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謝罪 ◆IWqsmdSyz2氏


(治くん・・・怒ってるのかな・・・)

石田は己の失態に深い後悔を抱きながら、
目にたまった涙を拭う。
前を歩く治の背中は、少し前とはうって変わったように見える。

先ほど自分が気付いたミスは
治、黒沢から見捨てられても仕方がないといえるレベルのものであった。

このゲームを覆すカギに成り得る支給品、
――ダイナマイトを落としてしまったのだ。
カイジのために。
このゲームを覆すために。
玉砕の覚悟を携えてここに立っているはずなのに。

解れてしまったホルダーを押さえても、
なくした五本のダイナマイトは戻ってこない。

ほんの一部、わずかな解れである。
ダイナマイトがその解れをすり抜け、足元へ転がり落ちる様子を想像すると、
一体なぜ気付くことが出来なかったのか、石田の自責に拍車がかかる。

「クソッ・・・くそ・・なんで・・・」

こんなゲームに参加していること自体が間違いだということはわかっている。
しかし、今ここに生きている以上は、自分の出来る最善を尽くさなければならないのだろう。
行動を共にしてくれている仲間たちを思えば思うほど、
消えてしまいたくなる気持ちが苦しい。

(治くん・・・黒沢さん・・・)
ダイナマイトを落としたことを打ち明けたとき、
焦る石田に、治は努めて明るい声色で答えた。

「石田さん、落ち着いてください・・・大丈夫ですから・・・!
マッチとか・・・そういうものは落としてないんでしょう?それなら・・・」

そう、ダイナマイトとて火がつかなければ火薬の詰まった円筒に過ぎない。
誰かの手にダイナマイトが渡ってしまったとしても、
火種がない状況であればほぼ問題はないのだ。
そもそも正面の視界も十分ではない夜闇の中で、
誰かが足元のダイナマイトに気付き、それを拾い上げる確率はそう高くないはずだろう。

治の冷静な励ましに、石田は大きく心救われた。
ダイナマイトと共に手に入れたライターは、
今でもまだ石田のズボンのポケットにある。

治の言うとおり、ライターがまだこちらの手の中にあるのならば
拾った相手がすぐさまダイナマイトを使用してしまう危険は少ない。
とはいえ、ダイナマイトが敵――市川のような人物の手に渡る可能性が減ったわけではない。
火種になるものを支給されている人間がどれだけいるか見当がつかないのだから、
治の言葉も気休めに過ぎないのだが。

黒沢にはダイナマイト入手の経由から説明しなければならなかったが、
それに対しての黒沢の返答も石田を責めるようなものではなく、
むしろ「よくやっちまうんだ・・・オレも・・・ドジを・・・」などと背中を叩かれ励まされたのだった。

(でも・・・)

そう、当初はそうして優しく接してくれていた二人も、
こうして歩く現在、石田に一言さえ声をかけてくる様子はない。

ダイナマイトを探すために戻るのは危険だという治の主張、
また、次の放送が近づいているということもあって
今、三人は予定通り美心の殺された別荘へ向かっている。

申し訳なさもあり、石田から話を切り出すことはなかったが、
歩きはじめて数分ごろまでは、治や黒沢と他愛のない会話があった。
それは落ち込む自分に対する二人の心遣いなのだろう、と石田は考えていたのだが――

(会話がないのは・・・仕方ない・・・!
オレがどうこう文句を言えた立場じゃないのもわかってる・・・!
でも・・・でもっ・・・・・・)

石田は再び目に溢れてくる涙に、手のひらをぎゅっと握り締めた。

(二人とも・・・明らかに機嫌悪くなっちゃったような・・・)

徐々に会話が減り、互いを気遣うような気配も消え、
今となっては、まるで他人同士であるかのよう。
そう、ただ同じ方向を目指しているだけであるかのように、
三人の男が歩いている状況だった。

(どうしよう・・・やっぱり・・・・
もう一度きちんと謝罪をしないとダメなんだっ・・・・きっと・・・・
二人は怒ってるんだ・・・!オレがダイナマイトを落としたことをっ・・・・・!)

このままじゃいけない。石田は唇をかみ締めながら考える。
黒沢はずかずかと先頭を歩いている。
彼の大きな体、大きな歩幅について歩くのは思いのほか大変だ。

移動しはじめた頃は、
黒沢も石田たちのスピードにあわせて、
何よりも周囲に注意しながら進むという意味もあって通常より緩やかな速度で歩いていたのだが、
現状、黒沢のうしろを治と石田が若干息をあげながらついて進む形になってしまっている。

治はというと黒沢とは逆に、当初に比べて随分と歩みが遅くなっていた。
石田の目には、治は歩き方自体が変わったように見える。

やはり、二人は怒っているのだ。
石田は逃げ出してしまいたくなる気持ちを抑えこんで、前方の二人に声をあげる。

「治くん・・・黒沢さんっ・・・!ごめんなさい・・・!
ほんとうに・・・すまなかったっ・・・・」

首を絞められているような、震えて情けない声色。
しかし石田は精一杯の謝罪の意を、二人に向けて投げかけたのである。

「え・・・?」

黒沢と治は立ち止まり、そして振り返る。
二人の目には、頭を深く下げた石田の姿が映った。

「あの・・・石田さん・・・・?」

「二人の優しさに甘えて・・・・なあなあになってしまっていたけどっ・・・・・
最初に謝らなければならなかったんだ・・・・!すまなかった・・・!」

「石田さん・・・わかったっ・・・!あんたの気持ちは・・・・
っていうか・・・・痛いほど・・・・わかっていたっ・・・・!オレにはあんたの気分・・・!」

「そ・・・・そうですよ・・・・石田さん・・・・頭、あげて・・・」

「あれ・・・・?」

予想とは違う二人の反応に、石田は素っ頓狂な声で答える。

「許して・・・・くれるのかい・・・・?」

「いや・・・許すもなにも・・・怒ってない・・・ですよ・・・・・」

ねぇ、と顔を見合わせる治と黒沢。
石田は三度溢れる涙を抑えることに懸命になりながら、
そうだったのか、と胸を撫で下ろした。

「だって・・・・黒沢さん・・・・速くなったし・・・・」

「あ・・・?」

「だんだん速くなってったから・・・歩くスピードが・・・!」

「そりゃあ・・・・すまん・・・!気付かんかった・・・!
いや・・・早く着きたくって・・・・」

黒沢は口ごもりながら石田に伝える。

「早く・・・?何かあるんですか・・・・?」

放送まで時間があることを確認しながら、石田は黒沢に尋ねた。

「そりゃ・・・まぁ・・・・」

美心さんの件もあることだし、触れないほうがよいのだろうか。
石田がそう判断した瞬間、黒沢の方から地鳴りのような音が響いてくる。

「ぐっ・・・!静まれ・・・オレの空腹っ・・・・・!」

黒沢は目をぎゅっと瞑りながら顔を僅かに赤らめる。

「ああ・・・!ハハ・・・」

言われてみれば、オレもお腹すいたなぁ、と石田は笑った。
黒沢が歩度を速めたのは、一刻も早く空腹を満たしたいがためだったのだろう。

怒っているのではないか、という考えは、
石田の不安な気持ちが導き出した幻想に過ぎなかったのだ。

「あ・・・!でも・・・治くんはっ・・・」

ここまで長時間行動を共にしてきて、石田はわかっていた。
治は、人を思いやる、気遣う、といった気持ちをちゃんと持ち合わせている。
だから移動中は後ろに気を配らなければならない、というのは傲慢だろうが
しかし、石田が治の背中に違和感を覚えたのは事実である。

きちんと目を合わせる勇気も振り絞らなければ出ない石田であったが、
治の真意を尋ねるべく、顔を上げて窺う。

「い、石田さん・・・」

石田への返答をするべく、口を開きかけた治だったが、
それが成るよりも先に治の体はバランスを大きく崩し、倒れた。

「どっ・・・どうしたんだいっ・・・!治くんっ・・・!!」

突然のことに目を見開く石田、駆け寄る黒沢。

「治くんっ・・・!治くんっ・・・・・!」

間近で見れば明らかに蒼白な治の顔色に、石田は息を呑む。
意識はあるようで、石田の呼びかけに手を動かして答えながら、
治はしばらくの間荒い呼吸を整えるように、肩を揺らしていた。

「く、黒沢さんっ・・・!治くんが・・・!治くんがっ・・・」

「ああっ・・・ああああっ・・・・!」

黒沢も慌てたようすで、治の体を抱き起こした。

「大丈夫かいっ・・・?!」

治の様子がおかしかったのは、簡単な理由だった。
怒っていたのではない。体調が悪かったのだ。

(思いやりだとかなんだとか・・・・一番欠けてたのはオレじゃないかっ・・・・!)

石田は己を叱責する。
二人が怒っているんじゃないか?なんだそれはっ・・・!
オレの勘違いだった・・・!自分勝手すぎた・・・オレがっ・・・・!
何よりオレが・・・!
二人から嫌われたくない・・・怒られたくないっ・・・
そういう気持ちばかりを持っていて・・・だから気付くことができなかった・・・!

