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繰返 ◆IWqsmdSyz2氏


しづかは後悔していた。
これほどまでに明確な後悔ははじめてだった。
そして不安になった。ただ不安だった。
この気持ちを解決する術を、しづかは知らなかった。経験がなかった。
ただ今までの全てに後悔していた。

空が明るくなりはじめている。
それだけでしづかの気持ちは楽になる。
今まで夜に恐怖を抱いたことなどなかったのに。
この島の全てがおそろしくてたまらない。

振り返る。しづかの数メートル後ろに仲根がついて歩いていた。
黒沢と別れて以降、仲根は意気消沈していた。
190センチはあろうという巨体が、今では随分と小さく見える。
しづかは思わず唇を噛んだ。

でかい図体をして、情けない。本当に情けない。
戦える体をしておきながら、どうしてそれを生かさない。腹が立つ。
さっきの女も大概だ。泣けば守ってもらえると思いやがって。
大人だろ。ふざけんなよ。鬱陶しいから死んじまえ。
黒沢とかいう親父も、売女に惑わされやがって。
クソジジイとクソババアでお似合いだ。仲良く死ね。心中でもしちまえ。
頼りになると聞いて行ったのに、やっぱりダメじゃないか。
汚い。悔しい。あんなやつらを頼らざるをえなかった状況が悔しい。
何も思い通りにならない。悔しい。腹立たしい。苛々する。

「おい仲根!さっさと歩けよっ・・・!」

怒鳴りちらしても肩透かし。仲根の反応がない以上、虚しいだけだ。
しづかは大げさにため息を吐く。
絶えず湧く苛立ちを消費するには、足元の枝に当たるしかなかった。

もうあんな目に会いたくない。
辛うじて生き延びてきているものの、しづかの目前で何人もの人間が死んでいった。
次は自分かもしれない。生きているのが不思議な心地だった。

この島は悪人だらけの牢獄で、このゲームの参加者たちは例外なく私を狙っている。
この島の中にも、もしかしたら信用出来る人間がいて、助けてくれるかも知れない。
正反対の二つの思いが、しづかの中で拮抗していた。

神威勝広は死んだ。
板倉も死んだ。天も遠藤も、死んでいった。

「違う・・・死んだんじゃない・・・・!殺されたんだっ・・・・!」

しづかは拳を震わせる。
勝広は、しづかに一切手を出さなかった。
自身の復讐を遂げさえすれば、あとはしづかに協力してくれると言った。
この島に連れてこられたばかりで隙だらけのしづかを、
勝広はただ気遣い、守ってくれた。
板倉もそうだ。中学生を殺すなど、そうと決めれば簡単なこと。
それでも、いたわってくれた。
今思えば、天という男も同じ。庇い守ってくれた。
命をかけて、何の役にも立ちはしないちっぽけな子供を、守ったのだ。
遠藤にしても、思い返せば恨みようがない。
しづか達を殺すと告げておきながら窓の外から狙われているとわかったとき、
彼は「お前ら、逃げろ」と叫んだのだから。

死体は口を聞かない。
殺された男たちが、腹の底で何を考えていたかはわからない。
しかし、しづかにとって殺された彼らは望みでもあった。
死んだ人間は裏切らない。だから、きっと。きっと彼らは悪人ではないのだ。
しづかの都合のいいように理想を押しつけても、死体相手では裏切られようがない。

喉の奥がちくちくと痛む。
しづかは仲根から分けてもらった水を、一気に喉へ流し込んだ。
哀しい気持ちは湧きでるのに不思議と涙は出なかった。
泣きたいとも思わなかった。
一人で歩くのだ。強くなければ生きられないのだ。
泣いた瞬間に負けてしまいそうで、涙を流すわけにもいかないのだった。

殺されていった中には、しづかが信じさえすれば救えた人間もいる。
それに対する罪悪感を僅かに覚えながらも、それでもしづかは一貫して
信じて裏切られるくらいならば、裏切られる間もなく疑い尽くしたほうがマシだと思っていた。
死者へは半ば許しのような感情で、恨む気持ちさえ湧かないが、
彼らを殺していった人間は、明らかにしづかを裏切っていった人間は、確かに存在するのだ。

勝広を殺した青年も、板倉を殺し、しづかを辱めた一条も、しづかを騙した利根川も、
そして、板倉を裏切った上に遠藤を殺した佐原という男も、許すわけにはいかない。
同時に、その状況を招いた自分自身を戒めなければ、過ちを繰り返すばかりだろう。

死にたくない。それ故に、他人を信じない。頼らない。
けれども誰かに縋りたい。そして縋れない。信じてはいけないのだから。
しづかが死者たちに極めて希望的な想いを抱いているのは、
しづかが誰も信じないと決めたからこそである。
生身の人間に縋れないのならば、死者を信じる事で精神の均衡を保とうという本能だった。

「だいぶ明るくなってきたな・・・」

仲根は変わらず無言であるため、会話は成立しない。
しづかが歩みを速めれば、仲根もそれについてくる。
速度を緩めれば、仲根もそれに従うまでだった。
まるでロボットのようなその様子に、しづかは呆れさえ感じる。

夜が明けたとは言え、この島に来て、まだ一日も経たない。
時間の進みが遅く感じられた。
警察は今頃動いてくれているのだろうか。
しづかは一週間やそこら、酷いときは一ヶ月近く家に帰らないこともザラだった。
こうしてしづかがこの島に来ても、いつもどおり娘が一日帰らないだけ。
親が捜索願を出すとは思えない。
学校も同様。いつもどおり不良が登校してこないだけ。騒ぎになんてなりようがない。

助けて欲しい。こんなことなら、真面目にしてればよかった。
毎日学校に行って、毎晩家に帰ってればよかった。
こんな怪しい企画になんて、参加しなければよかった。

後悔を繰り返した分だけ、しづかに苛立ちが募った。
爆発しそうな感情を、鎮めておくことこそ強さなのだ。
辛く惨めな思いにさいなまれても、それが背負うには大きすぎるものだとしても、
投げ出しはしない、放り出しはしない、生き抜いてみせるのだと、
そう自分自身に言い聞かせることで、苛立たしい気持ちを抑えていた。

佐原から逃げてしばらくは、狙われにくいように木々の合間を走って移動した。
やがてしづかが落ち着きを取り戻し、仲根も冷静になったように思われたため
今、速度は軽く息が弾む程度までに落としている。
目的地はない。現在地もわからない。そもそも、しづかは地図がわからない。
嫌な思い出のある場所には近づきたくはなかったし、
身を守る何かが手に入るのならばそれが一番いい、という程度の考えである。
しづかは仲根に、何か当てになる場所や人間がいるかどうか、と尋ねたが
仲根は「兄さんしかいない」とだけ返してきた。
「冗談言うなバカ」というしづかの言葉を最後に、二人の間に会話はなかった。
ゆえに、この数分間当てどもなく歩き続けているのだ。
しづかも仲根も、先々のことまで考えられるほどに大人ではない。
こうして移動しているだけで、二人の精一杯であった。

仲根が人を殺しているという事実を、しづかは出来る限り無視していた。
黒沢と仲根のやり取り、そしてその後の仲根の様子を見ても、
彼の殺しは黒沢のために良かれと思ってやったこと。
当然人殺しが良いわけがないのだが、それでも仲根の苦痛は理解できる気がしたし
仲根を信じ頼り続けることができなくとも、避けようとは思えなかった。
苛立ちや肩透かしの虚しさはあれど、常に仲根への気遣いはあったのだ。

「このまま進めば・・・海に出るかな」

民家を逃げでてから道を曲がった記憶はない。
道無き道を選んできたため、直進し続けられているとも言い切れないが
頭の中で朧気に地図を思い浮かべると、そろそろ島の端につくように思われた。
海に出たからといって何があるわけでもないが、
この島が外の世界と繋がっているのだと目視して安寧を得たいという気持ちもあった。

「なぁ、仲根」

何気なく振り向く。
定期的に仲根――味方だと認識している人間を視界に捉えておきたい。
自分の信じること、信じかけているものが間違っていないと確認したいからかも知れない。
しかし、しづかの望みは裏切られる。そこに仲根の姿はなかった。

「おいっ・・・!仲根・・・?」

周囲への警戒などは吹き飛ぶ。しづかは取り乱しながら辺りを見回した。
仲根はどこへ行った?いつからいなくなった?置いていかれた?裏切られた?

「仲根っ・・・・!」

なりふり構わず、しづかは声を張る。
この瞬間に限っては、死の恐怖よりも仲根がいないことへの不安が上回っていた。

そのとき。木々の合間から仲根の頭髪が見える。
程なくして仲根は懐に何かをしまいながら、しづかの立っている場所へやってくる。
仲根が追いつくのを待たずして、思わずしづかは駆け寄った。

「おま・・・おまえどこに・・・!なんで!」

頬を引っぱたいてやろうか、と思う。
しかし、その考えは仲根の眼を見た途端に消えてなくなった。
どこかで見たことがある。その眼の光にしづかは後退りする。

「仲根・・・・」
「しづか、火あるか」

ずいぶん久しぶりに聞いたように思えた仲根の声に、安堵するよりも奇妙さを感じる。
発言の真意も掴めないまま、しづかは小さく答えた。

「ない・・・なんで」

目を合わせられない。何かが、何かおかしいのではないか。

「ここに来る途中に一件でかい家があった・・・・引き返すぞ・・・・!」

言うやいなや、仲根は踵を返す。
これまでただ しづかの後を付いて歩いていただけの仲根が、
何かをきっかけに主導権を握ろうとしていた。

「家なんてあったかよ・・・!それにっ・・・・なんだ・・・!
なんなんだよ突然っ・・・・!おまえ・・・私がどれだけ心配したと・・・・」

仲根は、ただ声を抑えるようにジェスチャーする。
それが、しづかの神経を逆なでした。拳が震えるのを抑えずにはいられなかった。

「仲根・・・!なんだよ・・・意味わかんねぇ!」

体格の大きい仲根の歩幅に合わせて進むだけで、しづかにとっては運動だった。
息があがっているのを悟られないようにすることで、弱さを隠す。

「仲根っなんか答えろよ・・・・!」

ドスをきかせたはずの声も、強がりにしか聞こえない。
仲根は、しづかにただ一言告げた。

「やっぱり兄さんだ・・・・!ああ言われて・・・それでわかった・・・・!
オレには兄さんしかいないんだ・・・・・!」

以降、何を聞いても返らない。
数分前と同じ静けさ。またしづかは苛立ちを募らせる。
数分前までと決定的に違うのは、主導権がしづかから仲根へと移ったことだろう。

黒沢という男を、仲根は異様に慕っている。
黒沢のために人殺しにまでなり、その決死の好意を踏みにじられてもなお、
敬慕の情は変わりないとでも言うのだろうか。
あんなにも消沈していた仲根が、こうまでも行動的になったのは何故か。
やはりいくら問いかけたところで、仲根は無言を貫いた。

「あ・・・ほんとに家が」

引き返して数分歩くと、仲根の言うとおりに民家――別荘が現れる。
しかし、屋内にいるところを佐原に狙われてからそう時間は経っていない。
しづかには大きな不安が残る。また狙撃されはしないだろうか。

同時に、「ここで休めたら」という期待も生まれた。
サイズの合わない靴を履いて移動するのには体力が奪われる。
佐原から逃れて緊張が緩みかけ始めると、身体面での不調が目立つようになった。
休める場所があるというのなら、願ってもない話だ。

仲根は先客の確認のためか家の周りを窺った。
玄関が一つ。裏口が一つ。大きな窓が二つ。カーテンもついている。
外から見えないようにできる。尚且つ脱出経路が複数ある。
万が一佐原が追いついてきても、逃げ切れるだろう。
きっと大丈夫だ。
しづかの心が、休息へと傾き始めた。
そして今の仲根に強く反論すると見放されるかも知れないという怖さを感じている。
仲根が正面玄関から扉を押しあけて入る後に、しづかは大人しくついて歩くしかなかった。

「台所を見てくる」

しづかを玄関に置いて、仲根は廊下を進んでいく。
一人玄関に残ったしづかは何ともなく下駄箱を開けた。
無意識に近い、意味もない行動だったが、しづかは思わぬ収穫を得る。

「あっ・・靴・・・これ23.5センチ・・・・・履けるかも・・・!」

棒のように感覚のない足をマッサージしながら、しづかは見つけた運動靴を試し履きする。
今度の靴は少し小さめだったが、それでも板倉のものと比べると俄然歩きやすい。
今まで借りていた板倉の靴は、悩んだ末に民家の玄関に置き去ることにした。

「ありがとな・・・・助かったよ」

しづかは板倉の靴に対してこれまでになく優しい声をかけると、仲根の待つ部屋へと移動した。
廊下には、おかしな臭いが漂っている。
覚えがある。この島に来てから、幾度と無く遭遇した臭いだ。
血。血なまぐさい。ちょっとやそっとではない。充満している。
廊下を進めば進むだけ、視界さえも赤く濁って見えてくるかのようだった。

どこかに死体が転がっているのだろう。
そう思うと背筋が凍る。
幸い、生きている人間が潜んでいる気配はない。
それでも、しづかは到底この民家で休養する気にはなれなかった。
仲根を見つけたら、即座にここを出たい。

「ライター・・・下駄箱の中にあったぞ」

開かれた扉を覗き込むと、その部屋に仲根はいた。
部屋は大窓があり、どうやらカーテンは仲根が引いたようだ。
埃っぽくはあるが血の臭いはなく、しづかは廊下から部屋に入ると扉を手早く閉めた。

「なぁどうして火なんか・・・・」

部屋の中央に置かれたテーブルに、仲根の支給品が乗せてある。
ライターをしまうため、しづかは何気なく仲根の荷物に手をかけた。
その時、ナップザックの中から、映画やドラマで見るような物々しいアイテムが垣間見える。

「お、おいっ・・・!これってダイナマイト・・・・?」

とすれば、火を探していた理由もわかる。
目を丸くするしづかに、隠すわけでもなく仲根は言う。

「さっき拾ったんだ・・・・」
「さっきって・・・・あ・・・あの時か」

突然に姿を消した仲根。彼が再び木々の影から現れた時、懐に何かを隠していた。
それが、このダイナマイトだったのだろう。
しかしなぜ、それ以降彼の言動が変わったのか。
変化のきっかけがダイナマイトを拾ったことだとすれば、仲根が考えているのは――。

「仲根・・・・おまえ・・・」

その時、しづかの小脇にあるノートパソコンから電子音が発せられる。
まるでしづかの推測が言葉になるのを遮るかのようなタイミングだ。
慌ててノートパソコンを開き、音声をミュートに設定する。

「パソコン・・・電源ついてたのかっ・・・・・!」

最小サイズになっているウィンドウを拡大すると、
そこにはマップのようなものが表示される。
ざっと眺めるだけで、しづかは理解した。
特段に機械に強いというわけでもない彼女だったが、やはり現代っ子である。
これは、参加者のデータだ。現在地や、その他ざまざまな情報が掲載されている。

デスクトップにデータ受信という名前のアイコンがあることから、
古い情報を新しい情報に更新することが出来るのだろう。
力のないしづかにとって、このパソコンはどんな武器よりもありがたかった。
仲根が画面を覗き込む。
少し警戒しながらも、しづかは二人で見れるようにパソコンを傾けた。

「参加者の情報だ。現在地とか・・・・わかるっぽい・・・
データ受信・・・・・してみるから」

受信アイコンをクリックと、受信状況を表すバーが出た。
データのダウンロードが始まったようである。

受信には時間がかかるらしい。
現在マップウィンドウに表示されているのは前回受信のデータなのだろう。
何十分、あるいは何時間前のデータなのかはわからなかったが
しづかと仲根の名前が同じエリアに表示されているところを見ると、そう古いものでもなさそうだ。
もう参加者の生き残りは20人前後しかいないのだと見て取れる。

しづかの隣で仲根が「まだこんなにいるのか」と呟いた。
真逆だった。しづかとは真逆の感想を、仲根は抱いていたのだ。
ホテルのホールに集められた参加者は、ひとクラス分以上の人数だったはずだ。
殺された人間の名前は放送で読み上げられる。
実際にしづかは目の前で人が死ぬのを見てもいる。
それらがしづかに与えた印象は、単純に死ぬことへの恐怖だった。
こうして整然とまとめられたデータを前に、彼女は改めて“殺される”のだと自覚する。
もう20人しか残っていないのだ。最後の1人へ、着々とゲームは進行している。
次に殺されるのは自分かもしれないという恐怖が体を這っていく。
同時に、仲根への違和感が湧き出る。やはりそうなのか?
“もう”のしづかが狩られる側だとしたら、“まだ”の仲根は……。

データ受信完了の文字が、しづかの思考を画面へ引き戻した。
しづかと仲根の名前がD-5エリアに表示されている。
そこで初めてしづかは、自分がD-5エリアにいるのだと知った。
紙の地図など読んだことがないしづかにとって、このノートパソコンの存在は大きい。

「ひろゆき」「平山」「一条」「鷲巣」。
画面を見渡して知っている名前を探す。
どうやら「利根川」は死んだらしい。「佐原」は近くにはいない。
「神威」「板倉」「天」、目の前で死んでいった人間の名前が嫌でも目に付く。
そして――。

「・・・仲根。ここを早く出よう」

D-5エリア、しづか達が今滞在しているこのエリアに「黒沢」の名前が表示されている。
共に並ぶ「田中沙織」はおそらく泣きわめいていた女だろう、としづかは推測する。

あいつらが同じエリア内にいる。
冗談じゃない。特にあの田中という女とは二度と会いたくなんかない。
仲根の返事を待つより先に、しづかは一層声を荒げた。

「おい仲根っ!ここを出るぞ!別のエリアに・・・」
「ああ・・・!そうする・・・・」

反論されるという考えから語気を強めていたしづかは、
仲根が存外あっさりと従ったことで肩透かしを食らう形となった。
仲根は黒沢という男を崇拝している。
一度ははぐれたものの、また再会する機会があるのならば縋るはずだ。
しづかはそう考えていた。
半ば期待はずれの仲根の返答に、しづかは戸惑いつつ確認をとる。

「・・・あの親父が同じエリアにいる」
「ああ」
「・・・・いいのか? 移動しても」
「まだ会えない・・・・!兄さんに認めてもらえなきゃ・・・
認めてもらえなくても・・・・・戻れないっ・・・・!終わらせなきゃ・・・!
だから最後だ・・・・!兄さんと会うのはオレの最後の・・・!」

己に言い聞かせるような調子の仲根。
仲根に対して湧く感情に、その感情自体に、しづかは戦慄する。
これまでの違和感が、繋ぎ合っていく。確信に変わる。

そうか、そうなんだ。
仲根は、味方じゃない。仲根は、逃げる側から抜け出している。
仲根は、私と同じではない。同じだと信じようものなら、間違いなく裏切られる。

私はまた同じ過ちを犯すところだったのか。
同級生だろうと、誰であっても……敵なのだ。
この男を、信じようなどと思ってはいなかったか?

しづかは、頭の中の熱がひくのを感じた。
冷静になる、を通り越して冷たくなっていく。

「・・・・仲根。
死ぬのは怖いよ・・・・私は死にたくない。死なない」

しづかは自分の荷物をたぐり寄せ、仲根と距離をとる。

仲根は、黒沢のために人を殺せる男だ。
黒沢としづかを天秤にかけた時、仲根にとって重いのは当然に黒沢なのだ。
黒沢のために人殺しになり、金を集めた。それは無駄だった。
棄権はできない。黒沢にも認めてもらえなかった。
それでも、仲根にとっての優先順位は依然黒沢がトップ。
そうとなれば、仲根が次に考えるのは棄権以外で黒沢を生還させる方法。
否、考えるまでもない。黒沢を優勝させればいい。
黒沢も仲根を認めざるをえない。
殺すのも、死ぬのも、全部、全部黒沢のため。
黒沢を優勝させるべく、殺し、死んでいく覚悟を持ってしまったのだ。

「おまえが今まで人を殺したことは・・・・気にしない・・・忘れる・・・・!
でも・・・・私は死にたくない・・・私は・・・」

ポケットの中で拳銃を握りしめた。
仲根がその気になれば、しづかに勝ち目はない。
ダイナマイトなんて使うまでもなく、殺されてしまう。
杞憂であってくれ、と心のどこかで声が聴こえる。
疑わなければ殺される、と頭の中がざわめきだす。

しづかの言動を、仲根はただ眺めていた。
二三度の瞬きの後に、ひとつ深呼吸をしてから、仲根が口を開く。

「殺さない・・・・」
「え・・・?」

しづかはふっと気を緩めそうになる。
考えすぎの勘違いだったのか。
しかし無常にも、仲根は言葉を続けた。

「お前はまだ・・・殺さない・・・・!」

息を飲む。しづかの目が、見開かれる。
まだ殺さない。いつか、殺される?
咄嗟に仲根と自分との距離を確認する。
仲根は、特に攻撃してくる素振りはない。

「察してる通り・・・・オレは・・・・・兄さんのために・・・・・」

仲根の顔はもう見れなかった。
ノートパソコンを乱暴に抱えると、しづかは仲根を突き飛ばすようにしてカーテンを開ける。
一刻も早くこの部屋から出る。玄関まで走る気力もない。
手をもつれさせながら窓を開け放すと、背後から声が聞こえる。

「でも・・・お前はまだ殺さない・・・まだ・・・・殺せない」

隙だらけのしづかの背中を襲わないということは、確かに今殺す気はないのだろう。
だからといって、もう一緒にはいられない。
仲根を信じてはいられない。頼ってはいられない。
まだ殺さない、という言葉だけを最後に信じて、また一人で行動することになる。
仲根の声に耳を塞ぎながら、しづかは民家を飛び出したのだった。



【D-5/別荘/早朝】

【仲根秀平】
 [状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
 [道具]:カッターナイフ バタフライナイフ ライフジャケット 森田からのメモ 支給品一式×2 ダイナマイト3本 ライター
 [所持金]:4000万円
 [思考]:黒沢を優勝させる
※森田からのメモには23時の時点での黒沢の状況と棄権が不可能であることが記されております。

【しづか】
 [状態]:首元に切り傷(止血済み) 頭部、腹部に打撲 人間不信 神経衰弱 ホテルの従業員服着用(男性用)
 [道具]:鎖鎌 ハサミ1本 ミネラルウォーター2本 カラーボール 通常支給品(食料のみ) アカギからのメモ コルトパイソン357マグナム(残り3発) ノートパソコン(データインストール済) CD-R(森田のフロッピーのデータ)
 [所持金]:0円
 [思考]:誰も信用しない ゲームの主催者に対して激怒 一条を殺す
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています。それ故、誰も信用しないと決意しています。
※和也に対して恐怖心を抱いています。
※利根川から渡されたカラーボールは、まだディバックの脇の小ポケットに入っています。
※ひろゆきが剣術の使い手と勘違いしております。
※森田の持っていたフロッピーのバックアップを取ってあったので、情報を受信することができます。 データ受信に3~5分ほどかかります。


150:記録 投下順 152:出猟
152:出猟 時系列順 154:暗涙
148:愚者(前編)(後編) 仲根秀平 154:暗涙
148:愚者(前編)(後編) しづか 157:慟哭




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