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集約 ◆6lu8FNGFaw氏


「最後にカイジにあったのはE-2エリアだったかな…。
 第二回放送の前だから随分経つが…」


アカギが別れ際に残した情報。
平山、ひろゆきの二人はそれを頼りに西へと歩を進めた。
途中、第三回放送の時刻が迫っているのに気づいたひろゆきの提案で、
二人はE-4、商店街の西側に位置する店の中で、一度腰を落ち着けることにした。

ぼんやりとけぶる薄闇の中、商店街入り口に設置されたスピーカーから、ショパンの円舞曲が流れ始める。
二人は口をかたく結んだまま、放送に聞き入っていた。

………ではまず、前回から今回の放送までの間に敗れ去った敗者の名を発表する………

ひろゆきは平山の方へ目を向けた。平山はじっと目をつぶって放送に集中している。

………『利根川幸雄』、『市川』………

最後に参加者を挑発する言葉を投げかけ、放送は終わった。

ひろゆきは、今までに聞いた一回目、二回目の放送と比べ若干の違和感を覚えた。
『優勝を目指し努力していただきたい』と、余裕を以って見下ろすような物言いだったのに対し
今回の放送では、『隙あらばどんどん勝利することだ…』と、急かすような言い方であったのが気になった。
主催者側が…黒崎が、僅かに焦っているような。『隙あらば』というのは、つまり…早い者勝ちだと言いたいのだろうか?

カイジから『脱出の権利は嘘だ』と知らされている。
…もし本当に『嘘』なら、主催者の意図はどこにあるのか。
気分の悪い話だが、参加者同士が戦い続け、生存者がいなくなるまでの過程を眺めて『じっくり』愉しむのが、
このゲームの主催者の趣旨なのではないか?とひろゆきは想像していた。
禁止エリアがこの島を覆い尽くすまで。
しかしそれが目的ならば、参加者を焦らせる必要はない。

(つまり…棄権はやはり可能であり、だが用意されている席はほんの数名とか…。
 もしくは、このゲームにはもっと別の意図がある…。
 あるいは、主催者側で予期せぬ『何か』が起こっている…)

「なあ、平山…」
主催者への考えについて平山の意見を聞こうと、ひろゆきは顔を上げた。平山はまだ目をつぶっている。
「疲れているのか…?」
「いや…黙祷していただけだ」
「黙祷…」
「ああ…。これから先、自分が手にかけた人間を振り返る余裕なんざ…ないだろうからな。
 …お前こそ、大丈夫か?」
「フフ…麻雀勝負の時は二日くらい寝ないこともザラさ。そうだろ…?」
「…違いない」
身体に広がる倦怠感を忘れようとして強がってみせると、平山は僅かに口元を綻ばせた。

首輪探知機の範囲は100メートルに設定してある。
バッテリーを持たせようと、探知機をつけるのは5分ごと、平山と確認し、すぐに消す。
ひろゆきは、やや神経質に時計を確認しながら、先ほどの考察を筆談で平山に伝える。

「…ところで、カイジと会った後はどうする?」
主催者の考察をしようにも判断材料が少な過ぎると伝えてから、平山は話題を変える。
主催者の事情よりも、今はひろゆきの心情のほうが気になる。
市川との麻雀。そこで念願の『アカギとの勝負』……とはいかず。
有意義な戦いであったものの、ひろゆきの求める勝負とは別物であることくらい、平山にも分かっていた。

「ゲームと戦う、と言っていたが…本当のところアンタの一番やりたいことは…」
「ああ、そうだな…アカギと会った今も、俺の気持ちは…。
 もう一度…次こそは『アカギと真剣勝負する』。それが果たされるまでは死ねないってのが本音…」
平山が呆れた顔をすると、ひろゆきは自嘲交じりの笑みを浮かべる。
「俺がしつこいのは昔からでね。市川の勝負だけじゃあ…」
「まあ、そうだろうと思っていた。それなら、俺はその時までアンタに付き合うさ。
 大した武器も持ってないが、単独行動よりはましだと思う…アンタにはずいぶん助けられたし…」
「平山…」
「それ以降のことは…その時になったら考える。
 本当は、市川の時のように勝負にも加勢する…と言いたいところだが、足手まといになるからな」
平山は、声に若干の悔しさを滲ませた。

「いや、そんなことはないが…」
「気にするな。命を懸けるような勝負をするんなら、俺は邪魔だ。
 それに…俺はやっぱり、死ぬのが怖い。
 生きるために向かう勝負ならまだしも、死線を潜るための賭博なんざもうこりごりだ」
「…アンタって、つくづく不思議だな。アカギの名で代打ちやってたんだろ…?」
「名声、金のためさ。俺からすりゃアカギやアンタのほうが意味不明だ。アンタらのほうがおかしい」
平山はやれやれと頭を振った。

隠れ家にしている店の、勝手口の磨りガラスから漏れてくる光を平山は見つめていた。
荷物を纏め直しながら、ひろゆきは平山に声をかける。
「さて…外も明るくなってきたな…」
「ああ」
「日が高くなると、人目につきやすい。まだ薄暗いうちに移動しようか」
「そうだな、でも…」
「でも…?」
平山が言い淀むのを、ひろゆきは怪訝そうな顔で見る。
「夜はそれだけで沈んだ気分になるが、朝日が昇ると、少しだが…気持ちも明るくなるな。そう思わないか…?」

…この島に来て、初めての夜明けだ。
ゲームの滑り出しは最悪だったが、色々な試練に遭遇し、乗り越え、平山は生まれ直したような気分だった。
プライドを捨てて己の弱さを見つめ、落胆もした。だが、それでもなお自分なりに前に進もう、と心に決めた。

 ◆

「だから、いい加減寝てくださいっ…!」
「だから、大丈夫だって言ってるだろ…!」

E-3、民家。
第三回定時放送を聞いた後、零は、唯一仮眠を取っていない沢田に何度も同じ主張を繰り返していた。

「おっさんだからって甘く見るんじゃねえ」
「いや、おじさんだからっていうわけでは…」
生真面目に狼狽する零に、沢田は苦笑しながら言葉を続ける。
「ったく、ヤクザ舐めるなよ…?身体張る商売なんだ、だから身体が一番の取り柄だよ」
「沢田さん…」
零がなおも続けようとするのを手を挙げてやんわりと制し、沢田は家の中を見渡す。
南側の見える玄関にはカイジが、北側の見える勝手口には涯が、今はそれぞれ見張りについている。
日が高くなってきたので、外には出ず、扉越しに窓から外を見張っている。

カイジは見張りを交代すると言った時、沢田を睨みつけながらこう言った。
「アンタの気持ちは分かる、けどっ…一発殴らせろ…!」
沢田はただ、黙って頷いた。カイジは舌打ちし、沢田の鳩尾に拳を押し付けてから玄関へと歩いて行った。

数分前。第三回放送を聞き終え、森田が生きていたこと、権利を譲渡されたものと認識した零は、
ます先ほどカイジとともに作った表を整理した。
死亡者は8名、『天貴史』、『石田光司』、『村岡隆』、『治』、『利根川幸雄』、『市川』、『南郷』、『遠藤勇次』。
死亡者の名前は表から消し、決して多くは話せなかったが森田の話や、森田の手帳も参考に書き直す。


 「田中沙織にとって敵か否か」の表(―は仲間、=は元からの知り合い)
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ・信用できると判断した人物、10名(確実な人物は☆印)
 ☆零―☆涯―☆沢田―☆カイジ、銀二―原田―☆アカギ=☆平山―☆ひろゆき、☆森田

 ・安全とは言い切れない人物、2名。
 佐原、黒沢。(森田の手帳から、佐原はゲームに乗っている、黒沢はゲームに乗っていないと予測)
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ・危険思想を持っていそうな、またはゲームに乗っていそうな人物、3名(4名)
 鷲巣、一条―和也(帝愛)、“金髪の男”仲根。(森田の手帳より、涯と仲根の行動から分かった事実)
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ・現在スタンス不明な人物、1名。
 しづか(女性。森田の手帳より、ゲーム序盤の行動から、ゲームに乗っている可能性が否定できない)
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これで、沙織の敵に回る可能性のある人物は、多くとも17人中7人。
決して少ないとは言えない状況だが、今後の情報次第で、もしかしたら3人は除外出来るかもしれない。

「この手帳…森田さんのフロッピーには膨大な情報が入ってたんだな…」
手帳にはびっしりと、ゲームが始まってから真夜中までの各参加者の情報が並んでいる。
それは一時間ごとに数行ずつ散文的な説明が並んでいるだけであるが、そこから読みとれる参加者の行動がその人となりを物語っている。

「さすがに何度か読まないと覚えきれないな…」
零は言いながら、ふと自分がどこかゲームの進行…人の死に対して冷静になりつつあることに気づく。
先ほど、放送を聴いた直後にカイジが呟いた言葉を思い出す。

『人が死んだってのに…敵が減っても、喜んでいいのか悲しむべきなのか分からねぇ…。
 田中さんや森田が生きているのはいいけど、石田さんとか、いい人まで死んじまって…』

カイジにとって、『利根川』『村岡』は敵であったはずの人物。
はっきり言ってしまえば、死んだほうがカイジの、そして沙織の生存確率が上がる人物。
手帳を見ても、二人は序盤から積極的にゲームに乗っていた。
そんな人物に対しても、死が喜べないとは…。否、この島での事で無ければ、それは自然な感情である。

「慣れてきちまってるのかな…」
零は自分の心の変化に、この島に少しずつ適応しつつある精神状態に、薄ら寒いものを感じた。
零、と名前を呼ばれ、顔を上げると、沢田がじっとこちらを見ていた。
「“それ”が人としてどうなのか、なんて今は置いとけ…。考えたところで答えなんて出ねえし、いざって時に足枷になる。
 それよりもただ目の前の危機、困難、それを“解いていく”ことを考えるんだ、良い方向に導くために」
「…そうですね」
零は頷いた。非日常であるこの島に、一般的な感覚など通用しない。
「俺は俺のやるべきことを考えます。それが…」
「おい、誰か来るぞ…!」
カイジの鋭い声に、零と沢田は口を固く結んでカイジのいる玄関を注視した。

二つの影が、木の陰に隠れながら少しずつ移動しているのが見えた。カイジは必死にその影を凝視する。
先ほど零と作った表から、『声をかけてはいけない人物』はずいぶん絞られている。
(そのうち、見た目で判断がつかねえのは黒沢だけ…か。しづかは女性、鷲巣はかなりの高齢らしいし。
 少しでも姿が見えれば…)

 ◆

「この周辺…夥しい数の光点があるな」

E-4からE-3へ向かう前。
範囲を1キロに設定変更した首輪探知機を見ながら、ひろは呟いた。
探知機を覗き込みながら、平山は整理する。
「光点は8個…そのうち4つの交点は全く動かない。市川の首輪は爆破しているから除外、光のひとつは利根川のものだな。
 先ほどから若干の動きが見られる光は4つ…この4つはどうやら狭い所…同じ建物の中にいる。
 その4つからほんの少し離れた所に動かない光点が並んで2つ…。これが気になるところだが…」
「この動いている4つの交点…どう思う?」
「仲間同士だろうな。俺たちにとって敵か味方かは分からねえけど…。
 カイジは単独行動していたから、もうここからは離れてしまっただろうか…」

考え込む平山に、ひろゆきは提案する。
「この4人に近づいてみようか?敵でなければ、カイジの目撃情報を得られるかもしれない」
「あ…ああ、そうだな。しかし、どうやって安全に近づく?」
「ひとまず、建物が見えるところまで行ってみよう。…大丈夫、無鉄砲に突っ込んだりしないさ」
平山の不安そうな顔を見て、ひろゆきは苦笑しながら言った。

 ◆

カイジは、二つの影を息を潜めて凝視した。
迂闊に声をかけた相手が殺し合いに乗っている者であれば、沢田や零、涯にも迷惑がかかる。
しかし、やり過ごそうにも二つの影は少しずつこちらに近づいて来ている。

「こっちに来てるな…」
様子を見に来た沢田が、カイジのように玄関の窓ごしに外を見つめ、小声で話しかける。
「どうする?沢田さん」
「ここに来ることが目的なら、踏み込まれる前に先に威嚇したほうがいいだろう」
「え…?」
「奴らに声をかけ、俺が時間を稼ぐ。敵だと分かったら、すぐにカイジは零と涯を連れて裏口から逃げろ」
「アンタを囮にしろってのか…!」
「まあ、聞け…誰かがしんがりを務めなきゃならん。それに、足を怪我してるお前より俺のほうが逃げ足は速い。
 第一、このゲームの間中は俺が零と涯を守ると、ある男に約束してんだ。そう簡単にはくたばらねえよ。
 そうだな…落ち合う場所を決めとこう。一時間後にD-2の発電所の見えるあたりでどうだ」
「………」
沢田は話している間も決して窓の外から目を切ることはなく、場数を踏んだ人間の頼もしさを見せる。
素人の浅知恵を絞り出すより、沢田の作戦に乗るほうがよほど理にかなった行動であった。

「…分かった」
カイジは頷くと、ドアから離れ、零と涯に作戦を説明しに行った。
3人は少し言い争ったようだが、最後には折れて勝手口のほうへ行き、いつでも出られる体制になる。

「……いい子だ」
沢田は僅かに口角を上げると、少しだけドアを開け、外に向かって言葉を発した。

「…そこにいる二人組、武器を下ろして出て来い…!でないと撃つ…!」
沢田のハッタリに、がさっ、と木立の揺れる音がする。少し経って、声だけが返ってきた。

「待て…撃つな。俺達はアンタ達に危害を加えるつもりはない」
「アンタ“達”…?」
「…ああ。聞きたいことがあるんだ。カイジ…伊藤開司という男のことを知らないか?
 カイジに会いたいんだが、もし何か知っていたら教えて欲しい」
「…知っている。だが何のために会う?」
「カイジに会って、あるものを渡したい。それに、力になりたい」
「何の力にだ?」
「ある女性…田中沙織という女性に関してだ」

ここまで話してみて、沢田は相手がカイジの知り合いであること、慎重な人間であること、カイジの敵ではないことを察した。
「カイジはここにいる。俺はカイジの仲間で、沢田という者だ。
 今から出て行く。アンタ達も、俺の姿が見えたら出てきて欲しい」

沢田が出て行くと、薄もやの中から二人はすぐに姿を現した。沢田はそのうちの一人の姿を認めると、目を見開いた。
「ひろ…!」
「お久しぶりです…沢田さん」
ひろゆきは、照れくさそうに沢田に言葉をかける。

「すみません…声だけじゃ判断がつかなくて。最後に別れた時からずいぶん経ちますよね…」
「俺は全く分からなかった…。いや、そうだ。
 最初の会場で、井川ひろゆきと名前を呼ばれたのは気がついていたんだが、まさかと思っていた…」
「ハハ…」
ひろゆきが昔のように笑うのを見て、沢田はつい説教したくなった。
「バカっ…!お前、何だってこんな所にいるんだ…!」
「色々ありましてね…」
ひろゆきは視線を落とした。
「俺、一度は選んだんですよ。『マトモな生き方』ってやつを。でも…駄目でした。
 結局ね…自分の心に逆らってもいい人生にはなりませんでした…俺の場合。毎日が半分死んでいるような感覚で…」
「だからって、こんなイカれた島に来る事はないだろう…!」
「ええ…殺し合いの場なんて、知りませんでした。ただギャンブルが出来ると思って来たんです。
 もちろん、命懸けのギャンブルであることの覚悟はしてましたけど、こんなルールと知ってたら来てないですよ。
 沢田さんも、そうでしょ…?」
「ああ…そうだな」
沢田は頷いた。

「…古い知り合いなのか」
それまで口を挟めずにいた平山がひろゆきに聞くと、ひろゆきはああ、と相槌を打った。
「紹介します、こいつは平山。この島に来てからの仲間です。平山、こっちは沢田さん」
「ああ…ま…何だ。外で立ち話もなんだから、中に入ってくれ」
沢田は、二人を家の中に入るよう促した。

 ◆

こうして、ひろゆきと平山は無事にカイジに会うことが出来た。
沢田は再び自分が見張りに立つことをカイジに伝え、玄関ドアから外を監視し始めた。涯も裏口での監視に戻る。
カイジは、無事な平山の姿を見て目を潤ませた。

「こうして、本当に三度も会うことが出来るなんてな…!」
「ああ…アンタのお陰だ」
「俺の…?俺はアンタに地図や名簿をもらったけど、俺からアンタに何かしてやった覚えはないが…」
「…いいんだ。気にするな。ところで、これ…」
平山はデイパックから小型ラジカセを取り出す。
「これは…?」
「アカギ…いや、大柄の中年男から預かった。黒沢っていう名前の」
「黒沢…?」
「ああ…それで、この機械に『みここ』という名の人の声が録音…」

カイジは平山の言葉を最後まで聞かず、毟るようにラジカセを奪い取った。
カセットがほとんど巻き戻っているのを確認すると、震える指で再生ボタンを押した。

ザザッ…とカセット特有の雑音の後、その女性の声は民家に響く。
ひろゆきは零と情報交換していたが、カセットの音が聞こえるとそちらに視線を送った。

 ……に、どうしても、会いたかったの。
 ……まさか、こんなに恐ろしい所だなんて思わなかったけど……
 ……でも、美心、頑張るから……!カイジ君に会えるまで、頑張るから……!
 ……だから、受け止めて……美心の乙女心……ハ・ア・トっ……!
 ……だって、愛してるん…だ…ぞっ…………!

ブツッ ザーーーー……


あまりにもこのゲームにそぐわない、明るい声であった。
この場にいる者たちは、今は亡き声の主がカイジにとってどんな人物であったのか図りかねた。

カイジは、なんとも形容の出来ない面持ちで、固まっている。
悲しみに泣き伏す、怒りに我を忘れる、感情を受け止められず虚脱する、といった表情ではなく、
それでも敢えて言葉で説明するなら、
『それじゃあ僕はこれで…失礼します…』といった表情であった。

カチッ

停止ボタンを押すと、カイジは小型ラジカセに向かって合掌した。
「成仏してくだざい…」
その様子を見て、周囲の人間達は余計に二人の関係が掴めず、ただ困惑した。

「…あ、ええと、そのラジカセは黒沢という人が持っていたんですね?」
微妙な空気を破ったのは零の声だった。

「ああ…といっても直接会ったわけじゃないんだが…。
 実は、俺達は黒沢がアカギにそれを託しているのを見ていて、その後、アカギが俺達にこのラジカセを預けて行ったんだ」
平山は説明し、もう一つカイジに告げなければならない“現実”を話す。
黒沢が田中沙織を守るように同行していたこと、沙織は錯乱していて、カイジの声に似たアカギの声に過剰に反応していたこと。
黒沢は変わった人間だが、悪い人間ではなさそうだということ。

「そうですね…森田さんの手帳にもありました。黒沢さんという人について」
零は手帳を開き、確認しながら話す。
「それは…?」
ひろゆきが聞くと、零は森田の所持品だったフロッピーのこと、手帳に真夜中までの参加者の行動が書かれていることを簡単に説明した。
「…それで黒沢という人は、ゲーム序盤、美心さんのことを守っていたんです。
 美心さんが闖入者の銃弾に倒れた後も、守れなかったことを悔いていたようです」
「……………」
カイジは手帳を覗き込み、「お礼言わなきゃな…」と呟いた。

「…ところでカイジさん、美心さんとはどういう…」
「さて…!状況は分かったっ…!ところでそんなに俺とアカギの声って似てるのか…?全然違うと思うんだが…!」
零の言葉をあからさまに遮りながら、カイジはひろゆきに聞いた。
「ああ…よく似てるよ。自分では分からないものなんだね」
「そうなのか…?」
「今大事なのは、田中沙織がアンタの声を聞くだけで、罪悪感に苛まれて過剰に怯え、逃げてしまうという事実だ」
「っ……!」
「遠目に見ても、田中沙織の様子はおかしかった。あまり刺激すると、どんどん精神状態が悪化するんじゃないか、と思うくらいにはね。
 アンタが沙織を探すのは、もう止めたほうがいい…かえって悪い結果を招く…!」
「ぐっ……!」

カイジは拳を握り締め、うなだれる。見かねた平山がカイジを励ますように言った。
「で、でも、その田中沙織には黒沢って男がついてるんだ。
 四十過ぎに見えたが、かなりガタイも良かったし、面倒見もいいようだし、これで良かったんじゃないか?」
「…そうだよ。だから、今は“別のこと”に集中したほうが良い」
ひろゆきも頷いた。

「ところで、それは何をやってるんだ…?」
零がデイパックをコの字に並べ、タオルを被せた下で何か書いているのを見て平山は尋ねた。
「あ、このタオルを首に巻いてください」
零に差し出されたタオルを言われるがままに巻き、平山は零の手元を覗き込んだ。
『盗聴、盗撮防止。筆談で』とメモ書きされているのを見て平山は頷く。
零の手もとにある紙には「田中沙織にとって敵か否か」と題された表が書かれていた。
『これは田中沙織さんにとってだけでなく、僕らにとって敵かどうかの表でもあります』

表を作っていたときは『田中沙織にとって敵か否か』という主題で表を作っていたため、
特に盗聴、盗撮を気にせず書き込んでいた。
だが、今後はこの表の書き込みに『主催側』『対主催』の意図がどんどんからんでいくことになるため、
盗撮、盗聴を避けることにしたのだった。

平山はじっとその表を見ていたが、突然弾かれたように顔を上げ、零の持つ『森田の手帳』と『表』を見比べた。
そして零に倣って筆談で、あることを頼んだ。

『その表に書いてある名前の下に、分かるだけの外見の特徴を書き込んでいってくれ。
 あと、その手帳を少しの間見せてくれ』

零は頷くと、カイジと協力して参加者の特徴を書いていった。
カイジが多くの参加者を知っていたこと、また平山が黒沢の外見を知っていたことで、
表には参加者全員の外見の特徴が加わり、より充実したものとなった。
唯一外見の不明なしづかも、沙織を除く唯一の女性であることから、判別は可能だと推測できる。

表が完成する間、平山はパラパラとページをめくり、森田の手帳を眺めていた。
熟読するというより、流し読みをしているといった雰囲気である。
「…よし、覚えた」
平山は短く言うと零に手帳を返し、作業の終えた表を眺める。
「…覚えた?」
零が呆気にとられていると、平山は零の作った死角でメモに数行の文章を書き、零とカイジに見せてから言った。

「なあ、ひろゆき…俺たちはゲームと戦っているけど、こいつらの言う『対主催』ってのとは、違うよな」
「え…?」
ひろゆきが聞き返すと、平山は俯きながら話した。
「少なくとも俺は、自分の命で精一杯っていうか…。だから、アンタらの仲間って捉えられると…」
「…いや、すみません。この『田中沙織にとって敵か否か』の表は便宜的なもので…。
 あなたを仲間にするとか、強制する意図はないんです」
零は、急いで説明した。カイジは、ただじっと押し黙っている。

「…それならいいんだけどな。ひろゆき…そろそろここを出ないか?アンタはアンタでやりたいことがあるんだろ」
「…そうだね。ここでの役目は終わったし…」
平山に同意し、ひろゆきは荷物を背負い立ち上がる。
「…平山、ひろゆき」
カイジは、二人に向かって深々とお辞儀した。
「ありがとう…!」
「いや、気にするな…」
「…無事にラジカセを届けられて嬉しいよ。じゃあ…」
短く挨拶を済ませ、二人は出て行った。

「…なあ、零。このパンフレットとか、参加者名簿な…」
二人が去った後、カイジはそれらを眺めながらしみじみと言った。
「平山にもらったんだ。“もう必要ないから”と」
その一言で、零はカイジの言わんとすることを察し、黙って頷いた。

 ◆

「…さて、もう一度アカギを追うってことは…また“あの”病院に向かうのか…」
自分で言い出しておいて、平山はげんなりした顔をする。民家を離れ、木立に紛れて歩きながら二人は小声で話していた。
「危険だと思ったら、慎重に行動するよ。
 それに、アカギに会うまでは…あの赤木さんと重ね合わせて見ていたけど…。
 似ているようで、やっぱりどこか違う…でも本質はごく近い…。今は執着心より、好奇心のほうが勝っている気がする」
「好奇心で命懸けられるのかよ…」
「フフ…死んだようにただ日々が流れていく人生よりは、幾分いいと思うよ。刺激があってね」
少し楽しそうに見えるひろゆきを見て、呆れながらも、平山は何か思うところがあった。
「……好奇心、か。確かに…そうかもな」

平山は、この島に来てから起こりつつある己の変化に、自分自身に、興味が沸き始めていた。
カイジ達の元に置いてきたメモのことを思う。昨日までの自分なら、絶対あんなことを宣言などしなかっただろう。


 『俺とひろゆき、それにアカギは、ゲームに乗っている奴にターゲット宣言されている。
  仲間だと思われてはアンタらを危険に巻き込むことになる。
  零やカイジのおかげで、島の参加者の外見的特徴、行動など、教えてもらった情報は全て頭に入っている。
  俺はその情報を頼りに、近づけそうな人物には近づき、情報を得、ゲームに対抗する手段を探していこうと思う。
  情報屋としてネットワークを作り、次に会うときにはもっとアンタらの役に立てるように』



【E-3/森/朝】

【平山幸雄】
 [状態]:左肩に銃創
 [道具]:支給品一式 カイジからのメモ 防犯ブザー Eカードの耳用針具 Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具 ロープ1本
 [所持金]:1000万円
 [思考]:情報を集め、ネットワークを作る 田中沙織を気にかける
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知らされましたが、ひろゆきとの筆談で脱出の権利についての考えを保留しています。
※カイジに譲った参加者名簿、パンフレットの内容は一字一句違わず正確に記憶しています。ただし、平山の持っていた名簿には顔写真、トトカルチョの数字がありませんでした。
※平山が今までに出会った、顔と名前を一致させている人物(かつ生存者)
  大敵>一条、和也  たぶん敵>銀二、原田、鷲巣
  味方>ひろゆき、カイジ、零、涯、沢田      ?>沙織、赤木、黒沢       主催者>黒崎
※森田が手帳に書いた、フロッピーを壊すまでの情報を正確に把握しています。手帳には一時間ごとに全ての参加者の行動が数行で記されていました。
※零とカイジが作った『田中沙織にとって敵か否か』の表の内容、生存している参加者全員の外見的特徴を把握しています。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。

【井川ひろゆき】
 [状態]:健康
 [道具]:日本刀 首輪探知機 懐中電灯 村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 アカギからのメモ 支給品一式×2 (地図のみ1枚)
 [所持金]:1500万円
 [思考]:赤木しげるとの真剣勝負 この島からの脱出 極力人は殺さない
(補足>首輪探知機は、死んでいる参加者の首輪の位置も表示しますが、爆発済みの首輪からは電波を受信できない為、表示しません。)
※カイジからのメモで脱出の権利は嘘だと知らされましたが、平山との筆談で脱出の権利についての考えを保留しています。
※和也から殺害ターゲット宣言をされました。


【E-3/民家/朝】

【沢田】
 [状態]:健康
 [道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません 高圧電流機能付き警棒 不明支給品0~4(確認済み) 支給品一式×2
 [所持金]:2000万円
 [思考]:玄関から外を監視する 田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 主催者に対して激しい怒り 赤松の意志を受け継ぐ 零と涯とカイジを守る
※現在ダガーナイフ、警棒以外の支給品は民家の中に置いてあります

【宇海零】
 [状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
 [道具]:麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 参加者名簿 森田の手帳 不明支給品 0~1 支給品一式
     島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
     手榴弾×8 カイジと作った参加者リスト(『田中沙織にとって敵か否か』)
 [所持金]:0円
 [思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 森田に譲渡された権利をどうするか決める
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D-1灯台のこと、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
※カイジから参加者名簿、パンフレットを預かっています。目を通すまで借りていられます。
※森田から手帳をもらいました。手帳には森田がフロッピーを壊すまで、一時間ごとの全ての参加者の行動が数行で記されています。
※田中沙織に関する情報を交換し、カイジと『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。


【伊藤開司】
 [状態]:足を負傷 (左足に二箇所、応急処置済) 鳩尾にごく軽い打撲
 [道具]:果物ナイフ 地図 小型ラジカセ 支給品一式
 [所持金]:なし
 [思考]: 田中沙織を気にかける 仲間を集め、このギャンブルを潰す
      一条、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
      赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
      平井銀二の仲間になるかどうか考える 下水道(地下道)を探す
※アカギのメモから、主催者はD-4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※今日の夕方にE-4にて待つ、と平井銀二に言われましたが、合流するかどうか悩んでいます。
※田中沙織に関する情報を交換し、零と『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※参加者名簿、パンフレットは一時的に零に預けてあります。

【工藤涯】
 [状態]:健康 右腕と腹部に刺し傷 左頬、手、他に掠り傷 両腕に打撲、右手の平にやや深い擦り傷 (傷は全て応急処置済み)
 [道具]:鉄バット 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 支給品一式×3
 [所持金]:1000万円
 [思考]:裏口から外を監視する 田中沙織を気にかける 零と共に対主催として戦う
※現在鉄バット以外の支給品は民家の中に置いてあります



155:第三回定時放送 ~契約~ 投下順 157:慟哭
161:巨獣 時系列順 157:慟哭
155:第三回定時放送 ~契約~ 伊藤開司 162:出動
155:第三回定時放送 ~契約~ 宇海零 162:出動
155:第三回定時放送 ~契約~ 工藤涯 162:出動
155:第三回定時放送 ~契約~ 沢田 162:出動
149:伝声(前編)(後編) 井川ひろゆき
149:伝声(前編)(後編) 平山幸雄




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