※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

逆境の闘牌(後編) ◆uBMOCQkEHY氏


「何っ…!」
市川から小さな歯軋りが漏れる。
アカギに執着しすぎていたあまり、平山の存在を軽視し過ぎていた。
しかし、市川は精神を切り替える。
(まあよい…所詮、奴は素人だ……)
素人にうっかり振り込んでしまった自分の不注意さに苛立ちこそ覚えるものの、焦りはない。
平山が市川を脅かすのは、市川とアカギの点数差が逆転する13200点以上――倍満以上の和了の場合のみ。
今まで平山は市川の簡単な罠に引っ掛かり、何度もアタリ牌を振り込んできた。
そんな男がアカギのアタリ牌を避けながら、倍満以上の役を作れるはずがない。
(せいぜい3翻ぐらいの役か……)
市川はそう予測していた。
しかし、その直後に放たれた平山の言葉はその予測を否定した。

「四暗刻……役満……」

「なっ……!!」
市川に電流走る。
子である平山の場合、役満の得点は32000点。
それが直撃したのだから、アカギと点数が逆転してしまった所か、最下位に転落である。

「う…嘘だ……」
なぜ、素人があの制限が存在した状況下で役満を作ることができるのか。
市川は茫然自失のまま虚ろに呟く。

「いや…本当だ……」
平山は牌を倒し、それが事実であることを示した。
8萬 9萬 9萬 9萬 4筒 4筒 4筒 8筒 8筒 8筒 9筒 9筒 9筒

7萬・8萬待ち。四暗刻である。
しかし、7萬はアカギが7巡目、10巡目、ひろゆきが7巡目、9巡目に捨てているため、実質は8萬単騎待ちである。
しかし、驚く場所は単騎待ちや四暗刻を成立させたということではない。
平山は抱えていたのだ。
9萬を3枚――ドラ3を。
つまり――
「アカギは……ドラを持っていなかった……」

アカギは最低でもドラを2枚抱えていなければ、市川に逆転することは不可能である。
では、アカギはどんな役を作っていたのか。
あの状況で、あの河でどうやって逆転するつもりだったのか。
「アカギっ!!貴様の役はっ!!」
取り乱したかのように、市川は勝手にアカギの手牌を倒す。
そこから現れたのは――

2萬 3萬 4萬 5萬 5索 5索 5索
 ポン(1筒 1筒 1筒) ポン(発 発 発)

アカギは対々どころかただのファン牌であったのだ。
「う…うそだっ…」

市川の肩から力が抜けていく。
安目のファン牌で市川を出し抜けるはずがない。
アカギとて、それは重々承知のはず。
「なぜ……」
市川は一つの答えにたどり着く。
(初めから奴はワシと真っ向から勝負するつもりはなかったっ…!)

市川にとって、アカギと勝負することは心の喪失を埋める唯一の方法であり、それへの渇望は飢えを満たそうとする本能そのものであった。
しかし、アカギはそんな市川の思いを察するどころか、いい加減な勝負をすることで愚弄したのだ。
(ふざけおって…!)
業火のような怒りが火傷のように広がっていく。
市川は怒り狂った表情で卓に手を叩きつける。

「なぜだっ!!!なぜ、貴様は勝負を捨てたのだっ!!!!」
その目を血走らせたその表情は絶望に苛まれた、瀕死の野獣であった。
その表情を見れば、誰もが剣幕に圧倒され、言葉を忘れるであろう。
しかし、その野獣を目の前にして、アカギは平然と言い放った。
「そのセリフは平山が言ったよな……8巡目にな……」

「平山が…?」
市川は思い出す。
8巡目――アカギが1筒をポンした時。
確かに平山はそのポンに驚愕した余り、口から漏らしていた。
『勝負を捨てたのか……』と。
あの際、市川は平山が、アカギが混老対々ドラ2で和了の可能性が残っていることを考えつかなかった――平山がいかに麻雀に関して素人であるかを如実に表わしている一言だと捉えていた。
しかし、アカギは――
「平山も麻雀である程度渡り歩いてきた経歴がある…
俺の名を騙り、それが通用したくらいのな……
そんな男が混老対々ドラ2に気付かないはずがない…
それにもかからず“勝負を捨てた”と呟いた……
この時点で平山は知っていた…
俺がドラを持っていない…もしくは持っていたとしても1枚のみであったことを……
それを知りえる手段はただ一つ……
奴はその時点で抱え込んでいた……ドラを3枚な……」

