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慙愧 ◆6lu8FNGFaw氏


「ご…めんなさい…」
治は消え入るような声でつぶやくと、気を失ってしまった。

「治っ!」
「治くんっ…!」

黒沢と石田が呼びかけるが、一向に目を覚ます気配が無い。

「ぐっ…!危険だ…このままじゃ…!」
「どっ…どうしよう…!黒沢さんっ…」

黒沢の額に脂汗が浮かんできた。
黒沢も同じような症状で倒れたことがある。以前、若者の集団と戦い、頭を何度も殴られ、
人生二度目の走馬灯を見る羽目になった。

(今、あの怪我から奇跡的に助かって俺はここにいる。
回復した矢先に、目が回るくらいの治療費(いっそ目覚めない方が良かったんじゃないかと思うくらいの)
のことを聞かされたが、それでも、こうして生きていられることを天に感謝している。)

だから、わかる。治の今の状態が、生死の淵を彷徨う危険な状態であること。
すぐにでも救急車を呼び、医者に見せなければならないということ。


しかし、この島では救急車など呼ぶことは出来ない…!
『殺し合え』などとふざけたルール…掟がまかり通っているのだ…!


「その人…具合が悪いんですか…?」
「!?」

背後からか細い女性の声が聞こえた。
黒沢たちが驚いて振り返ると、そこには若い女性が木陰から心配そうにこちらを見ている。

「あ…ああ…」
黒沢は、女性が手に持っている武器に思わず顔を強張らせたが、ひとまず警戒心を解き、返事を返した。
その女性は銃火器を持っているが、背後から自分達の背中を撃たずに、声をかけてきたのだから…。

「あなた達を攻撃するつもりはありません。よかったら…病状を診させてもらえませんか…?
私、昔は医療に携わっていたことがあるので…」
「医療に…?」
「ええ…。」
「あんたは…一人か…?」
黒沢は訝しげに聞いた。


「ええ、今は…。少し前まで、この島で知り合った、ある人と一緒に行動していたんですが…。
凶悪な殺人鬼と出くわしてしまって…。
私の見ている前で、その相手と殺人鬼が相打ちになりました…。
私は…良心が咎めたんですが…。二人の死体から武器を取って、ここまで逃げてきたんです…。」
「なるほど…それで…」

女性はその時のことを思い出しているのか、俯いてぶるぶると肩を震わせた。
黒沢がその女性に抱いていた違和感。
ざっと見た限りでも、防弾ヘルメット、ボウガン、マシンガン、膨れ上がったデイパック…。
元々支給されたにしては、持ち物の量が多すぎる。
だが、止むにやまれぬ理由で、三人分の荷物を所持しているのだと分かれば、不審がる必要も無い。

「そりゃあ、怖かっただろうね…!」
横で聞いていた石田が、女性に同情の眼差しを向けた。

「ええ…とても…。でも良かった…!あなた達のような温厚な人たちに出会えて…!
私は田中沙織と言います。以前は看護士をしていました。どうか、手助けをさせてください…!」
そう言うと、沙織は顔を上げ、黒沢、石田の二人にニコッ…と笑いかけた。

お人好しの石田はともかく、これで黒沢がコロッ…といっちまったのは言うまでも無い。
一気に広がるっ…漕ぎ出す…妄想の大海へっ…!


ナースっ………!?
美人のナースっ…!圧倒的ナースっ…!
闇に舞い降りた白衣の天使っ…!ザ・ホスピタル・エンジェルっ…!お色気病棟24時っ…!


(ああっ…馬鹿っ…馬鹿っ…!オレという奴は…美心というものがありながら…!)
黒沢はぶんぶんと首を振り、煩悩を断ち切らんとした。

「どんな風に倒れたのですか?」
沙織は横たわっている治の瞼をめくり、覗き込みながら石田に聞いた。

「さっきまで元気に歩いてたのに、急に気分が悪い、頭がぐらぐらすると言って…!
数時間前に頭に怪我をしたそうです…この島に来てすぐって言ってたから、おそらく昼過ぎくらいに…」
「怪我…どのような…?誰かに殴られたのですか?それとも転んだか何かで…?」
「申し訳ない…詳しく聞き出す前に、気絶しちゃったんだ…!」
石田は涙目になっていた。治の様子がおかしいのをいち早く感じでいたのは自分だったのに。
様子がおかしいのを『怒っている』と勘違いして…もっと早く気がついていればっ…!

