幻の挙式 ◆uBMOCQkEHY氏
黒沢は美心の亡骸を抱きかかえ、別荘を離れ、森の中をさまよっていた。辺りは夕暮れであり、木々が赤く染まっている。
美心は三好の誤認によって、射殺された。
美心の亡骸を忌まわしい場所において置きたくなかった。
それに、美心の亡骸をあまり人目に触れさせたくなかった。
人は死体を自分の死と連想させてしまうのか、生理的に忌み物として見てしまう。
初めて自分を愛してくれる女性をそのような目で見てほしくはなかった。
奇しくも、その行動要因は、ほぼ近しき時間、同じように、パートナーを亡くしてしまった、黒沢の同僚、赤松の行動と酷似している。
しかし、赤松と異なる点は、赤松は割りと早い段階で標の亡骸を落ち着かせたのに対して、黒沢は長い間、美心の亡骸を抱きかかえ、その場所を探していたということである。
本当は、美心が息絶えてしまった別荘から少し離れた茂みの中に、ひっそり置くはずであった。風景も絵画で見かけそうな落ち着いた場所だったが、黒沢はある物を見て言葉を失った。
死体である。
その死体は短パンが印象的な若い男性であり、青白い顔で仰向けに横たわっていた。
「これは・・・」
これは真昼に船井によって、殺害された川尻良平の死体である。
黒沢から涙が溢れてきた。
「こんな少年が・・・」
美心と良平が重なったからこその涙だった。
この少年も美心にも未来があったはずである。それにも関わらず、その未来は自分の欲と都合のみで生きている他人によって、断絶されてしまった。
特に、美心はこれから愛した人と結婚して、幸せな家庭を築くかもしれなかったのだ。
その理不尽さと美心の未来を守ることができなかったという現実が胸を締め付ける。
「悔しいよなぁ・・・美心・・・少年・・・」
ちなみに、良平は二十歳越えていた青年である。
黒沢はある程度泣きじゃくると、静かに立ち上がった。
ここで美心は心安らかに眠ることはできないだろう。黒沢は場所を移動した。
美心は三好の誤認によって、射殺された。
美心の亡骸を忌まわしい場所において置きたくなかった。
それに、美心の亡骸をあまり人目に触れさせたくなかった。
人は死体を自分の死と連想させてしまうのか、生理的に忌み物として見てしまう。
初めて自分を愛してくれる女性をそのような目で見てほしくはなかった。
奇しくも、その行動要因は、ほぼ近しき時間、同じように、パートナーを亡くしてしまった、黒沢の同僚、赤松の行動と酷似している。
しかし、赤松と異なる点は、赤松は割りと早い段階で標の亡骸を落ち着かせたのに対して、黒沢は長い間、美心の亡骸を抱きかかえ、その場所を探していたということである。
本当は、美心が息絶えてしまった別荘から少し離れた茂みの中に、ひっそり置くはずであった。風景も絵画で見かけそうな落ち着いた場所だったが、黒沢はある物を見て言葉を失った。
死体である。
その死体は短パンが印象的な若い男性であり、青白い顔で仰向けに横たわっていた。
「これは・・・」
これは真昼に船井によって、殺害された川尻良平の死体である。
黒沢から涙が溢れてきた。
「こんな少年が・・・」
美心と良平が重なったからこその涙だった。
この少年も美心にも未来があったはずである。それにも関わらず、その未来は自分の欲と都合のみで生きている他人によって、断絶されてしまった。
特に、美心はこれから愛した人と結婚して、幸せな家庭を築くかもしれなかったのだ。
その理不尽さと美心の未来を守ることができなかったという現実が胸を締め付ける。
「悔しいよなぁ・・・美心・・・少年・・・」
ちなみに、良平は二十歳越えていた青年である。
黒沢はある程度泣きじゃくると、静かに立ち上がった。
ここで美心は心安らかに眠ることはできないだろう。黒沢は場所を移動した。
再び、落ち着いた雰囲気の場所を発見した。
先程より木々が生い茂っているが、陽光が絹のようにその隙間からもれ、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「ここなら・・・」
しかし、黒沢は思いとどまった。
「・・・またか・・・」
死体である。
しかし、今度は先ほどの良平の死体のように、きれいな状態ではなく、腹部と頭部を中心に蜂の巣のように打ち抜かれ、人間の原型をとどめていないものであった。
この死体は良平より少し後の午後、有賀によって殺された安藤の死体である。
「ここも無理だ・・・」
黒沢は再び、場所を移動した。そして、今に至る。
先程より木々が生い茂っているが、陽光が絹のようにその隙間からもれ、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「ここなら・・・」
しかし、黒沢は思いとどまった。
「・・・またか・・・」
死体である。
しかし、今度は先ほどの良平の死体のように、きれいな状態ではなく、腹部と頭部を中心に蜂の巣のように打ち抜かれ、人間の原型をとどめていないものであった。
この死体は良平より少し後の午後、有賀によって殺された安藤の死体である。
「ここも無理だ・・・」
黒沢は再び、場所を移動した。そして、今に至る。
黒沢はさまよっている内に、ある場所にたどり着いた。全てのはじまりであるD-4のホテルである。
ホテルの脇には小奇麗な庭園があり、草木の手入れ滞っていたようだが、それでも、結婚式も催すことができそうな雰囲気は維持されていた。
黒沢は庭園の中央にあるベンチに目がとまった。
そのベンチは上部にハート型のモニュメントがあり、一流の建築士が設計したような女性的なデザインだった。
「結婚式の写真撮影には丁度いいかもしれないな・・・」
その時、黒沢はあることを閃いた。
ここなら美心が喜ぶかもしれない。
黒沢は美心の亡骸をそのベンチへそっと寝かせた。
黒沢は美心の顔を見つめた。
美心はこんな場所で結婚式を執り行いたかったのかな。
美心は生前、自分に笑顔を向け続けてくれたっけ。
その笑顔が方便とは黒沢は知る由もないが、それが黒沢の気力へと繋がっていたことは事実である。
その微笑しい姿をもう見ることができない悲懐に、黒沢は顔を歪ませた。
「もう会うことはできないのか・・・」
ホテルの脇には小奇麗な庭園があり、草木の手入れ滞っていたようだが、それでも、結婚式も催すことができそうな雰囲気は維持されていた。
黒沢は庭園の中央にあるベンチに目がとまった。
そのベンチは上部にハート型のモニュメントがあり、一流の建築士が設計したような女性的なデザインだった。
「結婚式の写真撮影には丁度いいかもしれないな・・・」
その時、黒沢はあることを閃いた。
ここなら美心が喜ぶかもしれない。
黒沢は美心の亡骸をそのベンチへそっと寝かせた。
黒沢は美心の顔を見つめた。
美心はこんな場所で結婚式を執り行いたかったのかな。
美心は生前、自分に笑顔を向け続けてくれたっけ。
その笑顔が方便とは黒沢は知る由もないが、それが黒沢の気力へと繋がっていたことは事実である。
その微笑しい姿をもう見ることができない悲懐に、黒沢は顔を歪ませた。
「もう会うことはできないのか・・・」
その直後だった。
「あっ・・・!」
黒沢は信じられない感覚に襲われた。
これは黒沢が一生かけてもほかの人に理解されることがない体験だろう。
しかし、黒沢には感じたのだ。
後ろから手を回すようにして・・・という赤松の時のような流れではなく、殺伐としたこの地に相応しくないクラシックが流れ始めた。
ショパンの円舞曲である。
その曲と共に、ノイズ音と男性の声が聞こえてきた。
「あっ・・・!」
黒沢は信じられない感覚に襲われた。
これは黒沢が一生かけてもほかの人に理解されることがない体験だろう。
しかし、黒沢には感じたのだ。
後ろから手を回すようにして・・・という赤松の時のような流れではなく、殺伐としたこの地に相応しくないクラシックが流れ始めた。
ショパンの円舞曲である。
その曲と共に、ノイズ音と男性の声が聞こえてきた。
『・・・あー・・・諸君、ご苦労。黒崎だ。ただ今から、第一回の定時放送を行う。
復唱はしない・・・各々集中して聞いてもらいたい。・・・よろしいか・・・・・・・・・・・
復唱はしない・・・各々集中して聞いてもらいたい。・・・よろしいか・・・・・・・・・・・
放送は伝えている内容の重大さを感じさせないほど、淡々と要件だけ並べてしまうと、何事もなかったかのように、終了してしまった。
「赤松、仲根の名前はなかったか・・・」
美心の名前が読み上げられた時は、胸が締め付けられたものの、知り合いの名前が挙げられなかったことに、黒沢は安堵の表情を浮かべた。
しかし、ここで、黒沢はホテルを見上げ、あることに気づく。
「赤松、仲根の名前はなかったか・・・」
美心の名前が読み上げられた時は、胸が締め付けられたものの、知り合いの名前が挙げられなかったことに、黒沢は安堵の表情を浮かべた。
しかし、ここで、黒沢はホテルを見上げ、あることに気づく。
「・・・ここ、禁止エリアじゃないかー!」
黒沢は慌てた。
これからどうすればいいと自問自答したり、思考が霞がかかったようにぼんやりとしていて、足は泥沼にはまってしまったかのように動かせないなんて、余裕は黒沢にはない。
30分もすれば、この首輪は爆発してしまうかもしれないのだ。
ただ、どこへ行けばいい・・・!
これからどうすればいいと自問自答したり、思考が霞がかかったようにぼんやりとしていて、足は泥沼にはまってしまったかのように動かせないなんて、余裕は黒沢にはない。
30分もすれば、この首輪は爆発してしまうかもしれないのだ。
ただ、どこへ行けばいい・・・!
その時、美心を見つめ、ある感情がこみ上げてきた。
三好に対する怒りである。
美心を殺したあの男をもう一度、ぶっ飛ばさなくちゃ気がすまねぇ。
「ウォォォォォー!」
黒沢は再び、別荘へ駆け出した。
三好に対する怒りである。
美心を殺したあの男をもう一度、ぶっ飛ばさなくちゃ気がすまねぇ。
「ウォォォォォー!」
黒沢は再び、別荘へ駆け出した。