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再び ◆tWGn.Pz8oA氏


幸運だった。
今、あの惨劇から生き延びてここにいること。
再びあの鬼を討ち取るチャンスが巡ってきたこと。
支給されたバックパックの中身を確かめながら、神威勝広は口元に歪んだ笑みを浮かべた。


数ヶ月前、勝広は窓のない病院の一室で目を覚ました。
スカイパレス神威でのあの惨劇を披露した勝広は、
今回のバトルロワイアルを主催する権力者たちの目にとまり、
瀕死状態だったところを彼らの手の者によって病院に運ばれた。
集中治療室から一般の病室へ移されて7日目のことであった。

(生きていたのか…)

半ば他人事のようにぼんやりとそれだけ把握すると、
錆び付いたような眼球を動かして室内を見まわす。
本人すらもう一度眼を開ける日が来るとは思っていなかっただけに、
一度手放した「神威勝広」という意識をかき集めるのにはいくらかの時間を必要とした。

(そうだ…生きている…!)

一度神経を切断され、まだ力の入らない左手でわずかにシーツを掻く。
病院特有のにおいに、秀峰に強いられた断食で病院に運ばれたときのことを思い出す。
勝広はそれからもしばらくは情報を与えられず、
邦男の生死を憂い秀峰への憎悪を募らせる悶々とした日々を送っていた。

そしてようやく真実が明らかになる日が来る。
傷も半ば癒えた勝広のもとに現れた黒服の男は、社交辞令もそこそこに告げた。
勝広を助けた理由は、あるギャンブルに参加させるため。
参加者は賭け金なしで大金が得られる勝負ができること。
邦男、そして秀峰は生きており参加が確定していること。

今考えてみればとんでもない。
賭け金が必要ないのは真実だが、ギャンブルの盤上に差し出すのは参加者の命である。
広間でギャンブルの説明を聞いた参加者たちは、その多くが困惑していた。
あの首輪を爆破された男と同じように、この頭抜けた無法さに憤ったはずである。
だが、勝広は沸き上がる歓喜の熱をひとりいさめていた。

バックパックの中に武器になりそうな金物を見つけ、握りしめる。

(そう、ここでは殺人は合法…秀峰を殺すのにもう邪魔はない…!)

それにしても、と勝広は眉根を寄せる。
勝広は、殺し合いに乗って秀峰を殺すのはいいが、
主催者の思惑どおりに動くことには若干の抵抗を感じていた。
このゲームに勝広と秀峰をわざわざ指定して参加させるということは、
二人の血を血で洗うような争いを期待していると言われたも同然だ。

さらに、主催側は邦男までこのギャンブルに取り込んだ。

(邦男は大金をぶらさげられてギャンブルに参加しようなどと考える奴じゃない。
 大方、俺や秀峰の参加をちらつかせたんだろう…)

俺のように、と心の中で付け加える。

(どいつもこいつも…非道っ…!!)

邦男は心根が優しく、基本的にあまり人を疑わない。
また、ホテルでのように奇襲ならまだ目があるが、
知略戦になったら脳に障害を持つ邦男はまず生き残れないだろう。
ギャンブルの経験もほとんどない。
ならば、まず優先するべきは邦男との合流であると勝広は考えた。
支給品の中には武器と呼べるものがノミだけであったため、
より殺傷能力の高い武器の調達も必要となる。

(運がない…銃でもあればだいぶ違うんだがな。
 まずせめて最低限の防具がほしい)

勝広は地図を開き、ショッピングモールの方向へあたりをつけた。
ホテルの脇からのびる地面が露出しただけの道に足を踏み込む。
いやに静かだ。鳥や虫の声はそれなりにするが、
地面には心の底が冷えるような静寂が這っているようである。
一歩ごとに戦場に踏み込む感覚に、ほとんど丸腰の自らの姿を思い出し
勝広は身震いを感じつつ足を進めた。

数十メートルほど歩いたところで、初めて人影を見付け一瞬息をのんだ。
相手も勝広に気がついたのか、振り向いて鋭い視線を向けてくる。
手には拳銃が握られていた。

「女…?」

勝広は、擦れた風体の少女の姿を確認すると、表情をわずかに弛緩させた。
銃口は向けられているが、構え方からして素人のあの少女が撃っても、
この距離と生い茂る樹木のせいで簡単にはまず当たらない。

「お前も参加者なのか?」

木の陰に身体を収めて、数歩歩み寄る。
少女は制服を着ているため中学生か高校生であろう。
目付きこそ今にも噛みつきそうな鋭さを持っているものの、
やはり基本的には十代の少女である。
勝広には、彼女がこの生死のかかったゲームの世界には不釣り合いな存在に思われた。

「……当たり前だろ…」

予想より落ち着いたうつろな声に驚きつつも、勝広は考える。
この少女をどうするべきか?
殺す、この選択肢は今はない。
もともと秀峰を討つことが目的の勝広であるが、
賞金のことを聞いたとき、一度は優勝も考慮に入れた。
失ってばかりの人生に雨のように降り注いだ、仇討ちとやり直しのチャンスである。
優勝すれば最低10億。10億もあれば、社会的に死んでいる勝広でも
顔を変えて別の人生を得ることができるだろう。
しかし、そんな考えはすぐに水泡へと変わった。
優勝は目指さない。共に生きるべき邦男もまた、この戦いに参加しているからだ。

(第一、弱者を殺し続けて勝利したところでーー俺はあの鬼と変わらない)

勝つことは弱者を殺すこと。
ためらわないことが人生の勝利者への道…
昔からさんざん勝広に叩きつけられてきた言葉であった。
この家訓のために、どれほどの虐げを受けてきただろう。
どれほどの差別と蔑みを浴びせられてきたのだろう。

(俺は奴のように弱い者の肉で人生を積み上げたりしない…!
 奴を今度こそ殺す。そして邦男をここから逃がす。
 それができれば上等…!
 一度は捨てた命だ…俺自身については知ったことじゃない…)

秀峰に突き破られた喉の傷にわずかな疼きを感じながら、
勝広は両手を顔の横に掲げて言った。

「俺は、お前を殺す気はない」

馬鹿げた行動だと勝広は心中で自嘲した。
もし相手がその気ならば、今この瞬間自分は死んでいるだろう。
少女が勝広に気を許したところで、守ってやるなどという気は勝広にはない。
だが邦男の保護を目的に据えている今、一人で行動するには限界があるため、
一時的な同行者として取り込むつもりであった。
同行者はできるなら屈強な人物、強力な武器を持つ者などが理想的だが、
戦力を求めればその分裏切られたときのリスクも高まる。
この少女ならばおそらく銃を奪うのもたやすく、襲われても勝広に分がある上に、
いざとなったら囮にでも使えるかもしれない。

「…………」

少女は訝しく感じたのか、応答をせずに勝広の表情を探っている。

「もしよければ、俺と行動しないか……?
 大方金につられて参加したんだろうが…
 殺し合いにしろギャンブルにしろ、お前みたいな奴は簡単に狙われる…」

勝広が及び腰であると判断したのか、少女は拳銃を持つ手に力を込めて口角を上げた。

「バカかおっさん…殺されやしねえよ……!
 見えてんだろ、この拳銃…!金置いてさっさと失せなっ………!」

少女の行動は単に勝広への警戒からくるものであると思っていたが、そうでもないらしい。
銃口を向け睨めつける瞳には、その歳に似つかわしくない残忍さがうっすらと浮かぶ。
仕方なく勝広は片手にバックパックを提げ、手を再び頭の横に挙げて
少女に近づいていった。

「こっちに来るなっ…!足下に置いていけ……」

しかしその言葉に構わず、勝広は一歩、二歩と歩を進め、着実に少女と銃口に近づいていく。
二人の距離が4メートルほどになっても、まだトリガーは引かれない。
一筋の木の根を踏み越えた瞬間、勝広は少女に向かってバックパックを投げつけた。
一瞬怯んだ少女に距離を詰め、少女の右手から拳銃を蹴落とす。
少女がそれを拾おうとしたのも束の間、勝広は背後に回り腕を絞り上げた。

「お前は甘い……大甘だっ……!
 こんなところまで来て、まだ撃たない…!殺されないと思ってやがる……!!
 今お前はここで一回死んだ…・・!
 本当に死にたくなければ俺に協力するんだ……っ!!」

結局恫喝になってしまった。勝広はため息をつく。
こんな少女相手に力でねじ伏せるなどという行為は、あまりやりたくなかった。
今まで身につけてきた常識や倫理が小さな糾弾の声を上げるのに
耳をふさいで、腕に力を入れ続ける。

「チッ…!誰が……っ!!」

完全に組み伏せられているにも関わらず、少女は抵抗をやめない。
足をばたつかせ蹴りを入れようとしてくるが、
勝広はそれを軽くいなし、押さえる手に力を加える。

「痛っ……ぐ……っ
 わかった…!わかったよ……協力してやるよ…!」

少女は抵抗する気力をなくしたのか、頭を垂れて呟くように言う。

「まあ…参加したはいいけど…ギャンブルなんてあんまりわかんねーし、
 思ったよりめんどくせー…
 一人じゃヤバイ…ってことも今、わかったし…」
「よし…じゃあ決定だ……先に言っておくが、お前の拳銃は俺が預かる」
「………好きにしろ……」
「それから、支給品。これも確認させてもらうぞ…・・」
「うるせえな、勝手にしろ…!」
「いいんだな…しかし下品なしゃべり方だな。お前いくつだ…?」
「ハア…?関係ねーだろ…」
「髪の毛、これ染めてるんだよな……耳に穴まで開けて…」
「うっせえな…!!説教でも始める気か…!?
 それよりいつまで手ぇ握っとくんだよ、おっさん」
「あ…わ、悪い」

変態とでも言わんばかりに睨みつけられ、思わず少女の腕を解放した。
少女はむくれた顔で乱れた着衣を正し、靴に入りこんだ小石を取り除く。
改めて隣に立つと、少女は余計華奢で小柄に感じられる。
腕のたった今までねじり上げられていた部分が赤くなっていた。

「そうだお前…おっさんはやめろ。
 そりゃあお前から見りゃあ立派におっさんだろうが、俺の名前は勝広と…」
「おっさんだからおっさんだろ…!
 なんで名前なんかで呼ばなきゃなんないんだよ。キモいんだよ…!
 さっきも危うく犯られるとこだったしな…」
「がっ………!!なんでお前みたいな小娘相手に俺がっ…!」
「フン…どうだか……見るからに怪しいと思うけど……」
「お前なあっ……!」
「…………しづか」
「…?しづ……?」
「名前。……こっちもお前呼ばわりされるのはムカつくからさ」
「……………わかった。しづか、だな」
「ゲッ…!やっぱキモい…!撤回っ……!」

茶化したときの反応を見て親近感を覚えたのか、
ひとまず同行者ができて安心したのか、
気がつくとしづかの表情から苦々しさが消えていた。
笑顔は見せないものの、中学生らしい小憎らしさと愛嬌が見え隠れする。
二人は小競り合いしつつも、お互いの支給品の確認と今後の行動指針について話した。
勝広は、それが鬼への道とばかりに拳銃を握りしめながら。



【D-5/森/真昼】
【神威勝広】
 [状態]:健康
 [道具]:ジャックのノミ 拳銃 不明支給品0~2(確認済み)
 [所持金]: 1000万円
 [思考]: 邦男と合流する 装備を強化する 秀峰を殺す

【しづか】
 [状態]:健康
 [道具]:不明支給品0~2(確認済み)
 [所持金]:1000万円
 [思考]:勝広に同行する


003: 投下順 005:敬愛
003: 時系列順 005:敬愛
初登場 神威勝広 031:束の間の勝者
初登場 しづか 031:束の間の勝者






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