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我執(後編) ◆xuebCgBLzA氏


―――某年某日。
日本随一のフィクサー、平井銀二はビジネスとして、大企業のトップと会合を持つ事になっていた。
今日の仕事相手は、同じく日本随一の企業である帝愛の兵藤和尊氏である…。
かつての右腕・森田と別れ、民政党総裁・河野とのサシ勝負の後、銀二のビジネスは右肩下がり…。
とはいっても、収入に困っているわけではないが、いわゆるハイリスクハイリターン…。そういった仕事がなくなっていた。
自分を陥れるような大敗もなければ、目がくらむほどの現金が手に入る大勝もなく…、ただ平坦であった…。平坦な仕事ばかりで、平井銀二は燻っていたのだ。
しかし、今回はどうやら状況が違うらしい…。兵藤が「トップだけで話したい」と申し出たのだ。
それはすなわち、銀二の仲間である、安田らを会合には呼べないし、あちらもまた、右腕である黒崎を出さないというのだ。
危険な香りはした。しかし、今の銀二の求めているのはまさしくこの危険な香りだったのだ…。
待ち合わせた料亭につき、仲居に兵藤が待つ部屋の前へと導かれる。
「失礼します」
ふすまを開きつつ会釈をする。顔を上げたら、当然そこには兵藤がいて、ビジネスの話がはじまる…と思った。
しかし、顔を上げたとき、そこにいたのは本来いるはずの兵藤に加えて二人…。
在全無量と蔵前仁がいた…。一瞬驚いたが、冷静を装いつつ言った。
「なるほど…『トップだけでの会合』ですか…。間違いではありませんね…」
「ようこそ銀さん…歓迎するよ…」
三人は薄ら笑いを浮かべながら銀二を迎える。
不気味な光景だった。日本の大企業三社の会長がひとつの部屋に揃い踏み…、他には誰一人としていない…。
「兎に角、座りなさい…。話はそれから…」
兵藤の気遣いを聞き、我に帰る。異様な光景を前に立ち尽くしていたのだ。
(落ち着け…俺らしくもない…古狸が三匹…それだけだ…)
動揺と共に銀二に湧き上がる興奮っ…。
(この空気……ムワッとした蒸しかえすような空気…。
 ここ最近のちいせぇヤマとは違う…でかいヤマだ…)
会長らの出す雰囲気は異質だった。さすがは大企業のトップというべきか…。

銀二は会長らの対面に座る。
「さて…銀さん…。
 今日は我々老いぼれのわがままを聞きに来てくれた事を、
 まず感謝させてもらうよ…」
いえ…と小さく否定する銀二。
「まぁ…くだらん前置きはなしにしてじゃな…。
 今回の以来は、あるギャンブルについてじゃ…」
いままで何度か兵藤との仕事をこなしてきたが、それはいつもギャンブル絡みだった…。
ギャンブルに参加する若者を募ったり…、ギャンブルの企画をしたり…。
銀二は今回もギャンブルのことだろうと予測はしていた…。
「ただ、今回はいつもの小さい規模のギャンブルではない…。
 我々三社が共営し、日本はもちろん海外のお偉方も数多参加していただく予定じゃ…。
 そんな大舞台でヘマはできんからの…。銀さんにもひとつ知恵を借りたいと思ってな…」
「なるほど。わかりました…。それで…具体的にはどんな内容をお望みで…?」
「鉄骨の時みたいに、若者に何かをさせて…それにトトカルチョをつける…この方式かの…」
平然と言ってのける兵藤…。
「あれ…?構想は浮かんでいるのですか…。
 では、後は黒崎さんなり、袋井さん、後藤さんと取り次ぐことができれば…」
三人はそれぞれ特徴のある笑い声を上げる…。笑いをこらえながら兵藤が言う。
「いやっ…いやいや…足りんのだよ…鉄骨渡り程度じゃあ…興奮が…感動が…阿鼻叫喚が……。
 鉄骨渡りの第一ステージでの闘争心と…第二ステージでの絶望感…これがどちらもほしい…」
銀二は色を失った…。
(こいつらっ…クズだっ…!
 てめぇら三人で…何人を殺してきたと思っていやがるっ……!
 まだ足りねぇのかよ…!)
「………隠すのはやめましょうや…。
 このご様子だと…すでに決まっているのでしょう…ギャンブルの内容…」

