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3人目のアカギ ◆tWGn.Pz8oA氏


平山が利根川の前から立ち去って十数分が過ぎた。
どのくらいの距離を走ったかは分からないが、周りの景色は十分に変わっている。
とりあえず利根川本人の監視からは解放されたのだろう。
わずかな安堵を感じながら建物の壁に寄りかかり、溜め息を吐き出した。
青い空を仰ぎ見ながら、これが夢ならばどんなにいいだろうと何度も考え目を瞑る。
しかし、肩に宿る痛みと熱は、平山に一時の逃避も許してはくれなかった。
少し視線を落とせば、視界の端に入る金属器が平山の心臓を締め上げる。
『オ前ヲ見テイルゾ』
首輪に取り付けられたその針具は刺々しい光を反射させ、
そう主張しているかのようだった。

今の自分は利根川の狗だ。
こんなところまで来てもなお、誰かの手駒でしかない。
だがそれでも、生き延びたいという欲求は消せない。消せるものか。
死んだら全て終わりだが、生きていれば常に微かな希望はある。
だから今は、あの男の言いなりになってでも命を繋ぐべきなのだ。

平山は先ほどまで自分を支配していた恐怖をやっと飲み込み、代わりに菲薄な虚勢を手にした。
さて、あまり愚図愚図もしていられない。
最初の定時放送まであと5時間足らず。
容赦というものを知らないあの男のことを考えれば、空手で合流するなどということは許されないだろう。
早いうちに少しでも要求をこなしておかなければならない。
しかし、散った40余りの人間の中から特定の人物を捜し出すのは骨が折れる作業だ。
何か良い方法がないか模索するも、役立ちそうな支給品すらない。

そしてもう一つ、肩の傷のことも気がかりだった。
太い血管をはずしているのか、出血量はそれほど多くない。弾も貫通している。
とはいえ、このまま放っておけば化膿する危険性もあり、決して馬鹿には出来ない傷だ。
早めに消毒だけでもしておきたかった。
平山は傷ついた肩をきしませながら地図を広げ、コンパスをその上に放る。
今の位置は、エリアにするとD-3。
平山はしばらく思考を巡らせながら地図と睨み合いをしていたが、
なにかを思い出したように顔を上げて呟いた。

「……そうだ…!遊園地なら…警備棟みたいな場所があるかもしれない」

警備棟、そこに平山が求めているのは二つの要素だった。
一つは、応急処置用の道具。これは単純に肩の傷の手当のため。
もう一つは、モニタールームの存在。
たいていの遊楽施設には、警備のために多くの監視カメラが設置されている。
当然この島のアトラクションゾーンもその例に漏れず、
至る所にひっそりと備え付けられたカメラが確認できた。
それらをモニタリングする警備室のような場所を探し出せれば、
どのエリアにどんな人間がいるのかを知ることは容易いだろう。

「よし、まずは……入り口付近から行こう」

あるとすれば、奥まったエリアか、その逆の入り口に近い場所。
そう考えた平山は、まず東に向かって歩くことを決めた。

(おっと。この傷は隠しておいた方がいいな…)

手負いだということを遠目で悟られれば、狙われる確率は高くなる。
平山は血ぬれのスーツを脱ぐため、デイパックを足下に下ろした。
近距離から撃たれたせいで銃創の周りは火傷を負い、焦げた衣服が貼り付いている。
痛みに呻きながら上着を傷口から引きはがすと、
半ばほど固まった赤い結晶がパラパラとこぼれ落ちていった。
デイパックにしまい込んだ上着は、長い時間止血を怠っていたために
左腕部の大部分が血液で赤く染まっていた。


(誰か…こっちへ来る………!)

村岡との勝負を終えた井川ひろゆきは、
戦利品である首輪探知機を手にアトラクションゾーンへと入っていた。
現在の設定探知範囲は100メートル。画面にはいくつかの光点が動いている。
そのうちのひとつが自分のいる方向へ向かってきていた。
ひろゆきは鉢合わせを避けるため、植え込みに身を潜めて様子を伺うことにした。
着実に近づいてくる足音。
それはひろゆきの近くを過ぎ去る前に、ある建物の影で止まってしまう。
草葉の陰から伺い見るに、足音の主は傷を負っているようだ。
ホテルで見た赤木しげると似た奇抜な銀髪が揺れている。
若い奴らの流行なのか?それにしてもすごいファッションだな…
などと見当違いなことを考えつつ、ひろゆきは観察を続ける。
すると、いくらも経たないうちにその人物は立ち去っていった。
青年がある程度離れたのを確認してゆっくりと立ち上がる。

(ん……あれは………?)

彼がいた場所に、数滴の血痕に混じって一枚のカードのような物が見えた。
特に役に立ちそうには見えなかったが、わすかに興味をそそられ、それを拾い上げる。
すると、それを見たひろゆきの顔は驚愕の表情に一変した。

「なっ……!ど、どういうことだ……?」

思わず頓狂な声をあげる。
その紙切れには、彼の敬愛する人物―――赤木しげるの名が刷られていた。
そう、ひろゆきが手にしているのは、平山が偽アカギとして活動していたときの名刺である。
件の対局以来不要になり処分したはずが、上着に紛れ込んでいたのだろう。
だが、ひろゆきがそんな事情を知るはずもない。

「…あいつは…あの赤木について何か知っているのか……?」

赤木しげると同じ名を持つ者がふたり?
いや、ひろゆきがホテルから出る前、あの青年の名前は呼ばれていなかった。
ならばあの名刺はあの赤木のものなのだろうか。
憶測だけ繰り返していても仕方ない。やはりあの青年に話を聞く必要がありそうだ。
相手は武器も手にしていない手負いの人間。慎重にいけば危険は少ないはず―――
ひろゆきは青年の立ち去った方向に向き直り、足早に植え込みから這い出した。


「あった………」

数百メートルほど歩いたところで、平山はそれらしき建物を見付けた。
周囲を警戒しつつ来たため予想以上の時間を費やしてしまったが、
ここに求めている設備があれば大した問題ではない。
唯一の懸念であった施錠がされていなかったことも僥倖だった。

(フフ……ちょっとはツキが回ってきたのかもしれないな……)

不便さを感じながらも、右手でハンドル状のドアノブを下ろす。
左足をねじ込んでドアを開けると、そのまま滑り込むようにして建物の中へ入った。
最初の部屋は事務処理を行う部屋のようだ。放送機材が壁際に並んでいる。
足早に奥に進むと、security roomというプレートが見えた。
やはりあった、求めていたものが……!
しかし心の中で喜び勇んだのも束の間、彼はここであることに気がつく。
―――ドアの閉まる音がしていない。
聞き逃しただけか?いや、ドアに静音加工でもしてあったのか?
血の気が引いていくのを感じながら、平山は操られたように首をドアの方へ向けた。
目に入ったのは、一筋の光を湛えた日本刀。
更に一呼吸遅れて、それを握る男の姿を認識する。

「アッ………アンタは………?」
「……聞きたいことがあるんだ……君が何もしなければ、危害を加える気はない…」
「………聞きたいこと…?」

ツキなんてなかった。平山はただそのことに落胆していた。

「…フン……わかった…答えよう……」
「よし………君がいた場所でこれを拾った。……赤木しげるとは、どういう関係なんだ?」

ひろゆきの手に握られた名刺を見て、平山は思わず失笑を漏らしそうになる。
どこにもぐり込んでいたのやら。全て破り捨てたはずだったのに。

「…大したことじゃない……オレは奴の名前を借りてヤクザの代打ちをやっていただけの話…
 それはオレを拾った奴に持たされた名刺さ……」
(なるほど……やはり彼もその世界の人間か………)
 「名を騙ってたってことは、彼…赤木がどういう人物か少しは知ってるのか?」
「まあ多少はな…実際に会ったのは2回程度……知ってるのは得体の知れない男ってことくらい…」
「…………それだけ…?」
「ああ……アンタは残念だろうが、事実まともに対局もしてねえんだ」

そんな目でオレを見るな。
勝手に期待され、勝手に落胆されるのはもううんざりだ。

「予定はあったが……その前に雇い主にも相方にも見捨てられちまったからな…
 そんなオレがあんな奴の何を知っているもんか………
 大勝負に負けて裏の世界を追われた挙げ句、こんなところにまで来て他人の駒のオレが……っ!」

平山は半ば捨て鉢になって吐き捨てる。
何も自ら自身の恥を晒すことはなかったが、
もう平山にはこみ上げて来る言葉を止めることが出来なかった。
ここでも求められるのはあの赤木しげるか。
オレには運もない。力もない。必要とされていない。
生きていれば常に僅かな希望があるだなんて言ったのは、どこのどいつだ?
生きたいという心とは裏腹に、自分を投げ捨ててしまいたい衝動が平山を駆り立てていた。

「そうか、わかった…………縛ってるのは、それ?」
「そうさ…取り外そうとすれば起爆……奴の命令に背けば針が伸びて首輪が爆発って代物…
 わかるだろ……?これがある限り、オレは逃げられないんだ」
「…ふうん…………外そうとかは…考えないのか?」
「そりゃ、外せるもんなら外したいぜ……!
 だがそんなことはもう諦めた……言うこと聞いてりゃその間は生きてられるんだ……
 何もわざわざ危険を冒すことはない……」
「なるほど……それじゃあ代打ち界を追われるのも当たり前……」
「…………何……?」
「そんな根性じゃ……ここでも狗扱いされて当たり前だって言ってるんだ……!」
「何だって…………?アンタに何が…!」
「できないって諦めて……やろうともしないで…ただ言いなりになっている………
 オレは、そんな奴が赤木しげるを騙っていたことが許せない……っ!」

ひろゆきはそう言って平山に背を向けた。

ひろゆきは、平山にかつての自分の面影を見ていた。
強大なもの、一見敵わないものを前にして、萎んでしまう気持ち。
自分には勝てないと決めつけて、扉を閉ざしてしまう気持ち。
同じだ。状況は違えど、赤木が逝く前までの燻っていた自分と同じ―――
だからこそ腹が立った。
ちっぽけな価値観から、彼の最期にろくでもない言葉しか言えなかった自分。
そんな矮小な自分に似た者が赤木の名を口にすることなど、許せなかった。

「……待てよっ……!じゃあ……じゃあどうすりゃいい…っ!!
 アンタはなんでそんなに平静でいられる…?なんで悠長に他人捜しなんてしていられるんだ!?
 この殺し合いの中で………恐くはないのかっ……!?」
「………そりゃあ恐い………
 殺すこと、殺されること……死んでしまうこと……
 でも……遅かれ早かれいつかは死ぬ……!それはこの島の内でも外でも変わらない……
 だったら、やりたいことをやれるだけやりたいんだ……
 恐れて…諦めて…できるはずだったこともやらないで死にたくはない……!
 できる限り自分の心に沿う…そうして生きてから………死にたいんだ………!」

平山は黙って一言一言を聞いていた。
ふと、首に噛み付いている針具に指先で触れる。
突き出た針は冷たくて、堅い。
この枷を外すのは、「できること」なのだろうか。
わからない―――わからないから、今の自分にできるのは、それに向かって足掻くことだけ。
それがやっておくべき「できるはずのこと」。そういうことなのだろう。
平山は静かな声で自問するように問いかける。

「……………そうして…そうやって生きて……その結果死んでも、満足か……?
 その途中で…やりたいことをやりとげられないまま死んでも……」

「……何もせずに死ぬよりは、ずっといいよ」

平山は、ただ頷いていた。



【C-4/事務所内/午後】
【平山幸雄】
 [状態]:左肩に銃創 一時的に精神不安定 首輪越しにEカードの耳用針具を装着中
 [道具]:不明支給品0~3(確認済み) 通常支給品
 [所持金]:1000万円
 [思考]:引き続き利根川の命令には従うが、逃れる術も積極的に探る

【井川ひろゆき】
 [状態]:健康
 [道具]:日本刀 首輪探知機 不明支給品0~2(確認済み)
     村岡の誓約書 ニセアカギの名刺 支給品一式×2
 [所持金]:1700万円
 [思考]:赤木しげるとギャンブルで闘う ギャンブルで脱出資金を稼ぐ 極力人は殺さない
     平山の動向次第で手助けも考える
※村岡の誓約書を持つ限り、村岡には殺されることはありません。


024:武器 投下順 026:人殺し
024:武器 時系列順 026:人殺し
013:再起 平山幸雄 043:道標
003: 井川ひろゆき 043:道標







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