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転機 ◆6lu8FNGFaw氏


G-6のギャンブルルームを背に大通りを歩きながら、森田はフッと笑みを漏らした。
足取りが軽い。
黒崎との契約は、森田にとって好機以外の何者でもなかった。

第3放送(あと6時間強)までに首輪を6つ集めねばならないこの仕事は、一見ハイリスク、ローリターンのように見える。
だが、森田はこの取り決めで十分だと考えていた。

実際は第4放送まで、という取り決めであったが、森田にとっては意味の無い一文であった。
ノーリターン承知で第4放送までに首輪を集め、己の命を永らえる為だけに足掻くつもりなど、初めから無い。

最悪の場合を想定してみる。第3放送の直前になっても、首輪が一つも集まらなかった場合にはどうするか。
その時近くにいた信頼できる参加者に権利を譲渡することを了承させ、
銀さんに頼んで、ギャンブルルーム内に二人で入り、互いの命を奪い合う。
最後の手段にその選択肢があるのだから、正当防衛、過失致死以外での殺しをするつもりも全く無い。
もちろん、銀さんを巻き込まぬ様に最大限の努力をするのが前提である。


黒崎に飲ませた二つの条件。
禁止エリア一ヶ所の永久解除。
銀さんと自分の首輪2つに6つ分の価値を持たせたこと。

この二つの条件がある限り、不慮の事故、不測の事態に巻き込まれることさえ無ければ、
首輪を6つ首尾よく集めて成功、または命を以って最後の手段で成功、
どちらに転んでも森田の思惑通り、主催者たちに対する『勝ち』である。


森田は、D-4のホテルを解除するつもりであった。『一億払って棄権』の為ではなく、
他の参加者の為、対主催者達への足がかりを作る為である。
あの場所は物語の始まった場所であり、第1放送で早くも禁止エリアとなった『開かずの間』である。
何も無いはずが無い。

『一億で棄権の権利』について、森田は信用していない。
開会式での黒崎の言葉を思い出してみる。

 『棄権を望まれる方は当ホテル地下で、一億円にて権利をご購入いただけます……。
 ………ルールは以上となります』

D-4ホテル地下で棄権申請をし、首輪が即座に解除されたとしても、黒崎は『島からの脱出』には何ら言及していない。
『棄権』という言葉の意味はあくまで、『ゲームからの降板』であり、『生還』という意味では無い。
そこに必ず落とし穴がある、と森田は考える。

ただ、森田がこれから出会う他の参加者に、『D-4のホテルのエリアを解除させれば、一億で棄権出来るようになるから協力して欲しい』
と説明し、協力を仰ぐことは可能だ。一応嘘は言っていないのだから。

森田の決意は固まっている。覚悟も出来ている。
その為に先ずしておくべきことがある。


………………南郷や佐原に謝っておかなければ。


温泉旅館の暖簾を潜り、薄暗い玄関を抜けると、フロントの中央に南郷がいた。
「……おかえり」
南郷に声をかけられ、森田は少し微笑んで見せた。

「佐原はまだ出てきてくれないようだな」
森田はやれやれ…と溜息をつく。南郷の視線が泳ぐのを見て、森田はそれを別の意味に解釈し、言った。

「いや、アンタのせいじゃない。俺の考えが甘かったんだ。気にしないでくれ」
「………………なあ、森田」
「何だ?」
南郷は森田の正面まで歩いてきた。森田の両肩に手を置く。
「正直に答えて欲しい。アンタ、今までに人殺しに関わるような仕事をしたことがあるか?」
「なんだ、いきなりどうしたってんだ?」
「頼む、答えてくれ」

南郷は今までに無い真剣な眼差しで森田を見る。森田は、一度視線を落とし、再び南郷の目を見ると言った。
「………巻き込まれたことがある」
「どんな風に」
「ある一族の勢力争いだったのが、いつの間にか復讐劇に変わっていた。
血の繋がった人間同士が互いに殺し合った。比喩表現でなく、本当に殺しあったんだ。
まるで今参加させられているこのゲームのように。
俺はその中で一番権力を持った爺さんを護る役だった。死んだのは復讐を目論んだ犯人とその弟。犯人も爺さんの身内だった。
そして犯人と弟は社会的弱者だった。俺は…むしろその二人こそ助けたかった……」
森田は俯き、言葉を切った。

「自分が何を護りたいのか、何をするべきなのか分からなくなった。
…いや、本当は分かっていたんだ。だが護れなかった。
だから……………」

森田は一旦そこで言葉を切り、声を発さずに唇だけ動かした。
『今度こそ、悔いを残したくない』……と。

そのときの森田の目は真剣そのもので、南郷にはどうしてもこれが演技には見えなかった。
佐原の言うように、演技が達者なのかもしれない。だが、南郷には森田の言葉に嘘があるとは思えなかった。
根拠は無い。唯の直感である。だが、この環境下、信じられるものは己の直感しか無い。

「………そうか、わかった。俺にも協力させてくれ」
「………南郷」



南郷と森田のやり取りを柱の影で見ていた佐原は、落胆の溜息をついた。
(あれだけ忠告したってのに……!
南郷は人が良すぎる…!
森田はアンタを隠れ蓑にして、己の怪しい行動をカモフラージュしたいだけ…!
口では何とでも言える…!相手の思惑通り、いいように操られてるだけってことが何故わからない……!)
佐原は内心歯がゆい思いでいっぱいになった。
だが、いやだからこそ、次に森田が発した言葉に耳を疑った。

「……南郷、すまない。アンタと同行できなくなった」

「ええ……?」
目を丸くした南郷に、森田は言葉を続ける。

「状況が変わった。先程俺は主催の黒崎に呼ばれ、この近くのギャンブルルームまで呼び出された。
ギャンブルルームの中で黒崎とテレビ電話のようなもので話をし、ある契約を結んだ。
契約の内容は簡単に言えば、期限内に首輪を6つ集めてこい、というものだ。
死亡者から回収した首輪1つ、生存者から奪ったものは1つで2つ分とカウント、
俺の首輪と、とある俺の尊敬する元上司の首輪はそれぞれ3つ分とカウントするという条件で。
俺は今から首輪を探し回らなければならない。実質的な期限はあと6時間強。
危険な任務だ。だから、アンタと同行することはできない。
ここに契約書がある。契約書の真贋はアンタ自身で判断してくれ」

森田は懐から契約書を出し、南郷に渡す。
「……………第4放送までならあと12時間じゃないのか?」
「最後の行を見てくれ。何も報酬が得られないなら、そこまで時間を引っ張る意味は俺には無い」
「………つまり、アンタは…」

南郷は森田の首輪をじっと見つめる。森田は笑って見せた。
「まだ死ぬと決まったわけじゃない」
「というか…言っちまっていいのか?俺に」

南郷は森田に契約書を返しながら、素直に疑問を口にした。森田はこともなげに言う。
「口止めされてないからな」
「はあ…。まあ、契約書に『口外するな』とは書いてないな」
「だろ…?極秘任務だとは言われていない」

南郷は森田をまじまじと見つめ、はあ、と息をついた。
「……度胸あるな」
「この期限じゃ怯えてる暇もないんでね、これから島を駆けずり回らなきゃならない」
森田は契約書を元のように折り畳み、懐にしまう。

「……生存者から奪ったら2つ分、か…」
南郷の言葉に、森田は頷いた。
「奴ら、俺に殺しをさせたいんだ。それが奴らの目的の一つなんだろう」
「目的が他にもあると?」
「あとは、任務でなく自分の考えで首輪を集めている参加者がいるのが困るんだと言っていた」
「…ほう」
「そういえば確か、例の情報端末で調べたことだが、数時間前『赤木しげる』も機能を失った首輪を2つ所持していたな…」
「何…!」

南郷の顔色が変わった。森田は、南郷を諌めながら言った。
「アカギはまだ一人も殺していない。それも例のフロッピーで確認済みだ。
首輪は死体から剥ぎ取ったもの。首輪は爆発してその機能を失っている。
俺は、道中アカギに会ったらその2つの首輪を譲ってもらうよう交渉したいと思っている」
「………だが、あのアカギが素直に応じるかな…。」
「そんなに偏屈で頑固なのか?アカギって奴は」
「いや、どっちかというと気分屋かな…。ギャンブルで負けたら譲る、なんて提案されたら諦めたほうがいいぞ」

南郷は真剣に言った。親しい間柄だから言葉に遠慮が無いのだろうか。
「………そうなったらギャンブルを受けたいんだけどな、俺としては」
「アンタがギャンブルに相当の自信があるなら、なおさらやめとけ…。勝敗に関わらず、勝負が数時間じゃ済まなくなるから」
「……? そうか、なんだか分からんが忠告は聞いておこう」

頷く森田に、南郷はふと呟いた。
「……生きてる人間のは、2つ分なんだな…?」
「そうだ」
「なら、もし第3放送直前…。首輪が足りなければ…。俺の…。『そういう手伝い方』も…」
「南郷……!」

南郷の言わんとすることを察し、森田が眉間に皺を寄せる。
「そういうことは安易に…」
「……はは、やっぱりそうやすやすと覚悟はできないな」
南郷の額には脂汗が浮いていた。

「だが、念のため第3放送までに合流しないか。
俺も、それまでに死体を見つけたら首輪を回収して、アンタに渡すことも出来るだろう」
「南郷…!」
森田は南郷に頭を下げた。
「ありがとう…」
「顔を上げてくれ、森田。やっと俺にも『ここにいる意味』が出来そうなんだ」
南郷は森田の肩を叩いた。

「ちょっと待て南郷……!」
柱の影からずっと様子を伺っていた佐原は、銃を構えて森田と南郷の前に姿を見せた。

「お人好しもいい加減にしろ…!
何故自分からやすやすと罠に嵌りにいく…?どう考えても胡散臭いこの話に乗るっ…!
その上自分から森田に殺される理由を作ってやってどうするっ…!」

佐原の剣幕に押されること無く、南郷は淡々と言った。
「じゃあ聞くが佐原…。森田が嘘をつくメリットは何だ…?
さっき言っていた『主催の手先』だからか…?
じゃあ今回、森田が俺に『主催からの任務』を全て説明したメリットは何だ…?」
南郷は佐原に問いかけ、佐原は言葉に詰まる。

「だって…どう考えても話が出来すぎてるっていうか…。」
「主催から任務を受けたことか?それとも、森田が俺と別行動をとる理由がか?」
「だが、また合流するんだろう…?その時に殺されるに決まって…」
「それも俺が自分で言い出したことだ。俺が森田を判断し、己で考えたことだ。
この島ではいつ誰に殺されるか分からない…。なら、俺は自分の直感に賭ける。
直感が見当外れで、その結果死ぬとしても…だ。どうせ死ぬなら、強く打って死ぬ…!」
南郷はきっぱりと言った。

森田はそんな南郷を見ていて、つくづく思った。南郷を見くびっていたこと、己の選んだくじが『当たり』であったこと。

佐原は、南郷に自分の意見に同意してもらえなかったことに、強いプレッシャーを感じていた。
南郷に多少親近感を感じていたからなおさら…。
3人の中で、己の意見だけ食い違っていることが、孤立していることが、ひどく息苦しく感じた。

そんな佐原の様子を見て、森田は言った。
「佐原…。アンタが俺を信用出来ないのであれば、それでかまわない」
森田の言葉に反応し、震える銃口をこっちに向ける佐原を、森田は冷静に見つめた。

「むしろ疑わなきゃあいけない。声をかけてくる他の参加者、そしてこのゲームの仕組み、自分が見えている全て…!
全てを疑えっ…!
だが、疑っているだけでは何も出来ない。自分で取捨選択し、行動するんだ。南郷の言うように。
だから、アンタの疑問…。俺の任務の意味、主催の思惑…全て納得するまで疑って疑い尽くせ…!
もちろん、今俺が発している言葉自体もだ…!」

森田はそれだけ言うと、玄関に向かって歩き出し、歩きながら振り向いた。
「南郷、第3放送の1時間前くらいになったら、G-6にあるギャンブルルームの前で合流しよう。
G-6がもし禁止エリアになったらこの温泉旅館前でどうだ?」
「ああ、わかった」
「じゃあ、時間も押してるんでこれで」
「気をつけてな…」
「アンタも…」
短く別れの言葉を交わすと、森田は玄関から再び外に出て行った。

佐原は、震える銃口をゆっくりと下ろす。森田の言葉が頭の中をぐるぐると回っている。
森田の言葉を受け入れることを脳が拒否している。
だがそれは恐怖からではなく、森田の冷静さや堂々とした態度に対する反発心からかもしれなかった。




森田は早足である地点へ向かっていた。
F-3、バッティングセンター。
最後に見た情報ではそこに平井銀二の名が点滅していた。それだけは決して忘れようが無い。

だが、急がなければならない。
平井銀二がずっとそこに留まっている保証など無い。
銀二はこの半日、常に行動していたし、バッティングセンターは腰を据えるにしては少々目立ちすぎる建物だ。

森田はこの瞬間をずっと心待ちにしていた。
銀二に会うのは、必ずゲームの突破口を見つけてから、と心に決めていたからだ。
今まさに、突破口を開くための糸口を見つけた。

黒崎との契約内容を伝え、首輪回収の協力を請うために、銀二に会う。
これでようやく合わす顔ができたというものだ。


………………銀さんに会える…!


森田は息を切らしながら、だが決して警戒を怠ることなく、大通りを走っていった。



【F-7/温泉旅館・フロント/真夜中】

【佐原】 
 [状態]:精神疲労 首に注射針の痕
 [道具]:レミントンM24(スコープ付き)、弾薬×29 、懐中電灯、タオル、浴衣の帯、支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:遠藤と会いたくない 人を殺したくない 自力で生還する 森田を信用したくない 混乱状態
※森田が主催者の手先ではないかと疑っていますが、自信がなくなっています。
※遠藤は森田に殺されたかもしれないと思っています。 第2放送で遠藤の名前を呼ばれたら、森田をマーダーと認識することにしています。
※第1回放送の内容を、南郷から取得しました。

【南郷】
 [状態]:健康 左大腿部を負傷
 [道具]:麻縄 木の棒 一箱分相当のパチンコ玉(袋入り) 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:生還する 赤木の動向が気になる 佐原と今後について話し合う 森田の首輪集めを手伝う
※森田と第3放送の一時間前にG-6のギャンブルルーム前で合流すると約束しました。


【G-6/大通り/真夜中】

【森田鉄雄】
 [状態]:健康
 [道具]:フロッピーディスク(壊れた為読み取り不可) 折り畳み式の小型ナイフ 不明支給品0~2(武器ではない) 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:遠藤を信用しない 人を殺さない 平井銀二と合流する 首輪を集める
※フロッピーで得られる情報の信憑性を疑っています。今までの情報にはおそらく嘘はないと思っています。
※遠藤がフロッピーのバックアップを取っていたことを知りません。
※南郷と第3放送の一時間前にG-6のギャンブルルーム前で合流すると約束しました。
※以下の依頼を受けました。契約書を1部所持しています。
※黒崎から支給された、折り畳み式の小型ナイフを懐に隠し持っています。

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【依頼内容】

制限時間内に首輪を6個集めること。
期間は依頼受託時から、第4回放送終了まで。
死体から集めた首輪は1個、生存者の首から奪った首輪は2個とカウントする。
森田鉄雄、平井銀二の首輪は3個とカウントする。
第4回放送を過ぎても集められなかった場合は依頼未達成とみなし、森田鉄雄の首輪を爆破する。
森田鉄雄がギャンブルルームに規定数の首輪を持参し、申告した時点で依頼達成とする。
資金の受渡は申告と同時に、ギャンブルルームにて行う。

【報酬一覧】

第2回放送終了までに集めた場合
ゲームを棄権する資金1億円+ボーナス2億円

第3回放送終了までに集めた場合
進入禁止エリアの解除権(60分間)
他者に譲渡可能。ただし、渡す側、受け取る側、双方の意思確認が必要。
確認がとれない場合、権利そのものが消失する。

第4回放送終了までに集めた場合
報酬、ボーナスともになし

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110:老人と若者 投下順 112:苦情
107:猜疑と疑惑(前編)(後編) 時系列順 112:苦情
107:猜疑と疑惑(前編)(後編) 森田鉄雄 121:慕効
107:猜疑と疑惑(前編)(後編) 佐原 123:活路
107:猜疑と疑惑(前編)(後編) 南郷 123:活路




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