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帝王 ◆6lu8FNGFaw氏


そこは洞窟のように真っ暗な場所であった。
暗く陰気な部屋の中、モニターの光が壁に反射して機械の輪郭を僅かに浮き上がらせている。
ファンが数台駆動している為、重なり合うようにそれらの羽音が周囲に絶えずこだましている。
ピピッと小さな電子音が聞こえ、部屋中央に設置してある大きなスーパーコンピュータから送られてきた情報が、
文書のアイコンとなってノートパソコンのモニターに表示される。

しきりにキーボードを叩いていた黒服が手を止め、アイコンをクリックすると、自動的に印刷画面のウィンドウが開く。
黒服が二、三度クリックすると、やがて傍にあったプリンタから書類が印刷され始める。

書類の束をそろえ、黒服は立ち上がり数歩先にあるリクライニングチェアまで歩き、お辞儀をする。
重厚な革張りのチェアに座り、眼前に広がる大画面をじっと見つめていた老人に声をかける。

「会長…また新しい情報が届きました。黒崎の動きです。
例のクレーム…首輪の疑問に対する返答を纏め、お客様に説明が済んだ模様です」
「それで…?」
「は…?」
「黒崎が動いた…それだけじゃあるまい」
「は…。後藤が黒崎の元へ乗り込んできたようです。例の森田の件です。
だが、急に手のひらを返すように大人しくその場を立ち去ったとの事。
後藤と何か密約を交わしたと考えられます」
「密約とはどういった内容か…?」
「は…。まだ内容を掴んでおりません。スパコンの予測もまだ出ておりません」
「『それ』が分からなければ意味があるまい…早急に予測し、予測から探り、足がかりを掴め。それまで儂の元に持ってくるな」
「かしこまりました…」
黒服は下がり、再びキーボードを叩く。会長は再び眼前の壁一面に広がる大画面を見つめる。
そこには今、とあるギャンブルルームが映し出されている。談笑する3人の男。自分の元部下二人と、我が息子の姿。

「愚かなものよ…」
画面を見つめながら、兵藤和尊はそろりと蛇のような笑みを漏らした。


会長の右手には、テレビのリモコンそっくりの機械。リモコンのボタンにはそれぞれ参加者の名前が書かれてある。
全ての参加者の名前が書かれている訳ではない。兵藤が参加者リストに目を通し、これはと思う人物のみに絞っている。
そして、そのボタンに名の書かれた参加者達の大半は生き残っている。
『田中沙織』のみ急遽別チャンネルを作らせ、予備チャンネルに入れていつでも鑑賞できるよう設定してある。

ここはD-1、標が目をつけていたあの『発電所』。
発電所の地下には兵藤会長の為だけの『王国』…個室が設けられていた。
他の主催達とは別行動を取り、機械に強い二人の黒服のみを連れ、島の端に篭っているのには理由があった。
兵藤和尊は楽しみたかったのだ。
このゲームに関わっている主催者、関係者、ギャラリーそして参加者達全ての中で一番このゲームを『貪欲に』楽しみたかった。

ここに運ばせたスーパーコンピュータの存在はほんの一部の人間しか知らない。
黒崎にさえ、スパコンの性能がどれほどのものであるかと言うことは教えていない。
スパコンはAI(人工知能)が搭載されている。
ギャラリーに送っている情報よりもずっと大量の精度の高い情報を処理している。
その中で会長の好みそうな情報を見分け、抽出して簡潔にまとめ、黒服のパソコンへと送っている。

ギャラリーに送っている情報などほんの表面、一部の出来事に過ぎない。
会長はこの島で一番正確に情報収集の出来る立場にあった。


例えば監視カメラ。
1000台島に備え付けてあったとして、他の主催陣にはその半分の台数のみしか申告していない。
他の主催者達がいる施設に於いてもそうである。
このバトルロワイアルの運営を任されている帝愛のトップであるからこそ出来ることであった。

第二放送前、黒崎と森田の契約を真っ先に兵藤が知ったのも、この設備があってこそであった。
モニターで二人のやりとりを見ながら、会長は内心心踊る思いであった。

早速『ギャラリーの一部』からの送信と見せかけ、黒崎と森田の映像をギャラリーに流し、抗議する旨を煽っておいて、
黒崎が第二放送を流す数十分前をわざと狙い、黒崎に連絡した。

 『10分以内に準備し、お客様に説明を…』
 『…5分だ』

ブチッと一方的に回線を切った後、会長はそれまでの怒りの表情から一変、にやりと笑みを浮かべた。
「ククク…クゥクゥクゥ……」

(黒崎はさぞ慌てていることであろうの…!それというのも、生半可な動き方をして隙を見せるのが悪いんじゃ…!)

黒崎の独断に満ちた行動は、兵藤にとって格好の『標的』であった。
これを契機に、会長は黒崎に休む余裕を与えぬよう、次は『首輪に欠陥はないのか』という内容を掲示板に書き込むよう指示する。


ギャラリーのパソコンから、あるサイトへとアクセス出来るようになっている。
『バトルロワイアル』と書かれたトップページに書き込まれるのは、
主催からギャラリーへの連絡や、その日の天気、気温などを伝えるような差し障りの無いものである。
トップページに『お客様の声』という簡単な匿名掲示板のリンクが貼られている。

この掲示板、匿名といっても、下手なことを書き込んで、書き込んだ元を辿られては適わないと、あまり利用する者はいなかった。
だが、閲覧はしているようで、一度書き込んだ『首輪への不安』に対する反響は少なからずあった。
黒崎宛で首輪に関する質問のメールが殺到したようである。

黒崎は苛立ちを隠せないまま第二放送を終え、首輪に関するクレームの処理に追われることとなった。
だが、その合間にちゃっかり後藤とも話をつけた様であるから感心する。

兵藤は黒崎の足を引っ張りたいのである。
黒崎が兵藤に断りなく独断で動き回っているのは、蔵前、在全と『自分が』取引をし、繋がりたいからである。
兵藤を差し置き、黒崎自身が、である。
理由は明白。黒崎は、蔵前、在全両氏の力添えを盾に、兵藤を蹴落とし、帝愛トップの座を手に入れたいと考えているからである。
このゲーム…バトルロワイアルでの結びつきを切欠にして。

そんな大胆ともとれる黒崎の行動。
兵藤会長は黒崎を快く思っていない、だから黒崎の邪魔をしたいのであろうか?

答えは否。
兵藤会長は黒崎の事を頼もしく思っていた。


今の状況を兵藤は前もって予測していた。
黒崎がバトルロワイアル前から、秘密裏に組織内部に手を廻し、帝愛No1の座を狙っていることは知っていた。
この大掛かりなゲームに乗じて、在全や蔵前に力添えを頼むであろうことも予想できたことである。

(帝愛のNo2は、そのくらいでなければの…!そうでなければ儂の一つ下の位置に存在する価値など無い…!
No2は、No1にとって脅威になる位の野心家でなければならぬ…!)
会長は黒崎の野心を高く買っていた。

その、ある種異様な考え方は…かつてのNo2…利根川が失脚した原因にも繋がる。


利根川はNo2で満足していた。
どれ程日々の仕事を滞りなくこなそうとも、どれ程会長の性格を理解し、会長に尽くそうとも、
利根川には(兵藤会長の考える)一番大切な資質が欠けていた。

…そんな利根川の本質を試そうと考えているとき、兵藤の前に格好の『当て馬』が現れた。
死の橋を一人渡りきり、透明な階段を上り、会長の前に現れた若者。
その男は『船』の中でもひときわ目立つ存在であった。
わめき散らしている事は支離滅裂、目茶苦茶だが、その目茶苦茶を己の行動を以って通すような男。


その『当て馬』を利根川にぶつけた。
利根川の絶対有利、どう考えても負けるはずの無い状況で、利根川は一度負けた。
対戦していた男が弱気に流れ、直前でカードを逆に出したのだ。

兵藤会長はここぞとばかり利根川を罵り、杖で打ち据えた。
ここでの折檻の意味は二つあった。
一つは衆人環視の中、利根川を冷遇するための理由を作ること。
もう一つは対戦相手の男に『ヒント』を送るためであった。

もっとも二つ目に関しては過剰に期待していたわけではない。
ここでヒントを生かすような男であれば、多少面白い展開になると踏んでのことだ。
駄目なら駄目で構わない。対戦相手の『新しい死に方』を楽しむだけのこと。
駄目でなかったなら、利根川を失脚させるための布石、口実になる。

結果、予想以上に手間が省け、予想以上に楽しませてもらった。


王は負ける戦はしないのである。
あの勝負は、どっちに転んでも兵藤にとっては『勝ち』であったのだ。


「会長…」
もう一人の方の黒服の声で、兵藤は回想から引き戻された。
「『首輪』や『後藤との密約』とは別件ですが、こんな出来事が…」
「何だ…?」


兵藤が目を通す。それは村岡が黒崎に宛てた『嘆願』であった。
「何だこれは…?」
「は…。一度目を通して頂いたほうが良いかと判断しまして…」
「クク…色々考えるものだの…!」

兵藤は黒服に書類を突き返した。
「放っておけ…。そのうち黒崎が良いように動くだろう。
黒崎が接触するようなら、また森田のときのように黒埼に連絡し、焦らせる口実になる」
「は…」
黒服は書類を丸め、下がりかけたが、兵藤がそれを呼び止めた。

「ところでお客様の様子はどうなっておる…?」
「は…。『首輪』では、『森田』の時ほどは動きは無いようです。
実際、『森田』の件で広間に集まった時も、会話どころか情報交換もありませんでしたし…。
一人個室にいるのとあまり変わらぬ、余計なリスクは御免と判断しているようです」
「そうか…。実に好都合。
例のコミュニティもずいぶん書き込みが増えているようじゃの…。
お客達は個別に切り離されているが故に、手元に届く唯一の情報を全てと思い込むようになる。実に理想的…!」
兵藤会長は手を叩いて喜んだ。


「最も…そうなるように仕向けたんだがのう…!あのお方々は、このゲームの顛末を見届ける大事な証人…!
儂の思い通りにゲームが終了したとき…。
結果を脳裏に刻み込んでもらうための『唯一の生き証人』じゃからの…!」

兵藤が右手に持っているリモコンのボタンを押すと、パッと場面が変わった。
そこは海だった。
カメラの中央に、波間にぽつんと船が一隻浮かんでいる。島は見えない。
カメラの映す遠景では小さく見えるが、それは豪華客船であった。
かつて一夜限りのギャンブル・クルーズとしても使われたことのある船…。
その名はエスポワール…『希望』の船………!

ギャラリーはエスポワールに乗り込み、島から遠くはなれた沖に碇を下ろしていた。
島の内部ではない。
島の中では殺し合いをやっているのである。そんな危険な場所で、誰が安心して観戦していられよう。
『セーフティの愉悦』をお客様に実感して頂くため、ギャラリーは島から遠く離れた船の中で、
ノートパソコンから受信した情報でこのゲームを『観戦』しているのである。

会長は『あること』を目論んでいた。
壮大な野心。王にしか抱くことの出来ぬ恐るべき計画。
それは、首輪をつけた参加者のみならず、主催者、関係者、『島にいる全ての人間』を『参加者』に見立てた上で、
この島で唯一人、兵藤和尊が『優勝』すること。
そして、その力を船にいるギャラリーに誇示すること。


優勝…つまり、この島で唯一人、生き残るということである。




ここで、バトルロワイアルが開催されるまでの経緯を説明する。
バトルロワイアルは在全グループが『新しいギャンブル』として帝愛、誠京に持ちかけてきたものであった。
在全は、『新しいギャンブルで優勝した、優秀な参加者一名のみを選出、その人物を自分の代打ちにする』という、
純粋にその目的のみで開催したいと考えていた。

だが、兵藤は在全から話を持ちかけられた時から、在全グループ、誠京グループを吸収する計画を思い描いていたのだった。

帝愛のノウハウを生かし、ゲームを細部まで計画し、企画書を在全グループに提出した。
そして是非ともゲーム進行を任せて欲しいと在全に頼んだ。
もちろんこれは表向きの理由である。
実際のところは帝愛No2の黒崎を重要ポストにつかせ、帝愛有利に進めるための進言であった。
後藤は帝愛の魂胆を見抜き、懸念していたようであるが、在全の決定には逆らえなかった。


ここまでゲームのお膳立てをしておいて、何故兵藤は黒崎の足を引っ張り、
ひいてはゲームそのものの足を引っ張ることを画策しているのか。

兵藤は、対主催陣と主催陣がぶつかりあい、互いに共倒れになることを望んでいた。
若しくは、対主催の参加者達が主催者達に反抗し、主催者達を倒してくれれば良いと考えていた。
そうなれば兵藤にとっては漁夫の利である。
労せず理想的状況が手に入る。



その為に、多少参加者に有利な状況…主催者の足並みの乱れなど…を用意してやることが先決である。
主催陣の足を引っ張り、参加者には塩を送る。それがこれから兵藤のやろうとしていることであった。

兵藤は、対主催の立場をとっている参加者ばかり残った現状を喜んでいた。
兵藤は単独行動をとっているので、主催者達の陣営が堕ちても兵藤には被害が及ばない。
この隠れ家を見つけられぬ限り。
主催者達を倒してくれた後は、対主催や生き残りのゲーム参加者、全てを首輪爆発で殺せばゲーム終了である。
ギャンブルルームで勤務している黒服達に至っては見捨てるつもりであった。


リスクが無いわけではない。
主催陣に思惑を見抜かれ、結束してこの場所を攻められればアウツ…!
…もちろん、兵藤は対抗策をいくつか用意してある。…それを使わずに済むのが一番ではあるが。

兵藤の思惑通りにゲームが終了した場合。
最終的に兵藤は、D-1の地下に隠してある3人乗りの潜水艦にて、自分の側近二人の黒服とともに脱出するつもりである。
この潜水艦の存在はこの側近二人しか知らない。側近の黒服二人は全て了解して会長の傍についている。


ふと、画面に目をやり、リモコンでチャンネルを戻す。
兵藤の息子、和也の様子が大画面に映る。


(もし、我が息子が参加者の中で唯一人の生き残りになれば…。
そうして、最後に息子とぶつかる様なことがあれば……)

会長は目を閉じ、再び過去を思い巡らす。
和也のバトルロワイアル参加を進言したのは兵藤会長自身であった。
『厳しいようだが、次期会長の器があるかどうか見極めるためだ』という理由で参加させた。
それに関して、黒崎は一応否定的な意見は述べたものの、強く反対しなかった。
黒崎としては、兵藤の一族になり代わり帝愛のトップの座につくためには和也は邪魔な存在である。
和也が危険な状況に置かれ、あわよくば死んでくれれば良いと打算が働いての行動であろう。

黒崎が強く反対をしなかったことで、兵藤は『黒崎がこのゲームで行動を起こすつもりでいる』という予測に確信を持った。
言うなら、それを確かめるために、自分の血筋である和也を参加させることを提案したのである。


和也には強く念を押しておいた。
『ただ一人、”優勝”しか生還はありえない』

(そうだ…。儂は確かにはっきりと念を押しておいたのだ…!
だから…儂を倒さぬ限り、生還は無いということだ…。そして…。
儂を倒せば、晴れて次期会長…。これ程分かりやすい世代交代もないじゃろうっ…!
じゃが、当然儂も完全なる『優勝』を目指す…!髪の毛一つ分も隙は見せぬが、のう…!!)


兵藤和尊にとって、『完全なる勝利』…思い描いた未来は、この世のものとは思えぬほど甘美であった。
リスクがあれば…スリルがあればなお良し…!
彼もまた、『勝負』という事象…ギャンブルに脳を焼かれた異常者であるのだ…!


(快感は…。
本当のめくるめく快感は…。
常軌を逸するからこそ辿り着けるっ………!)


「ククク………クゥクゥクゥ………クククククッ……………!」
リクライニングチェアに背を預け、人としての倫理を超えた理念を持つその“王”は、
画面を眺めながら忍び笑いを漏らし続けた。



【D-1/地下王国/深夜】

【兵藤和尊】
 [状態]:健康 興奮状態
 [道具]: ?
 [所持金]: ?
 [思考]:優勝する 黒崎の足を引っ張る 主催者達を引っ掻き回す



116:夢幻 投下順 118:説得の切り札
114:交渉 時系列順 116:夢幻
112:苦情 兵藤和尊 127:帝域




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