「気付けなくてごめんっ・・・・!治くん・・・・!ごめんねっ・・・」

ぐったりした様子の治に、涙まじりの声で謝罪する。

「なんでこんな突然・・・・」

黒沢の呟くような一言に、石田も同意する。

「そうだよっ・・・!ちょっと前までは何ともなかったのにどうして・・・!
ずっと一緒にいたけど・・・何もなかったんだ・・・!
誰かから攻撃されたり・・・ケガすることもなくって・・・・!」

「じゃあ・・・持病とかあるんじゃ・・・」

今度は治が首を横に振って答えた。
細い声を絞り出すようにして、治は言う。

「黒沢さんと・・・会ったくらいの頃から・・・
だんだん頭痛と吐き気が・・・・・してきて・・・・・・徐々に強くなって・・・・」

「原因は・・・?」

「わからない・・・です・・・・・頭が・・・・ぐらぐら・・・」

「ぐらぐら?」

治の額に手を当て熱を測ったり、治の落とした拡声器を拾ったりしている石田の横で、
黒沢が治の言葉に反応し、問い返す。

「ぐらぐらすんのか?」

首肯で答える治。
続けて黒沢は質問する。


「もしかして・・・・頭打ったりとか・・・したか・・・・?」

「いや・・・・・治くんとはずっと一緒にいるけどそういうことは・・・」

石田が答えるのと同時に、治の脳裏に、ある一場面が浮かぶ。

――二つのデイパックを持つ自分。
ギャンブルルームから一歩踏み出したその直後、視界が大きく揺れた。
遠くなる世界。目の前が真っ暗になる。
そして・・・
(オレ・・・は・・・殺されるのか・・・?)
霞みがかった意識の中で、耳に聞こえるのは怒号と金属音。
死にたくない。まだ・・・オレは・・・。
「聞こえるか・・・?」
優しくオレを気遣う声。赤の他人を、本気で案じている、声色。


「治くん・・・なんでこんなことにっ・・・」

薄く瞼を開けると、涙でぐちゃぐちゃの顔をした石田の姿が、治を出迎える。

(天さん・・・石田さん・・・・黒沢さんっ・・・・)

出会ったばかりの相手を、こんなにも、
こんなにも真剣に思える人間が、そう多くいるものか。
治の目にも、じわりと涙が溢れてくる。

「あぁっ・・・・治くんっ・・・!痛いのかいっ・・・」

「大丈夫かっ・・・!」

「はい・・・だいじょう・・ぶです・・・。
ありがとう・・・ありがとうございます・・・」

「治くん・・・」

「オレ・・・・あたま・・・・打ってる・・・んです。
この島に来て・・・・・すぐ・・・・石田・・・さんと・・・会う前・・・」

「そうだったのかいっ・・・」

震える声で、石田が言う。
黒沢は神妙な面持ちで、しかし合点がいった、と言いたげに頷いた。

「やっぱり・・・!オレも経験があるっ・・・・!
頭を打たれたときってのは・・・・その瞬間は大した痛みじゃないっ・・・・・!
痛いが・・・・!本当の意味で危ないのはその後っ・・・・・・!
時間が経ってから・・・・頭がぐらぐらしてきてっ・・・・立ち上がることもできなくなるっ・・・・・!」

石田も頭の怪我は時間が経ってからが怖い、と聞いたことがあった。
強打した場合は、数時間から数ヶ月後に何らかの異常が起きることがあるらしい。

「治くんっ・・・・・・!」

「ごめ・・・んなさい・・・・。
いし・・・ださん・・・・くろ・・さわ・・・さん、迷惑を・・・かけ・・・て・・・・」

「迷惑だなんてあるもんかっ・・・・!」

「ご・・・めんなさい・・・」

そして、治は意識を手放した。



【D-6/森/夜中】


【黒沢】
 [状態]:健康
 [道具]:不明支給品0~4 支給品一式×2 金属のシャベル 小型ラジカセ
 [所持金]:2000万円
 [思考]:カイジ君を探す 美心のメッセージをカイジ君に伝える 別荘に戻り必要なものを調達する
※メッセージは最初の部分しか聴いていません。

【治】
 [状態]:気絶 後頭部に打撲による軽傷、強い吐き気・頭痛・目眩
 [道具]:
 [所持金]:0円
 [思考]:別荘へ向かう アカギ・殺し合いに乗っていない者を探す ゲームの解れを探す

【石田光司】
 [状態]:不安
 [道具]:産業用ダイナマイト(多数) コート(ダイナマイトホルダー) ライター 支給品一式 拡声器
 [所持金]:1000万円
 [思考]:治を心配 カイジと合流したい カイジのためなら玉砕できる

※石田が落としたダイナマイトはB-6、C-6、D-6のどこかに落ちています。




096:夜行 投下順 098:追懐
083:事故 時系列順 084:帝図(前編)(後編)
083:事故 黒沢 105:慙愧
083:事故 105:慙愧
083:事故 石田光司 105:慙愧




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