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巴 作者不明



彼にとって「理」とは拠り所である。
尤も彼が拠り所としていた「理」とは、己を囲う実体のない幻の柵のようなものでしかなかったのだが。

その事は、あの男―赤木しげる―によっていやという程思い知らされた。

それでも平山幸雄はそんな「理」を後生大事に抱えている。
血で血を洗う狂気の渦中に放り出された今でもそれは変わらない。
積んできたのだ…。彼なりに。営々と。
変える術など知らないし、崩す方法も解らない。平らげる事などできはしない。
まったくどうしようもない彼の「理」。

(…糞の役にも立ちゃしないってのに…)
苦い思いは表情となって現れた。

「どうしたんだ…?」
眼前に心配気に平山を覗き込む顔があった。
「ああ…なんでもない…」
その答えに吉住邦男は、中庭に面した窓から差し込む光の中笑った。

――病院の処置室
平山と邦男の現在地である。
病院までは襲われる事もなく無事たどり着く事ができた。
メロンのような後頭部の悪趣味な老人の像が鎮座するロビーを抜け、適当な処置室に入る。
そこまでの道すがら平山は邦男の知能に障害がある事に気付いた。だが…今の彼にとってそれはどうでもよい事だった。

平山は邦男を椅子に腰掛けさせ、その正面に座った。
手当ての為に邦男の上着を取り傷口を調べるが、やはり大したものではなかったようで出血も殆ど止まっている。
そもそも平山は殺意を以って刀を振り降ろした訳ではなかったのだ。
ほっと胸を撫で下ろし、血を拭い消毒を施し包帯を巻きつる。
「兄さんは…やっぱり優しいっ…」
と、嬉しそうに邦男は言う。
「よせよっ…!」
なんだか恥ずかしいような気持ちになって平山は顔を背ける。
「最初はいじわる…でも…本当は優しい人なんだ…」
そう言いながら椅子から立ち、脱いでいたシャツを着るが、
「ああもうっ…前後ろじゃねえかっ…」
と平山に直されてしまう。

――その時。
カタン…と小さな音がした。
音は閉ざされた扉の向こうから聞こえた。
もしこれが日常であれば気にも掛けないであろう小さな音。だがここは鬼の行き交う…非日常なのだ。

扉の向こうに…。
平山は戦慄する。
…人がいる。

「誰だっ…?」
傍らの日本刀を手に取る
「出て来いっ…!」
鞘を払う
「大人しく出てくれば…危害は加えないっ…!」
平山は邦男の前に立ち、音のした扉に向かって構えた。

……。
反応が無い。
(誰もいなかったのか…?そんな筈は…)
後ろにいる邦男に声を掛けようと振り返ったその目に人影が映った。

邦男の向こうの窓―その窓の向こう―中庭に立つ人影
人影は…

「邦男っ…!」
叫びながら平山は左手で邦男を引き摺り倒し、半ば覆い被さるように自身も伏せる。
次の刹那、連続する破裂音と共に砕けたガラス片が二人の上に振り注いだ。

破れた窓から人影が侵入する。
直ぐさま伏せていた二人は立ち上がる。
二人と侵入者の間には2m程の距離。
侵入者の頭部には防弾メット。手にはマシンガン。
交互に二人に向けられる銃口。

…どうする、俺っ…
平山の日本刀を持つ手が震える。
…死にたくない…
『無意味な死』などごめんだ、と彼の中の理が言う。
…死が怖い…
恐怖によって正気がぐにゃりと歪む。

彼にとって「殺人」は禁忌たりえない。
有賀研二にとって被害者は皆赤ン坊で、その手を捻る事など本当に容易い事であった。

「君に決めた…」
ククク…と笑いながら有賀は照準を邦男に定めた。
「白髪の君…君は助けてあげる…」

無論、有賀は平山を見逃すつもりはない。
片方に対して「助ける」と発言したのは二人同時に襲いかかられるのを防ぐ為。
こう言って逃げ道を与えてやれば、立ち向かっては来ない。
ひたすら逃げようとするのだ。ネズミは。
そして、ここに至る前に有賀はある細工を施していた。
さらに…邦男を選んだのも、気まぐれなどではない。
邦男を選んだのは、彼が武器を持っていなかったからである。
マシンガンに防弾メット装備とはいえ、懐に入り込まれ胴や首を斬り付けられてはどうしようもない。

「さあ…早く逃げなよ…」
そう、扉の裏には細工。
有賀はロビーにあった老人像を、ドアスットパーのように袴部分を噛ませておいたのだ。
だが、全く開かないようにしてしまってはダメ…。
どうせ助からないのならばと捨て鉢になられてはいけない。
希望は残してやるのだ…。
有賀は知っている。希望によってネズミは死ぬという事を。



―唐突に
平山の耳に雄叫びが聞こえた。
平山の目に有賀へ向かって行く邦男の姿が見えた。

歪んでいた情景が一気に明瞭になる。正気を取り戻す。
「馬鹿っ!やめろっ…!」
平山も走り出していた。
(有賀が邦男を殺すより先に…)
常に彼を囲んでいたはずの柵は消し飛んでしまった

全く同時だった。
平山の殺意が有賀の首に刃を突き立てるのと、
有賀の指が引き金をひくのは。


    轟音と
     悲鳴と
      血飛沫


そして、静寂が訪れた

彼にとって「兄」とは――


「邦男っ…邦男っ…!」
……名を呼ばれている……
瞼を開く。
…ああ、兄さんが泣いている。
…どこか怪我をしたのかな?おいら兄さんを守れなかったのかな…?
…兄さんが泣くと…おいらも悲しい…だから
「泣かないで」
そう言おうとしたのだが、もう声も出ない。
兄さんが手を握ってくれている。いつかの魚獲りの帰り道のように。
…おいらの…

――唯一の友達



兄さんが死ななくて本当に良かった

生きていて、ありがとう

血溜りの中には、二つの死体と、一人の青年。
青年は――、


あいつらは…
あいつらは、嘲っているのだろう。
俺たちが殺しあう姿が、愉しいか。可笑しいか。それとも滑稽か。

嗤え 哂え 笑え わらえ

――立ち上がる。

涙はもう枯れた
血はもう乾いた

仇は討ってやる

こんな俺にだってあるんだよ。
死んでも譲れない物ってのが。

そりゃあ怖いさ
俺は凡夫なんだ
それでも…兄さんだもんな。俺は、お前の。


  なあ、兄弟



【E-6/病院/午後】


【平山幸雄】
 [状態]:健康
 [道具]:日本刀 不明支給品 0~2 支給品一式 (×3?)
 [所持金]:1000万円(3000万?)
 [思考]:対主催 


【有賀研二 死亡】
【吉住邦男 死亡】




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