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愚者(後編) ◆uBMOCQkEHY氏


霧も、東からの日光によって大分霞みつつある。
それでも、霧と同系色の鈍色の色彩は森に溶け込み続け、なお不吉さを仄めかしている。
その森の中を佐原は歩いていた。
風の音に人の気配を感じ、佐原はあの場から逃げ出した。
逃げて隠れて、また、逃げて――。
自分はどこへ向かっているのか。
何から逃げているのか。
佐原自身にも分からない。
「南郷……」
疲弊した佐原の意識の中心を占めていたのは死にゆく南郷の姿だった。
南郷の首が弾ける直前、佐原は南郷を抱きかかえた。会話もした。
その南郷が自分の目の前でたんぱく質のかたまりになり果ててしまったのだ。
もし、過去に戻れたら――。
南郷の足の痛みを察し、肩を貸していたら――。
南郷は今頃、穏健に頬笑みながら、佐原の隣にいたのかもしれない。
「南郷……すまねぇ……」
佐原の頬に熱い涙が一滴滴り落ちる。
しかし、それとは対照的に、心には冷めた論理が蛇のようにとぐろを巻いて潜んでいた。
「南郷は……優しすぎた……」
南郷の優しさが佐原の支えとなっていた時もあった。
平常時であれば、その成熟した気質に恭敬の念を抱いていたのかもしれない。
しかし、今回、それは佐原に別の面を見せてしまっていた。
「これは殺し合いなんだ……甘さを見せれば…気を緩めてしまえば…次に死ぬのは自分っ……!」
死ねば、何もできなくなる。
どんなに無様でも生き続けなければ、これまで紡いできた生の歩みが全て無駄になる。
南郷の気遣いは生きるチャンスの放棄――生存競争からの脱落である。
生への渇望が至らなかったばかりに――。
「そうさ……俺達のような弱者はいつのまにかどんどん隅に追いやられ……
ふと気がついたらはじき出されていたという愚か者……このまんまじゃ……椅子取りゲームで椅子をもらえなかった落ちこぼれだ……」
皮肉にも、その言葉はカイジが限定ジャンケンの際に導き出した人生の道理そのものであった。
「俺は……死にたくないっ……!!!」
心からの願望を口から漏れ出したその時だった。
乾いた銃声が轟き渡った。
「なっ!!」

佐原はとっさに木の陰に隠れて目を凝らす。
銃声の方角にあったのは民家であった。
「あそこからだ……」
危険人物が潜んでいる可能性がある。
生きる本能からなのか。
濁っていた神経が、まるで涼風に吹き払われたかのように研ぎ澄まされていく。
今後のためにどんな人物か確認しておいた方がいいと判断した佐原はライフルのスコープで窓を覗きこむ。
(えっ!)
佐原の背筋に冷たい汗が滲む。
室内にいたのは棒立ちになっている4人の男女、そして、窓に背を向けた遠藤の姿であった。
4人の男女は凍りついた表情で遠藤を見つめている。
当然である。
遠藤の手には拳銃が握られているのだから。
(あいつ……)
あの4人に待ち受けている事象は小学生が習う算数の解答ぐらい明瞭なものだろう。
(遠藤はこいつらを殺すっ…!)
佐原は帝愛のゲーム、そして、このバトルロワイアルを経て、一つの真理に辿りついていた。
(人生ってのは自分のものじゃない……奪い取った誰かの物なんだ……
勝ち続けなければ、武器を持って戦い続けなければ……死ぬしかないっ……!)

遠藤に命を狙われている4人も生を渇望していたに違いない。
けれど、戦う牙を持たなかったばかりに、遠藤に人生を奪われてしまうのだ。
椅子取りゲームからはじき出されてしまうのだ。

「これが現実ってもんだっ……!」
佐原は静かな足取りで歩み出した。
目的地は窓の延長線上にある一本の木。
その木に寄りかかると、ライフルを肩づけして構え、改めてスコープを覗きこんだ。
遠藤の背中がスコープに映る。
遠藤と佐原の距離は50メートルぐらい。
下手な行動と取らなければ気付かれることはないだろう。

「遠藤……」
佐原はゆっくり息を吐いた。
ライフルの銃身に心拍と呼吸を合わせていく。
遠藤はまもなくあの4人を殺害するだろう。
遠藤が4人を殺害した直後、遠藤の頭部を撃つ。
こうして、室内にいる5人全員を処理する。
必ずしも完璧とは言えないが、勝算は高い。
「俺はやれるっ……!俺はっ……!」
佐原は何度も同じ言葉を繰り返す。
人を殺す決心はついた。
後は時期に投ずるのみである。
しかし、その威勢のいい言葉とは裏腹に、ライフルを持つ腕は痙攣を起こしているかのように震えていた。
「なっ……!」
我に返り、己の身に降りかかっている異常に気付いた。
腕だけではない。
膝は一歩でも動かせば、跪いてしまいそうなほどに脱力し、顔からは怯えが皮膚の下から滲み出ている。
明らかに精神は殺人を拒んでいた。
「何をやっているんだ、俺はっ……!」
己を叱咤し、佐原は再び、ライフルを構え直す。
しかし、スコープは路頭に迷ったかのように泳ぎ続け、遠藤の頭部どころか、窓すら全うに写そうとしない。
佐原は殺人への畏怖に呑まれていた。
生物とは文字通り、『生きている物』。
それ故に、命を奪う者は敵である。
もし、人を殺せば、他の人間は自分を敵――殺人という卑しき行為に及んでしまった不浄の存在――と認識してしまうだろう。
一度、敵と見なされた存在に待ち受けているのは、周囲からの排除行為――報復の殺人。
行為の軽さに反して、その代償はあまりにも高すぎた。
「やらなくちゃ……俺は……やらなくちゃ……死ぬしかないんだ……」
体中の震えを止めることができぬまま、自分自身への鼓舞はいつしか“可能”から“義務”へと変化していた。
「遠藤っ……早くあいつらを撃ち殺してくれ……」




(あのオヤジ、銃を持っていやがったかっ!!)
しづかはギリリと歯噛みして遠藤を睨みつけた。
ぎこちない動作で立ちあがっているところから、身体のどこかを負傷しているようではある。
そのような弱体の男をぶちのめすのは、本来のしづかにとって造作もない。
しかし、その右手に握られている拳銃が反撃の妨げとなっていた。
(くそっ!!!あの銃さえ奪うことができりゃあ……!)
しづかは一条に復讐するために、確実に息の根を止めることができる凶器を欲していた。
もし、遠藤から取り上げることができれば、立場が優位になるどころか、復讐への大きな足掛かりとなる。
(あいつからどうやって奪うかだが……)
遠藤は左手にノートパソコンとディバックを抱えている。
身体が不自由なため、どこか煩わしそうである。
(あのノートパソコンとディバックが左手からずり落ちた時に……その隙をついて……)
可能性がないわけではないが、あまりにも都合が良すぎる展開だ。
(あの男の隙をつく方法なんて……えっ……あれは……?)
鈍色の光が窓に映った。
しづかは目を凝らし、その正体に絶句した。
金髪の男がこちらに向かって銃を構えている。
「外に銃を持った野郎がいるっ!!!!!」
「何っ!!!」
遠藤はハッと振り返り、表情を凍らせた。
「あいつは佐原……」
半ば悲鳴に近い声で、遠藤はしづか達に叫ぶ。
「お前ら、逃げろっ!!!!!」




「何っ!!!」
佐原は苦々しそうに漏らす。
ここに来て、遠藤が佐原の存在に気付いてしまった。
遠藤は取り乱したように背後の4人に叫んでいる。
「まずいっ!!!」
佐原の脳天に電撃が走った。
遠藤達は一目散にあの場から逃げていくだろう。
もし、彼らが佐原のことを広めれば、佐原にはそれ相当の報いが来るはずである。
佐原の排除――報復の殺人。
僅か数秒の間に、思考が暗転し、これまでの記憶が駆け巡る。
脳漿を飛び散らせる南郷。
細切れの肉片になり果てていく板倉。
他の誰かに殺され、彼らのようになってたまるものか。
「俺は……」
ふと、記憶の中で遠藤の言葉が過った。

――――棄権費用がほしいんだろ……?殺るなら今だぞ…

「……死にたくねぇっ!!!!!」
狂乱に啼きながら佐原は引き金を引き絞った。




銃の轟音と砕け散るガラスの音が響き渡る。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
しづか達はその場にしゃがみ込んだ。
「何が起こったんだっ!!」
しづかは反射的に窓の方を見上げた。
遠藤は何が起こったのか分からないという表情のまま、上半身をぐらつかせている。
その胸部は血に染まっていた。
「う…撃たれたっ…!」
しづかを含め、全員の顔から血の気が失せる。
窓の外に暗殺者がいて、自分達は狭い部屋の中で身を寄せ合っている。
これを追いつめられた獲物と言わず、なんと表現すればいいのか。
遠藤の身体が崩れ、床に倒れたのが合図だった。
「逃げろっ!!!!!」
黒沢はとっさに沙織を俵のように抱きかかえ、玄関に向かって走り出した。
「くそっ!」
しづかも全力で駆けた。
しかし、玄関ではなく、遠藤の方にである。
「何をしているっ!!しづかっ!!」
仲根は手を伸ばし、しづかを呼び止める。
その必死な声を無視し、しづかはうつ伏せになっている遠藤の手から拳銃とノートパソコンをはぎ取った。
「しづかっ!!!」
仲根はしづかの腕を強く引っ張る。
何発もの銃声を背にし、二人は廊下を走り抜けた。

二人が外へ出た頃には、黒沢と沙織は霞みそうなほどに遠くを走っていた。
ふと、しづかは横目を使って仲根を伺う。
仲根は切なげな表情で黒沢の背中を見つめていた。
見知らぬ土地に一人取り残されてしまった幼子のような寂しさを滲ませて――。
「し……しづか……!」
しづかの視線に気付いた仲根は気まずさから目を逸らした。
「逃げるぞ……少しでも遠くへ……」
二人は無言のまま、民家と黒沢から離れるように再び、駆けだした。



遠藤は力の限りの呼吸を繰り返し、自力の延命を続けていた。
失血で意識が霞む。
身体が床に縫い付けられたかのように重く、身体の中心はただ、熱いとしか感じられない。
肺に穴が空いてしまったのだろう。
口から血が逆流する。
自分の命はもう長くはない。
受け入れざるを得ない事実であった。
「遠藤……まだ、生きていたか……」
佐原は遠藤の傍らに歩み寄った。
遠藤は忌々しげに睨みつける。
「どう……して……撃ちやがっ……」
遠藤の言葉は途中で切れた。
佐原がライフルの銃口を遠藤の頭部に突き付けたからだ。
「俺には時間がない……」
佐原の声はがらんどうの洞を吹き抜ける隙間風のように虚ろでありながら、その瞳は銃口と同じように揺れ動かない。
「ショッピングモールで言ったお前の言葉……“参加者を殺して、棄権費用を稼ぐか、優勝を狙うかしかないな…”って……
それが俺に残された選択だって……今なら分かる……その意味が……」
「なっ……!」
遠藤は愕然とした。
それは遠藤が佐原に対して投げかけた試金石の言葉。
遠藤の愚かさ、佐原の賢さを決定づける分岐点となった言葉でもある。
あの時、二人の明暗を分けた言葉が、今、ここで新たな分岐を生み出している。
「あぁ……言っていたな……俺は……」
泣きたいのか、苛立っているのか、滑稽なのか、惨めなのか。
自分でも理解しがたい感情は、もはや皮肉めいた苦笑でしか表現できない。
「くそっ……」
一体、どこで自分の運命が狂ってしまったのか。
治を殺してしまった時なのか。
沙織に襲われてしまった時なのか。
森田と別れてしまった時なのか。
森田と出会ってしまった時なのか。
帝愛に騙されてこのゲームに参加させられてしまった時なのか。
もし、それらのどこかで別の選択をしていたら――
「まぁ……いいか……」
運命に『もし』なんて存在しない。
それはその時の最良の選択をした後で、もう一方の破天荒な道はどうだったのか…と覗く行為、いわば運命への冒涜だ。
「佐原……これ…だけは…言っておく……」
遠藤は最後の最後、残された力を振り絞って、今の佐原にとって最もふさわしい言葉を吐き捨てた。
「お前は…俺以上の…愚か者だっ……!」
佐原は黙って引き金を引いた。
銃声の轟きはただ一発。
呆気ないほど短く響き、遠藤の命を摘み取った。


【C-4/森/早朝】

【黒沢】
[状態]:健康 パニック 疲労
[道具]:不明支給品0~3 支給品一式×2 金属のシャベル 小型ラジカセ 特殊カラースプレー(赤)
[所持金]:2000万円
[思考]:カイジ君を探し、美心のメッセージを伝える 情報を集める 今後について考える 沙織を保護する 自分のせいで赤松が・・・ 民家から逃げる
※メッセージは最初の部分しか聞いてません。
※田中沙織を、石田さんの遺志を継いで守ろうと考えていますが、まだ警戒しています。
※デイバック×2とダイナマイト4本は【C-4/民家】に放置されています。

【田中沙織】
 [状態]:精神崩壊 重度の精神消耗 肩に軽い打撲、擦り傷 腹部と頬に打撲 右腕に軽い切傷 背中に軽い打撲
 [道具]:支給品一式×3(ペンのみ1つ) 30発マガジン×3 マガジン防弾ヘルメット 参加者名簿 ボウガン ボウガンの矢(残り6本) 手榴弾×1 石田の首輪
 [所持金]:1億200万円
 [思考]:石田(の首輪)を守りたい 死にたくない 一条、利根川幸雄、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
 カイジから逃れる 涯、赤松、その二人と合流した人物(確認できず)に警戒 民家から逃げる
※沙織の首輪は、大型火災によって電池内の水分が蒸発し、2日目夜18時30分頃に機能停止する予定。(沙織は気がついていません)
※標の首を確認したことから、この島には有賀のような殺人鬼がいると警戒しています。
※サブマシンガンウージー(弾切れ)、三好の支給品である、グレネードランチャー ゴム弾×8 木刀 支給品一式、有賀が残した不明支給品×6がD-5の別荘に放置されております。
※イングラムM11は石田の側にありますが、爆発に巻き込まれて使用できない可能性があります。
※石田の死により、精神的ショックをさらに受けて幼児退行してしまっています。
※石田の首輪はほぼ無傷ですが、システムに何らかの損傷がある可能性があります。

【仲根秀平】
 [状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
 [道具]:カッターナイフ バタフライナイフ ライフジャケット 森田からのメモ 支給品一式×2
 [所持金]:4000万円
 [思考]:失意 民家から逃げる
※森田からのメモには23時の時点での黒沢の状況と棄権が不可能であることが記されております。

【しづか】
 [状態]:首元に切り傷(止血済み) 頭部、腹部に打撲 人間不信 神経衰弱 ホテルの従業員服着用(男性用)
 [道具]:鎖鎌 ハサミ1本 ミネラルウォーター1本 カラーボール 板倉の靴 通常支給品(食料のみ) アカギからのメモ コルトパイソン357マグナム(残り3発) ノートパソコン(データインストール済) CD-R(森田のフロッピーのデータ)
 [所持金]:0円
 [思考]:ゲームの主催者に対して激怒 誰も信用しない 一条を殺す 仲根についていく 民家から逃げる
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています。それ故、誰も信用しないと決意しています。
※和也に対して恐怖心を抱いています。
※利根川から渡されたカラーボールは、まだディバックの脇の小ポケットに入っています。
※ひろゆきが剣術の使い手と勘違いしております。
※森田の持っていたフロッピーのバックアップを取ってあったので、情報を受信することができます。 データ受信に3~5分ほどかかります。


【C-4/民家/早朝】

【佐原】 
 [状態]:首に注射針の痕
 [道具]:レミントンM24(スコープ付き) 弾薬×20 懐中電灯 タオル 浴衣の帯 板倉の首輪 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:自力で生還する 森田を信用しない
※森田が主催者の手先ではないかと疑っています
※一条をマーダーと認識しました
※佐原の持つ板倉の首輪は死亡情報を送信しましたが、機能は失っていません
※黒崎から嘘の情報を得ました。他人に話しても問題はありません。

【遠藤勇次 死亡】
【残り18人】



147:分別 投下順 149:伝声(前編)(後編)
143:我欲 時系列順 152:出猟
139:英雄(前編)(後編) 黒沢 149:伝声(前編)(後編)
139:英雄(前編)(後編) 田中沙織 149:伝声(前編)(後編)
145:同窓 仲根秀平 151:繰返
145:同窓 しづか 151:繰返
143:我欲 佐原 152:出猟




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