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華 ◆X7hJKGoxpY氏


市川はイラついた。
(この野郎………余計なことを……)


――そもそもの始まりは数年前。
市川がアカギに敗れたことから始まった。
麻雀は、いわゆる運の要素の強いゲームである。
長く代打ちをしてきた彼には運という存在の頼りなさを知っていた。
弱い相手でも流れに乗れば、或いは自分でも勝てないこともある。
分かりきっていたことであったし、事実それまでの負けは運が味方しなかったことによるものであった。
しかし、この時ばかりはまるで違った。
アカギに敗れたことで、名声も、地位も、自身のプライドすらもすべて失った。
才能。
アカギにはそれがあり、自分にはそれがない。
自分は所詮凡夫であった。
長年代打ちをしてきて掴めなかったものを、たかだか十三歳の少年が掴んでいたという事実が彼を打ちのめす。
――老い先短い自分には、この頂を見ることはもはや叶わないのだ。
残ったのは、深く暗い哀しみだけ。
こうして、代打ち「市川」は死に、あとには抜け殻が残った。

それから数年、市川は牌を握っていない。
あの戦いの後、彼は姿を消した。
――中身の無い抜け殻は死ぬべきである。
盲目である、やがては野垂れ死にするであろう。
そう考えて流浪の旅に出たのだが、奇妙なことに生き永らえた。
だが、もう長くはないだろう。
一人孤独に死ぬのもいいかもしれない。
そう考えていた矢先の出来事である。
「市川さん……ですね」
「……ああ」
居心地の悪い居酒屋で一人、不味い酒を楽しんでいた時だった。
声をかけてきたのは妙に畏まった口調の男。
この手の男の言うことは大体決まっている。
「隣………いいでしょうか?」
「………代打ちの話なら断る」
アカギに敗れたとはいえ、代打ちとしては日本有数の男である。
復帰の話を持ちかけられることは多い。
しかし、自分の限界を知ってしまった彼はこの手の話にうんざりしていた。
もう二度と麻雀をするつもりはないのだ。
だが、この時はいつもと違っていた。
「いえ……麻雀をお辞めになったことはよく存じ上げております。
そして………あなたは今、死に場所を探していることも…………」
そういって男は小さく笑う。

「………何が言いたい」
「あなたに死に場所を提供しようと言っているのです。命をかけたギャンブル……バトルロワイアルに」
「バトルロワイアル?」
市川は男に尋ねる。
男は、命を奪いあうギャンブルであること、十億の賞金が出ること、
あのアカギも参加させる予定があることなどを事細かに語った。

「いかがです?」
「ククク……面白え………十億もアカギも興味はないが………やらしてもらう」
もう生きることに意味は無い。
だがどうせ死ぬならば、華々しく散ってゆきたい。
それが彼の最後の見栄であり、未練であった。
「死んで………華となるさ」
――こうして市川はこの地に立ったのであった。


「あ、そこ危ないですよ」
男は手を引きながら言う。
杖を落とすと下手に歩くこともできなくなるのだ。
目が見えないというのは、こういうときに煩わしい。
だが、更に煩わしいのは、石田と名乗ったこの男。
「あの………どうかしました?」
「いや……何でもねえ」

一度はこの男を道連れに死のうかとも考えた。
だが、目が見えなくとも分かる。
あまりに華が無い。
下らぬ甘い男と心中したとして、それが何になろう。
自分の死に相応しい機会はまた来ると思っている。

「ところで………どうしてこのギャンブルに参加を?」
石田はたわいもない話を振ってくる。
答えるのも億劫だが、杖の無い今、この男の機嫌を損ねるのはあまり宜しくない。
隠すようなことでもないので正直に話した。
「………華になりたいのさ」
「…………はな?」
「ククク……お前のような男にはわからんだろうが………死に場所のことだ」
「それは……つまり………その……自殺ってことですか?」
石田の言葉に市川は黙った。
――この男は何か勘違いをしている。
もとより、自分は死んでいるのだ。
ただ抜け殻が意思を持って動いているだけである。
自殺だの何だのは見当違いも甚だしい。
だが石田は沈黙を肯定と解釈したのか、その見当違いな反論をぶつけてきた。
「そんなの……ダメッ………!ダメですよ……自殺なんて………何があったかは知らないですけど……
希望を持っていれば誰かが助けてくれることだってあるっ………!」
市川は苦笑する。
端から他人に頼った考え方――ここまで他人本位の男も珍しかろう。
自分の無い人間ほど滑稽なものはない。
もっとも形こそ違えど、今や抜け殻となった市川自身にも同じことは言えるが。

「ククク……そうありたいものだな」
「そうですよっ……」
「なら一つ聞こうか………この地でどんな希望がある……?」
石田のような男にこんなギャンブルで生き残れるはずがない。
いつの世も、勝ち残るのは自ら先頭に立って行動したものである。
当然希望などあるはずがない。
ところが石田の返答は意外なものであった。
「ありますっ……」
「ほう」
市川は素直に驚いた。
「それは一体…」
「支給品にあったんです……たった一つだけど………希望の光……!
この拡声器で遊園地のバンジージャンプの台から呼びかけるんです!
殺し合いに乗ってない人を集めればなんとかなるかもしれない………!
特にカイジ君っていう人なら何とかできそうな気がするんです」
「ククク……なるほど、そいつは面白い」
「そうですよね!」
能天気な男である。
皮肉も分からないのであろうか。
確かに面白い話ではあった――市川にとっては、だが。
そんなことをすれば、「ここにいます」と殺し合いに乗った連中に宣言しているようなもの。
千万円を抱えている獲物がいる以上、我先にと人は集まるのは目に見えている。
(どうやら……早速機会は来たようだな)

――求めていた死に場所はそこにある。
集まった猛者達をダイナマイトで吹き飛ばす瞬間、彼は華となれるだろう。
市川は石田の評価を上方修正した。
どうやら杖の代用品は、とんだ拾いものであったようだ。
(ククク………華を映えさせる……さながら良くできた花瓶か………)


【C-3/アトラクションゾーン/午後】
【石田光司】
 [状態]:健康
 [道具]:拡声器 支給品一式
 [所持金]:1000万円
 [思考]:拡声器で殺し合いに乗っていない人を集める カイジと合流したい
      常識の範囲内で困っている者は助けるが、状況による
     ※有賀がマーダーだと認識

【市川】
 [状態]:健康
 [道具]:産業用ダイナマイト(多数) コート(ダイナマイトホルダー) ライター
 [所持金]:1000万円
 [思考]:石田と同行する 死に場所を求める
※有賀がマーダーだと認識


021:異彩の事実 投下順 23:情報
021:異彩の事実 時系列順 009:計略(前編)(後編)
006:「I」の悲劇 石田光司 032:説得
006:「I」の悲劇 市川 032:説得







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