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侠 ◆tWGn.Pz8oA氏


ホテルからやや離れた一軒の民家で、沢田は考えていた。
座したその足には外を歩いてきた時のままに革靴が履かれている。
土足で青みの残る畳に踏みいるのには少しためらったが、
それもいつ襲われるかわからないという状況では仕方のないことであった。

自分はおそらくここを生きては出られないだろう。
壇上の黒崎が説明を終えたときには、すでにそう感じていた。
他人を観察することが生業のようなものであった彼は幾度となく説明会場内を見回した。
殺し合いというこのゲームの内容を提示されて笑んでいる者。
山口という男の首輪が爆破されて首が落ちても平然と見下ろしている者。
黒服に促され退室していく者たちの中にあった『さあ欺してやる、殺してやる』という顔…
このゲームには、一般の人間よりは死を身近に置いていた沢田すら身震いを感じるような人物が幾人といるのである。

沢田は自分を過大評価も過小評価もしない。
その上で、脱出も優勝も自分の手には落ちてこないと感じているのだ。一種の直感でもあった。
これはギャンブルや戦闘に関する能力の面での話だが、そもそも彼は除きようのない疑念を抱いている。
棄権するにせよ殺し合いを制すにせよ、そうして生き残ったとして何になるのか、ということ。
自ら他人の死を貪る輩はともかく、お互いの死を望まぬ者を伐ったとしてーー
あるいは彼らが倒れていくのを見捨てたとして、沢田の抱く矜持は果たしてかたちを保っていられるのだろうか?

そういう意味では、どちらにせよ自分は死ぬのだ。
ならば、餓鬼共に喰われてただ死んでいくのか。
自分も他人も諦めたあげく、薄汚れた矜持を抱いて死んでいくのか。

「…………仮にも…任侠に生きてきた男だ……」
沢田は、そう吐き出すように呟いて面をもたげた。
彼は人助けがしたいのではない。
弱い者は殺される。それは曲げようのない真理である。
己の弱さを呪うばかりで、最期まで蚊のような足掻きしか見せない者は死んで当然なのだ。
だがもし、どんなに弱さや無力さを感じようとも、信念のために自ら死地に赴くような人間がいればーー
「……協力しようじゃないか……この命をもって」
このゲームを潰す。沢田は一点を見据えた。

その時、外で砂利を踏む音がした。沢田はとっさに身構える。
ゆっくりと開いていく戸口から覗いたのは、堅太りしたやや大柄な男、大槻であった。
大槻は一瞬沢田を認めた後、玄関に足を踏み入れる。

「おおっ…こんなところに……!あんた、殺しに乗ってないだろっ…!?」
大げさに両手を挙げ、興奮した様子で話しかける。だが沢田に隙はない。
「なんでそう思う…?」
「そりゃあ、殺しをしようと思ったら今が一番のチャンス…!
まだゲームが始まったばかりで情報も少ないし、ほとんどの奴が油断しがちな今…!
そんな時に民家にこもってるんだから…」
いやあ仲間がいて安心した、と大槻が近寄って話を続けようとした瞬間、
沢田は先刻ホテルから出て間もなく確認した支給品をそっと後ろ手に構えた。
「…あんたは殺し合いに乗っているだろう?」
目は大槻を捉えたまま、口だけを動かして沢田は言った。

しかし、心外といった様子で大槻は反論する。
「ない…ないっ…!!殺し合いなんてとんでもないっ……!!
わしはただ…ギャンブルにあまり明るくないから棄権費用を調達する協力者が欲しいだけ…!
……これか…?この警棒、これを持ったままだから疑うのかっ…!?
これは万が一のために手放さないでいたが…無論、置けと言われれば置く…っ!」

我ながらよく喋る口だ。大槻は心中でほくそ笑む。
大槻は、前述の理由から沢田が殺しに乗っている可能性が低いと判断した上で
沢田の身辺に武器が見あたらなかったことから、彼を狩ることに決めた。
もちろんデイパックに入れてあったり隠し持っている可能性もあるが、
それらの場合はどうしても臨戦体勢に入るまでにロスが生じる。
このほぼ瞬時に高圧電流が流れる特殊警棒ならば、相手が武器を構える前に意識を奪うことができるだろう。
当然、警棒を手放すつもりなどない。
あともう少し近づくことができれば、それで終わる。

「そんなわけはないさ…お前は入ってすぐ興奮したフリをして荷物を置いた…
俺がまだ100%信用できると決まっていないのに、貴重な荷物を不用意に投げ出すはずがない…」
沢田は持った武器を鞘からゆっくりと抜いていく。大槻も武器の存在に気がついた。
「デイパックはある程度重量がある上に、背負っていると肩の動きををわずかながら抑制される…
つまりお前はそれが邪魔だったんだ…その警棒を俺に振り回すために……!」
「ククク……!そんなにクズでもなかったか…!なら……」
大槻の指がスイッチを押した。警棒は一気に熱を持っていく。
「反吐の出る茶番は終わりじゃっ……!!」

言い終わるが早いか、大槻は警棒を振り上げて踏み込んだ。
当たれば終わり。かすっただけで勝利。そんな慢心が目を曇らせたのだろうか。
玄関では空間に余裕があったものの、一歩上がると長さのある警棒は低い家屋の框に一瞬動きを止められる。
構え直そうと隙を見せた大槻に向かって、沢田は目の前のちゃぶ台を強く蹴り飛ばした。
「ぐうっ……!!」
臑を強打した大槻は痛みと押された勢いで後ろによろめき、玄関式台から脚を踏みはずして転倒する。
沢田はさらにちゃぶ台を返し、そのままそれを大槻の右腕に押し付けるようにして
警棒を持った右手を玄関土間の隅に追いやろうとした。
しかし、大槻はとっさに身を左手側にそらしそれを回避。
こう揉み合いになっては自分自身に当たりかねないと危惧したのか、大槻はとっさに高圧電流の電源を切った。
チャンスと見た沢田は、警棒を手放させようと大槻の右手目がけて足を振り下ろす。
が、大槻はその足を腕で払い、沢田のバランスが崩れたところを渾身の力で押し倒した。
二人の男の床に倒れ込む衝撃が木造の家屋に伝わる。
組み伏せられる刹那、はずみで沢田の握っていたダガーナイフが大槻の肩を抉ったが、
傷は浅く少量の血が流れ出る程度であった。

「クソッ………!」
大槻は沢田の右腕を手で牽制していたがすぐに硬い靴裏で踏みつけなおし、
両手で沢田の首に手をかけて力を込める。
そう、なにもこんなに窮屈な屋内であんな長物を振り回すことはなかったのだ。
こんなに簡単に殺せるではないか。
大槻の目は見開かれ、頬の筋肉は悪鬼のような笑みを表すべく引き攣っている。
「…は……がッ…………」
沢田の歯を食い縛る音と呼吸できない苦痛による震えが大槻の腕に伝わってきた。
「カハハハッ……!!形勢逆転じゃ…!のう……!!」



数分の後、二人分のデイパックを提げた男が、民家に背を向け歩き去る。
家の中には警棒に触れて焦げた木の甘いにおいが静かに漂い、肩口からわずかに血を流した男が地に伏していた。
見た目でひとまずナイフだとわかるために本人も十分に説明書を読んでいなかった支給品。
それは、刃に特殊な溝を巡らせ速効性の猛毒を伝わせたダガーナイフであった。
ちなみにこの毒は補充をしない限り、1・2回の使用で尽きてしまうらしい。
「…運が良かった………」
もしナイフの刀身がかすめたのが沢田だったならば、今頃民家に転がっているのは彼の屍である。
沢田は、顔すら、存在の有無すらわからぬ「侠」を探すべく歩を進める。



【E-3/平地/真昼】
【沢田】
 [状態]:ほぼ健康 ※首を絞められたのはごく短時間なので問題ありません
 [道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません
     高圧電流機能付き警棒 不明支給品0~4(確認済み) 支給品一式×2
 [所持金]:2000万円
 [思考]:対主催者の立場をとる人物を探す

【大槻 死亡】
【残り 41人】


006:「I」の悲劇 投下順 008:天才
005:敬愛 時系列順 008:天才
初登場 沢田 034:賭博覇王






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