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野望の島 ◆tWGn.Pz8oA氏


もうウンザリだ。
佐原は、最早あの絶望の城から生還したことを幸運だとは思わなくなっていた。

一度目は、押されて落ちても助かるかもしれない橋。
二度目は、押されることはないが、落ちたら助からない橋。
そして三度目、誰かを押さなければ助からないこのゲームーーー

そんな今回の優勝賞金は、二度目の橋の比ではない。
もしもこのゲームがもっと前に行われていたのなら、佐原は間違いなく優勝を目指したであろう。
そう、例え序盤には殺人を躊躇しても、いずれ感じ始める「殺らなければ殺られる」という状況。
それを呑み込んだ後は、生き残りと人生の再起という目的の下、殺人ゲームに乗っていたはずである。
しかし、狂人と言える主催者たちの気紛れで死の淵から引き上げられた今は違う。
もうウンザリだ。腐った権力者の手の内で弄ばれるのは。
彼はそう感じていた。

(何も奴らの思惑通りに参加者を殺してまわることはない。
ゲームの後半まで身を潜め、十分金を集めた一人か二人を殺せばいい…!)

佐原に支給されたのは、狙撃用ライフル・レミントンM24。
軍隊でも採用されているスナイパー用の小銃である。
接近戦には向かないが、身を潜めつつ獲物を狩るのには十分適した武器だった。
これを最も効果的に使える場所を探し、佐原は南へ向かって歩いていた。

脇道を辿りながら1.5kmほど歩いたところで、佐原の耳に銃声が届く。
そう遠くないどこかで誰かが撃たれた音。死を呼ぶ音である。
(早速敵が一人減った…か…)
平静な心中とは裏腹に、肩に吊ったレミントンが一層重く感じられる。
あの鉄骨渡りを経験した佐原は、もう余程のことでは恐怖などというものを感じないと思っていた。
あの時の絶望的な状況を考えれば、現在置かれた環境など、比べるに値しない安全さである。
しかし、今の銃声と同時に、佐原はもうひとつの音を聞いてしまった。
それはまさに、恐怖が心の奥の鉄扉を叩く音ーーー

(クソッ……落ち着け…!多分気を張り通しで歩いてきたせいだろう…)

決して長くはない距離とはいえ、4kg超の銃とデイパックを背負って歩いてきたのである。
しばし足を止めることも必要…そう思った佐原は、すぐそばの白樺の幹に背を預けた。
もちろんそれと引き替えに、レミントンを腰だめに構えることも忘れていない。
しかし、周囲への警戒を省いた佐原は気づいていなかった。
茂みに潜む板倉の白い影に。

「あっ………?」

視界の端に一瞬で滑り込んだ白い袖と、その先に光る銀針が佐原の首を捉える。
注射針の細い先端が皮膚を突き破ると、鋭い痛みが皮の下を這った。
先刻まで騒々しく聞こえていた葉擦れの音が遠い。
耳には、ただ自身の血潮が轟々と駆け巡る音だけが聞こえている。
時間にしてたった数秒というほんの僅かな間に、佐原の命は再び死の淵まで引き摺り込まれた。
まさに断崖絶壁、天空に渡された鉄骨の上。
「兄さん、動くなよ…手がぶれたら毒が入っちまうからな……」
「チッ……!……殺すなら殺せよ…勿体ぶらずにっ……!!」
板倉は、それまで他人の命を握った優越感を楽しむように笑みを湛えていたが、
佐原の啖呵に白い歯をのぞかせて嗤笑をあげる。
「ハハハ…!誤解しない誤解しない…それはアンタの話を聞いてから…
 とりあえず、その銃を下ろしてもらおうか…!」
人の死の隣に立って笑い声を上げる男。
そんな板倉に胸を掻き毟りたくなるような苛立ちを感じつつ、佐原は銃を足下へ落とした。
「他には…?」
「ねぇ……!他にはひとつも…!」
「……そうか、ならオーケー。本題に入ろう…このゲームでの兄さんの目的は?」
「………脱出だ。一億払っての…」
「本当に?優勝は狙っていないのか?」
「そんなこと考えちゃいねえさ……確かに金は欲しいが…
 もうウンザリなんだ、あんな奴らの趣味の悪ぃお遊びに付き合うのはっ……!!」
佐原は吐き出す。体内に鬱積していた苛立ち、その叫びを。
最早相手がどちらの答えを自分に求めているかは関係なかった。

「…………そうか」


それを聞き届けると、板倉は注射の銀針を抜いた。
刺し痕には滲み出た少量の血でできた朱の球が浮かぶ。
「来な……アンタに少し、話がある」
板倉はそう言って、数メートル先にある灰色の記念碑らしき物を視線で示した。
佐原は戸惑いつつもレミントンを構え直し、板倉の後ろ姿を追う。
「おい……話って何だ…?まさか協力しようなんて言うんじゃ…」
「ハハハ、察しがいいな君は…!……そう、そのまさかだ…」
「なっ………!ふ…っざけんなよ、このヤクザ…!!さっきまで人を殺しかけといて協力だあ…!?」
顔に明らかな怒りの色を浮かべた佐原を横目に、板倉はククッ、と喉を鳴らした。