「察しがいいのう…銀さんは…。わしらの考えたギャンブル…。
 野生の本能のぶつかり合う―――『バトルロワイアル』。
 …とどのつまりが『殺し合い』じゃ……」
一般人が聞いたら腰が砕けてしまうような提案だっただろう…。しかし、銀二には、ある程度の予測がついていた。
(…やはりそうきたか……ついに、極論に行き着いたな…悪魔どもっ…)
「しかし、ただコロッセオのような所に参加者を放して『さぁ殺し合え』っていうのじゃ…
 …やはりつまらない…。ある程度の広さを持った会場で…、
 数日に渡って殺しあってもらわないと…、
 せっかく遠路はるばる来てくださるゲストにも失礼じゃ…。
 そこで…銀さん。あなたには…この大舞台に見合った参加者を考察してもらいたい…。
 裏の世界を知り尽くしたあなたにしか頼めないのじゃ…」
「なるほど…。大役ですな…。して…その会場ってのは何処にするのです…?」
三人が顔を見合わせる。
「おぉ…?すっかり忘れておったわ……どうする…?“また”買うか…島でも…?」
(呆け爺どもが…!…いくらなんでも有り得んっ……軽く見すぎだ…命を…!)
だが、銀二にある閃きっ…!体を駆け巡る電流っ…!

(―――ちょっと待てよ…?今…なんて言った…?まさか…あの噂…事実だったのか…?
 あの噂が本当だったら…『二重の攻撃』でこいつらを討ち取れるっ…!)

逸る気持ちを抑える。
「いえ…開催場所もなんとか確保しましょう…」
「では…!この話っ…受けてくれるということかの…!?」
在全の言葉を受けて、銀二が立ち上がる。
「外で夜風に当たってきます…。少し…考えさせてください…」
店の敷地外まで出てきて、タバコに火をつける。

店の敷地外まで出てきて、タバコに火をつける。
(…しかし…俺にあいつ等を裁く権利があるのか…?
 俺はあいつらを悪魔と呼べるのか…?自分の悪行を棚に上げて…。
 あいつらが裁かれるのなら…俺も裁かれる必要があるんじゃないのか……?)
タバコを踏み消し、煙を出し切る。
携帯電話を取り出し、耳にあてる…。発信先は安田…。
「安田……帝愛の無人島レジャーランドで働いていた男と繋がりがあったよな…?
 そいつの話を聞きたい…。明日の朝…。ん…?あぁ…そうだ…仕事だ……でかいヤマ…」
そういうと、一方的に電話を切る。踵を返し、また料亭へと入っていく…。

「分かりました…。お受けしましょう。今回の仕事…。
 ただし…開催場所と…参加者は私がある程度の決定権を持つ…。それでよろしいか…?」
「もちろんっ…!銀さんなら受けてくれると思っとったよ…!
 ではでは…契約完了の祝杯じゃ…!」
兵藤が杯を掲げる…。二人もそれに続く…。
「……ありがとうございます…。ですが…今日は失礼します…。
 明日の朝から仕事に取り掛かりたいので…」
「仕事熱心じゃの…銀さんは…!わしは…あんたのそういうところを買っておる…。
 一週間後にまた会合を持とうではないか…」
「わかりました…では…おやすみなさいませ…」
銀二は部屋を後にした。
部屋では、悪魔達の静かな宴が始まったらしい…。
こうしてバトルロワイアルの脚本が書かれ始めた…。


 * * *

―――翌日。
銀二と安田は喫茶店で作戦会議の場を持つことになった。
昨日の出来事を安田に話す…。
「なるほど…。なかなか金になりそうな仕事だな…。
 それで…会場としてあのレジャーランド島を選んだって訳か…」
「ご名答…。しかし…理由はそれだけじゃない」
「レジャーランド島の裏の顔ってやつか……」
「そうだ。そいつを裏付けることが出来れば…帝愛、蔵前、在全と決着をつけられる…。
 この機会…みすみす見逃すわけにはいかねぇ……」
安田は耳を疑う…。
「何だと…!?決着をつけるって………国の経済が回らなくなるぞ…!?」
「だが、やつらが権力を揮って、議員を買い、役人を買い、
 趣味のために人間を殺しているのも確かだ……!
 それに、今日の日本だったら、簡単に沈みやしねぇ…!
 言うなれば他のやつ等にはチャンスが与えられる…!!
 エサを食べ過ぎた鷹や鷲は…地へ落ち…朽ち果て…小さきものに食われる…!
 それが“常”だっ…!」
この時、銀二のいう『鷹や鷲』に銀二自身も含まれていることに安田は気がつかなかった。
だが、銀二の決意は紛れもなく本物であるということだけは感じ取った。
「しかし…可能なのか…?銀さんが決めたことなら…全力でサポートするが……」
「そのためにこうやって綿密な計画を練ろうとしているんだろうが…」
間髪入れずに反論する銀二に驚く。
(こんなに感情的な銀さんも珍しい……)
気まずい沈黙の後、安田が話を再開させる。
「…そういえば、例の男ならこねぇよ。
 銀さんを疑うわけではないが、帝愛の手先と会うことは避けたいらしい…」

「口封じされることを懸念したのならば…やはり、それだけ危ない島だってことだ…」
「うむ…。んで、変わりに封筒と鍵を預かってきた…。
 自分の身元を明かさない条件で、使ってくれ、と。
どうやら…島の病院でくすねてきたものらしい…。鍵は病院のマスターキーだそうだ…」
「マスターキー…!随分と危険な真似を……。
 だが…それなら確かに…怪しい人間とは会いたくないというのもうなずける…。
 それに、ここまで危険を冒してくれたという事は…それほど奴等のやり方が気に食わないってことだ…。
 そいつに礼を言っておいてくれ…『命がけの襷』は始まった、と…」
安田は頷き、鍵と封筒を銀二に渡す。
銀二は渡された茶封筒を開き、一枚の紙を取り出す。


「こいつは…ポーカーの時のボンボンっ…!?」
安田が驚愕する。
その紙は一見カルテのように見えた。顔写真に本名、住所、年齢…。
しかし、一般的なものとは違い、病名や病状などは書いてなく、そのかわりに人間の身体を模した絵と、
その絵に添えるように『右鼓膜、済』『指10/10、済』『精神に異常発生』『後日、ウイルス投与』など、所狭しと診断結果(?)が書かれていた。
「西条とかいったか…?そういえば…あいつのオヤジの銀行…経営破たんしたって聞いたな…」
ぶつぶつと独り言をいう安田を尻目に、銀二はカルテを見続けていた。
「―――クロだ…」
銀二が何か言ったので、安田は目をやった。
「やつらが、あの島で人身売買や人体実験をしている事はこのカルテにより明白…。
 だが…証拠が足りない…。こいつだけだったら、捏造だと言われて終わり…。
 こいつの魔力は他の証拠…。
 そして、こいつを持ってきた人間の証言で、初めて成り立つものだ…」
独り言のように呟く銀二…。まだ安田にはいまいちピンときていない…。
「その証拠は紛れも無く…島の病院内にあるだろう……こいつを取りに行く…」
銀二が三人を陥れるために思いだした噂とは、表向きはレジャーランド島として造られた島が、
裏では人身販売、臓器販売の取引場所であり、拷問器具や化学兵器の実験台を飼うための場所であるという噂だったのだ。
こんな小さな島に、宿泊施設が三つもあるのはそのためであり、バトルロワイアルのスタート地点となったホテルと、東南の旅館は一般向けの宿泊施設であったが、
もうひとつのホテル、一条、板倉、しづかの三人が血の惨劇を繰り広げたあのホテルは、帝愛、在全、蔵前に負い目のある被験者たちの収容所だったのである。
病院もよくよく考えたら、異質である。入院患者などいるはずのないこの島に、大きな病院は要らぬはずであるからだ。
「その証拠を取りにいく手段が…バトルロワイアルってわけかよ……。
 い、いやしかし…!その為だけに誰かを殺し合いの場に身を投じさせるってのか……?」

「そうだ……千載一遇のチャンスなんだ…。悪魔の血を断ち切る唯一の…。
 確かに…人生において勝つ人間ってのは…大悪党でなくちゃならん……。
 他人を跳ね除け、平然と踏み潰すのが仕事だから当然だ……。
 しかし…やつらはやりすぎなんだ…。制裁は必然っ…!俺が下すっ…鉄槌を…!
 ……そのためには事前の準備を怠れない…。
 会場はレジャーランド島として…次は参加者だ…」
そういって、銀二は一枚のメモを安田に手渡す。
「これは…?銀さんの希望する参加者の一覧か…?」
そこには、アカギ、鷲巣、カイジ、利根川、一条、原田、沢田、板倉、天、ひろゆき、涯、零、標、そして森田の名前が書かれていた。確かに裏社会を彩る者揃いであり、この面々ならば海外のVIPをも満足させられるだろうが、その中には安田の知らない名前もあった。
「そいつらは、日本の裏社会の顔と言っても過言ではない連中だ…。
 だが、その面子にはある共通点がある…。わかるか…?」
安田は首をかしげる…。何せ、知らない名前もあるのである。銀二の言う共通点には気付かなかった。
「バトルロワイアルの場に立ったとき、『対主催のスタンスを取る可能性がある人間』だ…。
 俺が元々一目置いていたっていうのもあるがな…。
 参加させる理由も上手くこじつけられる…」
安田が聞き入る中、銀二は、それぞれの参加させる理由と対主催に動くであろう理由を話し始めた。
「まずは、アカギ…。こいつは現代最強の雀ゴロと言われている…。
 しかも、その経緯、思考や洞察力も並々ならぬものだ…。
 こいつなら…殺し合いの裏に隠されているものに気付き、
 暴いてくれるのではないかと期待している。

 次に、言わずと知れた昭和の怪物、鷲巣巌…。
 人の命令で動く事が大嫌いなはず…。更に、海外にも名の通るビッグネーム…。
 ふたつの条件を満たしている…。

 天、ひろゆき、原田…こいつらは、東西の麻雀のルール統一のために戦った男達だ…。
 アカギと同じく、相当の実力を持つ麻雀の打ち手だろうから…、
 こいつらの思考、洞察が気になる…。

 関東ヤクザの有望株である板倉と沢田もなかなかの影響力をもっている…。
 切れる男達らしいしな…。

 利根川に一条…。帝愛の出世頭だったが失脚した二人…。
 復讐を選ぶのか、服従を選ぶかはわからないが…、
 立身出世のエリートコースに戻らせるという理由でなら参加させられる…。

 そして、安田が知らないであろう零、標…。
 こいつらは今まで挙げた人間よりもだいぶ幼い…。しかし、在全の『王への試練』にて、
 他を寄せ付けない頭脳、洞察力、判断力にて圧勝した…。
 参加させるにはなかなかうってつけだ…」
安田は、淡々と『殺し合わせる』人間の名前を挙げていく銀二に少々恐怖を覚えた…。
「残ったのは三人か…この三人はある意味では一番…期待している…。

 伊藤カイジ…。カイジは帝愛の幾多のギャンブルを乗り越えてきた…。
 場慣れという意味ではこいつが一番だ…。
 カイジも兵藤も…お互いを憎みあっているだろう……。

 森田鉄雄…こいつの力は俺たちが一番知っている…。正義感にも溢れている…。
 必ずや、俺の力になってくれるはずだ…。

 最後に工藤涯…。中学生だ…。しかし、いつぞやの人間学園事件…。
 脱出し、告発し、平田を壊滅まで追いやったのはこの中学生だ…。
 脱出…告発…そして壊滅…。この流れは、今回のバトルロワイアルで、
 俺たちが描いているシナリオそのものなんだっ…!いうなれば涯は先駆けなんだっ…!
 現場でこいつと接触することができれば…かなりの戦力になるだろう…!」

安田はただただ感心していた…。
「昨日だろ…?バトルロワイアルの話が出たのって……。
 ここまで調べ上げるなんて…さすがというか…。………それで…肝心な点…。
 いったい誰に大役……銀さんが目をつけた奴等に、ゲームへの抵抗を持ちかけ、
 病院から証拠を持ち帰る運び屋を誰にやらせるんだ…?
 手軽に接触できる人間が理想だが…」
静かに銀二は口を開いた…。


「―――俺だ…」
「…え?」
少し間をおいて、安田が聞きなおした。
「俺も殺し合いに参加する…。そこではじめてこいつらと接触し、協力を求める…。
 だがそれは、単に『対主催』としてであって、『証拠を持ち帰ってくれ』という事ではない…。
 証拠を持ち帰ってくれるよう頼むのは、一人か二人…今、列挙した他の人物らには、
 島のどこかで高みの見物をしているであろう主催側に物的に、
 攻撃をしかけることを期待している…。当然、それが成功すればそれでいいのだが…、
 そうは簡単に事が進まないと俺は思っている…。あの三社が大勢のVIPを招くのだから…、
 警備はだいぶ強固なものになるだろう…。だが、俺がその裏をかき、証拠を探す…。
 その証拠は…俺が持ち帰ることができなくとも…誰かに託す……『命がけの襷』だ…」
これが銀二の思いついた『二重の攻撃』である。
安田は動揺を隠せない…。
「死ぬ気か…銀さん…!だったら…俺が行くっ…!銀さんが行かずとも…俺が行けば…」
安田の言葉をさえぎるように銀二が言う。
「いや…。安田、船田、巽には、生還者と元レジャーランド職員の保護…、
 三社に買われていない判事、検事の確保…。告発までの全てを託そうと思っている…。
 こちらに残る事だってあながち間違っちゃいないんだ…。『命がけ』っていうところで言うと…。
 …これは…俺から最後の依頼だ…受けてくれまいか…?」
「……わかった…。最後のっていうのは納得いかねぇが…
 俺たちは銀さんを全力でサポートする…。二人もきっと同じ考えだろうよ…」

二人は話に一区切りついたということでコーヒーを飲んだり、タバコを吸ったり、外を眺めたりした…。
だが、この間二人に会話はなく、各々、沈黙と、余韻を過ごしていた…。
その沈黙を解いたのは銀二だった…。
「なぁ…安田……。お前…なんでこっちの世界に来たんだ…?
 確かに警視庁時代のお前の勤務態度はお世辞にもいいもんじゃあなかった…が、
 別にヤクザとつるんでいた訳でもなかったよな…?」
「どうした…急に……銀さんこそ、どうなんだよ…」
「俺は…世界の全てを見てみたかった…、ってだけさ…。『子供の頃にわかりかけてたことが
 大人になってわからないまま』…なんて事…ばっかりだったからな…。
 大人になって…わかったのは…世界の大部分は汚ぇ大人が隠しているってことぐらいだ…
 まぁそれぐらい…この時代じゃあ…子供でも知っているがな…。
 その汚ぇ大人ってのになれば…、世界を見渡せるかと思ったんだよ……。
 …だが、見えてきたのは…やっぱり汚いものだけで…。
 金やら…横暴やら……。俺は…もう…うんざりだったのかもしれん…。
 ……そう思えば…ちょうど良かった…。…灰になるには…最高の大舞台じゃねぇか…。
 兵藤たちの思い通りになっているのならば、いけ好かないが…猛者に殺されるなら…本望だ…」
感傷的な銀二を初めて見た安田はただ黙って銀二の思いを聞いていた…。
銀二の話が終わると、また少しの沈黙が流れた…。
次にこの沈黙を破ったのは、ラジオの歌声だった。

『ああしなさいとか こうしなさいとか もううんざりだよ
 ああしなきゃとか こうしなきゃとか もううんざりだよ』

喫茶店の喧騒の中、曲の全てを聞くことは出来ないが、二人はただその曲を聴いた。
外を眺めながら、あるいはコーヒーを飲みながら。

『入院したくない 病気で死にたくない ベッドで死にたくない 即死でたのむぜ
 痛いのはゴメンだ 苦しむのはヤダ 一瞬でいくぜ 即死でたのむぜ』

パンクロックバンドとは思いがたい軽快な音楽だが、その歌詞は、今の銀二と安田の胸に突き刺さる。

『振り返りたくない 考えたくもない 涙はいらない 即死でたのむぜ
 厳かはイヤだ くだらないほうがいい 笑えりゃなおいい 即死でたのむぜ』

銀二は曲に合わせ、歌を口ずさんでいた…。安田はそれをただ…ただ聴いた…。
「……どうせ死ぬなら…俺の集大成である…ギャンブルだ……。
 そうだな…猛者揃いだし…それがいい…」
殺し合いの場には不釣合いなギャンブルルームとチップという概念が生まれた瞬間だった…。
安田は、銀二の姿を見て泣いていた…。
自分の過去を話したり、人前で歌を口ずさんだりするなど、今までの銀二にはないことであった…。
この行為が安田には銀二が死を悟ったように思えたのだ…。
「……あんたなら…きっと大往生できるだろうよ…!
 こっちの…後始末は任せて…死んでこい……!
 全力で死ぬのが…あんたには似合っている…!」
「すまねぇな…最後まであてにしちまって…」
銀二はそういって安田の肩を叩き、去っていった…。
もう一度、会う日があることを信じて…。
だが…安田が銀二を見るのは、この日が最後となった…。


* *


兵藤らとの会合から一週間が経ち、二度目の会合の日がやってきた…。
しかし、銀二には腑に落ちない点があった。なぜ、あの三社が手を組んでいるのか、という事である。
(その点も現地で探る必要があるな…。こちらでは調べきれなかった…)
あいさつを終え、開催場所、参加者、ギャンブルルームの三点について提案した…。
銀二の話を聞き終えた三人は喜んだ…。
「さすが銀さんじゃ…!我々が頼んだ事以上の働きをしてくれるとはの…!」
と、兵藤。
「ギャンブルルーム…。結構じゃないか…!
 このメンバーの戦いが早く見てみたいねぇ…」
とは、蔵前。
「今夜から、眠れぬ日が続きそうじゃわい…!」
これは、三人の中で一番幼い精神の持ち主である、在全の言葉である…。
「…ひとつ、お願いなのですが…、
 私も…バトルロワイアルに参加させてもらいたいのです……」
「……」
三人は呆気に取られているようだった…。
そりゃあそうだ。「私も死なせてください」など…。
狂気の沙汰だ…。まして、企画の第一人者である人間が…。
(さすがに怪しまれたか…?)
…が、しかし…。

 パチッ!
   パチッ!

三人は拍手をした…。銀二の意気を称えるように…。


「素晴らしい人だ…!老人のために…文字通り身を粉にして働いてくれるとは……!」
三人は、銀二を褒めに褒めまくった…。
(…阿呆どもが……確実に首を取ってやるからな…)
固く心に誓い、置かれていた水を一気に煽る…。
それをみた兵藤はますます機嫌をよくする…。
「どこで調べたかはわからんが…。あの島が会場というのもうってつけじゃ…!」
口ではこう言っているものの、兵藤はレジャーランド島を開催場所として提案された時、微妙に顔色を変えた。
この一瞬を銀二は見逃さなかった…。
(やはり…クロだったか…。あとは…もう一度、安田と作戦会議を持つことが出来れば…完璧だ…)
しかし、この願いは叶わない…。
「ふむ……いかんせん参加人数が足りんの……。
 この倍は欲しい…トトカルチョには大穴も必要なものじゃ…!」
「では…次にお会いする時までには…確定させますよ……」
「いやいや……銀さんには…休んでもらおう……
 ―――バトルロワイアルがはじまるまで…なぁ……」
兵藤がそう言い放った瞬間……

―――景色が歪む…。
(何だ…!さっきの水に…一服盛られていたか…!………………)
兵藤の口角が上がる…。
蔵前、在全も手を叩いて見ている…。

―――意識が…

            遠のく…

銀二はその場に突っ伏した…。
「この狐めが…!このまま我々の所で引き取らせてはもらえんかね……?
 こいつだけは…今すぐにでも殺したい…」
以前、銀二に煮え湯を飲まされた蔵前が憎しみを込めて言い放つ…。
「カカカ……。確かに…銀さんを殺したいという人物は…山ほどいるでしょうな…。
 だが……バトルロワイアルを企画してくれたのは…銀さんじゃ……。
 弔いの意を込めて……ここは…銀さんの意思を尊重しよう……。
 それに…何を考えているかはわからんが………こいつがいるだけで…、
 トトカルチョは黒字になるだろう……」
蔵前は兵藤の意見をしぶしぶ聞き入れた…。
「まぁ…銀さんが自ら参加表明してくれて助かったよ……。
 そうでなければ……本当に殺すしかなかったからの…」
そういいながら、銀二のスーツを弄る兵藤…。
あるものをスーツから取り出して、二人に見せる…。
蔵前、在全はそれを見て、眉にしわを寄せた…。
「こんなものを持ち帰られたら……大変なことになっとっただろうな……」
兵藤は銀二のスーツから探し出したテープレコーダーを自分の懐にしまった…。
「当日が楽しみになってきたのぅ…カカカ……キキキ…コココ…」
兵藤の笑い声が闇夜に木霊した…。

 * * *

銀二が覚醒すると、そこはゲームのスタート地点のホテルの一室であった。
格好はあの夜のままだったので、スーツに隠していたテープレコーダーがあるかを確認したが、案の定、回収されていた。
だが、もうひとつの所持品は取られていなかったようである…。
病院のマスターキー。
あの夜…。銀二は自分が拉致されることを予測していた…。だからこそマスターキーを確実に守る必要があった…。そのためにテープレコーダーという疑似餌を仕掛けておいたのだ。
(爺どもはこういうところでツメが甘い…。これで…希望は繋がった…)
窓の外を眺めると、広大な遊園地が広がっていた…。
少し呆気に取られた…。
この島に銀二を放つことが危険であるというのは、他の誰でもない兵藤が一番知っているはずである。
馬鹿正直に、この島でバトルロワイアルが開催されるとは思わなかった。
(やはり、勝ち目が消えたわけではないな…。
 俺ができることに全力を尽くすだけだ……)
かくして…銀二のバトルロワイアルが始まった…。

* *


銀二は、マスターキーを手持ち無沙汰にいじりながら、発端を思い出していた…。
それは、自分の目的を今一度確かめるためなのであろうか…。
夜の闇が感傷的にさせたのかもしれない…。
(いや…。もうやめよう…。今を精一杯生きなければ……死に繋がる…)

我に返り、病院の見張りに集中する…。
そうすると、病院の一室には明かりがついており、二階では移動する光が微かに見えた…。
それの正体は、天、鷲巣のいる部屋と、ひろゆき、平山が光点を捜しているものであった。
(病院内を探索するならば…部屋の電気をつけておく必要はない…。
 最低二組はいる……が、一組のチームが待機と、探索に分かれているのかもしれない…)
とりあえず、メモを書き留める。

AM1:00頃、病院内を移動する光あり。明かりのついた部屋がひとつ。

短くメモし、紙とペンを置く…。
(人がいる内はまだ行動すべきではないな…。
 ならば、先に港へ行くか…?……どうしようか………)
原田は寝息を立て始めた。どうやら、安眠できているようである…。



【F-4/商店街家屋内/深夜】

【原田克美】
 [状態]:健康
 [道具]:拳銃 支給品一式 
 [所持金]:700万円
 [思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す ギャンブルで手駒を集める 場合によって、どこかで主催と話し合い、手打ちにする 銀二に従う
※首輪に似た拘束具が以前にも使われていたと考えています。
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※2日目夕方にE-4にて赤木しげるに再会する約束をしました。カイジがそこに来るだろうと予測しています。
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。原田も村岡を殺すことはできません。
※村岡に「24時間以内にゲーム主催者と直接交渉窓口を作る」という指令を出しました。中間報告の場所と時間は次の書き手様にお任せします。
※村岡に出した三つ目の指令はメモに記されています。内容は次の書き手様にお任せします。成功した場合、原田はその時点で所持している武器を村岡に渡す契約になっています。
※『島南、港を探せ』『病院内を探索する』『黒幕は帝愛、在全、蔵前』『銀二はアカギや零とは違う形の対主催体制をとる』という内容の銀二のメモを持っています。

【平井銀二】
[状態]:健康
[道具]:支給品一覧 不明支給品0~1 支給品一式 褌(半分に裂いてカイジの足の手当てに使いました) 病院のマスターキー
[所持金]:1300万
[思考]:生還 森田と合流 見所のある人物を探す カイジの言っていた女に興味を持つ 病院、港を探索する 証拠を掴む 猛者とギャンブルで戦い、死ぬ
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※2日目夕方にE-4にいるので、カイジに来るようにと誘いました。
※『申告場所が禁止エリアなので棄権はできない』とカイジが書いたメモを持っています。
※原田が村岡に出した指令の内容、その回収方法を知っています
※この島で証拠を掴み、原田、安田、巽、船田を使って、三社を陥れようと考えています。



124:光路 投下順 126:本心
123:活路 時系列順 115:金の狩人(前編)(後編)
102:百に一つ 原田克美 129:強運
102:百に一つ 平井銀二 129:強運




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