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投資 ◆mkl7MVVdlA氏


後藤が黒崎の部屋を出た後、間もなくして袋井との会談の場が設けられた。
時間が遅いということもあり、ホテルの内の会議室やレストランではなく、
袋井の部屋に直接向かう事で話が決まった。
もちろん、袋井や蔵前たちの部屋を用意したのも後藤である。
ここでの会話も絶えず収集しているが、先刻の黒崎と袋井が何を話していたのか、
それを予測させるような話題は一切なかった。
あらかじめ決められた符丁で話をしているのか、筆談を用いているのかは分からない。
どちらにしろ、容易に思惑を掴ませるような相手ではない。
袋井の部屋の扉を叩くと、後藤は他の人間を連れることなく一人で室内に入った。

「夜分遅くに、申し訳ない」
「いえいえ、こちらこそ。一度ご挨拶に伺わねばと思っていたところです」
「親睦を深めるために、一杯いかがですか」
「いいですね。何か用意させましょう」

室内には、小さなカウンターバーが設置されていた。
袋井の部下が、グラスと酒を持ってやってくる。
酒の支度を整えると、袋井は部下を別室に下がらせた。
後藤が一人で現れたのを見て、二人だけで話がしたいのだと察したらしい。


「ほう。ブランデーですか」
「寝酒に、と思ったのですが。そうおちおち寝てはいられませんな。
 かなりのペースでゲームが進んでおりますので」
「ご心配には及びませんよ。音声、映像ともにすべて保存してあります。
 大事なシーンを見逃すことのないようにね」
「それでも、臨場感というものがありますでしょう」
「確かに」

他愛もない会話を続けながら、後藤は袋井を観察する。
服装は午前中から変わらぬスーツだ。
身をゆるめ、眠るつもりなど端からないと態度だけでなくそこからも判断できる。
もしかしたら、袋井は自分を待っていたのかもしれない。
黒崎と会っていたことは周知の事実。
そこで額面通りの会話が交わされたと考える人間などいるわけがない。
二人の間に、否、帝愛と誠京の間にどんな密約が交わされたのか。
それを探りにくる人間がいるはずだと、踏んでいた公算はおおいにある。

「先程、黒崎さんとお会いになられたとか」
「ええ……。ゲームに関して、確認したいところがありましたので。ご挨拶をかねて」
「確認、ですか?」
「もちろん、あらかじめ決められた規定は存じておりますよ。
 ただ、それだけでは対応しきれぬ場合もあるでしょう。
 いわば、イレギュラーともいえる事態です。
 ルールに存在しない偶発的な事件が起きた場合、三者で合議するのが原則ですが…。
 …そういった状況に真っ先に直面するのは、ギャンブルルームに人を割いている帝愛。
 事態が逼迫したものであれば、黒崎さんが咄嗟に判断を下すこともあるでしょう。
 もちろん、それはゲームの進行を担う上で、当然の事です。
 その上で黒崎さん……ひいては、帝愛のゲームに対する考え方を知っておきたかった。
 特に、対主催を唱える危険分子を、どの段階で粛正するのか…?」
「なるほど。当然と言えば、当然ですな」


後藤は袋井の言葉に、納得した顔で頷いた。
無論、ここまでは盗聴器で取得済みの情報だ。
袋井が談笑の合間に黒崎に尋ねたのは「危険人物がゲームを破綻させようとしたとき、どの段階で対処するのか」という内容だった。今の会話と何一つ変わらない。

最後の一人まで殺しあうことを拒否し、このゲームの成立そのものを阻害する。
いわば、対主催の立場をとる人間が出てくることは最初から分かっていた。
参加者の名簿を作成した時点で、予め織り込み済みのリスクだ。
なぜそういった危険思考の持ち主をゲームに参加させたのかと言えば、
そういった人種が非常に優秀――零や標のように――なだけでなく、
ゲームそのものを盛り上げる大事な要素とみなされたからである。

ただ殺しあうだけではおもしろくない。
生き延びるために、協力し、信頼を培い、友情とも呼べる関係を構築する。
そして最後の瞬間、それらをかなぐり捨て、醜いばかりに罵りあい、殺しあう。
それこそがこのゲームの真骨頂。ギャンブルとしての有益な見せ場と言えた。

そういう意味では、宇海零などはうってつけの人材だ。
あれは人を引きつけ、奮い立たせる才がある。
人心にある疑心暗鬼の闇を払い、希望の光をもたらす。

だがその光のすべてが絶たれた時!

宇海零は絶望する……ッ!
カリスマは瞬く間に失墜し、その周囲を取り巻く人間もまた等しく絶望する……ッ!

誰も救えない、何も変えられないことにあの少年が気がついたとき、
そこで流すであろう血の涙と叫びは、このギャンブルに多額の資金を投じている資産家たちの歪んだ嗜虐心と制服欲を大いに満たすはずだ。


そのためには、対主催分子を早期に処分するわけにはいかない。
あくまでもコントロールできる範囲に納めておく事が前提だが、『自分たちが脱出できるかもしれない、助かるかもしれない』という希望を持たせることもまた演出の一つである。
ドリームキングダムのアトラクション運営に携わってきた後藤には、そうしたショーを魅せる立場としての一種のこだわりがあった。

そして、黒崎が先刻の会話で袋井に出した答えは

「このゲームに破綻はありません。 対主催を唱える危険分子は、粛正せずともいずれ自滅するでしょう」

という、あたりさわりのない内容だった。
基本原則として、主催側が参加者の動向に手を加えることはしない。
そんなことをせずとも勝てるという余裕の表れでもある。
事実、そう確信でいるだけの設備を整えているのだ。
しかしこれらの会話は、あくまで表向きの内容だ。
本当に重要な内容は、会話の裏で筆談で交わされていたはずだ。
黒崎は蔵前を抱き込みにかかったとしたら、この時以外に考えられない。

「後藤さんは、どのようにお考えですか?」
「それは……。そうですね。あまりに危険な人物と判断すれば、
 場合によっては、早急な退場もやむを得ないと思います」
「ほう。黒崎さんとは違うお考えのようだ」
「危険だと、どこで判断するかにもよりますが…。 現時点で極めて危険と目されている人物。
 その中でも平井銀二のような男は、時期を見て処分するのも一つの手でしょう…」
「……なるほど…」

平井銀二。その名前を出した途端、袋井の表情が変わった。
後藤が考える、このゲームのエンターテイナー要素を鑑みれば、平井は重要な駒である。
優勝候補の一人でもあり、このゲームを破綻させるだけの狡猾さをも備えている。
それだけに、ゲーム終了間際まで残しておきたい人物だが。

―――蔵前を抱き込むとなれば話は別だ。


在全グループは、このゲームを始める前に、参加者は当然のこと、主催側に関しても可能な限りの情報を集めた。

帝愛は、伊藤開司に手を噛まれた経験がある。
裏カジノからかなりの資金を引っ張られたという話だ。
カジノには大量の目撃者がいたので、情報集めには困らなかった。

同様に、誠京は平井銀二にしてやられた経緯がある。
こちらも同様に、ギャンブルの場に、大量の第三者がいた。
政財界、果ては裏世界の大物までが揃っていただけに、事態は詳細まで把握できた。

誠京は―――蔵前は、平井銀二と森田鉄雄に麻雀で負けた。
現場を見ていた者の話では、実際に刺しにいったのは若い森田の方だという。
平井の隠し玉とも、鉄砲玉とも言われている森田の情報は驚くほど少ない。
背景と呼べるものが何もないのだ。
ある日突然、平井が森田を使いはじめた。
そしてある日突然、森田は裏の世界から姿を消した。

蔵前は平井の知謀によって、政治家数十名の借金を帳消しにさせられ、
あげく500億の手形をむしりとられたのだという。
帝愛の裏カジノとは比べものにならない程の金額が動いたはずだ。
強大な誠京グループだけに、それで屋台骨が傾くという事はなかったが……、
平井や森田に対しては特別な執着があるはずだ。
その証拠に、すでに裏の世界から足を洗ったはずの森田を、このゲームに参加させている。
蔵前が恨んでいるのは、平井と森田、どちらかは不明だが…。
この二人は、取引の材料として申し分ない。
後藤は確信していた。


「クク……単刀直入に言いましょう。袋井さん。
 平井銀二と森田鉄雄。この二人をあなた方に差し上げます。
 ここは我々が所有する島。
 たとえゲーム進行を帝愛が仕切ろうとも、抜け道はいくらでもある……ッ!
 帝愛はギャンブルに対しある意味公平だ。
 こうしたやり方を嫌がる動きもあるでしょう。
 だが我々は違う!そう、これはイカサマではない。
 私どもからあなた方に対する……投資。…そう、お考え下さい……」

後藤の申し出に、袋井はいささかも驚く様子をみせなかった。
そのかわり、背後の寝室をふり返って声をかける。

「…どうやら、……話は、以上のようです。いかがいたしますか、蔵前様?」

閉じているとばかり思っていた寝室の扉が、いつの間にか開いていた。
そしてその扉の向こう側には、一寸の光も指さぬ、どす黒い闇が渦巻いていた。



098:追懐 投下順 100:借り物の靴
078:抜刀出陣 時系列順 083:事故
061:第一回定時放送 ~謀略~ 後藤利根雄 113:第二回定時放送 ~起爆~
初登場 袋井 161:巨獣
初登場 蔵前仁 161:巨獣




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