかは、室内に設置されたベッドに腰かけたまま、その隙間からホテル入り口の見張りをしていた。

一条は着替えをしたいと言い、ロビーで別れた。
その後、板倉と共にこの客室に辿り着き、しづかの様子が落ち着いているのを確認した後、板倉も出て行った。

「次の放送まで見張りを続け、異常がないようならアンタは休んでくれ。
俺は一階のロビーで、一条と交代で入り口を見張ることにする。
もし何か異変があれば大声か大きな音で知らせる。…こんなところだな」
「ああ…わかった」
「よし。…もし何かあったら、アンタ一人でも逃げてくれ」
板倉は部屋を出るとき、しづかにそう言った。

板倉は頼れる人間…。その上頭も切れるし度胸もある。
しづかは板倉をすっかり信用していた。

静寂。こうしていると、ここが戦場であることを忘れてしまいそうだ…。
と、弛緩した気分でいると、今日一日で経験した残酷なシーンが脳裏を過ぎっていく。
(油断しちゃ駄目だっ…!油断しちゃ…!)

そう、頭では分かっているが…。だが…。
この島に着いてからずっと緊張を強いられて来たのだ。しづかは相当疲れていた。
(もう少し…次の放送を聞いたら…休めるっ…!)


板倉はホテル内部、薄暗い一階の中を歩き回っていた。
非常灯の僅かな明かりを頼りに、壁伝いに進む。足音が反響して廊下に響く。
『Staff Only』と書かれた部屋を開け、少し狭い廊下を進むと、奥の部屋のドアから僅かに明かりが漏れているのを見つけた。

ドアをノックしようとして、ふと、シャツの袖内側に仕込んでいる『ある物』を再度確認する。
先ほどしづかに預けてきた物のことについて思いを巡らす。



板倉は、しづかの元を離れるとき、『ある物』をしづかに渡していた。
「こんな物じゃあ、心許無いかもしれないが…。気休めと思って預かっていてくれ」
板倉が差し出したのは、手に収まる大きさの銀のケース。

「これって…」
しづかがケースを開けると、そこには注射器と小瓶が入っていた。
「そう、ハブの毒入り注射器だ。銃火器を持った相手だと使いにくいんだが…接近戦だと役立つかも知れないんでね…。
俺がここを離れている間、アンタに預けておく」
「…いいのか?」
「なーに、俺は一条から借りたコレがあるんでね…!」
板倉はしづかに微笑みかけ、改造エアガンを取り出して見せた。


(さて…。段取りは整っている。あとは上手くやるだけだ…。)
板倉は一呼吸置くと、ゆっくりとドアをノックした。


コン、コン。
室内にノックの音が響く。
一条は新しいシャツに着替えていた。袖のボタンを留めながらドアまで歩いていき、板倉を中に入れた。

「着替えがあって良かったな、一条さん」
「ええ…。従業員用のシャツが置いてありましてね…。新品ですが、のりが少々ききすぎている」
気さくな態度を装って話しかける板倉に、一条は形だけの笑みで答えた。

中は照明がついていて明るい。外の廊下や室内に窓がないので、明かりが外に漏れる心配がないのだ。
壁に並ぶロッカー、雑然と並んだソファやテーブルを見るに、ここは従業員用控え室らしい。

「お姫様の様子は?」
「ああ、だいぶ落ち着いている…。今、二階の21号室で休んでいる」
「そうですか…」

少しの沈黙。板倉が口を開いた。
「一条さん…。今後のことについて話をしたいんだが」
「そうですね…。今、私もそれを言おうと思っていたところです」
「なあ…一条さん…。腹を割って話し合わないか?」

一条はシャツの袖についた折れジワを伸ばしていた手を止め、正面から板倉の目を見た。
板倉は笑顔ではなく、真剣な表情で一条に視線を返す。
「アンタは俺を信用できないだろう…俺も、アンタを信用してるわけじゃない。今のところは、な」
「………」
「だが、俺はアンタと協力し合いたい。だから、情報交換がしたい」
「………」
「俺の当面の目的は仲間を集めること。それと、この殺し合いのゲームを主催した者達の『真の意図』を探ることだ」
「意図…?」
「そうだ。何のためにこのゲームが開催されているのか…?」
「………」
「俺は、この島に来る前、『王の選抜』のためだと聞かされていた」
「王…?」
「そうだ…」

板倉は在全の主催していた『ドリームキングダム』、その地で聞かされた、
『優勝者=王は在全の代打ちになる』『優勝賞金は1000億円』
『この島で決勝戦をやると聞かされていた』ことについて、手短に説明した。

「それはずいぶん…」
一条は思わずつぶやき、ハッと口を噤んだ。
「…ずいぶん…違う、か?アンタが聞かされていたことと」
「………そうですね」

一条は素直に肯定した。ここで嘘を吐いても仕方ない。後で話の辻褄が合わせられなくなるので無意味だ。
「佐原にも少し話をしたんだが、佐原も『王の選抜』に関して心当たりはないようだった」
「…優勝したら在全の代打ちだと…?そんなバカな…有り得ない」
「どうしてそう思うんだ?」
「今このゲームに関わっているのは、在全グループだけではないでしょう」
「そうだな…最初の説明があった会場での、主催側の関係者の顔ぶれを見るに、
おそらく誠京グループと…帝愛グループも…」
「…………もし『王の選抜』とやらが目的だとしたら、在全グループ以外の人間には何の関係もメリットもありません」
「……他のグループが、このゲームに関わる目的…、アンタは何か心当たりあるか?」
「………」

一条は押し黙った。どこまで話すべきか…。
帝愛グループがこんなゲームを主催する理由なら想像がつく。
このゲーム自体が一つのギャンブル…!帝愛が以前行った『人間競馬』と同じようなもの。つまり参加者は馬…!
帝愛が招いたどこぞの成金達が、誰が優勝するかを賭けているんじゃないか、と。
しかし。
(それを板倉に話せば、俺が帝愛の関係者であることがわかってしまうだろう…)

「正直、私には見当もつきません…。私はただ、自分の借金を返すために参加しただけなんです」
「借金?」
「ええ…事業に失敗して、億単位の負債を…。だから、10億と聞いて思わず飛びついてしまった。
過酷なのは覚悟していましたが、まさか、こんな殺し合いのゲームだとは…。」
一条は巧妙に虚実を織り交ぜて話した。嘘を吐く時、完全な嘘では説得力に欠けるものなのだ。
借金を抱えていること…それが億単位であること。その真実を含むことで、説明が現実味を帯びて相手に聞こえる。

「そうか…。そりゃ大変な事情があるんだな」
「役に立てなくて申し訳ありません」
「いや、そうでもない。『王の選抜』以外の…他の可能性が見えてきた。
やはり、他の参加者に話を聞いて回ること、これが必要だ。主催の意図を探るためにな…!
それで、さっきの話に戻るんだが…。俺はこれから、協力者を探そうと思っている。
一条さん、アンタは冷静だし、頭も切れるし、度胸もある。是非協力してくれないか…!」
「………」
一条は考え込んだ。
帝愛のことを伏せてしまっているため、もし自分のことを知る参加者に遭遇し、話をすれば、
今一条がした説明…理由は破綻する…!
しかし…。

「わかりました…。協力しましょう」
「おおっ…!そうか…!さすが話が分かるっ…!」
板倉は破顔した。


一条はこう考えていた。
(今は協力するフリをする…。もしくはさっさと始末する…。そのどちらか、選択肢は二つだ。
なら、今はまだ協力するフリをしていたほうがいい。そうしておいて、出来る限り利用してやる…!)
板倉は一条を信用しているようである。今のうちに、有用な情報を聞き出せるだけ聞き出す…!

「いやあ、良かった、良かった。アンタが協力者だと心強い…!」
「…というと?」
「アンタが、正当防衛で他の参加者を殺しているからさ」
「何…?」
一条は眉を寄せた。

「つまり、思い切りがいいってこと…!実際、殺す殺さないの状況になると、行動できない腰抜けだっている…!
その点、アンタはすでに証明している。もし殺し合いに乗っている人間が襲ってきても、応戦できるってことを…!」
「……なるほど。」
「だからアンタは敵に回したくないな、もしそんな事態になったらあっさり撃たれちまいそうだ…!」
「は…?」
一条は冷めた目で板倉を一瞥した。板倉は笑みを以って一条に視線を返す。

「いやいや…!つまり、俺がアンタを敵に回したら何のメリットもないって意味さ…!
精神論や、『信じてる』なんて曖昧な言葉より、こういう理屈のほうがよっぽど信頼できるだろう…?」
「……まあ、そうだな。」

板倉は内心ほくそ笑んだ。一条の言葉の変化…!敬語がタメ口に変化…!
つまり…一条は心を開きつつある…。その上で優越感…。
お前はできる人間だ、と言われて溜飲が下がったのだろう。

「いやあ、本当に良かった…」
つぶやくように言いながら、板倉は着ていた白いジャケットを脱ぎ始める。
「風が入らないからか…この部屋は少し暑いな…」
ジャケットを脱ぎ、左手にかける。

「さて…そろそろここを出るか。我らのお姫様が二階で待ってる、行こう」
「ちょっと…待ってくれないか」
板倉がドアノブに手をかけたとき、一条が板倉を引き止めた。

「ん…?どうした、一条さん…?」
「そのジャケット…、ちょっと羽織らせてもらえないかな?」
板倉の着ていたドーメル・スキャバルのスーツ…。一条はそのブランドに密かに憧れを持っていた。

「ああ、このスーツかい…?そういやあ、さっきホテルに入る前に言ってたな…!着てみるかい…?」
板倉は笑顔でジャケットを広げ、一条に背中を向けるように促す。
一条は背中を向け、板倉が差し出すジャケットの袖に腕を通した。


そのときである。


チクッ……!


「!?」
一条は反射的に板倉の腕を振り払い、飛び退いて距離をとった。
痛みが走った首を押さえ、驚愕して後ろを振り向く。

「クックックッ………!」

板倉は笑っていた。右手には注射器が握られている。針から、中の薬液がポタ…ポタ…と滴り落ちている。
「兄さん…。このゲームの参加者にそんな無防備な背中を見せちゃあいけないな…!」

「き、貴様っ…!」
一条は腰のベルトに挿していたトカレフを抜き、板倉に構えた。
「おっと…!いいんですかい?兄さん、俺を撃ち殺しちまったら血清の在処も分からなくなるぜ…!」
板倉は、一条に銃を向けられても不敵に笑う。

「今アンタに打ったのはハブの猛毒っ…!少量でも体内に入れば毒が回って死ぬ…!
血清を注射しなければ、あと30分もしないうちに動けなくなり、数時間後には死亡者の仲間入りだぜ…!」
「なんだとっ…!!」
一条の顔から血の気が引いた。

「時間がないから簡潔に言おう。アンタ、まずその拳銃をこっちに投げてよこしな…!
その上で、いくつか聞きたいことがある…!
アンタ、『誠京』もしくは『帝愛』…どちらかのグループについて、知ってることがあるだろう…!教えろっ…詳しく…!」
「く……!」
一条は急に呼吸が苦しくなるのを実感した。顔中から汗が吹き出る。
胸が苦しい。苦しい…!苦しい…!!

「さっきはうまく誤魔化したつもりかもしれないが、俺が話を振ったとき、アンタ、明らかに何か知ってるって顔をしていた…!
そうそう…あと、伊藤開司って奴の名前にも敏感に反応してたな…!そいつについても話せ…!」
「か…カイジっ…!」

ふ、と胸に沸いてくる憎悪。殺意。
それは、毒が体に及ぼす影響よりももっと強く、どす黒い感情となって一条を支配した。


『這い上がって来いっ…!』
幻聴が聞こえる…。憎いあの男の声。

『這い上がって…倒してみろやっ…!オレを…!』


一条の中で何かが弾けた。
(そうだ…俺は…俺はこんなところで死んでたまるかっ………!
必ず復讐するんだっ…奴を…完膚無きまでに叩き潰してやるっ………!)

茫然自失、思考停止していた脳が、高速で回転を始める。
そう…確かにさっきから感じていたこの違和感……この首筋の違和感……!

「どうしたっ…!?さっさと銃をこっちに投げてよこせ…!
時間が経てば経つほど、お前の症状は悪化するだけだぞ…!」


一条は、ス、と俯いていた顔を上げた。
その顔は……残忍で凶悪な笑みを湛えていた……!

パァンッ……!
甲高い銃声が響き渡る。

「なっ…!?」
発砲する直前に感じた殺意に反応し、板倉は反射的に身を捩っていた。
しかし、弾は板倉の左肩に命中…!

「ぐっ…!」
よろけながらも、これ以上被弾せぬよう、近くにあったソファの影に走り込む…!
そして近づかれぬよう、改造エアガンを何発か一条に威嚇射撃…!
通常の何十倍もの威力をもたせている改造エアガン…当たれば骨を砕くくらいはできる代物…!
一条も、数メートル先のソファの影に身を隠したようだった。

(くそっ…!狂ったか、一条っ……!)
板倉にはそうとしか思えなかった。あの形相、笑顔…!
血清を打たなければ死ぬと伝えているのに無視して発砲…!
意味不明…理解不能…!


「………クク、ククク…カカカカッ…!」
ソファの影から、一条の高笑いが聞こえる。


(何で…何で笑っていられる…!?狂人め…!)
計画…策略の歯車が音を立てて狂い始めるのを板倉は感じていた。

板倉の思い描いていた計画はこうだった。
まず、しづかに血清の入った小瓶と注射器を持たせる。
先ほど『毒の注射器だ』と言ってしづかに渡したのは、実は血清の注射器だったのだ。
銀のケースには元々、毒用の注射器と、血清用の注射器が2本入っていたのだ。
そして、毒用の注射器は自分のシャツの袖に仕込み、一条に会いに行く。
色々な情報を話し、口八丁で何とか一条から信用を得る。

そして、先程ホテルに入る前に一条が見せた、スーツへの執着を利用…。
板倉のスーツを着てみたいと言い出した一条が、こちらに背中を見せるのを促す…。
そして、背後から一条の首に注射器で毒を注ぎ込む…!

ここまでは予定通り…!獲物はあっさり釣り針に食いついた…!

問題はその後…!
一条はトカレフを手放し、こちらの聞きたい情報を洗いざらい話し、血清をくれと懇願するはずだった。
懇願してきたら、こう言う手筈になっていた。
『血清はしづかが持っている』

かくして、一条はしづかのいる21号室へと走り、自分は後を追いかけ、
しづかの部屋にたどり着いた一条がしづかを襲う直前に、トカレフで一条を撃ち殺す。
しづかの知らないところで殺せば、しづかは板倉に不信感を抱くだろう。
だが、『トチ狂った一条からしづかの命を守る』という名目なら何の不自然もない…!

板倉は、一条を排除したかったのだ。
一条は不気味…!
そして、確実に自分と同じ思考…『邪魔になったら排除する』という考えを持っていた。
似た物同士…板倉は直感で感じ取っていた。
だから、一条から情報を引き出した後、始末しようと考えた。一条が、板倉を始末しようと思う前に。
仕掛けられる前に仕掛ける…!狩られる前に狩るっ…!

そして作戦を練り、実行に移した。
…だが。

分からない…。一条の発砲…行動の理由がさっぱり…!
(何故だ…!何故…!?)

板倉は大声で一条に問いかけた。
「一条っ…!お前…命が惜しくないのかっ…!?」
「………ひとつ、ためになることを教えてあげましょうか、板倉さん…」

一条が、凍りつくような冷たい声で返してきた。
「私は、『痛めつける』のは趣味なんですが、『痛めつけられる』のは趣味じゃないんでね…」
「はあ…!?何言ってる…!気でも違ったか…!」
「ハブの猛毒は、『出血毒』と言って…噛まれたところから組織を破壊していく毒なんですよ…!」
「…それがどうしたっ…!」
「アホタレっ…!まだわからんのかっ…!貴様のミス…致命的なミスが…!」
「なんだと…?」

「ハブの猛毒は…噛まれたところから内出血を起こして猛烈に腫れてくるんだっ…!
痛みも尋常じゃないっ…少量の毒でだっ…!
簡単なこと…!今の俺にはその症状はない…!つまり…アンタが打った毒はハブの猛毒ではありえない…!
じゃあ、何の毒か…?『ハブの毒』なんて嘘つかなきゃいけないくらいだ、大した毒じゃないっ…!
今の俺の発汗、息苦しさ…。おそらく神経毒の何かだが…」
「……くっ…!」

(くそ…!迂闊だった…!)
板倉の持っていた毒は、オブトサソリの毒…。説明書の注意書きにはこう書かれていた。
『子供なら絶命する可能性もあるが、大人の体型なら死ぬことはない』
大量に注入できれば別だったかもしれないが…。一条の体内に入ったのは少量…!

(それじゃあ脅しにならない…!)
そこで、『ハブ』と偽っていたのだ。毒について詳しくない者でも、聞けば縮み上がるであろうその名前…!
板倉は博識ではあるが、毒は専門外…!ハブの猛毒について確かな知識を持っていなかったのだ。
そして、一条が毒について詳しいことも誤算であった。

「ところで…今、貴様のほうがよっぽどピンチだってこと、認識してるのかな…?」
一条の声に、板倉は思わず眉を寄せた。
「何…?」

「貴様こそ、死ぬことになるっ…!俺の撃った弾丸…その肩の傷が致命傷になってな…!」
「バカなっ…!肩を撃たれたくらいで死ぬかっ…!」
「教えてやろう…!俺も毒を盛っていたんだっ…!
今俺が撃った弾丸にあらかじめ毒を塗っておいた…!ざまあみろっ…!」
「な…」

板倉は一条のデイバックの中身を見たのだ。毒薬なんて…それらしいものはなかった…!
「ハッタリだっ…!苦し紛れに嘘を吐くなっ…!」
「クク…わからんのか…!俺の所持していた支給品…その中の『タバコ』が、
実はトリカブトの毒が塗ってあるタバコだった、と…!」
「な…なにいっ…!?」

トリカブト…!
毒の知識に疎い者でも知っている。植物系の毒…微量で死に至る猛毒…!

「古来から、矢尻に塗って狩猟に使われていた毒だ…!
微量でも体内に入れば、神経に作用し、不整脈や昏睡状態から心停止に至るっ…!」
「ぐっ……!」

一条は、先ほど別行動をとって一人になったとき、この部屋で着替える前に、トカレフの中の弾丸に、
タバコの口にくわえる部分をこすりつけ、塗りつけておいたのだった。
トリカブトを精製、抽出した高純度の毒を…!
タバコに付着した毒については、船井を殺して支給品ごと奪ったときに、説明書にも目を通していてよく理解していた。
それがこんなに早く役立つとは…!

実際、そのタバコに軽く口をつけただけで死ぬような猛毒である。
ごく微量だとしても、体内に入ったらただでは済まない。


板倉の体が揺れた。眩暈。目の前が霞む。息苦しい。
(ど…毒が…毒が効いてきたのか…!?)

「取引だっ…!俺は解毒剤を持っている。アンタの持っている血清と交換っ…!
言えっ…!血清はどこだっ…!」
「…ぐっ…!」

(背に腹は変えられねえっ…!)
意識が朦朧としてきた。悩んでいる暇はない。

「血清は…し…しづかに預けてある…!さあ、解毒剤を渡せっ…!
でないとお前がこの部屋から出る前に撃つっ…!どうせ死ぬなら…お前にも大怪我を負わせてやる…!」
板倉は渾身の力で叫んだ。

「いいだろう…!受け取れ…!」
一条が小さな箱を投げて寄越した。板倉は小さな箱に縋り付き、震える手で箱を開けた。
中にはマッチが入っている。箱をひっくり返して探してみたが、解毒剤らしき薬は見当たらない。
「な…何だこれはっ…!?どこが解毒剤なんだっ…!」

震える声で叫んだとき………部屋のドアが閉まる音が響いた。
「しまっ……………!」


一条は一階の廊下を疾走していた。
激しい動きをすれば毒が回る…しかし、今はそんな事は言ってられない…!
毒が回ったまま放置しておけば、致命的な後遺症が残るやも知れぬ…!一刻も早く血清を打たなければ…!!

先程の発砲音をしづかが聞きつけているかも知れぬ。下手したら逃げられてしまうかも知れぬ。
そうしたらやっかいな事になる…!
焦燥…!混乱…!押しつぶされそうな緊張感…!!
一条は階段を駆け上った。どこだ…21号室はっ………!!


一条が一階の部屋を飛び出す数分前。
静寂の中、聞こえた僅かな音。

(発砲音…?)
その後、また別の金属音が微かに…数回。


胸騒ぎ。


しづかは窓から目を離した。
(何かが起きている…?)

部屋を出るのは却って危険かも知れない。だが…
(いや…板倉や一条が危険な目に遭ってるかも知れないんだ…!)

しづかは、ゆっくりとドアを開け、廊下の様子を伺った。廊下は薄暗く、ひんやりとしている。
(行こうっ…!様子を見に……!)


その時、板倉が部屋を出る直前に言った言葉を思い出す。
『もし何かあったら、アンタ一人でも逃げてくれ』

(うっ………………!)

今日の出来事。何度も目の当たりにした、『死』という現実。
それが、しづかの心を引き止めた。



(どうする…?行くのか?逃げるのか………?)



(クッ………。しくじっちまった……。)
朦朧とした意識の中、床に蹲ったまま、板倉はぼんやり零のことを考えていた。
あいつなら…きっとこのゲームの中でも……。

板倉は零を買っていた。
運や実力、カリスマ性は、標のほうが勝っているかも知れない。
標は死んでしまったが…。
だが……。

何か…零には特別に熱いものを感じる…。まだ未熟だが…。
強さを…。
魔女の館で見せた…諦めない…しぶとさ…粘り強さを…。

(フフ…。お先に抜けますぜ…。だが、アンタはこっち来ちゃあ駄目ですぜ…!
アンタには勝ってもらわないと……最後まで………)

板倉の意識は、ゆっくりと闇に落ちていった。



【F-6/ホテル内/夜中】

【一条】
 [状態]:焦燥 毒による呼吸の乱れ、発汗
     (死に至る毒ではありませんが、血清を打って治療しないと後遺症が残る可能性があります)
 [道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ)、毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト)、スタンガン、包帯
     不明支給品0~1(本人確認済み) 通常支給品×4
 [所持金]:4000万円
 [思考]:一刻も早く血清を打ちたい しづかのいる部屋へ急ぐ
     カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
     復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者を殺す 
     復讐の為に利用できそうな人物は利用する
     佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
※しづかは復讐の為に利用できる駒としか見ていません
※デイバッグ、支給品は一時的に一階の従業員用控え室に置いたままになっています。
※トカレフは所持しています。

【しづか】
 [状態]:首元に切り傷(止血済み)  健康
 [道具]:不明支給品0~2(確認済み、武器ではない) 注射器(中にオブトサソリの毒の血清) 通常支給品×2
 [所持金]:2000万円
 [思考]:階下の様子を見に行くか、逃げるか迷う ゲームの主催者に対して激怒
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています
※板倉と一条を信用していますが、自分がしっかりしなければとも考えています
※和也に対して恐怖心を抱いています
※板倉から預かった注射器に入っているのはハブの毒だと思っています

※板倉の支給品の入ったデイバッグ(通常支給品、1000万円のチップ、不明支給品0~2)は、二階の21号室に置いたままです。
※改造エアガン、マッチが一階の従業員用控え室に落ちています。

【板倉 死亡】
【残り 27人】





085:同士 投下順 087:関係
084:帝図(前編)(後編) 時系列順 091:渇望
069:姫と双子の紳士 一条 091:渇望
069:姫と双子の紳士 しづか 091:渇望




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