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姫と双子の紳士 ◆uBMOCQkEHY氏


『・・・では、以上で放送を終了する。
諸君の健闘を祈る』

淡々とした語り口調で放送は終了した。
板倉は一条の方向を振り向く。
「今の放送でアンタの知り合いの名前はあったか?」
一条は柔和に微笑む。
「おや・・・あなたこそ、誰か、知り合いの方が参加されているのですか?」
――ふん、早速、探りを入れてきたか・・・!
板倉は一瞬、目を歪めるも、すぐに落ち着き払った笑顔で対応する。
「いや・・・!」
嘘である。
今の放送で、共にドリームキングダムの王の試験を戦った、末崎と標の名前があった。
しかし、一条の腹の内が分からない時点では、必要以上の情報を話すつもりはない。


「さっきも話したが、俺達を裏切った佐原という男・・・
この男の知り合いで伊藤カイジという男が参加している。
どうも、このゲームはある種の繋がりを持つ者が集められているようだ・・・」
「伊藤・・・カイジ・・・」
一条の心にヘドロにも似た怨嗟が溢れ、それが激流のように体内を駆け巡る。
一瞬、一条から笑みが消えた。その瞬間を板倉は見逃さなかった。
「おや・・・もしかして、お知り合いか?」
一条は再び、柔和な笑顔を繕う。
「いいえ・・・!」
嘘である。
帝愛グループに7億円もの損害を出し、幹部入りを果たすはずであった一条の未来を潰した男、伊藤カイジ。
一条はカイジを殺すために、このゲームに参加していると言っても過言ではない。
しかし、板倉としづかには殺し合いに参加していないと公言している。
二人に疑念を持たせるような情報を話すつもりはない。


二人は複雑に絡み合った糸を慎重に解すかのように、相手から情報を得ようと、水面下でやり取りを繰り広げていた。
そのやり取りをかき消したのは、しづかの一言であった。
「もう、これからどうするんだよ・・・!」
しづかは周りを見てみろと言わんばかりに、手を広げる。
「こんなに暗いんだぞ・・・!これからどうするべきか考えた方がいいんじゃないのか・・・!」
二人は周囲を見渡す。西日は沈みかけ、東から林全体を覆うかのように、薄暗い闇が広がり始めている。
「確かにその通りだ・・・」
「ふふ、我々としたことが・・・」
一条と板倉は談笑するかのように、しづかの意見に同意する。
その様子を見て、しづかは呆れ顔を浮かべ、ため息をつく。
「もっと緊張感を持て・・・!ここは殺し合いの場なんだぞ・・・!」
しづかの脳裏に、秀峰と勝広の殺し合い、勝広の爆死、和也との遭遇が光のように駆け巡る。
噴水の水しぶきのように舞う血のビジョンが、何度、頭の中で繰り返されてきたことか。
次はあの血が自分のものであってもおかしくはない。
先が分からない恐怖。しづかは二人に気づかれないように右手で左腕を掴み、心の奥から地震のように響いてくる震えを抑えた。
そのような凄惨な体験をしているからこそ、二人の和んだ雰囲気が歯痒かった。
自分がしっかりしなければ、一条と板倉は誰かに殺されてしまうかもしれない。そのような危機感さえあった。


「これから、どうしましょうか・・・?」
「そうだな・・・」
二人からすれば、しづかは囮程度の利用価値しかない。
むしろ、相手の情報を引き出すための駆け引きを妨害され、不愉快なくらいである。
それでも、しづかの存在を重要視するにはある理由があった。
一条も板倉も、相手が胸に一物を抱えているのは承知しており、その一物が何であるかを白日の下に晒そうとしている。
それを制する鍵を握っているのが、しづかなのである。
二人の関係はまるで、お互いの頭に銃を向けあい、いつ引き金を引くのか分からないガンマンの決闘のような状態である。
この牽制しあう関係は、しづかがどちらかにこう言えば、大きく覆されてしまうのだ。

