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記録 ◆IWqsmdSyz2氏


商店街の端に位置する家屋の前で、原田克美は一人立っていた。
埃っぽい家屋から解放されて触れる外気は程よい冷たさで、
原田の中に残っていた僅かな眠気を取り払っていく。

軽く伸びをすると、背骨が鳴る。
平井銀二という男は只者ではない。
敵ではないと頭でわかっていても、どうしても体は緊張してしまうようだ。

原田は無意識にスーツの内ポケットへと手を伸ばした。
されど目当てには触れられない。
タバコもライターも主催側に取り上げられている。
ポケットに指を入れるまで忘れていたその事実に、原田は苦笑いした。

先ほど「一服したい」という原田の申し出を快く受けいれた銀二は、
当然原田が服するタバコを持ち合わせていないことに気づいていたはずだ。
どんな顔をして屋内に戻ればいいのやら、眉根を寄せて考える。

* *


ここに腰を落ち着けて数時間、原田は平井銀二と共に病院の見張りを続けてきた。
銀二の思惑を遂げるためには「病院」を、観察することが不可欠だという。
原田の立場上、銀二の行動に従うほかない。
また、原田自身の考えも銀二に従うべきなのだろうと着地していた。

見張りの中で、原田はこの島で殺し合いが起きているという事実を改めて知る。
深夜から早朝にかけて、病院付近では幾度かの交戦があった。
その全てを銀二はメモに記録し、また原田にもそのように促していた。

――AM1:00頃、病院内を移動する光あり。明かりのついた部屋がひとつ。

メモは、銀二が記したこの一文から始まる。

「病院」という響きから連想されるイメージは大きく分けて二通り。
まず一つ目は、“恐怖”である。
例えば、幼子が注射を嫌がるような。
あるいは心霊番組で取り上げられる廃病院に戦慄するような。
そして二つ目が、“希望”だ。
命を救う、命を繋ぐための施設なのだから必然であろう。

このゲームに参加させられた人間たちがどちらの印象を抱いているのかは知れない。
それでも、ゲームが進行するにつれて増える怪我人たちが
病院に救いと希望を求めて集うのは想像に難くない。
そしてそれを狙う狡猾な輩の存在も、おそらくはある。

この数時間の間に、病院内で参加者間の争いが起きたことは
原田自身 目の当たりにしている。
原田はあくまでそれらの傍観者であり、現場の惨状を詳細に知ることはできない。
それでも――ヤクザである原田でさえ経験したことのない喧騒が
病院を取り巻いていることは事実であった。
生と死が隣合わせであるとはよく言ったもので
原田にとって、まさしく今病院がその象徴のように思えてならない。

――AM1:30頃、病院前で爆破音。地雷か。立て続けに銃声。
        二階を移動していた光が階下へ。

病院前一回目の交戦は最初のメモの一文から三十分後のことである。
この時、原田らが滞在する家屋には一人の訪問者がいた。
森田鉄雄、強運を持つ男。
銀二に代わって、病院の見張りは原田が務めていたが
爆破音や銃声は銀二、森田の耳にも届いたはずだ。
まさか爆薬の類が支給されているとは思いもよらずに若干の動揺を見せた原田に対し
二人は変わらず会話に集中していた。
なるほど、銀二が頼るだけのことはあるのか、と森田に感心しながら
原田はメモにペンを走らせ状況を記録したのだった。


それまで見張りをしていた銀二曰く、
病院では少なくとも三つのグループが動いていたらしい。
そのうち二つは同一勢力の可能性もあるというが、
なにせ深夜の出来事であったため、詳細はわからない。

地雷、銃声の交戦を受けて、二階をうろついていた光の主たちが階下へ移動。
彼らは危険な階下まで移動せずとも、二階から外の様子を伺うことが出来たはずだ。
わざわざ移動したということは、現場を直接確認する必要があったのではないか。
銀二はのちに、地雷と銃声を伴う交戦に仲間が巻き込まれ、
彼らはそれを助けるために二階から駆けつけたのではないかという推察をしている。

――AM1:40頃、人の出入りあり。依然明かりのついた部屋がひとつ。

爆破音の直後二階から一階へと移動した光がそのまま、このとき玄関付近でちらついていた。
周囲を気にしてか、何度か消灯と点灯を繰り返し、最後に消灯して辺りは静まった。
騒動の現場、そこには死体が転がっているのかもしれない。

相変わらず一階のとある一室は照明が点いたままであった。

病院前が静けさを取り戻そうという頃、森田は銀二との対話を終えて立ち上がった。
主催側と首輪の回収をかけてギャンブルしているという森田。
まさに先ほど首輪が落ちている可能性の上がった病院へ向かうのだろうか。
そう予想した原田だったが、銀二は思わぬ言葉を口にする。

「…原田さんがギャンブルで勝った相手に村岡という男がいる」

銀二は森田に村岡の存在を伝える。
言葉だけを見れば親切心で情報を与えたように思われるが、
その実、「村岡のいるE-2エリアへ行きなさい」と誘導しているかのような調子であった。

やり取りの中に、おそらく二人にしかわからない暗黙の了解が含まれているのだろう。
これから森田も銀二の下、共に動く仲間となるはずなのだから。
原田はそう考えながら、民家を後にする森田を見送った。

残った銀二に、原田は走り書きを渡す。

『病院周辺はゴタゴタしとる。迂闊には近づけん』

爆破音と銃声、当然銀二も事態を理解している。
原田の渡した紙をくしゃりと握りつぶしながら頷いた。

視線を病院に戻しながら、原田は森田についての印象を思い返していた。
切れ者、銀二と再会するだけの運の良さも持ち合わせている。
落ち着いていたし、頼りがいのある仲間になるだろう。
自然と口の端があがる。戦力が増えるのは大歓迎だ。
しかし、銀二は原田とは対照的に一抹の寂しさのようなものを漂わせる。
森田の去った方向を見つめながら、力強く言うのだった。

「森田はもう来ませんよ・・・私の前には・・・仲間としてはね」

『森田は仲間になりえなかった』――銀二の言葉は、原田の期待していたものとは正反対だ。
なぜ?と純粋な疑問が浮かぶ。
森田は銀二と気心の知れた関係だったはずだ。
それに加えて、原田もこのゲームで共闘するにあたり森田に好印象を抱いている。
何よりも森田が持っている可能性がある“ゲーム主催者と直接交渉窓口”は
原田の求めていたものだったのだから、森田を逃すのはあまりに惜しいのだ。
銀二から森田と袂を分かつ理由を説明されても、
蚊帳の外の原田からすれば到底納得できるものではない。
釈然としないまま、それでも銀二を問い詰めることもできずに原田は見張りを再開したのだった。


――AM2:00頃、玄関前で時折光が見える。何かの作業中か。

――AM3:00頃、ようやく玄関前から人影が消える。

森田が去ってからまもなく、玄関前で再び光が点灯する。
病院内から持ち出した懐中電灯だろう、あまりに無用心にその光は闇夜を照らしていた。
死体漁りでもしているのだろうか。
しばらく黙って様子を見ていたが原田だが、玄関前の人影は作業をしつづける。
遺品を持ち去るだけにしては、時間がかかりすぎであろう。
また地雷を埋めているのか?いや、もしかしたら死体を埋葬しようとしているのか?
時間をかけて何らかの作業を遂げた人影は、一時間後に玄関前から姿を消す。
首をかしげる原田に、部屋の隅で何やら作業をしていた銀二が声をかける。

「森田の来訪でろくに仮眠もとれなかったでしょう・・・」

見張りの交代の申し出であったが、原田はそれを断った。
行動に支障があるほどの強い眠気はもう去っている。
普段どおり動ける程度には、体の調子を保てていた。
仮眠などよりも、原田は銀二に問いたいことが積み重なってそればかり気になったのだ。

『いつまで見張りを続ける?』

カメラの死角を意識しながら、原田はメモに率直な疑問を綴り銀二にぶつけた。
民家に腰を落ち着けてからこの時点まで、2時間は経っていた。
銀二から告げられたのは行動方針の一部のみであり、
そしてそれは主催を打ち倒すための手段にしてはあまりに地道なものだった。
こうしてここで病院を見張り続けることで、いったい何がわかるというのか。
森田と三人で病院に乗り込めばよかったのではないか。
何故、あのように森田を病院から遠ざける言動をとったのか。

「しかし・・・森田が主催と契約を交わしていたとは思いませんでした。
彼の行動が吉と出るか凶と出るかわかりませんが・・・・」

「主催と対話できる可能性ってもんがわかっただけでも十分や」

カモフラージュのための会話を交わしながら、原田は銀二からメモの返答を受け取る。

『今まで理由も告げずに行動を縛ったことを謝罪する。
スキャンダルを掴むには病院の捜査は最重要。
そのために見張りは欠かせない。見張りの意味は確かにある。
まず第一に、私はマークされているため病院を調べる機会に限りがある。
来たるべきチャンスに備えて無駄な動きを控え、病院の近くで待機したい。
第二に、私はとある可能性を疑っている。
病院に目をつけているのが我らだけではない、という可能性を。
スキャンダルを知る者が他にいたらどうか。
その人物が、我らと同じ目的とは限らない。
スキャンダルの“証拠探し”ではなく“証拠潰し”を狙う連中がいるかもしれない。
聡明な貴方のこと、察しているだろうが
私はこの“証拠”を掴めさえすれば命をも厭わない。当然方法も厭わぬ。
巨悪と共に心中する覚悟がある。
そして原田さんはメッセンジャー・・・確実に生き延びてもらわなければ困る。
謂わば、貴方は生を誓った者・・・私は死を誓った者・・・!』

原田が痺れを切らしはじめていたことに気づいていたのだろう。
いつまで見張りを続けるのかと原田が問う前から、この文章は用意されていたようだ。
メモの一枚目には見張りの理由が書かれている。
主催にとって不自然に思われない位置から、病院に不自然な動きがないか見張る。
なるほど、銀二の立場からすれば意味があるともいえる。
原田にとって説得力に欠ける内容であることは事実だったが、
複数枚に及ぶメモに目を通すため、適当な会話と相槌で場を取り持つしかない。


「森田が頼りにならないとなると・・・人材探しも本腰を入れる必要がありますね・・・
赤木しげると伊藤開司、村岡隆とは再会の目処が立っている・・・。
私から推薦したいのは先程の通り宇海零という少年です・・・!
あとは・・・井川ひろゆきくん・・・でしたか」

「他にも主催を倒すために動いてる人間がいれば積極的に引き入れたいところやな」

原田が静かに一枚目のメモをずらす。
下から現れる二枚目のメモにはこれからの行動について書かれていた。
病院を見張り続けるだけでは埒があかないと考える原田には最も興味深い部分である。

『これから原田さんには島南を回ってきてほしい。
目につくものがないか、大まかで構わない。
G-4が禁止エリアになったことから、港の存在は確定的と見ている。
また、主催陣が港の詮索を危惧していることもほぼ確定的。
首輪が作動している限り港に入れなくなった今、
我々は秘密裏に港を探る必要はない。むしろ港を目眩ましに利用する。
私はその間別行動を取るが、一時間後再びこの民家に集合のこと。
電灯なしで室内が見渡せる時刻になってから病院に移動(日の出がAM5:30前後)。
主催は私や貴方のように“見込みのある人物”には易々と手を下せない事情がある。
そのため、あるラインまでは一種の安全圏。
一線を越えたその時に私の身に何が起きるかはわからない。
そしてその一線は我々の目には見えない。
慎重に慎重を重ねても不十分なほどのギャンブル。
しかしその一線を越えると決めた限りは引き下がれない。
こちらはギリギリまで悟られぬよう尽くすことで抵抗する。』

今までの銀二からの言葉に比べ具体的なそのメモの内容に、原田は思わず目を見張る。
『島南、港を探せ』というメモを受け取ったのは第二回の放送前だったか。
港の捜索はG-4が禁止エリアになったことで先延ばしになっていたのだ。
港を目眩ましに利用する、とはつまるところ
銀二の関心の先が病院ではなく港であるというアピールの実行を意味するのだろう。


表面上のためだけだった会話を、徐々にシフトしていく。
二人が別行動をとっても違和感がないように、
原田が港へ向かっても不自然にならぬように、足場を固める必要があるからだ。

「もう一つ・・・気になることがあるんですよ・・・!
我々がどうやってこの島に連れてこられたか・・・その手段・・・!」

「手段か・・・たぶん空か、海やろな・・・・」

「そうでしょうね・・・。
島の大きさや参加者の人数を考慮すると、海路が濃厚・・・!」

「参加者全員を乗せて来られるだけの大きさの船なら港が必要やな・・・
海岸線沿いを見てまわるか・・・?脱出の手がかりがあるかもしれん」

「フフ・・・そうですね・・・港探しは、同じように考える人間・・・
優勝狙いではなく脱出を見据えることが出来る人間と会う切欠になるでしょうし・・・」

「となれば・・・行動あるのみや」

「二手に分かれましょう・・・・原田さんは南下してください。
私は南東方向を回ってきます・・・
目ぼしいものが見つからずとも・・・日が昇る前に再びこの民家に戻ってきてください。
第三回放送が近いですし、長時間の単独行動は控えたい・・・。
この辺りは外灯もあり道も開けていますからくれぐれも周囲の気配に気をつけて・・・」

会話の合間、原田は三枚目のメモに目を通す。


『本来ならば、病院の捜査という命の危険を伴う行為は
ゲームに終止符を打てるタイミングで行いたかった。
例えば、カイジら対主催グループが十分に成熟した時。
主催陣がそちらに目をとられるだろう時。
私は対主催グループを隠れ蓑に使う心積もりだ。
先ほどまで私は、更に病院捜査のための準備を続け、
病院に突入するのはアカギやカイジと一旦合流した後を予定していた。
しかしその予定は変更。我々も森田の行動に合わせる。
森田のことだ、主催からの依頼は達成すると見込んでいる。
森田の狙いは第3回放送までに依頼を達成した場合の報酬、
進入禁止エリアの解除権と思われる。
この解除権が行使されるタイミング――
つまり主催と対主催陣営が大きく動くと予想されるタイミングこそが
我々が行動するにふさわしいチャンスとなる。
第3回放送がAM6:00、解除権の行使はAM7:00まで。
この時間帯が勝負。森田の強運に乗る形を取る。』

銀二がスキャンダルの裏付けを病院に求めていることは、既に原田も承知している。
その裏付け――証拠を掴むことが出来るのならば、命を投げ出す覚悟だということも。
証拠を掴むまでは、そうと主催に気取られてはならない。
掴んで以降も、折角の証拠を潰されてはたまらない。
となれば、対主催グループが主催を追い詰めている時分に
その裏でスキャンダルの証拠探しをするというのは理にかなっている。
証拠を掴む頃、対主催の人間が主催陣の喉元まで迫っていれば、
もしくは脱出の目処が立っているようならば尚の事都合がいい。

しかし、先刻の来訪者である森田がイレギュラーだった。
森田は既に主催とのギャンブルという段階にまで至っていたのだから。
彼は“仲間”ではないが、決して敵でない。銀二を邪魔するような動きはしない。
なるほど、と原田は納得する。
銀二は森田をも利用して、己の思惑を遂げようというのだ。


荷物をまとめながら、原田は紙を捲る。
四枚目、メモは最後だ。

『病院の捜査については、私に任せていただきたい。
どこまであなたに協力してもらうことになるか、現段階ではわからないが
少なくともスキャンダルを掴むまでは、あなたを危険には晒せない。
あなたを頼りにするのは証拠を手にしたあとのこと。
私が掴んだ証拠を告発まで持ち込むのがあなたの使命である。
容易いことではない。
あなたはこの島から確実に生還する必要がある。
殺しに乗って優勝狙いを頼むことになるかもしれない。
対主催が優勢ならば勝ち馬に乗らせてもらえ。
私とあなたが戦う相手は人間ではない。
人間を殺すのではない。巨悪を喰い破るのだ。
くれぐれも身の安全を第一に。あなたに死なれては困る。』

“あなたに死なれては困る”。
原田が日常的に聞いてきた言葉だった。
部下がそう言う度に、自分は死ぬような無茶をする男ではないのだ、
買いかぶるな、と複雑な心境になったものだった。

銀二の端正な文字が、原田の目に焼き付いた。
元よりむざむざ死ぬつもりなどなかったが、
生きなければならないという重さと意味が、原田の肩にのしかかる。

「それでは・・・一時間ほど別行動といきましょうか・・・」

「・・・せやな」

こうして二人は一度民家を後にしたのだった。


銀二と分かれ、原田は海岸線を目指した。
この周辺は外灯と月あかりのみで十分に行動できる。
それだけ原田の身も明るみに晒されることになるのだから
細心の注意をはらって移動する必要があった。

ルートは南西気味に取る。
民家からまっすぐに南下しては、進入禁止エリアのG-4に着いてしまう。
地図上にエリアの線引きがしてあったとしても
現実にそのラインが見えるわけではない。
どこまで近づくと危険なのか、首輪が爆発してからでは遅い。
「南東方向を目指す」という銀二の言葉を正面から受け取る訳にはいかないが
それならば、と原田はバッティングセンター側を回って海岸に近づくことにしたのだった。

程なくして、崖と海が見えた。周囲に人の気配はない。
職業柄立場柄、人の気配や殺気には敏感な原田である。
この島でも己の嗅覚を生かしていた。

ヤクザの頭を務めている原田は、常にある種の覚悟を持っている。
一般人の枠組みから外れている自覚はあった。
そして、何時誰から襲われることがあったとしても受容するだけの矜持があった。
立場に縛られる生き方を歩んできたのは事実だが、
その中で養ってきたものは確かであると、そう信じきることが出来た。
己の足元に数多の犠牲が転がっていることも、十分に理解していたのだ。

何故自身が選び出され、この島に連れてこられたのかはわからない。
帝愛、蔵前、在全の三グループが主催するギャンブル。
原田は今、そのカードの一枚として扱われているに過ぎない。
されど、これだけ大規模な企画である。
銀二の話では、兆を超える額が動くだろうというゲームだ。
原田はふと、自分が試されているような錯覚に陥る。
今まで生きてきた全てを持って、このゲームに挑まなければならないような錯覚に。


バトルロワイアルという仕組まれた舞台――潮流。
我々は突如大海に投げ出された無力な人間だ。
流される者、溺れゆく者、逆らい泳ぐ者、限られた救出ボートを狙って争う者。
全てを安全な客船から眺める傲慢な首謀者達。
その船を転覆せしめようという輩が出てくるのも当然のこと。
そして、銀二の行為は“海”そのものを支配しようというもの。
客船を沈めるだけでは足らぬ、ということだ。

原田は己の持ちあわせる渾身で、海を泳ぎきるつもりだ。
銀二の思惑を遂げるために。無論、自身のためにも。
叶うのだろうか。我々のなそうとしていることは、果たして叶うのか。
原田の目前に広がるのは、執拗に闇を抱えた暗い海である。
月明かりを反射しているものの、その正体は圧倒的な闇。
底が知れない深い深い海。

潮風がぶわりと吹いた。
背中を押そうとしているのか、それとも挑発してるのか。

原田は軽く頭を左右に振ると、海沿いを見渡した。
今は形だけだとしても、「港を探す」という目的を忘れてはならない。
海岸に視線を這わす。想像以上に夜は視界が悪い。
目を凝らすと、数百メートル先の地面がコンクリートであることがわかる。
桟橋らしきものも見受けられる。
ただし、その辺りは建物がいくつか建っており、見通しが悪い。
船が停泊しているかどうかまではわからなかった。
建物は、倉庫か何かなのかも知れない。
あの辺りが禁止エリアに設定されたG-4だろうか、と原田は考える。
もう少し近づいて確認したいところだったが、
銀二の「身の安全を第一に」という指針は守らなければならない。

時計の文字盤を確認する。
夜闇で見えない文字盤を、舌打ちをしながら月明かりに照らそうと動かした。
うまく照らせたと思っても、文字盤を覆うプラスチックに光が反射して見えない。
そうして幾らか一人格闘していた原田だったが、文字盤の横にあるボタンに気がついた。
ボタンを押すと、文字盤のバックライトが点灯する。
懐中電灯ほどの強さではないが、手元を照らすぐらいにならギリギリで使えるだろうか。
思わぬ発見を少し嬉しく思いながらも、頃合いだということで原田は海岸を後にした。


原田が民家に戻ると、銀二は既に待っていた。
これまでカメラの死角近くを定位置としていた銀二だったが、
どうやら今はそのつもりもないらしく、堂々と部屋の中心に鎮座していた。
こちらに背を向けているため、表情は窺えない。

「港らしきもの、あったで・・・!」

原田の報告に、ようやく銀二は振り向く。
そして、その姿を見た原田は、この一時間で一体何があったのか、
銀二に問い詰めたい衝動に駆られるのだった。

「私の方は少し痛手を負いましてね・・・大したことはないのですが」

銀二の顔には複数の擦り傷、スーツも汚れている。
何よりも驚くべきは、左腕の状態である。

「お・・おい・・・!それ折れてるんやないかっ・・・?!」

原田の素直な反応に、銀二は満足そうな視線を寄越す。
これも策の一部ということか。原田は末恐ろしい気持ちで銀二の回答を待った。


「何せこの夜闇、視界の悪さでしょう。足を滑らしたらそのままゴロゴロと」

体を揺らすジェスチャーを交えながら、銀二はややコミカルに語る。
意図的に腕の骨を折ったというのならば始末が悪い。
利き手でではない左を狙ったことは明らかである。
転落時に枝が刺さったのか、スーツ越しに血が滲んでいた。

「ゴロゴロって・・・どうにか処置せんと」

ため息混じりに告げた原田。その言葉に、銀二は眼光を鋭くする。
そして原田もようやく銀二の意図に勘づくのであった。

「・・・病院や。
そういえば・・・この島に病院があったやろ・・・!
止血と消毒・・・・・痛み止めの薬もあるかもしれん・・・!」

そう、銀二は病院に向かうための理由を自ら作り出したのである。
カメラの死角をついた筆談で思惑は伏せられる。
それでも、銀二が病院に向かえば、主催側が不信感を抱く可能性があった。
病院に向かっても不自然ではない状況作り。
怪我人ならば病院を目指しても何らおかしくはないのだ。
そして、その提案が原田から生まれたのならば尚更に真意が悟られにくいだろう。

「なるほど・・・尤もな意見ですね・・・!
しかし・・・・・少し休ませてもらえませんか。全身の打撲が辛くて敵わない」

銀二は緩慢な動作で窓際へ移動する。
見た目よりも怪我の具合は悪くないはずだ。
夜明けを迎えるまで病院の見張りを続け、
その後は原田の肩を借りるパフォーマンスでもしながら病院に向かおうという魂胆か。
まったく食えない男だ、と原田は苦笑いする。


見張りを再開して間もなく、病院付近で動きがあった。

――AM4:10頃、病院内を移動する光あり。二階へ向かう。

――AM4:30頃、光は二回を徘徊。何かを探している?

この何者かの行動を、銀二は「まずいかもしれない」と形容し、注視した。
病院内を探査しようという銀二の目的。
『病院でのスキャンダル』の裏づけを取ろうという行動。
病院内を移動するこの人物が、
銀二と同じように“証拠探し”をしようと徘徊しているのならばまだいい。
“証拠潰し”のために病院を嗅ぎまわっているのかもしれない。
それが恐ろしい、と銀二は原田に伝える。

懐中電灯のものか、その光は病院内を行き来しながら照らす。
よほど強力な武器を持ち合わせているのか、自信家なのか。
傍から見ると不用意にさえ映る様子だったが、
もしかするとこの人物は、病院内に敵がいないことを知っているのかもしれない。

銀二は目を細めて、病院を見つめ続けていた。

――AM4:40頃、光が一階へ移動。外が明るみ始めたので光の視認が難しくなる。

日の出が近づくにつれて、周囲が明るくなっていく。
おそらくカメラ越しでは銀二は眠っているように見えるだろう。
原田は時折地図を眺めてみたり、支給品の整理をしてみたりしながら、
銀二の手がメモの上を器用に滑るのを感心に思うのだった。

そして、病院で二回目の交戦が観測される。

――AM4:50頃、一階で爆破音。 一帯が破損。


窓ガラスが外にまで飛び散り、煙が空へのぼっていった。
拳銃という武器を持つ原田だったが、幾度も爆発が起きるような場所に赴いて
果たして無傷で済むのだろうかという不安が浮かぶ。

三時間半ほど前に聞いた爆破音とは違うように思えた。
規模は小さいものだったが、辺りの惨状を見るに爆発力は十分だと言えるだろう。

予定ならば、そろそろ病院へ向かおうかというところだが
病院内で争いが起きているとわかった今、どうするべきなのか。

爆破音から十分ほど経った頃、
銀二はメモを取り終えると時計を確認し、起き上がった。

「あぁ・・・おはようさん」

「相変わらず体の痛みが酷いですが・・・」

原田の挨拶に、銀二は頷きながら目配せをする。
先の爆発は無視できないが、森田の行動と時間を合わせるのならば、
銀二にも時間的余裕がないのが事実だった。
少し迷ってから、原田は銀二の視線に答えた。

「・・・時間が経ってもっと酷くなると困るやろ。
明るくなってきたしそろそろ病院に行くのはどうや・・・?」

「ええ・・・肩を貸してもらえますか・・・!」

今まで見張り続けてきたその場所に向かうのは、どこか不思議な感覚である。
浮ついた気持ちを落ち着けるために、原田は銀二に一つの申し出をしたのだった。

「その前に・・・一服してきてええか・・・?」


* *


原田のスーツの内ポケットには、タバコの代わりにメモが入っている。
銀二との筆談の記録。そして、病院前を観察し続けた記録。
必要な時がきたら、処分するように。
銀二はそう告げながらメモの全てを原田に託した。

これから乗り込むという病院で、銀二は巨悪のために命を張ろうというのだ。
生き続けなければならない己が、その一切を見届けるのは
半ば使命のようなものなのかもしれない、と原田は思った。

「行くか」

紫煙のかわりに早朝の空気を肺に溜めると、原田は銀二の待つ家屋へと戻っていった。



【F-4/商店街家屋内/早朝】

【平井銀二】
[状態]:全身打撲 かすり傷 刺し傷(軽傷) 左腕骨折
[道具]:支給品一覧 不明支給品0~1 支給品一式 褌(半分に裂いてカイジの足の手当てに使いました) 病院のマスターキー
[所持金]:1300万
[思考]:病院を探索する 証拠を掴む 猛者とギャンブルで戦い、死ぬ 見所のある人物を探す カイジの言っていた女に興味を持つ 
※2日目夕方にE-4にて赤木しげると再会する約束をしました。
※2日目夕方にE-4にいるので、カイジに来るようにと誘いました。
※『申告場所が禁止エリアなので棄権はできない』とカイジが書いたメモを持っています。
※原田が村岡に出した指令の内容、その回収方法を知っています
※この島で証拠を掴み、原田、安田、巽、船田を使って、三社を陥れようと考えています。
※森田が主催と交わした契約を知りました。

【原田克美】
 [状態]:
 [道具]:拳銃 支給品一式 
 [所持金]:700万円
 [思考]:銀二に従う もう一つのギャンブルとして主催者を殺す ギャンブルで手駒を集める 場合によって、どこかで主催と話し合い、手打ちにする
※首輪に似た拘束具が以前にも使われていたと考えています。
※主催者はD-4のホテルにいると狙いをつけています。
※2日目夕方にE-4にて赤木しげるに再会する約束をしました。カイジがそこに来るだろうと予測しています。
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。原田も村岡を殺すことはできません。
※村岡に「24時間以内にゲーム主催者と直接交渉窓口を作る」という指令を出しました。中間報告の場所と時間は次の書き手様にお任せします。
※村岡に出した三つ目の指令はメモに記されています。内容は次の書き手様にお任せします。成功した場合、原田はその時点で所持している武器を村岡に渡す契約になっています。
※『島南、港を探せ』『病院内を探索する』『黒幕は帝愛、在全、蔵前』『銀二はアカギや零とは違う形の対主催体制をとる』という内容の銀二のメモを持っています。
※森田が主催と交わした契約を知りました。



149:伝声(前編)(後編) 投下順 151:繰返
144:願意 時系列順 143:我欲
140:正義 平井銀二 160:泡沫
140:正義 原田克美 160:泡沫




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