※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

暗涙 ◆uBMOCQkEHY氏


「やっぱり…逃げちまったか……」
小さくなっていくしづかの背中を見つめたまま、仲根は力なく呟いた。
命に固執するしづかとは相容れないものは感じていたが、こんなにも早く関係が解消されるとは思っていなかった。
「まぁ、しょうがないか……」
仲根にとって重要なことは黒沢が生存できるかどうかである。
しづかがどうなろうとも、路傍の石程度の興味しか湧かない。
ここにたどり着いてから、しづかを殺害しようかという考えが何度かよぎってはいた。
しかし、これまでしづかはしづかなりに仲根を理解しようと努めていた。
足を引っ張る結果が多かったが、心の支えになってくれていたのも事実。
しづかを見逃したのはそれへの感謝である。
けれど、その感謝は今回だけ。
次はこうはいかない――。


「さてと……」
仲根はゆっくり腰をあげ、部屋の奥へと進んでいった。
この別荘に足を踏み入れた時から血臭を孕んだ空気が漂っていた。
血臭は奥へ行けば行くほどその濃度を増していく。
普通の人間からすれば、血の臭いは己の身の危うさを知らせる警告だ。
しかし、殺人を許容してしまった今の仲根にとって、血の臭いはどこか親和性を感じさせる何かに変化してしまっていた。
「ここからだ……」
導かれるままに仲根は一番奥の部屋に辿りついた。
血臭の濃度は最高点に達している。
それに臆することなく、仲根は自分の部屋に入るかのように緩慢な動きでドアを開けた。
部屋の中は血臭にふさわしい惨状を呈していた。
パイプベッドと壁は血で赤く染まり、弾丸で撃ち抜かれたような焦げた孔がいくつもある。
奥のクローゼットは半開きであり、その周囲には様々な支給品と思われる代物が散乱している。
そして、ドアの裏側を覗きこむと、上半身にシーツを被せられた死体が横たわっていた。
「あぁ……」
仲根の口から上擦るような声が漏れる。
常人であれば、惨状の現場を発見してしまった故の戦慄声であるが、仲根のそれは違う。
「……武器があるっ!」
凶器を見つけた歓喜の吐息であった。
死体は幸いなことに、包丁を握っていた。

仲根の目標は黒沢と自分の棄権費用を稼ぎ、共に島から脱出することであった。
その過程で人を殺害してしまったことを黒沢に知られ、一時はその決意も揺らいでいた。
しかし、ダイナマイトを見つけた時、仲根の心に新たなる目標が生まれたのだ。
黒沢以外を殺害し、最後は自害する――黒沢を強制的に優勝させればいい――。
確実に人を殺める武器を得ることが目標達成の第一歩。
この部屋にはその足掛かりを発見する可能性に満ち溢れていた。
仲根は屈みこみ、血で厚紙のような質感になってしまったシーツを捲る。
男の顔面はスプーンで潰されたイチゴのように中心部が陥没していた。
毛髪や胴部がなければ、仲根とてそれが人間であったと認識することは出来なかったであろう。
しかし、それを人間と認識する必要はない。
そもそも構う必要などない。
必要なのは武器だけなのだから――。
「こいつがあればっ……!」
新しい玩具を手に入れた子供のように、仲根は声を弾ませ、死体の手からそれを奪う。
新品らしく目立った刃毀れはない。
この一刀でどれだけの人間を片付けることができるのか。
仲根は新たなる戦略を描こうと胸を躍らせるも、その昂揚は一瞬で収まってしまった。
「だが、どうやって、持ち運ぶかだが……」
残念ながらこの包丁には鞘がない。
ディバックに無造作に突っ込めば刃先で破れる恐れがあるし、運が悪ければ背中に刺さる可能性さえある。
相手を刺殺したければ、持ち運びやすいサバイバルナイフで充分である。
仲根は包丁を諦め、床に置く。
気を取り直し、今度はグレネードランチャーと木刀を拾いあげた。
グレネードランチャーは一見すると強力な兵器だが、ここで落ちていたものは弾丸がゴム弾であり、殺傷能力としては低いと言わざるを得ない。
木刀も然り。
刃物ではないので致命傷を与えることは難しい。
木刀で人を殺めようとすれば、急所を何度も狙った撲殺しか手段はない。
それでは効率が悪い。
けれど、集団戦などの可能性を考慮すれば、リーチが長い武器を一つぐらいは所持したい。
「これが日本刀だったらなぁ……」
叶わぬ願いと知りつつも、つい愚痴を漏らしてしまう。
「だが……まだ、武器はあるはずだ……」
仲根は死体のディバックとクローゼットに押し込まれた大量の支給品を物色し始めた。
今度こそは手ごろな武器が見つかるはず。
しかし、期待も空しく、ディバックの中からは一般支給品とチップ、クローゼットに至ってはハズレとしか思えない支給品しか出てこなかった。
「クソッ!!」
仲根は失望のあまり、唇を噛む。
死体のディバックはともかく、クローゼットの中の荷物は元を正せば、殺人鬼・有賀が戦闘に不要と判断して放置したもの。
仲根が欲する銃や刀剣、刃物といった典型的な凶器が見つかることはあり得なかった。
「やっぱり、簡単に武器が見つかる……そんな都合のいい事、起こるわけねぇよな……」
クローゼットの不自然なほどの物量に、そんな予感は少なからず抱いていた。
それでも一つくらいなら“まともな”武器があるかもしれない。
陽炎のような僅かな可能性が、仲根を動かし続けてきた。
「しょうがないか……」
殺傷能力が低いとは言え、グレネードランチャーと木刀が手に入っただけでも良しとしよう。
そう気持ちを切り替えることにした。
「こっちには切り札がある……」
改めて仲根は自身のディバックをさすり3本のダイナマイトの存在と頼もしさを確かめる。
しかし、実を言えば、ダイナマイト自体にも、仲根は一抹の不安を覚えていた。
ダイナマイトは仲根が所持している武器の中でも段違いの広範囲かつ高い殺傷能力を誇っている。
問題はその機動性の遅さであった。
ダイナマイトは導線に点火して、筒の火薬に引火するまで、ある程度の時間を要する。
もし、相手が引火する前にダイナマイトの存在に気付き、逃げ出してしまえば意味がない。
そもそも引火以前のダイナマイトをディバックから出すという作業もかなりの時間のロスである。
これでは逃げられるどころか、その隙をついて襲われてしまうかもしれない。
この時間を短くすることが、ダイナマイトの課題であった。
「どうすりゃあ……」
その時、足にコツンと何かが当たった。
それはコロコロとベッドの下へ転がっていく。
「今、何が当たったんだ……?」
ふいに興味が湧いてしまった仲根はベッドを持ちあげる。
ベッドはアルミのパイプで組まれた簡易的なものだったため、片手でも簡単に持ちあげることができた。
仲根はそれを手に取る。
「なんだ…ガムテープかよ……」
未使用のガムテープ。
おそらくクローゼット内のディバックの中から何かの拍子に飛び出てしまっていたのだろう。
「こんなの武器にすら……」
仲根は突如、身を強張らせた。
落雷にでもあったような閃きが起こったのだ。
仲根は慌ててディバックからダイナマイトを出す。
シャツの袖をまくりあげると、腕に直接、ダイナマイトをガムテープで張り付けたのだ。
これでディバックを肩から下ろすという作業を省くことができる。
普段は袖に隠しているので、相手もまさか仲根がダイナマイトを持っているとは思わない。
利根川が持っていたデリンジャーの仕込み方と同じ要領と言ってもよい。
仲根は3本のダイナマイトを両腕、左の脛に貼り付けて衣服で隠した。
その腕や足を大きく振り回す。
「よし、落ちないっ…!」
布ガムテープは貼り付け箇所に水分があると、糊が水分に溶けて粘着力が弱くなるが、そうではない場合、成人男性でも剥がすのにかなりの力を有する。
振り回した程度ではまず外れることはない。
「ガムテープって頑丈なんだな……」
仲根がその粘着性に感心していた時、ふと視線が包丁を捉えた。
仲根はカッターとバタフライナイフを所持している。
保管をするのに不便な包丁までは持っていくことができない。
それであれば、リーチで優位な木刀の方がまだマシというものである。
せめてこの包丁が木刀ほどのリーチであれば――
「……そうだっ!」
仲根は包丁と木刀を掴んだ。
包丁の柄を木刀の小鎬と密着させると、ガムテープで柄と木刀を巻いてしまったのだ。
外れないように何重にも巻きつける。
木刀は切っ先から余分に刃が飛び出た奇妙な形――銛のような形となってしまった。
「これならば……」
仲根の胸に狂喜の熱さが渦巻く。
刀独特の流れるような優美な形状は失われてしまったが、代わりに更なるリーチと殺傷性を得ることができた。
かつて黒沢はヤンキーとの集団戦に備え、ホームレスたちにリーチが長い薙刀の訓練をさせていた。
これから多くの人間を殺していくのだ。
多かれ少なかれある程度の固まったグループの中に突入するのは目に見えている。
改造木刀は今、仲根が持てうる武器の中では最も集団戦に適した武器と言えた。


仲根はパンと水を胃に流し込むと、ディバックを背負い込んだ。
結局、仲根が回収したのはグレネードランチャーと改造木刀と1000万円分のチップのみであった。
戦闘には役に立たないが、他の支給品も回収するべきかとは考えた。
しかし、機動性を重んじる仲根にとっては荷物以外の何物でもない。
同じ理由で浦部から奪った方の一般支給品もここに置いておくことにした。
仲根は外へ出た。
淀んだ空気から一転、澄んだ風が仲根の身体をすり抜けていく。
その風は蓄積した仲根の疲労を拭ってくれているようであった。
「兄さん……」
これから歩む道は確実に屍を積み重ねていくことになるだろう。
屠る人間は全て黒沢への供物なのだ。
黒沢が生き抜くための――。

仲根の中で、しこりに近い違和感を覚えた。
違和感の元凶をポケットから取り出す。
それは一枚のメモであった。
仲根はメモを広げる。

『黒沢は石田光司、治という参加者と一緒にC-4の民家にいる。
治が昏睡状態のため、よほどのことがない限り、
朝まで移動することはないと思われる。
急げば、合流できるかもしれない。
それと、棄権は不可能だ。
棄権申告はD-4のホテルで申し込むが、そこがすでに禁止エリアとなっているからだ。
この情報を黒沢たちにも伝えてくれ。
そして、人を殺す以外の方法で黒沢を助けるんだ。』

――人を殺す以外の方法で黒沢を助けるんだ。

仲根の中で水を浴びせられたかのような冷めた感覚が広がっていく。
「グッ……」
耐えきれぬ嗚咽が漏れる。
もし、自分が人を殺さなければ、その方法も選択できたであろう。
しかし、殺人を犯した仲根を黒沢は拒絶した。
黒沢は自分を軽蔑しているだろう。
敵意さえ抱いているだろう。
もう黒沢と手を取り合って、共に歩む事などもう出来ないのだ。
仲根がどんなに黒沢に敬服の念を抱いていようとも、かつての冗談を言い合った、穏やかな日常に帰ることなどできないのだ。
黒沢が優勝し、島から脱出する。
それが今の仲根の癒しであり、救いであり、詫び――阿修羅道に墜ちた仲根の悲願なのだ。
「俺には…この方法しか残ってないんだ…」
仲根は袖で涙を拭うと、メモを破り捨てた。
メモは風に吹き飛ばされ、朝日の中に消えていった。


【D-5/別荘/早朝】

【仲根秀平】
 [状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
 [道具]:カッターナイフ バタフライナイフ ライフジャケット グレネードランチャー ゴム弾×8 改造木刀  ダイナマイト3本 ライター 支給品一式
 [所持金]:5000万円
 [思考]:黒沢を優勝させる


153:帰参 投下順 155:第三回定時放送 ~契約~
151:繰返 時系列順 149:伝声(前編)(後編)
151:繰返 仲根秀平 157:慟哭




| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー