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無題 ◆wZ6EU.1NSA氏


男の死体。



築くのは容易ではない。だが、崩れるのは一瞬なのだ。
繋ぐのは容易ではない。だが、壊れるのは一瞬なのだ。
しかし、一瞬にして崩壊した。
否。崩壊したのではない。壊されたのだ。崩されたのだ。
唐突に出現した悪意によって。
無神経に無遠慮に無秩序に無様に悪趣味に不条理に不躾に身勝手に幼稚に独りよがりに。
もう元には戻らない。修復する術も、止める術もありはしない。留めることなど出来はしないのだ。
ただの崩壊である。無為な崩壊である。無意味かつ理解不能な崩壊である。
それでも飲み込まなければならないのだろう。受け入れなければならないのだろう。この場に身を置いた義務として。
――ふざけるんじゃないわよ。
これを築くのにどれだけ気を配ったと思ってる?ここまで繋ぐのにどれだけ苦労したと思ってる?
それをこんな簡単に滅茶苦茶に蹂躙されて黙っていろと?

そして田中沙織は呟く。
「馬鹿馬鹿しい…」
本当に馬鹿げていると、心の底からそう思った。いや、馬鹿そのものか。まるで白痴である。
全てが台無しになってしまった。総てが無駄になってしまった。凡てが駄目なってしまった。何もかもが嫌になった。
こんな下らない事に何の意図があるというのか。こんな下らない物に何の意味があるというのか。こんな下らない者に――。

足元には死体が転がっている。
沙織が殺したのだ。
全くもって有り得ない話である。だが、最早これが事実。真実なのだ。
それがどれ程に非現実的であろうとも、それがどれ程に忌々しい現実であろうとも、逆らえない。抗えない。覆せない。
そんなこと位。知っている。識っている。分かっている。解りきっている。
うんざりする程に。

そして沙織は同行者であるカイジに目を向ける。
使えない男だ…。
どうやらこの男は自分を見限った積もりでいたようだが、生憎と見限ったのはこちらの方なのだ。
何の役にも立たないデク。正真正銘のクズ。
(この男…私を囮にして自分だけ助かろうとしやがった…)
少なくとも沙織の眼にはそう映っていた。そう感じた。
一方的な理解。言い換えれば思い込み。だが、同じ事である。カイジの真意など沙織には知れぬのだから。
所詮人と人は分かり合えぬ。心は理解されない。伝わらない。常に彼我の間は絶望的に隔たっているのだ。
人間は希望なんかじゃない。
希望など無いと、沙織はそう思った。

だから沙織は、カイジを信じるのをやめた。
それについては何も言う気になれなかった。言うだけ無駄だからだ。
『上辺だけの正義漢』
これが沙織がこの一件でカイジに対して下した評価である。
詰まる所、この男には価値がない。無価値ということだ。


沙織とカイジの関係は崩壊した。


「もういいわ…」
再び沙織は呟く。
こんなゴミみたいな下らない場所からはさっさと離れて、あとは綺麗さっぱり忘れてしまおう。
始めからここには自分は存在していなかったのだ。そういう事にしてしまおう。
そして何事もなかったかのように暮らそう。それがいい。そうしよう。しかし、その前にしなくてはならない事がある。
ゴミ掃除。

幸いな事に――
沙織はカイジに向けていた視線を再び足元に落とし、小さく笑った。
――幸いな事に、武器はある。
屈んで、死体が所有していたそれを拾い上げる。拾い上げて、それを。

「田中さん…?な…何?ちょっと危ないからっ――…―」
銃口を向けられた男が何やら言っているようだが、一々理解して返答してやるのすら面倒だった。
自分では大層面白いストーリーを語っているつもりなのだろうが、はっきり言って――思い上がりである。
あれやこれやと、随分居丈高に語ってくれたじゃないか。お笑い種だわ。
己で己が上等な人間だと思い込んでいる男ほど滑稽なものはない。そんな事も分からないなんて哀れな男だ。
だけどもう、これでお仕舞。
「さようなら…カイジ君…」
沙織はマシンガンの引き金に指を掛けた。

ダダッダッ……


カイジの――
腹が、
頭が、
腕が、
足が、
血まみれ。血まみれ。血まみれ。
原型なんかとどめちゃいない。それでも撃ち続けた。炸裂音と振動が心地よい。
爽快だった。胸がスッとした。

「あはははははっ」
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

人を殺すのが――
人を殺すのがこんなにも楽しいなんて。
ああ、ああもっと、もっと殺したい。


そちらが壊すというのなら、私も壊すことにしよう。
そちらが崩すというのなら、私も崩すことにしよう。
手加減などしない。やるのなら徹底的に。全てが無になるまで。

私は一方的に大事にしていたものを奪われて黙っていられる程優しくはないのだから――

さようなら…
さようなら。




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