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罠 ◆X7hJKGoxpY氏


赤木しげる。彼が、とあるギャンブルに参加するという。
井川ひろゆきはその名を聞いて一瞬混乱した。
死んだはずの天才。何故彼の名が出てくるのかと。
ひろゆきは彼の死に際を見ている。無論、死人が生き返るはずも無い。
詳しく問いただせば、何のことはなかった。
「彼」とは全くの別人、ただの同姓同名らしい。
しかしその名に妙な胸騒ぎを感じたひろゆきは、ギャンブルへの参加を決めた。
その内容を、知らされぬままに――


 * * *


(ぐふふっ………居たざんす……愚か者……)
男は支給品であった日本刀を、何を思ったか、バッグの中にしまった。
警戒されることを避ける為なのだろうが、あれではいざというときに使えない。
村岡にとってみれば、至極有り難い相手であった。
村岡の支給品は首輪探知器のみ――便利ではあるが、殺傷能力は無い。
彼はギャンブルで優れた武器を金もろとも巻き上げるつもりであった。
(ククク……なんて都合のいい………万が一襲われたとしても逃げることは十分可能)
最悪の場合でも安全は確保されている。
こうなれば、後はギャンブルを説得するのみ。
そう結論づけると、村岡は男に声をかけた

「ちょっといいざんすか?」
急に声をかけられた男は、こちらを向いて身構えた。
こんな状況では無理も無いだろう。
構わずに村岡は言葉を続ける。
「警戒する必要は無いざんす……ワシは村岡。あなたとやり合うつもりはありません」
「……どういうことです?」
「ええと………取り敢えず、あなたのことはどう呼べばいいざんしょ?」
「ああ……僕の名は井川ひろゆきです」
「わかりました……ではひろゆき君………早速ですが、この殺し合いをどう思うざんすか?」
いきなり本題には入らず、当たり障りの無い話題から入って、
相手の警戒心を取り除くことがまず話を進める上で必要である。
また、この話題は説得する相手を知るためにも重要な事項であった。
「………極力人を殺すつもりは無いですよ」
(き……来たっ………!最高の相手っ……!)
村岡は心の中で小躍りした。
これほど甘い人間なら搦め捕るのも容易であろう。
無論、その喜びは表情に出さず、村岡は話を続けた。
「結構ざんす……それなら話は早い………ワシとやらないざんすか……?
相手を殺さずに金を得る方法……ギャンブルを………」
「そういう話ですか………それなら勿論やります……
というか……僕はこの地でギャンブルに全てを託す気でいますから」
「そうざんすか!いや結構結構……それでギャンブルの内容ざんすが………
時間も限られていることですしシンプルにババ抜きはどうざんしょ?」

無論、村岡にはある企みがある。
当然、相手に看破されることはまず無いという自信があった。
「……それでいいですよ」
「それなら早速行くざんす……ギャンブルルームへっ………手を繋いで……」
「な……ちょっと待ってくださいっ!なんでそうなるっ!」
「知ってるざんすよ………そのバッグの中身……移動中襲われたら堪らないざんす」
「ぐっ……わかりました………」
ひろゆきは渋々承諾し、右手を差し出した。


 * * *


数分後、「ギャンブルルーム」と書かれた一室の前に二人は到着した。
ひろゆきは強引に村岡の手を振りほどく。
村岡の手汗がべたついて欝陶しい。
「ここがギャンブルルームざんすか……」
「ええ……」
ひろゆきにも、流石に緊張が走る。
自分は「彼」とは違う。天才ではないのだ。
必ず勝てるという、その自信はない。

「申し訳ない。先に入ってて準備してもらっていいざんすか?
ちょっとトイレに行ってきたいもんですから」
そう言うと、村岡は返事を待たず、ひろゆきを残してトイレへと向かった。
(これは……信頼されているとみていいのか?)
これから行うのはババ抜きという単純なゲームである。
ジョーカーの裏に目印でもつければガンカードで容易に勝てるであろう。
村岡はそれに気付いていないのであろうか。
(違う……間違いなく罠っ……)
いずれにせよ、ひろゆきには最善を尽くす他、手は無い。
ひろゆきは黒服にチップを支払い部屋へと入ると、早速置いてあったトランプを用意した。
ジョーカーの裏とダミーとして他に数枚、目立たない程度の傷をつける。
(さて……どう出てくるか………)


 * * *


ひろゆきを待たせること数分、村岡は百万円を黒服に支払い、ギャンブルルームへと入った。
「お待たせしました……」
そう言いながら村岡はトランプを手に取る。

(ぐふっ……やはりガンカード………底が浅いざんす)
まさしく予想通り。村岡は自らの勝ちを確信した。
この男に自分の罠が看破されることは無いであろう。
「さて……賭け金はどうします?」
村岡は敢えて相手に決定権を与え罠の臭いを消す。
イカサマをしているならば、通常ほぼ勝ちは確定。まず賭けられる限りは賭ける。
全額という賭け金を望むのが村岡自身である必要はないのだから、この場は相手に任せれば良いのだ。
「こんな場でチンタラやってもしょうがない……お互いが今持っている金……全額で行きましょう」
(乗ってきたざんす……だが甘い……ここは……)
「全額ざんすか!いや、確かにひろゆき君の言う通りざんす…………でもどうせなら……
お互いの支給品全てっ……!これでどうでしょう?」
この提案は、村岡からすればこれは必須条件ともいえる。
金はもとより、ひろゆきの持つ武器も当然欲しい。
無論、相手にとっても支給品は生命線。
自分の勝ちを疑っていないであろうひろゆきからしても、願ってもないことだろう。
「いいでしょう」
と、案の定あっさりとひろゆきは思惑に乗った。
後は前言を撤回される前にギャンブルを始めるのみである。
「そうざんすか!では早速…」
「待った………もう一つ僕から提案があります」
「な、何ざんすか?」
ここにきてのひろゆきの思いもよらぬ発言。
村岡はギクリとした。罠に気付かれていたのか。

「……敗者は勝者に手を出さない、という誓約書を書くようにしたい。
こんな状況ではそんな紙切れ役に立たないが……ギャンブルルームなら別です………!
ここでの結果には必ず従わなければいけないというルールがある……」
村岡はホッとした。気付かれていた訳ではなかった。
――それにしても、優れたアイディアである。
これを採用すれば少なくとも勝負後にひろゆきに襲われる心配は無くなる訳だ。
「素晴らしいざんすっ……まさに盲点っ………当然その提案、乗るざんす」
「そうですか……それなら早速………始めましょう……」

ひろゆきはカードを配り始める。
(ぐふっ…ぐふっ……ぐふふっ………やはりジョーカーはわしに配るか………
だが甘い……一分後の絶望的な顔が目に浮かぶざんす……)
「これで配り終えました……どっちが先行ですか?」
「ククク……ひろゆき君に譲るざんす」
ひろゆきはカードを一枚選択し、ペアとなったカードを捨てる。
(当然ジョーカーは避けるざんすね……ククク……)
「さて、あなたの番です……村岡さん」
「……今考えているざんす」
「ジョーカーはあなたが持っている……何を引いても同じ……考える必要は無い筈でしょう………?」
「ぐふっ……それがあるざんすよ………長考の必要っ……あと……二十分程……」
「…………」
「ぐふふっ……ぐふっ………わからないざんすか……?
ひろゆき君より後にギャンブルルームに入った意味………わしの罠……
つまり……長考を続ければ………ひろゆき君が先に時間切れ……タイムアップ………
ひろゆき君は棄権ざんす………死によって……そうなれば当然……わしの勝ち………」

村岡の罠。
それは数分遅れてギャンブルルームに入る事でひろゆきの制限時間との差を作り、
その差を利用して、ババ抜きの決着を待たずして、ひろゆきを確実に負けさせるものであった。
普通に考えれば、こちらに何かしらの目論見があると気付いたとしても、
それはギャンブル中に仕掛けてくると考えるだろう。
まさか準備中に罠を張っているとは思うまい。
「ぐふっ……ぐふふっ………ギャンブルは………お前に話しかけたその時から始まっていたざんす………
どうざんしょ………クク…………罠の味は………」
村岡は勝った、と思った。
ここまできて逆転は不可能であろう。
その筈である。
――しかし、ひろゆきは笑っていた。


 * * *


「ククク……カカッ……!苦し紛れの笑顔………最高ざんす……
でもダメっ………!どんな素敵な笑顔でも長考はやめないっ……!
長考禁止なんてルール……決めて無いから……!
ただし……わしも鬼じゃありません……途中棄権だけは……特別に認めるっ……!」
村岡には自分の優位しか見えていないのだろう。
ひろゆきにはそれが可笑しかった。
実の所この状況、ひろゆきの予想通りに事は運ばれている。
「フフフ……構わない………続行します……」


続行。
村岡からすれば予想外の言葉であろう。
これを聞いて、村岡は激昂した。
「立場をわきまえるざんす!その笑いをやめて……請えっ!許しをっ!」
「断る……そんなのっ……!逆なんですよ……立場が………」
「あ……?」
「気付いていたさ……村岡さん……あんたが僕を残してトイレにいったその時から……
あんたの罠……その目論み………だから……罠にみすみすかかる筈無いだろっ……
つまり……罠にかかったフリ………当然僕も……逆に罠をはっている………」
「……罠………まさかっ……!」
ここまで来て、村岡はようやく己が騙されたことに気付いたらしい。
構わずひろゆきは続ける。
「……気付いたか……?僕の罠………二百万払いに…………」
「ぐっ……」
そう、ひろゆきもまた村岡へと罠をはっていた。
村岡の行動の真意を読んだひろゆきは、ギャンブルルームに入る直前、
黒服に金を渡す段階で一時間分――二百万円を支払い、逆にひろゆきが時間的に優位な状況を作りだす。
そして、村岡に疑心を抱かせぬために村岡の策である、己が圧倒的有利となるイカサマを演出した。
「ククク……つまり………長考はあんたの命を削るだけ………。
……例え………あんたが長考しなくとも僕が長考するっ……!あんたが長考を正当な行為と認めたからなっ!」

結局、有利な時差を抱えているのはひろゆきであった。
罠を逆手に取られた村岡には成す術はない。
「ぐっ……ダメッ…ダメッ……認められないざんす!認められないっ!
さっきの言葉は冗談っ………!ババ抜きで決める………そう言ったざんしょ!」
村岡は叫んだ。
もはや自分で何を言っているかわかっていないのだろう。
ひろゆきは苦笑する。
「仮に認められないとしても………こっちにはガンカードがある………まず僕の負けは有り得ない…………
もっとも万が一のミスを考えれば長考しない手は無いが……」
「うっ……ううっ………認めない……………認めないざんす………」
「認めなくとも構わないさ………あんたが死ぬだけだから…………
だが……僕も鬼じゃない………途中棄権だけは認めてあげてもいいですよ……」

こうして勝負は決した。
村岡は最初の取り決め通り支給品の全てをひろゆきに渡し宣誓書を書くと、
逃げるようにギャンブルルームを去っていった。


ひろゆきは広間で見た「彼」を思い出す。
まだ二十歳前後の若者ではあったが、名前ばかりでなく、顔も、醸し出す雰囲気さえも「彼」と全く同じ。
――ひろゆきは無性にこの男と闘いたいと、そう思った。
この赤木しげると「彼」とは別人である。それはわかっている。
しかし、この男を超えることは、即ち「彼」を超えることと同じこと。
ひろゆきは直感でそう感じていた。

ひろゆきもまたギャンブルルームの戸を開ける。
彼の瞳には、保身などまるで宿ってはいない。
彼はただ、強者との更なるギャンブル、そして「彼」との闘いだけをただひたすらに目指していた――



【D-4/ホテル/真昼】
【井川ひろゆき】
 [状態]:健康
 [道具]:日本刀 首輪探知機 不明支給品0~2(確認済み) 村岡の誓約書 支給品一式×2
 [所持金]:1700万円
 [思考]:赤木しげるとギャンブルで闘う ギャンブルで脱出資金を稼ぐ 極力人は殺さない
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。

【村岡隆】
 [状態]:健康 敗北により一時的に不安定
 [道具]:なし
 [所持金]:0円
 [思考]:生還する
※村岡の誓約書を持つ井川ひろゆきを殺すことはできません。


002:勇と金 投下順 004:再び
002:勇と金 時系列順 004:再び
006:「I」の悲劇 井川ひろゆき 025:3人目のアカギ
初登場 村岡隆 030:窮鼠






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