※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

見敵必殺 ◆uBMOCQkEHY氏


「お……おいっ……!これはどういうことなんやっ……!」
原田は銀二の亡骸を前にただ呆然と立ち尽くす。
一度、銀二の意を汲んで病院の外へ出たものの、嫌な予感を払拭することができず、地下室へ戻ってしまったのだ。
「誰かに殺されたのか……」
原田は首から上が消し飛んでしまった銀二を見つめながら、そう推理する。
しかし、地下室から病院の正面出入り口までの経路で人の気配がなかったこと、血糊がついたナイフを銀二が握っていたことが、その可能性を否定していた。
「どうして、ここで死ななあかんのやっ……!」
銀二はこのゲームの中で自らが落命することを示唆していた。
しかし、それは自分が今まで積み重ねてきた罪をこの地で償わなければならないという決意の表れなのだと原田は解釈していた。
まさか、自分から命を絶つとは思っても見なかったのだ。
帝愛の後ろ盾によって、現在の原田組は成り立っている。
銀二が目指すもの――帝愛グループのスキャンダル暴露は原田組の組長である原田にとって迷惑な話でしかない。
本来なら、銀二が絶命したことを喜ぶべきなのだが――。
「死んじまったら…暴露も何もできへんで……」
原田はスーツの内ポケットにしまっていた銀二からのメモを見つめる。
銀二は帝愛、在全、誠京を潰せるのであれば、刺し違えても構わないと覚悟していた。
巨悪の権力者に一人で立ち向かおうとする生き様、その切り札を大量に抱えた強かさは、帝愛の権力に呑み込まれ、組織の歯車になり果ててしまった原田からすれば、溜飲が下がる思いさえした。
だからこそ、迷惑だと思いつつも、この男の力になりたいと願っていたのに――
「ここで収穫があったら……一番先に俺に話すんやなかったのか…なぁ…銀二……」
約束したのに、なぜ、何も言葉を残さず、逝ってしまったのか。
自分はこの男に信用されていなかったのか。
原田は真意を掴むことができない歯痒さを訴えるように銀二の亡骸に語りかけると、メモをズボンのポケットの中に悔し紛れに押し込んだ。


原田は覚束なさが残る足取りで病院の外へ出た。
朝方の脆い日差しから、ギラギラと力強い日光へと変化しつつあった。
サングラスをかけてはいるものの、やはり陽光は目に染みる。
原田は手を翳し、日光を避けるように視線を遠くに向けた。
「あれはっ……!」
原田はぐっと息を飲んだ。
病院の正面入り口から10メートルほど先に下半身が吹き飛ばされた死体が横たわっていたからである。
「お…おいっ……!」
原田は急いで死体に駆け寄った。
死体はまるで自分が死んでいることに気づかず、これから何かを語ろうとしているかのように、口が半開きの状態で原田を見つめている。
よくよく見ると、頭部は首から切り離され、首輪が外されていた。
かなり時間が経過しているようであり、身体や首にこびりついている血はすでに乾いている。
「この死体……今まであったか……?」
銀二に促されるまま、外へ出た時、死体の存在には一度も気づかなかった。
「そんな見落とし……するはずが……」
ふと、原田は林の色とは一線を画する白い壁の建物に目を止めた。
「あれは…ギャンブルルームっ…」
朝焼けに溶け込んでいたため、今までその存在を見逃していた。
「病院の目と鼻の先にあるのか……」
ギャンブルルームに気付かなかったのだから、死体に気付かなかったのは当然のことか。
原田はそう結論付け、この場から立ち去ろうとした。
ギャンブル―ムの扉が音を立てて開いた。
「誰やっ……!」
原田は胸に隠し持っていた銃を抜いて構える。
「おいおい……ギャンブルルームを出た人間を狙うっていうのはいただけねぇな……」
ギャンブルルームから顔を出してきた青年は銃口を向けられているにもかかわらず、気さくに話しかけてくる。
(こいつは……兵藤和也っ……!)
原田に戦慄が走る。
原田の脳裏に、ビリビリに破かれ放置された和也とアカギの契約書が過った。
銀二が推理するには、和也の精神は現在穏やかでないらしい。
しかし、目の前の和也はそのような様子をおくびにも出さないどころか、剽げた薄笑いを浮かべている。
原田は和也との距離を詰めようと、銃を構えたまま慎重ににじり寄る。
和也もそれに気付き、手を伸ばして原田を制止させる。
「頼むから、そこから動かねぇでくれよっ……!
オレの武器って、こんなナイフぐらいしかねぇっ……!
これ以上近づかれたら、オレが不利ってもんだっ……!」
和也は折り畳み式の小型ナイフをパチンと開いてみせる。
「言っておくが、何があってもオレはアンタに手を出さないっ……!」
「手を出さないだとっ……!?」
原田はいぶかしげに和也に尋ねる。
和也は自分の足元を指差した。
「オレはまだ、ギャンブルルームを出ていないっ……!
今、アンタを攻撃すれば、ギャンブルルームでの暴力行為と見なされ、オレの首輪は爆破っ……!
アンタも……“嫌”だろ……?」
「くっ……卑怯者がっ!」
原田は和也の裏を読んでいた。
確かに、今、和也が原田に攻撃を仕掛ければ、ギャンブルルーム内にいる人間が暴力行為を働いたとして和也の首輪が爆発するだろう。
しかし、裏返せば、原田がギャンブルルームの中にいる和也を攻撃すれば、ギャンブルルーム内で暴力行為があったと見なされ、原田の首輪が爆破してしまう。
和也の話は命乞いのようにも受け取れるが、その実は“今、オレを攻撃すれば、お前の首輪は爆破するぞっ!”という原田への警告にほかならなかった。
(それに……アイツはいつでも“攻撃”できるっ……!)
和也は自分が所有する武器をナイフ“のみ”ではなく、ナイフ“ぐらい”と言った。
原田のように何らかの飛道具を持っている可能性が非常に高い。
和也は原田を攻撃しないと明言しているが、それはあくまでギャンブルルーム内にいればの話である。
一歩踏み出せば、そこはギャンブルルームの外。
外に出て、飛道具で攻撃することはいつでも可能なのだ。
(俺に隙が生まれた瞬間、奴は外に出るっ……!)
飛道具は距離が近ければ近いほど、命中率が上がる。
和也の出方が分からない以上、迂闊に近づくのは危険というほかなかった。

(こんなタイミングで会いとうなかったな……)
死体に集中していたため、完全に隠れるタイミングを逸してしまった。
もし、姿を隠すことができていれば、和也の動向を追うことができたはずである。
場合によっては後ろから射殺することもできた。
あらゆるチャンスを不意にしてしまったことを、原田は激しく後悔する。
原田は和也の一挙一動、特に足の動きに集中しながら、引き金に揺れる指に力を込めた。
原田は獲物に狙いを定めた猟犬の如き殺意を全身から放ち、和也を威嚇する。
どんな者も一瞬で恐怖に屈ししてしまうであろう鋭利な殺意こそが、原田の防壁であった。
(一歩でも前に出てみろっ……!その時はっ……!)
「あ…オレ、まだ死にたくないから、ギャンブルルームに引きこもるわ……。
その間にどっか行ってよ……」
和也は野良犬でも追い払うように手を振りながら、扉を閉めようとする。
「ちょ……待ちやっ!!」
攻撃を仕掛けるのではないのか。
まさかの展開に拍子抜けした原田は思わず、呼びとめてしまった。
扉が閉まる直前で止まった。
「なんだよ…要件あるなら、とっとと話せよ…」
和也は気だるそうに再び、扉を開ける。
しかし、要件を話せと言われても、勢いで呼びとめてしまったため、話すことなどない。
原田はただただ無言で和也を睨みつける。
そんな煮え切らない態度に苛立ちを覚えてしまったのか、和也は呆れたようなため息をついた。
「こっちもギャンブルルーム出るのか、戻るのかはっきりしたいんだけどさっ……!
黒服が結果を早く聞きたがっているみてえだしっ……!」
気づくと、和也の後ろには黒服が控えている。
和也はだるさを訴えるかのように、股を開いてしゃがみ込んだ。
「オレは扉を閉めてしばらく引き籠るっ……!
アンタはその間に遠くへ行っちまうっ……!
オレもアンタも死なずに済むんだからそれでいいじゃんっ……!何が不満なワケ……?」
和也は理解できないと言わんばかりに小首を傾げて原田を見上げる。
「死なずに済むか……」
原田は和也に向けた銃口をゆっくり下ろし始めた。
確かに和也の提案は両者にとって、それぞれメリットがある。
原田は銀二から生きて帝愛のスキャンダルを暴露するという役割を任されている。
今、自分に求められているのは、生き残り、脱出すること。
ここで入らぬ揉め事を起こすべきではないと分かってはいるのに――
「お前の言っていることはおかしいことだらけやっ!」
原田は和也に再び、銃口の標準を合わせ、吐き捨てるかのように言い放った。
「ギャンブルルームに引きこもる戦法はいつか金が尽きたら終わってまうっ……!
仮にここで俺を見逃してみろっ……!
ここから離れた振りをして隠れて待っているかもしれへんでっ……!
お前の提案は一見、双方とも得をしているように見えて、その実はお前が損しかしていないっ……!
お前はそんなことをする奴やないっ!!」
牙を立てた野犬のような剣幕の原田を前にして、和也の態度はなおも泰然たるものだった。
「アンタは命のタイムリミットが見えちまった人間の気持ちなんて分からないよな……」
和也は“お前はあそこの地下へ行ったか……?”と、病院の方を指差した。
「あそこにはさ、死体が大量にあるんだ……。
細菌兵器の実験に利用された被験者どもさ……。
オレはあそこの空気を吸っちまった……。
保菌者となった今、あそこの死体のようになっちまうのが、オレの末路さっ……」
「なっ!」
原田は衝撃のあまり、言葉を失った。
銀二のことが気になり、地下へ戻ってしまった自分も保菌者となってしまったのか。
銀二の死体の下に敷き詰められた死体には異常さを感じていたが、和也が口にした事実は原田の想像以上だった。
原田の動揺を読みとったのか、“アンタも行っちまったのか、あそこ……”と、和也は力なく笑う。
「アンタは何も知らなかったようだけど、オレもお前も、もう時間がない……。
やっぱりもうすぐ死ぬかも思うと、物の考え方……変わってくるんだよな……」
和也は感慨深く呟きながら、握っていたチップを一枚見えた。
「オレはまだ金は持っているっ……!
お互い、命の限界があるんだ……余生は穏やかに過ごそうぜ……」
黒服は後ろからチップを受け取ると扉を閉めた。
黒服の動きは淀みなく静かで、あまりにも作為がなかった。
原田は今後の戦略の立て直し、和也の言葉の整理に集中力が傾き、和也の意図に気付けなかった。
一発の銃声と細やかな銃弾の嵐を容赦なく浴びせられるまでは。
「あ……」
散り散りに千切れていく意識の中で、銀二の言葉が鮮明に蘇る。

