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水理 ◆uBMOCQkEHY氏


「ハァ・・・ハァ・・・」
カイジは額の汗を拭うと、周囲を見渡す。

――本当に・・・北に田中さんがいるのかっ・・・!

D-3 アトラクションゾーン。
カイジは再び、この地に舞い戻っていた。
カイジは少し前にアカギから“探し物は北にある”と聞かされた。
しかし、北は広い。
アカギが進んできた道を考えれば、アトラクションゾーンではないかと
勝手に判断していたが、アトラクションゾーンは人っ子一人おらず、
あるのは物言わぬ遊具とそれを照らし出す月光のみである。

――なんで・・・もっと具体的に言わねぇんだっ・・・!

カイジは心の中でアカギに悪態をつく。
カイジはアトラクションゾーンを見渡しながら、快楽殺人者――有賀研二にあったことを思い出す。
有賀を殺害した際、6800万円という大金を手に入れた。
ここから少しずつカイジと沙織の歯車が狂い始めていた。
それまではカイジの意見に従順だった沙織が、危険な行動は慎むようになど、主張するようになっていった。
今にして思えば、大金を手に入れたことで、沙織は棄権という方針を明確にしたのだろう。
それが危険回避の自己主張、そして、カイジの裏切りへと繋がっていった。
カイジは沙織の変化に気づかなかった自分を悔やむと同時に、そこから沙織の人間性を考える。

――田中さんは利で動く部分がある・・・
   もし、出会ったところで、オレを生かすメリットがなければ・・・
   オレを・・・殺すっ・・・!

カイジは歯軋りする。

――多分、田中さんは1億円を手に入れれば、脱出できると信じている・・・
   それは不可能だと伝えた上で、別の脱出手段を見つけなけれ・・・

ここでカイジの思考がとまった。
カイジの目線の先にあったのは“水飲み場”だった。

カイジの喉が思わず、グッと鳴る。
カイジはこのゲームに参加してから飲まず食わずのまま、今に至っている。
その上、有賀の銃弾によって出血、沙織の裏切りによって、二時間近く走り続けている。
圧倒的水分不足っ・・・!
カイジの身体が無意識にそれを求めることは当然であった。

カイジは吸い寄せられるように、水飲み場へ近づくと、蛇口のハンドルを掴んだ。
――頼むっ・・・出てくれっ・・・!
カイジは力強く目を瞑り、ハンドルを捻る。
水が蛇口から滝のように流れて出る。

カイジの表情が思わず、緩んだ。
「やった・・・!」
この直後、カイジは顔を蛇口に近づけ、酒を煽るかのように、水を口の中へ流し込んだ。
スポンジのように乾ききった体の芯が潤っていく。
カイジはひとしきり水を飲み終えると、頭から水を被る。
疲れなどの邪念が霞み、頭が冴えてくる。
しかし、カイジはこの直後、顔を水から離した。

――何やっているんだっ・・・!オレはっ・・・!

この水は主催者が準備したもの、毒が入っている可能性があるのだ。
迂闊に飲んでいいはずがない。
人間は空腹や睡眠不足など、いわゆる生理的欲求が満たされないといらだったり、考えが短慮となる。
無理をしてでも、沙織を見つけなければならないという使命感がカイジの生理的欲求を麻痺させていた。
しかし、それは目が粗い考察など、本人の意識の及ばないところで静かに影響を与え始めていた。

カイジは水に警戒しながらも、あることを思い出す。
沙織の支給品の名簿にかかれたトトカルチョと思われる数字である。
もし、このゲームが鉄骨渡りのように多額の賭けを行われていたとしたら、
参加者が殺し合って人数を減らすというゲームのコンセプトの中で、
“主催者”が準備した水を飲んだために死亡というシナリオが用意されていたのでは、出資者は納得しないだろう。

――・・・ってことはこの水は安全ってことだよな・・・。

カイジは軽く笑いながら、肩の力を抜く。
水を大量に摂取しただけだが、それでもカイジは先程よりも冷静な思考を取り戻し始めていた。

――そう言えば、平山がくれた名簿にはトトカルチョが・・・

カイジは左手に持つ地図と参加者名簿と施設パンフレットを見つめながら、身震いした。
カイジの脳裏に閃光が走る。

――どうして、オレは気づかなかったっ・・・!

カイジは蛇口の水を止め、ある物を探す。
それは数メートル先にあった。

「公衆トイレ・・・」

その公衆トイレはコンクリートの壁でできた、公園などでよく見かける典型的な箱型の形状の建物である。
カイジはその公衆トイレの一番奥の個室に入った。

――ここなら・・・主催者の目も届かないよな・・・。

カイジは濁った蛍光灯が照らし出すトイレの便器に腰をかけ、地図を広げる。
トイレに入ったのは用を足すためではない。
これから行う考察を主催者に気づかれたくなかったからである。
参加者の動向を確認するため、この島全体に監視カメラが仕込まれている可能性がある。
しかし、トイレの中はどうか。
沙織の参加者名簿のトトカルチョの数字から、今回のゲームがギャンブルの品目であると考えうることができる。
参加者の動向を見守る間、ギャラリーは食事をとっていることもあるだろう。
そんな時、参加者の排便がモニターに映し出されれば、どんな気分になるのか。
さぞや不快になるはずである。
それらを踏まえれば、トイレに監視カメラが仕込まれている可能性はほかの場所と比較しても、
格段に低いと予測できる。

カイジは地図をまじまじと見詰めながら、ある施設を探していた。

――貯水池・・・浄水施設・・・。

カイジが地図から探していたもの、それは上水道を成立させるための施設である。
水道の仕組みを簡単に説明すると、ダムや貯水池などに貯められた原水は需要地までまとめて運ぶ導水施設を経由し、
浄水場など水質を改良し飲めるように処理する施設へ送られる。
その後、必要な水圧と水量とを伴って需要者に配られる。
先程、カイジは水飲み場で水を飲んだ。
上水道のシステムは成立していると言える。
しかし・・・

――・・・ないっ!どこにもないっ・・・!

カイジは地図に記載されている施設をもう一度、確認する。
カイジが沙織と遭ったC-4の民家のように、地図上で省略されている建物もある。
しかし、貯水池や浄水場と同じように日常生活を円滑に進める施設として、D-1に発電所が記載されている。
そのような施設を隠す必要がないと主催者は判断しているのだ。
そんな発電所が地図上に記載されているにもかかわらず、
同じように生活を維持するための貯水池や浄水場が記されていないのは道理に合わない。

では、先程、カイジが摂取した水は洗浄されていない海からの水なのかと言えばそれも違う。
塩辛くはなかったし、何より消毒されていなければ、カイジは今頃、腹を下し始めているはずである。

――上水道に不備はない・・・じゃあ、下水道は・・・。

カイジは腰を降ろしているトイレのレバーをまわす。
水が音を立てて、便器の中へ吸い込まれている。

――やっぱり機能しているってことだよな・・・。

当然、下水道関係の施設も地図上には存在しない。
ここから導かれることはただ、一つである。

――この島にではなく、本土もしくは別の孤島・・・
   この島から離された場所に存在するっ・・・!

カイジはこのように考察する。
この島とは別の場所に、それらの施設は存在し、地下にあるだろうパイプで繋がっている。
そのパイプの上水道からは水が送られ、下水道からは汚水が流される。
つまり、もし、それらのパイプを見つけ、それを辿って行けば、
この主催者の思惑に乗ることなく、ゲームから脱出することができるのだ。

――この脱出方法は田中さんを説得するための切り札っ・・・!けれど・・・

カイジは立ち上がると、トイレから出て歩き出す。
カイジに様々な疑問が沸き起こる。

――その地下の上水道や下水道へ続く場所はどこにあるっ・・・。
   それに見つけ出したとしても、首輪はどうなるっ・・・。
   そもそも、この説は仮でしかない・・・
   そんなパイプ、本当に存在するのかっ・・・!

カイジは足を止める。

――けれど、可能性があるなら・・・オレは賭けるっ・・・!
   このゲームを覆すためにっ・・・!




【D-3/アトラクションゾーン/真夜中】

【伊藤開司】
 [状態]:足を負傷 (左足に二箇所、応急処置済み)
 [道具]:果物ナイフ 地図 参加者名簿 島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、
      旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
 [所持金]:なし
 [思考]:田中沙織を捜す 仲間を集め、このギャンブルを潰す 森田鉄雄を捜す
      一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
      赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
      平井銀二の仲間になるかどうか考える
      上水道、もしくは下水道へ続く場所を探す
※2日後の夜、発電所で利根川と会う予定です。
※アカギのメモから、主催者はD-4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※脱出の権利は嘘だと確信しました。
※明日の夕方にE-4にて待つ、と平井銀二に言われましたが、合流するかどうか悩んでいます。
※アカギの言葉から田中沙織は北にいると思っています。




107:猜疑と疑惑(前編)(後編) 投下順 109:劇作家(前編)(後編)
105:慙愧 時系列順 110:老人と若者
106:薄氷歩 伊藤開司 118:説得の切り札




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