「…治の症状…まずいか?やっぱり…」
妄想の海からようやく我に返った黒沢は、沙織に話しかけた。
時計を睨みつつ治の脈をとりながら、沙織は言った。

「単なる脳震盪ではないと思います。頭蓋骨にひびが入っていたり、内出血を起こしていたらまずいわ…。
手術が必要な状況なら私もお手上げ…。検査も出来ないし…。今できる最善は、できるだけ患者を動かさないこと…。
でも、そうも言ってられないわね。ここにいたら、誰に襲われるか分からない…」


黒沢は立ち上がり、ある方向を指差して言った。
「じゃあ、一先ずあそこに見えてる別荘に移動しないか…?
あの別荘には一度入ったことがあるんだ。
夜を明かすための根城になるし…何より、あそこには身を守るためのたくさんの武器がある…」
「武器ですって…!?」

沙織が身を乗り出して聞き返すと、黒沢は頷いた。
「誰かがあそこに大量に武器を隠して行ったんだ。
オレが別荘を去ってから誰も入っていなければ、まだそのままになっているはず…。
あ……!いや……!!」
「どうしたの?」
「いや…思い出した…。オレが去る前、来訪者がいたんだ。望まぬ来訪者が………!」
「それって、もしかして黒沢さんの彼女を………」

黒沢は、石田の言葉に頷いた。
「そうだ…!オレは守ってやれなかった…!彼女を…!
オレが部屋を離れたせいで、凶悪な侵入者は、入れ違いに彼女のいる部屋に入り、マシンガンを連射した…!
発砲した直後にオレは奴を張り倒したが、間に合わなかった…!」
「…黒沢さん…マシンガンを持っている相手に、素手で!?」
「いや…奴の死角から不意打ちだったから、銃火器を持っているかどうかは問題じゃなかった。
……奴は彼女を殺すことに夢中だったから……!」
「なんてひどいっ…!」
「…で、その侵入者はあなたに張り倒されてからどうなったの?」
沙織が、二人の話に冷静に割って入った。


黒沢は俯いた。
「その後は…ショックで…うろ覚えなんだ…。
張り倒してから、奴が倒れて…それっきり襲って来なかったから、気を失ったんじゃないかと思うが…。
オレはすぐに彼女の亡骸を抱えて外に出たから…」
「…止めを刺さなかったの…?」

黒沢と石田は驚いて沙織の顔を見た。沙織は、少し慌てた様子で言った。
「だ、だって…目の前で恋人を殺されたんでしょう…?だから…犯人が憎くなかったの…!?」
「正直…そこまで考えが及ばなかった…でも…。
おそらく、美心も復讐など…望んでいないだろうし………」
「美心ですって…!?」

黒沢の口から出た言葉に、沙織は少なからず動揺した。
「知ってるのかっ…!?美心のこと…!」
「え…いえ…ううん、勘違い。知らないわ。それより…。侵入者を張り倒して、気絶させたのね?
じゃあ、その侵入者が目を覚まして、部屋にまだ潜んでいるんじゃないの…?」
「ああ…そうだ。その可能性もある」

黒沢は、我ながら唖然とした。何故今までその可能性に気が付かなかったのか。
沙織は溜息をついた。


「危なっかしいわね…。もしその犯人の事に気が付かず部屋に入ってたらどうなってた…?
全員蜂の巣にされるところじゃない…!」
「ううっ…その通りっ…!すまん…!」
「無理もないよ…。恋人を喪って動揺してたんだろう、黒沢さん」
「いや…仕方ないじゃ済まない。アンタらを危険な目に合わせるところだった…!
じゃ…じゃあ…あの別荘に入るのは危険だから、やめよう。どこか別の場所に………」
「いいえ…、あの別荘に行きましょう」
沙織は別荘のほうを見ながら、決然と言った。

「もし武器が大量にあるのなら、『凶悪な侵入者』に武器が渡ったままになるのは恐ろしいことだわ…。
もしかしたら、もう移動してるかもしれない…そうしたら武器は持っていかれてしまってるかもしれないけれど…。
まだ別荘に一人で潜んでいるなら、武器を奪える。人数の多いこっちのほうが有利だわ」
「え、でも…戦うなんて…」
「いい…?武器は絶対に必要…。ここは戦場なのよ。
丸腰のままでいるなんて論外…!凶悪犯たちに向かって、どうぞ殺してくださいって言っているようなもの…!」

二人は沙織の剣幕に圧倒された。
沙織の言っていた、『目の前で殺人鬼と同行者が相打ちになった』…。
その惨状を見ているからこその言葉なのだろう、と受け取った。


黒沢、石田、沙織は、茂みの影に隠れながら別荘の近くまで移動した。
別荘の周辺には照明が無く、僅かな月明かりを頼りに玄関先の階段を上った。
別荘は一階建てだが、見晴らしが良いように床を高く作ってあるのだ。
沙織が頷くと、それを合図に、沙織からウージーを借りた黒沢が先頭に立ち、そろそろと玄関の扉まで移動する。
石田は治を背負い、少し距離を置いて黒沢についていく。沙織もそれに続く。

先頭の黒沢は、音がせぬようにゆっくりと扉を開けると、手に持っていた『あるもの』を放り込んだ。
ドンッ…ガラガラガラッ……!!

「………………………………………」
扉の陰に隠れて様子を見る。僅かな音も聞き逃すまいと、懸命に聞き耳を立てる。
数分経ったところで、何も変化がないのを確認した黒沢は、石田や沙織と頷き合った。
黒沢を先頭に、中へと進入する。

フローリングの床に、先程黒沢が投げた物…デイパックからはみ出た石が転がっていた。


「別荘のどこに潜んでるか分からない…用心するに越したことは無いわ。
玄関入り口前まで着いたら、まずはこれを中に放り込んで」
沙織は、3つ持っていたデイパックの一つを空にし、石を詰め込んだものを黒沢に渡した。


「何かしらの反応があったら、この手榴弾も放り込んでから進入するわ。
中にいる人間が爆発を逃れても、最悪でも威嚇にはなるはず」
「で、でも、…もし、黒沢さんの恋人を襲った犯人はすでに逃げた後で、
全く別の人…ここへたどり着いただけの人だったら………?」
「それは黒沢さんに判断してもらいましょう。犯人なら背格好や声でわかるわよね…?」
「ああ…わかった」

沙織の立てた計画は悪くない。
ただ、沙織に借りたウージーを使うかもしれないと思うと…。黒沢は気が重かった。

(しかし…しかしっ…相手は無抵抗の美心を容赦なく撃ち殺した男…!
放っておけば更なる悲劇を生み出すかもしれない…!だからっ…………!!)
懸命に己を鼓舞し、黒沢は別荘への階段を上ったのであった。


だから、正直誰も居なくて助かった、と内心ではホッとしていた。

玄関入り口の電気をつけると、僅かな光ながら部屋の内部を見渡すことが出来た。
キッチン、バスルームへの入り口は開けたままになっている。黒沢が見廻りをしたとき、あえて空けておいたのだ。
寝室の扉も開け放したままになっていた。


「あそこだ…。あのベッドの上で、美心は殺された…。」

寝室に入ると、僅かに残る血の匂いに、黒沢の顔が歪む。
ベッドサイドに点々と飛び散った血が、黒く乾いている。

「武器がこんなに…」
沙織は、床に散乱していた武器を見回した。

「少し血がついた布団だが…ここに治を寝かせよう。地面よりずっと寝心地はいいはずだ」
黒沢はウージーを床に置き、石田の背から治を抱き上げ、ベッドに寝かせた。
沙織は、ウージーを拾い上げた。

「マシンガン…返してもらうわね…」
「ああ…、田中さん、それよりもう一度治の様子を………」
「た、田中さんっ…?」

石田の上ずった声に、何事かと振り返る黒沢。
そこには…グレネードランチャーを石田と黒沢に向かって掲げ、今にも発砲しそうな沙織の姿があった。

「ご苦労様…。ありがとう…、おかげで新しい銃が手に入ったわ…。
『弾切れのマシンガン』じゃあ心許無いもの………」
沙織の目はギラギラと光り、グレネードランチャーの先端は、腕が重さに震えながらも、はっきりと『獲物』へと向けられていた。


「な、何だ…!?どうした、田中さんっ…!」
「ひいいっ…!」

黒沢は驚愕して田中に問いかけた。『白衣の天使』が、何故自分達に銃を向けるのか…?
全くもって似つかわしくない光景…!

「ありがとう、って言ったのよ…。どういう意味か分からないの…?」
沙織は泣き笑いのような表情を作って見せた。

「ねえ、一つお願いがあるんだけど………。」
「な…何だ……?」
「死んでっ…今すぐ……………!」

沙織はグレネードランチャーを発砲した。
ボンッ………!!

薄闇の中、沙織の発砲した弾は、とっさに身をかがめた黒沢の頭上を掠め、壁にぶつかると思ったより柔らかい音を立てた。
ゴム弾なので、怪我をさせることは出来ても、人を殺すことは出来ぬ代物…!

「何これ…普通の銃じゃないの…?」
沙織は一瞬焦りの表情を顔に浮かべたが、すぐに背後にグレネードランチャーを放り捨てると、
脇に抱えていたボウガンに持ち替えた。


「いいわ………ボウガンでも撃ち殺せる………」
「待てっ…田中さん…!さっきの話は全部嘘だったのかっ………!?」
黒沢の問いに、沙織はフフ、と自嘲の笑みを浮かべた。

「全てが嘘って訳じゃないわ………。襲われたところまでは真実…!
相打ちになったんじゃなく、一方的に殺されそうになったところを、反撃するしかなかった…。
殺されたくなきゃっ…殺すしかなかったのよっ………!」
「まさか…仲間の人も、アンタが………?」
石田の問いに、沙織は一瞬表情を暗くした。

「さあね…。私が3人分の支給品を持っているんだから、『推して知るべし』って奴じゃないかしら…?」
「なんで…」
「決まってるじゃない………!優勝して生き残るからよ………!それしか道は無いから………!」
沙織は悲痛な叫び声を上げた。

「そんな…棄権するという手だって…」
石田は言いかけて、黙った。
棄権するにしろ、ギャンブルで金を賭け、誰かから奪うか…賭け事に自信が無ければ、殺してでも金を奪うしかない。

「棄権出来ないの…このゲームは……」
沙織は消え入りそうな声で言った。それを聞き咎めた石田は、恐ろしいのも忘れて沙織に聞いた。


「……え?それってどういう…」
「うるさいっ…!いいからもう死んでっ………!」
沙織が石田に向けてボウガンを向けた、その時。



「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」



「ひいっ!」
「キャアッ…!」
突然、身近に落ちた雷のような大声に、その場に居た沙織と石田は、驚きのあまり耳を塞いで固まった。

大声を張り上げたのは黒沢だった。
黒沢は、大声を上げた直後、驚いて縮こまってしまった石田と、ベッドの治をひょいひょいっと両脇に抱えると、
一目散に退散っ…!猛ダッシュっ…!生還っ…!大脱出っ…!
開いていた玄関から階段を駆け下り、あっという間に闇に消えた…!


「………………………」
沙織は一人取り残され、しばらくの間呆然と立ち尽くしていた。
やがて、息を吐くと、万が一黒沢が戻ってきた時のことを考え始めた。
武器をまだ物色していない………。その間、自分の身を守らないと…!



森の中をがむしゃらに逃げてどれくらい経っただろう。
二人の男を両脇に抱えて走っていたが、さすがに数十分で限界っ…!
黒沢は、肩でぜえぜえと息をした。

「く、黒沢さん…。ありがとう、もう大丈夫だから降ろして…」
石田は弱々しい声で黒沢に言った。

「ああ…悪かった、荷物みたいに運んじまって…」
「いやあ…。腕力あるんだね…すごいや…」
「まさに火事場の馬鹿力ってやつだ…。さっきはいきなり驚かせて悪かったな…」
「おかげで助かったよ…本当にびっくりしたけど、あの人を驚かせて…威嚇して、隙を作る…それが狙いだったんだろう…?」
「そうっ…!威嚇…!今回はドンピシャ…まさにそれが狙いだった…!」
「今回……?」

石田が聞き返すと、黒沢は自嘲の笑みを漏らした。
「今まで、女の娘に声かけても…たいていギョッとされる…引かれる…逃げられる…!
こっちは威嚇してるつもりなんか皆無なのにっ…!」
黒沢は、ううっ…!と嗚咽を漏らし始めた。


「でもっ…あの女性は…!美心は…!そんなオレを受け入れてくれたのだっ…!
引いたり、嫌な顔をせず、一緒に行動してくれたっ…!
それなのにっ…!守れなかった…オレはっ…!」
「ううっ…!」
貰い泣きしている石田を見て、黒沢は少しずつ平常心を取り戻し始めた。

「ここにいるのはマズイっ…。治も、どこかで安静に寝かせてやりたいし…。」
「あ…黒沢さん、あれ…」
石田が指差した方向には、民家が並ぶ一角があった。

「家の中で休めるんじゃないかな…?」
「ああ…あの奥に見える家に入ろう……。」

治を抱えた黒沢と石田は、民家のうちの一つに入っていった。
そこは奇しくも、カイジと沙織がゲーム開始直後に出会った民家、その場所であった。



沙織はまず玄関のドアを閉め、ドア前に、調度品のテーブルを引っ張ってきて、倒し、バリケードにした。
玄関のドアは円筒のドアノブでなく、横に伸びているレバーハンドル式なので、
ちょうどテーブルの台をノブの下からかませると引っかかり、外からは開けられなくなるのだ。

ざっと見たところ、人が外から入れそうな大きな窓は、寝室にしかない。あとは子供も通れないような小窓だった。

窓からの侵入に備えて、鍵のところに備え付けの電話から引っ張ってきたコードを巻きつけた。
窓を強引に空ければ電話機が落ち、電話機の棚の下に置いた金属の盆に激突して大きな音を立てる。
つまり敵を驚かせ、隙を作るための罠を仕掛けた。
黒沢達が戻ってきてもこちらが先に気が付き、先に撃ち殺すことができるように。

そうしておいて、床に散らばった武器をゆっくりと物色にかかる。

ベッドサイドに備え付けてあったランプシェードを持ってきて、床に置き、明かりをつけた。
手探りで武器を集めにかかる。色々な物が床に散乱している。
木刀を拾い上げ、使いこなせないからと捨てる。グレネードランチャーの方がまだ威嚇に使えそうだ。
先程背後に放り投げたグレネードランチャーを探し出し、手に取った。ずしりと重い。
(もっといい武器はないかしら…。軽い拳銃とか…)


ふと、暗がりの中、視界の隅に黒い靴底が映った。


背中に冷たいものが流れる。

(見ては駄目。見ては駄目。見ては駄目)
本能がしきりに警鐘を鳴らしているのに、手は警告に反するように、そろそろとランプシェードを掲げ、
闇の中に仰向けに倒れているであろう人間の、足先より遠くを照らそうとする。

そこには。
黒沢の言っていた、『マシンガンを持った来訪者』の成れの果ての姿があった。

薄明かりに浮かぶ青白い顔…。
半開きの空ろな目、眼球が、ランプシェードの明かりを受けてぬらぬらと光っていた。
手は頑なに武器を放すまいと……右手にマシンガン、左手に包丁を掴んだまま、事切れていた。


三好の死体は、寝室の扉を開いた状態のままでは、ちょうど扉の陰になっていたのだ。
寝室の扉は内開きで、外から室内を見渡しても、ちょうど死角になる位置に倒れていた。
寝室の中では、薄暗さも手伝って、誰も三好の死体に気が付かなかった。
黒沢たちが逃走し、沙織が玄関のドアに細工してから寝室に戻って来た時も、
寝室の扉は開けたままにしておいたため、意識的に死角になっていた。窓に罠を仕掛けていたときも同様である。
床の武器を物色しようと…明かりをつけ、床に意識を集中して初めて、三好の死体に気が付いたのである。


「ひ………」
手で口を塞いでも、悲鳴が漏れ出すのを抑えることが出来ない。


「ひああああああああああっっっ……あああっ……!」


沙織が恐怖に我を忘れたのは、死体を見つけた…それだけではない。
沙織は、三好…マシンガンを手に握り締めて死んでいたマーダーの死体に、己自身を重ねてしまった。
自分のそう遠くない未来を見た、という妄想に取り憑かれた。



『自分の死体だ』……と、脳が認識してしまったのである。



「ああああああっ………あああ…ああああああっ………………ああああああああああああ…………………!」

沙織の内に残っていた僅かな正気が、ガラス細工を割ったように粉々に砕けていく。


有賀のように、『殺しを愉しむ事ができる』人間ならば、死んだ殺人者に己を重ねて取り乱すことは無かっただろう。
客観的に己を省みたところで、恐れおののく事は無かっただろう。

罪悪感。心中に溢れそうになりながら、必死に堪えてきた慙愧の念。
人を殺すということは、誰かに殺されるということだ。
殺人快楽症の人間に、復讐に我を忘れた人間に、恐怖に取り付かれた人間に。
殺される。



「ああああああっ…………あ……っ……ああ…あ……ああああああああっ…………………………!」



沙織は頭を抱えて床に蹲り、甲高い悲鳴を上げ続けていた。

「人間らしさ」と定義されるもの…。
皮肉にもその感情が、沙織の内に残っていた「人間らしさ」を破壊した。




【C-4/民家/真夜中】

【黒沢】
 [状態]:健康 やや精神消耗 軽い疲労
 [道具]:不明支給品0~4 支給品一式×2 金属のシャベル 小型ラジカセ
 [所持金]:2000万円
 [思考]:カイジ君を探す 美心のメッセージをカイジ君に伝える 治を気遣う 沙織から身を隠す
※メッセージは最初の部分しか聴いていません。
※田中沙織を危険人物と認識しました。

【治】
 [状態]:気絶(昏睡状態) 後頭部に打撲による軽傷、強い吐き気・頭痛・目眩
 [道具]:
 [所持金]:0円
 [思考]: アカギ・殺し合いに乗っていない者を探す ゲームの解れを探す

【石田光司】
 [状態]:健康 やや精神消耗 軽い疲労
 [道具]:産業用ダイナマイト(多数) コート(ダイナマイトホルダー) ライター 支給品一式 拡声器
 [所持金]:1000万円
 [思考]:カイジと合流したい カイジのためなら玉砕できる 治を気遣う 沙織から身を隠す
※田中沙織を危険人物と認識しました。

※石田が落としたダイナマイトはB-6、C-6、D-6のどこかに落ちています。


【D-5/別荘/真夜中】

【田中沙織】
 [状態]:恐慌状態 重度の精神消耗 肩に軽い打撲、擦り傷 腹部に打撲
 [道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) サブマシンガンウージー(弾切れ) 防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り6本) 手榴弾×1 グレネードランチャー ゴム弾×8 木刀 不明支給品×6
 [所持金]:1億200万円
 [思考]:絶望 武器が欲しい 死にたくない 森田鉄雄を捜す 一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒 カイジから逃れる 涯、赤松、その二人と合流した人物(確認できず)に警戒 黒沢、石田に警戒
※標の首を確認したことから、この島には有賀のような殺人鬼がいると警戒しています。

※三好の所持品、イングラムM11 30発弾倉×5 包丁 支給品一式がそのままになっています。




104:天の采配(前編)(後編) 投下順 106:薄氷歩
109:劇作家(前編)(後編) 時系列順 108:水理
097:謝罪 黒沢 128:偶然と奇跡の果てに
097:謝罪 128:偶然と奇跡の果てに
097:謝罪 石田光司 128:偶然と奇跡の果てに
098:追懐 田中沙織 115:金の狩人(前編)(後編)




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