そう、アカギが言っていることは正しい。
8巡目、平山の手牌はこうであった。

9萬 9萬 9萬 4筒 4筒 4筒 8筒 8筒 9筒 9筒 1索 1索 3索

実は平山は6巡目、7巡目でドラをツモるという幸運に恵まれていたのだ。
アカギは市川が否定的に受け取っていた平山の呟きの意味を的確に受け取っていた。

アカギは続ける。
「俺は勝負を捨てた訳じゃないさ……
初めこそは役満を目指していた……
けど、様子見に徹しようと思った……
こいつらが何か仕出かす……そう感じたからだ……」

「こいつ“ら”…だと……」
アカギは平山のアガリを一人の力でないことを示唆した。
この場で、アカギ、市川以外の人物で且つ、平山に協力する人間がいるとすれば――。
「井川ひろゆきっ…!」
市川の脳内に、ある一場面が呼び起こされる。
「あの……8萬っ……!」
市川の記憶から蘇ったのは、ひろゆきが捨てた8萬の存在である。
ひろゆきは12巡目に8萬を処分。
この時、平山やアカギがその8萬に反応を示さなかったため、市川は8萬を安全牌と判断。
東4局目は平山が西家、ひろゆきが北家。
順番上、平山の次にひろゆきがツモする。
平山は13巡目、北をツモ切りした――12巡目の時点で四暗刻のテンパイが成立していた。
ひろゆきは平山が8萬単騎待ちの形を作った直後に、8萬を捨てた。
最下位の平山にとって、喉から手が出るほど欲しい牌。
見逃すはずがない。
しかし、実際は見送った。
この時点で、8萬はドラ表示牌に1枚、平山の手牌に1枚、ひろゆきの打牌で1枚と場に出ている。
残りはどこに潜んでいるのか分からない1枚のみ。
残り4巡しかない状況でその1枚に賭けることなど愚の骨頂であろう。
どうしても、和了しなければ後がない状況で、貴重な牌を見送ったのは見送ることで生まれる勝算があったのだ。
例えば――
「ワシに8萬が安全牌と思わせ、ワシから振り込ませるために……!」

市川が設定したゲームのルールに異議を唱えた井川ひろゆき。
市川に点棒を搾取され続けていた平山幸雄。
二人とも市川に恨みを持つには充分な理由を持っている。
二人は東2局終了後、何らかの方法で意志疎通し、盟約を交わした。
共に市川は潰そうと――。

しかし、ここで問題が発生する。
「どうやってワシが山から8萬を引くことを知っていた……?」
市川の8萬はツモ切りである。
事前に山を覗いていたなどの行為をしなければ、それを知るのは不可能。
この試合の間、卓で不自然な牌の音は響いていない。
そもそも、黒服が終始、この戦いを監視している。
そんな大胆なイカサマを仕掛けられるはずがない。
「お前達はどうやって……?」
市川の困惑に対して、ひろゆきがため息をつく。
「アカギ……なんで、俺と平山が共謀したような言い方をする……
全ては平山が自分でもぎ取った勝利なんだっ……!」
アカギはどうだかと言うかのように、飄然と肩を竦める。

「共謀じゃないだと…?」
市川はその言葉に愕然とする。
もし、その言葉が正しいのであれば、平山はとんでもないことを“仕出かした”ことになる。
「井川ひろゆきの8萬を見送った……!」

ひろゆきが8萬を捨てたのは、12巡目、平山の8萬単騎待ちが完成した直後。
ならば、ひろゆきの8萬を見逃すのは道理に合わない。

市川は平山に問う。
「なぜ、井川ひろゆきの8萬を見逃した……?
どうやって、ワシが8萬をツモすることを知った……?」
「そ……それは…」
平山は当惑したまま、それ以上言葉を紡ごうとしない。
それもそうである。
イカサマが露呈すれば、ルール上、首輪は爆破するのだから。
市川は呆れ混じりに、平山の言葉を促す。
「もう、ゲームは終了だ……アカギは何か知っているようだが、
ワシはお前のイカサマを見抜くことができなかった……
ネタばらしをしても、首輪は爆発しない……」
平山は逡巡する。
しかし、覚悟を決めたのか、その重たい口を開いた。
「全ては……偶然だった……」

平山は順を追って説明した。
10巡目、平山の手牌
9萬 9萬 9萬 4筒 4筒 4筒 8筒 8筒 9筒 9筒 1索 1索 3索

平山は6巡目、7巡目にドラをツモり、最高の流れを掴み、イーシャンテン。
8筒、9筒、1索のどれかをツモれば、シャボ待ちで四暗刻という最終局面としては絵に描いたようなシナリオとなっていた。
平山は山から牌を引く。
その牌は――

(8筒っ……!)
9筒、1索のシャボ待ちのテンパイ。
四暗刻の可能性が更に開けてきた。
しかし、本来なら喜ばしいことであるのだが――
(どうして、これが来ちまうんだよっ!!!)
むしろ、平山はむしられるような苛立ちを覚えていた。
それもそうである。
他者が振り込んでくれる可能性が高い牌を引いてしまったのだから。

アカギは1筒と発をツモし、自分の役が混老対々ドラ2であることを周囲に公言してしまった。
この混老対々ドラ2を成立させるには1・9牌もしくは字牌を集める必要がある。
平山のアタリ牌である9筒・1索はまさにそのアカギのアタリ牌の条件に該当する上に生牌。
ほかの1・9牌以上に、アタリ牌である可能性が高い牌を二人が場に出すはずがないのだ。
勿論、平山はドラを3枚持っているため、アカギの混老対々ドラ2が成立できないのは知っている。
けれど、それを知っているのはあくまで平山のみで、ひろゆきと市川はこの事実を知る由もない。
平山はどうにかしなければと考えるも、その対策を思い付くこともできないまま、3索を捨てた。

11巡目。
平山は8萬をツモる。
不要な牌のため、当然ツモ切りである。
捨てようと牌を握りしめた次の瞬間、平山に一つの考えが浮かぶ。
(待てよ……この8萬は残したようがいいんじゃないのか……)
平山はこの8萬を抱え、四暗刻で和了というアイディアを閃いたのだ。
場に出ている8萬はドラ表示牌で使用された1枚のみである。
8萬は6萬・7萬・8萬の順子で誰かが抱えている可能性が考えられる。
しかし、7萬が場に枯れているため、その可能性は崩れ去る。
つまり、運よく引くことを待つしかない9筒、1索より8萬の単騎待ちの方がアガれる確率が高いのだ。
ここで問題が発生する。
(9筒、1索どちらを処分するべきか……)

どちらも生牌で且つ、アカギのアタリ牌。
これも恐ろしいが、それを弁えた市川がアカギに振り込むことを防ぐため、その牌を利用した役を作っている可能性もある。
(俺の点棒は7100点……もし市川が満貫以上の役を作っていたら……
それにうっかり振り込んじまったら……俺は死ぬっ……!!)

平山の脳裏に、一つの情景が浮かぶ。
平山は崖の前に立っている。
その崖は底が見えず、谷底から寂しげな獣の咆哮のような風が吹き抜ける。
崖の名は“絶望の断崖”。
ギャンブルに身を投じたものならば、一度はぶつかる人生の岐路である。
この崖はかつてカイジや森田の目の前にも現れた。
“絶望の断崖”は今、平山を試そうとしている。

平山は崖と手に握る8萬を見比べる。
(9筒と1索は明らかな危険牌……
俺はちょっとした判断の甘さから危険牌を幾度となく振り込んできた……
今回だって、もしかしたら、誰かに振り込んじまうかもしれないんだ……!
それに、今更テンパイを崩すなんて……)

平山の心は安全を求めていた。
そして、平山はその心に従順に従おうとしていた。

「どうしてその声に従わなかった……?
11巡目にもなれば、大幅な役の変更は命取り……
しかも、お前の場合、逃げ切れば命は助かる立場なのだぞ……」
“なぜ、危険を冒すような真似を選んだというのか…”という疑問を市川に投げかけられ、平山は当惑し、話を中断させる。
「確かにそれは俺も思っていた……けど……」
平山はひろゆきを一瞥する。
「ひろゆきが見えたから……」

崖の先にひろゆきの後ろ姿があったのだ。
「ひろゆきっ……!」
平山はひろゆきを呼び止めようとするも、ひろゆきは平山に背を向け、黙々と歩き、小さくなっていく。
ひろゆきと平山の距離は彼らの実力の差を表わしているようであった。

平山はまなざしを遠くへ投げる。
「俺、思ったんだ……ここで“絶望の断崖”を越えなければ……
俺はひろゆきに追いつけない……と!
ひろゆきの“気持ち”に答えることができない…と!」

「“気持ち”に……答える……?」
ひろゆきと平山は打倒市川の同盟を組んでいたわけではない。
しかし、アカギが示唆したように、この二人には何らかの繋がりが存在する。
「そういうことか……」
市川はここに来て、ようやく二人の関係を理解した。
「“友”…というものか…」
考えてみれば、東2局、ひろゆきは市川に振り込んでしまった平山の打牌でロンアガリしている。
ひろゆきはそれを市川への宣戦布告だと宣言したが、実のところは平山を庇うためのフェイクだったのだ。
「アカギ……お前はそれを知っていたんだな……」
「まあな……」
アカギは“ククッ…”とそれを肯定するかのような微笑を見せた。

平山は話を続ける。
「ひろゆきは東2局目の時、俺を救ってくれた……
だから……」

平山は俯き、その場面の状況を脳裏に蘇らせる。
ひろゆきは頭ハネを宣言した直後、市川に啖呵を切った。
その啖呵は傍から見れば、無数の銃弾を市川に浴びせるかのように荒々しい。
しかし、平山はひろゆきという男が本来は理知的で、感情に流されないことを知っている。
それを知っているからこそ、ひろゆきの意図を瞬時に理解した。

(あれは…フェイクだ……俺とひろゆきが仲間だと悟られないための……)
もし、あのまま、市川のロンアガリが通れば、平山の点棒はマイナスとなる。
平山の実力上、それを覆すのは難しい。
だからこそ、ひろゆきは自身が安目で和了ることで、平山の点棒の減りを最低限で食いとめた。
しかし、これではひろゆきが平山を助けたことは見え見えである。
ひろゆきと平山の関係が露呈すれば、市川はその隙を狙った戦略を組んでくるはずである。
例えば、ひろゆきが平山に振り込もうとした牌で和了るなどの、底意地の悪い戦略を――。
そんな戦略でひろゆき共々倒れたら元もない。
そのため、あくまでひろゆきと平山は赤の他人であることをアピールしなければならなかった。
それがあの大芝居であった。

「俺もそこまで馬鹿じゃありませんから…」
黒服に嫌味で返答したひろゆきは椅子に座る間際、卓に座る者全員を見渡した。
己の敵を確認するかのように。
ひろゆきの芝居はここまで完璧であった。
しかし、もし、ひろゆきの芝居に穴があるとすれば、平山と目があった時。
この瞬間、ひろゆきは酷薄な表情から希望を抱く若者が持つ、熱意に満ちた笑みを浮かべていたのだ。
その双眸に“お前は絶対飛ばさない。共に闘おう”という静かな闘志を刻まれて。

(ひろゆき……)
平山の心にひと肌のような暖かさが広がっていく。
それは、最後まで自分を見捨てない仲間への感謝、何より、この友に応えたいという熱き思いであった。

「……だから、俺は……9筒・1索のシャボ待ちって安全を…捨てた……」

平山が1索を選んだのは筒子より索子の方が場に多く出ているため。
ただ、だからとってそれが通るとも限らない。
最終的な判断は勘であった。

それでも平山はその勘を信じ、“絶望の断崖”を飛び越えた――1索を捨てたのだ。

「だいたいカラクリが見えてきた……」
市川は呆れ混じりのため息をつく。
「12巡目に9筒を引き当て、8萬単騎待ちのテンパイとなった……
その直後、それを知らない井川ひろゆきが8萬を打牌……
本来なら、ここでロンアガリをするところだが……
それで和了すれば、井川ひろゆきの点棒はマイナス……
それを避けるために、お前は井川ひろゆきの8萬を見逃した……」
もし、市川の目が見えていたら、この二人の無言のやり取りからその関係に勘付き、8萬に対してきな臭いものを感じ取っていたのかもしれない。
しかし、市川は終始、二人の関係に気付くことはなかった。
故に、ひろゆきの8萬を現物と勘違いした。

平山は市川の言葉に静かに頷く。
「命の恩人を突き落すことなんて俺にはできない…
勿論、何度も他の待ちを考えたさ……
だが、そうやって、安全な方へばかり考えていたんじゃ、きっと和了することができない…!
確率とか無視してでも、アンタの裏をかきたかった……!
アンタに一矢報いたかった……!
それが…ひろゆきの思いに応えてやれる唯一の方法だったから……」

「平山……」
ひろゆきの目頭が思わず熱くなる。
実のところ、ひろゆきとしては、東2局のあのアイコンタクトは“無理をするなよ…”程度の意味しか持ち合わせていなかった。
平山はひろゆきのメッセージを過剰に解釈していたのだ。
しかし、ここで論点となるのは解釈の相違ではない。
今まで利根川に怯え、牙と爪を失った獣のようにおろおろと混乱し続けていた平山が、勝負に向きあい、自らの力で勝利を手に入れたこと、この点が最も重要なことである。
平山の闘牌はひろゆきのような細やかな戦術を織り交ぜたものでもなければ、アカギのようにその場の状況を大きくひっくり返すような爽快さを伴ったものでもない。
ましてや、ひろゆきやアカギが、平山へ暗黙の考慮をしていたからこそ掴んだ勝利――勝負師としては3流であろう。
それでも、平山なりにがむしゃらに戦って得た結果である。
傍目から見て、どんなに無様であったとしても、それを恥じる理由がどこにあろうか。

「そうか……」
市川は低く相槌を打つと、アカギを見据える。
「なぁ……アカギ……
もし、平山が和了できなかったら、お前はどうしていた……」
「どうしていたか…か…」
アカギは“簡単なことだ…”と、澄ました顔で淡々と答える。
「俺の待ちは2萬・5萬……
あの時点で俺は混老対々ドラ2を匂わせていた……
皆、1・9牌と字牌に注意を注いでいる……
裏返せば、それ以外の牌に対しての警戒は低い……
故に、2萬、5萬は場に出る可能性が高かった……
和了次第、すぐに連荘へ持ち込み、逆転を狙うつもりだった…」

「連荘だと……」
市川は出来の悪い冗談を聞いたような白け顔を浮かべる。
「仮に和了していたとしても、残り5分あるかないか……それで何ができる……?」
5分程度の時間で勝負がつくはずがない。
どんなに考え抜いたところで、アカギには敗北の道しか残っていなかった。
しかし、市川のこの常識的な問いに対して、アカギはまるで他人事のように答える。
「なんだ……まだ、5分“も”あるじゃないか……」

「そういうことか……」
市川は暫し呆然とするも、やがて自嘲にも似た笑いを漏らし始め、そして――
「ハーハハハッ!!!」
弾けるように笑った。
アカギに再会するまでの市川は己の地位の転落を否定するが如く、失意にまみれて生きてきた。
しかし、再会したことによって、悟った。
これまでの自分は駄々をこねた子供のように不貞腐れていただけであったことを。
アカギと再び勝負し、勝利することを望みながらも、その勝負に怯えていた事を。
ここで市川に一つの思いが生まれた。
この男と再び、勝負をすることこそ、我が人生が捧げるべきことだったと。

アカギは雀士としての能力もさることながら、その最大の武器は死を恐れぬ精神力にあった。
そのアカギの精神力に対抗するには、死を受け入れることこそ、唯一の道。
市川はその悟りに到達し、アカギと再び勝負した。

死との共存を知りえた市川は無双の力でアカギを引き離した。
しかし、最後の最後で、点棒維持の目的から、ベタオリ――死からの逃避を見せてしまった。

結局のところ、やはり死への恐怖は拭いきれなかった。
市川も心の奥で、安全をどこか求めていたのだ。
しかし、アカギ、平山はどうだろう。
彼らは一見すると、無鉄砲とも言える戦い方をしかけてきた。
しかし、彼らは賭けていたのだ、1%以下の可能性に――。
それは死と隣り合わせ。
否、死は彼らの喉元にまで迫っていた。
しかし、彼らはそれを払いのけた。
一方はギャンブルへの情熱で、もう一方は友への思いに答えるために。
この時、彼らの心に死への恐怖は存在していなかっただろう。
死への恐怖を乗り越えるのは、死から逃れられることはできないと諦め、受け入れるほかに、別の情熱を持って、払いのけるという方法もあったのだ。
それはアカギのような逸脱した才能を持った人物でも、平山のような凡人でもなし得ることができる。

「分かった…ワシの負けじゃっ…!」
市川は膝を叩いて笑う。
その笑顔はどこか吹っ切れたようであり、清々しさすら感じられる。
市川は笑い終えると、遠くを見つめた。
「ワシはこれまで華のように散る人生を求め続けていたが、振り返ってみれば、泥まみれの凡人の人生……だが……」
市川は軽く体を伸ばすと、椅子から立ち上がる。
「そんな人生も悪くはなかった…のかもな…」
市川は“荷物はお前達にくれてやる”と言い残すと、出口へ一人向かっていった。
誰一人、微動だにせず、その背中を見つめ続けていた。




林の中、静寂が市川を出迎える。
夜明けが近いからであろうか。
夜の闇は西の空に追いつめられ、東の空には黎明の新しい光が空を白く染め始めようとしている。
当然、市川の目はそれを捕らえることはできない。
しかし、微々たる夜明けを市川は肌で感じ取っている。

やがて、市川の首輪からホイッスルのような甲高い警告音が響き始める。
首輪が契約内容を果そうしているのだ。
「律儀なものだな……」

死は恐ろしいものである。
なぜ、恐ろしいものなのかと言えば、死は人類にとって未知の領域への入り口だからであり、現世でやり残したことがあったとすれば、当然、そんな場所に身など置きたくもない。
しかし、アカギとの勝負を果たした今、市川にはやり残したことは一つもない。
死への恐怖は微塵もなかった。

一陣の風が林に吹きぬけていった。
警告音は乱れた早鐘のように、鋭さを増していく。
「いよいよか……」
市川は目を瞑り、両腕を広げた。
「さあ、風になろうっ……!」



【E-3/ギャンブルルーム内/早朝】

【赤木しげる】
 [状態]:健康
 [道具]:ロープ4本 不明支給品0~1(確認済み)支給品一式×3(市川、利根川の分) 浦部、有賀の首輪(爆発済み)対人用地雷 デリンジャー デリンジャーの弾(残り25発) ジャックのノミ モデルガン 手榴弾 ICレコーダー カイジからのメモ
 [所持金]:700万円
 [思考]:もう一つのギャンブルとして主催者を殺す 死体を捜して首輪を調べる 首輪をはずして主催者側に潜り込む
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※2日目夕方にE-4にて平井銀二と再会する約束をしました。
※鷲巣巌を手札として入手。回数は有限で協力を得られる。(回数はアカギと鷲巣のみが知っています)
※鷲巣巌に100万分の貸し。
※鷲巣巌と第二回放送の前に病院前で合流する約束をしました。
また第二回放送後に病院の中を調べようと考えていましたがどちらも果たせず。
(ひろにメモが渡ったのは偶然です)
※首輪に関する情報(但しまだ推測の域を出ない)が書かれたメモをカイジから貰いました。
※参加者名簿を見たため、また、カイジから聞いた情報により、 帝愛関係者(危険人物)、また過去に帝愛の行ったゲームの参加者の顔と名前を把握しています。
※過去に主催者が開催したゲームを知る者、その参加者との接触を最優先に考えています。 接触後、情報を引き出せない様ならばギャンブルでの実力行使に出るつもりです。
※危険人物でも優秀な相手ならば、ギャンブルで勝利して味方につけようと考えています。
※カイジを、別行動をとる条件で味方にしました。
※村岡隆を手札として入手。回数は有限で協力を得られる。(回数はアカギと村岡のみが知っています)
※和也に、しづかに仕掛けた罠を外したことがばれました。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。

【平山幸雄】
 [状態]:左肩に銃創 
 [道具]:支給品一式 カイジからのメモ 防犯ブザー Eカードの耳用針具 Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具
 [所持金]:1000万円
 [思考]:田中沙織を気にかける カイジが気になる
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知りました。
※カイジに譲った参加者名簿、パンフレットの内容は一字一句違わず正確に記憶しています。ただし、平山の持っていた名簿には顔写真、トトカルチョの数字がありませんでした。
※平山が今までに出会った、顔と名前を一致させている人物(かつ生存者)
  大敵>利根川、一条、兵藤和也  たぶん敵>平井銀二、原田克美、鷲巣巌 市川
  味方>井川ひろゆき、伊藤開司      ?>田中沙織、赤木しげる       主催者>黒崎

 (補足>首輪探知機は、死んでいる参加者の首輪の位置も表示しますが、爆発済みの首輪からは電波を受信できない為、表示しません。)
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。

【井川ひろゆき】
 [状態]:健康
 [道具]:日本刀 首輪探知機 懐中電灯 村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 アカギからのメモ 支給品一式×2 (地図のみ1枚)
 [所持金]:1500万円
 [思考]:赤木しげるから事の顛末を聞いた後、ギャンブルで闘う  この島からの脱出 極力人は殺さない
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。
※赤木しげるの残したメモ(第二回放送後 病院)を読みました。
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知りました。
※鷲巣から、「病院に待機し、中を勝手に散策している」とアカギに伝えるよう伝言を頼まれました。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。


【E-5/ギャンブルルーム内/黎明】

【兵藤和也】
 [状態]:健康
 [道具]:チェーンソー 対人用地雷残り一個(アカギが所持)
     クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0~1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広)
 [所持金]:1000万円
 [思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
     死体から首輪を回収する
     鷲巣に『特別ルール』の情報を広めてもらう
     赤木しげる、井川ひろゆき、平山幸雄、市川、しづかを殺す
     利根川、一条の帰りを待つ
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※遠藤、村岡も、合流して部下にしたいと思っております。彼らは自分に逆らえないと判断しています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、 そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。
※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。
※第二放送直後、ギャンブルルーム延長料金を払いました。3人であと3時間滞在できます。
※武器庫の中に何が入っているかは次の書き手さんにお任せします。
※利根川は殺されたか、拘束されたと考えております。
※アカギ、ひろゆき、平山、市川、しづかに対して、殺害宣言をしました。

 (補足>首輪探知機がある、としづかが漏らした件ですが、それは和也しか盗聴していません。利根川と一条はその頃、病院に爆弾を仕掛けに行っていました。)



【市川 死亡】
【残り20人】



141:深緋な虚言 投下順 143:我欲
146:主催 時系列順 139:英雄(前編)(後編)
136:ひとつの決着 赤木しげる 149:伝声(前編)(後編)
136:ひとつの決着 平山幸雄 149:伝声(前編)(後編)
136:ひとつの決着 井川ひろゆき 149:伝声(前編)(後編)
136:ひとつの決着 兵藤和也 144:願意




| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー