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墓前 ◆IWqsmdSyz2氏


しづかの目の前に広がるのは、恐怖を覚えるほどに穏やかで美しい景色だ。
昇りたての太陽の光が、水面をきらきらと輝かせる。
無駄のない景観。一切の不純物がない、澄んだ景観だ。
視界の端から端までが、海と空で満たされる。

仲根の元から逃げ、ただひたすらに歩き続けたしづかは
彼女の望んだとおり島の東端へと到着していた。
疲れた、休みたい。
周りに敵がいるかもしれない。
まずはノートパソコンを確認しなければならない。
頭の中では冷静になすべきことを考えている。
それでも眩い景色を前にして、しづかは少女らしく感動していた。
こんな状況でなければ、この美しさにもっと浸れたものを。
否、この状況におかれているからこそ、純粋に美しいと思えたのかもしれない。

「あぁ・・・なんにもねぇ」

焦燥感や不安が和らぐのを感じる。
和らいだのではなく、誤魔化されただけかもしれない。
圧倒されて、ほかのことに関する感覚が鈍くなっているのかもしれない。

そして、目前にある美しさは残酷な現実も教えてくれる。
どんなに眼を凝らしたところで、ほかの島の影すら見えない。
海と空の間に一本線が入っているだけの、簡素な眺望。
泳いで逃げるなど以ての外、
ボートであっても十二分な設備がなければ島を出るのは自殺行為なのだとわかる。
“死”はしづかの想像よりも遥かに広範囲を取り込んでいる。
この島だけではない。
どうすれば、どこまで行けば助かるのか、考え始めると途方がない。
思考を無理やり停止させる。

「・・・禁止エリア」

ぽつりと言葉がこぼれる。
木陰に移動してしゃがみこむと、しづかは抱えていたノートパソコンを膝の上で開いた。
一度座ってしまうと、足の疲労がじんわりと主張をはじめる。
痛むふくらはぎをさすりながら、最新のデータを見ることにする。
必要最低限の情報だけを拾って、そこから導き出した最もマシだと思われる場所へ移動しよう。
それが一番いいだろう。それくらいしか出来ない。
なすすべがない。しづかには、何もない。
“今”殺されないように、“今”死なないように尽くすこと。選択肢はそれ以外になかった。

パソコンの画面に映し出される最新情報。
これがしづかの武器だと言えるかもしれない。
第三回放送で禁止エリアに指定されたのはE-2、C-5。
表示によると現在しづかがいるのはC-7エリアである。
C-7エリアにはしづか以外誰もいないらしい。
危険が差し迫っているような状況ではない、と考えてよいのか。

仲根と佐原の名前を探そうと視線を動かすと、その二人よりも先に目に付くものがあった。
現在地エリアの真上、B-7エリアに並ぶ名前である。
表示は赤字――つまりこの名前の人物はすでに死んでいる。
『田中沙織』『坂崎美心』

「田中・・・死んだのか・・・・」

しづかは田中沙織を敵視していた。憎しみに近い感情さえ抱いていた。
それでも、胸の中がすっきりとしないのはどうしてなのだろう。
もやもやとする。
どんな内容であれ強い感情を持って接していた相手が消えうせてしまうということは
それだけに喪失感が大きいのかもしれない。
もしかしたら、悲しい、のかもしれない。

「誰が・・・」

純粋な疑問だ。黒沢が田中を守るような行動を取っていたのは明らかである。
こんな島の端のエリアで、どうして田中はぽつんと死んでいるのか。

しづかの思考はパソコンの予想外の動作で無理矢理に途絶えさせられた。

『充電してください』

画面に表示される非情な一文、しづかが反応するより先にあっさりと画面が暗くなる。

「はぁっ!?なんだよ!なんだこれ・・・!」

思わず素っ頓狂な声をあげながら、しづかはノートパソコンを揺さぶった。
無論、反応はない。バッテリー切れだ。

「壊れっ・・・壊れたのか!?えっ充電って・・・」

混乱する頭を落ち着けながら、電源ボタンを連打する。
数秒後、パソコンが起動したかに思われたが
『充電してください』の画面を再表示した後に電源は落ちてしまった。
それ以降、いくら電源ボタンを押しても画面は真っ暗、
疲れきったしづかの顔が鏡のように映っているだけだった。

「そんな・・・!ウソだろ・・・」

唯一頼りにしていたノートパソコンにまで裏切られた。
しづかはいよいよ悲しく、それ以上にむなしくなる。
機械に感情を振り回されていることへの腹立たしさが、余計にしづかを落ち込ませた。

すっかりノートパソコンに頼りきっていたしづかの頭の中には、
役に立つ情報はほとんど残っていなかった。
自分が今いるのはC-7エリア、真上のB-7エリアには二つの死体。
たったこれだけで、この先どうしていけばいい。
仲根、佐原、黒沢がどこにいるかの確認さえ出来なかった。
禁止エリアは何一つ記憶していない。
第三回放送で新たに禁止エリアに指定された場所も、
確かめはしたのだが、覚えていない。
今いるエリアの近くには禁止区域はなかったはずだ、ということだけが
おぼろげに頭の中にあった。ただそれだけだった。

ただでさえ手詰まり感があったしづかの行動に、
さらに大きな壁が立ちはだかる。
もう何も出来ないじゃないか。

「クソッ」

ノートパソコンを掴み、頭上に振りかぶる。
少し前までのしづかならば、このままノートパソコンを地面に叩きつけていただろう。
情報を見れないんじゃあ、こんなもの邪魔なゴミだ。
そう思いながらも、ノートパソコンは再度膝の上に収めた。
壊れたわけではないのならば、充電さえ出来れば、また使える。
苛立ったところで、僅かの得にもならない。

「はぁ・・・どうするかなぁ」

一方で、充電という一つの目的が出来たことは、しづかにとって幸いだった。
死にたくない、逃げなければならない、それがしづかの思考だ。
考え込めば、パニック状態を呼び起こしかねないような状況である。
逃げ続けていれば助かる、などと言い切ることができないのは、すでに理解している。

それゆえに、わかりやすい目的は、しづかの心の拠り所になりえた。
どうすれば生き残れるのかという難しい問題を突きつけられている中で
その問題に正面から取り組むことを避ける。
少しずつ、叶う可能性のあるものから向かっていく。
生き残るという大きな目的の前に、ちいさなステップを作っていく。
そうして、しづかは精神の安寧を得ることができるのだ。


充電には電気が必要になるはずだ。
島の中には、ホテルや民家や病院などの施設が点在していることはわかっている。
そういった建物には、当然電気も通っている。
電気が通っている施設ならば、コンセントもあるだろう。
とにかく安全に電源を確保したい。

「・・・充電器とかどうなんだろ」

コンセントとパソコン本体を繋げるような装置は見当たらない。
コードの類は持ち合わせていない。
ノートパソコンを裏返して、バッテリーのあたりを開けてみようとするが
思いのほか蓋が固く閉まっており、壊してしまう前に諦めることにした。

「電池式・・・なわけないよな」

電源を確保できたとしても、コードの類がなければ
コンセントからパソコン本体へ電気を送ることができない。

「同じ型のパソコンがあれば・・・」

そんな都合の良いことがあるだろうか。
しづかの持つノートパソコンと同型のパソコンがどこかにあれば
その近くに電源コードも存在するかもしれない。
また、しづかは気づいていないが、ノートパソコンの中にはCD-Rが入っている。
このCD-Rは森田のフロッピーのコピーである。
代替のパソコンさえ見つかれば、データの再受信は可能なのだ。

「充電できる場所をヘタに探し回って、何が起きても文句言えねぇよなぁ・・・」

この島の地理はさっぱり頭に入っていない。
禁止エリアについての記憶もおぼろげである。
今C-7エリアにいるということ、先刻のデータの段階では周囲のエリアに他の参加者はいなかったこと、
しかしB-7エリアには、田中沙織ともう一体の死体が存在していること。
しづかの持ちあわせている情報はこれだけ。

C-7エリアの周囲にしづか以外の生きた人間がいなかったという点だけが救いだ。
それでも、いつまでその状況が守られるかはわからない。
ここでじっとしているわけにもいかない。
この限られた情報から打てる手は僅かだった。

しづかは、B-7エリアを目指すことに決める。
遥か東方の空に、どすぐろい雨雲が広がっている。

先ほどのデータ受信時点で敵がいないのだと確認できたエリアは
B-7とC-7エリアの二箇所だけだ。
地理がわからない状況で他所のエリアを闇雲に歩き回ることはできない。

受信したデータを信じるとすれば、即座に襲われるという状況はありえないだろう。
だからこそ、安全であると思える時間内にこのエリア内でやるべきことは済ましておきたい。
いつまでもB-7、C-7エリアがしづかだけのスペースであるとは限らないことも事実なのだ。

しづかがB-7エリアを目指した理由はシンプルだった。
田中沙織の死体があるからだ。

誰かに殺されたのか、なぜ殺されたのか。
黒沢はどうしたのか、仲根はどうしたのか。
本当に死んでしまったのか。

歩き出したしづかの胸には純粋な疑問があった。
そして、今後のためのひとつの目的も持っていた。

* *



海岸沿いにしばらく歩みを進めると、どうやらB-7エリアに入ったようだ。
爽やかな風が吹く崖に不似合いな墓標が見えた。

近づくと、二つの盛り土にそれぞれ小枝が突き立てられていた
小枝が墓標代わりになっている。
その下に何かが埋められているのは間違いないだろう。
もしその何かが人間の死体であるとすれば――
つまり坂崎美心と田中沙織が埋葬されているのならば
バトルロワイヤルの最中にあって、
ここまで丁重な弔いを行った誰かがいるということだ。

左側の盛り土の周りの足跡は、より新しく見える。
新しい墓である左側に田中沙織、右側に坂崎美心が埋葬されているのだろう。

「これは・・・」

沙織のものと思われる墓標の横に、
ゲーム開始時に支給されたデイパックが置かれている。
しづかは中身を検めることにした。
水、食料。
放置されていたデイパックの中身を地面に並べていく。
冊子、広げると中身は名簿のようだった。
手榴弾。映画や漫画でよく見るままの形だ。
時計。コンパス、筆記用具。
物によっては複数個入っている。

「コンパス三つもいらねぇだろ・・・」

他の参加者から奪ったものなのか。
複数のデイパックの中身をまとめてこの一つに詰め込んであるようだ。
そして、最後に出てきたのは目当ての品。地図だ。

「あった・・・地図・・・!
マシだろ・・・ないよりは絶対に・・・!」

田中沙織の死体の元へ向かった目的のうちの一つが、
こうして地図を手に入れることだったのだ。

数時間前、佐原の襲撃から逃げる際に
黒沢と沙織は二人分以上のデイパックを持っていった。
中身が何なのかはわからない。
主催から支給されたままの内容かもしれないし、ゴミいれになっているかもしれなかった。
それでも、沙織らが複数の支給品セットとそれに含まれる複数枚の地図を所持している可能性はある。
おそらくは黒沢が荷物もちのような形で移動をしていたはずなので、
沙織の死体のそばに沙織の荷物が置かれているとは限らなかった。
それでも、そこに荷物が残されている可能性はある。
沙織の荷物が誰かにあらされ、漁られ、奪われているかもしれなかった。
それでも、しづかの求めるものが残されている可能性はある。

しづかは、あるかもわからぬ沙織の荷物のなかに眠っている、
あるかもわからぬ地図を頼りにしてB-7エリアに移動してきたのだった。
B-7エリアに移動することのデメリットがほとんどないために出来た行動である。

再びデータ受信できる環境を作るためには、この島の情報が必要だった。
具体的には、島内地理の知識――地図が必要だった。
しかし、地理情報に関して、しづかはデータ受信に頼りきっていた。
ノートパソコンを使うためには地図が必要で、
地図を見るにはノートパソコンが必要……しづかは困窮状態にあった。
それを打破するすべとして、多少の心許なさは承知で紙の地図を求めたのだ。

「今はB-7エリア・・・ここか」

沙織の死体から地図を回収できた場合のメリットとして、
現在地がわかるという点があった。
データに代わる地図を手に入れたとき、
その地点が地図上のどこだかわからないという状況も、しづかには十分ありえた。
沙織の死体があるのはB-7エリアの崖沿いである。
このことはしづかが持ち合わせている数少ない情報だ。
沙織の死体のそばから地図を入手できたので、
現在地が地図上のどこに位置するかということが把握できる。

しづかは、ノートパソコンの問題を解決するために目ぼしい施設をピックアップする。

「病院・・・はもう行きたくねぇな・・・」

しづかをかばって死んでいった天の姿が脳裏に浮かぶ。

「G-5のホテル・・・も嫌」

板倉や一条との記憶がよみがえる前に、しづかはサッと視線を移す。

「ショッピングモール・・・」

ショッピングモールは
現在地から移動するのに苦労はなさそうな場所に位置している。
地図を頼りに歩くという経験がないしづかでも、
海岸沿いに南下する程度ならば迷わずに辿り着けるだろう。
しかし、ショッピングモールがある南方へ顔を向けると、
ただならぬ様子が現在地からも伝わってきてしまう。
青白い空に黒い煙がもくもくとあがっていく。
ショッピングモール付近で小規模ではない火災があったことがわかる。

「暗いうちは気づかなかったけど・・・火事か爆発か・・・・」

思い返せば、移動中に焦げ臭さを感じた瞬間もあったかもしれない。

「あとは・・・発電所?」

ノートパソコンを使うためには電気が要る。
電気といえば発電所だ。
そんな稚拙な連想で、しづかは発電所に注目する。

だが、発電所に移動するには島内を横切らなければならない。
それだけでも危険であるというのに、どこが禁止エリアに指定されているかわからないのだ。
B-7エリアの現在地からC-1エリアの発電所を目指すのは地雷原を走るようなものだった。

「そう・・・禁止エリアだよなぁ」

しづかの入手した地図には書き込みがあった。
禁止エリアとして、二箇所のエリアがチェックされている。
B-3とD-4エリア。

「たしか一度の放送で2つか3つくらい禁止に指定してたから・・・
この地図は第一回放送までの情報しか載ってないってことか」

ほかの地図には何の書き込みもない。
すでに第三回の放送まで行われているのだから、禁止エリアは増えている。
余裕がなかったといえばそれまでだが、
しづかは放送内容を良く聞き、記憶しておかなかったことを後悔した。

第二回・第三回の放送で、
しづかが今目星をつけた施設も禁止エリア内に取り込まれてしまっているかもしれない。
病院、ホテル、発電所――
地図を手に入れたところでいずれを目指すのも危険であるといえた。

しづかは地図さえ手に入れれば状況が打開できるのだと前向きに考えていたが、
改めて思考を詰め、身動きがとれないのは変わらないのだと気づいた。

「そこまで頭まわんなかったよ・・・チクショウ」

ため息をつきながら、しづかは地面に広げた沙織の支給品たちを見る。
必要なものは頂いていこう。
死者の食料を持ち歩くのは、いくら不良少女のしづかでも気分が悪い。
水と食料は持ち合わせていたものを使うことにする。
沙織の持ち物から、いくつかを吟味して自分のデイパックに詰めていった。

手榴弾は持ち歩きやすく、また十分な武器になるだろうと思われたので拝借する。
残念ながら、ほかに武器になりそうな収穫はない。

「あいつ・・・もっといろんなもん持ってたと思ったんだけどな」

生前の沙織を思い返す。
黒沢と沙織の荷物はこんな量ではなかった。
ヘルメットやら、矢やら、嵩張りそうなものをたくさん持っていたはずだ。

「あのクソ親父が持ち去ったのか」

クソ親父……黒沢が大きなスコップを持っていたことを覚えている。
そのため、しづかはこの埋葬を行ったのは黒沢なのではないかと考えていた。
黒沢と沙織は敵対関係ではないように見えたし、
黒沢が沙織の死体を弔おうと考えるのは不自然ではないように思う。

「まぁ・・・田中沙織を殺したやつが他にいるなら、の話だけど」

不本意にも沙織を失ってしまった黒沢が、沙織を埋葬する。
それならば理解できた。
もしも黒沢が沙織を殺して埋めたのならば、笑えない。気味が悪い。
沙織を守るように行動していた黒沢が、沙織を殺すなんてあるはずがない。
そう信じたい。

「・・・どうでもいいけどな」

しづかの脳裏に、しづかを守って死んでいった男たちの顔が過ぎる。
頼んでもいないのに勝手に守って勝手に死んだのだ。
そして同時に、しづかを守るような素振りを見せておきながら、
非道な所業に走った一条の顔も浮かんだ。

誰かを守る。
そういった行動の裏にどんな感情があるのかは、守られる側からはわからない。

しづかは、ふと沙織の墓の横に視線を移す。
もうひとつの盛り土。坂崎美心が眠っている。

坂崎美心は、かなり早い段階で死んでいたはずだ。
第一回の放送で、一名だけ女の名前が呼ばれた。
しづかは、それが美心であったと記憶している。
この島で会うのは男――それも敵いそうもない男ばかり。
そんな中、放送で女の名前が呼ばれたので、よく覚えていた。

美心が死んだのは第一回放送よりも前。
沙織が死んだのは第三回放送前後ということになるだろう。
そして、二人は並べて埋葬された。
丁寧に、同じ方法で弔われた。
これが何を意味するのか、しづかにも一部は理解できた。

「同じ人間が・・・たぶん黒沢って親父が・・・・
二人を埋めたんだ・・・!」

美心と沙織の関係。沙織と黒沢の関係。黒沢と美心の関係。
しづかの知るところではない。
だが、違うタイミングで、おそらく違う場所で死んだだろう二人を
同じ場所に埋めようという考えの発端は何なのか。

しづかは、沙織の荷物から取り出してあった参加者名簿をめくってみる。
内容は、ノートパソコンでも見られたようなものである。
島の中で起きた最新の情報が掲載されていない分、データよりも格段に劣る。
しかし、しづかにとってノートパソコンに送られてくる情報は過多だった。
こうして紙面にシンプルにまとめられた参加者情報は、
思いのほか読みやすく、しづかの頭に入ってくる。
一気に読むとさまざまな感情に押しつぶされそうになるので、
今はぱらぱらと流し読みをするにとどめた。

「うわっぶっさいくだな・・・」

坂崎美心という名前の横に、顔写真が載っていた。
この女は、もう死んだ。もういない。目の前の土の中に埋まっている。
しづかは眉根を寄せながら名簿をめくっていく。

田中沙織という名前の横にも、同じように顔写真があった。
しづかの持つ沙織の印象とはかけ離れた、
少し気が強そうで、しかし利発そうな顔をした女性の写真である。
綺麗な人だ、としづかは素直にそう思った。
この顔写真の女は凛とした表情をしている。
それが、どうだろう。しづかの前で赤子のように泣き叫んでいた沙織と同一人物なのだ。

「三人・・・」

目を通し終えた名簿冊子をパタンと閉じて、しづかは呟いた。
この参加者名簿に掲載されている女はわずか三人。
ここに全参加者の名前があるというのならば、
女性参加者三人のうち、すでに二人は死んで、残る女はしづか一人だ。

複雑な感情がしづかを包んだ。
それを無視するかのように、しづかは地図と参加者名簿を懐にしまう。
これまでノートパソコンで――デジタルで手に入れることが出来た情報は
地図と参加者名簿というアナログに取って代わってしまった。
髪をかきあげて一息つくと、
しづかは、ノートパソコンをデイパックに突っ込んだ。
生命線として世話になってきたこの機械も、今は役に立たない。

ここで手に入れたものは地図と参加者名簿、
失ったのは時間と僅かな体力だけなのだから選択としては正解だった。
しかし、しづかの疑問は変わらず解けないまま。
沙織を殺したのは誰か。
美心と沙織を埋葬したのは――黒沢だと思われるが
黒沢は二人とどのような繋がりがあるのか。

あらためてデイパックを背負うと、ずっしりと重さが肩にかかった。
周囲に何か落ちていないか、しづかは墓の周りをぐるりと見回す。

「・・・なんだこれ」

沙織のものだと思われる墓に突き立てられた枝に、
ひとつの首輪がかかっていたのだ。
しづかはそれを手に取った。

「・・・・?
なんかまだ光ってるっぽいけど・・・」

たしかに参加者の首につけられたものとよく似ている。
しかし、主催側曰く首輪を無理に外そうとすると爆発する。
それでは、この首輪は誰のものなのだろうか。
誰かから外したものではないということなのか。
またひとつ、しづか一人では解けそうもない疑問が生まれた。
しづかは、その首輪をポケットに突っ込んで顔を上げた。

禁止エリアがどこなのかもわからないままだが、
ノートパソコンさえ使えれば解決する。
そのノートパソコンを使うためには禁止エリアについて悩まざるをえない。
堂々巡り。
いっそいつまでもここにいたほうが安全なのか。
安全といえば、そうかもしれない。
このエリアに誰もこない可能性だってある。
しかし誰かが――例えば仲根がしづかの前に現れる可能性もまた、存在するのだ。

考えなければならない。
さぁ、どこへ行こうか。どうしようか。



【B-7/崖沿い/朝】

【しづか】
 [状態]:首元に切り傷(止血済み) 頭部、腹部に打撲 人間不信 神経衰弱 ホテルの従業員服着用(男性用)
 [道具]:支給品一式 参加者名簿 鎖鎌 ハサミ1本 カラーボール アカギからのメモ コルトパイソン357マグナム(残り3発) ノートパソコン(データインストール済/現在使用不可) CD-R(森田のフロッピーのデータ) 石田の首輪 手榴弾×1
 [所持金]:0円
 [思考]:誰も信用しない ゲームの主催者に対して激怒 一条を殺す
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています。それ故、誰も信用しないと決意しています。
※和也に対して恐怖心を抱いています。
※利根川から渡されたカラーボールは、まだディバックの脇の小ポケットに入っています。
※ひろゆきが剣術の使い手と勘違いしております。
※森田の持っていたフロッピーのバックアップを取ってあったので、情報を受信することができます。 データ受信に3~5分ほどかかります。



158:悪夢(前編) (後編) 投下順 160:泡沫
160:泡沫 時系列順
157:慟哭 しづか 163:空回り




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