「そう…オレはヤクザだ……だから知っている…!一億払っての棄権などあり得ないことを……!!」

「…何だと………?どういう意味だ…?」
「ククク…裏の社会では、暴力や権力で一度結んだ約束を反故にするなんていうのはよくあること…
 そして、一度足を突っ込んだ人間は何があっても逃がさない…これも常道……
 兄さん、言いたいことはわかるか…?」
「…………つまり…棄権できるっていうのは方便で…
 オレたちは優勝しない限り生きては出られない、ってことか…?」
板倉は振り返り、ラステンバーグ造りの記念碑に腰を預けて言う。
「…まあ、50点だな。前半はオーケー…見込み違いは後半部分…」
「後半って…まさか……優勝しても生きて帰る保証はないって言うのか……!?」

信じがたいといった様子で言葉を被せた佐原だったが、実は心当たりがあった。
それは言うまでもなく、あのスターサイドホテルでの出来事である。
一本目の橋を制覇したにも関わらず、賞金は二本目の橋を渡り切らなければ与えないという横暴。
そうして渡った鉄骨の最後に用意されていた罠。
さらに、あの橋を渡り切ったというカイジがこのゲームに参加しているということ…
つまり、最後の鉄骨を渡り切ったとしても、何かしら理由を付けて金は渡さなかった可能性がある。

「そうか…奴らにしたら、オレたちみたいなクズが勝つなんて面白くない…見たくないんだ……っ
 ならば……歓喜に浸る優勝者を引き摺り落とすところまでが、あいつらのショー…!」
「おっと、随分物分かりがよくなったなあ…まあちょっと妄想過多な気もするがね……」
「それで…策はあるのか?おっさん…」
「板倉と呼んでくれ…。残念ながら、まだ具体的なことは何一つだ。
 今はまだ同志の人間を集め始めただけ……ただし、使える奴の心当たりはある…」

板倉はその言葉に続けて、宇海零と標についての簡単な説明をする。
こうして対主催の狼煙を上げ、ブレーンになりそうな少年たちを探すことで合意した二人。
だがその二対の瞳は、実は全く別の方向を向いていた。

(…案外単純だったな……何か思い当たる経験でもあったんだろう………
 さて…こいつの様子じゃあ、複数箇所での王候補の選抜……この可能性はないか…)

板倉は考えていた。このゲームに隠された真の意味、目的を。
彼がこの島に呼ばれた名目は、零や標達と同じく王の代打ちの最終試験ということだった。
しかし蓋を開けてみれば、用意されていたのはそれにそぐわないルールと参加者達。
この時点で彼は、このゲームは王の代打ち選抜とは無縁の催しである可能性を認識する。
が、その一方で、それでは筋の通らない事実があった。
それは、先刻の説明会場に零と標、おまけとして末崎や山口の姿があったということ。
彼らは言うまでもなく、ドリームキングダムで行われた代打ち試験の参加者である。
特に零と標の二人はその優勝候補。
そんな彼らを、お互いの凌ぎ合いの中でなく無関係な殺人ゲームで亡くすというのは、
在全の利するところではないはずである。
また、第三の権力が候補者達を横からさらったという可能性も低いだろう。
有数の資産と権力を持つ在全グループが、そこまで迂闊であったとは考えにくい。

では、どういうことか?

つまり最初に告げられていたとおり、やはりこのゲームの目的は王の選出なのだ。
ドリームキングダムの参加者には不甲斐ない者があまりにも多すぎたため、
新たに参加者を手広く集めて選び直しをしようとしているのだろう。
板倉は複数箇所で選抜されていた王候補の最終決戦という可能性も考えていたが、
それは先ほどの佐原の発言で消えた。

これらはあくまでも板倉の推測に過ぎない。
実際に板倉自身も半信半疑といった状態である。
だが、優勝を目指すにせよ別の方法での脱出を目指すにせよ、
対主催者グループとの合流は必須ーーーそれだけは確信していた。

(初っ端からちまちまと殺して回るのはとんだ愚挙……!
 口減らしは勝ちを急ぐ鼠どもに任せておけばいい……
 オレはその間身を潜め……時が満ちたら肥えた奴らを討ち取るだけ……
 殺しを本懐としない対主催派閥……奴らはいい隠れ蓑になる……)


【F-5/藪/真昼】
【佐原】
 [状態]:健康 首に注射針の痕
 [道具]:レミントンM24(スコープ付き)、弾薬×30 通常支給品
 [所持金]:1000万円
 [思考]:とにかく生還する 板倉の言っていた宇海零と標を探す

【板倉】
 [状態]:健康
 [道具]:毒液入り注射器 ※どのような毒かは不明(本人確認済み)
     不明支給品0~2 通常支給品
 [所持金]:1000万円
 [思考]:宇海零、標を探す 対主催者と合流する


019:老怪 投下順 021:異彩の事実
018:試験 時系列順 021:異彩の事実
初登場 佐原 039:観察
006:「I」の悲劇 板倉 039:観察







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