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観察 ◆X7hJKGoxpY氏


「なあ……いつまでこうしているんだ?」
「まあ、誰かがくるまでだな」
苛立ちが募ったのであろう佐原の言葉を板倉は軽く受け流した。
現在彼等は【F-6】、ホテルの三階で待機している。
誰でも良い、一人でも多く仲間を募るためである。

「やっぱり歩きまわって探した方が早いんじゃないのか?」
「いや……これだけの拠点だ。待っていれば誰かしら来るさ」
佐原は大きく溜息を吐いた。
「まだ茂みとかに隠れて板倉さんが俺にやったみたいに脅した方がいいんじゃ……?」
「却下……そんな良い支給品を使わない手がどこにあるんだ?安全に越したことはないさ……」
良い支給品、というのは言うまでも無くスコープのついた佐原のライフルである。
これを用いて佐原は北側を、板倉は肉眼で四方を順に廊下の窓から見張っていた。
北を重点的に見張っているのは、立地条件的に北側から来る公算が高いため。
一応、板倉も他の三方向をチェックして、他方から誰か来るという万が一の可能性に備えていた。
「だったらさ……せめてスコープの係くらい変わってくれよっ………!思った以上に目が疲れて……」
「それも却下だ……!そいつは佐原……お前の支給品だろ?
………俺に譲るというなら考えなくもないけどな」
「……ハァ」
無駄な諍いは避けたいのだろう、佐原はもう一度大げさに溜息をつきつつも、
何も言い返さずにスコープを覗き出す。
単に今後のためになるべく疲労を溜めたくないというだけのわがままであったが、
あくまで正論を吐いているのが功を奏したのかもしれない。
だがこの会話が板倉にある考えをもたらした。
(ククク……)
内心、感謝の念で一杯である。
佐原に対してではない。
佐原のような男に出会わせてくれた自分の幸運に対してである。
一応、それを確かめてみることは必要だ。
だが、おそらくはこれから先も良い自分の手足となってくれるだろう――

そんな板倉の胸中を露程も知らない佐原は、時々溜息をつきながらも見張りを続けていた。


一時間も経った頃だろうか。
いい加減単純作業にも飽き、大きく欠伸をしたとき、慌てて板倉を呼ぶ声がした。
「来たっ……!来たんだっ……板倉さん!」
佐原にそう告げられ、板倉も北側の窓の外を覗く。
なるほど遠くに一つ、こちらに向かってくる人影が見える。
佐原にしてみれば苦労した分、感動も一入といったところなのだろう。
喜びに震える佐原を板倉は冷めた目で見つめた。

「ちょっと貸してみろ」
板倉は佐原からライフルを強引に奪い取るとスコープで人影に照準をあわせる。
(あれは……女か………あの焦った様子は誰かから逃げているのか?)
板倉はまず違いないであろうと感じた。
職業柄他人に怯える様は男女問わず良く目にしている。
あの全身から滲み出る焦燥感は恐怖心、それも誰かに追われているときのものに相違なかった。

――しかし女が来るとは有り難い。
女と組めば『同志の誤解』を防ぐことが容易になる。
更には襲われたとき、最初に標的にされるのは、大抵体力の無い女から。
仲間にしておけば、これ程有利なことは無いだろう。
「佐原……あの姉さんに会ったことは?」
「いや、無いな……」
「そうか……なら一人で会ってくる、ここで見張りを続けながら待っていろ」
「えっ……!二人で行くんじゃねえのかよ!」
佐原は驚いた様子で食ってかかってきた。
板倉はいや、と首を横に振る。
「もしもの場合だが……他の誰かが接近してきて危ない雰囲気だったら、
容赦なくここからそのライフルでそいつを撃ってくれ。
あの姉さん、誰かに追われている可能性もあるからな……そのための待機だ」
悪いな、と付け加えると佐原は意外なほどあっさりと、しかし緊張した面持ちでコクリと頷いた。
「じゃあ、行ってくる」


板倉は階段を降りながら考える。
彼女が追われている可能性など、実のところほぼゼロに等しい。
本当に追ってきている人物がいるなら、誰があんな目立つところにいる女を見逃すものか。
あの焦燥感は、確かに誰かに追われているという恐怖心から来るものに違いなかった。
だがそれは、まず彼女の被害妄想。
実際に追われていたのを撒いたのか、それともはじめから妄想なのか、それは知る由もないが。

つまるところ、追われているというのは幻想。
保険として佐原を置いてきたという行為自体には意味はないのだ。
ありもしない恐怖に一々身を竦ませていては生き残ることは難しいだろう。
だが保険というなら、まだ佐原を同行させた方が安全である。
彼を待機させた理由は保険としてでは無く、無論他にあった。
それは扱いやすい人間からシノギを得る職業であるからこそ持つ人物眼を駆使し、
佐原がどこまで使いやすい人間かを確かめる、言うなればちょっとしたテストのようなもの。
彼が自分の言葉にどのように反応するかを観察しておきたかった。

結果は上々である。
予想通り佐原は結局何一つ考えることすらせず、あっさり言われるがままの結論を出した。
こういった場合考えられるケースは二つ。
一つには、愚鈍、愚直で自分では何も考えられないタイプの人間である場合。
もう一つは、自らの能力を過信しているタイプの人間である場合である。
前者の場合、まだ演技の可能性があるだけ警戒の必要があるが、
後者の場合は、わざわざそのように演技する人物などは皆無だ。
つまり板倉のような人間にとって最もカモにしやすいタイプなのである。
幸い佐原は明らかに前者の人間では無い。
利口ぶって頭の悪い相手にはなんとでも言えるが、自らが賢いと認めた相手が吐く正論や
『らしい言葉』に対しては、自分の能力を疑われないために無意識の内に従順になる、
そんな後者の人間であるように見える。
要するに、知識では無く意見の知ったかぶり。
このようなギャンブルにのこのこと来る当たり、
阿漕な商売をしている人間の甘い言葉にうっかり騙されたのではないか。

(利口ぶる人間は利用されるだけ……骨の髄までしゃぶってやる)
板倉はひっそりと笑みを浮かべていた。


【F-6/ホテル/午後】
【佐原】
 [状態]:健康 首に注射針の痕
 [道具]:レミントンM24(スコープ付き)、弾薬×30 通常支給品
 [所持金]:1000万円
 [思考]:待機して万が一に備える とにかく生還する 板倉の言っていた宇海零と標を探す

【板倉】
 [状態]:健康
 [道具]:毒液入り注射器 ※どのような毒かは不明(本人確認済み)
     不明支給品0~2 通常支給品
 [所持金]:1000万円
 [思考]:女性(しづか)に会いに行く 仲間を利用して生き残る 宇海零、標を探す 対主催者と合流する

【F-5/道路/午後】
【しづか】
 [状態]:健康、やや精神的不安定
 [道具]:不明支給品0~2(確認済み) 通常支給品×2
 [所持金]:2000万円
 [思考]:和也からとにかく逃げる


038:駆け引き 投下順 040:見当
038:駆け引き 時系列順 040:見当
020:野望の島 佐原 055:魔弾
020:野望の島 板倉 055:魔弾
035:強者と弱者 しづか 055:魔弾







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