――アカギはともかく、兵藤和也にはこの先近づかないほうがいいでしょう、原田さん……。

あの時、そう忠告されたはずなのに。
原田は体中に針が突き刺さったような激痛と後悔にうめきながら、地面に放り出された。



「おっ!まだまだ、元気じゃん……!」
和也は虫の息の原田を見下ろすようにしゃがみ込むと、その傷をけらけらと笑う。
原田の全身にはいくつもの穴が開き、そこから血が湧き水のように垂れ流されていた。
原田は一矢報いようと、青筋を立て和也に何度も眼を飛ばす。
しかし、筋肉の委縮によって顔面の銃創から血が噴き出し、原田の口から嗚咽が漏れる。
「なんか小便小僧みてぇっ……!」
原田の“水芸”が上手くいく度に、和也は手を叩いて嬉笑した。
原田の流血は、和也にしてみれば音に反応して動くおもちゃと同類らしい。
「か…ぅ……やぁ……」
痛みすらなく即死した方が原田にとって幸いだったかもしれない。
無残なことに、原田はまだ、呼吸を続けていた。
たとえ秒読みとなった余命でも、その全てを死の苦しみに悶えて過ごすなら、それは残酷なほどに長すぎる時間である。
「うわぁ……右目は完全に潰れているな、こりゃあ……。
ほっといても死ぬなっ!」
和也の笑顔は見違える余地なく、地獄の沙汰に喜びを見出している悪鬼そのものだった。
「和也様っ……ご無事ですかっ……!」
一条が和也の元に駆け寄る。
「おっ、一条っ!お疲れさんっ!」
和也は軽く手を振って一条を労った。
一条は和也の労いに礼を言いつつ、原田の傷の具合を見る。
「思っていた以上に威力があるのですね……」
「それ…なんて言うんだっけ……?えっと……」
「あぁ……これですか……」
一条はまだ原田が生きていることを考慮してか、原田からかなり距離を置いた所で和也に差し出した。
「モスバーグM590ですっ……!どうぞっ……!」
和也は一条からモスバーグM590を受け取るとまじまじと見つめる。
モスバーグM590はアメリカのモスバーグ社が開発したポンプアクション式のショットガンである。
ショットガンとは近距離使用型の大型携行銃であり、その最大の特徴は一度に複数の散弾を打ち出すことである。
使用する弾薬はピストル用弾薬とは違う装弾(ショットシェル)と呼ばれるもので、一つの装弾の中に小さな球弾が何発も仕込まれている。
最も一般的な球弾は鉛の合金製で散弾といい、鳥撃ち用なら数百発、対人用なら直径9mmほどの球弾が10発前後入っている。
引き金を引いて発砲すると、装弾が破裂し、中に入っている散弾がいっぺんに出て飛び散る仕組みとなっている。
その射程範囲の広さから、素人でも標的に当てやすく、相手が大勢であったとしても引けを取らない。
強いて問題点を言えば、銃身にライフリングがなく、発射する球弾も一部を除いて球形なので、その射程距離は短く、ライフルのような命中精度がないことから遠距離射撃には使いづらい。
しかし、それを補うだけの火力があり、至近距離からの一撃であれば、人間の頭を軽く吹っ飛ばすことができる。
近接戦闘、特に逃げ場がない閉所では強力な武器となるため、狩猟や有害動物の駆除、警察の暴徒鎮圧、自衛用、軍事兵器など、幅広い用途で使われている。
そんなショットガンの中でも、優秀な耐久性能と評されているのが、モスバーグM590を含めたモスバーグM500シリーズである。
その耐久性はアメリカ軍のMILスペックをパスしたことが全てを物語っている。
MILスペックとはアメリカ軍が調達もしくは使用するに値する物資であるかどうかを定めた規格の総称である。
MILスペックは宇宙空間、海底、砂漠地帯や熱帯、雨林または北極や南極のような極地でも性能を100%発揮できることが求められており、試験内容は多岐に渡りかつ、その合格基準はどれも異常なほどに高い。
物資によって試験方法は異なるが、ショットガンの耐久性を測るMIL-S-3443を例にあげると、00バックショット3000発をパーツの破損なしで耐えられるのか、
様々な角度からの落下に耐えられるのか、極寒の-30℃から灼熱の50℃の温度差の中での動作は可能なのかなど、並みの銃では必ず不具合が生じてしまうであろう条件ばかりである。
その全てをクリアしたのが、モスバーグM590を含めたモスバーグM500シリーズであり、派手さこそはないが、頑丈で、いざという時でも壊れることはない、まさにサバイバルで勝ち抜くための銃器なのである。

「ふ~ん……」
和也は一条の覚えたばかりの知識に生返事しながら、興味を別の方向に向けていた。
「すごいことは分かったからさ……この銃、オレに譲ってくれよっ……!」
「えっ……」
一条は顔を思わず引きつらせ、隠しもっていたもう一つのショットガンを急いで差し出した。
「和也様にはこのレミントンM870がございますので……」
「そっちは嫌だっ!!!」
和也はレミントンM870の受け取りを全力で拒否する。
レミントンM870とは先込銃の時代から銃を造っている老舗メーカーのレミントン社が1960年代に開発したショットガンである。
スチール製のレシーバー(機関部)を使用し、構造が単純で、距離や使い方によって銃身などの部品を簡単に交換できるのが特徴。
また、モスバーグM590よりも銃身が2cm短いにもかかわらず、重量は約500g重たい設計になっている。
一見すると短所のように聞こえるが、火力が大きい銃はある程度の重量が必要となる。
銃は火力と反動の大きさが比例してしまうため、軽い銃ではいざ発砲するとあらぬ方向にとんでしまうことが多々ある。
しかし、重量があれば、それが反動のストッパーとなり、命中率の向上に繋がっていくのだ。
モスバーグM590が比較的軽いのはレシーバーにアルミ合金を採用しているからであり、戦地で長時間携帯していても兵士の負担にならないようにするための配慮である。
モスバーグM590が戦場向きの銃であるとすれば、レミントンM870は銃器の初心者にもそつが無く扱うための銃と言える。
なお、耐久性に関しては、レミントンM870はモスバーグM590に匹敵するレベルであり、本来、モスバーグM500シリーズと共に、MILスペックをパスするはずの銃であった。
しかし、レミントン社はMILスペックのトライアルにレミントンM870を提出することはなかった。
理由は諸説あるが、レミントン社がコスト・パフォーマンスの面で、最終選考に引っ掛かってしまうことを憂慮したという説が最有力とされている。
性能以外の諸事情から、アメリカ軍のお墨付きを得たのはモスバーグM500シリーズのみとなってしまったが、作動不良を起こしにくいという信頼性の高さ、整備のしやすさ等から、レミントンM870は民間の狩猟用だけではなく、各国の警察や軍隊でも採用されている。
余談だが、日本の海上保安庁の艦艇、中型クラスの巡視艇には、モスバーグM590の基礎型であるモスバーグM500と、錆に強いクロームステンレス鋼で造られたレミントンM870マリーン・マグナムのどちらかが、非常時用のショットガンとして搭載されている。
レミントンM870は和也が不服を言うには贅沢過ぎるショットガンなのだが――
「お前の銃にはナイフが付いているじゃねぇかっ!!」
モスバーグM590の最大の特徴は、バヨネットを装着することができる点である。
バヨネットとは銃剣のことであり、大きさは折り畳み式ナイフと同じぐらい。
銃身と平行に伸びているチューブマガジンの先端下部にバヨネット・ラグ(着剣装置)が設けられており、そこにバヨネットを取り付けることができる。
例え戦闘中に残弾が零になったとしても、このバヨネットを着剣すれば、最後の最後まで戦うことができるのだ。
さらに和也の文句は続く。
「それにお前は8発、オレは6発っ!不公平じゃねぇかっ!!」
これは銃の特性上、やむを得ないことであるが、モスバーグM590の装弾数が最大8発に対して、レミントンM870は6発。
そのため、用意された予備装弾も、モスバーグM590が8発、レミントンM870は6発と、2発少ない。
予備装弾数が多いため、モスバーグM590は弾丸ケースとバヨネットケースが付いたベルトも銃と一緒に支給されている。
ちなみに、予備装弾数が少ないレミントンM870はバックストック(銃床)に巻かれたショットシェルポーチに装弾を保管することができる。
「お前の残りは15発、オレは12発っ!ここはオレに弾数が多い方を渡すべきじゃねぇのかよっ!!」
「まぁ……気持ちは分からなくもないですが……
レミントンM870の方が使いやすいですし……
ほら……和也様には絶縁体の折り畳み式ナイフがあるじゃないですか……。
参加者の首輪を集めようとしていた和也様にはお似合い……」
「デザインがダサいっ!!」
和也はむくれ、そっぽを向いてしまった。
一条はため息をつきながら、思い返す。
(ここまでもめるくらいであれば、いっそのこと、金庫の中のショットガンがどちらか一種類だったらよかったのだが……)
モスバーグM590とバヨネット、レミントンM870、そして、絶縁体使用の折り畳み式ナイフは和也が在全とのギャンブルに勝って得た特別支給品であった。
(これらの武器を手に入れたのは和也様……。ここは和也様の意志を尊重するべきか……)
一条はこのゲームの中でトカレフを通して、銃の特性を身体に馴染ませていたが、和也が用いてきた重火器は地雷のみ。
それ故に、和也には比較的初心者向けのレミントンM870の方が好ましいと考えていたのだ。
また、利根川がなくなった今、一条は自分が切り込み隊長の役割を果たさなければならないとも自覚していた。
ショットガン、鈍器、銃剣と、戦いの幅が広げやすいモスバーグM590は、そんな一条にとって打ってつけの得物であった。
更に言及すると、全ての装弾を失った時に初めて真価が発揮されるというバヨネットの存在意義に、硬派なロマンを見出してしまっているのも、手放したくない理由の一つだったりする。
一条は結論を見出すことができず、ただただ苦い顔で悩む他なかった。



和也と一条が、ショットガンの所有権を巡って不毛なやりとりをしている間、行動を起こそうとしている者がいた。
原田である。
原田は隠れていた一条に撃たれ、その真意にようやく気付いた。
扉の閉まる音は仲間への合図。
足元にあった死体は獲物の位置。
ショットガンは射程範囲が広いため、スナイパーライフルのように狙いを定める必要はない。
実行犯は主犯の和也からこう言われたのであろう。
『死体の方角に発砲しろ』と。
原田は遭遇してすぐに発した和也の言葉を思い出した。

――頼むから、そこから動かねぇでくれよっ……!

「くっ……そぉ……!」
原田の呼吸や姿勢、意識をすべて読みとった上で、一番反応しづらいタイミングを察し、まるで欠伸をするかのような滑らかさで扉を閉めた。
参加者から金を出されたら、すぐにギャンブルルームに向かい入れなければならないという黒服の行動を利用して。
和也は全てにおいて原田の虚を突いたのだ。
「ひ…ょ…ぅ……どぅっ……!」
和也の強かさは、かつての兵藤和尊を思い起こさせた。
東西戦終結後、裏の麻雀界では東ルールが西ルールを覆い尽くすようになっていった。
原田は東西戦に勝つことで東日本に西ルールを浸透させ、西ルールに強い代打ちを各地の雀荘に派遣、その雀荘を支配下に収め、上納金をせしめようとしていた。
その計画がもろくも崩れ去ってしまい、原田の計画に乗っかろうとしていた雀ゴロや、雀荘をシノギにしていた他の西日本の組から失望され、今まで積み上げてきた名声にヒビを入れてしまった。
そのヒビを広げるかのように、東西戦から1年後、『暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律』、通称『暴対法』が制定されてしまった。
法律対象となるのは、前科のある組員が一定割合以上を占め、組織化されていると公安委員会が認定した指定暴力団とその構成員であり、原田組もその指定を受けてしまった。
この法律によって、ヤクザ社会は大きく変化した。
警察はこの法律を振りかざし、事あるごとに原田組を始めとするヤクザのシノギを取り締まった。
組員の数はあっという間に減少し、各所に点在していた事務所を撤去せざるを得なくなった。
ヤクザが衰退したことをいいことに、香港の三合会やロシアン・マフィアが日本の市場に台頭、関西圏での原田組の肩身はますます狭きものとなっていった。
貸金業界の最大勢力になりつつあった帝愛グループが原田組に盃事を願い出たのは、そんな時である。
帝愛グループは関東圏で勢力を伸ばしていたが、関西圏では古くからある同業者の存在などにより、伸び悩みを見せていた。
そこで原田組と手を組み、原田組に仲介してもらうことで勢力を伸ばそうとしたのだ。
この頃になると、原田組をはじめとするヤクザの収入は直接経営の非合法ビジネスから、偽装破門した関係者や盃を交わした堅気の人間が経営するフロント企業の上納金にシフトするようになっていた。
貸金業のノウハウを得たかった原田は、帝愛の申し出を受け入れ、盃を酌み交わした。
盃事によって、原田組は帝愛グループから多額の上納金を手に入れた。
しかし、それと時を同じくして、偽装破門した舎弟が経営するフロント企業が次々に取り締まりの対象となり、警察によって潰されていった。
初めは警察が原田組の取締を強化したのかと思ったが、堅気と遜色ないほどに巧妙に偽装したフロント企業までも警察に暴かれてしまう。
不信に思った原田は、調べていくうちに警察に情報を横流しにしている組織が帝愛であることを知った。
しかし、証言のみで証拠はない。
原田は証拠を掴もうと更なる調査を試みた。
しかし、核心に迫ろうとすればするほど、まるで警告のように原田組のフロント企業が相次いで潰されていく。
こうして証拠を掴むよりに先に、帝愛からの上納金が原田組の収入の大部分を占めるようになっていき、原田自身、いつしか帝愛に逆らうことができなくなっていた。
今でも帝愛は申し訳程度の舎弟の態度を見せているが、傍から見れば、どちらの権力が上かは一目瞭然。
原田は関西最大の暴力団組織というメッキのような栄光を守るため、組長であるにもかかわらず、舎弟である帝愛に頭を下げ、帝愛からの指示を黙々と実行し続ける。
それが、今の原田組の実態である。
下手に出て、相手が油断した所で完膚なきまでに潰すという和也の手法は、まさに兵藤和尊――帝愛が原田組を吸収した過程と重なった。

「ぁ……ぃつ…ら……ぁ…ゆ……るさ……なぃっ……!」
例え、不自由さと実感のなさ、窮屈さしか感じない人生になろうが、原田組を存続、勢力を拡大させることが、原田にとって生きる証であった。
その証を骨抜きにし、帝愛の奴隷にまで貶めた兵藤和尊。
原田組の象徴である原田の命を奪おうとする兵藤和也。
この親子は原田にとって、粉うことなき宿敵であった。
(俺の命は……長くな…いっ……!せめて……息子の…首だけでもっ……!)
感覚がなくなりつつある右手を動かし、銃を握る。
和也と一条がショットガンに興味を注いでいる間、手を動かし発見したのだ。
いくら和也が兵藤和尊の血と強かさを継いでいるとはいえ、原田に反撃する力はないと決めつけ、銃を回収し忘れたことは、若さ故の爪の甘さに他ならなかった。
(こいつで……兵藤和也を……!)
原田の右目は潰れ、左目も霞み、和也達の姿は黒い影のようにしか見えない。
しかし、あの影さえ撃ち抜けば、命を奪うことができる。
原田は激痛をこらえながら銃を構え、そして――
「く…たばぁ…れ……っ!ひょ……ぅ…どぅっ!」



「あぶないっ!和也様っ!!」
危険を察知した一条は和也を押しのけると、振り返りざま、持っていたレミントンM870のフォアエンドを膝でスライドさせ、構えと同時に引き金を引いた。
それと同時であった、原田の上半身が爆発と共に、跡形もなく消し飛んでしまったのは。
「これは……」
一条は呆然としたまま、下半身のみとなった原田を見る。
一発目とは比べ物にならないほどの破壊力。
原田の骨や肉が至る所に飛び散り、血が湧きでる泉のように地面に広がっていく。
「いいねぇっ!!いいねぇっ!!」
一条の反応とは対照的に、和也は下半身の原田に拍手を送りながら嬉しそうに振り向いた。
「ほらっ!やっぱり爆発しただろっ!あの拳銃っ!」
和也は原田の前でしゃがんだ時に、こっそり銃をすり替えていたのだ。
鷲巣が持っていた、銃口が曲がっていた銃と。
鷲巣が持っていた銃はハーリントン&リチャードソンM732。
パーツの一つ一つが無駄に大きく、駄菓子屋のおもちゃの鉄砲玉の方がまだ見栄えがいいと言わざるを得ない安っぽいフレーム。
そのくせ、内部が薄くてかつ、ライフリングも浅く、どこへ飛んでいくのか分からないという致命的な設計の細い銃身。
褒めるところが100ドル以下で購入できるという点しかない、サタデー・ナイト・スペシャルと呼ばれる安価銃である。
サタデー・ナイト・スペシャルとは粗悪な安価銃全般の俗称である。
1960年代にアメリカでできた言葉で、チンピラやマフィアが安価銃を用いて喧嘩し、負傷者を続出させた時期があった。
それが週末の土曜夜に集中していたことから夜勤の医者たちが『土曜の夜は(忙しさが)格別だ』と揶揄し、浸透していった言葉である。
特徴としては、仕上げが粗い、ライフリングが浅い、命中率が悪い、前後の照準器があまり役に立たない、引き金が重い、安全装置がお粗末などの欠点が挙げられる。
悲しいことに、ハーリントン&リチャードソンM732はそれらの特徴を全て網羅している銃であり、メンテナンスが行き届いていない時は引き金を引いた瞬間にハンマーがもげて失明、場合によっては暴発で手が吹っ飛んでしまうケースすらあった。
耐久性、信頼性においてはモスバーグM590やレミントンM870とは対極の位置に属し、勝広が和也の地雷に踏んだ際に爆発に巻き込まれ、その銃口を曲げてしまったが、この銃の特徴からすれば仕方がないことであった。
「あの銃、いつ暴発するか分からないしよっ…!使うんなら有益にってなっ!」
「気持ちは分かるのですが、貴方には時間が……」
和也はアカギとともに病院の地下へ行き、保菌者となった。
これまでは他の参加者同士が殺し合うのを悠長に待っていればよかったのだが、いつ病状が悪化するのか分からなくなってしまった今、一人でも多くの参加者を殺害し、早く優勝を目指さなくてはいけなくなった。
それにもかかわらず――
「一人殺害するのに手間をかけ過ぎですよ……あなたは……」
一条はやや呆れを含んだ目で和也に忠告する。
「でもさ、初めてショットガンを使うんだぜっ……!
時間はかかってもしょうがないさっ……!
それに“楽しかった”だろ……?」
「楽しかったかどうかと聞かれましても……」
まったく悪びれない和也に、一条は返す言葉もない。
和也は一度、“おもちゃ”を見つけると、残虐な演出作りに躍起になりすぎる面があった。
これまではそれで数多の人間を葬ってきたが、いつ、それが仇となるかは分からない。
(まぁ……そこはオレがフォローすべきところか……)
このバトルロワイアルから生還すれば、自分が和也の右腕となるのは間違いない。
今回のことは、主人の欠点を見抜き、それをどう補えばいいのかと考えるための材料として受け止めよう。
一条はそう自分に言い聞かせた。

「ところでさ、一条……そのショットガン、どっちが使いやすかったか……?」
和也に尋ねられ、一条は我に帰ると、モスバーグM590とレミントンM870を見比べる。
「えっと……レミントンM870の方でしょうか……
グリップがとても細身で握りやすいんです……」
レミントンM870のグリップは握っただけで手に馴染む形状をしている。
誰にでも扱えることをコンセプトにしているだけに、フォアエンドの位置も的確であり、腕が短い人間でも楽にスライドアクションができるように設計されている。
尤も、一条の感想は極寒の地でも手袋をはめたまま使用できるように太めに造られた黒星拳銃のグリップに慣れてしまっていたからというのもあるのだが。
和也はレミントンM870とモスバーグM590のグリップを握り比べ、レミントンM870の方を受け取った。
「一条の言う通り、やっぱりこっちの方を持つわ……。
さっきのやつ、格好良かったしよっ……!一条が膝でガチャンってしてた、あれっ!
ショットガンって、下のレバーみたいのを動かすと撃てるんだろ……?」
モスバーグM590もレミントンM870も、ポンプアクション式と呼ばれるショットガンである。
ポンプアクション式は上下二連式のように見える下の方の筒、チューブマガジン(弾倉)に、装弾を詰める。
チューブマガジンの装填口から装弾を装填したら、チューブマガジンに被さっているフォアエンドを手前に引いて戻す。
すると、バネの力で装弾が上の銃身に繋がる薬室に送り込まれる。
同時に撃針のバネが縮んで発砲準備が整うので、引き金を引けば、すぐに発砲することができ、
再び、フォアエンドを引いて戻すと、排莢口から、使用済みの装弾が排出されると同時に次弾が薬室に給弾される。
ようするに、フォアエンドをスライドさせることで、給弾、コック(いつでも発砲できる状態にすること)、排莢が同時に完了することができるのだ。
手動でフォアエンドをいちいちスライドさせるのは面倒そうに見えるが、実際に撃ってみると発射の反動の勢いがスライド操作を助けてくれるため、慣れるとマシンガンの如く連射することも可能となる。
フォアエンド操作時に発せられる音は相手への警告として利用される時が多々あり、和也が格好いいといったのはフォアエンドのスライド操作と、その操作音なのだが、一条は大きな勘違いをしていた。

「私の撃ち方、そんなに格好よかったですかっ!」
一条の表情が喜びで華やぐ。
膝でフォアエンドをスライドさせ、その流れからの発砲。
とっさの対応であり、無意識のことであったが、振り返ってみると、一流の暗殺者のような洗練された動きであったと思えてくる。
和也がモスバーグM590ではなく、レミントンM870を選んでくれたことも、一条の機嫌向上に一役買っていた。
一条は弾丸ポーチから3発の装弾を出し、和也に渡した。
「これで銃弾が少ない問題も解決しますよねっ!和也様っ!」
なお、モスバーグM590も、レミントンM870も、装弾の番径(内径を表わす独自の単位)は12ゲージである。
仮に予備装弾を交換しても、何ら問題はない。
「お…おぅ……ありがとうな…一条……」
思いっきり勘違いしているが、本人が幸せならば、それでいいか。
和也はぎこちない礼を言いながら装弾をポケットにしまうと、代わりに一丁の拳銃を出した。
「まぁ…オレにはこれもあるしな……」
和也が取り出した銃は原田が所持していた銃――ベレッタM92FS。
ベレッタM92FSはイタリアのピエトロ・ベレッタ社が生産しているオートマチック・ピストル(自動拳銃)。
装弾数は15発で、遊底(スライド)の上面を大きく切り取っているのが特徴。
ハンドガンの特性上、威力が高い銃ほど安全面を考慮してどうしても厳つくなりがちだが、ベレッタM92FSはそういった厳つさをあえて排除したことにより、細く引き締まった肉体の男性、時に女性的な印象を抱かせるデザインとなっている。
この無駄のない、美しいデザインはイタリア銃器のひとつの到達点とも言われて、映画やドラマ、アニメなどの主人公が使用する銃として、たびたび登場する。
しかし、細めのデザインだからといって、安全性に問題があるわけではない。
スライドの上部を切り取ったことにより軽量化に成功、スライド後退時の衝撃を和らげ、排莢口を拡大し、ジャム(弾詰まり)を防いでいる。
また、製作段階で適切な熱処理を施すことで十分な強度を持たせるという配慮もしている。
まさに機能美を体現した銃と言える。
和也がモスバーグM590にこだわらなくなったのは、レミントンM870の無骨な格好よさ、使いやすさを目の当りにしたことが一番であるが、レミントンM870が使えなくなったとしても、代わりの銃があると割り切れるようになったことも大きい。
「ふふっ、いい銃ですね……」
一条も朗らかに頬笑み返した。


「あ……あのう……」
ギャンブルルームの扉の隙間から弱々しい声がした。
「あっ!」
和也と一条はずっと待たせていた仲間の存在に気付き、扉を開けた。
扉の先にいたのは、原田殺害の功労者の一人である、村上であった。
村上は目の前に横たわる原田を見て、呆然としながら訴える。
「こんなことになるなんて、聞いていなかったですよっ……」
原田を陥れるまでの、村上が知る顛末はこうだ。
和也が病院から戻ってきた後、自分が保菌者になってしまったことを一条と村上に告げた。
和也と一条は今後の戦略を話し合うと、重複する一般支給品をギャンブルルームに残し、出ていった。
しかし、数分後、和也のみが再び戻ってきた。
和也はそそくさと使用料を払い、村上に告げる。
「ちょっと試したいことがあるっ…!」
和也が話すにはこうである。
ギャンブルルームから出た直後、一人の男の姿を見つけた。
観察していると、男は突然、慌てた様子で病院の方へ駆け出した。
もしかしたら、その男はウィルスについて何か知っているかもしれない。
そこで、アカギの時のようにギャンブルルームの中に引き入れて話を聞くことにしたというのだ。
和也はギャンブルルームの前にあった死体を、病院寄りに移動。
男が死体に気付き駆けつけたところで、扉を開け、ウィルスについて尋ねるというのが、和也の戦略らしい。
なお、死体の位置はギャンブルルームの窓の死角になってしまうため、男が死体に近づいたかどうかは、外で待機する一条が盗聴器で連絡してくれる。
「村上……ちょっと確認があるんだけどよ……」
粗方の戦術の説明をした所で、和也は一枚のチップを取り出した。
「もし、参加者がチップを出したら、お前はどうする……?」
「それを受け取って、ギャンブルルームに通します……」
「オレが男と話している最中、チップをかざすかもしれない……。
2枚なら男と一緒に、1枚ならオレのみがギャンブルルームに入るという意志表示だ……。
それを黙って受け取って扉を閉めてほしい……」
「お安いご用ですが……どうして、そんな回りくどいことを……」
和也は含みを持った笑みを見せる。
「相手の“中身”を見る……ってところかな……?」
「はぁ……」
(中身って、本性のことかな……?)
村上は和也の意図が理解できない。
しかし、今までも和也のプランで上手くいっていたのだから、今回も何とかなるのだろう。
それに、今回の和也からの頼まれごとは黒服の行動範疇として間違いなくセイフティである。
「かしこまりました……和也様……」
こうして、村上はその瞬間を待っていたのである。



「そんなこと、おっしゃっていたから、扉を閉めたのに……。
あれが発砲の合図だったなんて……なんで嘘をついたんですか……」
「嘘というより言葉が足りなかったという方が正しいんだが……お前を利用してすまないな……」
和也は苦笑いを浮かべながら、とりあえず詫びておく。
和也は初めから原田を生かすつもりなどなかった。
しかし、それを村上に伝えるつもりもなかった。
その理由は二つ。
一つは扉の音が、原田殺害の合図であると知っていたら、村上は緊張のあまり、ぎこちない動作で扉をしめていた可能性があったからだ。
勘がいい者であれば、村上の表情から何かを感じ取り、その場から逃げていたかもしれない。
ショットガンは、射程範囲は広いが、射程距離は短い。
確実な殺傷能力を求めるならば、一条と原田の足もとにあった死体との距離――10mほどまでがベストであり、標準もその方向に合わせている。
原田が死体の側から離れてしまうような要因は極力なくしたかった。
もう一つは、村上の黒服としての立場である。
村上はある程度自由な行動が認められているとは言え、あくまで主催者サイドの人間であり、主催者が参加者の命を奪うのは言語道断である。
そこで村上にあえて合図の件を伝えないことで、万が一、本部から殺害について追求されたとしても、村上には殺人の意志はなかった、黒服として正しい行動をとったら、たまたま参加者の殺害に繋がってしまったと言い訳することができる。
その余地を残すための配慮であった。
そんな気遣いがあったとは露知らず、村上は深いため息をつく。
「下半身しか残っていない……こんなえぐい殺され方……」
和也と一条はバトルロワイアルに参加する前から、人間の死は見慣れていたが、帝愛の末端である村上の感性はまだまだ一般人に近い。
間接的だが初めて殺人に関与してしまい、しかもその死体が目の前で木端微塵になるのは、やはり気分が悪くなるというものだ。
と、和也は思っていたが――。
「……をした死体があったら、ますますギャンブルルームに誰も寄りつかなくなるじゃないですかっ!
しかも、その隣には上半身しかない死体もありますしっ!」
「ため息の理由はそこかよっ!?」
和也は村上の意外な不満に面食らう。
どうやら、殺人への罪悪感は微塵も持ってはおらず、それよりも今後、暇を持て余してしまうことの方が重大らしい。
(こいつも、一条と一緒で骨の髄まで帝愛だなっ……!)
その事実を、和也はあらためて思い知らされた。
「ふふっ、いいじゃないですか……!」
一条は諭すように和也の会話に入ると、そのまま、村上に声をかけた。
「ここには我々さえ戻ってくればいいっ……!!
汚い死体が二体もあれば、いい目印になるっ……!
そう思わないか……村上っ!」
一条の言葉に、村上は 一瞬、キョトンとするも、尤もだと思ったらしく、“一条様のおっしゃる通りですっ!”と、朝日のような眩い笑顔で返した。
そんな一条と村上のやり取りを“帝愛らしい会話だなっ……!”と苦笑していた和也は、さっきとは打って変わって、一際冷淡な一瞥を死体に投げ、嘲笑うように囁く。
「だから言った通りだろ、原田克美……“オレはアンタに手を出さない”ってな……!」
和也は原田をバトルロワイアルの参加者の中でも猛者に位置する人物であると認識していた。
関西で1、2を争う暴力団組織の組長の地位を維持し続けるだけの能力――肝の太さ、戦闘能力の高さ、頭の回転の速さなどは、他の猛者達の中でもトップクラスの逸材。
原田の殺害はいくら用心してもしすぎることはない。
おそらく原田自身も和也に対し、それに近い考えを抱いていただろう。
現に和也と相見えた時、原田は和也の動向に神経の全てを注いでいた。
原田と遭遇すれば、一挙一動が心理戦となり、まともな行動がとれなくなる。
そう予想したからこそ、和也はあえて何もしなかった。
合図を送る役も、殺害実行役も、原田の注意が及びにくい第三者に頼んだ――自分の存在を囮にさせ、暗殺しやすい環境を作ったのだ。
とはいうものの、場合よっては、原田を生かす道も考えてはいた。
村上に説明した通り、原田がウィルスについて何か知っていた時だ。
しかし、原田はウィルスのことは何一つ知り得ていなかった。
それどころか、“お前はそんなことをする奴やないっ!”と、何かを見透かしていた。
(邪魔なヤツは早々に消えてもらうに限るっ……!)

「それにしても……この死体、ミンチより酷いですよね……。
1発目は身体に穴が開いただけなのに……」
和也の冷血な思考に気付いていない村上は、呑気な疑問を口にしながら死体を眺める。
和也は場の空気に合わせるように、“ハンドガンの暴発も原因の一つなんだけどさ……”と、死体の前にしゃがみ込み、ある欠片を拾って見せた。
「木端微塵の本当の原因はこれ……首輪さっ……!」
ハンドガンの暴発と同時に首輪も爆発を起こしていた。
その原因が、ハンドガンが暴発した際の誘爆なのか、一条の散弾が首輪に命中したが故の爆発なのかは定かではない。
しかし、ショットガンの命中による首輪の爆発。
条件が揃えば、人間の体積を半分に減らすことができる。
和也にとって、実に感動的な発見であった。
和也は立ち上がり、命令を下す。
「今後からは首輪を狙えっ!一条っ!当てて相手を即死させろっ!!」
「はいっ!仰せのままにっ!」
まるで歴戦の司令官のような和也の下知に、一条の顔が凛々しく引き締まる。
和也は村上に今までの礼を言うと、レミントンM870を担ぎ、歩み出した。
「オレ達を邪魔する参加者は粉砕しろっ…!!見敵必殺っ…!!それが今後の方針だっ!!」

「絶対に戻ってきてくださいっ!!」
「ああっ!戻ってくるさっ!」
和也と一条は村上の声援に手を振りながら、新しいターゲットを探すため、ギャンブルルームを後にした。



【E-5/ギャンブルルーム前/午前】

【兵藤和也】
 [状態]:健康
 [道具]:チェーンソー クラッカー九個(一つ使用済) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広) レミントンM870(装弾数:5発 予備装弾:9発) 折り畳み式の小型ナイフ(素材は絶縁体)ベレッタM92FS(装弾数は15発だが、原田が何発か使用済み) 盗聴器×2(一条と連絡用)
 [所持金]:600万円
 [思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
     参加者を見つけ次第、殺害する
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリです。
※アカギ、ひろゆき、平山、市川、しづかに対して、殺害宣言をしました。
※病院の探索により、この島の秘密、主催者の意図の一部を知ってしまったと考えています。保菌者になった可能性があります。和也はその事実を重く見ています。
※アカギが和也の『特別ルール』の嘘を暴いたことを重く見ています。

 (補足>首輪探知機がある、としづかが漏らした件ですが、それは和也しか盗聴していません。利根川と一条はその頃、病院に爆弾を仕掛けに行っていました。)

【一条】
 [状態]:身体全体に切り傷(軽傷)
 [道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) マッチ スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品 不明支給品0~3(確認済み、武器ではない) モスバーグM590(装弾数:7発 予備装弾:5発) 、バヨネット(モスバーグM590に装着可能)盗聴器×2(和也と連絡用)
 [所持金]:3600万円
 [思考]:カイジ、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
     参加者を見つけ次第殺害する
     佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
     和也を護り切り、『特別ルール』によって村上と共に生還する
※和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※通常支給品×5(食料のみ4)は、重いのでE-5ギャンブルルーム内に置いてあります。



【原田克美 死亡】
【残り 15人】



163:空回り 投下順
時系列順
158:悪夢(前編)(後編) 兵藤和也
158:悪夢(前編)(後編) 一条
158:悪夢(前編)(後編) 村上




| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー