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老人と若者 ◆6lu8FNGFaw氏


そこに行けば、人の一人二人くらいはいるのではないか…。
出会う人物がどんな立場を取る人間であっても構わない。
現状に何か変化をもたらす出来事が起きるなら、多少のリスクなど…。


淡い期待を抱いて、不気味な老人、市川の手を取り、仲根は目的地に辿り着いた。
だが、商店街の入り口に着くなり落胆の溜息をついた。
『いらっしゃいませ』と書かれた、錆の浮いたアーケードを潜ると、奥までずっと『シャッター街』が続いている。
通りには転々と街灯が並んでいたが、所々電球が切れかかり、チカ、チカと不規則に点滅を繰り返している。

何年も前に時を止め、埃をかぶったままのシャッターを見ていると、不安がよりいっそう大きくなる。
仲根は溜息をついた。そこは予想していた以上に陰気な場所であった。

彼の知っている夜の商店街は、店こそ古くとも、看板の蛍光灯が一部切れかかっていようとも、
そこで生活している人間の息遣いが感じられた。
新しいパチンコ屋の横に場末の古びたスナック屋、その並びに派手な壁面のゲーセンが並ぶ。
ネオンの点滅、人込み、喧騒、遠くで車のクラクション。
仲根の知っている商店街は、そんな商店街である。

ここは辛気臭すぎる。
一様に同じ雰囲気のシャッターが並んでいる。同じ時期に店が建てられ、同じ時期に使われなくなったのであろう。
シャッターは堅く閉ざされており、試しに取っ手に手をかけてみるが、持ち上がる様子など無い。


「くそっ…!」
腹立ち紛れにシャッターを蹴ると、がしゃん、と無機質な金属音を立てた。
「どうした…?」
仲根の後ろで佇んでいた市川が声をかけた。

「商店街に着いたら、武器になりそうなモンを調達しようと思ってたんだが…。
生憎、どこもシャッターが閉まっていて入れそうに無いんだ」
「窓はないのか…?」
「あるにはある。だが、二階だな…。」
仲根は上を見上げた。大抵の店は一階が店舗、二階が居住スペースになっている。
店と店の隙間から壁をよじ登り、二階の窓を割って中に入り、一階に降りてシャッターを中から開ければいいのであるが…。
仲根は、それがひどく面倒に感じた。
否、『面倒』というのは自分へのごまかし…。本心は、店の中に入るのが怖いのだ。
この商店街の持つ不気味さ…。生活感の無さ…。それでいて中に何が潜んでいるか分からない雰囲気が、
悪いほうへと想像力を掻き立てられて厭なのだ。

「シャッターのない店を探すか…。他の参加者のいる気配がない今のうちに、奥まで探索しておこう…。
爺さん、ここは障害物もないし、真っ直ぐの道だから転ぶことも無いだろう。ついてきてくれ」
仲根は市川にそう言葉をかけると、北へ向かって歩き出した。


商店街の中程に八百屋を見つけた。
その店の軒先にはシャッターがついておらず、外から店の内部を見渡せた。
包丁でも置いてないかと店の中を探してみたが見つからない。
店先は野菜を並べるための台が埃をかぶっている。旧式のレジの台の下にも棚があったが何も入っていない。
用具入れでもありそうなものだが、見当たらない。店の奥は木製の扉によって閉ざされている。
奥は薄暗く、しんとしている。不気味さに耐え切れず、仲根は外に戻ってきた。

(まるでゴーストタウンだ…。数年前から急に人が去り、一斉に時を止めたみたいな…。)
昼間に来ていればそこまで不気味に感じることもなかったはずだが、夜の闇は人を心細くさせる。

(急に人が…?)
違和感。人の消えた街。いったいここで何があったというのか。

「何か見つけたか…?」
仲根の思考は、市川の声によって遮られた。
「いや…。何も武器になりそうなものは…。」
仲根は返事を返しながら、市川に己の心細さを悟られまいと、話題を探すべく辺りを見回した。

「ああ、向かいの店にも入ってみるか…。シャッターじゃなくてガラスの扉になっている…。扉を壊せば…」
街灯の明かりで、ガラス越しに店の奥まで見渡せる。
仲根は八百屋の奥に置いてあった台車を転がしてくると、そのガラス戸に向かって勢いよく台車をぶつけた。


ガシャーン…!!パリン…。
台車は店の中に突っ込み、ガラスの扉は大きな音をたてて割れた。
仲根はガラスの破片に気をつけながら、店の中に入る。入ってから、そこが釣りの道具を置いている店だと気づく。
(そういや、何の店か確かめてなかったぜ…。釣りの用具なんか、武器にはならないか…)

落胆しながら、店内を見渡す。ふと店の壁に飾ってあるものを見つけ、お、と声を上げる。
仲根が見つけたのはライフジャケット。着用しておくと、水に溺れる前に膨らんで浮き輪代わりになるあれである。
泳いで島を脱出できるなどとは考えていない。それよりも、ジャケットの丈夫さに着目した。
着ておけば、ナイフなどの刃物や鈍器から体を守る防具になる。

仲根は大人用のライフジャケットを二つ手に取り、店を出た。
「爺さん、いいものがあったぜ」

市川にもライフジャケットを渡してから、それを着込む。
市川は店の前にあぐらをかいたまま、ジャケットの形状を手探りで確かめようともせず、ただじっとしていた。

「お前さん、何を焦っておる…?」
「え…?」
仲根が市川のほうを振り向くと、市川はじっと座ったまま、ニヤリと口の端を吊り上げた。

「先程から歩く足音、息遣いが不規則だ…。それに、ガラスを割るときの大きな音。
周囲に人の姿が見えないからといって、軽率だと思わんかね…?」
「あ…!」


仲根は動揺した。誰かが音を聞きつけてやってくるかもしれない…その可能性を失念していた。
大きな音は周囲に己の位置を知らせる。「どうぞ殺してください」と言っているようなものである。
市川はくつくつと笑いながら、まるで他人事のように呟く。

「もっとも…儂はそれでかまわんのだがね…」
「アンタは…」
仲根は、心を見透かされたことから来る苛立ちを市川にぶつけた。

「アンタは死が怖くないってのか?主催相手に勝負するなんて言ってたが、その前に殺されてもいいってのかよ…?」
口に出してから、仲根は市川が先程言っていたことと今の市川の態度のずれに違和感を覚えた。
矛盾、というほどでもない…だが、何か引っかかる。

「だいたい、アンタはどうやって勝負を挑むつもりなんだ…?さっきは手伝うと言ったが、それもアンタの計画による。
それに、さっきから引っかかる…。アンタに真剣さが感じられない…!
俺が大きな音を出すような馬鹿をやったのに、焦る様子もない…!
主催に勝負を持ちかける前に殺されたんじゃ、無念なはずなのに…」
「ククク…そう一度に質問されてもな…」
仲根が問い詰めたところで市川は怯む様子も無い。それが仲根の神経を逆撫でした。
チッと舌打ちしながら、仲根は市川になおも問いかける。

「じゃあ一つだけ答えろ。何が目的なんだ…?」
「……………」
「アンタの目的が分からないようじゃ、アンタと同行してられねえよ…」


仲根は先程からずっと心細さを感じていた。
元々自分が居た世界を思い出し、今いる人気の無いこの場所にうんざりしていた。
仲根には、無意識下で『大人』にすがりたいという欲求があった。この同行者に、少しでも信頼、尊敬できるところがあれば。
そのためには同行者がどういう人間であるか知らなければならない。

「お前さん、いくつだ…?」
「…15だ」
「15…。若いの…」
市川は驚いた。若いとは思っていたが、背の高さや修羅場慣れしているところから、20歳前後と考えていたのだ。

「それがどうかしたかよっ…?質問に答えてくれよ…」
「…昔、13歳のガキが勝負を挑んできたことがあった…。6年ほど前のことだ」
「…それで?」
「儂はそいつと麻雀で勝負をし…。そのガキが勝った…。
それから、儂の打ち手としての名声は地に堕ちた…。
評判の落ちた打ち手など、死んだも同然…。
儂が死を恐れぬ理由…それは、儂がもう死んだも同然の抜け殻であるからだ…。」
「………………」
「『目的は何か』という問いだったの…。
抜け殻でも、何かこの世に爪痕を残したい、という思いはある…。
それには、主催という巨大な敵に一矢報いること…。それが『目的』というやつだ…。」
「………………」
「お前さんの質問に答えたぞ。これでよかろう」
「なぁ…。何かおかしくないか?」
「何…?」


仲根の問いに、市川は眉を寄せた。
(真の目的がそれではない、と感づかれたか…?)
市川は内心動揺したが、表に出さずにもう一度問う。
「何がおかしい、と…?」
「アンタさ」

仲根は市川を見下ろし、聞いた。己のうちに芽吹いた疑念の目が、より大きくなっていくのを感じていた。
「アンタ、勝負する相手間違えてないか?その13歳のガキに勝つことを目指すのでなきゃ、道理が通らないんじゃねえか」
「何…?」
「だって13歳のガキと戦って敗れたから、アンタの名声が堕ちたんだろう…。
じゃあもう一度戦ってそいつに勝てばいい話じゃねえの?」
「なんだと…」
「もしかして、認めたくないのか?13歳のガキに負けたことをさ…」
「何も知らんからそんなことが言える…」
市川は、苦々しげに舌打ちをした。

「奴は…13歳にして“持って”いた…。儂や、その他大勢の打ち手が何十年かけて、それでも持ちえぬ何かを…!
勝負がついたその瞬間に、悟らざるを得なかったのだ。
儂は一生涯、奴には敵わぬ。そう痛感せざるを得なかったのだ。
精神をズタズタにされ、抜け殻になった儂に、奴はかぶせてこう言い放った。
『もう一度勝負を』……。
泥塗れになった儂の顔に、さらに泥を塗りつけるような奴の言葉…。その点は流石ガキだ…礼儀も何もあったもんじゃない。
そのときの儂の心境が分かるか…?」
「分からねえな…!」
仲根はそっけなく言った。


「俺の知ってる人は…。尊敬できた大人は…。
傷つけられた尊厳のためなら泥まみれになっても、プライドをかなぐり捨ててでも、勝負に勝つ男だった…!
その方法があんまり突飛で、奇想天外で、俺もびっくりすることがあったけど…。でも…!
己の矜持を守るため…。守りたいもののためなら…。どんなことをしてでも勝つ男だった…!」
仲根は唇を噛み締め、黒沢に思いを馳せた。

「麻雀ってのは年齢の関係の無いゲームだろ…?
囲碁でも将棋でもネットが普及している今、さらに年齢や年数なんか関係なくなってきている。
13歳のガキにアンタが負けたところで何の不思議もねえ…。
才能がどうとかって言うが、それも織り込み済みでその世界にいたんじゃねえのか…?
アンタは何だ…?一度負けたくらいで、戦意喪失…。ガキに負けたことがそんなにショックかい…?
俺から見たら、アンタはただふてくされてるだけにしか見えねえ…」
「もういい…」

市川は仲根の言葉を遮った。
「何を話しても無駄なようだ」
「そうだな」

仲根はぼそり、と呟いた。
「……やめた」

仲根はふう、と息をつくと、市川を冷ややかな目で見下ろした。
そして突然市川の胸倉を掴んだかと思うと、懐からチップを奪い取った。

「何をする…!」
「アンタと同行する気なくなった…。チップはもらうぜ」
「…儂を殺すか…?」
「いや、いいや…。どうでもいい…」
仲根はチップを上着のポケットに突っ込み、「じゃあな」と言葉を残して北へと歩き始めた。


後に取り残された市川は、ぎり、と奥歯を噛み締めた。
(どうでもいい、だと…。)

実際、仲根の言い放った言葉は市川には酷である。
若者は、己の可能性、才能を、無限に伸ばすことが出来ると思い込んでいる。
そして己の経験の浅さゆえに、覆すことの出来ぬものなど存在しないと思い込んでいる。

『赤木しげる』という人間の持つ圧倒的な才能…。人間性…。
強烈な敗北感…。
それは、赤木しげると対峙した者にしか決して分からぬ…。

出来ることなら一生出会いたくなかった、あのような者とは。
あれはまさしく悪漢(ピカロ)…。人の心を食らう悪魔であった。
(儂の人生は…儂の全ては、奴が成長する為の餌となったのだ……………!)

(赤木………。お前さえいなければ………!)
どこにもぶつけようの無い怒りを抱え、市川は座り込んだまま、固く拳を握り締めた。




仲根は商店街の出口へ向かって歩き続けた。ポケットの中のチップがチャラチャラと音を立てる。

先程まで同行していた男。得体の知れない不気味な存在であり、何か独特の気配を持っていると感じていた『大人』だったが、
蓋を開けてみれば、そこにいるのは(仲根にとっては)何の変哲の無い只の爺さんだった。興味が失せてしまった。

(爺さんが言っていた、『一億集めても棄権できない』という言葉の根拠とか…。
対主催の立場をとることとか…。色々聞くつもりだったことは聞き出せなかったが…。
いいや…。兄さんに再会してから相談すればいいことだ)

仲根は黒沢の姿を思い浮かべた。心細さが吹き飛んだ。
(兄さん…。どうか無事でいてくれよ…!)

空を見上げると、満月がくっきりとした輪郭を持って輝いていた。



【E-4/商店街/真夜中】

【市川】
 [状態]:健康 軽い疲労
 [道具]:モデルガン 手榴弾 ICレコーダー ライフジャケット 支給品一式
 [所持金]:0円
 [思考]:赤木に対する怒り ダイナマイトを取り返す ゲームを覆す才覚を持つ人間を殺す  
     ※有賀がマーダーだと認識


【F-4/商店街/真夜中】

【仲根秀平】
 [状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
 [道具]:カッターナイフ バタフライナイフ ライフジャケット 支給品一式×2
 [所持金]:4000万円
 [思考]:黒沢を探して今後の相談をする 黒沢と自分の棄権費用を稼ぐ 黒沢を生還させる 生還する



109:劇作家(前編)(後編) 投下順 111:転機
108:水理 時系列順 094:息子
096:夜行 市川 135:本物と偽物
096:夜行 仲根秀平 121:慕効




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