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無題 作者不明


ペンを取り出した鷲巣は、メモに参加者の名前を書き出していった。一番最初は赤木しげる、そして自分が呼ばれて外に出るまでに呼ばれた、名前を次々に。たかだか数十名の名前を覚えることなど容易いものだった。
この遊戯は『ランダムに選ばれた人間が参加しているわけではない』。なんらかの繋がりのある人間が、主催陣の戯れの為に引き寄せられ、その楽しみの為に殺しあう遊戯。知った名が赤木の後にも幾つか呼ばれ、鷲巣はその仮説に確信を持った。
繋がりがあるならば、それを把握しておくに越したことはない。誰と誰が敵対しているか、協力関係か。最終的に自分が頼れるものは剛運と頭脳だということを鷲巣は理解していた。体力面では…認めるのは癪だが…参加者の中でも最低ラインにいる、我武者羅に突き進むほどの若さはない。
そんな彼はいま、廃ビルの一室に鷲巣は身を潜めている。
元は会社か何かだったのか、1フロアが数個の部屋に仕切られて、室内には事務机や椅子がそのまま放置されていた。一般人は居ないようだが、生活観はある程度残っている様子だ。
マップを広げて、もう1度考えてみる。
最初に参加者が集められた部屋。あの部屋は異質であった。無論、途中で加わった血臭の所為というのもあるが、異質の本質はあそこに存在していた空気そのもの。
畏怖で、張り詰めた空気ではなかった。
有り得ない。
本来ならば、もっと、怯え、慄き、呆然と、木偶のように、突っ立っているべきだったのだ、あの場の人間は。
それがどうだ、確かに室内の半数ほどは”そう”であったろう、しかし残り半数は。真っ直ぐに顔を上げ、司会者の説明を聞いていた。つまり参加者の少なくとも半数が、勝つ、あるいは殺す決意を既に持っていたことになる。
身を潜めていれば、生き延びる時間は確保できるかもしれない、だがそれでは流れに乗れない。肝心なとき、に。


地図を見下ろし考え込んでいる鷲巣を、部屋の入り口から覗いている影があった。


「…(チャンス…、これは、チャンス…!!)」
外国製のスーツに身を包んだ男。仕立ての良さそうなスーツだったが、どこか、なにかが草臥れているような印象を受ける。
「(あんな小柄な老人を真っ先に見つけられるなんて…っ、ついてる…っ、ついてるざんす…!!)」
水も食料もまだまだ足りない。勿論武器も、金も。
脱出するにせよ…、ギャンブルで勝者になるにせよ、先ずは金。ギャンブルルームへ行くにも、元手は必要。今の資金だけでは心許ない。そう思っていたときに発見したのが、部屋の奥に居る老人だった。
襲い掛かっても良い。老人1人、近づければ捻り潰すくらいならワケもない武器は持っている。会話で油断させ、近付いて…、それでも良いだろう。相手もどんな武器を持っているかは判らない。しかし此処から窺い見る限り老人の持つものは細いペンだけであるし。カバンも少し離れた床の上。
「…(愚か…!! あまりにも…!)」
「…… 誰か…おるのか」
声を殺して笑ったつもりが、声をかけられ、村岡は心臓が跳ね上がるほど驚いた。
いきなり何らかの攻撃をされてはかなわないし、悲鳴でも上げられたら自分の居場所まで割れてしまう。敵意がないことを、示さなければ。
「待って…、待つざんすよ…! 戦うつもりなど無い…っ!!」
戸口からはまだ顔を出さない。相手が動いた気配も無い。
「………」
「…わしはこんな殺し合いは御免ざんす! ただ、1人では心許ない…仲間が欲しいだけ…っ」
「………」
「ギャンブルルームに行くにせよ、仲間と資金はあった方が良い…、違うざんすか?」
暫し、沈黙。
「一理ある」
その声は安堵していた。17歩で、人の心を食い尽くしてきた村岡だからこそ、その微妙な振れを聞き取った。
「そうざんしょ…! わしは村岡…、そっちは…?!」
「モリタ、テツオじゃ。…頼むから…姿を見せてくれ…っ、此方を窺っていたなら見ての通り、わしは衰えた年寄りに過ぎん…姿の見えない相手との会話など、恐ろしくて仕方が無い…っ」
懇願する声音に、村岡は顔が裂けるのではないかというほどの深い笑みを刻む。
「尤も…! それは尤もざんすね…」
リュックから、ぬるりと戸口から覗かせる。
先制攻撃はない。するつもりが無さそうなのを確認してから、村岡は戸口から顔を出し、室内へと顔を晒した。
まだ、老人は部屋の奥。最初に見た位置から動いてもいない。背筋を伸ばして立っているのに、そう背が高くない村岡よりも小柄であった。
老人は視線をさ迷わせ、村岡を観察している。敵意がないか、武器を持っていないか、確認しているようだった。その様はまるで、怯えた鼠のようで、村岡は笑い出すのを堪えるのに努力を要した。
「大丈夫、わしは危害を加えるつもりはない…っ!!」
代わりに、安心させるように、ゆっくりと両手を広げた。こちらは武器をなにも持っていませんよというポーズ。
実際は、村岡のスーツの袖口には小型のスタンガンが潜んでいた。参加者の中には屈強な男も数人居たが、この老人ならば、充分通用するだろう。
「……仲間、とか言っておったな。…帝愛の関係者と連絡でもつくのかね?」

ぎくりと、村岡の肩が強張る。何を、この老人は何を。何故帝愛の名を。関係者なのか。帝愛の人間が数人、そして兵頭和也という悪鬼までがこのゲームに参加しているのは、名を呼ばれたときに判っていた。この老人までもが帝愛の関係者…?
「…帝愛…?」
村岡は、ただ反芻した。老人の反応が見たい。
「跡取り息子がこのゲームに参加しておるようなのでな、あんな大企業の子息がこんな不条理なゲームに参加…というのは…、参加者の中に協力者でも居るのではないか…、そう考えてもおかしくはないじゃろう?」
わかっていない。
兵頭和也がどんな人間か、まったく判っていない。あの冷血、残忍、人を人とも思わないサディスト。人殺しを愉しみたくて、このゲームに参加しても、おかしくないのだ、まったく…!
「だから、わしはまず帝愛の関係者と話をしてみたかった…。このゲームについて、何か深く知っておるかもしれないからな」
甘い、村岡はそう叫びたくなった。帝愛の名は知っていても、老人はその実情はまったく知らないようだ。知っていれば、関係者と話がしたいなどとは言い出さないだろう。あの組織の要職についている人間がどれほど冷酷か、知らないからそんなことが言えるのだ。あの地下牢獄を知らないから…
「……どうした?」
黙りこくった村岡に、老人が不安げに首を傾げる。
思わず、長考に耽りかけていた村岡は慌てて首を振った。
「知らない…、知らないざんす、そんな組織は…。教えてくれてありがとう…っ!」
「……そうか……」
否定されたことで、老人は気落ちしたようだった。だが今村岡に関心があるのはそこではない。老人の武器は何で、自分がそれを扱えるかどうか、その辺りが問題なのだ。
じりじりと、距離を詰める。詰めるが俯いた老人は動かない。リュックは、数m離れた位置だ。飛び掛っても良いが、まだ早い。
「…落ち込むことはないざんすよ…モリタさん…! 2人で探せば良いこと…!!」
「…そうじゃな…」
自然に、老人が2人という単語を受け入れた。
よし。よし。
更に距離を詰めようとした村岡に、言葉の先制が突きつけられた。
「そういえば…」
「う…?!」
「若い人間になら判るかもしれん…、わしの武器を見て貰って良いかね?」
「は…?!」
思いもよらない僥倖。しかしまだ油断するわけにはいかない。老人は、村岡の心を知ってか知らずか、骨ばった指先でリュックを指す。
「ほれ、あれじゃ。拳銃なんじゃろうが、どうもわしには使い方がよく判らん。かといって試しに撃ってみるのも怖いし…見て貰えんか?」
指差された先、見えたのは、銃口。紛れも無い、黒光り。
思わず大股にリュックに近付く村岡に、老人もゆっくりとリュックに近付いた。今はペンすら持っていない。
近付いて判別してみれば、それはただの拳銃ではない、もっと大きい…ライフルほどの大きさではないが、サブマシンガンほどの大きさだった。


「…これは…! …いやいやいや、触らなくて正解ざんすよ…!! 素人が持ったらどうなるか判ったもんじゃない…っ」
「やはりか。…しかし、大きい拳銃じゃな…」
老人が身を屈めてリュックへ手を伸ばそうとする。
反射で、村岡は老人から庇うようにリュックを抱え込んだ。
「危ない…っ! 暴発したらどうするざんす…!!」
今更奪われてなるものか。鼓動を跳ね上がらせた村岡の顔が熱くなる。
いけない、これほどの興奮をみせればまた警戒されてしまうかもしれない。正気に戻った村岡がそう考えた一瞬だ、しゃがみ込みリュックを抱えた体勢の、その頚椎に、恐ろしく鈍い重い一撃を喰らわされたのは。
冷やかに見下ろす鷲巣の手には、この部屋で見つけた事務用の裁断機、それから取り外した長い鉈のような刃が握られていた。村岡の頚椎…首輪の少し上を打ったのはその逆刃だ。
「クゥクゥクゥ…半端者が…。奥を見抜けぬ者に先など無い…!!」
ちょっとばかり、普通の老人を演じただけでコロリと見た目に騙される。身についた刺すような眼力も、鷲巣にとっては引っ込めることは容易い。半世紀以上も人を絡め取り陥れることを生業とし続けてきた鷲巣には。
カーテンを裂いて拵えた長い布切れで、村岡の四肢と首と腰を固定していく。スピードは遅く、ぎこちなさはあるものの、それは手馴れた動作であった。縛り上げながら、身体検査。これもまた手馴れたものだった。袖口に隠されていたスタンガンはもとより、武器になりそうなネクタイピンからベルトまで奪い取る。
懐かしい、実に懐かしい。
大東亜戦争前のあの時代、特別高等警察に所属していた鷲巣はよく”取調べ”をしたものだった。実に効率が良い”取調べ”だと噂されたことは数知れない。
村岡を縛り上げた鷲巣はリュックへと手を伸ばしウージーを取り出した。ポケットのそこかしこに突っ込んでおいた弾丸を、空いた弾倉へ装着。初めから、ウージーからは弾を抜いておいたのだ。村岡がリュックに近付いた瞬間に手を伸ばしたのも、無論故意。
拳銃などという恐ろしい武器、見つければ、大抵の人間は脅威を感じる。そしてそれを手に入れられそうなら、手に入れることに神経を集中させる。ましてや傍にいるのは小柄な老人1人、拳銃の奪取に重きを置いて当然だ。後は晒された頚椎に一撃を食らわすのみ。そこは人体急所であったし、齢75とはいえ杖を圧し折る程度の腕力を有する鷲巣なので、気絶させるだけの一撃なら簡単だ。

一通り、物色し終え拘束し終えた鷲巣は椅子に掛ける。この部屋には幾つか、ミスリードを誘うトラップを仕掛けてある。まだ此処には居るとして…
さて、これをどうしたものか。
荷物はすべて奪い取った。
ならば、後は
「吐いて貰おう…、全て…!!」
帝愛の名を聞いた村岡は、明らかに強張った。体の動揺は隠せても、目の奥の拭えない恐怖は浮き上がる。鷲巣にそれが見えるのは、鷲巣自身が畏怖の対象として長年見られ続けていたからだ。
少なくともこの男は、帝愛という組織の実情をそこそこ知っている。でなければあんな目はしない。
しかし、だ、大した幹部クラスではないだろう。見目が老人だからといって、この殺し合いの場で相手を侮る。そんな人間を飼うような愚鈍ではない筈だ、帝愛会長、兵頭和尊は。少なくとも鷲巣なら、その程度の部下を幹部には置かない。切り捨てても問題など無い位置に置く。
「…う、う…」
村岡が唸った。意識が浮上してきたようだ。
「くふふ…、目が覚めたかね…村岡くん」
「!! ~~~!!!!」
「猿轡を噛まさせて貰った。…右手の傍にペンがある、紙も…、そう、…わしとの会話には、それを使い給え…」
足の付け根と密着して固定された右手でペンを、とりあえず拾った村岡は、恐怖に満ちた目で鷲巣を見上げた。
鷲巣の口元に、深い、残虐な笑み。
これはもう唯の獲物。憎悪すら浮かべない愚図に、利用する価値などありはしない。
「わしは時間の無駄遣いが何より嫌いでな。君が今するべきことは、迅速にわしの問いに答えることじゃ」
膝に乗せたウージーを軽く持ち直すと、村岡は動かしづらい頭で必死に頷いた。
「よし、よし…。では、此処のメモに今回のゲームの参加者の名を記してある、君の知っている人物に丸をつけ給え」
ピン。
投げられた紙片は、ひらひらと村岡の足元へ。
「役立つ情報を教えてくれれば、わしと手を組むことを許そう。先ほど君も言った通り、仲間は居るに越したことはない……のう?」
くかかかかか。
妖怪じみた威圧感だった。言われるままに、名前に丸をつけていく。
「…イトウカイジ、トネガワユキオ、イチジョウ、ミヨシトモヒロ、…兵藤和也か。すると…トネガワは兵頭和尊の駒の、あの利根川じゃな。…帝愛とは切れたとか聞いた気がするが、どうなんじゃ」
鷲巣の口から淀みなく零される言葉に、村岡は目を見張っていた。ただの老人ではないのは、こうやって自分が拘束されてよく判ったが、ではこれは一体誰なのか。利根川まで知っている。
帝愛関連企業のトップの名前なら幾らか覚えている村岡だが、その中にモリタという名の老人は居なかったはず。
考えていれば、答えるのを忘れていた。冷やかに見下ろされ、必死に頭を上下に振る。
こくこく。
「やはりか。ふむ…多いな、筆談だけでは無理があるか…」

鷲巣は椅子から下りて村岡に近付いた。拘束され尽くした村岡は動けない。すぐ傍に膝をついてしゃがまれても、恐怖に引きつった視線を向けるだけだ。
「猿轡は外してやろう。じゃが、悲鳴を上げて助けを求めるなどという無様な真似はしないでおくことだ。『助け』が来るとは限らんからのう…クックック…」
不気味な笑いの中、猿轡が外された。
「…ぷはぁ…!!」
「では、イトウカイジが誰で、何であるかから喋るがいい」
鷲巣の足、靴の踵が村岡の左手人差し指に乗せられている。呼吸を整えるのに必死になっていれば、直ぐに踵に力が込められた。指の付け根に激痛が走る。
「ひぃ…!!」
「…そうそう、言い忘れていた…。わしは特高出身でな…君が進んで洗い浚い喋りたくなるような”手段”を幾つも知っておる…カカカッ…クク…。君が素直に情報を渡してくれれば、そんな手段は使わんが…嘘だと判断すれば、それはしょうがない…! ペナルティを与える…!! 心しておくがよい…っ」




戯れにスタンガンのスイッチをON/OFFにして遊ぶ。靴の裏にはべったりと血糊。
やはり首輪にどれ位の衝撃を与えたら爆発するのか、それを調べるのは少々無謀だったらしい。時計?部分をどうにか外そうとペンチを入れるよう命じ、あの男がそうした瞬間、首輪が爆発し吹っ飛んだ。首の周りを回転させるくらいは大丈夫そうなので、これは下手に弄らない方が良いだろう。
このままこの部屋に居ると死臭がついてしまう。鼻の利く参加者もいるだろうから、それは避けたい。鷲巣はトラップと荷物を回収することにした。
珍しく、機嫌良さげに、懐かしいメロディーなど口ずさみながら。







There was a man, a very untidy man,

Whose fingers could nowhere be found to put in his tomb.

He had rolled his head far underneath the bed

He had left his legs and arms lying all over the room.







部屋に残ったのは原型を留めない頭部と、拷問により散らかり放題に放置された四肢の部品。











【E-4/商店街/午後】
【鷲巣巌】
 [状態]:ひざ裏にゴム弾による打撲
 [道具]:サブマシンガンウージー スタンガン 防弾ヘルメット 防弾チョッキ 支給品一式×2
 [所持金]:2000万円
 [思考]:移動・次のトラップを仕掛ける



【村岡隆 死亡】




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