「お前、何を企んでいる・・・!」

その直後、しづかの言葉を大義名分にし、もう片方がしづかを擁護しながら、相手を糾弾し始めるだろう。
だからこそ、今、ここでしづかの機嫌を損ねてはならないのである。


一条が閃いたかのように、しづかに提案した。
「そうだ・・・今夜はあのホテルで一晩を明かしませんか?」
一条が指をさしたホテルは、勿論、板倉と佐原が先ほどまで拠点としていたホテルである。
この言葉に、しづかもそうだが、板倉も言葉を失った。
反論の口火を切ったのはしづかだった。
「な、何を考えているんだ・・・!あのホテルには裏切り者がいるんだぞ・・・!」
しづかは首元を押さえる。再び、あの震えがこみ上げてくる。
「しづかさん・・・」
一条はしづかと同じ目線になるように、やや体を屈めると、穏やかに語り始めた。
「確かに、あなたの気持ちも分かります。けれど、よく考えてください。
今まで、あのホテルには佐原という男と板倉さんだけしかいなかった。
逆に言えば、佐原がいなくなれば、あのホテルは安全と言えるのではないでしょうか。
佐原はしづかさんと板倉さんに裏切りを示すため、しづかさんを狙撃した。
そのような裏切りを公言した者が同じ場所に長居をすると思いますか?
私が佐原の立場であれば、目的が何であれ、場所が割れてしまったところからはとりあえず、移動すると思いますよ・・・」


――ほう、これは面白い・・・。
板倉も口を開く。
「それは一理ある。それに、この周囲にはギャンブルルームと病院があるが、
病院は今の時間帯であれば、傷を負った参加者が治療するために訪れる可能性があり、
その弱った参加者を狙った優勝目的の参加者が潜んでいるかもしれない・・・。
また、ギャンブルルームの場合は、ゲームの棄権費用稼ぎ目的の参加者が、そこへ訪れる人間は金に余裕がある者が多いと踏んで、その付近に潜んでいる可能性が・・・
それらを考慮すれば、下手に動くより、ホテルを拠点として明日に備えた方が安全・・・ということか・・・一条さん?」
板倉の援護射撃に一条は微笑んで同意する。
「そういうことです・・・それに、野宿される訳にはいきませんしね・・・我らの姫様をね・・・」


「なっ・・・!」
この言葉で、しづかの顔が火照ったように真っ赤になる。
「何が姫様だぁー!」
しづかは声を荒げると、一条を力いっぱい突き放した。
もうお前の話は聞かないと言わんばかりに、そっぽを向いてしまう。
一条は体勢を立て直すと、板倉と顔を見合わせ苦笑した。
「不愉快にさせてしまったことは謝りますし・・・あなたの気持ちも理解しています。
ただ、今はホテルを拠点にすることが、危険に思えて、実は安全・・・
あなたの身は私が守ります。どうか理解していただけませんか?」
「俺もそう思うよ・・・しづかさん。
とにかく早い段階で、夜を過ごす場所は決めてしまった方がいい・・・
それに、もし、ホテルに佐原がいないということが分かれば、後は確実に出入りできる唯一の場所である正面入り口を警戒すればいい・・・
危険を未然に防ぐこともできる・・・!」


――安全・・・守る・・・危険を防ぐ・・・。
しづかは二人の言葉に心が動いているのを感じた。
ホテルどころか、この島全体に安全という言葉がないことは、しづかも承知している。
しかし、今のしづかはこれらの言葉に縋りたかった。
何より、正常な精神と判断力を持つ二人の男性の自信に満ちた説明と口調が、しづかに事実を曇らせ、安全が目の前に存在しているという根拠を芽生えさせてしまっていた。
ふて腐れたような表情で睨みつけながらも、一条に尋ねる。
「と・・・とにかく、ホテルに佐原がいなければ安全なんだな・・・?」
これは事実上の同意といっても良かった。
「そうです・・・!理解していただけて嬉しいですよ・・・!」
「ナイス判断力・・・!やっぱり、しづかさんは理解してくれると思っていたよ・・・!」
二人はしづかを誉めあうが、思惑は別の場所にあった。



板倉はこの時点で、佐原に裏切るメリットが見当たらないため、実はしづかの件は誤射だったのではないのかという予感があった。
そのため、ホテル内で遭遇したとしても、佐原の方から弁明してくる可能性が高いと踏んでいた。
仮に、本当に裏切りであったとしても、一条が何らかの武器を持っており、それなりに対応はできる。
佐原がどのようなスタンスを持っているのかに応じて、協力体制を組むなり、殺すなり、手段を選べばいい。
どちらに転んでも、板倉には悪くはない状況ではあった。

それに対して、一条はカイジを知る佐原の存在が気になっていた。
佐原からカイジの情報が聞きだせるかもしれない。
聞き出した後は、佐原がどのようなスタンスを持っているのかに応じて、協力体制を組むなり、殺すなり、手段を選べばいい。
どちらに転んでも、一条には悪くはない状況ではあった。

二人の思考は恐ろしいほど、そっくりなものであった。
目的のためなら、どのような駆け引きにも応じ、相手にはその匂いを感じさせないように、紳士の仮面を常に身に付ける。品がよく見えても、それをめくれば、裏で生きる獣の顔がそこにはあった。


その時、しづかが声をあげた。
「武器はどうするんだよ・・・!私は武器になりそうなものなんて持っていないぞ・・・!」
その言葉に板倉が突如、あちゃあっ・・・!と声を出し、頭を押さえた。
「それを忘れていた・・・!
残念ながら、俺も戦闘の役に立ちそうな武器を持ち合わせてはいない・・・アンタはどうなんだ・・・一条さん?」

――この場面で、情報を集める気か?
一条は口元こそ笑ってはいるものの、その瞳は苦々しそうに板倉を見据える。
しかし、ここで情報を拒否すれば、しづかがそれは卑怯だと反論するのも目に見えている。
しづかの言葉によって、立場が危うくなるのは避けたい。
「あぁ、私の武器ですか・・・銃器を・・・
板倉さんこそ、銃器は持ち合わせてはいなくとも、何か役に立ちそうなものは持っているのではないのですか・・・?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、板倉は自分のディバックを一条へ差し出す。
「良かったら、見てくれないか・・・大したものは入っていない・・・!」


一条はその中身を確認する。
ディバックの中身は通常支給品と手に収まるくらいに小さいジュラルミンケース型の箱が入っていた。
一条は箱を手に持ってみる。
「これは?」
「それか・・・それはハブの猛毒だ。三時間ほどで相手を死に至らしめることができる。
こんな注射じゃ、相手を脅すこともできない・・・まったく使いどころに困った武器だ・・・」
一条はあることに気づいた。
「リュックの中身が記載されている説明書がないようですが・・・どうなされたのですか?」
板倉は満面の笑みで即答する。
「なくしちまった・・・!」

――嘘をつけ・・・!
説明書には毒の情報もだが、スタート時点でディバックに入っている持ち物の情報が書かれている。
説明書という信憑性が高い情報がない限り、手の内を見せたことにはならない。
ほかの支給品をスーツの中に隠している可能性もあるし、毒の話自体も怪しい。
そもそも板倉は必要以上の情報が洩れることを恐れるこの状況において、
何の躊躇いもなく、ディバックという命綱とも言うべき情報を見せた。
――板倉の情報は疑ってかかった方がいい・・・。


そんな一条の苛立ちを知ってか知らずか、板倉は更なる要求をする。
「一条さんはどんな武器を持っているんだ?もし、差し支えがなければ・・・見せてくれないか?」
――ふざけるな・・・!一方的に見せておいて・・・!
一条にとって、ディバックの中身を見せるのは自滅行為と言っても良かった。
しかし、ここでそれを拒否すれば、それこそ、しづかから非難を浴びることになる。
板倉は差支えがなければと言ったが、一条には見せる以外、選択肢はなかった。
「・・・どうぞ・・・」
板倉は一条からディバックを受け取ると、その中身を確認する。
「トカレフに、タバコ、スタンガン・・・おや・・・」
板倉は改造エアガンを取り出した。
「もし、良かったらで構わないんだが・・・
これから裏切り者がいる可能性があるホテルへ戻るのだから身を守るための武器が必要だ・・・
トカレフはアンタの身を守るために必要・・・だから、こっちを貸してくれないかい・・・一条さん?」

――このチンピラが・・・!
一度、手放してしまった武器は何かと理由をつけられて、一条の手元に戻ってくることはないだろう。
目の前の男は、武器の調達と一条の情報収集をわずかなやり取りで、同時にやり遂げてしまった。
板倉の都合のいいように手玉に取られてしまったという屈辱が、カイジへの恨みに近い毒々しい感情として溢れてくる。
この場で絞め殺してしまいたい衝動に駆られる。しかし、紳士の仮面を剥がすわけにはいかない。
一条は表面上ではあるが、快く貸した。


「すまないな・・・一条さん。
いやぁ、これで俺も果たすことができそうだ・・・姫を守るナイトの役をね・・・!」
その言葉にしづかは、お前も姫なんて言うな・・・!と一喝し、再び、顔を真っ赤にする。
しづかの怒りを板倉はまあまあと子供をなだめるように受け流す。

――あぁ、白々しい・・・この狐が・・・。
今の一条には、その二人のやりとりが遠いものにしか感じられない。
一条にある考えが過ぎった。
――この男、頭が切れる・・・いや、切れすぎる・・・いずれ・・・私を踏み台にする・・・!
我が復讐の障害、板倉・・・奴に利用価値があるとするなら・・・。

「返すぜ、一条さん・・・」
板倉はディバックを返そうと、一条の前に差し出した。
しかし、一条の手はディバックを通り越し、その先にある腕を掴んだ。
「このスーツ・・・ドーメル・スキャバルですね・・・」
ドーメル・スキャバルとは、イギリスの老舗の高級スーツブランドであり、細番手の糸を使った光沢のある生地を使い、型崩れをしないことが特徴である。
一条はさらに強く板倉の腕を掴む。
「実にいいスーツだ・・・私のものなんか、安物でしてね・・・」
一条はスーツの襟を広げて見せる。
「ほら・・・血が下のシャツにまで染みてしまっている・・・
そのような上等なスーツ・・・機会があれば着てみたいものですよ・・・」


――当然とはいえ、こいつ、そうとうキレていやがるな・・・!
板倉は目をやや歪ませつつも、冷静に笑みを浮かべながら対応する。
「あぁ、アンタなら、似合うと思うぜ・・・もし、落ち着いたら、俺のものでよければ着てみるか?
丁度、俺達は身長も肩幅も同じくらいだしな・・・」
「機会があれば・・・」
一条は板倉の腕を離し、ディバックを受け取った。
両者はお互いを見据えあう。
一条は柔和に微笑みながら、口を開く。
「確かに・・・我々は身長も、肩幅も同じくらい・・・そして、思考も・・・
まるで、生き別れの兄弟・・・いや・・・双子に会ったような気分ですよ・・・」
板倉もその言葉にふっと笑みをこぼす。
「確かに・・・俺もそう考えていた・・・」

「もう、いい加減にしろよ・・・!ホテルへ行くんじゃないのかよ・・・!」
二人の水面下の宣戦布告を遮断するかのように、しづかが声を出す。
二人はしづかの存在を忘れていたことを、詫びるかのように同時に手を差し出す。
「さぁ、参りましょう・・・我らのお姫様・・・!」

「どこまでもふざけやがって・・・!」
あまりの緊張感のない二人の行動に、しづかは肩をぶるぶる震わせ、二人の間をわざと割り込むように前へ進んでいった。
二人は顔を見合わせ、再び、苦笑すると、しづかの後を追うように、ホテルの方へ歩みだしたのだった。


【F-6/ホテル前/夜】
【板倉】
[状態]:健康
[道具]:毒液入り注射器 ※ハブの毒?(偽りの可能性あり、本人確認済み)
    改造エアガン、不明支給品0~2 通常支給品
[所持金]:1000万円
[思考]:仲間を利用して生き残る 宇海零を探す 対主催者と合流する
※佐原が自分達を裏切ったと判断したと同時に誤射の可能性も考慮しています
※しづかは重要と考えていますが、いざとなれば切り捨てる気でいます
※一条を信用していません、彼を利用する気でいます
※一条に道具を確認させていますが、どこかに隠している可能性もあります
※一条の道具は不明支給品含めて、全て確認済みです

【一条】
 [状態]:健康
 [道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ)、毒付きタバコ(残り19本)、マッチ、スタンガン、包帯
     不明支給品0~1(本人確認済み) 支給品一式×4
 [所持金]:4000万円
 [思考]:カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
     復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者を殺す 
     復讐の為に利用できそうな人物は利用する
     佐原からカイジの情報を得る
     板倉を復讐の障害と認知、殺したい
※しづかは復讐の為に利用できる駒としか見ていません
※板倉に不明支給品含めて、道具を全て確認されています
※板倉のスーツに興味を持っているようです

【しづか】
 [状態]:首元に切り傷(止血済み)  健康
 [道具]:不明支給品0~2(確認済み、武器ではない) 通常支給品×2
 [所持金]:2000万円
 [思考]:板倉、一条と行動を共にする ゲームの主催者に対して激怒
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています
※板倉と一条を信用していますが、自分がしっかりしなければとも考えています
※和也に対して恐怖心を抱いています



068:計画 投下順 070:陰陽
070:陰陽 時系列順 071:それぞれの試金石(前編)(後編)
055:魔弾 板倉 086:猛毒
055:魔弾 一条 086:猛毒
055:魔弾 しづか 086:猛毒




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