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天才 ◆X7hJKGoxpY氏


二月程も前のことである。

同僚の黒沢が入院、しかも極めて深刻な容態にあることを赤松は部下から知らされた。
幸いにして山は越えたようだが、ある大きな後遺症が残るという。
これからは食事もまともにできず、当然、職場に復帰することも到底不可能らしい。
――身寄りのない自分には生きていく術がなくなった、と黒沢は小さく笑った。

数日の間、赤松も、黒沢を慕うものも皆、失意の中に過ごした。
赤松は夜な夜な、酒を飲み、一人黒沢を思って泣いた。
そんな中で、彼らはある僥倖に出会った。
黒沢が元の生活に戻れる可能性があるという高度な医療技術。
無論医療費も巨額であり、本来黒沢のような男に手を出せるものでは無かったが、
とある企業がある条件と引き換えにその費用を負担してくれるという。
怪しい話である。
しかし、他に黒沢を助けうる手段の無い彼らはその条件を呑むしかなかった。
条件――それは、もし黒沢が助かったのなら、
黒沢と、更に誰か他の二人が、あるギャンブルに参加すること。

「無論……ギャンブルに必要な費用も全額こちらが負担します。いかがですか……?」
最初に参加を表明したのは仲根という少年だった。
あと一人――自分には妻子がある。
このような胡散臭い話には、できれば乗りたくない。
しかし、自分が乗らなければ部下が代わりに参加することになるだろうということは予想ができた。
(できない……危険かもしれない場所に行く部下を、ただ見送るだけだなんて………)
――こうして、赤松修平のバトルロワイアルへの参加が決定した。


(良かった……ここに来たのが自分で………)
赤松は支給品を確認してそう思う。
入っていた武器は手榴弾が十個――殺し合いをしてもらう、
という黒崎と名乗ったあの男の発言は、間違いなく冗談ではない。
(皆が巻き込まれなくて……本当に良かった……)
とはいえこの地には、黒沢に、仲根という少年、そして自分自身も参加させられている。
おそらく自分のように望まぬ形で参加させられたものも多いだろう。
赤松は、そうした全員を助け出したかった。
(何か方法はないのか……?)

それは偶然であった。
たまたま遊園地に向かう人影を見かけた――ただ、それだけ。
(あれは………子供?)
気付けば赤松は人影に向かって走っていた。
あんな年端もいかぬ子供まで巻き込むとはどういう料簡であろう。
あの少年だけは必ず守らねばならぬ、そう感じた。
「おーい!」
警戒されぬよう遠くから声をかける。
危険は重々承知だが、万が一危険人物に襲われてもこちらには手榴弾がある。
彼には逃げきる自信があった。
少年にある程度近付いたところで再び声をかける。
「君!……心細かっただろう………もう大丈夫……大丈夫だよ………おじさんが守ってあげるから!」
この少年を守りたい――その思いのままに赤松は言葉を発した。
しかし次の瞬間、赤松はひどく驚かされることになる。

「……赤松さん………子供は安全とか……ここでは捨てるべき…………そんな常識………
ダメ………そんな調子じゃ……死ぬっ………」
そう言うと少年はゆっくりとこちらに拳銃を向ける。
「ま……待ってくれ。まさか君はこの殺し合いに乗って……?」
このような展開は予想すらしていなかった。
相手が大人なら様子を見たであろう――確かに不用心に過ぎたかもしれない。
幸い、少年は銃をおろし首を振った。
「……心配いらない………これはモデルガンだから………それに………他に武器は無い……」
赤松はほっと胸を撫で下ろす。
少なくともいきなりの死は免れたようだ。
だが、まだ疑問はある。
「何故名前を……?君に会ったのは初めてのはずだけど………」
「……最初に赤松さんが呼ばれた時………顔を見たから…………」
これを聞いて再び赤松は驚いた。
つまり、名前を呼ばれた一度きりのタイミングで、顔と名前を覚えたことになる。
その記憶力もさることながら、驚嘆すべきはあの状況で、
冷静に、生き残るための分析を始めていたことだろう。
なんという少年だろうか。

「ところで……赤松さんにひとつ聞きたい………」
「何だい?」
「……王とか………代打ちとかの話……聞いてる……?」
「いや……そんなことは何も」
そのような話は聞いた覚えがない。
「王の試験の決勝戦……そう聞かされていた………でも……違和感があった……
あの黒崎は一言も王のことは言わず………以前提示していた賞金の額も違う…………
そして赤松さんは何も聞いていない………つまり……やはりこれは決勝じゃない………別の何か……」
この少年が何を言っているのかはよく分からないが、
察するに優勝しても「王」というものにはなれないということなのだろう。
かまわず少年は続ける。
「それなら……赤松さん………殺し合いに乗らないこと………それは多分正解………
だって………生かしておく理由がないから………棄権者も……優勝者も…………」
赤松ははっとした。
確かに、少年の言うとおりである。
高額の賞金を払う必要性にスキャンダルの種――このギャンブルに何の意味があるのか知らないが、
少なくともどこにも生存者を生かしておくメリットはないように思えた。

「なるほど……そうすると生き残るためには………反逆だけってことか……それで、これからどうするんだい?」
「とりあえず………【D-1】エリアの近くへ行く……禁止エリアにするからには何らかの理由があるはず……
おそらく発電所………まずは……ここを偵察して………このギャンブルの穴を探す………
それに……わざわざ禁止エリアの近くに行くことは皆避けるはず……殺し合いに乗った人も少ないし……
アトラクションゾーンの中を通れば敵に見つかりにくい………
それから同じ考えを持つ人と合流できる………その可能性もある……」
――なんという洞察力だろう。
先程の名前の件といい、この少年は天才であるとしか言いようがないだろう。
この少年がいれば必ず皆を助けられる、そんな気がした。
彼だけは何があっても必ず守らなければならない。
赤松はそう決意した。

「そういえば名前を聞いてなかったね……君の名前は?」
「……標」
そう呟くように答えると、少年は再び歩き出した。



【D-3/平地/真昼】
【赤松修平】
 [状態]:健康
 [道具]:手榴弾×10 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:できる限り多くの人を助ける 標を守る

【標】
 [状態]:健康
 [道具]:モデルガン 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:バトルロワイアルの穴を見つける 【D-1】近辺に移動する 他の対主催派と合流する


007: 投下順 009:計略(前編)(後編)
007: 時系列順 010:邂逅
006:「I」の悲劇 赤松修平 030:窮鼠
初登場 030:窮鼠






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