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希望への標(前編) ◆uBMOCQkEHY氏


「涯君っ・・・・!」
涯と女性は対峙していた。
矢を握り締めている女性に対して、拳を構える涯。
二人の間に何があったのかは分からない。
しかし、明らかに険悪な状況にあったことを察することができた。

「赤松・・・!」
涯が赤松に気をとられた瞬間だった。
ここぞとばかりに、沙織は自分のディバックに飛びついた。
そこからボウガンの本体を取り出し、矢を装着する。
ボウガンの標準は涯へ向けられる。
「来ないで!これ以上来れば、この子を撃つわよっ!」
「なっ・・・!」
赤松はその場で動きを止めた。

「ちっ・・・!」
涯は舌打ちした。
――逃げるタイミングを失ったっ・・・!
涯は赤松をにらみつけた。
――この疫病神が・・・!

「なぜ、その子を・・・涯君を狙う!君に何をしたというんだ・・・!」
「うるさいっ!黙って!」
赤松の言葉を遮り、沙織は叫ぶ。
その様子から、沙織の精神状態はかなり不安定であることがうかがい知れた。
赤松は沙織の精神を落ち着かせるように、穏やかな声色で語りかける。
「涯君は・・・私にとって、必要な存在なんだ・・・
涯君を解放してほしい・・・
代わりに、私を好きにしていい・・・だから・・・」

「嫌よっ!」
沙織は悲鳴のような声を上げ、赤松を拒む。
「そう言って、近づいて私を殺すんでしょっ!
この子さえ消えれば・・・あと、1700万貯まれば・・・
私、脱出できるのよっ!」

「・・・ということは・・・8300万も・・・」
――こんな女性が、12時間も経たない内にかき集めるなんて・・・。
  そんな方法と言ったら・・・。

「クスっ・・・大金でしょ・・・」
沙織は自嘲的な笑いを浮かべる。

――しまった・・・!
赤松は自分の口をふさいだ。
自分の言葉が、沙織の琴線に触れてしまったことに勘付いた。
しかし、後悔した所で手遅れである。
沙織から憎悪の感情が浮かび上がっていた。

「そうよっ!人を殺したわよっ!
でも、こうしなくっちゃ、私、生きられなかったのよっ!」
涯へ標準を向けていたボウガンを握る手に力が篭る。
沙織は引き金に指を置いた。

「なっ・・・!」
涯に緊張が走る。
沙織と涯の距離はだいたい5メートル程。
避けることが難しい至近距離である。
涯はとっさに顔を守るように腕を構えた。

「やめろっ!」
赤松は感情のままに、沙織の元へ駆け出した。

「嫌っ!」
防衛本能だった。
ボウガンの標準は涯から赤松へ移った。
引き金が動く。

バシュッ!

瞬き程度の時間だった。
赤松の左腕の皮膚と筋肉が弾け、血が噴き出した。
矢が腕を抉ったのだ。

「うぐあぁぁっ!」
赤松の体のバランスが崩れた。
言葉を忘れてしまうほどの激痛が腕に集中する。
赤松は赤く染まる腕を押さえた。
苦痛に耐えることが今の赤松の全てと言ってよい。
しかし、それに逆らうように、赤松の意識とは別の声が聞こえてくる。

『もし、十に一つの時は・・・宇海零・・・
彼に、僕と一緒に見たことを話してみて・・・きっと彼なら分かるはず』

『オレが涯をケモノにしてしまったっ・・・!涯から人間を奪ってしまったっ・・・!』

――標君・・・零君・・・。

赤松は呼吸を整えると、背筋を伸ばして沙織を正視する。
「涯君を・・・解放してくれないか・・・」

「なっ・・・!」
――こんなに早く回復するなんて・・・。
沙織は新しい矢を探すため、周囲を見回した。
その行動はまさに隙であった。

「させない・・・」
囁くような声が耳に飛び込んできた。
沙織は思わず、その方向へ振り返る。
涯が目の前にいた。
涯は沙織の手の中にあったボウガンを蹴り飛ばした。

ガツンという音と共に、ボウガンが宙に舞う。
沙織がそれを確認したのは一瞬でしかなかった。
体に激痛が走る。
次の瞬間、視界に飛び込んできたのは地面だった。
「えっ・・・」
沙織は悟った。
自分が涯によって、地面に叩きつけられ、押さえられていることに・・・。

「離してっ!」
身動きを取りたくとも、涯の重みで暴れることもできない。
赤松が血の流れ続ける腕を押さえながら、近づいてきた。

「嫌ぁ!来ないでっ!」
沙織は顔を背ける。
しかし、赤松はそれでも歩みを止めない。
沙織の顔に赤松の影が被る。
沙織は目をぎゅっと瞑った。
赤松の手が沙織の手に触れる。
――殺されるっ・・・!

「これ・・・棄権費用の足しにしてください・・・
後の700万円は・・・何とかしますから・・・」
穏やかな声と共に、沙織の手に何かが握られる。

「え・・・」
沙織は目を開け、手の中にある物を見つめた。
それは1000万円分のチップであった。
「なんで・・・」
沙織の問いに、赤松は柔和な笑みで答える。
「人が攻撃するのには何かしらの理由が存在する・・・
今、あなたはそういう状況下にあった・・・それが分かった・・・から・・・」

ここまで言いかけた所で、赤松はうめき声を発しながら、腕を押さえる。

「赤松・・・!」
涯は赤松を支えようとする素振りを見せるも、すぐに動きを止める。
赤松に近づこうとすれば、当然、沙織から離れざるを得ない。

「涯君・・・」
赤松はその涯の気持ちを察したのか、涯に声をかける。
「私を助けてくれて・・・ありがとう・・・嬉しかった・・・」
「それが・・・最善だった・・・」
涯は思わず、赤松から視線を逸らす。
「なぜ・・・オレを庇った・・・」
赤松は涯と同じ視線になるように、身を屈める。
「約束したんだ・・・零君と・・・君と再会させるって・・・
零君は君に謝りたがっていた・・・
彼の心は深く沈んでいて、私の言葉では届かない・・・
君の言葉が・・・いや・・・君が必要だったから・・・」

「零・・・」
涯の脳裏に零との会話が蘇る。
「オレは零には会えない・・・」
「涯君・・・」
赤松は涯を覗き込む。
涯から言葉がいつのまにか溢れていた。
「零は・・・オレに期待していた・・・
主催者に立ち向かう話を聞いた時・・・力になりたいと思った・・・
オレはそれまで、誰かから期待をされることはなかった・・・
それで構わないと思った・・・
だが、零に期待され、それに応えたいと思ったとき・・・
初めて・・・人を殺したことへの罪悪感が生まれた・・・」
涯は自嘲の笑いを浮かべる。
「オレにもこんな感情があったなんてな・・・
人を殺したのは成り行き・・・当然だと自分に言い聞かせた所で・・・
罪悪感が・・・オレに罵声を浴びせる・・・ケモノであると断言する・・・」

ここまで話した所で、涯は悟る。
この男に嫌悪感を覚えていたのは、この男と一緒にいる時、心を晒さらしてしまう状況が多かったからであると・・・。
それまで涯は他人の視線、感情に振り回されないようにする為に、孤立という防壁で自分を守っていた。
しかし、このゲームでは、様々な感情が露出し、傷つけられ、その傷を見せ付けられる。
気づくと、涯の防壁も簡単に崩されてしまっていた。

「多分・・・もう一人の自分が自分の行為を責めている・・・ということだよね・・・」
赤松の言葉に、涯ははっと顔を上げる。
零に全てを知られた時、自分を責めるもう一人の自分の存在を思い出した。
「そういう自分はどんなに説明しても、すぐに反論してくる・・・
しかし、人間はそうやって、善悪のバランスを保つ・・・
それは君が人間である証拠だ・・・君はケモノじゃない・・・」
「ケモノ・・・じゃない・・・」
涯は赤松の言葉を反芻する。
赤松は話を続ける。
「このゲームは殺し合いを求めている・・・
だからこそ、私は最終手段として、人を殺めてしまうという行為を否定はできない・・・
ただ、その声があったから・・・
君がその声に耳を傾けていてくれたから“人間として”どうすればいいのか模索することができた・・・
それはこのゲームにおいて誇れることだ・・・
お願いがあるんだ・・・もう一人の自分に伝えてくれないか・・・
殺人を思いとどまらせてくれて・・・ありがとうって・・・」

「赤松・・・」
赤松達から逃亡する間、心にあったのは、自分はケモノである、もはや人間じゃないと
自分自身を否定し続ける言葉であった。
その声を押さえ込もうとすればするほど、それはさらに鋭利なナイフとなって、涯の心を突き刺していた。
憎悪の塊のようなもう一人の声とそれで弱っていく自分。
赤松の言葉は、その両方を肯定するものであった。
初めて、もう一人の自分を受け入れることができたような気がした。


沙織も赤松の言葉を黙って聞いていた。
沙織もまた、誰かを殺さなくては生きていけないという覚悟と人を殺したくないという本音の間で葛藤していた。
赤松の言葉は涯に向けられていたものだが、自分に対しても語りかけられているような気がしてならなかった。
沙織に小さな変化が現れていた。
「ねぇ・・・応急処置させて・・・」

涯が叫ぶ。
「この女は危険だ・・・!」
今までの沙織の行動を考えれば当然である。
「それは・・・」
赤松は口ごもる。
涯の考えには同意する部分もあった。
このまま、彼女を縛り上げるべきではないかということも考えてはいた。
――だが・・・。
赤松には、それとは別の感情も存在していた。
赤松は首を横に振った。
「私は・・・彼女の言葉を信じたい・・・」
涯はしばし呆然とするも、“この女が暴れだしたら、アンタ一人で何とかしろ・・・”と悪態を吐き、沙織を解放した。

沙織は起き上がると、赤松の腕の傷を確認する。
「傷が深い・・・まずは止血が優先ね・・・
腕に何重にも巻けるくらいの布・・・包帯とかネクタイとかあるかしら・・・
それと、固い棒のようなもの・・・スパナとか・・・」
「私はそういうものは・・・」
すると、涯は無言で自身の薄手のシャツと支給品であるフォークを差し出した。
沙織はそれを受け取ると、シャツを5cm幅に畳み、腕の傷より上の部分に巻いていく。

今、沙織が行っている応急処置は“止血帯法”と呼ばれるもので、上肢や下肢の傷が大きい時に有効とされている。
包帯などを傷口より心臓に近い部分に固く二重に巻いて半結びにし、
次いで、固い棒を結び目の下に差し込み、出血が止まるまで、包帯を締め上げる。
すると、まったく血液が流れなくなる。
後は、30分に1回のペースで緩めれば、血液の循環を維持しながら、不必要な出血を抑えることができるのだ。

赤松は沙織の慣れた手つきを見て察した。
「もしかして・・・医療系に携わっているのか・・・看護師とか・・・」
沙織は苦笑を浮かべる。
「正しく言うと、“携わっていた”・・・というべきかしら・・・」

沙織は少しずつ自分の過去を話し始めた。
沙織は内藤病院に勤めていたが、ある不正を犯し、自主退職という形でクビになった。
職と社会的地位を失い、路頭に迷っていた彼女に救いの手を差し伸べたのが、今回のゲームの誘いである。
「馬鹿みたいでしょ・・・甘い話なんてある訳がないのに・・・信じちゃって・・・」
沙織は赤松の腕に巻いているシャツの端をぎゅっと握る。
その手は心から湧き上がる慟哭を押さえているかのように震えていた。
「田中さん・・・」
赤松はそれを直視することができず、思わず目を逸らしてしまった。
――話の流れを変えなくては・・・。

「あの・・・残りの700万はどうやって集めるかだが・・・
亡くなった方の所持品からとか・・・ギャンブルとか・・・」
殺人という選択だけはしたくない。
赤松が考えを巡らせていたその時だった。
「なぁ、赤松・・・アンタはこれから・・・どうするつもりなんだ?」
赤松は涯の方を振り向く。
涯は研ぎ澄まされた刀剣のような鋭い瞳で赤松を見下ろしていた。
涯の真剣な眼差しに、思わず息を呑む。
「私はこのゲームの穴を見つけ、ゲームそのものを潰したい・・・
標君が向かおうとしていた道を進みたいんだ・・・」
「そうか・・・」
涯はそれだけ呟くと、沙織に1000万円分のチップを差し出した。

「これでアンタの棄権費用は揃った・・・脱出しろ・・・」
沙織は呆然と涯を見つめるも、ハッと我に返り尋ねる。
「待って!1000万も・・・多すぎるわっ!
それにあなたはどうするのっ!」
「確かゲームが終了した時、所持金はそのまま、自分の金となるルールだったはず・・・
その300万を元手に、生活を手に入れろ・・・それに・・・」
涯は立ち上がり、来た道を見つめた。
「オレはこの島でやることを見つけた・・・棄権費用は必要ない・・・」

「涯君・・・まさかっ・・・!」
赤松に新しい光が見えてきたような喜びの震えがこみ上げてきた。
しかし、涯はそれを否定するかのように、そっぽを向く。
「誤解するな・・・アンタのためじゃない・・・
こんな馬鹿なゲームを考えた主催者をぶっ飛ばしたいだけだ・・・
そのために、零やアンタに協力する・・・それだけだ・・・」
赤松はその意外な言葉にあっけに取られるも、苦笑を浮かべてそれに答える。
「構わないよ・・・それで・・・」

「ねえ・・・本当に主催者に立ち向かうの?」
二人は沙織を見つめる。
沙織は2000万円のチップを握り締めながら、塞ぎこんだ表情で呟く。
「こんなゲームを主催できる連中よ・・・!
どうせ、向かっていっても、姿を見ることすらできない・・・!」
金と権力を手に入れた者は、指先一つで弱者を潰してしまう。
沙織はそのことを神威家の一件で理解していた。
多数の死者が発生した惨劇であったというのに、全ての罪を勝広と邦男に押しつけ、
事実を闇に葬り去ってしまったのだ。
その主催者を倒そうという行為は、まさに神に刃を向けるに等しい――不可能といって良かった。

赤松の口が開いた。
「このゲームに参加している者は誰しもそう考える・・・
私もそういう考えを持っていた時期があった・・・
けどね、田中さん・・・」
赤松は深呼吸をするかのように顔を上げ、星が広がる夜空を眺める。
「私と共にいた標君という少年は、最後までその主催者と戦おうとしていた・・・
小さな体で、頭を全力で働かせて・・・
そんな小さな子供が戦っていたのに・・・
大人がそれは無理だと否定するのは、まだ、早いんじゃないかな・・・」

――この人はきっと最後まで生きることができない・・・。
沙織はそんな予感を覚えたが、あえて黙っていた。
「ごめんなさい・・・私はやっぱり主催者に立ち向かえない・・・」
沙織は立ち上がり、自分のディバックとまだ使えそうなボウガンの矢を拾う。
赤松に少しの間、休んでいた方がよいと忠告し、アトラクションゾーンのある方向を見つめた。
その目線の先には木々の間からギャンブルルームの上部が見えていた。
「私・・・ギャンブルルームへ行くわ・・・棄権申請を行うために・・・」

赤松は“少し待っていてください”と呼び止めると、ディバックから手榴弾をひとつ取り出し、沙織に手渡した。
「もしかしたら、誰かが襲ってくる可能性もある・・・
それに、今のあなたなら、正しい使い道をしてくれるはず・・・」

――どこまでも優しいのね・・・。
沙織はそれを握り締め、何かを躊躇っているかのように口を震わす。
「どうかしましたか・・・」
沙織は赤松に背を向けた。
「伊藤カイジ君に会って・・・彼もあなたと同じ考えだから・・・」
「伊藤・・・カイジ・・・」
――村岡と利根川が口にしていた参加者の名前・・・。

「赤松さん・・・ありがとう・・・」
沙織はそれだけを呟くと、アトラクションゾーンへ駆け出した。
赤松と涯はその背中を見つめ続けていた。





――やっと・・・解放される・・・私、自由になる・・・!
沙織は駆けながら、重たい緊張、汚れが体から吹き飛んでいくような感覚を覚えていた。
赤松とカイジの顔が頭によぎる。
――大変かもしれないけど・・・あの意志の強さなら・・・。
ゲームの泥沼に埋まっていた時は、不安から赤松やカイジの計画を否定し続けてきたが、
今は二人の安否を気遣い、その計画の成功を素直に祈っていた。
それほど、今の彼女は本来の優しさを取り戻していた。
沙織の顔から女性らしい笑みがこぼれる。
林を抜け、舗装された広場が目の前に現れた。
沙織は立ち止まると、呼吸を整えた。
「着いた・・・!」
そこにはギャンブルルームが建っていた。
C-3にあるギャンブルルームは赤松達が居た所から走って五分ほどの場所――アトラクションゾーン入り口にある。
沙織は周囲に人がいないことを確認すると、その中へ足を踏み入れた。

ギャンブルルーム内は映画のワンシーンに出てきそうな
高価な調度品が配置された重々しい雰囲気が漂っていた。
沙織の元にさっそく黒服が近づく。
「申請に来たの・・・ゲームからの棄権のための・・・」
「すまないが・・・ここではできない・・・」
「どういうこと・・・?」
沙織は眉をひそめる。
ギャンブルルームは主催者に直結する施設である。
ここで申請すれば必ず脱出できると、沙織は先入観からそう判断していた。
それだけに黒服の言葉は理解できないものがあった。
黒服は手を差し出す。
「くっ・・・」
黒服の要求は分かっている。情報料である。
今後の生活を考えれば、一円も失いたくない所だが、命には代えられない。
沙織は黒服の手にチップを一枚乗せた。
黒服は蔑むような冷笑を浮かべる。

「棄権申告はD-4エリアのホテルで行ってください」

「D-4のホテル・・・」
この直後、沙織の思考がとまる。
体から体温が奪われたかのような震え。
沙織は黒服に掴み掛かる。
「ふざけないでっ!そこって禁止エリアじゃないっ!それって、出られな・・・」
全てを言い終わる前に、黒服の平手が沙織の頬に飛ぶ。
乾いた音と共に、沙織は壁に叩きつけられた。
黒服は沙織が触れた箇所を、さも汚れがついてしまったかのように払う。
「愚か者が・・・貴様は黒崎様の説明を聞いていなかったのか・・・」

沙織は身を縮ませながら、涙を浮かべた。
積みあがっていた希望という柱が絶望という穴の中へ崩れていく。
沙織は黙ってその場を後にした。

外を出ると、夜風が沙織の頬をなでた。

『主催者の言っていることは信用するな・・・!棄権の話も嘘かもしれない・・・!』

――あなたの言った通りだったわね・・・カイジ君・・・。
涙が溢れ、頬をつたって落ちていく。
これからも沙織はゲームに立ち向かわなければならない。
しかも、先ほどの涯との戦いで、サブマシンガンウージーは弾切れ、
ボウガンは放った矢の内、2本は先端が折れており、実質8本である。
今の彼女の身を守る武器は、そのボウガンと赤松から渡された手榴弾のみだった。
――もう逃げ場はない・・・優勝以外助かる道はない・・・。

取り留めのない後悔が沙織の胸に押し寄せてくる。
これからどうしようかと、周囲を見渡したその時だった。

鼻腔に鉄の臭いがすっと入り込んだ。
――まさか・・・死体・・・?

沙織はその臭いと音の方向へ足を進める。
その先にあったのは一本の木であった。
その場からすぐにでも離れたい。
沙織の直感はそう訴えていた。
しかし、同時にある種の考えも抱えていた。
――もしかしたら・・・近くにその参加者の武器が・・・。

沙織は恐る恐るその木に近づいていく。
近づく度に、臭いが沙織の感覚を更に刺激する。
木の幹に触れたその時だった。
滴り落ちる雫が視線に入った。
沙織に冷え冷えとした緊張が走る。

――まさか・・・。

沙織は木を見上げた。
雲がゆっくり移動し、淡い月明かりが広場を照らし出す。
沙織の目に飛び込んできたものは、木に吊り下げられていた少年の首だった。

「いややぁぁ!!!」

沙織は尻餅をつくように後ろへ倒れ、手足をバタつかせ、その場から少しでも距離を置こうと這いずる。
標の死体は、沙織の予想を遥かに上回る凄惨なものであった。
幼い少年の首を平気で切断する者が、この島のどこかにいる。

――殺人鬼に・・・私、殺されちゃう・・・。

沙織の心は幻想の殺人鬼に屈していた。
心臓を潰そうと言わんばかりの早鐘が沙織に警告を呼びかける。

『生キルタメニ武器ヲ・・・』






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